君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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第30話 セ氏35度の対決 中編

第一セット終盤、戦況は一進一退を繰り返し、すでにデュースに突入していた。浩平・瀧・高木・ミキ・四葉チーム:24ー25:百合子・三葉・克彦・早耶香・司チームという状況から、浩平チームが25ー25の同点に追いついたところで百合子チームがタイムアウトを取った。

 

「あー、なんかここまで白熱すると思わんかったな〜。」

 

百合子が水を飲みながら述懐する。

 

「百合子ちゃん、絶対勝とうね!」

 

早耶香がやる気をみなぎらせている。

 

「そうやよ!テッシーとさやちんと私が揃ってるんやから!絶対瀧くんに勝つからね!」

 

珍しく三葉も闘志を燃やしていた。

 

「よっしゃ、皆さん、片付けに行きましょか。」

 

それに釣られて、百合子も不敵な笑みを浮かべる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわぁ、アイツまじやな〜〜。」

 

それを見ていた浩平がため息を漏らす。

 

「え!?今まで百合子先輩マジじゃなかったんですか!?」

 

「間違いなく今ガチになった。」

 

「お兄ちゃん何弱気になっとるんよ。こっちには東京ベスト32のアタッカーがいるんやから大丈夫やよ。」

 

「昔の話よ。」

 

ミキが四葉の頭を撫でて言う。

 

「百合子は兵庫県ベスト8のエースや。」

 

「勝てるんすか?」

 

高木が怪訝そうに言う。

 

「まあ女子東京ベスト32と男子大阪ベスト32がおったら大丈夫やとは思うんやけどな。とにかく、百合子に負けるんは癪やから、さっさとやるで。」

 

「「しゃー!!!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プレーが再開された。浩平チーム、瀧のアンダーハンドサーブが問題なく百合子チームのコートに入る。きっちり落下点に入った克彦が綺麗に早耶香に返し、早耶香は三葉にトスを上げた。

 

「瀧く〜〜ん!!」

 

三葉のスパイクが瀧のところへ飛ぶ。瀧は弾かれながらもなんとかボールをあげ、カバーに入った四葉がミキにトスを上げる。すかさず克彦がブロックに飛ぶが、ミキは克彦の指の先をめがけて思いっきり腕を振り抜いた。ボールは克彦の指先で大きく弾かれ、コート外まで飛んでいく。それを百合子と三葉の2人が必死に追いかけるが、無情にもボールは地面に落ちた。

 

「よし、セットポイント!」

 

 

再び瀧がサーブを放つ。それを三葉がうけ、早耶香がトスを上げ、百合子が渾身のスパイクを放つが、浩平のブロックにぶち当たる。それでもボールは百合子チームのコートにフラフラと上がった。それを司が上げ、三葉がトスにして百合子が撃ち抜く。それを今度は浩平が拾い、四葉がトスをしてミキが打つも、今度は百合子のブロックに引っかかってチャンスボールになった。

 

「ウチにもう一本!!!」

 

百合子がスパイクを打てるように開きながら右手を高々と上げてボールを呼ぶ。司が拾い、三葉がもう一度エース・百合子にトスを上げ、百合子が3度目のスパイクを放った。体をクロス方向に向けながら体を捻ってストレートにぶち込み、その動きにブロッカーのミキとストレート側のレシーバーの四葉が釣られ、ボールは誰もいないコートの隅に叩きつけられた。

 

「っっしゃあああああ!!!」

 

百合子が胸の前で両手の拳を握りしめてガッツポーズをして雄叫びをあげた。

 

「あれがエースや。」

 

浩平が百合子のプレーに感心して呟く。

 

そして百合子がサーブに下がってサーブを打つ。美しいフォームから放たれたジャンプフローターサーブだったが、四葉に綺麗に返される。そしてそれを瀧が浩平にトスをするが、少しタイミングが合わず、フェイントを落とす。それを見抜いていた克彦が冷静にボールをあげ、早耶香がトスをして三葉にトスが上がる。そして三葉のスパイクが瀧のレシーブを弾き飛ばした。これで今度は百合子チームが27-26でセットポイントを握った。

 

再び百合子がジャンプフローターサーブを放つ。今度は高木のレシーブが少し乱されるが四葉がカバーしてミキへのトスにし、ミキがスパイクを打つ。それを早耶香がレシーブし、少し乱れるも百合子がトスを上げ、今度は克彦が打つ。ミキのブロックをうまく交わして打たれ、誰もいないところに飛んだスパイクだったが、浩平が横っ飛びでレシーブし、何とか上げた。ボールは直接百合子チームのコートに返る。それを克彦がレシーブし、三葉が2本目を触ろうとした。

