もぐらとテストと召喚獣   作:冬目 ゆうら

3 / 3
もぐらとプールと水着の楽園___

夏の日差しが少女の真っ白な柔肌を焼く。

さらさらと風に揺れる琥珀色の髪が、光を受けて煌めいていた。

 

翔子ともぐらが、日向で待っている明久達の元へ歩み寄る。普段は日光にさらされることのない少女達の玉肌は、光を反射して彼女達の存在を一層際立たせていた。

...ついでに胸のサイズも。

 

「おおー!」

「...なんか...二人共以外と大きいわね...」

 

「私はCよ」

「もぐらのカップもCなのです!」

翔子と共にもぐらがふんす、と鼻を鳴らし、自らの胸を寄せて強調した。敗北感に打ちひしがれる美波の後ろで鼻血が飛び散っている。

もぐらの着ている水着は、オレンジ色を基調とした大きなリボンとたくさんのフリルで装飾されており、夏の季節感を演出しつつもどこか清楚な印象を受ける。流石は聖職者。

もぐらや翔子のスタイルを隅々まで観察した美波が、よろけながら立ち上がった。

 

「Charme des Mädchens Brust ist nicht. Toller Mensch mit einem großen Herzen Verstand ist wichtig....」

 

説明しよう!島田美波は一年前ドイツからきた帰国子女であり、余裕がなくなると、喋る言語が馴れ親しんだドイツ語になってしまうぞ!

 

「あああぁあぁぁ...!!!」

 

「雄二は他の女の子見ちゃだめ」

怒涛の勢いで翔子に目潰しされた雄二が、断末魔をあげてもがいた。明久が、悟りを開いた菩薩のような表情で二人を眺める。

 

.....雄二。南無。

 

 

 

 

夏の日差しが照りつける午後、明久達はなんとかプール掃除を終え、掃除したてのプールで早速泳ぐことにした。各々浮き輪で遊んだり、日陰で休んだり、恋人をプールの底に引きずりこんで窒息させたりと、この状況を最大限に楽しんでいる。

弾け飛んだ水飛沫が光を受けて宝石のように輝き、少年少女の髪を濡らした。

 

「もぐら泳ぐです!!うおおおおおお」

 

他の女子達がビーチボールなどで遊ぶ中、もぐらが一人だけ物凄い速度でバタフライしている。プールを一回往復するのに12秒もかかっておらず、その様子はまるで魚雷のようだ。

 

「もぐらちゃんって泳ぎ得意なんですね〜!」

「もぐらはゴボッ水泳部にも勝てゴボゴボ!」

「泳ぎながら喋るでない!」

 

プールの西側で遊んでいた女子二人...もとい女子一人と秀吉一人が魚雷(もぐら)の泳ぎっぷりを眺める。もぐらと彼女がたてる水飛沫により、プールの一角はまるで戦場だ。

プールサイドで発狂しドイツ語を永遠と呟き続けていた美波にも水飛沫がかかり、美波が正気を取り戻す。

 

「Brust ist nicht erforderlich Größe ist kein problem....はっ...ここは....!?」

「あ!もぐらだー!ボクと勝負しようよー!」

 

キョロキョロと辺りの様子を確認する美波をよそに、ペタペタとプールサイドを歩く足音と共に、ショートの緑髪少女、工藤愛子が現れた。

 

「愛子ぼぼごぼ〜!遊ブクブクブ」

「うん!今着替えてくるよ!待っててね!」

「なんで頑なに泳ぎ続けるんじゃ!一旦止まれば良いではないか!」

 

バタフライしながら返答するもぐらに突っ込む秀吉。水上においてはこれがもぐらの通常運転なのか、愛子はこの状況に驚きすらしていない。

 

___愛子ともぐらの関係は、親友と言っても過言ではない。愛子は、もぐらが転校してきて一番最初にできた友達であり、現在は休日ほぼ毎日一緒に遊ぶ仲だ。二人とも水泳が好きという共通点もあり、最近では愛子が頻繁にFクラスの教室に遊びにいく姿も目撃されている。

 

