君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第38話 前哨戦

(古畑任三郎ボイス)

現在日本で制定されている祝日の中で最も地味な祝日はどれだと思いますか?んふふ〜、私は山の日だと思いますね〜。特に学生たちにとっては夏休み真っ只中。しかし、社会人にとってはお盆休みを増やしてくれるありがた〜い休日なんですよ〜。もっとも、私のような警察官には関係ありませんが。

(ここまで)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

8月11日木曜日、祝日であるため学校が空いておらず、三枝もバイトで忙しいため、自分の部屋で勉強することにした四葉に留守番を頼んで三葉は瀧の部屋に向かった。お盆休み初日であり、祝日でもあることからお出かけスポットは混んでいると予想した瀧と三葉は、瀧の家でゆっくり時間を過ごすことにしていた。昼前に瀧のマンションに到着し、瀧お手製の冷製パスタを2人で食べ、後片付けの後にのんびり2人でソファーでくつろいでいた。

 

「なあ、三葉。」

 

「どうしたん、瀧くん。」

 

「俺たちのことなんだけど、絶対なにかあったよな。」

 

「そうやね。」

 

「何なんだろうな。」

 

「何なんやろうね。」

 

休日にどちらかの家で会うときはいつもこんな感じだ。ふと一息ついた時に自分たちの只ならぬ縁について思いを巡らせてしまう。もちろん、答えは出ない。

 

「やめよっか。」

 

「そうやね。」

 

そして2人は映画を見始めた。未来からやってきたサイボーグがその未来での宿敵の母親を殺しに現代にやって来て、彼女を執拗に追い回し、同じく未来からやって来た守護者と壮絶な死闘を繰り広げる、という話である。

約2時間後、嵐の到来を予感させるラストシーンの後にエンドクレジットが流れ始めた。

 

「面白かったな。」

 

「そうやね。」

 

「親父の部屋から無断借用して来た。」

 

「そういえばお盆休みは瀧くんは瀧くんのお父さんと過ごすんやったね。」

 

「まあね。そういう三葉もだろ。」

 

「…………緊張してきた。」

 

「あははははは!早いな!」

 

「そんなん言うても出発は明日やよ!」

 

「まあ楽しんでおいでよ。四葉の彼氏の報告もあるんだしさ。」

 

「それもそうやね。」

 

「それにしても、未来から来たか………。」

 

「どうしたん?」

 

「…………今から超非現実的な話をするよ。いい?」

 

「べ、別にええけど。」

 

「前に組紐の話したの覚えてる?」

 

「覚えてるけど………。確か瀧くんのお父さんが来る前の日やったよね。」

 

「そうそう。あの時、可能性として全く同じ紐が同じ時代に二本存在したかも知れないって言ったじゃん。」

 

「あったあった。」

 

「こう考えれば辻褄が合うんじゃないかな?つまり、三葉が東京に行った時に何らかの形で俺に組紐が渡った。それを3年間俺が持っていて、逆に俺が高3の時に糸守に行った時に紐が…………その…………タイムスリップして三葉のところへ帰っていった、みたいな………。」

 

「そんなことあるわけないやん。でも…………ロマンチックやね。」

 

「そうだな。」

 

結果として瀧はかなり事実に近いことを推測(というより想像)しえていたが、そんなことを知る由は瀧と三葉には存在しなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌8月12日、三葉と四葉は帰省のため、克彦と早耶香とともに故郷である岐阜県糸守町へ向かって旅立っていった。さらに、浩平と百合子も関西へと帰省し、ミキと司のカップルもデートに出かけてしまった。瀧はこの盆休みは父である龍一と過ごす予定ではあるが、その龍一が九州から帰って来るのも13日であり、1人で暇を持て余していた。そこで瀧は、もう1人の暇人である高木と2人で会うことにした。待ち合わせ場所は瀧と司と高木が通っていた高校の最寄駅である。

 

「よう、高木。しばらくだな。」

 

「考えてみればこの2人だけでどこかに行くのってかなり久しぶりじゃないか?」

 

「そうだな。大学の時以来か。」

 

「じゃあどこに行く?」

 

「おいお前、人をせっかくの惰眠から呼び覚ましておいてノープランか?」

 

「まあそう怒るなって。」

 

とりあえず2人は歩き出し、高校時代に行きつけだった定食屋に転がり込んだ。

 

「相変わらず三葉さんとはよろしくやってるのか?」

 

「まあね。楽しいよ。」

 

「仕事の方は?」

 

