調子がよかったのか。
それはわかりません。
強いモンスターをバンバン狩ろうとか言って盛り上がってためぐみんとダクネスだったけど、一晩寝て冷静になったのか、あまり危険な依頼は避けようと私に言ってきた。
どうやら全滅する危険に気づいたらしい。
アクアにはこの二人が話をして、説得を済ませている。
私は経験値を稼げなくてがっかりしたけど。
最初は簡単なのから。
そういうわけで私達は、町から外れた丘の上にある共同墓地に出るゾンビメーカーと呼ばれる雑魚モンスターの討伐依頼を請けることに。
ダクネスの鎧はキャベツ収穫の時に傷んでしまい修理に出しているので、危険が少ないものをと選んだ結果これになった。
アクアの実力なら余裕なのは確かだし、カンストしてるので間違っても負けることはない。
しかし、今回戦闘するのはアクアではなく私だ。
御札を試してみたい。
魔法を込めたものではなく、幻想郷で悪霊や妖怪などを祓ってきた御札を試したい。
ちなみに魔法を込めた御札は正常に作動した。
幻想郷でできたことは今のところ問題なくできてるから大丈夫だと思うけど、確認しておく必要はある。
準備万端で私達は墓地の近くで夜を待っていた。
ついでに夕食もここでとることにし、それぞれ弁当を持ち込んだ。
シートを敷いて、持ち込んだ弁当を食べながら。
「それにしてもまさかアクアではなく、レイムが倒すと言うとは思いませんでしたよ」
「そんな大したことじゃないでしょ。駆け出しでも簡単に倒せるみたいだし」
「程度の低いゾンビとはいえ、油断はしない方がいい。何があるかわからないのだから」
「大丈夫よ! もしレイムがピンチになっても私が助けたげるから」
胸を強く叩くアクアに、あんたの出番が来ないようにするからと返して、私はお茶を飲んだ。
ゾンビメーカーは質のいい死体に乗り移る悪霊で、手下代わりに数体のゾンビを操るモンスターらしい。
死体を壊してもゾンビメーカーは新しい死体に乗り移るだけだから、死体を攻撃しても効果はない。
悪霊退治は専門分野だから、むしろ楽勝だ。
頭叩き割ってやる。
そういうわけだから私達に緊張というものはなく、余裕たっぷりで待つことができた。
月が昇り、深夜を迎えた頃。
この時間ともなると冷えてきて、肌寒さを覚える。
そろそろ敵も来た頃だと思い、私達は墓地へ移動することに決めた。
「ねえ、何だか大物アンデッド出てきそうな予感がしてきたんだけど」
「それならそれで経験値稼げるからいいわ」
「レイム、倒すつもりなの? 流石に大物アンデッドは私でないとねえ?」
「昔住んでた場所だと私は悪霊祓ったり、神霊を祓ったり、そういうのやってきたのよ。たかがアンデッドなんかに負けるわけないから」
アクアより強いであろう妖怪や仙人に囲まれていたので、正直アクアが倒せる程度のモンスターに負ける気がしない。
私の話にめぐみんとダクネスはどういうことなんだと疑問に思っているみたいだが、それは見せた方がはやいので語らない。
私はどんどん進んでいき、墓場の中心に青白い光を見つけた。
来たわね。
「あんたらはここで待ってなさい」
青い光を放つ大きな魔法陣。
深夜の雰囲気もあってか、どこか幻想的なものを感じさせる。
その魔法陣の隣には黒いローブを来たゾンビメーカーがいる。
取り巻きに四体のゾンビがいる。
雑魚モンスターなのに、あんな大きな魔法陣を展開できるなんて。
あれのどこが駆け出し冒険者でも倒せるというのか。完全に嘘じゃない。
でも、相手が何だろうと倒すまで。
私は御札を取り出し、はじめに四体のゾンビに投げつける。
御札はゾンビの額に貼りつくも……。
何も起こらない。
「これはだめなのね……」
まさかアンデッド相手に効果なしとは。
相手が妖怪じゃないから効かないのか、それとも精神的ダメージは意味ないのか。
幻想郷でも能天気な奴には効きにくかったけど……。それが関係してる? 幻想郷式のは知られてないから、それで効果がないとか?
