大いなる海の母   作:村雪

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 どうも、村雪です!今回は二話分と言ってもいいほど長くなっておりますのでご了承ください。

 さて、今回はLEVEL4での大暴動回でございます。あまり目を引くような戦闘はありませんが、ちらりとでも読んでいただければ!

――ごゆっくりお読みください。


武器とするが、己の身体

『報告いたします、ハンニャバル副署長っ!』

 

「どうだ!麦わら達を捕らえたか!?」

 

 

 インペルダウン看守室。そこで副署長、ハンニャバルはLevel6に向かった部隊からの連絡を受けた。

 

 投獄された後行方不明となっていた海賊【麦わらのルフィ】。そして数年前、忽然と姿を消し死んだとされていたLEVEL5の元囚人【オカマ王イワンコフ】と【革命家イナズマ】が現れてLEVEL6へと侵入されたときには肝が冷えたが、1つだけの出口を塞ぎ、そこへ催眠ガスを放っているため逃げ場はない。

 

 

 ハンニャバルは少し余裕を持ちながら報告を促した。

 

 

 

『い、いえ………!それが3人の姿は見当たらず、天井に大きな穴が開いており、そこへ向かって何やら造形物が…!!』

 

「!なにぃ!?」

 

 

 しかし、その考えが甘かったとすぐにハンニャバルは気づくこととなる。

 

 

「いったいどういうことだ!?」

 

『ど、どうやら麦わら達は新たに囚人を解放した様子っ!おそらくこの穴は、元王下七武海、【サー・クロコダイル】の仕業だと思われます!』

 

「!ク、クロコダイル!?」

 

「さらに、王下七武海【海峡のジンベエ】の姿も見えません!」

 

「ジ、ジンベエもだと!?」

 

 

 ハンニャバルは冷や汗が止まらなかった。あれほど凶悪、そして重要な囚人を逃してしまっては自分の経歴に大きな傷がつくことは避けられない。

 

 

 

『……………あ、あと………!』

 

 

 そして不運の連鎖は止まらない。先ほど以上に言いづらそうに、連絡員は報告する。

 

 

「なんだ!?まだ誰か脱獄した奴がいるのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………しゅ…………〝酒呑童子〟です……っ!』

 

 

 

 

「………な、ななななんだとぉおおおおおおお~~~~~っ!!?」

 

 

 

 インペルダウンにすらいられない。ハンニャバルは気絶しかねない勢いで大絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 ダダダダッ!

 

 

「それにしてもすげーんだなお前っ!海桜石の鎖をひきちぎるなんて!」

 

「そりゃありがとさん!力にはまあ自信があってね!」

 

 

 LEVEL5からLEVEL4への階段を走る四つの人影。先を並んで走るのはルフィとスイカ。その後ろに続くのがジンベエ、クロコダイルだ。

 

 

 

「じゃが、本当に良かったのか!?アンタのその手錠を外さんでも!」

 

 

 ジンベエが尋ねたのは、鎖がちぎれたままスイカの手首にぶらさがっている手錠のこと。

 

 拘束する機能を失いつつも、能力者の力を封じる役割はまだ果たしている海桜石の手錠だ。

 

〝能力者〟である彼女はそれがあっては格段と力が抜けてしまうはずなのに、あえてそれを付けたままにしている。その理解しがたい行動が、ジンベエにはどうしても気がかりであるようだ。

 

 

 

「ああ!これは不義理を犯した私なりのケジメみたいなものさ!一区切りつくまではこのままでいいんだよ!」

 

 

 しかしスイカにも思うところがあるようで、かたくなに外せる錠を外そうとはしない。義理人情の話を出されてはジンベエも頷く他なく、スイカの後をつきながら詫びた。 

 

 

「そうか・・・すまんっ!」

 

「いいさっ!それよりジンベエ!〝おにーさん〟の兄貴の処刑はいつだ!?」

 

「午後3時じゃ!つまり5時間後に処刑は必ず執行されるから、〝白ひげ〟のオヤジさんはその何時間も前に仕掛けるハズ!エースさんもすでに海の上じゃから、戦いはいつ始まってもおかしくない!」

 

「3時まで殺されることはねぇんだな!?とにかく!まだまだチャンスはある!」

 

「そういうこったね!っと!見えてきたよ!LEVEL4の扉だ!」

 

 

 階段を駆け上がる4人の前に、業火のフロアーへと繋がる大扉が見えてきた。当然脱獄した囚人を通すはずなく固く閉ざされ、開く様子はまったくない。

 

 

 

 しかし、扉ごとき障害を打ち破れない者はこの四人にいなかった。

 

 

 

「クロコダイル!さっきみたいにやっちまいな!」

 

 

 その中の1人である、サー・クロコダイル。〝スナスナの実〟の能力者である彼は、身体を砂に変化させ――――あらゆる水分を奪い取る。

 

 

「ちっ……!おれに命令するんじゃねぇ〝酒呑童子〟………!(ズォォオ!!)」

 

 

〝酒呑童子〟の命令にクロコダイルはこれ以上なくまゆをしかめるが、目的は同じ。射殺すような目を彼女に向けた後に、自らの身体を砂に変えて扉へと猛接近した。

 

 

「枯れろ…………!(スッ)」

 

 

 そして、右掌を大扉へと触れさせた。

 

 

ズズズズズ………!

