霊夢がこのすばの世界に行くそうです   作:緋色の

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ベルディアって本当はかなり強いんですよね。


第六話 ベルディアを倒せ!

 キャベツ収穫から数日が経過し、報酬がようやく支払われた。

 私は、ベ、ベル……、ベル……、魔王の幹部と戦うために魔法の開発に没頭していたのもあってすっかり忘れていたけど。

 

「なあ、レイム。報酬がよかったから、修理を頼んでいた鎧を強化してみたんだが、どうだ?」

「……いいんじゃないの? 成金好みにも見えるけど」

「もう少し、褒めてほしいのだが……」

「そんなこと言われても」

 

 私に美的センスとか求められても困る。

 そういうのとは無縁の生活を送ってたし。

 

「いい感想がほしいならめぐみんに当たりなさい」

「何ですってえええええええ!? ちょっとあんたどういうことよ!」

 

 その叫びは、ダクネスがめぐみんに感想を聞こうとした時に上がった。

 あいつはまた何かやってるのね。

 私は何事かと受付を見る。

 

「たった五万エリスってどういうことよ! 私たくさん捕まえたわよ!」

「その、大変申し上げにくいのですが、アクアさんの捕まえてきたキャベツはほとんどがレタスでして」

「何でレタス混じってんのよ!」

「私に言われましても……」

 

 しばらく粘っていたアクアだったが、受付に言っても埒が明かないと思ったのか、手を後ろに組んでにこにこと笑いながら私のところに来た。

 

「レイムさん、たくさん捕まえてたわよね? おいくら万円?」

「百五十万ちょっとね」

「「「ひゃっ!?」」」

 

 私が捕まえたキャベツは経験値がたくさん詰まってる上質なものだったらしい。

 これが幸運度の差ね。

 額を聞いたアクアは私にお願いしてくる。

 

「レイムさん、よければ少しお金を貸してもらえないかしら?」

「はあ? 悪魔の報酬もあるんだから、お金はあるでしょ」

「いやあ、それがね? 前にお酒買いに行った時に、うっかり酒樽に入ってた酒を水に浄化して、それでお金がなくなったの」

「何やってんの、あんた」

 

 ばかにもほどがある。

 もしかして、お金を貸してというのはお酒の弁償代なの?

 

「お酒の弁償まだ済んでないの?」

「それはいいの。ここの酒場にツケがあるのよ。だからお願い、貸して!」

 

 ばかにもほどがある。

 お酒の弁償でお金なくしたのに、どうしてツケで飲み食いするのだろうか。

 こいつを見てると考えることというか、計画することの大切さがよくわかる。

 ……もしかして華扇もこんな気持ちで私を見ていたのかしら?

 もしそうなら今度会った時に謝ろう。会えたらね。

 それは置いといて、アクアをどうしようか。

 お金を貸すのは簡単だけど……。

 ニートを満喫するするアクアを思い出し、お金を貸すのが躊躇われる。

 

「クエスト請けてお金を稼ぎなさい」

 

 ここで甘い顔をしてはいけない。

 ここは仕事させるべきよ。

 私の言葉にアクアは。

 

「そんなこと言わないでお願いよお! 仕事はするけど、とりあえずツケの分だけでもお願いよお!」

 

 目に涙を浮かべて、私に懇願した。

 一緒に仕事をすれば、報酬を受け取った時にお金を返してもらえる。また、アクアが仕事をサボったりしないように見張ることもできる。

 これなら大丈夫そうね。

 ツケの分だけならと思うと、めぐみんが私の服の裾を引っ張った。

 

「今は依頼があまりありませんよ。幹部が近くに来たせいで弱いモンスターは隠れています」

「別に強いのでも私は平気よ」

「ん。私も強いモンスターは歓迎だ。一撃が重いと気持ちいいからな」

「今気持ちいいって言った?」

「言ってない」

 

 攻撃されて気持ちよくなる。

 どうしてそうなるのかはわからないけど、ただそれがおかしいってことはわかるし、ダクネスが変態というのもわかる。

 最初の時の凛々しさはどこに行ったのだろうか。キャベツに殴られて落としてしまったのかしら。

 私は最初のダクネスに戻ってほしいと思いながら、めぐみんに話しかける。

 

「強いのが出ても私が倒すから大丈夫よ」

「我が爆裂魔法でも倒せますよ。それはいいとして、それでアクアが仕事してるのか? ってなりますよね」

「ちょっとめぐみん、何言ってんの!?」

 

 確かに。

 私の考えは浅かった。

 強い敵と戦ったとて、アクアの出番はない。

 それで仕事したと言えるのか?

