君の名は。〜bound for happiness(改)〜 作:かいちゃんvb
さて、反省を活かして12月の駿台センタープレに臨みたいと思います。
では、本編スタートです!
そろそろ近所迷惑かな?四葉もあのままだと風邪引きそうだし、何より俺までもらい泣きしそう。
そう思った瀧は風呂に再びお湯を張り、バスタオルを一枚とる。そして玄関先で泣いている三葉と四葉にそっと近づき、四葉の頭にバスタオルを被せてやる。
「お取り込み中悪いんだけどさ、四葉、風邪引くよ。今お風呂にお湯溜めてるから、ゆっくり温もっておいで。」
後ろ手で玄関のドアを閉めると、三葉と四葉が抱きついてきた。
「わ、わ、どうしたんだよ。」
「やっぱりお兄ちゃん最高やわ〜」
「ありがとう、瀧くん。瀧くんはもう私と四葉の家族やよ。」
瀧も2人を抱きしめてやる。
「こんな俺だけど、よろしく。」
しばらく抱き合っていると、湯が溜まったことを知らせる電子音が響いた。
「四葉、入っておいで。三葉、夕飯の支度手伝ってくれよ。」
今日の夕食は瀧渾身の海鮮パスタだ。以前働いていたバイト先のまかないの人気メニューだったのを、見様見真似で作ってそれを極めた。店で出しても大丈夫だとシェフも言っていた。三葉と共にエビと貝の下処理をし、付け合せのサラダにかけるドレッシングを自作する。
四葉が風呂から上がってきた。瀧が貸しているジャージを着て髪の毛を乾かしながらリビングに現れる。四葉がキッチンを見ると、時には唇を尖らせ、大抵は笑い合いながら和気藹々とお喋りして料理をしている2人の姿が目に入った。その姿は、どこからどう見ても、仲の良い夫婦にしか見えなかった。
時計がまもなく6時を指そうとする頃、夕食が完成した。大皿に盛り付けられたパスタとサラダに、コンソメスープというラインナップだ。その出来栄えに四葉は目を瞠る。
「どっしぇー、私の作るパスタとは違うわ〜〜!プロ感出てるわ〜〜!美味しそ〜〜!」
「どうぞ召し上がれ。」
四葉と三葉はパスタを口に運ぶ。
「何これ、瀧くん、美味しすぎるよ!」
「うまっ!」
満足そうに瀧は頷く。
3人はバカ話に花を咲かせながら楽しい夕食の時を過ごす。しかし、楽しい時ほど早く過ぎ去ってしまうものだ。気づけば9時を回っていた。雨もだいぶん小降りになっていた。天気予報によるとまた明日の昼ごろから雨が降るらしいが。瀧と三葉は四葉を最寄駅まで送る。
「四葉、気つけて帰りよ〜〜」
「またね、四葉。」
「ねえちゃん、楽しんどいでよ。お兄ちゃん、ウチのねえちゃん、食べちゃって良いからね♡」
「こら、四葉。冗談言わんの!」
「…………。」
「んじゃ、チャオ〜〜」
四葉は改札口の向こうに消えていった。残された2人は羞恥で顔を赤らめながら手を繋いで帰っていく。瀧の部屋にたどり着き、2人は順番に風呂に入って就寝の準備を整える。瀧がリビングに充電が無くなってきたスマホを充電器に挿し三葉の待つ寝室に戻ってくる。その時、ふと瀧は三葉の髪留めが目に入り、手に取った。
「綺麗な紐だな〜」
「それは組紐って言うんよ。私らの故郷で昔から作ってたもので、それは私が編んだやつやよ。」
「へ〜、ほんとに綺麗。」
赤と橙の糸が、複雑かつ芸術的な模様を作り出している。しかし瀧はどこかでこれを見たことがある気がした。
「実はこれ、2本目なんよ。大学生の頃にずっと使ってたやつが切れちゃって。でも手放しちゃいけないような気がして、今も机の中にケースに入れて大事に持っとるんよ。」
見れば見るほど懐かしく思う。どうしてだろう。昔に持っていたのだろうか?だが髪留めなどはしないし……
「これは結びを表してると言われとってね」
「結び……?」
「今も岐阜におるおばあちゃんが言うにはね、結びは元々は出産の産むに霊って書いて、土地の氏神様を指す言葉なんよ。でも他にも深い意味があって、神様と人間を結ぶ全てのものを指すんよ。時間が流れること、人を繋げること、神様が与えてくれた水とか米を体に入れること、そして糸を結ぶこと。全部結びって言うんよ。」
それを聞いた瞬間、ある言葉が瀧の脳裏をよぎった。そして無意識のうちに口に出す。
「よりあつまって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ。」
三葉が目をまん丸にして瀧を凝視する。
「瀧くん、なんでそのおばあちゃんの口癖知っとるん?」
「分かんないけど、三葉の言葉を聞いてたら頭に浮かんできた。」
2人は考え込むが、やはり記憶に霞がかかっているようで、何も思い出せない。それでも、三葉は一つのことを思い出した。
