魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 かなり時間が掛かってしまいました。
 最早、毎度になってしまいましたが…。
 それでは、お願いします。


第51話 行く先

           :美海

 

 目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

 視線を彷徨わせると、どうもアースラの中らしい。

 リニスがこっちを覗き込んでいるのに、そろそろ反応すべきだろう。

「美海!大丈夫ですか!?」

 記憶障害とかはない。

 体調は、もう無理が祟って変調をきたしてるみたいだけど。

 だから、答えはこうなる。

「まあ、ボチボチ…」

「ダメじゃないですか!!」

 いや、頭に響くから。

 顔を顰めて、上体を起こす。

「まだ寝てて下さい!」

 そういう訳にいかない。

「どのくらい寝てた?」

「まだ半日も経っていませんよ」

 それこそダメじゃん。

 私はゴソゴソとベットを降りる。

「だからダメですって!」

「時間との勝負なんだよ。半日も無駄にしたんだから急がないと」

 約束がある。

 寝るのは終わった後でいい。

 幸い魔力は使わなくていい作業だ。

 リニスの制止を振り切るように廊下に出ると、そこには更なる刺客が。

「美海!もう大丈夫なの!?」

 フェイトだった。

 後にはなのは、はやて、飛鷹君が居たが、真っ先に声を上げたのはフェイトだった。

 凄い剣幕で、後ろに続く面々が口出し出来なかったようだ。

「うん。取り敢えず大丈夫」

 サラッと嘘を言って、通り過ぎようとしたが止められた。

「嘘だよね?」

 何故バレる?

 何気なく後ろを振り返ると、そこに般若の猫がいた。

 ああ。これでバレたのか。

「時間ないからさ。目を瞑ってよ。じゃ、そう言う事で」

 一点突破。

 かなりみんなから止められたけど、進んだ。

 約束は守らないといけない。

 なんとか作業を準備している筈の部屋を、局員から聞き出し入る。

 そこから作業を開始した。

 

 で、終わったんだけどね。

 なんでかリインフォースが小さくなっていた。

 

 うん。取り敢えず上手くいったかな?

「いやいや、どういう事だよ、これ!?」

 チッ!無理矢理納得しようとしてたのに…。

 飛鷹君の無用なツッコミで台無しになった。

「ええっと…美海ちゃん…。成功?したんやろか?」

 はやてに訊かれては仕方がない。

「多分になるけどいい?」

 私が確認すると聞かれてもいない人達も頷いた。

 私はアレンジを行う際に、可能な限り怪しいデータを削除した。

 少しでも汚染されたデータが残ると、そこから増殖する恐れがあったからだ。

 リインフォースは、まだ侵食されてはいなかったが、その影響が皆無な訳がない。

 だから、私はリインフォースのデータも調べ上げた。

 そして、案の定怪しい部分を多数発見した。

 リインフォースをそのままにしたら、今度はリインフォースまで飲み込まれる事に

なる。

 それを防ぐ為、それらの怪しいデータを全て削除した。

 それが無くても問題ないレベルでアレンジした。

 おそらくそれが原因だろう。

 では、何故こうなったか。

 私はコアになる部分を残し、極限までデータを削った。

 つまり、リインフォースの根幹部分を残した形だ。

 融合機も流行り廃りがある。

 最初の頃は、あのリインフォースみたいに大人な女性型が好まれたが、後年は燃費のいい

小人型が人気になった。

 まあ、大人の女性型だと問題があったからってのもあるけど…。

 今は関係ないから端折る。

 融合機は造った事がないから断言は出来ないけど、小人型が融合機の原型なのではないか

と思う。

 もう記憶は曖昧だけど、このリインフォースの後釜、確か2だか、ツヴァイだったかも、

このリインフォースを元に造った筈だ。

 つまり経験値やらアップデートしたものを取り除けば、すべからくこうなるんだと思う。

 私は以上の事を説明してやる。

 勿論、後釜の部分は抜いて話したけど。

「つまりは、この姿が原型って事か?」

 飛鷹君が首を捻りながら言った。

「まあ、繰り返すけど、多分ね」

 それよりも確認すべき事があるよね?

