君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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どうも、かいちゃんです。
明日からグラチャンバレーが開幕します。見ます。以上。
では、本編スタートです。


第5話 見守る人々

目が覚める。寝室の壁掛け時計を見る。まだ5時半だ。三葉はベッドから体を起こした。頭が痛い。そう言えば家に帰って来た記憶が全くない。だが、一応パジャマは着ていた。

 

(そういえば昨日、何してたっけ?まずどうやって家に帰りついたっけ?)

 

確か仕事を終えた後、瀧くんと食事して、ベラベラ喋っている間にどんどん気持ちよくなっていって……

 

「私……まさか酔い潰れとった?」

 

それならこの頭痛も説明がつく。世間一般で言う二日酔いだ。今日はまだ平日で仕事もあるのに……。すると部屋のドアが開く。顔を覗かせているのは四葉だ。なぜかその目は好奇心からか朝早くであるにも関わらずキラキラと輝いている。それはともかく、どうやって私は家に辿り着いたんだ?四葉に率直に聞いてみる。

 

「なあ四葉、私、昨日どうやって帰ってきた?」

 

「覚えとらんの?」

 

「うん」

 

「マジかぁぁ。」

 

「えっ、何が?」

 

「昨日、立花さんって人に負ぶわれて帰ってきたんよ。遅いからあたしが電話かけたら立花さんが出てびっくりしたんよ。んじゃあ酔い潰れたから最寄り駅教えてくれって言われて、駅まで迎えに行って……」

 

「うわ〜、我ながらみっともない。」

 

「ところで、立花さんって誰?」

 

「…………友達?かな?」

 

「何それ?私に聞かんとってよ。とにかく、ご飯できてるから。昨日立花さんが二日酔いに効く食材とか料理、教えてくれたから。今日も会社やろ?シャキッとしいよ。」

 

「ふあい」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三葉は朝食を終えた。確かに、少し楽になった。会社に行く用意をしながら、自分の感情を整理してみる。

 

最初見た瞬間から、心は大きく揺さぶられていた。<探していたのはこの人だ>に加えて、<この人しかいない>とも本能は叫んでいた。実際会って話すと、優しくて気さくでずっと話が続いた。今まで会った人とは違う。多分、精神的な波長か何かが合うのだ。

そして、何よりも誠実なのだろう。多分、瀧じゃなかったら昨日私は食べられていた。四葉も朝食の時に、昨日の三葉は煽ってるとしか思えないくらいの乱れっぷりだったと言っていた。でも瀧はぐっと我慢して私を介抱し、電車賃まで払って私を送り届けてくれた。悪いことしちゃったな。

さらに次の日に気持ちよく出勤できるように四葉に二日酔いに効くレシピを伝授してくれていた。相手のことを第一に考えている、何て優しい人なんだろう。この人をもう離したくない。ずっと一緒にいたい。三葉はそう思うようになっていた。多分、この気持ちのことを、「恋」と言うのだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

<人間、慣れへんことしたらなんか気恥ずかしいな>

 

<どうしたん?急に。>

 

<昨日、柄にもなく後輩の人生相談なんかしてもうた。>

 

<奇遇やな。俺も同期の相談聞いたわ。>

 

<そうや。今週末泊まりに行っていい?>

 

その返事に、堀川はにやけながら返信する。

 

<ええよ。その相談の内容、ゆっくり語り合おうや>

 

<うん。また連絡する。>

 

その返事を見届け、スマホの電源を切る。すると、今日はいつも通りの時間に三葉が出社してきた。

 

「昨日はどうやったんや。」

 

「収穫はありました。でもやらかしちゃったな。」

 

「何を」

 

「酔い潰れて男を煽るレベルで乱れた。」

 

「うわ〜、よう食われへんかったな、お前。」

 

「うん、瀧くんが紳士で良かった。」

 

「瀧くんって、立花?」

 

「何かね、こっちの方がしっくりくるんよ。」

 

「へぇ〜〜。」

 

「でもね、私、瀧くんのこと好きかもしらん。」

 

「ものっそい春来てるやん。」

 

「……来ちゃった。」

 