 

 

 

 すると、みるみるうちに木の部分が干からびていき……残ったのは、骨組みとして使われた鉄だけだった。

 

 

 

ドパァン!!

 

 

『!?』

 

 

 扉が消えてはただの通路。紅蓮の炎が立ち込めるLEVEL4『焦熱地獄』で脱獄囚を待ち構えていた獄卒達は、突然の出来事に驚愕し、風化されずに残った鉄の残骸を眺めるしかなかった。

 

 

 

「うおっ。すごい熱気だねー(すたすた)」

 

「仕方あるまい。焦熱地獄じゃからのう(ガランガラン)」

 

「げっ。すげーいっぱいいるな(ザッザッ)」

 

「ふん。全員殺せばいいんだ(コツコツ)」

 

 

 そんな獄卒たちの前に、四人は堂々と歩み出る。

 

 

 

 

 

 【酒呑童子】【ジンベエ】【麦わら】【クロコダイル】。

 

 

 

 

 

 誰もかれもが世界に名を広めた海賊たち。そうそうたる面々に獄卒達もすぐに正気に戻った。

 

 

『き、来たぞおっ!』

 

『こ、こちらLEVEL4!LEVEL6より抜け出した囚人、元七武海クロコダイル!七武海ジンベエ!侵入者モンキー・Ⅾ・ルフィ!そして、元四皇アイル・Ⅾ・スイカ!!現れました!応戦しますっ!!』

 

 

 即座に上官へ連絡を入れ、現れた罪人たちに戦闘態勢をとるところはさすがと言ったところか。獄卒達はまだ戦闘態勢に入っていない内に四人を仕留めんと、一気に闘志を滾らせる。

 

 そして、場を仕切る獄卒が叫んだ。

 

 

 

「全員、攻撃かい―――!」

 

 

 

 

 

 ドクンッ!

 

 

 

 

 

 

『!?うう………っ』

 

 

 ドサドサ……ッ!

 

 

 

――――しかし、酷なことにそんな見上げた戦意も〝彼女〟の前ではあまりにも小さかった。戦闘へ移る前に獄卒達は一人残らず気を失い、バタリバタリと地へ伏せていくではないか。

 

 

 

 

 

「すまないねー。付き合っても良かったんだが、急いでるんだ。ちっと眠ってもらうよ?」

 

 

 

【酒呑童子】。彼女の圧倒的な力、経験の前では地獄を経験した獄卒も赤子のようなもの。戦う前に勝敗はついてしまったのだ。

 

 

 

「うわっ!全員気絶したぞ!?」

 

 

 突然泡を吹いて倒れだした獄卒達にルフィは何が起こったのか分からなかったが、長く海賊をしているこの2人には分かる。

 

 

「これは・・・〝覇王色の覇気〟!あんたか!」

 

「・・・衰えてやがらねぇ・・・忌々しい他ありゃしねぇな・・・!」

 

 

〝覇王色の覇気〟。この世界において〝王の資質〟を持つ者にだけ許された覇気。これを有すものは己の圧倒的な気迫によって、戦わずして未熟な敵の意識を奪い取ることが出来る。

 

 

 かつて海の皇帝であった彼女も、その資格を身に宿していたのだ。

 

 

 

「さっさと行くよっ!1人1人戦ってたらキリがないからねっ!」

 

 

 目の前に起きている者はなし。防御ががら空きとなった通路を走り抜け四人は次のフロアーへの階段を目指す。

 

 

 

「さっきのお前がやったのか!?あのおっさんみてぇなこと出来るんだなっ!」

 

「あん!?あのおっさん!?」

 

 

 その道中、最も若く〝覇気〟を知らないルフィは、2人の言葉から誰が成したのか当たりを付け、先ほどのことをスイカに尋ねていた。

 スイカも並走しながら話を聞いているが、彼の記憶の中の人物と比べられては何も言えない。すぐさまスイカはルフィへ尋ね返した。

 

 

「おっさんって誰の事だい!?おにーさん!」

 

「レイリーっておっさんだ!この前会ったんだけど、海賊王の船で副船長をやってたすげー海賊だぞ!」

 

「っ!」

 

 

 出てきたのは、思いもしなかった懐かしき名前。

 

 

【ゴールド・ロジャー】の船で、彼の右腕を務めた男――【冥王】シルバーズ・レイリー。

 

 

 彼と最後に会ったのは、いったい何十年前のことだろうか。

 

 

「…はは、なるほど!なるほど!!あの野郎まだ生きてたのかっ!!なつかしいね~!」

 

「!あのおっさんのことも知ってのか!?」

 

「当然!知らねえほうがおかしいさね!」

 

 

 船長ほどではないが、あれほど手強かった海賊はそうはいない。ましてやあの海賊団とは何度戦ったのか数えることも出来ないほど。そこの副船長の名を忘れては、礼儀に反するというものだ。

 

 

「しかしあのレイリーを『おっさん』か!怖いもの知らずだな、おにーさん!」

 

 

 彼も船長と同じように、海賊ならば知らない者はいないほどの大海賊。畏怖する者はいくらでもいようが、それほど友好的な呼び方をする人間も珍しい。

 

 

「え!?でもおっさんはおっさんだろ!?」

 

 

・・・しかし、本人に自覚はなし。非常にもっともなことを堂々と言いきるルフィに、スイカは笑いが込み上がった。

 

 

「ぷっ、あははははははっ!!そりゃ確かに違いないけどねっ!………んっ!?」

 

 

 しかし、スイカはその笑いをすぐに収めることとなる。その理由は――

 

 

 

 ワァァアアアア!!