 めぐみんによって追い詰められたアクアだったが。

 

「レイムは幹部に備えて魔法をつくらないといけません。その邪魔をするのはどうかと思います。しかし、アクアがピンチなのも事実。ここは一つ、私がアクアを雇いましょう」

「めぐみんが?」

「そうです! 私は爆裂魔法を撃つという日課があるのですが、ご存知の通り私は爆裂魔法を撃つと倒れてしまいます。そこでアクアに街まで運ぶのを頼もうと思います。一日二万エリスでどうですか?」

 

 随分と待遇がいいわね。

 アクアは目を輝かせてめぐみんの話に飛びついた。

 こうしてアクアはめぐみんの爆裂散歩に同行することが決まる。

 クエストを請けないことになると、ダクネスは実家に戻ってトレーニングをすると言い、ギルドから去る。

 それに続くようにしてめぐみんとアクアも爆裂散歩に出かけた。

 

 ギルドを出た私は街を出て、しばらく歩く。

 魔王の幹部の影響は既に見受けられた。

 いつもなら街の周辺には蛙がいるのだが、その姿は見えない。

 強い存在に怯え、隠れている証だ。

 そんな理由もあるから近辺で冒険者の姿を見ることはない。

 現在大多数の冒険者は弱いモンスターが隠れてしまったことで仕事がなくなり、やってられないとばかりにギルドで酒を飲んでいる。

 誰かに見られても平気だし、空に向かって撃つから被害もないのだが、それでも人がいない方がやりやすいのだ。

 雷の魔法でコツは掴んでいるから、そこまで苦戦することはないはず。

 魔力を高め、練り上げ、密度を濃くするような感覚でやると……。

 虹色の炎が私の手のひらの上にできる。

 霊夢式ライトニングは気にしてなかったが、火属性もこうなるなら他の属性も虹色になるのだろうか。もしそうなら虹色になったら完成という目安にはなるんだけど……。

 もしかしたら火も雷も発光するから、それで虹色になるのかもしれないが。

 どうして虹色になるのかは気になるが、調べてもわからなそうだから無視しとく。

 それに調べるなら御札が先だ。

 

「この調子なら火もすぐにできそうね」

 

 手のひらの上の火を消して、御札について考える。

 幻想郷にいた頃は何だかんだで誰かが教えてくれたから深く考えたりしなかったけど、ここはそうじゃないからね。

 原因について考えを巡らすのは当たり前のことなんだけど、できる感じがして嫌いじゃない。

 さてと。

 霊夢式ライトニングが使える御札……いや、もうこれは魔法札にしよう。こちらとの違いとなると、御札は日本語、魔法札はこちらの世界の言葉で書いてある。

 そもそも夢想封印が使えて、御札が使えないのはおかしな話だ。

 夢想封印は霊符と言ったりしているし……。

 いや、まあ、光弾とか霊符関係ないでしょと言われたら私は何も言えなくなるけど。

 どうして使えるのか……。

 御札が機能せず、夢想封印が機能する。

 これはもう夢想封印そのものが私の力で発動してることになる。そこに神の力を借り、上乗せしてるのが幻想郷での夢想封印になる。

 そうなると納得はいく。

 御札が機能しないのは、博麗神社がなく、しかも幻想郷にいた神霊や神々の力がないからだ。

 そう考えると御札が機能しないのは必然とわかる。

 しかし、それはそれでおかしな点もあり、夢想封印の威力がそこまで落ちてないというか……

 神の力を借りてないのだから……、待って、そういえば神は信仰によって力が変動するのよね。

 博麗神社の神はどれだけ信仰されてたの? というかどんな神だったのかしら。そもそも私すら知らない神を誰が信仰してるの?

