君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第37話 三枝と四葉 後編

晴れて彼氏彼女の関係になった三枝と四葉であったが、三枝の告白後初めて行われた8月7日の勉強会において2人の態度が特別に変化するということはなかった。いつものようにちょっとした世間話をしてから参考書を開き、各自の勉強に励む。わからない箇所があればその都度相手に声をかけて相談する。そんな勉強風景に変化が訪れたのは、勉強会が終盤に差し掛かった午後4時18分のことであった。

 

四葉はちょうど入り口がよく見える席に座っていた。耳にイヤホンをぶっ刺して音楽を聴きながら苦手な数学の問題にかじりつく。先程三枝に教えてもらった考え方を当てはめて解き方の筋道が何となくわかってきた。そして誰かが入店してくる気配がしたため、ふと顔を上げて入り口を見やった。そこには驚きの光景が広がっていた。なんと瀧と三葉と克彦と早耶香とミキが入店してきていたのである。

 

(マジか!?)

 

四葉は動揺を隠しきれない。その間にも店員が5人を空いていた店の奥の席へ誘導する。そして、その途中に瀧が口をあんぐりと開けてこちらを見ている四葉に気づいた。それに対して瀧は、他の4人には気づかれないように右手を立てて謝罪の意を表し、口の形で"気にせず続けて"と告げた。

やがて5人が席についたことで正気に戻った四葉は取り敢えず自分の注文したロイヤルミルクティーを口に含み、再び数学の問題に向き合う。かなり後ろに座る5人組が気になったが、目の前に横たわる数学の難題と複雑な計算がそれを吹き飛ばした。頭から煙を吹き出させながら、問題に対する集中力が否が応でも高まる。そのおかげで、四葉は一時的に5人の存在を頭の中から抹消することに成功していた。

 

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「さて、四葉はどこや〜?」

 

席についた克彦は早速四葉を探して視線を巡らせた。

 

「あそこだよ。」

 

事前に四葉を発見していた瀧が四葉と三枝の座るテーブルを指差した。

 

「おっ、あそこか。ちゃうことは向かいに座っとるあの男が……」

 

「噂の三枝君、ってことね。なかなか優しそうな顔してるわね。イケメンかって聞かれるとちょっと困っちゃうけど。」

 

ミキがまずその顔に査定のメスを入れた。その時、四葉が三枝に質問をした。三枝はそれに対して丁寧に答えている。

 

「なかなかの好青年やん。お互いに肩肘張ってないから2人ともリラックスできとるしね〜。」

 

今度は早耶香が論評する。

 

「まあ四葉に限って変な男は捕まえてこないとは思ってたけど、結構良い彼氏じゃん?」

 

瀧も三枝に対して高評価を与えた。それに対して他の面々も頷く。どうやら野次馬5人組は三枝を気に入ったようだ。

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そして6時を目前にした頃に、四葉たちより一足早く店を出た。そして店のすぐ近くで四葉と三枝を待ち構える。6時になって三枝と雑談しながら参考書を片付ける。しかし、四葉は既に野次馬たちが店の近くで待ち伏せしていることを正確に予測していたため、少しゲンナリした表情を浮かべていた。

 

「どうしたの?浮かない顔して。」

 

「はあ、どうせ隠してたって意味ないからぶっちゃけると、実は今日ここに私のお姉ちゃんが来てたの。彼氏と、友達3人を連れてね。それで今私たちのことを出待ちしてるの。」

 

「それって四葉が自分から呼んだとかじゃないんだよね。」

 

「当たり前じゃない。」

 

「なら気に病むことなんかないよ。堂々と付き合ってまーすって言えばいいじゃん?」

 

「ま、それもそうね。」

 

四葉は半分開き直って荷物の整理を続けた。

 

そして店を出ると、案の定野次馬5人組が待ち構えていた。

 

「あら、四葉じゃない。奇遇ね〜〜。」

 

わざとらしく三葉が今日偶然ここへ来たかのように話しかけてくる。どうやら瀧を除く4人は四葉がこちらの存在に気づいていないと思っているようだった。瀧も敢えて告げなかったのだろう。周りがニヤニヤしながら四葉の驚いたリアクションを期待しているのに対して、瀧は後ろでクツクツと笑いを堪えている。

 

「ねーちゃん、気づいてないとでも思ったん?店入って来た時から気づいとったよ。」

 

「えっ、気づいてたの!?」

 

「逆にどうしてこの私が気づかないと思ったんよ。」

 

瀧を除く4人が一斉に溜息をつくなか、三枝が先手を切って話し始めた。

 

「どうも皆さん、はじめまして。僕は三枝智樹です。えーっとその、四葉ちゃんの彼氏ということに一応なっている者です。」

 