 

 

「麦ちゃ~ん!無事で良かったわ~~!んがーっはっはっはっは~!」

 

 

 四人の前に、独特なしゃべり方をする包帯まみれの男と、これまた独特な恰好をした集団が現れたからだ。

 

 

「む、あやつらは・・・?」

 

「おおっ?なんだか派手な連中が出てきたね!?」

 

「・・・・・・Mr.2・・・」

 

 

 その個性あふれる面々にジンベエとスイカは驚くが、クロコダイルはたった一人、覚えがある人物を見てわずかに眉を上げた。

 

 

【Mr.2 ボン・クレー】。かつてクロコダイルが創設した秘密結社、〝バロックワークス〟において幹部を務めていた男(オカマ)であり、そのテンションはまったく変わらず、今も焦熱の熱さにひるまず陽気なままこちらへ向かってくるほどだ。

 

 

「あ、ボンちゃん!テンションやってもらったか!?」

 

「んも~絶好調よ~~う!!」

 

 

 そして、これはクロコダイルも知らないことだが、かつて敵対していたルフィとは浅くない絆でつながった友達(ダチ)。命を救ってくれた友を目にしてルフィも笑顔になる。

 

 

 

「・・・んんっ!?あ~ら!麦ちゃんったらすごい子を連れてるじゃな~い!」

 

「ん?すごい!?」

 

 

 ボン・クレーが見るのは、ルフィの隣にたたずむ小さな大海賊。当然彼も彼女のことを知っているのだ。

 

 

「へ~、これまた面白そうなやつだね。〝おにーさん〟の知り合いか?」

 

「ああ、友達だ!(ガシッ!)」

 

「そーよマブダチよ~う!!ンガーハッハッハ!!(ガシィッ!)」

 

「なるほど、ダチか!良いもんじゃないか!」

 

 

 肩を組む二人。なるほど、遠慮ないその仕草は確かに仲が良いのだろう。スイカは愉快そうに2人を眺めた。

 

 

 

 

「ウホホ・・・!!(ギラッ!)」

 

「!あっ!!」

 

 

 そんな小さな背後へ、大きな斧を構えた巨大な生物、ブルゴリ―――正式名称はブルー・ゴリラ――が襲いかかって来るのを、正面にいたルフィが気付かないはずがなかった。

 

 

「危ないぞお前っ!」

 

 

 すぐさまルフィは腕を伸ばして助けようとするが、すでにブルゴリは斧の間合いの範囲内の上、自慢の大斧を横に振りかぶり攻撃態勢も整え終わっている。

 

 素早い動きのできるルフィも、そこに間に合うことは出来ない。

 

 

 

 

「―――――ウホォ!!(ブゥン!)」

 

 

 

 構えてからわずか1秒。標的を定めたブルゴリは、過去多くの生物を切り多量の血を浴び続けてきた残酷な悪魔を―――スイカの横腹へ全力で振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴギィンッ!!

 

 

 

「?………ウホ?」

 

 

 

〝おかしいな?〟 まるでそう言うかのよう、にブルゴリは声をこぼすこととなる。

 

 

―――今自分は、鋼鉄でも切ったのだろうか?どうしてこんなに手がしびれるのだろうか?

 

 

 

「おおっとっと。いけないいけない。油断しちゃったね」

 

 

 

 

 同時に、下の方から聞こえてくるそんな声。

 

 見下ろせば、そこにいたのは――――真っ二つにしようと決めていた女(ニンゲン)。

 

 

そして、

 

 

 

――――どうして、こいつじゃなくて斧が壊れてるんだろう?

 

 

 

 粉々に砕け散った斧の残骸。それが自分の足元一杯に散らばっていたではないか。

 

 

 

 

 

「やるね!油断していたとはいえ私に刃を当てるとは・・・・こりゃしっかり応えないとねぇ!!」

 

「!ウホ・・・っ!?」

 

 

 その原因であろう女――〝酒呑童子〟は、なぜか嬉しそうな笑みを浮かべながらクルリと自分の方を振り向いた。

 

 

 

 何をするのかは分からない。ただ、受けたらリタイアしてしまう。本能がそう告げるのを、ブルゴリははっきり感じ取れた。

 

 

「・・・ウホォォーッ!」

 

 

 せめて一つだけでも傷を。不本意な形で役目を終えたしまった斧を構え、獣の本能のまま再び決死の攻撃をしかける。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

「さぁ。なまってるけどどうかね、っと…っ!!」

 

「!?ウホォ・・・!」

 

 

 

 腰を深く落とし、砲丸を投げるのかと思うまでに背を逸らせて左拳を引く【酒呑童子】。誰の目から見ても明らかな攻撃態勢に、ブルゴリも慌てて斧で切りかかるが・・・一歩届かず。

 

 

 

 

「――――――そぉりゃああぁ!!」

 

 

 

 繰り出されたのは、ひねりのないただただ簡素な拳の一振り。・・・・・・〝酒呑童子〟にかかれば、それすらも凶悪な技と化す。

 

 

 ズドンッ!