或いは幻想郷式では何も発揮しない?
理由は不明だが、それなら他にも確認しなくては。
「『夢想封印』」
スペルカードなんてないのだから宣言しなくてもと思ったが、宣言しとけば魔法と思われて余計な詮索はなくなるはず。
色とりどりの光の弾がゾンビメーカーの取り巻きのゾンビに降り注ぎ。
「これは効くと。わっけわかんないわね」
ゾンビは跡形もなく消し飛ぶ。
この私が放つありがたい光をゾンビが耐えたら、それはそれでショックなんだけど。
ゾンビメーカーは驚いた様子で私と向き合う。
質のいい死体に乗り移るとは聞いていたが、それにしてはやけに質がいいような。
さっき死んだばかりではと思うほどのものだ。
見た限り、茶髪の美しい女性だ。
死んでるようには見えないが、それも作戦かもしれない。
ゾンビメーカーは少し怯えの入った声で聞いてくる。
「あ、あなた誰ですか?」
「誰ってあんたを退治しに来たソードマスターよ」
ゾンビメーカーは強い警戒を見せており、右手をこちらに向けている。
魔法でも使うつもり?
ますます雑魚モンスターからはなれていくゾンビメーカーに私は剣を構える。
私が戦うのをやめないと見て、ゾンビメーカーの視線は警戒から戦意へと変わる。
「私は無駄な戦いは好みません。できれば話し合いで解決したいのですが」
「それは無理ね。大人しく退治されなさい」
「私はここでやられるわけにはいきません! 『ライトニング』!」
「『霊夢式ライトニング』!」
雑魚モンスターのくせに中級魔法を使うとは!
だけど、私の魔法は上級魔法級。
七色に輝く雷が疾走する。
霊夢式ライトニングは敵の魔法を軽々と破り、勢いそのままに敵を貫こうと駆ける。
この時には敵は回避に移っていた。
私の魔法の威力を見た瞬間に判断できていなければ、そんなにはやく動けない。
こいつ……できる!
「『霊夢式ライトニング』」
「このはやさ……。ただのソードマスターではないようですね!」
「ちょっと、何か面白いことになってるんですけど!」
「というか、あれ絶対にゾンビメーカーじゃないですよ!」
「何者なんだ、奴は。レイムも何者なんだ。何で魔法を使えるんだ」
うるさい。
静かにしててほしい。
巻き添え食らっても知らないわよ。
私とゾンビメーカーは狙いを絞らせないように姿勢を低くして、墓石で姿を隠しながら動き回る。
あいつの口は休むことなく動いている。
それに強い魔力を感じる。
ライトニングより上の魔法を使うつもりね。
なら私は、相手以上の魔力で魔法を使うまで!
「『カースド・ライトニング』!」
「『霊夢式ライトニング』!」
七色の雷と漆黒の雷がぶつかり合う。
上級魔法同士の衝突ともなれば、どちらの実力が上かよくわかる。
二つの雷は互いに押し合い、破れることをよしとしない。
そうして二つの雷はその場に止まり続ける。
やがてぐにゃりと大きく歪んで。
「うわっ!」
行き場を失った魔法は爆発を起こした!