「はじめまして、智樹君。僕は今さっき四葉と話していた四葉の姉の三葉の彼氏の立花瀧。四葉をよろしくね。」

 

「ワシは三葉と四葉のダチの、勅使河原克彦っちゅうもんじゃ。」

 

「あんまり訛り全開で喋らんとってよ、恥ずかしい。あ、私は克彦の妻の早耶香です。三葉と四葉とも友達です。よろしくね。」

 

「私は三葉ちゃんの会社の同僚で、瀧君と友達の奥寺ミキよ。もうすぐ結婚して藤井ミキになる予定なんだけど。」

 

「えっと、私が四葉の姉の宮水三葉です。不束者の妹をどうぞよろしくね。」

 

取り敢えず全員が自己紹介と挨拶を済ませた。

 

「ところでなんだけど、智樹君、これからちょっと時間あるかな?」

 

瀧が三枝に向かって尋ねる。

 

「別に僕は一人暮らしだから何ら問題は無いですけど、何処かへ行くんですか?」

 

「いや、もし良かったらなんだけど、こんなところで長話するのも何だし、晩御飯を食べに行かない?三葉がご馳走してくれるって。」

 

「へっ、私!?」

 

「是非お願いします。もっと四葉のこと知りたいですし、いかんせん一人暮らしの身からすると晩飯一回分のお金が丸々浮くのは非常にありがたいので。」

 

「ち、ちょっと瀧くん!?なんで私が払うん!?」

 

「いいじゃん?彼女の姉の彼氏に払われるより、彼女の姉に払ってもらう方が歓迎されてる感出るじゃん?」

 

「そ、そりゃそうやけど……」

 

「四葉の分は俺が出すよ。」

 

「………わかった。瀧くんの言う通りやね。」

 

「じゃ、行こうか。」

 

7人は瀧の先導のもと、取り敢えず駅に向かって歩き出した。

 

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「へえ〜、高校生なのに一人暮らしか〜。バイトと受験勉強の両立って大変なんじゃない?」

 

「そりゃ大変ですよ。特に今年の冬は受験でバイトどころじゃないですからね。その準備のためにも秋からはバイト入れられないんで、この夏に稼いだお金であと7ヶ月耐えなきゃいけませんから。」

 

「わーお、私には真似出来ないわ。」

 

早耶香が三枝の生活ぶりを聞いて感心してうんうんと頷く。一行は瀧が聞き出した、三枝の家の最寄駅をおりて徒歩5分ほどのところにあるラーメン屋に来ていた。関西出身だという店主が作る"安い、早い、旨い"をモットーにしたあっさりテイストの豚骨ラーメンが人気の店だ。これから親族になるかもしれない相手をもてなすには十分に美味しいお店だし、あまり高い店を奢らせるのも気が引けるということもあって、三枝はこの店をチョイスしたのである。そして現在、それぞれが注文を済ませて、お冷やをすすりながら話をしているところである。

 

「確か四葉とも志望校が一緒やっていうのが最初の接点やねんね。」

 

今度食いついたのは三葉だった。

 

「そうですね。それで、四葉の苦手科目が僕の得意科目で、僕の苦手科目が四葉の得意科目だったんで、教えあいっこしようってことになって、ていう感じですね。」

 

「で、四葉のどこが好きなんだい?」

 

「まっすぐ生きてるところですかね。」

 

今度は瀧が質問を振った。その返答を聞いて四葉は茹で蛸になり、他の面々はヒューヒューと口笛を吹いた。

そこへちょうどラーメンが運ばれて来た。7人はその絶品ラーメンをすすりながら話を進める。野次馬5人組は揃って三枝に対して好印象を持ち、"こいつになら四葉を預けられる。"という結論に達した。さらにラーメンに対しても高評価を下し、どうやら店は新たに常連客を獲得しそうである。

 

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「今日はありがとう。」

 

帰り際に三枝が四葉に向かって言う。

 

「私は何もしてへんよ?」

 

「確かにね。でも、俺にたくさんの出会いをくれたからさ。俺、あの人達と上手くやっていける気がする。そういう人に出会わせてくれてありがとう。」

 

「そうやね。縁も大事やもんね。」

 

「じゃ、今度はお盆明けに。」

 

「また空いてる日あったら連絡してね。」

 

「わかった。またね。」

 

「うん。」

 

四葉は立ち去っていく三枝を見送る。

 

「縁か………。」

 

そういえば、瀧と三葉の出会いは不思議に満ち溢れていたことを思い出す。そこには何か特別な縁が存在したのだろうか。そんなことを考えながら、四葉はスキップして野次馬5人組を追いかけた。


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