君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第31話 セ氏35度の対決 後編

時刻は既に15時30分を過ぎた。10人のメンバーにも疲労の影が色濃くなっている。浩平・瀧・ミキ・四葉・高木:22-20:百合子・三葉・克彦・早耶香・司。中盤までは百合子チームが18-16とリードしていたが、浩平とミキの連続サービスエースなどで逆転を許していた。

 

浩平チームのサーバーは瀧である。司へと飛んだボールはしっかりとレシーブされ、セッター早耶香が三葉にトスを上げる。三葉が放ったスパイクはミキにしっかりとレシーブされ、四葉が浩平にトスを上げて、ブロックに飛んだ百合子からブロックアウトを取った。

 

「よっしゃい!!」

 

「あー、小指狙うとか腹立つわ〜!!」

 

「あと2点や!引き締めて行くで!!」

 

 

再び瀧がサーブを放つ。今度は百合子が早耶香が一歩も動かなくていい位置にレシーブし、そのまま態勢を整えてボールを呼ぶ。早耶香も百合子にボールを上げ、ストレートにスパイクを打ち込むが、これは四葉にレシーブされる。そのボールは浩平の元に上がり、浩平はミキにトスを上げるが、微妙にタイミングが合わずに入れるだけのスパイクになる。それでも狙いどころが良く、空いていたコートの中央へボールが飛んだ。

 

「うおおおおおお!!!」

 

しかし、咄嗟に反応できた克彦が飛び込みながらレシーブする。ボールは後衛にいた司のところへ上がる。司がトスを上げるが、概して後方から上がってくるトスは非常に打ちにくいので、百合子はオーバーハンドパスで浩平チームのコートの空いている真ん中ライン際を狙う。これを態勢を崩されながらも瀧が拾い、乱れたボールを高木がトスにしてミキがスパイクを放つ。ボールはレシーブに入っていた早耶香の腕を弾き飛ばした。これで浩平チームが24-20でマッチポイントを握った。

 

すかさず追い詰められた百合子チームはタイムアウトを取った。

 

「これはヤバいな〜〜。ミキさん強いわ〜。」

 

百合子がため息をつく。

 

「大丈夫やよ。諦めるにはあと1点早いって。」

 

早耶香が百合子の肩を叩く。

 

「とにかく一本切ろう。それにしてもスポーツする瀧くんかっこええなあ〜〜。」

 

「アホか。今は敵や。」

 

三葉の惚気に克彦がツッコミを入れる。

 

「向こうは次は終わらせにくるから、サーブとスパイクは言うたら悪いけど、こん中では一番下手な司くん狙いおると思う。頑張ってな。」

 

「はい!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プレーは再開された。瀧が再びサーブを放ち、百合子の予想通りに司の元へ飛ぶ。司は冷静にレシーブし、早耶香が百合子へトスを上げ、百合子が打ち込むが、コースを完全に読まれており、浩平が難なくレシーブする。セッターの四葉がミキに上げ、またしても百合子の予想通りに司にスパイクが打ち込まれる。司は懸命にレシーブしたが、少し返球が飛び過ぎ、相手コートに返るか返らないかくらいの場所へ飛んだ。それを見て浩平がダイレクトに打ち込もうとジャンプした。

 

「そうはさせるかい!!」

 

浩平がダイレクトに打ち込んだボールはブロックに飛んだ克彦の両腕にしっかりと捉えられ、ほぼ真下に叩きつけられた。

 

「よっしゃい!!!」

 

「畜生!やりおる!」

 

 

サーブ権が移り、百合子チームはエース・百合子のサーブである。

 

「三葉さん。」

 

「何?百合子ちゃん。」

 

「彼氏の顔に泥塗ったらごめんな。」

 

「大丈夫やよ。悔しがる瀧くんも可愛いから。」

 

「上等や。」

 

百合子は右手にボールを乗せ、それを思い切り逆回転をかけて高々とやや前方に投げ上げた。そのままスパイクを打つように助走をつけて飛び上がり、ボールを叩き込む。百合子の現役時代の必殺ジャンプサーブである。打ち込まれたボールは真っ直ぐ瀧の元へと飛んでいき、レシーブの構えをしていた腕を弾き飛ばした。

 

「っっしゃあああああ!!!!」

 

それを見て百合子が雄叫びをあげる。

 

「いってぇ!!腕もげる〜〜!!