「残業とか休日出勤が多くて結構忙しいけど、手当はちゃんと出るから辛くはないかな。疲れたら三葉が癒してくれるし。」

 

「ちぇっ、惚気やがって。」

 

「そういう高木の方はどうなんだ?確かちっちゃい総合商社だっただろ?それでも女性には困らないと思うんだけど。」

 

「いや〜、まだまだ仕事で手一杯でな。そっち方向にアンテナ張り巡らせる余裕が無いんだよ。」

 

「そうか。でも気になってる子もいないのか?このままだとお前、この前淡路島に行ったメンバーの中で唯一の独身貴族になっちまうぞ。」

 

「実は…………気になってる子はいるんだ。」

 

「お、どうな子なんだ?」

 

「高卒で雇われた事務職の子なんだ。俺らより2コ下の子で、びっくりするような美人、ってわけじゃないんだけど、エネルギッシュで見てるこっちが元気もらえちゃうような子。」

 

「いいじゃねーか。アタックしないのか?」

 

「ま、まあな。その内にはしたいと思ってる。」

 

「頑張れよ。俺は応援してるぞ。」

 

「ああ。それでだな、彼女持ちのお前に是非ともアドバイスを貰いたいんだ。」

 

「いや〜、三葉は別に俺が口説き落とした訳じゃないからどこまで参考になるかわからないけど。」

 

「それでも頼む。」

 

瀧はしばらく考え込んだ。

 

「そうだなあ。やっぱり最初から深い関係になろうとしない方がいいと思うな。とりあえずは友達から。そこからじんわりじんわり深めていってゴールイン、っていうのが俺的には理想だな。」

 

「まずは友達から、か。さすが俺の俺の親友ってだけはあるな。」

 

「………健闘を祈る。」

 

「ああ。」

 

2人はお冷の入ったグラスを掲げあった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝に東京を出て昼食を挟みながら新幹線と在来線を乗り継ぐこと6時間、三葉と四葉はようやく岐阜県糸守町に到着した。彗星災害からまもなく9年になるが、糸守はようやく復興の気配を見せ始めたばかりだ。彗星が落ちた当時に町長だった、三葉と四葉の父である宮水俊樹は糸守の復興に尽力して再選を重ね、現在も町長を務め続けている。そしてその俊樹と、三葉と四葉の祖母で、俊樹からみれば義母にあたる宮水一葉が住む家に転がり込んだのは午後3時過ぎである。

 

「「ただいま〜。」」

 

「おかえり。よく来たね〜。さあ、荷物を置いて来なさい。お茶とお菓子を出すから。」

 

「ありがとう、おばあちゃん。」

 

三葉は一葉の指示通りに客室に荷物一式を置いて居間に戻った。元々三葉と四葉が住んでいた家は彗星災害に巻き込まれてもう存在していない。現在は、奇跡的に被害を免れた地域に新たに平屋の一戸建てを建て、そこに一葉と俊樹が2人で暮らしていた。元々宮水家は神社の神主あるいは巫女を代々受け継いできた家柄で、一葉は現在の地域の信仰の中心となっている宮水神社の管理者ということになっている。そしてその宮水神社の本殿も彗星災害で無くなってしまい、現在は仮の社を建てている最中である。

 

「お父さんは?」

 

三葉がお茶を飲みながら一葉に恐る恐る俊樹の所在を尋ねた。

 

「おや、三葉が俊樹さんのことを気にするんかい?珍しいこともあるもんやね。」

 

「ま、まあね………。」

 

「それにしても三葉も四葉もやけにスッキリした顔をしているねぇ。東京で男でも見つけたのかい?」

 

「その話もしたくてさ、お父さんを待ってるんやよ。」

 

「俊樹さんなら今日は神社の仮の社を視察しに行っとる。1時間もせんうちに帰ってくると思うんやけど。」

 

その時、戸が開く音がした。

 

「ただいま〜。」

 

俊樹が帰って来たのである。それと同時に、三葉は少し顔を強張らせた。しかし、四葉と一葉は気づいていた。その表情は、今までの苦手なものを敬遠しようとする表情ではなく何か重要なことをしようとする前に現れる、緊張した面持ちであることを。

 

「三葉、四葉、おかえり。よく来たな。」

 

翻って俊樹は例年と同じ表情だ。三葉に対する気まずさが容易に見て取れる。

 

「ただいま、お父さん。ちょっと大事な話があるんやけど………。」

 

2022年8月12日午後3時31分、三葉と四葉にとっての彼氏の存在を父親に報告して、なおかつ今まで逃げていた父と真正面から向き合うという試練が、始まろうとしていた。


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