「私は.....キリト君が元に戻らなかったら、一生あなたを許さない。」
今、この状況はどういう事だろうか。
自分よりは数cmもある男をその少女が胸倉を掴み、更にはその踵を浮かせている。
「.....分かってるよ。キリト君は絶対治す。」
「っ.....」
その言葉を信用したのか、手を放す少女━━明日奈。
よろけた彼女を、素早く藍子が支えた。
「.....大丈夫ですよ。キリトさんなら、必ず帰ってきます。」
「.....うん、そうだよね。ありがとう。」
改めて気を持ち直し、目尻に少しだけ溜まった涙を拭った。
流石だ。彼女がそういう事に長けているのもあるが、やはり自分の経験に基づいてだろう。
それを思った響也は、ズキリと胸の奥が痛くなった。
「(.....明日奈を、自分に重ねてんのか。畜生.....もうちょっと速かったら.....!)」
彼は後悔していた。自分の無能さに。
ここまで、頑張って貢献していたつもりだった。
だが、肝心な時ではどうだ?逆に足を引っ張っている。
「(.....後悔するのはまだだ。今は俺が出来る事を.....!)」
自分も出来る事がある。それを表すように、今の状況をもう一度振り返る。
占領されたのは、メインコントロール室と第一STL室。予備のSTLがある第二STL室は無事だ。
【ユージオ】のフラクトライトも俺が持っている。
なら、今やる事は.....
「明日奈さんに藍子さん。」
「.....何かしら。」
「何でしょうか?」
「彼を.....助ける意欲はありますか?」
「!.....勿論!」
「ええ。今度は、私達が.....!」
一瞬、戸惑った素振りを見せたが、すぐに肯定の意を示した。
.....その意気、流石は【閃光】だな。それなら尚更━━
「菊岡さん。第二STL室、使っていいですか?」
「.....やるんだね。」
「ええ。彼を助けるのは、僕じゃなくて彼女達ですから。」
━━技術者の意地ってモンを見せてやらないと。
「さて、アンダーワールドに今からログインする訳ですが.....
スーパーアカウントについては大丈夫ですか?」
「ええ。」
「大丈夫です。」
第二STL室にて。
彼女達が横になっているのを横目に、俺は注意をもう一度確認していた。
「なら最後に。彼方では【最終負荷実験】が始まっていると思います。
それにはテロリストも参加している事でしょう。充分に気を付けてください。」
恐らく、二人か三人は居る筈。言えることはどいつも手練れという事だけ。
そんな中行かせるのは無理があるかもしれないが.....これしか方法がない。
「.....では、ダイブさせます。」
閑話休題。俺はSTLのスイッチを押す。
その瞬間、彼女達の顔に苦痛.....いや、激痛の表情が塗られる。
スーパーアカウントは能力が強いが、その能力の容量が多すぎるのだ。
.....まぁ、こればっかりはどうしようもない。心が痛むけど。
「.....ダイブ成功、か。比嘉さん!」
「オッケーっス!【ユージオ】確認!条件再構築します!!」
ユージオを生き返らせるには少々時間が必要だ。最も、彼の出番が無ければ良いのだが。
彼はあの世界で死んだ。なら、少しでも死に対する恐怖がある筈。それを再度味わせたくなかった。
「.....考えは無用だな。さて、こっちは散々プライドを削られたんだ。
覚悟しろよ、テロリスト共.....!」
そう言って、俺は獰猛な笑みを浮かべた。
次回の『Diavolo Bianco』は.....
「気になるんだろう?」
「君の仕事は、彼女達を守る事っス。」
「.....行くか。」
遂に......!?