その時、三葉は早耶香にトスアップすると見せかけてボールを直接浩平チームの空いているコート中央のスペースに返した。その見事なまでに鮮やかなトスフェイントに浩平ですら足が動かなかったが、1人だけこの球に飛びついた者がいた。

 

「三葉ぁ〜〜!!甘いぞぉ!!!」

 

瀧がボールに飛びかかり、浩平が試合前の練習時に"こんなんできたらカッコええで〜"と言いながら余興のノリで披露した、地面に手のひらをつけてその甲でボールを受ける美技〜パンケーキ〜を見よう見まねで繰り出した。ボールは見事に50センチほど瀧の手の甲で跳ね上がり、それをたまたま近くにいた高木がカバーした。

 

「立花ぁ!!ファインプレーや!!!!」

 

高木のカバーはうまい具合に浩平へのトスになり、浩平はボールを全力で打った。ボールは百合子のワンハンドローリングレシーブを弾き飛ばし、浩平チームが追いついた。

 

「ちっ、後輩め、やってくれおったな。」

 

「瀧くんかっこいい〜〜!」

 

百合子が歯軋りしながら、三葉が惚気ながら瀧のファインプレーを賞賛する。

 

「これでこっちに流れ来るわね。」

 

「あと2点や。高木くん、取り敢えずサーブ入れとこ!」

 

ミキと浩平が気合いを入れ直した。

 

高木がサーブを放つ。入れることを優先した緩いサーブは三葉がしっかりレシーブをし、この場面でセッターを願い出た百合子が一歩も動かなくていい場所へ正確に上がる。克彦がレフト側でスパイクを呼んでいる。ミキが克彦の前で待ち構える。しかしその時、早耶香が百合子の目の前に走り込んでいた。

 

「やばっ!クイックか!」

 

早耶香は百合子がボールに触るとほぼ同時にジャンプした。百合子がその振り上げられた腕の位置にボールを素早く、小さくトスをする。そして放たれたスパイクは誰もいないコートの隅に落ちた。

 

「くそっ、ここでクイック出すか〜!」

 

「完全に頭に無かったわ。」

 

浩平とミキが頭を抱える。一方で百合子と早耶香がハイタッチを交わした。百合子チームが28-27で再びセットポイントを握った。

 

司が入れるだけの緩いサーブを放つ。しかしそのサーブがネットに当たり、軌道が変わって浩平チームのコートに入ってきた。

 

「ちっ、ネットインか!」

 

叫びながら浩平がダイビングレシーブをし、何とかボールを上げる。乱されながらも四葉がトスを上げてミキが入れるだけのスパイクを打つ。司がレシーブし、再び百合子のところへボールが上がる。先ほどと同じく、克彦がボールを呼び、早耶香が百合子の近いところへ走り込んで来る。

 

「2度もおんなじ手は食わないわよ。」

今度は瀧が克彦の前で、ミキが早耶香の前で待ち構える。しかし早耶香は先ほどのタイミングではジャンプせず、一拍置いてジャンプした。先ほどのクイックのタイミングでブロックに飛んだミキはすでにジャンプの最高点から落下を始めているタイミングである。トスもそれに合わせて早耶香に上がり、またもやブロックのない状態で早耶香のスパイクは放たれた。ボールはレシーブに下がっていた四葉の手前に落ちた。

 

勝敗は決した。

 

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「1人時間差か。やりやがったな。考えたあいつもあれやけど、早耶香ちゃんもよう合わせるわ。」

 

「さすが兵庫ベスト8ね。」

 

「あんなの取れないよ。」

 

「さやちん強すぎ〜。」

 

「脱帽ですね。」

 

おしゃべりしながらということもあり、1時間近くかかった第1セットは百合子チーム:29-27:浩平チームで決着した。

 

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第2セットも白熱した展開を見せた。序盤は第1セットの勢いそのままに百合子チームがリードし、一時は9-4と5点差をつけていたが、浩平チームも速攻などの戦術を利用し始めてからじわじわと詰め寄り、18-18の同点に追いついた。そこからはサイドアウトの応酬(1点ずつ交互に取り合う状態)となったが、最後にミキの3連続サービスエースで25-22で浩平チームが取り返した。そして、決戦は最終第3セットへともつれ込んでいくこととなる。


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