「リインフォース。記憶とかどうなん?」

 流石にはやてはマスターだけあって、気が付いたようだ。

 誰よりも早く確認する。

「はいです。いえ、はい?」

 リインフォースはといえば、現状に戸惑い始めている。

「ああ…。喋り易い方で話してくれたらええで?」

「すみません…」

 はやてのフォローに、リインフォースが申し訳なさそうに項垂れる。

「自己診断プログラムを起動したら、やっぱりかなり記憶が失われてますぅ。今の事も朧気

ながら…って感じですかね?魔法に関しては、全て失っています」

 つまり、はやてがマスターである事や、さっきまでの出来事は朧気ながらに覚えている

けど、完全ではない。

 昔の事となると殆ど思い出せないようだ。

「でも、リインフォースには違いないやね?」

「はい…です」

 どうも今の姿の影響で、喋り方が直らないらしい。

 例によって、申し訳なさそうにリインフォースが謝るが、はやてが首を振って言った。

「ええんよ。無事でいてくれさえすれば、それでええ。魔法なんてこれから一緒に覚えて

いったらええんやし。これからもよろしくな!」

「はいです!」

 しかし、元の姿を知っている身としては、違和感が半端ないな。

 私がやった事だとしても。

 

「となると、残る問題は我々の決闘のみとなるな」

 お祝いムードをガン無視した発言が飛び出す。

 こんな事を言ったのは、烈火の将だ。

「悪いけど、暫くは体調が戻らないから、そっちは調整でもしておいて。治ったら連絡する

よ」

 守護騎士連中は少し不満そうではあったが、頷いた。

 連中とて、不調の相手に勝ったって満足しないだろう。

 

「私との話し合いは、ゆっくり時間を取ってね?」

 いつの間にやら来ていたリンディさんが、黒いオーラを発しながら言った。

 

 あっ、そっちもあったね。

 

 

           :リンディ

 

 取り敢えず美海さんとのお話は、彼女の体調が回復してからの話だ。

 私はそれを念押しすると、ここへ来た本題は話す。

「飛鷹君。夫から預かった物を渡してくれる?」

 お互いに、バタバタしていた所為で、未だに受け取れずにいた証拠品を今のうちに受け

取りに来たのだ。

 本当はもっと早く受け取りたかったのだけど、一応投降という立場を取っている5隻の

戦艦の対処に追われていたのだ。

 本艦もボロボロで人員は足りない。

 回収に回せる余裕が一切ない状態だった。

 艦長が持つマスターキーを預かるのに、物凄く苦労したわ。

 まあ、仕方ない事だけど。

「ああ!すいません…。すぐ渡せばよかったですね」

 飛鷹君が慌てて謝りながら、夫のデバイスを渡してくれた。

 見慣れたデバイス。

 私はそれを淡々と仕舞う。

 今は感傷に浸る時ではない。

「ありがとう」

「いえ…」

 飛鷹君が気まずそうに俯いた。

 これは飛鷹君が気にする問題じゃない。

 証拠の件も、夫の件も。

「本当にありがとうね」

 私は心からそう言った。

 飛鷹君はただ黙って頭を下げた。

 