 ひょっとして、博麗神社の神って……。

 やめよう。これは考えてはいけない。考えたら、私がしっかりしてたらもっと力のある神様になってたとかそういう話になってしまう。

 世の中には知らない方が幸せということもある。知ることが幸せとは限らない。

 御札が機能しない理由が判明したんだから、もう幻想郷とは関係ないから、知る必要はない。

 そ、それにしても自分の技について考察するのは何て言うか背中が痒くなるものがあるわね。

 今まで使えるからと気にしなかったけど、いやあ改めて見直すと得るものがあるのね。

 私びっくりしちゃった。

 

「さっ、魔法よ魔法」

 

 私は火の魔法を完成させるという本来の目的に意識を戻した!

 

 

 

 一週間が過ぎた。

 私の魔法開発は実に順調で、火の魔法と風の魔法を完成させることができた。

 風の魔法は虹色に輝くとかそんなことはなかった。

 ベル、べ……、何とかって奴と戦う準備はできた。

 この日の朝、

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さまはただちに街の正門に集まって下さい!』

 

 ギルドから緊急警報が出て、私達は街の正門に集まることになった。

 何がどうなってんの?

 私達が正門まで行くと。

 とてつもない威圧感を放つモンスターがいた。

 そいつは頭のない馬に乗っている。

 黒い鎧で身を包み、変わったことに頭を手で持っていた。

 威圧感と共に放たれる邪悪な気配はアンデッドであることを示している。

 もしかして、あれが例の奴?

 デュラハンとかいうアンデッドモンスターよね。

 そいつは頭を乗せた手を前に出す。

 

「俺は先日、この近くの城に来た魔王軍の幹部の者だが……」

 

 ストレスでも溜めてるような声で言い、ぷるぷると震え出して……。

 

「ままままま毎日毎日、俺の城に爆裂魔法を撃ち込む頭のおかしい奴は誰だ!? 駆け出しと無視しておれば、調子に乗って毎日毎日撃ちおって! 誰だ! 頭のおかしい大ばかは誰だ!?」

 

 溜め込んでいた怒りを一気に解放して、大声で怒鳴りつけた。

 本当にストレス溜まってたのね……。

 爆裂魔法と言われて、心当たりがある。

 というかアクセルで使えるのは……。

 みんなが無言でめぐみんを見ると、視線に気づいためぐみんは隣の魔法使いを見て、私達の視線もそれに誘導されて。

 まさか、その子も……?

 

「わ、私!? 私、爆裂魔法使えないんだけど!」

 

 今回の件と無関係の魔法使いは涙目で否定する。

 そうね。関係ないわよね。

 ごめん。

 めぐみんを見ると、何かに気づいたような顔になり、やがて溜め息を吐いて、嫌そうな顔で前に出た。

 それに仲間の私達はついて行く。

 めぐみんは杖を幹部に向け、言い放つ。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

「めぐみんって何だ! ばかにしてるのか?」

「ちがわいっ! 我は紅魔族随一の魔法使いにして、この街最強の魔法使いなり。その我が毎日爆裂魔法を撃ち込んでいたのは、ここにあなたを誘き出すため!」

 

 たくさんの冒険者が背後にいるからか、強気のめぐみんはノリノリである。

 私はダクネスとアクアに小声で話しかける。

 

「何言ってんのあいつ? 絶対何も考えてないでしょ」

「しーっ! 今いいとこなんだから、黙ってましょうよ」

「さりげなくアクセル最強の魔法使いと言ってたぞ」

 

 私達が後ろでそんな話をすると、めぐみんの顔は赤く染まる。

 デュラハンはめぐみんの話を聞いて納得している。

 

「なるほど。紅魔の者か。それならおかしい名前も納得がいく」

「おい。両親がくれた大事な名前と、我ら偉大なる紅魔族のセンスに文句があるなら聞こうじゃないか」

「まあいい。今回は見逃してやるが、これからは爆裂魔法は撃つな」

 

 めぐみんの抗議をさらっと流して、幹部は言いたいことは言ったと背を向けた。

 普通なら助かったとか言う場面かもしれないが、うちのあほの子は違った。

 

「それはできません」

「はっ?」

「紅魔族は日に一度爆裂魔法を撃たないと死んでしまうのです」

「そんなの聞いたこともないわ! そんなしょうもない嘘を吐くな!」

 

 幹部は疲れたように溜め息を吐く。

 

「はあ……。俺はお前ら雑魚に構いに来たんじゃない。とある調査のために来ただけだ。もう一度言うが、爆裂魔法を撃つのはやめろ。そうしたら見逃してやるから」

 

