君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第36話 三枝と四葉 中編

2022年8月3日水曜日、三枝と四葉の2回目の勉強会が恙無く行われた。時折休憩を挟んで、その間にバカ話や身の上話を挟みながら全開と同様に6時まで進んだ勉強会で事件が発生したのは、その終了直後であった。

 

「宮水さん。」

 

三枝が四葉を呼び止めたのはカフェの最寄駅の改札から少し離れたところである。

 

「なに?三枝くん。」

 

「ちょっと話があるんだけどさ。いいかな?」

 

「いいよ。何?」

 

「もし良かったらなんだけど、その、僕と付き合ってくれないかな?」

 

「はい?」

 

あまりにも唐突な告白に四葉は考えすらまとまらずに素っ頓狂な声を漏らす。

 

「俺、どうやら宮水さんのことが好きみたいなんだ。」

 

「はあ。」

 

「だから、今以上の関係になりたいな〜なんて思っちゃったりしてるんだけど。」

 

そして、10秒ほどの沈黙の後に、四葉は三枝の言わんとすることを完全に理解した。そして、四葉の顔に一瞬にして朱が上る。

 

「なっ!えっ!わっ!わたし!?」

 

「ダメかな?」

 

「ま、待って!私なんかのどこを好きになったん?」

 

「ん〜、毎日一生懸命に生きてるところかな。」

 

「え?どういうこと?」

 

「もちろん宮水さんは可愛いし、優しいし、話しててすごく楽しいんだけど、それ以上にキラキラして見える。そういうところがどストライクなんだよね。」

 

「そ、そうかなあ。」

 

「で、俺的には"お願いします"にしろ"もう少し考えさせて"にしろ"ごめんなさい"にしろ、とにかく返事が貰えるとありがたいなあ。」

 

四葉は考えた。自分は今までまともな恋愛をしたことはない。4月まではいつも何かを探しているような姉を見て、自分だけ抜け駆けするのはどうかと思っていたから恋愛のことを考えないようにしていたし、三葉が瀧と出会ってその枷が外れてからも、瀧があまりにもハイスペックなせいでクラスメイトの男子たちがガキっぽく見えてしまっていた。何度か告白されたこともあったが、ことごとくフッてきた。正直、タイプも瀧のようにカッコよくて優しくて料理のできる、頼れるお兄さんのような人だった。

目の前の三枝は、そのどちらとも違っていた。顔は正直言って中の上である。しかし、その目に湛えられた光は柔らかく、その話し方や何気なく四葉を気遣う言動などから、まるで布団に包み込まれるような暖かさを感じた。この人になら全てを預けてもいい。そう思えた。

 

「えっと、じゃあ………お願いします。」

 

その四葉の返事を聴いて三枝はホッとしたのか、大きく息を吐いてその顔に満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。じゃあとにかく、これからもよろしく。」

 

「そうやね。よろしく。」

 

2人はその場で握手を交わした。

 

「俺、恋愛なんか初めてだから何が正しいのかとか分からないんだけど、こういう場面は握手で合ってるのかな?」

 

「多分違うと思うけど、私たちはこれで良いと思う。初めて同士、お互い探りながらでさ、…………智樹くん。」

 

「そうだね宮み…………四葉ちゃん。」

 

2人はお互いを名前で呼ぶことのぎこちなさに顔を見合わせて笑い合った。2022年8月3日午後6時17分、1組のカップルが産声を上げた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

家に帰りついた四葉に三葉の好奇の目線が突き刺さった。

 

「今日はどうやったん?」

 

それを聞いた途端に四葉の顔に朱が上った。よくよく考えれば、まだ3日しかまともに喋ったことがないのに、よくそんな誘いを受けたもんだと思って恥ずかしくなってしまったのだ。

 

「えっ!何かあったん?」

 

「えっと、その、うん、あ〜、………ちょっとタンマ!」

 

そう叫ぶと、四葉は三葉の横を素通りしてダッシュで自分の部屋に駆け込んだ。

 

「ちょっと!四葉!?」

 

「ちょっと心の整理させて!ちゃんと喋るから!」

 

四葉は参考書の入ったリュックサックを放り投げると、そのままベッドにダイブした。

 

(大丈夫やよね、こんな大事なことあっさり決めてもうても。だって姉ちゃんだって出会った瞬間に恋に落ちたんやし。三枝くんやったら大丈夫なはず!うん!)

