君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

3 / 40
どうも、かいちゃんです。
友人の学校の数学教師が「京大の数学は計算問題」と言っていたそうですが、絶対それはないと思います。ま、京大受けれる程賢くないですけど。
では、本編スタートです。


第3話 狙われた瀧

東京の、大きなビルの1フロアを占有する、そんなに大きくはない建築デザインを扱う会社に、一人のまだあどけなさの残る青年が駆け込んで行く。まだ新年度が始まって一週間も経っていない。ーー入社早々遅刻はやべぇぞ。ーーそう呟きながら青年=立花瀧は自分の机の上の電波時計を見る。8時56分。セーフだ。そうホッと一息ついていると、パンツスーツを着こなした女性の影が瀧に忍び寄り、影は容赦なく紙の束で瀧の頭をはたいた。

 

「いてぇっ」

 

「こら、危うく遅刻魔になりかけたねぼすけ新人君!先輩への挨拶はどうした!」

 

「す、すみません!おはようございます!狩野先輩!」

 

瀧は慌てて立ち上がって挨拶する。その何とも初々しい様子にうんうんと頷いているこの女性は、瀧の教育係を任された入社3年目の狩野百合子である。どうやら関西の出身らしく、標準語を話していてもイントネーションが関西に大きく寄っている。それどころか、しょっちゅう関西弁が混じっている。浅黒い肌に彫りが深めながらしっかり整った目鼻立ち。黒の長髪は癖がなく、ポニーテールでまとめられている。総じて結構な美人である。仕事が出来て、人当たりが良く、利発な彼女には大学時代から付き合っている一歳年上の彼氏がいるという。

そんな狩野が瀧の顔をしげしげと見つめている。

 

「あの、先輩、どうかしました……?」

 

「立花くん、君、そんな弾けるような笑顔でどうしたん?」

 

「はい?」

 

「入社してからそんなに経ってないけど、そんなに輝く笑顔を見たのは初めてやな。」

 

「自分、そんなに笑ってます?」

 

「何、彼女でも出来たの?」

 

「は、はひぃ〜〜?」

 

その反応に狩野は魚を見つけた猫のように食いつく。

 

「まさかそれが遅刻の原因?」

 

「違います!まずギリギリ間に合ってますから!」

 

「怪しいなぁ〜」

 

「本当に違いますって!宮水さんとはそんな関係じゃ……あ!」

 

「おや〜?宮水さんって誰かなぁ〜?」

 

すると、やや遠いところから二人の上司の声が聞こえる。

 

「こら、狩野!俺も立花の恋バナには非常に興味があるが、取り敢えず仕事だ。立花も仕事始めろよー」

 

助かった、と瀧が胸を撫で下ろしていると、上司からさらなる爆弾がしれっと投げ込まれた。

 

「それから狩野、この案件片付けとけ。ちょいと厳しいが昼休みまでに片付いたら、立花尋問権を与えてやる。じっくり聞き出して俺に耳打ちしろ。」

 

「了解致しましたぁ!!」

 

瀧は人生で初めて目上の人間を恨んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして昼休みがやって来た。いや、来てしまったと言うべきか。狩野は上司に出された案件を四苦八苦しながらも何とか昼休みまでに片付け、約束通りきっちり立花尋問権を付与されたのである。瀧は狩野に昼時は誰もいなくなる給湯室に連れ込まれ、ソファーに向かい合わせの状態で座らされる。どんなにニヤニヤしながら嫌味ったらしく聞かれるかビクビクしていたが、滑り出しは意外と冷静だった。

「今日の遅刻の原因はその宮水さん?」

 

「そうです。そうですけど、俺遅刻してませんからね!」

しかしそれには構うことなく次なる質問が狩野から飛ぶ。

「宮水さんと会ったのは初めて?」

 

そう聞かれると詰まってしまう。

 

「立花くん?」

 

「先輩、変な返答をしてもいいですか?」

 

「……?どうぞ。」

 

狩野は訝りながらも返答を促す。

 

「初めて会ったはずなんですけど、前から知っているような気がするんです。宮水さんの声をどこかで聞いたような、その姿を昔見たことがあるような……変ですよね。俺。」

 