そう言って三葉はとびきりの、ちょっと恥じらいのまじった笑顔を見せた。掛け値無しで鼻血を吹き出すレベルだ。微妙にムカつくのでやり返してやる。

 

「宮水」

 

「何?」

 

「さっき2回訛った。」

 

「嘘!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝、瀧が出社すると、狩野がニヤニヤしながら携帯をいじっていた。狩野が携帯を仕舞うタイミングで声をかける。

 

「先輩、おはようございます。どうされたんですか、すごく顔がにやけてますよ。」

 

狩野の表情にやや亀裂が入ったが、取り敢えず反撃する。

 

「そう言うあんたもえらい清々しい顔してどうしたん?」

 

「春、ですかね。」

 

「宮水さんと?」

 

「まだ片想いですけど。」

 

そう言って、とびきりの、少し恥じらいの混じった笑顔を向けてくる。くそ、可愛い。微妙にムカついたので爆弾を投げ込んでみる。

 

「今度紹介してよ」

 

「是非!先輩の相談のおかげで自分の気持ちに気づけましたから!想いが通じたら、必ず!」

 

………どうやら不発弾になったようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今朝から姉がおかしい。

四葉はそう思う。

朝食の時は、頭痛が酷かったのか、少し辛そうにしていたが、家を出るときの三葉は明らかに違った。今まで見せたことのないようなとびきりの笑顔で「行ってきます」と言って出て行った。くそ、なんかムカつく………くらい美しかった。同性でしかも身内である妹の四葉でさえ、しばらく見惚れてしまった。非常にその原因を知りたかったが、三葉が会社に出てしまってはもう遅い。非常にモヤモヤしたが、ソファーに座り、適当に朝の情報番組を流しながら少し冷静になって考えてみる。

 

四葉は、間違いなく三葉のことが好きだ。もちろん、恋愛感情ではない。三葉の中に、理想の女性像を見ていた。ちょっと抜けたところがあるけど、しっかり者の三葉。そんな三葉に憧れ、三葉は気付いていないが、私服は三葉のコーディネートを参考にしているし、三葉のような大人の女性になりたいと常々思っている。一時期物凄く変な時期もあったが、それでも三葉は四葉にとって理想の女性であり続けた。さすがに朝起きて自分の胸を揉んでいる姿を見るとそんな気持ちは消し飛びそうになったが。

そして、あの出来事が起きた。三葉と四葉は、東京に移住した。祖母である一葉と父の俊樹は、町の復興のためにまだ岐阜にいる。その、ある出来事を境に、三葉は何かを失った。四葉にもわからない、何かを。

 

そして東京で、三葉はその何かを探していた。笑顔には、何かを失ったかのような、喪失感や悲哀の影が付きまとっていた。そんな三葉が、偽りのない笑顔を見せてくれた。一体何年振りだろう。

 

ーーねえちゃん、探し物、見つかったんやね。ーー

 

妹として、四葉は嬉しく思った。今までの三葉より、今の三葉の方がずっといい。チラッと時計が目に入った。7時54分。

 

「…………やばっ!」

 

学校までの所要時間はおよそ30分。始業は8時30分である。四葉は三葉とは打って変わって非常に焦った表情で、逃げるように家を飛び出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二人が階段で出会った二日後の木曜日。瀧は、盛大に悩んでいた。気持ち的には、今日今すぐ会いたい。だが、明日は金曜日。土曜日は休みであるため、ゆっくり時間が取れる。両方は?いや、流石に引かれるな。そもそも、社会人一年目の俺が交際して三葉を幸せにできるのか?まず交際すら決まってないし。

 

(何てしょうもないことで思い悩んでるんだ、俺。素直になれよ、俺。三葉のこと、好きなんだろ、俺。)

 

瀧は決断した。先ほどの二つの選択肢のいずれでもない。

土曜日、デートに誘ってみよう。

 

 

三葉からの返事はイエスだった。

二人の運命の歯車が、また一つ、大きな音を立てて回る。




<次回予告>何とかデートの約束を取り付けて安心する瀧。一方で誘いのメールを受け取った三葉は完全に恋する乙女状態になってしまう。それを騒動好きの四葉が見逃すはずもなく………。
次回 第6話「デート襲来 前編」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。

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