君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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グラチャンバレー男子が閉幕しました。結果は0勝5敗、奪ったセットも僅かに2でしたが、大阪ラウンドになってから良いバレーをするようになっていたと思います。もちろん、ここ一番の勝負弱さなど課題も見受けられましたが、それ以上に収穫の多い大会になったと思います。来年の世界バレー、そして三年後の東京五輪が楽しみです。
では、本編スタートです!


第7話 デート襲来 後編

二人は料理を片付けて、デザートを注文しようとメニューを開く。食い入るようにメニューから目を離さない三葉に瀧が声をかける。

 

「三葉って甘いもの好きなんだ。」

 

「そうやよ。東京に出てくる前はこんなパフェやらスイーツをお腹いっぱい食べるのが夢やったんよ。でも何か変。」

 

「どうした?」

 

「ここのスイーツ、どんな味かわかるんよ。食べたこともないのに。知らない間に来て食べたんやろか?」

 

「そんなの俺がわかるわけないだろ。」

 

「そうやね。」

 

三葉はニコニコしながら話す。やべぇ、可愛い。鼻血出そう。デザートを注文するドサクサに紛れて話題を変える。

 

「そういえば三葉の出身ってどこなんだ?岐阜って前言ってたけど……」

 

三葉の表情が暗くなる。

 

「べ、別に言いたくなかったら良いんだけど」

 

「…………糸守」

 

「えっ」

 

「あの彗星が落ちた糸守やよ。」

 

岐阜県糸守町。2013年10月4日に、1200年周期に地球にやってくるティアマト彗星が地球最接近した際に、核が原因不明の分裂を起こしてその片割れがその地に落下した。結果的に死者はいなかったが、この日、落下地点のすぐ側の地元の神社では秋祭りが行われていた。にも関わらず、何故か町の住人はほぼ全員が被害のなかった糸守高校にいた。偶然にも当時の町長が強引に避難訓練を行なっていたというが、この英断がなければ町の住人の三分の一である500人程度が亡くなっていたとされる。結果、糸守町は立ち入り禁止となり、現在も地道な復興作業が続いているという。

 

「ごめん、変な事聞いて……。」

 

「ううん、良いんよ気にせんで。」

 

「そういえば俺糸守に行ったことがあるんだよな。」

 

「えっ、糸守に!?」

 

「うん。俺が高校生の時だからもう五年前になるのかな。学校サボって親友とバイトの先輩と3人で。でもその時の記憶が曖昧で。2人の話だと取り憑かれたかのように糸守を探したらしいんだけど、何で糸守にそこまで拘ったのか、何をしに行ったのか、何にも覚えてないんだ。気がついたら、山の上で1人で寝てた。今思えばその時からかな、何かモヤモヤしながら生きて来たのは。職場の先輩が言うには、何かを探して生きていた。何か人生つまんなそうだったって。」

 

「私も瀧くんに出会うまでそんな感じやったみたいなんよ。私は彗星落ちてすぐくらいかららしいけど。」

 

デザートが運ばれてきた。三葉はパフェにかぶりつきながら言葉をつぐ。

 

「そう考えたらやっぱり私ら、運命の糸で繋がってるみたいやね。2人とも何かを探して生きてきて、それがお互いやったなんて。」

 

「ほんと、そうだよな……。」

 

瀧はあることを思い出す。

 

「そうだ。俺の家に謎のスケッチブックがあるんだけど、何故か俺の筆跡で、その時には知らなかったはずの彗星が落ちる前の糸守の様子が描いてあるんだ。見てみる?」

 

「…………見たい。」

 

「…………………。」

 

「どうしたん?」

 

瀧が顔を赤らめながら応える。

 

「……自分から言っといて何なんだけど、これって一人暮らしの男の家にうら若き女性が入るって構図になるよな……」

 

三葉は一気に茹で蛸になる。

 

「………そ、そうやね…………ど、どうしようか………」

 

結局何も決まらないままとりあえず店を出る。2人とも顔を真っ赤にして互いに視線を合わせようとしない。だが、三葉は腹を括った。恥ずかしさより、何故かそれを見なければならない気がする。顔は赤いままだが、決然とした表情で瀧に訴えかける。

 

「瀧くん……見せて。瀧くんの家に行くから。」

 

「三葉……。分かった。行こう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二人は瀧のマンションの前に立った。そのシルエットを見た途端、三葉がおもむろに口を開く。

 

「また懐かしい……。初めてやのに。」

 

さらに、三葉はふらっと手を挙げ、中層階のとある一室を指差す。その後三葉が口にした言葉に瀧は驚愕した。

 

「……あそこ、やんね。」

 

「……どうして………!?」

 

三葉の指は、ドンピシャで瀧の部屋を指差していたのである。

 