「そういえば一回東京に行った時に組紐無くしたんやよね。なんで東京に行ったかすら思い出せへんけど。確か彗星が落ちる前の日やったっけ。でも彗星が落ちた時にはしとったんよ。でも落ちた日の記憶あんまりあらへんし。いや、誰かに渡したんやっけ……?」
それを聞いて瀧は思い出す。
「そうだ、俺、組紐を持っていたことがある!間違いない、持ってた。確か中2くらいの時に。毎日何故かブレスレットがわりにつけてた。でも高2の頃に無くしたんだ。」
「何色?」
「多分これとおんなじ色だ。赤と橙だよ。」
「待って、私が東京に行ったんが私が高2で瀧くんが中2やろ。しかも東京……。ひょっとして瀧くんに組紐あげたんって私!?」
「いや、それならおかしい。俺は3年間持ってたのに三葉は彗星が落ちた時に持ってた。だからそれはないと思う。でもタイミングが良すぎるよな……」
2人は再び考え込む。可能性は2つだ。
1、2つの組紐は別物。
2、同じ組紐が何故か2本存在している。
2はありえなさすぎるが、だが2人の胸には2がとてつもなくしっくりくるのだ。
「……………やめよっか」
「だよな。頭がこんがらがって訳分かんなくなってきた。」
2人は抱き合い、一度深く口づけして眠りに就こうとした。だが、瀧は先ほどのモヤモヤがいつまでたっても消えず、なかなか寝付けない。瀧は不覚にも苛立ってきた。少し疲れもあったのだろう、ムシャクシャしてしまった瀧はベッドから出て台所の水を飲んだ。すると寝室から三葉が出てきた。
「眠れんの?」
「なんか組紐のことでムシャクシャしちゃってさ。」
「ひょっとして私が寝てると思って気遣った?」
「まあ…そんなところ。」
「瀧くん。」
三葉は少し嗜めるように言う。
「私ら恋人やよ。瀧くんだけがムシャクシャしてどうするんよ。思うところがあるんやったら私にもちゃんと言うて。ほんまに私が寝てたんやったら話は別やけど、私まだ目を開けとったからね。瀧くんが優しいのは嬉しいけど、なんかあったらちゃんと甘えて欲しいんよ。年上やし。」
三葉のその言葉に救われる。そしてお言葉に甘えて少し愚痴る。
「俺と三葉は何か深いところで繋がってたはずなんだよ。なのに肝心なことが思い出せない。俺は三葉と過去に何かあった。そう確信してる。だからその過去を知りたいのに、何かが邪魔をする!」
気づけば瀧の目からは涙が溢れていた。三葉は瀧を背伸びをしながらギュッと抱き締めて耳元で優しく囁く。
「それは私もおんなじやよ。だからモヤモヤする。でも今、瀧くんと一緒に居れることの方が私は大事やと思う。だからこの奇跡を大事にしよ……」
三葉の言葉が瀧の心をほぐしていく。
「ごめん、三葉……」
「ええよ。とにかく寝室に戻ろっか。」
「そうしよう。」
2人はベッドに腰掛けた。
「組紐か………。」
「瀧くんそう言えば一回糸守に行ったことあるって言ってたやんね。いつ?」
「5年前の10月の頭に司と奥寺先輩と3人で。確か山の上で目覚めたのがちょうど彗星が落ちた日だったな。」
「その時に山に登ったんやね?」
「ああ。真ん中がでっかいクレーターみたいになってて、その真ん中に祠のある山だよ。何で登ったかも分からないけど、気付いたらそこにいた。」
「そこの祠、宮水神社のご神体が祀ってあるんよ。んでその祠に組紐があるんよ。」
「へ〜〜。」
「そこへ行った覚えはある?」
「…………あるような、無いような………。でも俺はそれより前から持ってたよ。」
「そりゃそうやよ。あれは奉納のためだけに新しいの作んねんから。……………?」
「どうしたんだ?」
「奉納しに行った覚えが無い………。」
「えっ?」
「私あの年山に登ってない!間違いない。でも何でか分からんけど奉納したことは知ってる。何で?」
「風邪引いて寝込んでたとか?」
「それでも神事やから熱出てる事黙ってでも私は行くはずなんよ。」
「何か想像できるわ。無理して山登りしてる三葉。」
「……………一回行った方がええね。」
「糸守に?」
「うん。」
「………いつにする?」
「彗星が落ちた日。間違いなくここが何か鍵になってる気がするんよ。」
「分かった。休み取っとく。」
「じゃ、そろそろ寝よ!」
「お休み、三葉。」
「お休み、瀧くん。」
そして、2人は眠りについた。翌日に起こる騒動を予想だにせず………。
<次回予告>九州からの来訪者が近づくなか、瀧と三葉のゴールデンウィークの時間は刻一刻と流れていく。果たして、来訪者がもたらすのは悲劇か、はたまた喜劇か………?
次回 12月4日月曜日午後9時3分投稿 第18話 「あなたはだあれ? 前編」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。