 

 

「ヴッ、ウフォォォオオオ!?」

 

 

 威力はまるで砲弾。そんなものを受けてはたまったものではなく、拳を腹部に受けたブルゴリは血反吐を出しながら吹き飛んでいく。

 

 

 

『うわっ!ブルゴ、がっ!?!!』

 

『うぎゃああああ!?』

 

 

 しかも、被害はブルゴリ一匹だけでは留まらない。〝酒呑童子〟とブルゴリを結ぶ直線上、及びその近くにいた他の獄卒達も巻き込まれながら後方へと吹き飛んで行く。

 

 

――――獄卒側にとって不運なことに、そこは業火の上に直線的な通路を組んだ『焦熱地獄』。直線的に防衛陣を構えていた看守側には、その〝酒呑童子〟の一撃はあまりにも痛かった。

 

 

 

『!!敵の防御が薄くなったぞーっ!』

 

『今のうちに突き進めえええっ!!』

 

 

 唐突に防衛網が薄くなった通路。脱獄を目指す囚人達はこれ幸いと〝酒呑童子〟が切り開いた道を全力で走り抜けた。

 

 

「おし!私らも行くよおにーさんっ!」

 

「!分かった!」

 

「んが~っはっはっは!さっすがね~い!」

 

 

 3人も抜かれまいと階段への直線通路を駆けていく。激戦により倒れていく看守たちに対し、次々と解放されて勢力が増していく囚人たち。形勢が犯罪者側に傾き始めたため、スムーズに階段へと近づいていった。

 

 

 

「すげーなお前っ!さっきの大丈夫なのか!?」

 

「ああ大丈夫だよ!心配ありがとさん、っと!(ゴキィ!)」

 

「げはぁ!?」

 

「そっか!じゃあいいやっ!どけっ!(バキッ!)」

 

「うがっ!?」

 

 

 その間にもスイカは攻撃を仕掛けてくる獄卒を殴り飛ばし、ルフィも向かって来る獄卒をなぎ倒していく。

 

 

 

「いよっとぉおおおっ!」

 

「だりゃあああああ!」

 

 

『ぐぁああああ!』

 

 

 見た目からは想像できない2人の重いパンチに、獄卒達はなす術もない。元々少なくなっていた防衛陣の人間が拳の連撃によってさらに少なくなっていき、全滅するのも時間の問題に見えた。

 

 

「すまん2人とも!わしゃあ、陸上ではあまり役に立たんゆえ・・・!」

 

「そうかっ!?それでもすげー強いのに!」

 

 

 そんな最前線で戦う2人に、後ろからジンベエが駆け寄った。彼ら〝魚人族〟は海でこそ真の力を発揮できる種族。それには間違いないのだが、ルフィの言う通りジンベエは決して弱くない。スイカも当然それを知っているので不満など抱かない。

 

 

「別に構わないよ!思ったより守りが薄いから、あんたが出張らなくても――」

 

 

 

 

 

『ウギャ~~~!!』

 

「「「!?」」」

 

 

――構わない。そんなスイカの考えを打ち消さんばかりの絶叫が響き渡った。

 

 

 

「獄卒獣が出てきたぞぉおおおお!!」

 

「!」

 

 

 その叫びが、明確に絶叫の原因を表す。

 

 

「さっ、3人もいやが、ぎゃああ~~!」

 

 

 再び響く断末魔の叫び。突如出てきた敵の増援に、一気に形勢が動き始めた。

 

 

 

 

「さあ、行っちゃうのよ獄卒獣たち!」

 

 

その強兵を率いるのは、非常にきわどく艶めかしさを漂わせる恰好をした女、【獄卒長サディ】。

 

「……!(ボカァン!)」

 

「ぎゃあああ!」

 

「……!(バキッ バギィ!)」

 

「ぐえ~っ!」

 

「……!(ゴキッ ゴキィ!)」

 

「うぎゃあああ!!」

 

 

そして、彼女に従うはインペルダウンが誇る地獄の化物たち。【ミノゼブラ】、【ミノコアラ】、【ミノリノケロス】の3人が、脱獄者たちに残酷な攻撃を振るい始めたのである。

 

 

「やらしい娘に……しまうまにコアラにサイかっ!ウシの野郎はいないのか!?」

 

 

 地獄の化物は全部で四人。残る一匹である【ミノタウルス】がいないことをスイカは不思議に思ったが、その答えは横から出てきた。

 

 

「うし!?うしのヤツならさっきおれ達がぶっ飛ばしたぞ!」 

 

「!なるほど!なら――――!」

 

 

ドカァン! 

 

『ギェエエ~!』

 

 

ドゴッ!バキッ! 

 

『助げでぇえええ!!』

 

 

バコン!ゴキンッ!

 

 

『こっ、殺されぢまうよ~~っ!』

 

 

 

 この若者も獄卒獣を倒す実力は持っている。絶え間なくあがる絶叫を耳に、それを頭に入れたスイカは―――提案した。

 

 

 

 

「もういっちょ化け物退治としゃれこまないかい!?」

 

「!よし、乗った!!(ダダッ!)」

 

「そうこなくちゃ!(ダンッ!)」

 

「わしも行こう!任せっぱなしでは気が済まんっ!(ガランガラン!)」

 

 

 意思を一致させた3人は即座に動く。狙いは人をゴミのように蹴散らす地獄の獄卒獣たち。2人は走り、1人は地を蹴って空から攻撃をしかける。

 

 

 

 

「魚人空手〝五千枚瓦―――!(ギリリ…ッ!)」

 

「!」

 

 

 ミノリノケロスへ疾風の如き早さで接近し、ジンベエは拳をこれでもかと握りしめ、

 

 

 

「ギア〝3〟!ゴムゴムの――!!(プク~!)」

 

「……!?」

 

 

 まるで風船のように腕をふくらませるルフィ。その奇行、大きさを目に驚くのはミノゼブラ。

 

 

 

「歯ぁ食いしばんなよぉ……!(ひゅううう…!)」

 

「?」

 

 

 そして、自らに迫る危険に気づかないミノコアラ。両手をがしりとかませ、天に振り上げながら彼の頭に落ちていくのは……酒呑童子。

 

 

 

 

 

 

 

「正拳〟!」

 

「巨人の銃(ギガントピストル)!!」

 

「せえぇええい!」

 

 

ドゴゴゴォン!!!