「何でかわからへん。でもあそこっていうことだけは分かるんよ。」

 

「…………。」

 

瀧は言葉を発することができなかったが、とりあえず三葉を部屋の前まで誘導し、中に招き入れ、リビングに座らせる。お茶を出して待たせている間に、自室からスケッチブックを取り出した。すると、トイレで水を流す音が聞こえた。慌ててリビングに戻ると、三葉が椅子に座ろうとしていた。

 

「ごめん、瀧くん。トイレ借りたよ。」

 

そこじゃない。瀧が疑問に思っているのは………

 

「トイレの場所、わかったんだ。」

 

「…………………あれ、何で私トイレの場所分かったんやろ?」

 

「…………………まあいいや、またゆくゆく思い出すかもしれない。」

 

「すごく疑問が残るけど………」

 

「……とりあえず、これ。例のスケッチブック。」

 

「へぇ、上手やね〜。」

 

三葉はページをめくる。そこには、町の中心にあった、まだ瓢箪型になる前の綺麗な円形の糸守湖が描かれている。今はもう見れなくなった景色に、三葉の心が揺さぶられる。しかし、気になるのはその絵の視点だ。この景色が拝めるのは……

 

「瀧くん?」

 

「何?」

 

「これ、どうやって描いたの?」

 

「よく覚えてないけど、手本を見ながら描いたわけではないと思う。」

 

「ならどうして、宮水家しか入れない山の山頂から見た、彗星が落ちる前の糸守湖が描けるん?」

 

「そ、そうなの!?」

 

三葉はパラパラとページをめくる。

 

「この橋も、この自販機カフェも、糸守高校も……、私の見た通り。手本もなしにここまで再現するなんて……。」

 

「おかしいなぁ……。糸守に行ったのは五年前の一回きりだし、まして彗星が落ちる前の風景なんて写真しか見てないのに……。何で俺はこんな絵を描けたんだ?」

 

「高校の教室の机と椅子の数までぴったりやよ。」

 

「…………俺って変態?」

 

「…………………かもしれへん」

 

瀧はガクッと肩を落とす。

 

「冗談やよ………でも懐かしい。ただの写真とは違う。糸守の息吹が聞こえるみたい。私らはここで生活してたんやって、すっごく感じる。本当に、あの頃の糸守が、この絵には詰まってる…………。」

 

「三葉……」

 

そして、三葉は最後のページをめくる。そこには、驚愕のものが描かれていた。

 

「瀧くん……?」

 

「何?」

 

「何で私の部屋が描いてあるん?」

 

「ふぇっ!?」

 

最後のページの、和室に勉強机が置かれた、何年も慣れ親しんだ部屋。この部屋を知るのは家族と親友二人だけのはずなのに………。驚いたことに、畳の張り方、本棚の本の配置、ハンガーに架かる制服の吊り方まで同じだ。その、あまりにも忠実に再現された自分の部屋に、もう二度と見ることはない部屋に、涙が溢れてくる。

 

「三葉……?」

 

「ありがとう、瀧くん。これがどうやって描かれたかは知らん。けど、ここには私たちがいた頃の糸守が、生き生きの描かれてる。」

 

そして、瀧への想いが溢れてくる。

 

「やっぱり私、瀧くんのことが好きやわ。」

 

瀧は目を見開いた。実は両想いだったのだ。

 

「三葉……。俺もだよ。俺も三葉のことが好きだ。もう離さない。絶対に。」

 

「瀧くん……!」

 

二人は抱きしめあった。お互いの体温を感じ、それだけで胸が満たされていく。すると、瀧が一旦三葉を離し、思い切った様子で言う。

 

「三葉………、お前が好きだ、大好きだ。だから…………付き合ってください!」

 

「……………!」

 

三葉の胸がいっぱいになると同時に、なぜかこうなることが自然であるかのようにしっくりくる。やはり、私が探していたのは瀧くんだった。そう断言できる。

 

「……喜んで」

 

再び二人は抱きしめ合う。そして、どちらからともなく唇が重なった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

瀧は帰っていく三葉を見送る。三葉も、最後まで手を振りながら駅へ向かう。まだ出会ってから4日しか経っていないが、もう瀧も三葉も、お互いのいない生活を考えられない。黄昏時にはまだ差し掛からない時間、燃えるようでかつ暖かな光を放つ橙色の夕焼けが、二人の幸せそうな横顔をこれ以上になく美しく染め上げていた。

第1章 完




<次回予告>ついに恋人となった瀧のことを想像しながら、三葉はルンルン気分で帰路に就いていた。以前とは明らかに様変わりした三葉に呆然とする人影など目にも留めずに………。
次回 第8話「誰がための訪問」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。

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