魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 今回は結構、駆け足で進めております。

 ではお願いします。


第50話 結

              :???

 

 いやいや、ビックリしたね。

 まさか彼女がここまでやるとは!

 大統領とは面会を済ませ、僕は人目がある場所で堂々と魄翼の様子を見ていたのだ。

 こっちのノートパソコンという奴でだ。

 勿論、中身は別物だけどね。

 予想外な事に、彼女の活躍でゲームが台無しになってしまった。

 残念だけど、流石にここからじゃ、魄翼に干渉するのは難しいな。

 随分と詰まらない結末になったものだよ。

 まあ、今回は負けたという事にしておくかな。

 負ける事も考慮してあったけど、我ながらあまり面白くない。

 月並みな最後の手段を、使わざるを得なかったよ。

 様式美として組み込んだんだけどね。

 最後の仕掛けは、もうじき発動する。

 あれくらいでどうこうなる筈もないし、少しは驚いてくれるといいけどね。

 あとは期せずして、もう1つ増えたかな。

 アレには驚いて貰えるだろう。

 アドリブだったけど、結構面白い要素になるかもしれない。

 観察出来ないのが、残念だ。

 僕がそんな事を考えていた時に、声が掛かった。

「あら?ジェイじゃない。噂を聞いたけど、辞めるんですって?勿体ない!」

 名前は忘れたが、彼女は確か大統領の()()使()()だったかな?

 僕は、そんな事をおくびにも出さずに笑顔を浮かべた。

「ああ。そろそろ本業に戻ろうと思ってね」

 彼女は頻りと勿体ないと引き留めたが、もういいだろう。

 それにサッサと立ち去らないと、彼女から戦略級魔法を食らいそうだ。

 今の彼女なら、私を滅ぼす為なら、周囲の人間を巻き込もうと使うだろう。

 それもまた興味深いが…。

 ここの連中を揶揄うのも、そろそろ飽きた。

 サッサと退散するとしよう。

 

 今頃は、あの子が部屋も引き払っている頃だ。

 

 

 

              :なのは

 

 美海ちゃんの魔法が衛星を破壊する。

 破壊というより、消滅。

 なんか散らばったら不味いものまで分解する魔法。凄い。

 光が広がり、オーロラが出来る。

 残念だけど、楽しんでいられないの。

「今だ!!撃ち込め!!」

 美海ちゃんの大きな声が聞こえた。

 私達は、その時が来た事が分かった。

 魄翼でラインを切断に参加してた子達は、みんな避難したんだ。

「レイジングハート!!」

『オーライ』

 魔力は十分に宙一杯にある。

 私は全員の魔力に同調する。

 集められる。

 レイジングハートにドンドン魔力が収束していく。螺旋を描くように。

 みんなが防衛プログラムを撃破した時と同じく、必殺の魔法をチャージする。

 

 全員が同じタイミングで魔法や技を放つ。

 ヴィータちゃんだけは、あの大きいハンマーじゃなくて、大きい鉄球飛ばしてたけど…。

 戦艦からも砲撃が放たれる。

 

 その全てが着弾する。

 

 魄翼が輝き一部が爆散…したけど。

 爆風!?衝撃波!?が凄い!!

 

 私達は吹き飛ばされてしまった。

 

 

              :フェイト

 

 あの魄翼から閃光が走ったと思ったら、強力な衝撃波?で吹き飛ばされていた。

 不味い!止まらないと!

 錐揉み状態で、自分がどうなっているか分からない。

 他の子がどうなっているのか確認する事が出来ない。

 砲撃と同時に何かが誘爆したんじゃないかな?

 って、そんな事を考えている場合じゃない。

 辛うじて目で確認した範囲では、魄翼の破片等も一緒に飛ばされている。

 不用意に止まるのも危険だし、このままでも危険。

 上手く破片が飛んでくる方向へ、シールドを展開して止まらないといけない。

 タイミングを合わせて…。

 そう考えていたけど、いきなり手を掴まれた。

「っ!?」

 顔を向けると、そこには美海がいた。

 剣が、柄頭を中心に円を描くように集まってシールドになっている。

「大丈夫!?」

「うん!他の子達は!?」

「大丈夫そう!」

 美海に掴んで貰って、護って貰って、周りを見回す余裕が出来る。

 なのはは飛鷹がキャッチしていたし、はやても守護騎士達でキッチリガードしていた。

 ユーリ達は見えないけど、魄翼を攻撃した段階でいなかったんだから大丈夫だよね?