 後で話があると、美海さんに念押しして自室に戻る。

 夫のデバイスからデータを抽出する。

 そして、夫の捜査の全容が見えてきた。

 闇の書の捜査から見えてきた。

 本局の…いえ、評議会の陰謀を。

 闇の書を利用しての暗殺行為から始まり、更に暴走の場所を意図してコントロールする等、

そこから利益を出していた事などが、金の流れとそれに裏付けされた資料とで、詳しく

記されていた。

 金の流れは、管理局を未だに裏から支配する評議会に流れ込み、多額の金は何かの計画に

費やされていた。

 管理局員では、簡単に閲覧出来ない銀行等の資料もあった。

 夫がどうやってここまでの資料を手に入れたかは、分からない。

 でも、そういう伝手を持っていたとしても、驚かない人だった。

 夫はその計画名を探り当てていた。

 その大まかな目的も。

 どこかのメールの遣り取りの膨大なデータから分かった事だ。

 方法論は不明だが、かなり完成していた事が伺える。

 その計画は『オリジン計画』というらしい。

 管理局が、全次元世界を管理する為のシステムを作り上げる計画。

 恐ろしく歪んだ、傲慢な計画だった。

 それの資金調達が、あと一歩のところまできていた。

 それが完成してしまえば、立証する事が出来ない犯罪。

 何故なら、完成してしまえば、誰もそれに反論する事が出来ない。

 いや、使用とすら考えられなくなるというのだ。

 それが精神干渉魔法なのか、それは分からない。

 しかし、それを夫は阻止しようとした。

 ノルドにハッタリを言って。

 闇の書の件のみでなく、全ての証拠を掴んだと匂わせたのだ。

 夫はその段階で1人で殺される覚悟だった。

 夫が死んだところで証拠は、()()()()()()

 当然の事。

 闇の書の事件の裏側を告発する証拠しか、夫は持っていなかったんだから。

 闇の書を利用した犯罪と、資金調達の仕組みの機能を奪い、時間を稼ぐ事。

 これらの証拠が全て合法とは言えない事から分かる通りに、機能を奪う手段

も夫らしからぬダーティーな方法だったようだ。

 大掛かりな詐欺グループに、資金をプールしていた口座情報を流したのだ。

 犯罪者になりすまし、犯罪者を騙す。

 とんでもない事をするものだ。

 巨額の金の情報を掴んだ犯罪者は、巧妙に彼らの資金を食い物にした。

 デバイスには、それを行った事を自白する夫の姿も映っていた。

 全ては、味方が陰謀に気付く為の時間を稼ぐ為。

 私には相談してほしかった。

 頼ってほしかった。

 私は目を閉じて、そう思った。

 

 だからこそ、気付かなかった。

 データの読み込みに違和感があった事を。

 

 

           :ノルド

 

 私は病室から執務室に戻っていた。

 いつまでも寝てはいられない。

 私はもう終わりだ。

 後悔はないとはとても言えない。

 しかし、今は心は穏やかだった。

 通信を知らせるコールが鳴る。

 私は淡々と通信を受けた。

「リンディ提督。何かね?」

 用件は勿論分かっていたが、敢えて尋ねる。

『夫のクライドが残した証拠を入手しました。これでお分かりになる筈です』

「成程。で?どうするのかね?」

『当然、貴方を逮捕します』

 私は淡々と頷いた。

「そうか。分かった」

『それだけですか』

 なんの感情も含まれない声でリンディ提督が言う。

「ああ。それだけだ」

 私も無感情に応じる。

『では、後程』

 リンディ提督はそれだけ言って、通信を切った。

 私は溜息を吐くと、秘匿回線で連絡する。

「私です。後はお願いします。お役に立てず申し訳ありません」

 それだけ言う。

『後の事は心配するな。ゆっくり休むがいい』

 それだけの遣り取りで、通信が切られた。

 引き続き、身辺整理を開始する。

 そろそろ終わるかという時に、ドアが開く。

 2人の人間が入ってくる。

「覚悟は出来ている」

 家族がいない事が唯一の救いだ。

 私は目を閉じる。

 その瞬間がくるのを待った。

「ご安心を。苦しまないようにとのオーダーですので」

 

 そして、私の意識は永遠に閉ざされた。

 

 

           :リンディ

 