 こいつを見てると、アクセルの冒険者に興味ないのがよくわかる。

 数十人といる冒険者を見ても歯牙にもかけない態度は、仮に襲われても一蹴できると考えているからだろう。

 それほどの力を持つ敵が見逃すと言うなら普通は条件を飲み込むもんだけど。

 

「まるで私の行為が迷惑みたいに言いますが」

「みたいではなく、迷惑だ」

「……迷惑してるのはこちらも同じなんですよ! あなたのせいで我々は仕事をなくしたんです! そうやって余裕ぶっていられるのも今の内ですよ。先生、お願いします!」

「よっしゃあ! 任せなさい!」

 

 めぐみんは喧嘩を売っておきながらアクアに丸投げした。

 丸投げされたアクアはやる気満々で、肩を回しながらめぐみんの隣に立つ。

 幹部はアクアをじっと眺め、さも面白そうに笑う。

 

「ははっ。これは珍しい。まさか駆け出し冒険者の街にアークプリーストがいようとはな。しかし、低レベルでは俺に傷一つつけられん。何より俺は魔王様の加護を受けている身。神聖魔法には強い耐性がある」

 

 幹部はアクアを見ても恐れを抱かない。

 やっぱりぱちもん女神なのかしら?

 それともあいつは実はそんなに強くないとか?

 どっちなんだろ。

 アクアは幹部の言葉にカチンと来て、今にも魔法を唱えそうな雰囲気を出す。

 それを受けて、幹部は左手の人差し指をめぐみんに突きつけ……。

 

「言ってわからぬなら、その身にわからせるまで。汝に死の宣告を! 貴様は一週間後に死ぬ!」

 

 死の宣告をした。

 幹部の指から黒い光が放たれる。

 同時にダクネスはめぐみんの襟首を掴んで後ろにやり、代わりに自分が前に立つ。

 同時に私は前に出て、右手の甲で黒い光を空に向けて弾いた。

 

「いったあーい! 手があ!!」

 

 鉄の塊に思いっきり叩きつけたような痛みが襲ってきた。

 目に涙を溜めて、激しい痛みに悶絶していると、アクアが近くに来て回復魔法をかけてくれた。

 女神の力を久しぶりに感じた。

 あれほど痛かったのに、どんどん痛みが引いていく。

 呪いを弾いたのはよかったが、かなり強力なものだったようで、私は思わぬダメージをもらった。

 幹部はその光景を見て一言。

 

「えっ?」

 

 ダクネスは何が起こったのか理解すると、私に驚いた様子で聞いてくる。

 

「まさか、ベルディアの呪いを弾いたのか!?」

「そうよ、ベルディアよ! やっとあいつの名前を思い出したわ!」

「いや、名前はどうでも……って忘れていたのか?」

「ありがとう、ダクネス。これですっきりしたわ」

 

 そうだった。

 あいつの名前はベルディア。

 私の経験値よ。

 私は剣を引き抜く。

 アクアの魔法で痛みはなくなった。

 仲間より二歩前に出ると、呪いを弾かれて呆然としていたベルディアは私を見るとなぜか納得したように頷く。

 

「俺がこの地に来たのは調査のためだ」

「調査?」

「うむ。占い師がこの街周辺に強い光が二つ降ったと騒いだのだ。片方だけでも脅威だが、問題はもう一つの方らしい。その光、虹色に輝き、不完全さを感じさせる。とな」

「……何それ?」

「俺にもよくわからんが……、貴様が後者であるのは判然としている」

 

 ベルディアは馬から降り、大剣を手にする。

 面白がるように告げる。

 

「まずは小手調べだ!」

 

 ベルディアの影が強い邪気を帯び、辺りに広がる。

 そこから鎧を着た屍が無数に現れた。

 以前見たゾンビとは違い、武器も鎧も装備している。

 こいつらも魔王の加護がありそうね。

 

「くっくっく。貴様に我が部下を倒せるかな? さあ、あやつを切り裂け!」

 

 私はアンデットナイトを見据える。

 そして、アンデットナイトの群れが私に向かって、向かって……こない。

 

「いやあああああああ! どうして全部私に来るのよー!」

 