 

 

「「「…………!!?」」」

 

 

 サイは吹き飛び、シマウマは拳と壁に挟まれ、コアラは力の重圧により、地面に頭まで沈み込む。3つの拳によるどの攻撃も、化け物たちをノックダウンするのには十分な威力だった。

 

 

『うおおおおおっ!!』

 

『ええええ~~!?』

 

「キャアアア~~ッ!!」

 

 

 あまりにも瞬間的な決着に囚人は興奮し、獄卒達は唖然、サディは信じられないと悲鳴を上げることとなる。

 

 

 そんな状況の中、スイカはルフィの攻撃に興味が収まらなかった。

 

 

 

「へえ!あんたも能力者だったのか!何だい今の大きな腕は!?」

 

「今のはギア〝3〟っていうんだ!おれはゴムゴムの実を食べた〝ゴム人間〟だ!」

 

「……なるほど、〝ゴム〟か!面白い能力を持ってるもんだ!」

 

 

 ルフィの能力を聞き、スイカは愉快そうに笑いながらもその能力を脳に刻む。

 

 その記憶がどこでどう役に立つのかは分からない。ただ、スイカは今までもそうやって出会ってきた者たちを覚えることに精を注いできたのだ。 

 

 

 

「!見えてきたよ!LEVEL3への階段だっ!」

 

「あ!本当だ!」

 

 

 その間にも目的の階段は近づく。先ほどと同じように大きな扉が囚人たちの行く手を阻(はば)んでいるが、問題はない。こちらには扉を消しとばす能力者がいるのだから。

 

 

 

「どこだクロコダイルーッ!さっきみたいに扉を吹き飛ばして」

 

「私がやろうっ!任せてくれ!」

 

「んおっ!?」

 

 

 先ほどの功労者を呼ぼうとしたところで、スイカの声に割り込んで1人の男が扉開けを請け負ってきた。

 

〝革命家〟イナズマ。イワンコフの側近にして、〝チョキチョキの実〟の能力の〝ハサミ人間〟。彼の能力はあらゆるものを布のように切ることができ、ハサミを鍵の代わりに鍵穴を開けることも出来る人物だ。

 

 

「カニちゃん!頼む!」

 

「そうか!よろしく頼んだよ〝カニちゃん〟!」

 

 

 先への道を切り開けられるのならば誰でも構わない。ルフィもスイカも迷うことなくイナズマに仕事を頼んだ。

 

 

「任された!すぐに鍵を開け――」

 

 

 

「ここが地獄の大砦(おおとりで)!!何人たりとも通さんぞぉ~~~!!(ズバババ!)」

 

『うわぁ~~!!』

 

「「!?」」

 

 

 しかし、先に鍵を開けたのはよもやの看守側だった。

 

現れたのは、薙刀を持った大男。このインペルダウンの副署長である【ハンニャバル】であった。

 

 

 

「なんだアイツ!扉開けて堂々と!」

 

「ハンニャバル!ここの副署長の男だ!」

 

「あいつが出張るとは珍しいね!?普段はやる気なんて見せないのに!」

 

 

 スイカが知るハンニャバルは、仕事には気合いを入れず自分の1つ上である署長の座を狙う野心家。不祥事が起きればむしろ署長に責任を押し付けようとする輩だったのだが、今の彼は武器も本気の時にしか使わない〝血吸〟を持っていて、その目に気だるさはない。

 

 

 なぜかは分からないが、どうやら今回のハンニャバルはやる気十分のようだ。ルフィもスイカも避けられぬ戦闘と察して拳を構えた。

 

 

「か弱い庶民の明るい未来を守るため!前代未聞の海賊〝麦わら〟!署長に代わって極刑を言い渡す!」

 

「どけ!おれはエースを助けに行くんだ!邪魔するならぶっ飛ばしていくぞ!」

 

「ふん!簡単にぶっ飛ばされては副署長は務められんわぁ!ぬぇええええい!」

 

「む!手伝うよおにーさんっ!」

 

「ありがとう!おおおおっ!」

 

 

 スイカとルフィ、そしてハンニャバルが肉薄し、扉への攻防戦が始まった。3人の衝突を火ぶたに、看守と囚人たちも激しくぶつかり合う。

 

 

『副署長に続け~っ!決して怯むなぁ!』

 

『うおおおおおーっ!』

 

 

 お互いに譲れぬものがあるため、どちらも必死で攻め、守り、次々と傷ついたものは倒れていく。

 

 だが、限られた数のインペルダウン職員と、次々と解放され勢力を増していく囚人軍団。ましてや、その囚人はかつて世間を騒がせ続けた者たちがほとんど。

 