「工藤さんと清宮さんってやっぱり仲良しだね〜」

「穴掘りのおねえちゃんはやーい!」

「転こボボブベしてブクブクブ初めてできたともだゴボゴボブクブクブ!」

「日本語が成り立ってないよ!」

 

美波の妹葉月と共に、明久がもぐらがいる隣のレーンに泳いできた。隣のレーンからでももぐらが起こす水飛沫の影響は大きく、勢い良く降りかかる飛沫に、葉月はイルカショーの水かけのノリではしゃいでいる。

愛子は女子更衣室へ向かおうとしたところで、何を思い付いたか意地悪な笑みを浮かべ、踵を返した。

 

「あ、女子更衣室を覗くなら、バレないようにね❤︎」

 

ぶしゃあああ!!

 

愛子がウインクして星を飛ばす。もちろん冗談なのだが、その言葉に思春期真っ盛り系男子の明久と康太は秒速で撃沈した。

ついでにプール内を縦横無尽に泳ぎまくる魚雷、もといもぐらに跳ね飛ばされ、鼻血が宙に舞い散る。大破。

 

その様子を微笑ましそうに眺めていた愛子が、はっと思い出したようにもぐらに手を振った。

 

「もぐら!きてる水着ってスク水?」

「ビキニボボボボブク!」

「あちゃー....男子はちょっと更衣室に移動してくれないかな?」

「?」

 

 

愛子が苦笑して、男子に呼びかける。

状況が掴めないまま頭に疑問符を浮かべる明久の横で、康太はピタリと動きを止めた。

彼が動きを止めたわけ、それは水面に浮かぶソレを目視してしまったからである。

オレンジ色の、フリル付きの...

 

「あれ、水着じゃ....」

「バ●ス!!!」

「あああああ目が!!目がああああ!!」

 

翔子が、雄二の目に指を突っ込む。

好きな人に他の女の子の裸を見せるのはやはり嫌なようで、翔子はその小さい頰を膨らませた。雄二はひたすら世紀末のような断末魔をあげており、雄二付近だけホラー映画のワンシーンのようだ。

翔子も目潰しで死にかけている雄二を引きずって更衣室の方角へ歩みを進める。

 

「ゴボゴボ?」

 

辺りの様子にもぐらが動きを停止させた。

康太が反射的にカメラを構えるも、妄想だけで血溜まりを作ってあえなく卒倒する。

 

デザイン重視の取れやすい水着で本格的に泳いだら、一体どんな状況に陥るかは、どんなバカでも簡単に予想ができる。だが、本能に生きるもぐらがそんなことを思慮するなど全く無いわけで。

 

もぐらの体が水面に浮かんできた。

愛子を始め、その場にいる人間が慌てふためく。

彼女は現在裸である。今彼女が水面から出れば、その華奢な体をありのままに男子含め大勢の前で晒すことになる。本人は全く気にしてないが、それでは彼女がお嫁に行けなくなってしまう。

 

 

__________刹那。

 

一陣の風が、プールサイドを通り抜けた。

 

 

「もぐら。女の子なんだからそこらへんは気を付けなきゃダメだよ。」

「誰!?」

「あれ?兄さま?」

 

一人の人物が、男子の視界からもぐら(裸)を遮るように、風のように現れた。整った顔立ちが、穏やかな微笑みを浮かべる。

 

「鼻血出てますよ」

「しっかり水着に着替えてるし」

 

そこにいたのは、オレンジ色の海パンに白のパーカーを羽織った、橙髪の青年だった。若干瞼の下がった澄んだ紫の瞳に、通った鼻筋と形のいい唇。普通に彼を見かけたら、女子は思わず二度見してしまうであろう、神の恩恵を一身に受けたが如き美青年だ。

...鼻から大量の血が流れ出ていることを除けば。

 

現在の彼はもぐらに背を向けてはいるものの、息遣いが非常に荒く、全体的にキモいという印象を受ける。夜間に遭遇したら、例え自分が男でも間違いなくポリスにもしもししてしまうだろう。

 