 どういうわけか、アクアの方に向かう。

 まるで磁石に引き寄せられているようで、ベルディアも全く予想していなかったのか動揺していた。

 

「そんな雑魚は放って、あのソードマスターを切り裂け!」

「誰か助けてええええええ!!」

 

 ベルディアの言葉を無視してアンデットナイトの群れはアクアを追い回す。

 あいつはアンデットホイホイね。

 アンデットナイトの群れはベルディアがどれだけ言っても言うことを聞かず、アクアを一心不乱に追い回す。

 やがて、諦めたように溜め息を吐いて私と向き合う。

 

「予定とは違うが、よかろう。この俺自ら相手をしてくれるわ!」

「でも、あんたって部下に言うこと聞いてもらえない上司でしょ?」

「ち、違う! 普段はきちんと俺の命令に従うんだ! それなのにどういうわけか今回だけ言うことを聞かぬ……。あのアークプリーストは何なんだ!?」

「それは私も聞きたいわ」

 

 アクアとは本当に何なのか。

 めぐみんとダクネスはアンデットナイトに追われるアクアを助けに行っている。

 他の冒険者も助けようと色々しているが、まるで効果がない。

 アクアのターンアンデッドを食らってもアンデットナイトは浄化されない。

 能力だけは本物だから、効かないってのはおかしいんだけど、……あれが魔王の加護ね。

 なるほど。参考になる。

 雑魚であれならベルディアは……。

 

「はじめるとしよう。我は魔王軍の幹部ベルディア」

「ご丁寧にどうも。私はソードマスターの霊夢よ」

 

 私達が動いたのは同時だった。

 ベルディアと私の剣が衝突し、激しい金属音を響かせる。

 

「は、はじまりやがった……」

「私達にできるのは……見守ることだけね」

 

 お前ら帰れ。

 私は剣を戻し、ベルディアの剣を避け、そこから休むことなく振り続ける。

 次から次へと来る攻撃を、ベルディアは最小限の動きでかわし、時には大剣で防ぎ。

 切れ味アップのスキルは当然発動しているが、ベルディアの剣を切り裂くことはできない。

 斬れないほどに硬いのか、同系統のスキルを用いてるのか、はたまた無効化してるのか。

 

「ふんっ!」

 

 力任せに大剣を振るう。

 筋力でベルディアに勝てるわけもなく、私は踏ん張ることもできずに飛ばされた。

 少女とはいえそれなりに重さはあるのだから、数メートル以上、しかも片手で飛ばすのはかなりきついはずなのに、ベルディアは大したことなさそうにしていた。

 ベルディアの筋力の高さ、そして先ほどの連続攻撃を楽々捌いたことといい、剣のみで勝つのはどう考えても無理だ。技術が段違いだ。

 剣を持たない手をベルディアに向ける。

 

「『霊夢式ライトニング』!」

「ぐっ!」

 

 ベルディアは腰を落とし、大剣を横に構えて虹色の雷を防ぐ。

 以前悪魔の上級魔法を受け止めた男は衝撃に耐えることができなくて吹っ飛ばされたが、ベルディアはその場に悠々と踏み止まる。

 剣を構え直し、剣先をこちらに向ける。

 

「魔法すら使うか。しかもオリジナル魔法と来た。貴様がこの地に来た時期を考えると……、やはり魔王様の脅威になり得るな」

「何が言いたいのよ」

「……かつていた勇者はオリジナル魔法と聖剣にて、魔王を倒したと聞く。聖剣があれば、貴様はかつての勇者と同一視されることだろう」

 

 ベルディアはほんの少し体を前に傾ける。

 

「幼き勇者よ、今ここで散ってもらうぞ!!」

 

 ベルディアが私に向かって走り出す。

 接近されるのはまずい。

 

「『霊夢式ファイアーボール』!」

 

 虹色の大きな炎の玉を放つ。

 

「はっ!」

 

 大剣を一振りしたファイアーボールを真っ二つに切り裂く。

 ベルディアの左右を通ったファイアーボールは地面に当たると激しく燃え上がる。

 これも効かないなんて。でも、まだ手はある。

 炎の玉が切り裂かれるのなら……!