「うわ〜〜、今の男子並みのスピード出てたで。

「あんなサーブ受けたことないし、受けたいとも思わないわね。」

 

瀧が腕を抑えてピョンピョンと跳ねまわり、経験者の浩平とミキは驚きを通り越して呆れの表情を浮かべている。これで浩平チーム:24-22:百合子チーム。勝負は分からなくなってきた。

 

 

「ほな、もう一本行こか。」

 

百合子は再びサーブを打つために大きくコートのエンドラインから距離を取った。先程と同じように右手でボールを投げ上げてジャンプサーブを放った。今度はコントロールショットのような形で、スピードはあまり速くはないものの、レシーバーの浩平と高木の真ん中を抜くようなサーブとなった。次は緩めのコントロールショットが来ることを予想して、素早く動けるように構えていた浩平が苦しい体勢ながらしっかりとセッター・四葉のいる位置にレシーブした。

 

「お兄ちゃん!」

 

最後になるかもしれないトスを四葉は瀧に託した。瀧のスパイクはブロックに飛んだ克彦を交わして三葉の所へ飛び、三葉がしっかりとレシーブする。ボールはセッター・早耶香の元へほぼ正確に返った。

 

「早耶香さん!5番!!」

 

百合子はそう叫ぶと、クイックに入る感じで助走してきた。

 

「そう何度もおんなじ手は食わんぞ!!」

 

浩平とミキが百合子のクイックを止めようと、しっかりコースを塞いでブロックに飛んだ。しかし、百合子はセッターのすぐ近くに入る前に進行方向を変え、誰もブロックに飛んでいないライト側へ走り込んだ。その動きにブロッカー2人は全くなす術も無く、誰もいないライト側から鋭いスパイクが浩平チームのコートに叩きつけられた。

 

「早耶香さんナイストスゥ!!!」

 

「ここまで隠しといて良かったね!!」

 

仕掛人の百合子と早耶香がハイタッチを交わす。

 

「あーあ、ブロードか〜!」

 

「良くここまで見せなかったわね。やるタイミングが絶妙過ぎるわ。」

 

浩平とミキが手放しで百合子を賞賛する。百合子チーム:23-24:浩平チームとなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こりゃそろそろヤバいな。」

 

たまらずタイムアウトを取った浩平が頭を掻きながら呟く。

 

「完全に向こうに流れもいっちゃってるしね。もうここで決めてしまわないと。デュースになるのもめんどくさいし。」

 

ミキの声にも少し苛立ちが含まれている。

 

「奥寺先輩がこんなに負けず嫌いだったなんて知らなかったなあ。」

 

瀧が意外そうな顔でミキを見る。

 

「まあ、バレーだけは譲れないわね。」

 

「とにかく百合子さんのサーブをキッチリ上げないことには………」

 

「まあ次は勝負せんわ。来てもさっきみたいなコントロールショットやな。大学で見てたけどあの高速サーブをこういう時に使ったんは見たことないわ。」

 

四葉の不安に浩平が大丈夫だと答える。

 

「頼むから俺のところにだけは来るな。」

 

高木が天に祈ったところでタイムアウトが明けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

百合子は今度はジャンプフローターサーブで来た。揺れながらのサーブを四葉が何とか上げる。

 

「ちっ、セッター狙ったったのに上げおったか。」

 

百合子が悔しそうに呟きながら守備位置に戻る。フラフラと上がったボールをミキがトスし、浩平がスパイクを打ち込むが、これは三葉に拾われた。早耶香がトスを上げ、克彦が打ち込む。これを今度はミキが上げ、四葉がもう一度浩平に託すが、今度は克彦のブロックに弾き返される。それを何とか浩平が自分で上にあげ、カバーに入っていた高木が繋ぎ、最後はミキが入れるだけのスパイクを返した。それを司が拾い、早耶香は今度は後衛の百合子にバックアタックのトスを上げた。克彦にトスが上がると判断していたミキと浩平は全く微動だにできなかった。

 

「「「「行っけ〜〜!!」」」」

 

ブロックに弾き返された時のために準備しながら百合子チームのメンバーが叫ぶ。百合子はその想いをボールに乗せて、全力を込めて腕を振り抜き、渾身のバックアタックを放った。その時コートにいたほぼ全員がデュース突入の未来を想像していた。ただ1人を除いて…………

 

 

気づけばボールは百合子の頭上にあった。

 

 

「先輩!甘いですよ!!!」

 

 

ボールの衝撃で体が後ろに流されながらも、そう叫んだのは唯一ブロックに飛んだ瀧だった。瀧のブロックに当たったボールは斜め上、百合子チームのコートの方向に跳ね上がっていたのだ。そして、誰もいない百合子の真後ろ、エンドラインの内側にボールは落ちた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第3セットは浩平チーム:25-23:百合子チームで決着した。フルセットに及んだ真夏の熱戦は、セットカウント2-1で浩平チームの勝利という結果に終わった。


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