君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
大谷選手のエンゼルス入団が決まりましたね。さて、このプロ野球開闢以来のチートキャラはメジャーでどれほどの活躍を見せてくれるのか、非常に楽しみです!
では、本編スタートです!
2022年5月4日、午後3時33分。瀧の部屋のダイニングテーブルを挟んで25歳のうら若き女性と50歳くらいの男性が向かい合っている。
「瀧の彼女と言っていたが、付き合い始めてどれくらい経つのかな?」
「実は、まだほぼ1ヶ月くらいなんです。」
「瀧という人間と接してみてどうかな?」
「癒されてます。瀧くんの、誰に対しても見せる優しさに触れてると安心します。それに、精神的な波長が合っていると言いますか、くだらない話でも瀧くんと話していたらそれだけで心が満たされて、瀧くんを感じる度に幸せに思っています。」
「側から見たら惚気にしか聞こえないだろうが、あなたは瀧をちゃんと内面まで理解してくれているんだね。」
「なんか意外です。」
「何がだね?」
「瀧くんはお父様のことを、放任主義で寡黙な方だって言っていたんですけど、話してみるとそうでもない気がして。」
「まあ私もか弱い1人の人間だからね。なんとかして瀧に金で不自由はさせたくなかったから、とにかく仕事に打ち込んだ。だから本当は寡黙なんかじゃ全然なくて、疲れててあまり構う暇がなかったっていうのと、瀧なら自分でものを考えて判断できると思っていたから何にも口を挟まなかった。本当なら近しい人間が相談に乗ってやるべきだったのに、瀧には結構迷惑をかけていたかもしれないな。」
「そんなことないと思いますよ。瀧くんもお父様に感謝してるって言ってました。」
「お、それは嬉しいな。今度2人で酒でも飲みたいな。」
「明日はどうされるんですか?」
「実は明日の午後までには九州に戻らないといけなくてね。明日の朝一の新幹線でとんぼ返りだよ。もうホテルも取ってあってね。今日はそう遅くないうちにお暇させてもらうよ。」
「そうですか。少し残念です。もっと瀧くんのことをお聞きしたかったんですが……」
「それは私も同じだよ。ところで瀧はどうしたのかな?」
「今私の妹を迎えに行ってるんてすが、そろそろ帰ってくると思うんですけどね。」
「そうか。いやあ、楽しみだなぁ。多分あいつメール見てないから、サプライズになるなあ。」
「メールですか?」
「昨日の夜11時くらいに今日は帰ってくるってメールしたんだけど、返事がなくてね。」
その時間は瀧と組紐について議論していた頃だ。
「確かに驚きそうですね。瀧くん。」
「そういえば女性に聞くのもどうかと思うんだが、三葉さんは何歳なんだ?」
「今年12月で26になります。」
「瀧とは3歳差か。妹さんは?」
「今年大学受験です。」
「結構年が離れた姉妹だね。」
「でも私なんかよりしっかりしてる、良い子です。」
その時、玄関の方から声がした。瀧と四葉がようやく帰ってきたのである。
「三葉〜帰ったぞ〜〜」
「お邪魔しまーす。」
「瀧くんおかえり〜〜」
龍一は無言を貫いているが、その表情は明らかに楽しんでいる。
「これ今日の鍋の具材な。こっちはおやつ………………」
瀧は来客の顔を見てフリーズした。
「おう、瀧。邪魔してるぞ。」
「お、お、おやおや親父ぃ〜〜!!?」
「おいおい、そんな化け物を見たような反応をするなよ。せっかく帰って来てやったのに。」
瀧は龍一を震える手で指差しながら後退る。
「な、な、なんで親父がいるんだよ。このゴールデンウィークは帰ってこれないんじゃなかったのか!?」
「それが予定が変わったんだ。少し暇が出来たから不肖の息子の顔を見にきてやったらどうだ。いきなり美人な彼女を家に連れ込んで。父さんまあまあ嬉しいぞ。」
「なんか親父今日は饒舌じゃねーか。」
「せっかく久しぶりに息子に会えて嬉しいんだ。ちょっとくらい弾けても良いだろう。」
「親父、どっちかって言うと俺に彼女が出来たこと揶揄ってるだろ。」
「お、よく気づいたな。そりゃ大学時代に彼女の1人でも連れてくるかと思ってたのに女の影すらちらつかせなかったじゃないか。そんな息子に初めて出来た彼女だ。揶揄いたくなるのが人の情ってもんだろ。それに昨日の夜にちゃんと帰れるようになったって連絡したじゃないか。」
瀧は慌ててズボンのポケットから携帯を出す。触るのは昨日以来だ。メールボックスにはちゃんと龍一からのメールが入っている。その時刻を確認すると、ちょうど組紐についてあーだこーだ言ってた頃だ。悪い事したなと思っていると、不意にずっと置いてけぼりを食らっていた四葉がくしゃみをした。
「ふぇくしょい!!」
「四葉、風邪か?」
「あんた、大丈夫?」
「風邪ではないと思う。」
「これは悪いことをしたな。瀧との久々の再会に興奮して置いてけぼりを食らわせてしまったな。申し訳ない。荷物を置いて来なさい。一緒に話をしようじゃないか。」