 

「『霊夢式インフェルノ』!」

「ぐうううっ!」

 

 巨大な虹色の炎が、草原を焼き、大波のようにベルディアを飲み込もうとする。

 これを切り裂くのはいくらベルディアでも無理がある。

 かといって避けるのも無理な話だ。

 ベルディアからすれば、炎はいきなり現れたも同然であり、後退しても間に合わない。

 炎に飲み込まれる。

 

「あちちちちちちっ!」

 

 情けない声を上げて、燃え盛る炎からベルディアは飛び出る。

 よっぽど熱かったのだろう。地面をごろごろと転がって、霊夢式インフェルノから少しでも遠ざかろうとしている。

 もしくは鎧から昇る黒い煙を消そうとしているようにも見える。

 

「お、驚いたわ! あ、あんな、あんな、上級魔法クラスの魔法を連続で使うとは……! イカれた魔法技術を持っているようだな!」

 

 少し震えた声で、そんなことを言ってきた。

 イカれたとは失礼な。

 一度覚えた感覚で魔法を使ってるだけなのに。

 というか、イカれてるのはお前の魔法耐性よ。

 飲み込まれたのに、あんまりダメージ受けてないじゃない。

 

「私からしたら、あんたの魔法耐性がおかしく見えてるんだけど」

「俺は幹部だぞ? 並外れた魔法耐性があって当然であろう」

「それは困ったわね」

 

 ベルディアはゆっくりと立ち上がりながら、私の動きを注視する。

 さっきの霊夢式インフェルノが思ったより熱かったんだろうか。

 びびったのかしら?

 何て言うか、ベルディアって他の幹部に比べたら楽そうというか。

 他の幹部がいる前で倒したら、奴は我らの中でも最弱よ、とか言われそうな感じがする。

 アクア達を見るが、まだアンデットナイトの群れと戦っている。

 やはり神聖魔法が効かないのはきついわよね。

 って、来るわね。

 

「『霊夢式インフェルノ』」

「見ないで!?」

 

 見てなくても、何か、そういうのを感じたんだもん。

 再び視線をベルディアに向ける。

 炎の向こうで、警戒していた。

 見てなくても的確に攻撃したのが効いたらしく、ベルディアは動きを止めていた。

 神聖魔法が効かないといっても、この世で最も信仰されている女神の魔法ならどうか。

 ちょうどいい。

 修行した神降ろしがどんなものか試してみよう。

 ベルディアが警戒しているのをいいことに、私はこれ見よがし口を動かす。

 私が何か凄いのをやると思って、いつでも回避できるようにしている。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 爆裂魔法が唱えられた。

 戦場どころかアクセルの街にも響く爆発音、大地を揺らすほどの大爆発はアンデットナイトの群れを一掃した。

 神聖魔法でも浄化されなかった連中でも爆裂魔法は無理だったらしい。

 

「レイムー!」

 

 アクアが手を振りながら近づいてきた。その後ろにめぐみんを背負ったダクネスと多くの冒険者が続く。

 アクアは私に隣に立つと、力強い笑みを見せた。

 

「こっからは私達も手を貸すわよ!」

 

 ベルディアは面倒なことになったとばかりに頭を持った手を左右に振り、剣先をアクアに向けて言い放つ。

 

「駆け出しのお前達がアンデットナイト達を倒したのは褒めてやろう。が、ここからどうする? その娘はこの俺を警戒させ、どうするか悩ませたが、貴様らがいれば別だ。もしも貴様らが俺と剣を交えようものなら、娘は魔法を使えなくなる。そこのアークプリーストの神聖魔法も部下を浄化させられなかった。ならば俺を浄化することもできない。助けに来たつもりかもしれんが、逆に足を引っ張ることになるとはな」

 

 などと長々話をしてくれたおかげで準備は整った。

 ばかだあいつ。

 アクアがベルディアの話を聞き、悔しそうに歯をギリギリと鳴らすのに、飛びかからないのはアンデットナイトで嫌な目に遭ったから。

 私は一歩前に出る。

 

「レイム?」

「奴の話に乗って、一人で戦うことはない。むしろ奴の狙いは」

「黙って見てなさい。今からとっておきを見せてあげるから」

 

 更に前に一歩出ると、ベルディアはどんな魔法が来てもいいようにと避ける姿勢を見せた。

 私は剣を地面に突き刺し、右手を顔より上まで持っていく。

 女神に願う。

 