規模はそこまで大きくない。小さなものだ。
その爆発による視界と聴音の妨げを利用して、ゾンビメーカーは次の魔法を使おうとしていた。
魔力がどうではなく、空気が冷えるのを感じ、嫌な予感がしたので地面を蹴った。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
ゾンビメーカーの右手から私のいた場所まで凍結される。
巨大な氷が眼下にあり、あれを食らっていたら命の危険があった。
今ので決まったと思ったのか、ゾンビメーカーは胸に手を当てて、悲しげに言った。
「すみません……。そこにお仲間の方はいるのでしょう? すぐに助ければ」
「その必要はないわ。勝手に負けたことにしないでちょうだい」
「っ! いったいどこから……。まさか!?」
辺りを見ても私を発見できなかったゾンビメーカーは顔を空に向けて、私を見つけた。
私を見つけると、信じられないとばかりに固まり、瞬きさえ忘れて私を見つめている。
「出たあ! レイムの飛行よ! 相手は死ぬ!」
「ど、どどどどどどうなってるんですか!? 人が空を飛ぶなんて!」
「魔法、なのか? だが、あの一瞬で使えるとは、思えない……。奇蹟だ……」
「さあ、続きと行きましょうか。ゾンビメーカーさん」
「まさか、空を飛べるとは思いませんでしたよ。不思議なソードマスターさん。……今、私のことゾンビメーカーって言いました?」
「言ったけど?」
蛙のような雑魚モンスターとは格が違うが、それでも相手はゾンビメーカーという雑魚モンスターだ。
それにしては森の悪魔より強い感じがするけど、ギルドのお姉さんが雑魚モンスターと言ったから雑魚モンスターなんだ。
たまたま強い個体を引き当てただけで、本来はもっと弱いんだろう。
経験値美味しいです。
「私はゾンビメーカーではないのですが……」
頭のおかしいことを言ったかと思えば、突然走り出した。
逃げるつもりね。
そんなことはさせない。
私はゾンビメーカーを追いかける。
相手は二回ほど私の位置を確認し、墓地からはなれた場所まで来ると立ち止まり、振り返ると同時に私に右手を向けた。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
ゾンビメーカーの足下から私に向かって長く太い氷の柱ができあがる。
相変わらずとんでもない魔法だ。
墓地にいた時よりも私との距離は開いているのに、できあがった氷の柱は一発目のものより強力なものに見える。
当たったらヤバいわね。
「空中を自由に移動できるのは、やはり強いですね」
「そうね。ほとんどの攻撃は避けられるわよ」
「ですが。私は引退する前は数多くのモンスターと戦ってきました。空を飛ぶ敵との戦闘経験はそれなりにあります」
「ふんっ。口だけじゃないの? ゾンビメーカーさん」
「ゾンビメーカーではありません。私はアンデッドの王リッチーです!!」
「リッチー? アンデッドの王?」
これは大物モンスターではなかろうか?
まあ、私もおかしいとは思ってたけど、まさかアンデッドの王なんてね。
「まあいいわ。むしろちょうどよかった」
経験値美味しいことになるわね。
リッチーと聞いても怯まず、むしろ好戦的になった私をリッチーは何も言わずに見据える。
奇襲を仕掛けようとしているようには見えない。
私という人間を測ろうとしているつもり?
私を見つめたまま、右手を上げて。
「リッチーと聞いても恐れを全く見せないとは。かといって勇気を出しているわけでもなく。不思議な人間ですね。……そろそろはじめましょうか」
「そうね。リッチーだか何だか知らないけど退治してくれるわ」
お互い、無意識に魔力を高めていたと思う。
戦うつもりはないと言っていたリッチーも血が騒いでしまったのか、やる気満々の様子。
もしかしたら闘争本能が刺激された結果かもしれないが、そんなつまらないことはどうでもいい。
私はただ退治するだけのこと!