 アースラから転送ポートを経由して、本局に戻ると蜂の巣をつついたような騒ぎになって

いた。

 私は訝し気に当たりを見回す。

 嫌な予感がするわね。

 夫が集めた証拠を握り締めて、私は顔を強張らせる。

 すると、レティが向こうから走り寄ってくるのが見えた。

「リンディ」

「何かあったのね?」

 私の傍まできたレティに気になっていた事を訊く。

 レティが苦い表情で頷く。

「ノルド長官が自殺したわ。執務室は綺麗に清掃された状態でね」

 私は思わず舌打ちする。

 すぐに身柄を押さえるように、レティを通じて信頼出来る人員を揃えて貰っていたが、

先手を打たれた訳だ。

「彼の家やデバイスのデータは?」

「家は捜索令状を取って、今、捜索中だけど、途中経過を聞く限り望み薄ね」

「長官ですら捨て駒という訳ね」

 夫の死の責任も、他の犯罪の責任も取らずに死んだノルドには怒りを覚える。

 だが、あっさり切り捨てた黒幕には、憎悪を感じる。

「自殺と言っていたけど…」

 私は湧き上がる怒りを抑え込むと、レティに更に気になった点を訊く。

「察しの通り、遺書があったわ。直筆のね。全て自分が秩序を盤石にする為に、自分が主導

して行ったと」

 あまりに予想通りの答えに、溜息が出る。

「おそらく自宅からは、それを示す証拠が大量に発見させるでしょうね。核心に触れる物は

出ないという徹底振りで」

 そして、向こうに先手を打たれた以上、今回、身柄を押さえる事の出来た連中も、口裏

合わせは完璧なんでしょうね。

「でも、状況はこちらに勢いがあるわ。この機会に可能な限り膿を出し切ってしまいましょ

う」

 レティの冷静な判断に、私も落ち着きを取り戻す。

「そうね。その通りね」

 レティは私の肩に手を置いて、私を先導するように歩き始めた。

 そこに親友の気遣いを感じて、少し嬉しかった。

 

 今は、私に出来る全てをやらないといけない。

 

 

           :グレアム

 