「女神エリスよ。御身の力で、邪悪な者を浄化したまえ」

 

 精霊のように実体はなく、しかしこの場にいる者全員に見ることができる。

 私の背後にいて、柔らかく暖かな光を振り撒く。

 周りの冒険者だけでなく、ベルディアすらその姿に見惚れ、ここが戦場であることを忘れる。

 一人を除いては。

 アクアはエリスと私を見るとカタカタと震えて、口から気の抜けた声を出す。

 

「あ、あああ……」

《『セイクリッド・ターンアンデッド』!》

 

 アクアの様子に気づかず、エリス様は容赦なくベルディアに神聖魔法を使う。

 

「うぎゃあああああああああああ!!」

「あ、あああああああああ……」

 

 その効果は凄まじい。

 ベルディアを光が包み込み、私の魔法とは比べものにならない勢いでダメージを与える。

 女神の一撃を食らい、それなのに耐えたのは、魔王の加護のおかげね。魔王の加護強すぎ。

 だけど、エリス様の攻撃が通用してるなら、浄化されるまでやめない。

 

《アンデッドの分際で私の神聖魔法に耐えるとは、生意気ですよ! 滅ぼしてやります!》

 

 そんな物騒なことを言う世界一の女神様に私はギョッとした。そんなこと言う女神様には見えなかったんだけど……。

 ちなみにエリス様の声はダクネス達には聞こえていない。

 アクアはよくわかんない感じになってるから確かめようがないけど。

 どうしたんだ、こいつ。

 エリス様を泣きそうな顔で見るなんて。

 

《『セイクリッド・ターンアンデッド』!》

 

 ベルディアは持てる力全てを注ぎ込むような回避を見せた。

 私も魔法を使って動きを封じようとした時だった。

 

「ふざけんじゃないわよおおおおおおお! 私が、この水の女神アクア様がいながら何他の女神呼んでんのよ! エリス、あんたもあんたよ! 私の座をとろうっての!? それなら後輩だろうと容赦しないわよ!」

《ち、ちちち違いますから! ベルディアを倒すために力を貸してるだけで》

「あんなくそアンデッドが何よ! 『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

「ひあああああああああああ!?」

「ほら! 私一人で倒せるんだから帰って! 久しぶりに顔見れて嬉しいけど帰って!」

 

 泣きながら怒るアクアにエリス様はあたふたする。

 ここまで怒るとは思わなかった。

 というかさり気にデレなかった?

 アクアの浄化魔法を食らったベルディアは地面をごろごろと転がっていて、とても幹部には見えない。

 あと一発エリス様に浄化魔法撃ってもらえたら行ける気もするのに……。

 このばかが……。

 待って、エリス様がだめでも私なら。

 神の力を借りちゃえ。

 

「エリス様、お力をお借ります」

《えっ? あ、はい》

「女神『夢想封印』!」

 

 この私に経験値を!

 私個人で放つのとはわけが違う。

 神の力、それも世界一の女神の力が今の夢想封印にはある。

 凄い。

 光弾一つ一つにかなりの力を感じる。

 これが世界一の力なのね。

 アクアとエリス様の魔法で弱っていたベルディアに私の夢想封印が炸裂する!

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 全弾命中したベルディアは、断末魔を上げて消滅した。

 すかさず私は冒険者カードを取り出してレベルを確認する。レベル3とある。

 ついに私はレベルアップしたのだ。

 レベルが上がりにくいからなのか、ステータスは凄い上がってる気がする。

 へえ、レベル上がるとこうなるのね。

 中々いいわね、これ。

 冒険者カードを見る私の耳にアクアの泣き声が入ってくる。

 

「うわあああああああ! レイムが、レイムがエリスの力借りて倒したー!」

《ま、まあまあ、魔王の幹部ベルディアを倒したからいいじゃありませんか。先輩も凄かったですよ。力が落ちてるはずなのに、あそこまで強い魔法を使うなんて》

「うううー。私が、私が倒すつもりだったのに」

《もう泣き止んで下さい。いつもの先輩が一番ですから》

 

 どっちが先輩かわかったものじゃない。

 冒険者カードをしまい、先輩後輩女神を眺める。

 どうしよう。

 私がやらかした感がすっごいする。

 だけど敵を倒すためだから仕方ないし。

 