「『インフェルノ』!」
巨大な炎の波が空中を突き進み、私を飲み込もうとする。
飛べない時なら、この魔法を避けるのも一苦労したかもしれないが、空を飛んでる今なら一方向からしか来ない攻撃を避けるのは簡単だ。
余裕を持って回避したが、炎から放たれる熱が肌を撫でる。あと少し近かったら火傷していたかもしれない。
しばらく出番がなさそうな剣は鞘に仕舞い。
「風よ、火よ」
右手には炎を。
左手には風を。
霊夢式ライトニングとは違い、他の属性は完成に至っていないが、そんなことはどうでもいい。
炎の塊をリッチーに投げつけ、続けて風の塊を投げつける。
「『トルネード』」
私の魔法は竜巻に飲み込まれ、姿を消す。
竜巻は周囲の草やら土を巻き上げる。
巻き上げられたものは竜巻の頂点から吐き出され、地面に落下していく途中でまた巻き上げられたりと繰り返している。
私が竜巻に巻き込まれたら、吐き出される前にバラバラになりそう。
さっきから強力な魔法しか使ってこないリッチーに流石はアンデッドの王と気持ちを抱く。
どっかの女神にもあれぐらい威厳があれば。
生半可な魔法ではダメージは通りそうにない。
もしかしたら魔王の幹部より強いんじゃないかしら、あれ。
空を飛べなきゃ、かなり危険なんだけど。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
微かに聞こえた魔法を唱える声に、私は咄嗟に上へ逃げた。
一瞬遅れて氷が走る。
「どこから……」
先ほどより高い場所に来て、やっとわかった。
相手は空を飛べないからと、地上ばかり見ていたが、上手くやられてしまった。
あのリッチー、トルネードを利用して空へ飛び上がってきたのだ。
そんな使い方をするとは思わなかった。あの竜巻は自分が耐えられるように威力を調整してありそうだ。
しかも竜巻のせいで声が聞き取りにくいのもあり、どこにいるのかはっきりしなかった。
その場にいるのは危険と判断して、更に高い場所へと飛んで回避したわけだけど。
「今のを避けますか……」
空中を凍結させ、できあがった氷は橋のように見えなくもなかった。
氷の橋は重力に従って地上へと落下していく。
そこへリッチーは竜巻から出た時の勢いを利用して飛び移る。
竜巻を見れば、はじめの勢いはなく、もう少しで消え失せてしまいそうである。
氷の橋に乗ったリッチーは私に右手を向け。
「『ファイアーボール』」
それはゆんゆんが使ったものよりも大きく、直撃すれば一溜まりもない。
しかし、インフェルノやトルネードに比べたら小さなものなので、しっかりと見極めれば避けるのは容易い。
私がファイアーボールを避けてすぐに、氷の橋は地面に衝突し、ガラスが砕け散るような音が盛大に響き渡る。
風が草を揺らす程度の音しかなかったこの場所では大音量とも言えるほどで、どんなに遠くにいても聞こえると断言できるほどだ。
砕け散った氷が大地に散乱していて、そこにリッチーは何事もなかったかのように佇み、私を見上げていた。
あの程度の衝撃は苦でもないらしい。
どんな体をしてるんだと思いつつ、リッチーを見据える。
「そろそろ終わらせるわ。『夢想封印』!」
「これは……神聖な光!? こんなことまでできるなんて!」
夢想封印はリッチーでも食らうわけにはいかないらしく、迫り来る光弾を辛うじてかわしている。
慌てた様子を見せたわりには、随分と冷静に対応できている。経験豊富なのは嘘ではないみたいだ。
それでもこれなら勝てる。
「『夢想封印』!」
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
右手を左から右に振り、巨大な氷の壁をつくり、夢想封印を防いでみせた。
攻撃魔法を防御に用いるなんて……。
咄嗟の機転でピンチを脱する。
流石経験豊富なだけある。
だけど、空を飛べる私は簡単に背後に回ることができる。
突然の攻撃に警戒しつつ、背後をとろうとしていたら、リッチーが意外なことをする。
「ここまでですね……『テレポート』!」
「はっ!?」
逃亡。
慌てて氷の壁の裏側を覗き込むが、そこにリッチーの姿は見当たらず。
あいつ、本当に逃げちゃった……。
せっかく勝てそうだったのに!
こんなことって……。
地上に降りた私はガクッと肩を落とした。
あんなに頑張ったのに逃げられるなんて。
いつになったらレベル2になれるのかしら。
もしかして、今回みたいに倒す寸前で毎回逃げられるのだろうか?
そんな嫌な考えが頭にちらつき、それはないわよねと不安になってきた。
「レイム、大丈夫!?」
「だ、大丈夫よ。そんなに見なくても」
心配したアクアが私の体をあちこち見る。
ペタペタ触るもんだからくすぐったい。
笑いを堪えるせいで口元がひくひくする。
私の気持ちを知らないアクアは。
「怪我はないけど、アンデッド臭いわね。放っとくと臭くなる一方だからはやく帰って着替えた方がいいわよ!」
「臭いって言わないで!」
これでも女の子なので、臭いと言われるのは少しばかり心に来る。
……誰でも臭いと言われたら嫌なんじゃ?