 リンディ達は、クライドが残した証拠を元に本局内から多数の共犯者達を逮捕した。

 ただし、黒幕であろう評議会まではいけなかった。

 それでも、若手が主導したとはいえ見事なものだった。

 私の役割もここまでだろう。

 私も責任を取らねばなるまい。

 私のした事は、捜査妨害に当たるし、証拠の隠匿もしている。

 例え、それが最初意図した結果でなくとも。

 最後は明確に隠したのだから。

 はやてにも本当の事を話した。

 アッサリと許されてしまい、どうしていいのか分からないが、それは私の問題だろう。

 はやてが罪に問われる事もあるまい。

 私は、職場から私物を片付ける作業をしている最中だった。

 そんな時に私の目の前にウィンドウが開く。

『お父様。ハルバートン総長がいらっしゃいました。どうなさいますか?』

 アリアが同期の訪れを告げる。

 同期では、ヤツが一番の出世を果たした。

 本局参謀総長の席にある男だ。

 若い頃は互いに切磋琢磨した間柄だった。

 尤も私は現場に残り、ヤツは参謀になり道は分かれたが。

「通してくれ」

『分かりました』

 アリアの返事と共に、ドアが開く。

 身体の線は細いが、相変わらず貧弱という印象はない。

 若い頃から体型が変わらない。

「辞めるそうだな」

「ああ」

 少しの沈黙が訪れる。

「逃げるのか?」

 ハルバートンの言葉に、私は訝しく思った。

「逃げた覚えはないが?」

「いや、逃げさ。辞める程の事でもないだろう。この危機に」

 危機。

 今、管理局本局は世紀のスキャンダルで、マスコミから集中攻撃に晒されている。

 確かに危機的状況だろうが、それはこれからの若い世代がどうにかすればいい。

「辞めるな。老人の役割は若者から煙たがられる事だろう?いい人ぶって辞める等

言語道断だ。それに私にだけ苦労を押し付ける積もりか?」

「どういう意味だ?」

 苦笑いを浮かべる事も忘れて、訊き返してしまった。

「随分、上がスッキリしてしまってな。回ってこないと思っていたんだが…」

 向こうは苦笑いして言った。

 もしや…。

「そのまさかだ。誰も火中の栗を拾わん。だから私が拾う事になったようだ」

 私の表情を正確に察したハルバートンが、冗談めかして言う。

 だが、声とは裏腹に目は決意に満ちていた。

「だから、お前も付き合え」

「…納得する者など居らんぞ?」

「責任を背負い込む覚悟もないのに、ピーピー騒ぐヤツ等放っておけ」

 回答を迫る目付きだ。

 私は溜息を吐く。

「悪いが、即答は出来んよ。考えさせてくれ」

「荷物まで片付けて、やはり辞めない、は言い辛いか。あまり待てん」

 ハルバートンはそれだけ言うと、出て行った。

 見た目に反して強引な奴だ。 

 参謀等よく務まったものだ。

 

 私はまずは娘達に、相談すべく通信を繋いだ。

 

 

          :美海

 

 夜天の魔導書をアレンジしてから数日がたった。

 私は自宅ベットで唸っていた。

 前回の戦いのツケだ。

 壊して治してを繰り返したのだから当然だ。

 いくらデータを上書きしているとはいえ、何度も上書きすればデータに破損が生じる。

 私の場合は、数日の体調不良で襲って来る。

 当然、守護騎士連中との決闘は延期に次ぐ延期になっている。

 終わった後、リニスと何故かフェイトに凄い剣幕で怒られた。

 おかしいな、既定路線だった筈だけど。

 こんな事言った日には、またしても説教祭りになるので言わないけど。

 