《レイムさん》

「は、はい!」

《神降ろしはもうしないで下さいね》

「で、でも、これからも強いのが出るかも」

《だめです。もう先輩を泣かせたくありません》

「いいわよ、エリス! もっと言って! 神がいるのに他の神の力を借りた不届き者を叱って!」

 

 エリスが自分の味方になると、途端に攻めてくるアクアに本気で苛ついた。

 

「あんたが普段からもっと役に立ってればこんなことにはならなかったのよ! 何が女神よ! 自称すんのもいい加減にしなさいよ!」

「わあああああ! レイムが言っちゃいけないこと言った! いいわ! それならレイムに女神の力見せてやるから!」

「やれるもんならやってみなさい!」

 

 レベルが上がったことで目標が達成されたからか、急にこいつに今まで苦労かけられたのが腹立たしくなってきた。

 

「ソードマスターだからって私に勝てると思ったら大間違いよ!」

 

 互いの手を掴み、主導権争いをする。

 アークプリーストのくせに意外な力を。

 だけど、レベルアップした私は筋力が上がった。

 

「あははははは! どうしたのアクア? そんな弱っちいんじゃ私には勝てないわよ」

「やだあ。レイムさんったら、忘れたの? 私には支援魔法があるのよ」

 

 そう言って自分に支援魔法をかけた。

 

「ちょ、ちょっと! 卑怯よ!」

「あれえ? レイムちゃんってこんなに非力だったのかしら? あー、ちっとも相手にならなくて困るわねー」

 

 アクアに地面に押し倒される。

 わ、私がこんなぱちもん女神なんかに!

 私の上では、勝ち誇ったように笑うアクアがいて……。

 支援魔法強すぎでしょ!

 

「さあ、ごめんなさいと言いなさいな! それだけで許してあげるわ!」

「誰が言うもんか! あんたみたいなぱちもん女神に謝るわけないでしょ!」

「ず、随分と強気のようだけど、私の勝ちよ!」

 

 アクアの力が強すぎて、腕が上がらない。

 体勢の悪さもあるんだろうけど。

 こんな奴に……負ける?

 

「アクアに負けるぐらいなら蛙に食われた方がいいんだけど!」

「ちょっと、それどういうことよ!」

「お前達いい加減にしろ!」

 

 怒号が私達に降る。

 喧嘩する私達を止めたのはダクネスだ。

 アクアの襟首を掴んで私から引き剥がす。

 ダクネスが来なきゃ負けてたなんて……。

 一生の不覚なんだけど。

 

「エリス様が見られているのに何をしてるんだ、お前達は!」

 

 そう言われて、アクアと一緒にエリス様を見れば、右頬を指で掻きながら苦笑している。

 エリス様は私を見ると。

 

《レイムさん。やっぱり私よりも先輩の方があなたにはお似合いですよ》

 

 どうしてそんなことを言うのか私には理解できなかったけど、アクアと喧嘩して疲れたから何も言わないことにした。

 

《それでは私は帰りますね。先輩、レイムさん魔王討伐頑張って下さいね》

 

 最後に女神の微笑みを見せて、エリス様は天界に帰還された。

 光となりて、天に昇っていく。

 エリス様が去ったあとも、残された私達は暫し光が昇った場所を見上げていた。

 そして、私は悲しみを乗せて言った。

 

「今までの修行全部無駄じゃない……」

 

 最悪だった。

 何のために神降ろしを鍛えたのか……。

 

 

 

 ギルドに戻ってきた私達を職員の皆さんは緊張の面持ちで見てくる。

 よく見ると、視線はみんなではなく、私に集まっている。

 ベルディアがどうなったのか聞きたいのね。

 ダクネスとめぐみんが私の肩に手を置いて頷く。

 アクアも肩に手を置きたかったらしいが、二人に先を越されて、どうしようか悩んだあげく、私の頭に手を置いた。どや顔で。

 殴りたい。

 殴りたいけど我慢しよう。

 私は代表するように前に出て、戦果を伝える。

 

「倒してきたわよ」

 

 その一言をきっかけに、ギルド内は歓声でいっぱいになる。




次はどうしようか。
ミツルギは……気分次第ですかね。
本当は借金させようかと思ってたんですが、こうなりましたし。
リッチーかな……。

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