 

ベッドで蹲ること5分、意を決した四葉は普段着に着替えて三葉のいるダイニングに姿を現した。

 

「お、出てきた。」

 

「えーっと、その、わたし、彼氏が出来ました!」

 

「おーー!!!!」

 

三葉が拍手をして煽る。

 

「で、相手はどんな人?」

 

「高校のクラスメイトの三枝智樹くん。ルックスはそこまでなんだけど、優しくて良い人なんよ。」

 

羞恥心のためか、顔はこれ以上にない程真っ赤だが、それでも四葉は三葉に三枝とのこれまでの経緯について夕食の豚肉の生姜焼きを食べながら話した。

 

「へ〜〜、良い人やねんね。今度紹介してよ〜。」

 

「うん。もうちょっと進展したらね。」

 

三葉は四葉が彼氏の紹介に素直に了承したことを軽く意外に思った。"姉ちゃんには関係ないもん!"と言いながら拒否するもんだと思っていた。

 

「あれ?ひょっとしてオッケーしたんが意外やった?」

 

さすが四葉、三葉のわずかな反応のタイムラグを見抜いて言い当ててくる。

 

「もう、あんたはエスパーか?」

 

「えへへ。まあ、隠す理由がないもん。それに、これでも結構さやちんとてっしーに"早よ彼氏作れ"ってせっつかれてたしね。」

 

「そっか。」

 

彼氏が出来たからといっても、四葉はいつもより明るい表情をするくらいで、別段変わった様子はない。それほど、四葉は三枝と付き合うことに対して舞い上がることなく自然に向き合っていた。もっとも、それは四葉が恋愛に全く縁がなかった上に、少女漫画の類に対しても"どうせくっつくんならさっさとくっつけよ"と思ってしまうために敬遠していた結果、俗に言う"キュンキュンする"という感覚が分からなかったことにも起因する。

しかしそれでも、恋する乙女であることには変わりなく、三葉が投げかける三枝についての質問に顔を赤らめたりしながら答える四葉をよそに、生姜焼きの香ばしい匂いが漂う宮水家の食卓には、楽しい時間が流れていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その週末の8月7日日曜日、四葉は再び三枝と勉強会に出かけた。その午後3時ごろ、四葉が居なくなった宮水家に、瀧か上がり込んできた。

 

「三葉〜?いる〜?」

 

「あれ〜?瀧くん?今日は来られへんかったんちゃうん?」

 

「仕事が早く片付いたんだ。これで10日連続フルタイム出勤と三葉成分無補給は阻止だよ。」

 

「嬉しいこと言ってくれるんやね。でも、そんなに働き詰めで大丈夫なん?」

 

「大丈夫だよ。ウチ、不規則勤務が多いけど、残業代と休日手当はなかなか良いしさ。」

 

「それならええけど。」

 

「それより、ついに四葉に彼氏が出来たんだって?」

 

「そうなんよ〜。もう嬉しくって嬉しくって。」

 

「今日は四葉は?」

 

「その彼氏くんとお勉強会やよ。」

 

「場所は?」

 

「学校の近くのカフェらしいけど。」

 

「…………行っちゃう?」

 

「…………そうやね!ちょっと化粧して着替えてくるから待っててね〜」

 

三葉がナチュラルメイクを施し、外出用の服に着替えている間、瀧はダイニングで三葉が淹れてくれたアイスコーヒーを飲みながら、克彦にメールをしていた。もちろん、要件はこの四葉の彼氏品評会への同席を求めることである。

20分ほどで三葉の支度が終わり、2人はマンションを出る。瀧の携帯には克彦からの返事が届いており、早耶香の準備が出来次第、四葉の高校の最寄駅で落ち合う旨が記されていた。

 

2人は電車に揺られて目的地へと向かう。しかしその途中、意外な人物と出会った。

 

「あら、瀧君と三葉ちゃんじゃない?こんなところで何してるの?あ、デートよね。」

 

「奥寺先輩じゃないですか!奇遇ですね。今日は司は一緒じゃないんですか?」

 

「今日はご両親に会いに行ってるわ。お盆は私と2人きりで過ごしたいんだって。そういうあなたたちはこれからどこへ行くの?家は反対方向でしょ?」

 

「実は、例の四葉の彼氏をこれからてっしーとさやちんと4人で見に行くところなんですよ。」

 

「あら、そうなの?じゃあ私もご一緒しちゃおうかしら。」

 

「良いよな?三葉。」

 

「もちろん、ミキちゃんなら大歓迎やよ。」

 

「ウフフ。楽しみね。」

 

そして、午後4時12分、四葉の彼氏を品定めするために、瀧と三葉とミキと克彦と早耶香の5人が四葉の高校の最寄駅で落ち合った。そして、5人は四葉がいるカフェへとその歩みを進め、午後4時18分、カフェに入店した。

 


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