 クロノもリンディさんもアースラ付近にいたし、無事だろう。

 ホッとした。

 次の瞬間、更なる爆発が起きる。

 残りの部分が爆発したんだと思うけど、その衝撃でシールドが押される。

 その拍子に、美海の手から私の手が離れた。

「「あっ!」」

 押された慣性のまま、私は後ろに押し出される。

 美海が手を伸ばす。

 私も手を伸ばしたけど、あともう少しのところで届かない。

 あっ!飛行魔法の要領で止まればいいんだ!

 今更、気付いて実行しようとした時。

「フェイトさん!!」

 リンディさんの声がして、私の身体に衝撃がある。

 リンディさんが私を抱き止めてくれていた。

「大丈夫!?怪我は!?」

 もの凄い勢いで訊かれて、私は咄嗟に答えられなかった。 

 こういうのは、慣れていない。

 大人に心配された経験があまりないから、反応に困る。

「どこか怪我でもした!?待ってて、今、医務室に連れて行くから!!」

「い、いえ!大丈夫です…。すいません。その慣れていなくて…」

 何がとは言わなかったけど、リンディさんは分かってくれたのかホッと息を吐いた。

「よかった…無事で…」

 安心したように私を優しく抱き締めてくれた。

 なんだろう…。

 涙が出そうなくらいに温かい。

 どれくらいそうしていたか、よく分からないけど、リンディさんが身動ぎした。

 私が顔を上げると、リンディさんはなんでもないと首を振った。

 

 なんだろう?

 

 

              :リンディ

 

 状況は非常に質の悪い足掻きだった。

 おそらく砲撃を、一部のパーツをパージする事で直撃を免れ、パージしたパーツの自爆

で目晦まし、そして本体が残りの燃料を引火させる形で自爆したのだろう。

 これを意図した人物は、相当に性格が悪い。

 証拠物件は諦めていたけど、最後にこんな悪足掻きをするなんて!

 最初の爆発で全員が吹き飛ばされた。

 けれど、なのはさんは飛鷹君が咄嗟に支え、体勢を素早く立て直している。

 守護騎士達も流石は歴戦の騎士だけあって、動じずにはやてさんをガードした。

 フェイトさんは…。

 美海さんがキャッチしたようだ。よかった。

 後方にいた私には、ユーリさんがキリエさんに支えられ離脱したのを確認している。

 クロノ達は当然無事だ。

 デューク以下暴走艦は、この期に及んで裏切らなかったし、よかったわ。

 私は全員の無事を確認する事を優先した為に、忘れていた。

 まだ無事な部分が翼には存在する事に。

 そして、最後にして最大の自爆を敢行する。

 私は咄嗟にアースラのまだ生きている機能で、吹き飛ばされる事はなかった。

 他のメンバーもチームで或いは2人で協力して、体勢を見事に立て直していた。

 だが、信じられない事に、美海さんとフェイトさんは無事ではなかった。

 2人の繋いだ手が爆発の拍子に離れてしまったのだ。

 あろうことか、フェイトさんが押されるように飛ばされてしまう。

 私は咄嗟に行動していた。

 フェイトさんを助ける為に。

 美海さんもフェイトさんも手を伸ばすが、手が届かなかった。

 私が助ける!

「フェイトさん!!」

 私はフェイトさんを受け止める。

「大丈夫!?怪我は!?」

 フェイトさんは、ボウッとしていて答えない。              

「どこか怪我でもした!?待ってて、今、医務室に連れて行くから!!」

 私は大急ぎでアースラに戻ろうとする。

「い、いえ!大丈夫です…。すいません。その慣れていなくて…」

 私の剣幕に焦ったのか、フェイトさんが漸く答えてくれる。

 慣れていない。

 そうだ。彼女はプレシアから直接心配された事がない。

 使い魔のリニスさんは心配してくれていたようだが、人間という意味では初めての

経験だったのね。

 何はともあれ、ホッとして息を吐く。

「よかった…無事で…」

 私は優しく、決して力を入れ過ぎないようにフェイトさんを抱擁する。

 フェイトさんは私の腕の中で、震えるように身動ぎしたが、私の抱擁を受け入れて

くれた。

 愛おしい。

 そんな感情が胸に溢れる。

 養子の件、諦めきれないわ。

 そんな事を考えていたが、そこで気付く。

 美海さんにフェイトさんの無事を教えていないと。

 私はフェイトさんを抱いたまま、顔を美海さんに向けると、彼女はそっと頷いた。

 私はあっと声を上げそうになったが、どうにか押さえ込んだ。

 そう。彼女がフェイトさんが、この程度の状況をどうにか出来なかったとは思えない。

 だとすれば、彼女はこの状況を咄嗟に利用したんじゃないだろうか!

