君の名は。〜bound for happiness(改)〜   作:かいちゃんvb

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野球のアジアチャンピオンズカップ、日本が優勝しましたね!野手では外崎と西川、投手では今永、田口、山崎が大活躍してくれました!今後の国際大会にも期待できますね!そして何より、稲葉監督、初采配お疲れ様でした!
では、本編スタートです!


第16話 姉妹の絆

2022年5月3日。この年から遡ること75年、1947年5月3日に現行の日本国憲法が運用を開始されたことを記念して国民の祝日に制定された憲法記念日である。しかしこの日は爆弾低気圧の影響で朝から荒れた天気となっていた。

この日から二泊三日で瀧の家に泊まることになっていた三葉は荒天を考慮して早めに家を出た。雨が激しく降り、何より風が強い。道を歩く人も普段より少なく、暴風は多くの人の傘を破壊していた。三葉も傘を風に立ててじりじりと歩みを進めていたが、ようやく最寄駅が見えてきたというあたりで急に風向きが変わり、三葉の傘は一瞬にして鉄骨とビニールの残骸と化した。

 

「うわー、最悪。」

 

北参道駅のゴミ箱に傘を捨てようとする。すると、ゴミ箱の横に大きなごみ袋が貼り付けてあった。ここの駅の駅員の計らいだろう、マジックで傘用と書かれている。ありがたくそこに捨てさせてもらい、さらにご自由にお取りくださいと書かれている傘を手にとって瀧のマンションの最寄駅である四ツ谷駅に急ぐ。集合時間は11時。まだ10分ほど余裕がありそうだ。

三葉は改札口を出る。時刻は午前10時52分。遅れなくて良かったと胸を撫で下ろしていると、瀧が視界に入った。しかし何故だろう、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

瀧は今日は少し寝坊してしまった。少し体がだるかったが、急がなくても11時には間に合いそうだったので傘を持って家を出る。そして駅がすぐそこに迫っていた時、暴風は容赦なく瀧の傘を完全破壊した。とにかく駅舎に駆け込み、駅舎内にあるコンビニを目指す。しかし何ということでしょう!傘が全て売り切れているではありませんか!ここから最も近いコンビニまでは駅舎を出て歩かなければならないし、駅舎内に100均も有るが、流石に100均傘ではこの暴風雨には心許ない。何よりも11時まであと10分しかなかった。瀧は観念して三葉を改札前で待ち構えることにした。程なくして三葉が改札口を出てきた。

瀧は三葉に事情を説明する。

 

「相合傘できるね!」

 

三葉は明るくそう言って三葉の家の最寄駅で貰ってきた傘をさす。大きいコウモリ傘だ。2人で肩を寄せ合って歩き出す。

 

「明日どうする?明日も雨みたいだけど……」

 

「そうやね……」

 

「カラオケでも行こうか。」

 

「そうやね。」

 

瀧のマンションが近づいてくる。あと3分ほどだろうか。その時、瀧にとっても三葉にとっても二度目の悲劇が起きた。それまで雨は激しかったものの、風は小康状態になっていた。しかしこの瞬間、突風が吹きつけた。コウモリ傘の骨がバキバキと折れ、使い物にならなくなる。

 

「あちゃー……」

 

「マジかよ……」

 

「もうすぐ着くやんね。瀧くん、走ろ!」

 

「風邪引くよ!」

 

「雨宿りしたところで、雨が弱なるとも思われへんし、すでに濡れてるやん。」

 

「どのみち一緒か……」

 

結局濡れ鼠になりながら瀧のマンションにたどり着く。瀧はなるべく三葉を庇いながらパンツまでぐっしょりになって走ったが、三葉も助かったのは荷物とショーツくらいのものだった。瀧はバスタオルを一枚とってきて三葉に渡す。そして瀧はバスタブに湯を張り始めた。三葉は今は使っていない父の部屋に案内した。

 

「お湯入ったらゆっくり浸かりなよ。」

 

「こら、ダメやよ瀧くん。それやったら瀧くんが風邪引くやないの。私を大事にしてくれるのは嬉しいけど、瀧くんが風邪引いたら私は嫌やよ。」

 

「でも俺が先入るのもまずいよ。」

 

「…………2人で入ろ。」

 

「ふあっ!?」

 

流石に冗談だろうと思って三葉の顔をみるが、三葉の顔は真っ赤だった。つまり本気だ。

 

「ちょ、ちょ待てよ。俺の理性耐えれるかどうかわかんないよ!自信ないよ!俺!!」

 

「ええよ。瀧くんが風邪引くよりは。」

 

三葉の優しさに触れ、心が暖かくなる。瀧は心に誓った。ここだけは耐えてみせる!