本当にどうでもいいことに気づいてしまった。
未だに私の体を触るアクアを剥がして、私はめぐみんとダクネスを見る。
私の視線に気づいた二人は怯えた様子で私から顔を背ける……なんてことはなく、むしろ興味津々といった様子で擦り寄る。
「いつから空を飛べるんですか!?」
「なあ、空を飛ぶというのはどんな感じなんだ?」
どうして空を飛べるんだ! とか言わずに質問してくるとは思わなかった。
もっと言えば二人は私を怖がってるようには見えない。
「あんたら、私が怖くないの?」
「怖い? もしかして空を飛べるからとか? そんなわけないじゃないですか。空を飛ぶというのは夢の一つですよ! 飛び方を教えて下さい!」
「私としては怖い方が助かるというか、嬉しいというか……」
めぐみんの話は理解できる。
ダクネスの言葉は理解できない。
助かるとかどういうことなの?
頬をうっすら赤らめて、息を荒くするダクネスに私は引いた。
アクアも交じって、質問攻めしてくる三人に、答えるのが面倒な私は街に向かってダッシュした。
リッチーと戦った翌日。
私は報告のためにギルドに来ていた。
今回の場合はどうなるのか?
そこが疑問だ。
そもそもゾンビメーカーではなく、大物モンスターのリッチーだったから失敗にはならないと思うけど……。
受付のお姉さんに昨日のことを話す。
「すみません。ゾンビメーカーの依頼なんだけど」
「はい。レイムさんなら簡単に達成できましたよね?」
「それがね? ゾンビメーカーじゃなくてリッチーがいたのよ」
「……リッチー? あのリッチーですか?」
お姉さんが何を言ってるかわからないって顔になる。
「アンデッドの王のリッチーよ」
私の言葉を聞くと、お姉さんは間抜けな顔から真剣な顔つきになり、メモを手に詳しく聞いてくる。
「リッチーは例の墓地に出たんですね?」
「ええ」
「何をしてたかわかりますか?」
「さあ。大きな魔法陣を展開してたけど、何をしてたかまではちょっと……」
「ふむ。どうしてリッチーとわかったんですか? 通りすがりの魔法使いの可能性もあるのに、どうしてリッチーだと?」
「相手が私はリッチーですって言ったからよ」
私の言葉にメモをとっていた手がピタッと止まり、動揺してるのかメモ用紙と私を何度も交互に見て、最後には私の服を掴んで、ヒステリック気味に聞く。
「は、話したんですか!? リッチーと!」
「そのあと戦ったわ」
「戦ったんですか!? あのリッチーと!」
驚きから立ち上がり、私に顔を近づける。
私はお姉さんの肩を優しく押して距離をとり、話を進める。
「ええ。ゾンビメーカーと勘違いして戦ったのよ。最初はどこが雑魚モンスターなのと思ったわ。上級魔法バンバン使ってきたし」
「すぐに気づきましょうよ。ゾンビメーカーに上級魔法なんて使えるわけないですよ。というか中級だって無理ですよ」
「周りにゾンビいたからてっきり」
「いても普通は気づきますからね!」
何だか私がおかしい感じになってるけど、あんな風にゾンビを取り巻きに置いてたら誰だって勘違いすると思うの。
だから私は普通よ。
「あれは勘違いするわ」
お姉さんは私の言葉を聞くと、
「意外な一面を見ました」
と言って、続きを求めてきた。
「それでリッチーはどうなったんですか?」
「逃げられたわ。テレポートとかいうの使って逃げたわ」
「逃げられた? レイムさんが逃げたのではなく、相手が逃げたんですか?」
「そうよ。あと少しだったんだけどねえ」
アクア達からリッチーについて聞いたが、リッチーは秘術で人であることをやめた魔法使いらしい。魔術を極めたと言えるほどの実力者でなければリッチーになれないとか。
リッチーは触れた相手に様々な状態異常を引き起こしたり、体力と魔力を吸収することもできる。
