君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
4人は四葉の作ったパスタも完食し、食器洗いも済ませ、ひと段落していた。時刻は午後1時30分。ついに実行の時が来た。三葉を除く克彦と早耶香と四葉の3人が急に改まる。そして全員が三葉を凝視する。
「み、みんな急にどうしたんよ。」
克彦が返す。
「実はな、今日ここに来たんは俺らの結婚を報告することだけやないんや。」
早耶香が継ぐ。
「実は昨日、私見てしもうたんよ。満面の笑みを浮かべながらスキップしてたん。」
「な、なんのことやろな………?」
三葉はしらばっくれるが、それくらいで3人が納得するわけもない。四葉が人差し指を額にあてて部屋をゆっくり周回して某異色刑事ドラマの主人公の警部補のモノマネをしながら質問する。
「宮水三葉さん」
「はい。」
「あなたは火曜日に何かがありましたね。」
「は、はい……。」
「彗星が落ちてから今まで何かを探し求めていた。その何かを見つけたんですね。」
「えっ……」
「それはズバリ瀧さんですか?」
「………………はい。」
その名前、どっかで聞き覚えあるなと思いながらも克彦が口を挟む。
「ま、待てい。その瀧っちゅうのを四葉は知っとんのか?」
無視すると見せかけてモノマネを続行しながら答える。
「あなたは火曜日、急に夕食を食べるから遅くなると連絡してきた。いくらなんでも遅かったので電話をかけたところ出たのが瀧さんです。さらにウチの最寄り駅まで完全に世の男を煽るレベルまで酔い潰れた宮水さんを送ってくれました。2人でお食事なさってたんですか?」
「うぅ……やな事思い出させんとってよ〜」
「どうなんですか?」
「…………そうです。」
「ここでお尋ねします。瀧さんとはいつどんな風に出会ったんですか?」
早耶香と克彦が身を乗り出してくる。
「さあさあ宮水三葉さん、話していただけませんかね〜。」
「隠し立てしてもためにならんからのー」
前者が早耶香、後者が克彦である。完全に面白がっている。
「そんなに面白がらんでよ〜」
「いいや、一親友としてここは譲られんなあ」
克彦が完全に揶揄い口調で切り返す。
「うぅ〜〜」
「では質問を変えましょう。瀧さんとはデキてるんですか?」
なおも渋る三葉に今度は早耶香が追い打ちをかける。
「三葉ちゃ〜〜ん、答えたくなかったら別にええんよ〜〜、答えたくなるまで付き合うたるから。」
ここで三葉は悟った。今日のこの4人が集ったこの空間それ自体が三葉に瀧の事を吐かせる巧妙な舞台装置だったのだ。最初から3人の手の平で踊らされている三葉に逃げ場などない。もうこうなりゃ笑われても構うもんか、全部洗いざらい白状してやらあーー!
「……デキてます。」
決意の割には声が小さすぎる。全員が聞き返してくる。
「えぇ、何て?」
「やーかーらー、瀧くんとは恋人同士です!!」
盛大に笑われるのを覚悟していた。だが、その反応は逆に三葉が困惑するほど暖かいものだった。早耶香などはすでに涙腺が決壊していた。
「三葉ぁ〜〜、良かったなぁ〜〜。」
「三葉もええ人にようやく出会えたんかぁ。」
「ねえちゃん………。」
「ま、待ってよ。そんなに私に恋人ができる事が嬉しいん?」
「そらそうや。早耶香も四葉ちゃんもみんな心配してたんや。お前の事。彗星落ちてからあんま笑わんくなるし、手の平見ながらボーっとするようになるし、男も作らんし……。」
「そんな三葉、痛々しすぎて見てられへんかったんよ。だから男の子紹介したりしたんやけど、どんなにええ人でもアウトオブ眼中で。こんなんで三葉の人生終わってまうんやろかってずっと心配してたんよ。」
「でも火曜からのねえちゃんは違う。なんかキラキラしてて安心できる。たまにぶっ飛び過ぎてるけど、前よりは幾分マシやよ。」
「てっしー、さやちん、四葉……。」
三葉の目に涙が溢れてくる。そこには感動だけでなく、自分の近しい人にこれ程までに心配をかけた事への恥ずかしさの成分も混じっている。
「心配かけてごめんね、みんな……。でももう大丈夫やよ。私には瀧くんがいてるから。ちゃんと瀧くんっていう探しものを見つけたから。」
瀧の名前が出た途端……
「そうや、その瀧っちゅう男や。どないなんや。」
「火曜に見た感じやったらそこそこイケメンやったけど、歳は?」
「性格は?っていうかどこまで行ったん?」
さっきまで号泣していた早耶香までもこの変わり身の早さである。やはりこの3人はゴシップが絡むと厄介だ。
「何でそんなにころっといいムードぶち壊すんよ〜。」
「そんなんねえちゃん、男がおるんは大体想像つくねんから、男の情報が気になるやないの。」
「その通りや。三葉をどこの馬の骨とも知らん奴にはやれんからの。見極めは大事や。」
「そうやよ、三葉。ひどい男やったら私がぶちのめしてやるんやからね。」
「何か反論の角度微妙にズレてへん!?」
「さあ三葉さん、この辺りが年貢の納め時だ、さっさと吐いてもらいましょう。」