 

「わかった。入ろう。一緒に温もろう。」

 

「うん。」

 

ちょうど浴槽に湯が溜まったことを知らせる電子音が聞こえた。2人は別々に裸になり、脱衣所で落ち合う。そろそろ末端が冷えてきていた。別に体を洗う必要はないので、三葉は胸から、瀧は腰にバスタオルを巻く。

三葉が感慨深げに呟く。

 

「ほんまにタレントさんみたいにこういう風にバスタオル巻く日が来るとは思わへんかったな〜」

 

掛け湯をし、もし欲望が勝ってしまった際でも三葉が逃げられるように瀧が先に入る。

 

「うわ〜〜、天国だ。」

 

「ほんまや〜、生き返る〜〜」

 

立花家の浴槽はそんなに広くないので、瀧の太腿の上に三葉が乗っている状態だ。否が応でも股間が反応してしまう。

 

「瀧くん………?」

 

「大丈夫。生理現象だから。まだ大丈夫。」

 

瀧は半分自分に言い聞かせる。

 

「ほんまに……?」

 

「大丈夫だから。でも三葉の肌綺麗だな〜」

 

「…………触ってもええよ。」

 

その言葉に甘えてスベスベな肌を少しなぞる。そして三葉の肩に少しお湯をかけてやる。もちろん、あの日の朝のような間違いを犯さないように胸を回避しながら……。そして三葉の髪の毛をすく。三葉の全てを愛おしく思った。相変わらず股間はギンギンだが、心は平静を取り戻してきた。

三葉も自分を優しく扱ってくれる瀧に身をまかせる。瀧と一線を超えてしまうのではないかという不安に取って代わって、瀧の体温を感じていられることで得られる安心感が上回ってきた。2人とも一線を超えてもいいとは思うが、それよりも2人でこうして体を密着させていることで安心する。2人の関係は体を重ねずとも、また婚姻届を提出せずともすでに家族の域にまで達していたと言ってもいいかもしれない……。

 

2人は風呂から上がり、少し遅めの昼食をとる。この後夕方になれば、友達と勉強していた四葉が合流して一緒に夕食をとることになっているので軽く済ませ、ソファーで映画を観ながらくつろぐ。観終わる頃には時計は4時過ぎを指していたが外はまだ荒れ模様で、ごうごうという風の音が聞こえる。四葉もそろそろ来る頃だろう。三葉は帰ってきたからゴミ箱に乱雑に突き刺さっている壊れたコウモリ傘を見ながら瀧に話しかける。

 

「それにしても今日の天気は凄いよね。2人で傘3本も壊してるし。」

 

「全くだよ。あの傘結構気に入ってたのに。」

 

「そういえば瀧くんのお父さんはこのゴールデンウィークはここに帰ってこないの?」

 

「一昨日にメールで多分来れないって言ってた。仕事忙しいんだって。」

 

「仕方ないね。でも会いたかったなー、瀧くんのお父さん。どんな人なんやろ。」

 

「基本的に放任主義。でも礼儀とか社会のルールには厳しかったな〜。喧嘩して帰ってきても何も言わないのに、忘れ物とりに帰ったら<そんなのは社会じゃ通用しないぞ!!>なんて怒鳴られたっけ。それ以外は至って普通の親父だよ。」

 

「ふーん」

 

瀧は以前四葉と話した三葉の父親のことが思い浮かんだ。恐る恐る聞いてみる。

 

「三葉のお父さんってどんな感じなの?」

 

三葉は眉をしかめる。

 

「話したくない?」

 