 私がそんな疑惑を持って睨むと、彼女はそっぽを向いてしまった。

 フェイトさんが不審に思ったか、私を見上げる。

 私はなんでもないと首を振って、微笑んだ。

 彼女はフェイトさんが養子の件で、あまり前向きでない事を知っている。

 そして、彼女はフェイトさんが一番いい事を選ぶ為の助言をしていた。

 今回は随分と行動的だこと。

 

 でも、あとで話し合わないとね。

 

 

              :美海

 

 実際、手は掴み直せた。

 フェイトも突然の事で頭が真っ白になっただけで、放って置いても無事だっただろう。

 勿論、最初に掴んだのも実際はお節介に過ぎない。

 でも、今回は飛ばされると思われる場所に丁度彼女がいた。

 フェイトが、養子の件で乗り気になれていない事は分かっていた。

 でも、後ろ盾という面でも人間的な部分でもリンディさんは、フェイトにとって一番

いい保護者となるだろう。

 このまま私が助けたり、自分で助かったりしたら、フェイトは彼女に甘える事はない。

 だから、少しばかりお節介をやってしまった。

 予想通りにリンディさんは、冷静に考えれば自分でどうにか出来ると分かっていても、

フェイトを助けた。

 彼女には睨まれたが、文句ぐらいは黙って聞いてあげよう。

 抱き合う2人を見て確信した。

 フェイトの幸せに、彼女は必要だ。

 それにしても、あの野郎。

 あの状態から勝ちはないにしても、自爆なんてやりやがって。

 相変わらず性格のようだ。

 そんな愚痴を背中に視線を浴びつつ、考えていた。

 そして、翼のライン切断組が帰還したが、様子がおかしい。

 原因はすぐに分かった。

 あの片割れがユーリを抱えて戻ってきたからだ。

 ユーリはぐったりとして動かない。

 疲労や怪我とは違うようだ。

「どういう事?」

 私は片割れに問い掛ける。

「実は…」

 答えたのは、片割れの方だった。

 ユーリはラインを切断する際、基盤に仕掛けられた罠から片割れ達を庇う為、アレの

放った魔法の犠牲になったらしい。

 中にいるイリスとかいうのが喚くかと思ったが、随分と大人しく黙っている。

 流石に思うところがあったのかもしれない。

 それにしても、使われた魔法が魂の剥離とデータの無意味化か…。

 一応、試すか。

 シルバーホーンを構える。

「何を!?」

 片割れが声を上げるが、無視する。

 

 エイドス変更履歴遡及を開始。

 

 エラー発生。

 

 再成、定義破綻で強制終了。

 

「……」

 ()()()()()()()

 やはり魂がまだ魔法干渉を受けているのと、身体に魂がない事が原因だろう。

 こっちの再成は、魂の方を本体と捉えている節がある。

 魂の付随品である身体の情報を普段は読み取り、フルコピーしている。

 肝心の魂がないと再成は使用出来ない。

 だから私の再成は、制限時間を経過し、魂が無意味化すると、一切の情報が読み取れ

なくなる。

 アレには何度も再成を見られている。

 対策をされたとしても、アレならば不思議はない。

 人の事は言えないが、とんでもない事をしてくれるものだね。

 私は、仕切り直しの意味でシルバーホーンを下ろした。

「何考えてるのよ!文字通り死人に鞭打つ積もり!?」

 こいつ、私の魔法を知らないんだっけ?