「すごく変ね。で、会った時の状況は?」

 

瀧はその時の状況を詳しく話す。正直変な話だ。初めて、しかも偶然見た人に心を奪われて、お互いを探して知らない街を駆け回ったのだ。変に思われるに決まっている。だが、話を聞き終わった後の狩野の反応は予想していたものではなかった。

 

「そっか。恋バナではないけど、ちょっと興味をそそられる話ね。何かロマンチック。」

 

「すごく失礼ですけど、先輩、俺を尋問してるんですよね。何か優しくないですか?」

 

「私を何やと思ってんの。ただのゴシップ好きのオバハンちゃうで。」

 

「先輩、関西弁全開ですよ。」

 

「東京弁疲れた。」

 

「そうですか……」

 

「…………あんた、今自分がめっちゃ輝いてんのわかる?」

 

「えっ、俺そんなに輝いてますか?」

 

「うん……正直ウチ、あんたのことめっちゃ心配しててん。これでも人を見る目あるからな。あんたには仕事に対する意欲とか、そういうのは感じられるけど、どっかに意識置いて来たというか、ずっと何かを探してるみたいで……何か人生楽しんでないみたいな、そんな感じ出しててん、あんた。」

 

「先輩……。」

 

「でも、今日のあんたは大丈夫や。生きることを楽しんでる。多分、あんたが探しとったんは、宮水さんや。」

「そうなんですか!?」

 

「知らんけど。」

 

ガクッと瀧の膝から力が抜ける。

 

「冗談やって。……いい?彼女のこと離したらあかんで。多分、彼女とあんたは出会う運命やった。そうやないと今朝の出来事の説明がつかへん。懐かしく感じてるんやったら、多分以前に一度会うてるはずや。あせらんと、ゆっくり答え探し。」

 

「先輩……、ありがとうございます。」

 

狩野は立ち上がりながら他人事のように呟く。

 

「助言したってんから、結婚式呼んでや。頼むで。」

 

「…………はい?」

 

「あんたら、多分そこまで行くで。女の勘やけど。」

 

やっぱり狩野先輩だ。爆弾を置いていくのを忘れない。だが、やられっ放しも性に合わない。

 

「先輩の結婚式もですよ。大学時代からだから、もう4、5年くらいにはなるんでしょう。近いうちに頼みますよ。みんなも、先輩の花嫁姿、期待してますから。」

 

炸裂には成功したようだ。ボフンという幻聴とともに、後ろ姿の狩野の耳がみるみる赤くなるのがわかる。

 

「いっぱしに言うようになったじゃないの、遅刻魔。」

 

「だから、遅刻してませんからね!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

昼の業務が始まり、狩野は上司に乗り合わせた女性に一目惚れしてぼやぼやしている間に電車を乗り過ごしたらしいと説明していた。宮水という名前を知っていたことに関しては、透明なクリアファイルに閉じられていたプリントが見えたため知ったと抜け目のないもっともらしい理由をつけていた。

最初は驚いたが、よくよく考えると、なかなか妙案である。間に合ったのだからお咎めは当然なし。おそらくもう二度と会うことはないのであまり詮索もされない。まだまだ青いな、調子のいい奴め、次はなしだぞ。それで終わるようにしてくれた。

狩野先輩が教育係で良かった。

仕事終わり、瀧は心の中で狩野に謝辞を述べながら携帯に手を伸ばす。手に取ると、ちょうど新着メールが来た。三葉からだ。

 

<仕事終わりに会いませんか?>

 

心が躍った。宮水さんも同じことを考えてたんだ。

 

<俺も今終わったところです。18時に四ツ谷で会いましょう。>

 

そう打ち込んで携帯をポケットに突っ込み、鞄をもつ。その足取りは、まるでずっと探していたものをやっと見つけた、無邪気な子供のように軽やかだった。

 




<次回予告>共に食事をすることになった2人。料理に舌鼓を打ちながら酒に弱い三葉の盃は進み続け………
次回 第4話「最初の晩餐」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。