「これは鼻血ではないよ。此処にいる天使の美しさを讃え、我らが神が与えたもうた聖水だ」

「この人全体的に頭がおかしいわ!」

 

真顔で鼻血を噴出しつつ天を仰ぐ遥希に、美波が嘆くように叫ぶ。

蛙の子は蛙ならぬ、アホの兄はアホである。

遥希が騒いでいる間に瑞希がもぐらの水着を拾い、慌ててもぐらに着用させた。

 

「瑞希、ありがとうございます!」

「水着って取れやすくて困っちゃいますよね〜」

 

「純粋培養すぎるのもよくないな...だがマイエンジェルに穢らわしいえっちな知識など」

「誰ですかあなた」

「あ、ごめんね!もぐらの兄だよ」

 

言葉を遮られ我に返った遥希が、コホンと咳払いし、外面である穏やかな微笑みを明久に向けた。

 

「今度もぐらのお色気描写をみたらぶち殺すよ」

「外面脆すぎかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ガタ。

 

「あれ、このバスケットは?」

 

プールサイドをよろけながら歩いていた雄二が、物音に気が付いて荷物を置いているベンチの方に視線を移した。

雄二が隙間からバスケットの中身を覗こうとしたところで、彼の後ろに黒い影が這い寄る。

 

「雄二の目、回復したのね。もう一度潰す」

「あ"あ"あ"あああぁぁ」

 

「あ、それ私のです!失敗しちゃって人数分用意できなかったので黙ってたのですが...」

 

ひとつの悲劇の誕生とともに、瑞希が照れ臭そうに手を挙げた。プール全体の空気が固まる。

時は7月、夏真っ盛りにも関わらず、明久達の間に流れる空気は非常に冷たい。

 

「わあすごいね!こんなに綺麗なカップケーキ、君が作ったの?」

「ありがとうございます!よければいかがですか?」

「部外者の僕が食べちゃっていいの?」

「皆さんいいですよね?」

 

瑞希の問いかけに、場にいた男子たちがヘッドバンキングする勢いで首を縦に降る。

むしろ食べて下さいと言わんばかりの勢いだ。

 

「なんかごめんね〜?いただきます」

 

ぱくり。

 

 

 

_________遥希がその物体を口に含んでから、気絶するのに時間はかからなかった。遥希の体が無彩色に染まり、灰となって崩れ去る。

 

「清宮さんのお兄さん...せめて安らかに..」

「....南無南無」

「兄さまはキリスト教なので南無はダメですよ」

「問題はそこなのか...」

 

 

____瑞希の料理を食べる。それは死を意味する。

 

彼女の作った料理は、一見すると丁寧で見た目も美しく美味しそうだが、問題点はその成分にある。

彼女は料理を科学と同質に考えて行うため、食べ物に薬品をぶち込んだりして結果的に出来上がるのは猛毒なのだ。

前に彼女のお弁当で痛い目を見た男子四人は、それがどんなに恐ろしいものなのか知っていた。

 

 

「これは...」

「でもせっかく作ってきてくれた姫路さんを悲しませるのは可哀想だよ」

「お主命を投げ捨てるつもりか?」

「...つらい」

 

完全にお通夜ムードの男子四人が、バスケットの前でひそひそ話す。この劇物を何も知らない女子たちに食べさせるのは、流石に良心が痛む。

遥希が食べた分ひとつ減ったが、それでもカップケーキは三つある。生き残っている男子は四人、うち三人が犠牲にならなければならない。

彼女の料理を食べれば命の保証はない。四人の表情は必死で、緊迫した空気が彼らの心を圧迫する。

 

「じゃ、じゃあ、今から水泳で勝負しよう!」

「そそそ、そうじゃな!」

「一番早かった人が食べなくても...あっいや食べられないってことにしよう!」

 

明久の声が裏返る。もはや彼らはヤケだった。

男子四人の目から光は消え去っており、半分発狂状態になっている。

 

______彼らは自らの命運をかけ、プールのコーナーに立った。




そういえばもぐらのcvは植田佳奈さん、兄貴の声優は石田彰さんのイメージです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。