「その死人を助けようとしたんだけど、魔法が発動しない」

「っ!?」

 私があまりにもアッサリと死者蘇生を口にしたので、驚いたようだ。

 知っている人でも、私の魔法が死者すら蘇らせると知らないかもしれない。

 傷の修復とか、魔力を回復させるとかしか使ってないからね。

「魂を探す必要がある。魔法干渉中なら、それを無効化する必要もある」

『それが出来れば、助けられるって?死者を?』

 私の言葉にイリスが片割れから顔を出し、皮肉っぽく言った。

「多分ね」

 試みた事がない事だ。

 実証もされていない。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、より深く潜る必要があるだろう。

 アリシアの時とは逆。 

 あの時は、アリシアの魂は保存されていた。

 だが、今回は探すところから始めないといけない。

 魂を探し、修復し、身体に戻す。

 魂がどこにどのくらいの深度に行ったか、それが問題になる。

 それに今回は、精神ごと情報の海へとダイブする事になる。

 その方がイメージがし易い。

『多分?無理だと素直に認めたら?』

 イリスが揶揄するように言った。

「で?貴女はダメだって言ってほしいの?それとも期待を裏切られるのが、怖い?」

『そんな訳ないでしょ!?』

「貴女は、どうしたい?」

 私はジッとイリスの目を見る。

 どんな事であれ、コイツは裏切られるのを恐れている。

 裏切られないで済むように、助けられないと言わせたいんだ。

 先に目を逸らしたのは、イリスの方だった。

『直接、文句を言ってやりたかったわよ…』

 全く、素直になればいいのに。

「じゃあ、直接言えばいい」

 私が言い放つと、イリスが顔を歪める。

『嫌な奴ね』

 どうもありがとう。

 アルハザードのヤツが言えば、誉め言葉だ。

 

 一向にみんなに合流しない私達を不審に思ったか、みんなが寄って来る。

「どうしたの?」

 なのはが代表で訊く。

 私は今聞いた事情を、みんなに話す。

 聞き終えて、みんなの表情が暗くなる。

「その為に、ちょっとした事を試そうと思うんだ」

「ちょっとした事?」

 私の言葉にフェイトが首を傾げて言った。

 私は考えている事を余さず話した。

 これに関しては、ボンヤリとした事を言う訳にはいかない。

 初の試みで、失敗は許されないからだ。

「悪いんだが、どう危険なのかピンとこないんだが…」

 飛鷹君が聞き終えて、第一声がこれだった。

 だけど、殆どがホッとした顔をしているところを見ると、チャンと分かった奴は、

いないな。

「例えるなら、海に潜るのを想像してほしいんだよね」

 海女さんが海に潜るのを想像してくれれば、分かり易いかな。

 海女さんが潜れる深さの限界が、私の限界。

 海女さんが潜っていられる時間が、私の持ち時間と思って貰えばいい。

 今回、それを超えるかもしれない。

 当然、そんな事したら溺れ死ぬ。

 精神が返って来れなくなる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)は、情報の海に潜るのと同じ。

 精神を送り込み、深く潜り過ぎると、戻って来れない可能性がある。

「という感じかな…」

「「それは、ダメ!!」」

 フェイトとリニスが同時に叫ぶ。

「勿論、私も助けて上げられればと思います!でも、それで貴女が確実に危険に晒され

るんじゃ!そんなのは却下です!」

 リニスが私の耳元で怒鳴る。

 そんな大声で言わなくてもいいよ。

「いやいや、だからね、みんなに協力して貰うんだって」

「どんな事が出来るの!?」

 なのはが口を開く前に、フェイトが勢い込んで訊いてきた。

「つまり、私が深く潜る間、命綱の役割をしてほしいんだよ」

 みんなの存在に概念上の綱を作り潜れば、ある程度安全性が上がる。

 それでも確実ではない事までは言わない。

 全員それに気付く事なく頷いてくれた。

 

 それじゃ、サッサと探しに行かないと。

 