 

 時間と共にどちらが優勢になるのかは、目に見えて分かることだった。

 

 

 

「悪いねハンニャバル!よっ!(ドムッ!)」

 

「ゲハァッ!?」

 

 

 ハンニャバルの腹にスイカの拳がめり込む。普通の看守よりもはるかに強いのは確かなのだが、彼女の一撃をもろに受けてはハンニャバルも意識をつなぎとめることが出来なかった。

 

 

「………しょ、しょちょ~~…!(ガクッ)」

 

『ハッ、ハンニャバル副署長~!』

 

 

 仕切る人間がいなくなれば部隊はもろくなるもの。ハンニャバルが倒れた看守側は士気を失い、一気に囚人側へと流れが向くこととなってしまった。

 

 

 

「いよいしょ、っと」

 

「大丈夫かお前?手伝おうか?」

 

「ん、にゃに。これぐらい大丈夫さ」

 

 

 その中、ハンニャバルに勝利したスイカは意識を失い自分の身体にのしかかっているハンニャバルをのかしにかかる。

 

明らかに体格の差が大きかったのでルフィが手伝うか聞いてきたが、まったく疲れる様子なく、スイカは一人でハンニャバルを床に寝かせてやった。とても丁寧で、傷が増えることは無い。

 

 

「さぁ、これで頭はいなくなった。あとは階段の奴らだね!」

 

 

 LEVEL3への階段には、ハンニャバルが連れてきた大勢のバズーカ部隊が配置されている。弾は海楼石が組み込まれた〝対能力者用ネット〟のため、手練れの囚人も攻めあぐねている。

 

 

 

「おう!急いでエースのところに行こう!」

 

「了解!私に任せときなっ!」

 

 

 

 しかし〝酒呑童子〟にとってはまだまだぬるい防衛陣。スイカは持ち前の〝覇王色の覇気〟を再び使い、バズーカ部隊の意識を刈りとろうとした。

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

『う、うわぁ~~~!』

 

『たっ、助けで~~~!』

 

 

「・・・・・あん?」

 

 

 それは、突如起きた。何百人もいるバズーカ部隊。その足元に真っ黒な〝なにか〟が広がり……次々と〝それ〟に飲み込まれていくではないか。

 

 

「わっ!なんだなんだ!?」

 

「分かんない!なんだありゃあ…!?」

 

 

 突然の事態に、ルフィもスイカもその現象を眺めることしかできず・・・気が付くと、バズーカ部隊の人間は誰1人いなくなり、黒い〝何か〟だけがあるだけとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――解放(リベレイション)!」

 

 

 

だが幸か不幸か、その野太い叫びと共にバズーカ部隊は解放されることとなった。

 

 

『ぎゃああああ~~!』

 

 

〝何か〟から噴くように出てきたバズーカ部隊に意識はない。つまり、スイカの代わりに誰かが倒したのだ。ハンニャバルとは違う敵側の乱入者が。

 

 

 

 

「ん~?おお、こりゃあすげえメンツが揃ってやがる…!何やら取り込み中だったみたいだな…ゼハハハ…!」

 

「・・・!」

 

 

 ドサドサと降り落ちるバズーカ部隊を風景に、階段から降りて来る5人の大男たち。スイカはその中央の男に、見覚えがあった。

 

 

 

「・・・・あんた、確か〝白ひげ〟んとこの・・・」

 

 

「ティーチ!なぜ貴様がここにおるんじゃ!」

 

 

 それはスイカだけでなく〝白ひげ〟と友好的な関係を持っていたジンベエもであり、彼は血相を変えて突如現れた男に咆える。

 

 

名を、『マーシャル・Ⅾ・ティーチ』。かつて〝白ひげ〟の船の一員だったが、禁忌(タブー)である仲間殺しを行い、さらには自らの隊長であった〝火拳のエース〟を打ち破り王下七武海となった男が、スイカたちの前に現れたのだ。

 

 

「おお、ジンベエもいるのか……って、ははっ。その物騒な拳は下げてもらおうか。そういえばおめェはエースと仲が良かったな……だがおれを恨むのはお門違いだ」

 

「何がお門違い……!貴様がエースさんを監獄に送らねばこのような事態になっておらんかった!そうじゃろう、【黒ひげ】!」

 

 

「!【黒ひげ】!?」

 

「………【黒ひげ】だぁ?」

 

 

 それははまたなんともまぎらわしい通り名か。まるで戦友である〝白ひげ〟の名を横からかっさらっているみたいで、あまり面白くは思えない。

 

 ジンベエが叫んだ呼び方にルフィは怒りの形相となり、スイカは眉をひそめてティーチを見上げた。

 

 

 

「白ひげの船のもんが、白ひげの船のもんを監獄にぶち込むとはね。とんだ裏切りがあったもんだよ」

 

「ゼハハハ!だが、そのおかげでおれは七武海になることができた!!苦労や苦痛はあったが、まったく後悔はねえな!」

 

「……ふんっ。そりゃ良かったね~」

 

 

 その断言通り、ティーチに後悔の色はない。仮にも仲間であった人間を牢へ追いやったというのに平気でいられる目の前の外道に、スイカはさらに顔をしかめた。

 

 

「じゃあ、なぜ今七武海のアンタがここにいるんだい。確か白ひげが来るから七武海は強制招集を受けてるって話だそうだけど……」

 

 