 あれから管理局は大変らしい。

 飛鷹君が確保したリンディさんの旦那のデバイスを受け取ったリンディさんは、電光

石火の早業で動いた。

 リンディさんの旦那が残した証拠は、大したものだったらしい。

 詳細は知らないが、本局上層部が行っていた夜天の書を利用した暗殺やら、その資金

の流れやらで、上層部のかなりの人数が関与していたらしい。

 本局はゴッソリ上が消えて、大騒ぎらしい。

 ただし、肝心の首謀者には届かなかったそうだ。

 向こうが一枚上手だったようだ。

 私には関係ないけど、見舞いに来てくれるなのは達が教えてくれた。

 因みにユーリは、アリシア同様に目を覚ましていないらしい。

 そろそろ不安になってくる。

 事件を1つ片付ける度に、目を覚まさない人間が出るのはキツイものがある。

 護衛の2人も倒れそうになっていたとか。

 イリスは、取り敢えず空の魔力結晶に突っ込まれて大人しくしているらしい。

 取り調べには、一切答えない状況なんだとか。

 管理局お疲れ。

 フローリアン姉妹は、取り調べにも協力的で、執務官殿の口添えもあり、重罪は回避

出来る模様だとか。

 はやて達は、逃走の恐れなしとして拘束はされていないが、ちょくちょく呼び出され

ているようである。

 私にも出頭しろと五月蠅いみたいだが、フェイトにお願いされたリンディさんが、

体調不良を理由にお断りしてくれている。

「美海、大丈夫なの?」

 そんな事を考えていると、今生の母上が部屋に入ってくる。

「まだ回復してない」

 ここは素直に言って置くべきところだ。

 何より粗方片付いたから無理する必要がない。

 この人達を護れてよかったよ。

「フェイトちゃん達がお見舞いに来てくれたわよ」

 あの子達も義理堅い事だね。

 毎日来なくてもいいのに。

 私は上がって貰ってほしいと頼むと、すぐにみんなが入ってきた。

「美海。具合はどう?」

「美海ちゃん!大丈夫?」

「お邪魔します」

「おう!来たぞ!」

 フェイト、なのは、はやて、飛鷹君がそれぞれ言う。

「まだダメだね。もう暫くは寝てないとって、昨日言った通りだよ」

 みんなが苦笑いする。

 この反動が出ている時は、ジッとしているに限る。

 ここで無理すると、更に時間が掛かるのは前世で証明している。

「それでなんだけどね。今日来たのは用件があったからもあるんだ」

 フェイトが真剣な表情で言った。

「どんな事?」

 はやての様子から、リインフォースに問題が発生した訳じゃないようだし…。

「管理局の新しい人事が決まったんだけどね。新しい本局の長官が私達に会いたい

んだって」

 私の方は用がない。

「グレアム小父さんの頼みやし、無碍にもでけへんのよ」

 はやてが困り顔で言った。

 私が拒否するのも織り込み済みなんだろうな。

 それはそうと、件のグレアム小父さんとやらは、管理局の人間であるにも関わらず

はやてを保護していた人物だ。

 最初ははやてを生贄にしようとしたが、のちに心変わりした男だ。

 夜天の魔導書の事件にケリが付いた為に、はやてにも全てを話したらしい。

 はやては素直に感謝して、終了したそうだ。

 グレアム氏は罵倒も覚悟していた筈で、アッサリ感謝されて罵倒されるよりキツイ

想いを、内心ではしているだろう。

 引き続き援助は続けていく事になったそうだ。

 だが!私はフェイト以外には貸ししかない!という事にしておこう!

 頭に浮かんだシーンを、もう何度目か削除して話の続きを促す。

「どんな話かは、まだ分からないけど、会ってみようと思うんだ。美海も付いて来て

くれないかな?」

 フェイトが上目遣いに頼んでくる。

 私は顔が引き攣るのを感じた。

 この子には明確に借りがある。

 フェイトに頼まれると断り辛い。

 え?リニスにはって?リニスは私と一蓮托生の間柄だからノーカンだ。

 という事にしておく。

「……分かった」

 これで借りは返してたという事でお願いします。

 全員、何故かホッとしているのを見て、私は重い溜息を吐いた。

 

 それからみんなが、楽し気に今日の出来事を語る内容を、私は殆ど聞いていなかった。

 鬱だ。

 

 

            :なのは

 

 美海ちゃんに外出許可が出たのは、更に数日掛かった。

 美海ちゃんはクリスマスだったんだから、丁度いいんじゃない?と言っていたけど。

 それでも出て来た美海ちゃんは、あまり調子がよさそうじゃなかった。

「美海。延期して貰う?」

 美海ちゃんの横にいるフェイトちゃんが、心配そうに話し掛けている。

「延期すれば、立ち消えになるなら考えるよ」

 美海ちゃんは投げ槍に答えている。

 心配と言えば、私の横を歩いている飛鷹君もだ。

 ジッと考え込む事が、最近増えた気がする。

 悩み事なら相談してくれてもいいんだけど…。

 はやてちゃんは守護騎士のみんなを連れて来ている。

 当然なんだろうけど、ヴィータちゃん達は警戒心剥き出しでピりピりしている。

 もう、自首扱いになっていて、逃げる事がないと判断されたって、一番偉い人が話

たいって言われると緊張するよね。

 そして、約束された転送ポイントへ到着しました。

『ごめんなさいね。態々来てもらって』

 ウィンドウが表示され、リンディさんが申し訳なさそうに言った。

 リンディさんは途中の転送ポートでの待ち合わせです。

 それから私達は一瞬のうちに転送される。

 目の前にリンディさんが立っていた。

 相変わらず魔法なのに科学っぽい感じが不思議。

 実は機械とか好きな私は、アースラとかこういう施設に興味があった。

「まさか新長官が、貴女達に直接会いたいなんて言うとは思わなかったのよ」

 リンディさんも困惑気味だった。

 少しなんの話をされるのか不安。

「で?どんな人なんです?新長官って」

 飛鷹君が真っ先に知りたい事を訊いてくれた。

「本局の体質を変える事に、前から賛同してくれていた人よ。だから貴女達に不利益

な事は言わないと思うわ。そこは安心していいと思うわ」

 リンディさんは、私達を安心させるように微笑んでそう言った。

 フェイトちゃんやはやてちゃんはホッとした様子だけど、美海ちゃん、飛鷹君、

ヴィータちゃん達は表情を変えなかった。

 そこから何回か転移してやっと本局へ到着。

 遠いところなんだって、今更気付いた。

 