 準備に入ろうとして、私の手に誰かが触れた。

 眼を開けると、フェイトだった。

「どうしたの?」

 フェイトは少し躊躇うような素振りを見せたけど、それを振り払うように、私の目を

真っ直ぐに見詰めて言った。

「美海は、ベルカから転生してきたのかもしれない。もう人生一度終えたのかもしれない。

でも、それはベルカのアレクシアさんだよ。今は美海なんだよ。だから…、戻ってきてね。

私は、私達は貴女とまだ作りたい思い出が沢山あるんだから」

 参ったな。

「そうだよ!色々あって、まだ全然遊んでないよ!」

 なのはが笑顔で言う。

 いや、年齢的に小学生と遊ぶのも辛い…。

「まだ、しごきしか受けてへんよ!私なんて!」

 いやいや、君の為だったでしょうが。

「まだ俺もお前に勝ってないからな!勝ち逃げは認めねぇぞ!」

 君はもう少し気張って、私に勝てるくらいになってほしかったよ。

「我等もまだ決着を付けていない」

 烈火の将の言葉に守護騎士連中が頷く。

「夜天の書もどうにかして頂く約束ですので、是非約束をお守り頂きたく」

 分かってるよ。

「これが終わったら話があるし、キチンと戻ってね」

 これはリンディさん。

 笑顔が恐ろしい。

 だが、断る。

「君にはキチンと罪を償って貰わないといけないんだ。被疑者不在で手続きなんてゴメン

だからな」

 よくも悪くも君もブレないね、執務官殿。

「大丈夫。戻るから」

『我が繋ぎ止めるのだ。大船に乗った気でおれ』

「当然、私もサポートしますよ」

 私の決意に、バルムンクとリニスが頼もしい言葉を掛けてくれる。

 それじゃ、始めますか。

 

 精神を研ぎ澄ます。

 バルムンクがアンカーの代わりとなり、みんなと魔法的に繋がる。

 文字通りの命綱の意味しかない繋がりだ。

精霊の眼(エレメンタルサイト)発動」

 魔法の痕跡を探し、更に情報量を増やし、追跡していく。

 いつもより深い深度で潜る。

 ここからは未知の領域だ。

 どこまで飛ばされているんだか。

 しかし、これが別の意味でも危険だった。

 情報量が増えるという事は、それだけ脳に負担が掛かっていくという事。

 精神をダイブさせているとはいえ、実際処理しているのは、自前の脳みそだ。

「くっ…」

 思わず声が漏れる。

 当面はこっちの方が大敵だ。

 こういう時、ミッド式の魔法領域を作成しておいてよかった。

 脳内の魔法領域に情報を入れて、保留して徐々に情報を解析していく。

 ベルカ式のままだったら、不味かった。

 脳みそがスプラッターな状態に、冗談抜きでなる。

 でも、このままじゃ、遅かれ早かれ破裂するだろう。

 だから、余計な情報にフィルターを掛ける。

 少し楽になったが、油断せずに慎重に深度を下げていく。

 どれだけ、情報の海を彷徨ったか、分からない。

 時間はどれくらい経った?

 一瞬のような気がするし、随分長い間のような気もする。

 そんな時は、命綱の出番だ。

 それを確認するだけで、気分が楽になる。

 これは堕落なのかな?

 いや、進歩した。そう思う事にしよう。

 

 見付けた!

 

 魔法式がユーリの周りを取り囲み、ユーリを壊している。

 ここからが勝負。

 命綱を握り締める。

『主よ。決して手を放すでないぞ!』

『美海!もう少しです!』

 バルムンクとリニスの声が聞こえる。

 随分、過保護だな。

 私はフィルターを解除する。

 一気に情報が流れ込んでくる。

 脳が熱を持ったように熱い。

 魔法式を読み取る。

 膨大かつ繊細で精巧な魔法式の全体像を読み取る。

 私は残る力全てを動員して腕を上げ、シルバーホーンを構え、照準を定める。

術式解散(グラムディスパージョン)

 ユーリを取り囲む魔法式が、破裂するように砕け散り、光の粒子となって消える。

 ここで気を抜く訳にはいかない。

 私はユーリを観察する。

 かなりの部分のデータが意味を消失している。

 だけど、まだ残っている部分がある。

 死力を尽くせ!

 再成開始。

 

 エイドス変更履歴遡及を開始。

 

 存在するデータを元に、復元時点を確認。

 

 魂の復元開始。

 

 完了。

 

 更に存在する肉体へデータを転送します。

 

 終了。

 

 終わった。

 視界がグラグラしている。

 かなりヤバい。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 そうだ。命綱だ。

 そして気付く。

 命綱が見えない。

 視界には情報の海しか見えない。

 手を伸ばせば、そこに誰かはいる筈なのに、身動きが取れない。

 自分の身体がどうなっているか、分からない。

 まだ、立っているのか?それとも倒れている?誰かに支えられているんだろうか?

 思考が働かない。

 不味い。

 眠くなってきた。

 このまま眠れば、元に戻るかな…。

 

 

「美海!!」

「「美海ちゃん!!」」

「綾森!!」

 

 

 ハッと目を見開く。

 寝るのは後にしないといけない。

 戻らないと。

 周りを見回すと、何かが接近してくる。

 怪訝に思って目を凝らすと、巨大な山猫だった。

 あれ?もしかしてリニス?