 それをけってしまえばもう七武海ではいられまい。裏切りを行ってまで手に入れた称号を捨てようとは・・・・一体何を企んでいるのか。

 

 

「ゼハハハ……おれの計画をあんたに話す義理はあるか?」

 

 

 饒舌なティーチもそこまで答える気はないようで、歯の欠けた口をゆがませながら質問で返す。スイカも強引にまでは問うつもりはなかったようで、ただ首をすくめるだけの反応だけでとどめた。

 

 

「いや。そもそもあんたが何をやろうと知ったことじゃないしね。好きにすればいいじゃないか」

 

「ははっ。あんたに言われずともそのつもりさ・・・・だがまぁ、一番期待していたのはあんただったんがなぁ。一足遅かったぜ」

 

「?そりゃどういう――」

 

 

 

「ゴムゴムのぉおおおお!!」

 

 

「「!?」」

 

 

 

その突然の大声が2人の会話を打ち切ることとなる。

 

 

「おいおいっ!(ガシッ!)何しようとしてるんだいおにーさん!?」

 

 

 声の主はルフィ。鬼気迫る顔で彼が見るのは〝黒ひげ〟で、本気の攻撃をしようとしているのは間違いない。スイカはとっさに、ルフィが動かさんとしていた両腕を抑えた。

 

 

「何すんだよ離せ!こいつが!こいつがエースをっ!」

 

「ああ知ってるよ!でもね、ここでそれを責めても事態は…!」

 

「うるせー!邪魔すんなぁああ!」

 

「む…っ!(ググッ…)」

 

 

 ルフィもすごい剣幕で、スイカの掴んだ手をはがそうと力を込める。

 

 確かに今回の一件は、すべてティーチが原因と言える。その張本人が目の前にいて冷静でいられないのも無理はないことだろう。

 

 しかしそれでもスイカはルフィを宥める。なにせ、ここで消費する時間は当然……戦闘によって消費していい体力など、この後を考えるとあっても足りないぐらいなのだから。

 

 

 

「聞きな小僧っ!今こいつとぶつかっても、あんたの兄貴を助けるのに何の役にも立たないだろ!?むしろ時間と体力を消費するだけで救出の可能性がなくなっちまうだけさ!」

 

「・・・・!!」

 

 

 ルフィもそれは分かっているのだろう。スイカの怒声に、振りほどこうとする力をわずかに緩めた。

 

 

 

「あんたの〝おやじ〟だったらこんなことで動じないよ!過程で起こる喜びも悲しみも!全てを飲み込んで願う目的のために動き続けてるんだ!小僧もその血を受け継いでるんなら、ちったぁ頭冷やして兄貴の命のことを考えなぁああ!!」

 

 

「・・・!!ふ~・・・!ふ~・・・!!」

 

 

 まるでそこにいるもの全てに告げるよう叫び。それにはルフィも観念したようで、力を込めるのをやめて、腕を下ろした。

 

 

 

 一方、それを眺めていたティーチは当事者にもかかわらず笑みを浮かべていた。余計な体力を使うのを避けられたからだろう。豪快な笑いをあげ、スイカに礼を述べ始めた。

 

 

 

 

「ゼハハハハハハッ!助かったぜぇ、いちいち体力を使うのも面倒だからな!すまねぇな、しゅて(バキッ!)ドワァ!?」

 

 

 

 それに対する彼女の対応はシンプルだった。

 

 

「!船長」

 

 

 突然、ティーチはなにも触れていないのに鼻血を流しながら吹き飛んでいったのだ。それをクルーたちは目で追うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「はん。誰があんたみたいな仁義をナメくさったヤツを助けるか。あんたとモメる時間ももったいないんだよ、バカ」

 

 

 そう言って吐き捨てるのは、心底不愉快そうな顔をして左の拳を前に突き出すスイカ。そこにいる誰の目から見ても、突如現れた侵入者の頭を吹き飛ばしたのが誰かなのかは丸分かりだった。

 

 

 

「ゼ、ゼハハハ…!相変わらず容赦がねぇな……!」

 

 

 ティーチもそれには気付いており、壁に強打して鼻だけでなく頭部からも血を流しながら笑っている。しかし、彼女の態度は変わらない。

 

 

 

「当たり前だろう。逆に加減されるとでも思ったのかい?テメェの胸に聞いてみなよ(スタスタ)」

 

 

 ティーチ、及びその仲間たちの横を歩きぬけ、スイカはLEVEL3へ伸びる階段をのぞいた。

 

 

 

(………警備ゼロ。こりゃずいぶんと楽になったね)

 

 

 

 あれほどいた部隊を一瞬で全滅させるとは。なんの能力かは知らないが・・・・・ほんの少しなら、そこの不義理な男をほめてやってもいいだろう。おかげでなんなく階段を登ることが出来るのだから。

 

 

「―――皆っ!今なら守りの人間がいない!上に行くなら今だよ!!」

 

『!!!』

 

 

 その好機を逃さず、スイカが再び大声で叫ぶ。幼いながらも力溢れる声に、止まり、黙っていた囚人たちが動き出した。

 

 

 

 

『うおお~!』

 

『了解っ!!行け~!LEVEL3へ~~~!』

 

 

 

 

 なだれ込むように囚人たちがLEVEL3への階段へと殺到していく。看守は一人残らず気絶しているため、進路を阻む者はいない。瞬く間に暴動者たちはLEVEL3へと駆け上がっていった。

 

 

「わしらも行くぞ、ルフィ君!」

 

「おう!待ってろよエース~!!」

 

 

 ジンベエたちも続いて階段を上り始め、あっと言う間にその姿が見えなくなった。スイカもそれを確認して階段を登ろうとしたところで・・・ティーチが叫ぶ。

 

 

 

「ゼハハハ…!楽しみにしてろよお前らぁ!わずか数時間後おれ達が、世界を震撼させる最高のショーを見せてやる!」

 

 

(〝ショー〟だって?絶対にロクなもんじゃないね!)