しかも魔法効果のない物理攻撃は完全無効、その上高い魔法耐性もある。
魔法の腕は語るまでもない。
正真正銘の化け物だ。
もしも剣で戦っていたら、私は為す術もなく敗れていただろう。
魔法覚えといてよかった。
「強い強いとは思ってましたが、まさかリッチーを退けるほどとは思いませんでしたよ。……お願いを聞いてもらえます?」
「お願い?」
「ええ。街の北には今は使われなくなった廃城があるのですが、そこに魔王の幹部が住み着いたとの情報があるんです」
「そんなのが何でまたアクセルに……。っていうか、ここ本当に駆け出し冒険者の街なの? 悪魔、リッチー、幹部、色々おかしい気が……」
「気にしたらだめだと思います。私も最近は変だと思ってますけど、そこは触れないで下さい」
どうやらお姉さんも思っていたみたい。
本当なら初心者殺し超怖いと言うのが駆け出し冒険者であり、その冒険者が集まる街がここなんだけど、最近はどうにも釣り合わない大物が次々来てる。
今回みたいな事態に備え、そろそろ高レベル冒険者を何人か置いておけばいいのにと思ったり。
「話を戻しますね。今回来たのはベルディア。この幹部はレイムさんが退けたリッチーと同じアンデッドです」
「ふむふむ。で、そのベルディアはどんなことしてくるのかしら?」
「ベルディアは、デュラハンと呼ばれるアンデッドモンスターで、剣の腕もそうですが、一番恐ろしいのは死の宣告になります。これは、例えば一週間後に死ぬと宣告されたら一週間後に死にます」
「なるほどなるほど。それって解除できないの?」
「残念ながら、ベルディアの死の宣告を解けるほどの方はいません」
お姉さんはこれを食らったら終わりと付け足して、顔に影を落とす。
お姉さんを見てると、死の宣告で多くの冒険者がやられたんだとわかる。
倒せば解除されるなら、死の宣告を無視して倒しに行くんだけど……。
「倒しても解けないの?」
「倒せば解けるはずですが……」
「うん。それなら倒しに行くかな」
倒して経験値をもらおう。
リッチーでお預けを食らった私は、ほしくてほしくて堪らない。
はやく、はやくレベル2になりたい。
幹部ともなれば大量の経験値があるわよね?
そうでないと困るんだけど。
「た、倒しに行くつもりですか!?」
「まあね。準備が整ったらそうするわ。てか、それがお願いじゃないの?」
「私は調査だけをお願いするつもりだったんですが」
「それじゃだめよ。経験値もらえないじゃない」
「け、経験値ですか……。もしかしてまだレベル1のままなんですか?」
「リッチーで2になるはずだったのよ」
項垂れる私にお姉さんはどうしたらいいかわからないようで、目を逸らした。
「あまり無茶はしないで下さい。いくら強いと言っても無理は禁物ですからね」
「大丈夫よ。ヤバくなったら逃げるから」
話を終えた私はやることを考える。
まず戦闘に使える魔法を増やす。雷以外は使いやすさは同じぐらいだから、どれでもいいが、火を鍛えてみよう。余裕があれば風もやろう。
私にはリッチーを恐れさせた夢想封印があるが、それだけに頼るのは危険だ。
三つの魔法、御札を揃えてベルディアを滅する。
そして、今度こそレベル2になる!
そろそろ霊夢が経験値狂いのソードマスターと呼ばれるかもしれませんね。
次回予告。
どうも、異世界の素敵なソードマスターよ。
次のお話では私はベルディアと戦うことになるわけだけど、不安はないわ。
それよりもあのリッチーどこ行ったのかしら?
見つけたら今度こそ倒そうと思うんだけど……。
そういえばあいつの氷の魔法は凄かったわね。
攻防一体の魔法って便利だと思うの。
ベルディア倒したらつくってみようかしら。
あっ、でも御札もあるのよね。
やること山積みで嫌になるわ。
次回 ベルディア倒される!