「…………うん…………」

 

とはいえ大体のことは四葉から聞いている。できれば三葉の今の考えが知りたかったが、詮索はしないことにした。

 

「わかった。でも隠し事は無しだからな。いずれは話してくれよ、三葉。」

 

「うん、ゴメンね。」

 

「いいよ、人の家族のことは無闇に聞かない。相手が話したくなるまでは待つ。親切心も裏返った後が怖い。例えそれが近しい人でも。これも親父が言ってたな。」

 

「瀧くんのお父さんはええ人やねんね。瀧くんが優しいんはお父さん譲りかもしれへん。」

 

「そうかな。」

 

「そうやよ。」

 

思春期の頃は父が煙たくて仕方のない時期もあった。人間関係や社会のルールについてはかなり厳しく、瀧がそれを破ると手を上げることも容赦しなかったが、自分が社会に出た後になってみると、父の言葉の一つ一つがあらゆる場面で当てはまった。あの時殴られててよかったと思うことも多い。家では無口で多くを語らなかったが、ずっと瀧のことを見守ってくれていた。今度帰ってきたら、男2人でじっくり酒を飲み交わすのも悪くないかもしれない。

 

「そういう三葉も立派だよ。東京出てきてから二人暮らしして、大学でもほとんど遊ばずバイトしてお金入れて、四葉と2人で生活してたんだろ。会社入ってからもバリバリ働いて、今じゃ同期の中でもかなりいいポジションにいるって。この前奥寺先輩……ミキ先輩が言ってた。」

 

「でもそのぶん四葉には寂しい思いをさせちゃったな。」

 

ここで瀧に老婆心が働く。この姉妹の絆を深めてやりたいと。四葉の想いを三葉に知ってほしいと。

 

「四葉もそれは分かってる。だからこそ四葉は頑張ってるんだと思う。あいつ、三葉のこと追いかけてるから。三葉みたいな大人の女性になりたいと思ってるから。」

 

「えっ……私みたいに?」

 

「この前、四葉と2人で話したんだ。そこで俺のことをお兄ちゃんって呼び始めたんだけど、何でだと思う?」

 

「ま、待って。私そんなに立派ちゃうよ。」

 

瀧は三葉を抱きしめてやる。

 

「わかるよ。心の中には穴が空いていて、それを紛らわせようとがむしゃらにやってきたんだろ。俺もそうだったから。四葉は聡いからそれにも気づいてた。今の三葉なら大丈夫とも言ってた。」

 

「四葉……。」

 

三葉は涙が止まらない。

 

「だからこそ三葉をよろしくお願いしますって、俺と家族になってくれって言ったと思う。今まで心配かけてきたからこそ、三葉に頼りたくない。だからなんかあった時に頼れる人が欲しかったんだ。これが四葉が俺のことをお兄ちゃんって呼び始めた顛末だよ。」

 

その時ちょうどインターホンが鳴った。カメラには四葉が映っている。三葉は玄関に向かう。

 

「お兄ちゃんお邪魔しまーす……わっ、ねえちゃん!?」

 

三葉は四葉を抱きしめ、泣いていた。

 

「四葉、こんなお姉ちゃんでゴメンね。寂しかったんやね。だから瀧くんに縋って、家族になってもらったんやね。でも私も頼ってよ。あんたのたった1人のお姉ちゃんやねんから。」

 

「ねえちゃん……」

 

四葉の目からも涙が溢れてくる。瀧の優しさが、姉妹の絆をより強固にした。

なんて優しい兄を得たのだろう。四葉はそう思った。

なんて優しい彼氏を得たのだろう。三葉はそう思った。

瀧が2人を部屋の中に連れ込んでドアを閉めようと近づいて来るまで、しばらく2人は抱き合っていた。




<次回予告>組紐、それは糸守町に長きにわたって伝わってきた、由緒正しい品である。三葉や四葉が髪留め代わりに用いている品でもあるが、その三葉の組紐に、奇妙な事実が存在することが判明した。
次回 11月27日月曜日午後9時3分投稿 第17話「組紐にまつわるエトセトラ」
瀧と三葉の物語が、また1ページ。

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