 

 

 かと言って言及する時間も惜しい。気にはなったがスイカは頭を切り替えて、脱獄への道を駆け出した。

 

 

 

 

「おーい、お前~っ!」

 

「ん?どうしたおにーさん!」

 

 

 階段を半分ほど過ぎたあたりだろうか。なぜか前方からルフィが逆走をしてきて、スイカと並んで階段を登り始めたではないか。

 

 

「さっきはありがとう!おれ頭に血がのぼってた!」

 

「!」

 

 

 並走しながら告げられたのは、混ざりっ気のない感謝の言葉。突然のお礼にスイカも面食らうが、すぐに笑顔で受け止めた。

 

 

「なぁに、気持ちは分からなくないからね!だが今は兄貴のことを優先しな!本末転倒になったら元も子もないよ!」

 

「うんっ!・・・・あ、そう言えばお前、名前なんていうんだ!?」

 

 

 ふと気になったのだろう。ルフィは、初対面の人間に対して当然のことを。・・・・全ての海賊の上に立つ海賊王を目指す者として、この上なく非常識でおかしなことを聞いた。

 

 

「ん?ああ!そう言えば言ってなかったね!」

 

 

 しかし本人は気にしない。ただ忘れていたと苦笑してから、己の名前を告げる。

 

 

 

 

「スイカ!【アイル・Ⅾ・スイカ】さ!以後よろしく、ってね!」

 

「スイカ!?おいしそうな名前だなっ!!」

 

「!!お、おい・・・?アッ、アッハハハハハハッ!や~!!なんとも面白い反応をするねぇあんたは~!」

 

 

 あまりにも独特な感想に、スイカは本当に笑いが止められなくなる。

 

 

(なんって裏表なくバカ正直な男なことだい!〝どこぞの海賊王〟もこんなだったねぇ!)

 

 

 はるか昔に散った戦友。彼と似てやまないこの男に、ますます興味が募るスイカであった。

 

 

 

「ん?あれ??アイ……ス……スイカ?おれどっかで聞いたぞ!?」

 

「さてね!昔は知れ渡った名前だと思うから、どこかで聞いてもおかしくないかもね!」

 

 

 むろんルフィがハンコックからその名を聞いたこと、さらには彼女のおかげでインペルダウンに侵入出来たことをスイカは知らない。

 

 そこを踏まえると、スイカが解放されたのはハンコックのおかげであると言っても過言ではないだろう。知らず知らずの内に、ハンコックは大恩人を助けていたのであった。

 

 

 

 

「それよりも急ぐよ!いつアイツが来るか分かんないから!」

 

 

 会話はそこで終了となり、打って変わってスイカは真剣な表情でルフィの足を急がせる。

 

 今は難なく進んでいるが、この地獄はそう簡単に罪人を逃がさない。まだ、強力な戦力が向こうにはいるのだから。

 

 

「あいつ!?あいつって誰だ!?」

 

 

「決まってる!まだ一度も姿を見せてない――――」

 

 

 

 

 

 

「麦わらぁああああああ!!」

 

 

「「っ!!!?」

 

 

 

『うおぉおおおお!?』

 

 

 突如階段に反響する怒声。あまりの声の大きさに、すべての囚人が目を剥いた。

 

 

「……ドクのやつ!」

 

「【マゼラン】……!当然来るよねぇ…っ!」

 

 

 ルフィも、スイカでさえもその人物に顔を固くせざるを得ない。

 

 

【マゼラン】。インペルダウンの署長にして、〝ドクドクの実〟の能力者。

 

 

 

「貴様は絶対に!ここから出さんぞぉおおお!!」

 

 

 

 とうとう現れた地獄の支配者が、ルフィ達たちに猛威をふるい始めたのであった。

 

 

 

 

 




 お読みいただきありがとうございました。 キリが良いところまでということでだいぶ長くなりましたが、読みづらくて申し訳ありませんでした。


 さて、おそらく読んだ皆様がえ?と思ったでしょうが、萃香さんの海桜石の手錠だけはまだ残っております!

 これにつきましては、自分がその立場にあったら・・・って考えたら絶対に外すだろ!?と村雪も思うのですが、それ以上に義や筋道を大事にするのが彼女【酒呑童子】というわけなのです!だから、彼女の言う〝一区切り〟までは能力が出ませんのでごめんなさい!

 あと、萃香の攻撃につきまして。白ひげのように技名がありませんでしたが、あれは萃香にとって技名を付けるほどではない攻撃だったのです!それであの威力かとツッコミたくなるかもしれませんが、きちんと技名を付けるつもりでいますので覚えておいてくださいませ!


 それではまた次回!監獄署長と衝突しますよ~!


 あと、何か思うところや質問なんかがありましたら、ご感想の方へお願いしますね!時間がかかるかもしれませんが、出来る限り答えさせてもらいます!
 

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