四葉が急に取調べ中の刑事のモノマネを再開する。今までのらりくらりと追及を交わして(勝手に尋問側の話が逸れたのも幸いして)ここまで難攻不落を誇ってきた三葉城はようやく落城した。
「……名前は立花瀧くん。今年大卒社会人1年目の22歳。」
「と、年下あ〜〜!?」
克彦が意外そうに声を上げる。早耶香も追随する。
「年上がタイプやと思っとったんやけど……」
「でも話してたら同級生みたいなんよ。優しいし。」
「うわあーー、あの堅物で有名やったねえちゃんがのろけとる〜〜!」
「写真あらへんのかい、写真。」
克彦にせっつかれて昨日の別れ際に撮ったツーショットを見せる。
「整った顔立ちしてるんやね。優しそうやし。うん。三葉。この私が太鼓判押す。この人で大丈夫やよ。」
「さやちん……」
「問題ない。三葉を預けるに足るな。お似合いやわ。」
「てっしー……」
「火曜日に襲わんかった時点で私は認めとるよ。」
「四葉……」
「そういえば出会いの事聞いてなかったな。」
三葉は火曜日の朝の出来事を話す。
「まさに運命や!!」
3人のセリフに0.1秒の誤差も生じなかった。
日が傾きかけ、克彦と早耶香は三葉の家を出る。
「三葉、今度は彼氏紹介しろよ。」
「そのうち結婚式の招待状おくるからね。ブーケ、受け取ってよ〜〜」
「さやちんもてっしーもほんまにありがとう。私、絶対瀧くんと幸せになるからね!!」
ラブラブな2人の背中を見送りながら三葉は決意を新たにする。瀧と2人で幸せな未来を掴み取ることを。
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対してこの時刻、瀧の日曜日はまだ開始のゴングが鳴らされたばかりであった。久々に高校時代からの親友の司と高木と3人で飲む予定だったが、司がサプライズゲストがいると言って参加者が4人になる事を唐突に発表した。その4人目とは……
「久しぶりね、瀧くん。」
「半年ぶりですかね、奥寺先輩。」
「もうすぐ奥寺じゃ無くなるわよ。」
「…………ミキ先輩?」
「やっぱり奥寺先輩でいいよ。聞いててこっちが違和感ある。」
そうクスクス笑っている大人の色気を醸し出すこの美人は、高校生の時にバイトで知り合い、糸守行へも同行した3歳年上の奥寺ミキである。就職前に一度話した時に婚約指輪を嵌めていたが、相手が誰なのかは不明である。そんなミキが瀧の微妙な変化にいち早く気づいた。
「あれ?瀧くん、雰囲気変わった?」
「そ、そうですか?」
「何か今まで表情に掛かってたカーテンが取れた感じ。」
「そういえば何か柔らかな感じがするなあ。」
高木が同意する。
「何か最初に瀧を見た時に違和感あったんだ。」
司もどうやら気づいていたようだ。
「じ、実は……」
「実は?」
「か、か、彼女ができました!!」
耳まで真っ赤にしながらそう宣言する。ミキは目を見開き、司は持っていたナプキンを取り落とし、高木はお冷を吹き出しかけていた。しかし、やがて司がしみじみとした様子で言う。
「お前の探し物、見つかったんだ……」
「えっ……」
ミキが付け足す。
「糸守から帰ってきた後、君は何か大切なものを失った感じがしてた。このまま、自分でも分からない何かを追い求めながら生きていくんじゃないかって……心配してたのよ。」
「すみません、心配ばっかかけて……。でも、もう大丈夫です。三葉と2人で幸せになります。」
高木がじっと瀧の事を見つめ、徐ろに口を開く。
「お前、今すごくいい表情してる。今まで笑顔に付きまとってた影も取れた。もう大丈夫だろう。俺から言うことは何もねえよ。」
「高木……」
「あ、彼女の写真ないの?」
瀧はツーショット写真を見せる。
「瀧お前、ずりぃぞ!こんな美人な彼女捕まえやがって!」
「これまた綺麗な人だなぁ。」
「あら、優しそうじゃない。ところで、馴れ初めは?」
瀧は火曜日の朝の出来事を話す。
「てめぇナンパか!?」
「司、男の嫉妬は見苦しいぞ。」
「運命ね。」
反応は三者三様だったが、みんな祝福してくれているようだ。楽しい時間もすぐに流れてゆき、別れの時間となる。
「ちゃんと幸せになりなさいよ〜〜」
「今度は彼女連れてこいよ!」
「またな、彼女、楽しみにしてるぜ。」
「みんな、ありがとう!!」
瀧も決意を固めた。必ず三葉と幸せな未来を掴み取る決意を。
それぞれに対して激動であった日曜日が終わっていく。偶然にも2人とも旧友たちと会うという似た体験をし、同じ決意を固めた日曜日が。2人の恋路はまだ始まったばかりである。
<次回予告>週が明け、これまでよりも明らかに晴れやかな表情で出勤した瀧と三葉。そんな瀧へ、建築界きっての若手のホープから仕事の依頼が舞い込む。
次回 10月9日月曜日午後9時3分投稿 第10話「クロスする出会い 前編」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。