 入館パスを臨時で発行して貰って、いよいよ面会。

 流石にベルカの戦乱を経験している美海ちゃんやヴィータちゃん達は、平然と警戒を

続けている。

 飛鷹君も警戒しているのか、表情が硬い。

 秘書みたいな人が迎えに来てくれて、案内してくれた。

 幾つもセキュリティー付きの扉を潜り、やっと目的の場所に着いたみたい。

 そこには、男の人が1人立っていた。

 白髪頭だけど、顔の皺は殆ど目立たないから若く見える。

 身体の細いけど、引き締まっている感じ。

 優しそうな顔で、少しホッとした。

 この人が、新しい管理局の長官さんだろう。

「よく来たね。私が長官なんていう肩書きを貰ったアンディ・ハルバートンだ」

 長官さんは、笑顔でそんな事を言った。

 アレ?嬉しくないのかな?

 出世したんだよね?

「ハルバートン長官。流石に貰ったというのは…」

 リンディさんが苦笑いで、長官さんを注意している。

「まあ、長官になるなんて野望を持つ程、若くないからね」

 そう言って、長官さんはソファーに座るように私達に言った。

 やっぱり、出世したのに嬉しくなかったんだ。

「今回の事は、迷惑を掛けてしまい、申し訳なかったね」

 長官さんは真剣な顔で頭を下げた。

 私やフェイトちゃん、はやてちゃんは慌てたけど、美海ちゃん達は醒めた目をして

いた。

「で?本題は?」

 美海ちゃんの声は冷たかった。

 それに全く動じずに、長官さんは頭を上げた。

 

「管理局に入って貰えないだろうか」

 長官さんは、私達を真っ直ぐに見詰めて言った。

 

 

          :レジアス

 

「以上が今回の件に関する報告になります」

 ワシは今回の件に関する報告を、オーリスから聞き終えた。

 概ね予想の範疇に納まった形になるだろう。

 ユーリ・エーベルヴァインの事は残念だが、この先どうしても必要という訳でも

なくなっている。

 惜しくはあるが、割り切れるレベルだ。

「亡霊は帰還したのか?」

「はい。任務は滞りなく完了したと」

 ワシは一つ頷いた。

「で?()()()()()()()()()()()()()()?」

「任務中に失踪など、よくある事のようです」

 オーリスの他人事のような声を聞きながら、目を閉じる。

「家族がいれば、それとなくサポートしてやれ」

 オーリスが敬礼で応える。

 それからオーリスを下がらせると、秘匿回線を繋ぐ。

「私です」

 それだけで通じる。

『それでどうだ?クライドの残した証拠とやらは』

「ご懸念には及ばないようです。アースラに潜ませていた亡霊が探り出したところ、

皆様にまで捜査が及ぶ事はありません」

『クライドのお陰で大分計画に遅れが生じた。遅れは取り戻さねばならん。分かるな?』

「承知しております。ところで、本局の新長官は、少々五月蠅い御仁のようですが?」

 通信の向こうで沈黙が降りるが、それが笑っているような気がする。

 おそらく気のせいではあるまい。

『何も問題はない』

 ただそれだけあの方は言った。

 続く説明を待ったが、それっきり説明はなかった。

 ワシが知る必要がないという事か。

「承知しました」

 だが、察しは付く。

 

 それから2・3確認事項を確かめた後、通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 




 リインに関しては、元々ツヴァイのような感じだったのでは?
 と思ったのが、始まりです。
 何しろ、リインの残したものから造られた訳ですし、記憶も
 ある程度、見せられたリしていましたし。
 だから、外見のデータと魔法や経験のデータを排除すると、
 ああなると思いました。

 計画に関しては、ストライカーズで詰める予定だったので、
 ツッコミはご遠慮下さい。
 リメイクではマシに作り直し…たいと思います。
 色々。

 残すところあと一話で終了となります。
 気長にお待ち頂けると幸いです。

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