促されて四葉が荷物を置く。三葉は瀧と一緒に席を立ち、別室で取り込んだ洗濯物を畳む。瀧は今日の夜のメインディッシュであるちゃんこ鍋の買ってきた具材を仕分けるが、昨晩のメールによれば晩飯も食べて行くらしい。晩酌するつもりだったのかもしれない。それはともかく、少し具材が足りないようだ。財布を持って部屋を出ようとし、リビングに声を投げかける。
「親父の分の具材足りないから買ってくるよ」
「はーい。瀧くん行ってらっしゃい」
そして、リビングには四葉と龍一だけが残される。
「わ、私は宮水四葉といいます。三葉の妹です。」
「瀧の父の龍一といいます。よろしく、四葉ちゃん。」
「こちらこそお願いします。」
「側から見てあのカップルはどうかな?」
「羨ましいくらいアツアツです。このゴールデンウィークで大きく進展したって瀧さんも言ってました。世間一般からしたらちょっと性急過ぎるんじゃないかと思うんですけど、でも見ててどこか安心できるんです。まるでお互いにあるべき場所に収まっていると言いますか、この2人は出逢うべくして出逢った、そんな感じがします。」
「実は私もそんな気がしてるんだ。今まで、特にここ5年くらいの瀧はずっと何かが欠けているような感じだった。見てて心配したんだ。何も相談してこなかったから放ったらかしにしてたが。でも今日の瀧は全然違う。明るく人生を楽しんでいる感じがした。親としてこれ以上嬉しい事はないな。」
「実はねえちゃんもそんな時期があったんです。常に何かを探し求めている感じ。でも瀧さんに会ってからねえちゃんは変わりました。瀧さんがねえちゃんを変えてくれました。本当に瀧さんには感謝してもしたりません。」
「あなたは三葉さんのことが大好きなんだね。」
「母を早くに亡くして、同じ時期に父も家を出て……姉ちゃんの気持ちは複雑だったと思います。今も父に対してはそうですけど。それでもまだ幼い私の母代わりとして、炊事洗濯に遊び相手まで色々してもらいました。いつしかねえちゃんに理想の大人を見ていました。だから、暗かった時期は本当に痛ましくて見ていられませんでした。だから、そんなねえちゃんを元に戻して、さらに高みまで引っ張ってくれた瀧さんは、私はもう兄同然に思っています。」
「そう考えるとやっぱりあの2人で正解だな。どこか似通ったところもあるし、お互いを支え合っている。私から言う事はもう何もない。私は九州に行くから、あの2人を見守ることができない。だから、私に代わってあの2人を間近で見続けてくれないか。将来の家族からのお願いだ。」
「もちろんです。」
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4人で楽しく鍋をつつき、瀧と三葉は食器洗いをしている。その姿はまるで鴛鴦夫婦だ。そして、別れの時間がきた。龍一は三葉と四葉に別れを告げた。瀧が四ツ谷駅まで送ってくれた。そして改札前で積もる話をする。
「じゃあ、瀧、元気でな。」
「親父も体に気をつけろよ。もう若くないんだから。」
「そうさせてもらおう。それにしても瀧には似合わないくらい上出来な彼女さんじゃないか。美人だし料理も気遣いもできる。今時珍しい大和撫子だ。」
「あ、ありがとう……」
「だから瀧、三葉さんを絶対に離すな。お前には三葉さんしかいないし、四葉ちゃんの話を聞く限り、三葉さんにもお前しかいない。それに俺は三葉さんを物凄く気に入った。彼女との結婚式以外は一切出席しないからな。」
「三葉のこと気に入ってくれてよかった。それはそうと反対したりはしないんだな。」
「もともと俺は放任主義だ。お前が決めたことには口出しはしたくないし、今回などその必要もない。」
「どういうことだ?」
「お前、自分じゃ気づいてないかもしれないがお前が部屋に他人を連れ込んだのはあの2人が最初だ。瀧がそこまでして好いている相手と引き離すような野暮なマネもしたくないしな。だから絶対に三葉さんと幸せになれ。」
「ありがとう。絶対に幸せになってやるからな。」
「それは頼もしいな。」
すると、不意に龍一が瀧の耳に顔を近づけた。
「初めてはまだなのか?」
途端に瀧は顔が真っ赤になる。
「う、うるせー!親父には関係無いだろ!!さっさと行きやがれこのクソ親父!!」
「おっと、まだなのか。なら式あげるまでは気をつけろよ。孫を見れるのは嬉しいがデキ婚は気まずいからな。また夏に会おう。」
そして龍一はゆっくりと去っていった。
最後にプラスチック爆弾を最も効果的に爆裂させて立花龍一という名の嵐は去った。瀧と三葉のゴールデンウィークも残りわずかである…………。
<次回予告>自然界なら嵐が去った後に残るのは瓦礫や倒木の山だが、滝と三葉の場合にはより強い絆が残ることとなった。そして運命の最終日、最後の最後にまた一波乱が。
次回 12月18日月曜日午後9時3分投稿 第20話「輝ける家族へ」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。