「美海!」

 リニスは私を呼ぶと、問答無用で首根っこを噛んで持ち上げた。

 子猫じゃないんですけど。

「なのは!いいですよ!」

「了解!」

 なのは?…ああ、そうか、同調したのか。私と。

 リニスは同調したなのはの指示通り、命綱で私の足跡を辿り、命綱を身体に巻き

付けて私を探していたのだ。

 加えて、なのはは私と同調しているのだから、現在地がなんとなく分かる。

 そして、私の代わりになのはが命綱を引っ張っているんだろう。

 やっぱり、人は1人じゃ何も出来やしないんだ。

 協力をお願いしてよかった。

 面倒掛けて悪いけど、助け合っていくのが友達ってもんだと諦めて貰おう。

 

 出来るだけ、早く目を覚まさないと…。

 

 

              :マリエル

 

 アースラに女の子が1人運び込まれてきた。

 件の闇の書を修理するという子だ。

 正直信じられないけど、その子なら直せるらしい。

 ならば、技術士官として見てみたい。是非とも。

 でも、倒れたのなら、世紀の瞬間までまだ掛かりそう。

 準備は整っているんだけど…。

 アースラは現在突貫修理中。

 ここが無事なのは幸いだった。

 そんな事を考えていると、外が騒がしくなる。

「…海!もう…しや……んでないと、ダ…だ…て!」

 どこかで聞き覚えのある声が、近付いてくる。

 子供の声だから…。まさかね。

 なんて考えていると扉が開く。

 扉の方を見ると、デバイスをアップデートした子達と、資料で見た闇の書の

メンバーが勢揃いしていて、その前に小柄な女の子が凄く疲れた顔で立っていた。

 え?まさかが現実になった?

 倒れてたんだよね?

「作業の準備、出来てるんだよね?」

 その子は、私に向かってそう言った。

 威圧感が半端ない。

 間違いなさそうだった。

 私はガクガクとぎこちなく頷いた。

 倒れてそれ程時間も経っていないのに、もう始められるの!?

「美海!せめてもう少し休んだ方が!」

 その子の使い魔が必死に止めるが、当人は首を振る。

「時間との勝負だよ。今は目が覚めた以上、これが優先だ」

 使い魔だけでなく、守護騎士以外はみんな心配そうにその子を見ていた。

「はやて。夜天の魔導書出して」

 闇の書の主の子が、思わずといった感じで魔導書を出す。

 あの子が素早く闇の書を回収する。

 出した後、しまったといった顔をしたが、もう奪い取られた後、時すでに遅し

だった。

 闇の書を機器にセットする。

「リインフォース。守護騎士システムは?」

「今は念の為、切り離してあります」

 あの子の問いに融合機が淡々と答えた。

 おそらく、侵食が万が一早まった時の対策だったんだろうね。

 優秀な機体だな。

「おいおい!聞いてねぇぞ!」

 騎士の1人が驚いたように声を上げる。

「大丈夫なのか?」

 守護騎士のリーダーと思われる人が、冷静に問い掛ける。

 融合機が無言で頷いて見せる。

「修復が済めば、戻せばいいしな。その方が安全だろう」

「分かった」

 融合機とリーダーは長年の友人のように、短い遣り取りで互いの考えを察し

たようだ。

「それじゃ、始めるよ」

 あの子が開始を宣言する。

 宣言と同時に融合機が消える。

 魔導書に戻ったのだろう。

 私も戸惑っている場合ではない。

 技術士官として見届けなければいけない。

 

 そこから始まった作業は、アレンジという域を超えていた。

 最初、聞いていた話と食い違う。

 もう改変というレベルだ。

 こんなクレイジーな作業を見る事になるとは…。

 それにこのスピード。

 素早く、問題となるデータをデリートし、構築を開始。

 古代ベルカですら、構築が難しい作業をこの子は、疲労した身体と頭で

実行している。

 他の見学の子達は、この凄さが分かってはいないだろうけど、凄い事が

起きているとは分かっているようだ。

 

 食い入るように作業を見届ける。

 集中していた所為もあるだろうけど、その時間はあっと言う間だった。

「終わった…」

 全員が緊張の面持ちで、この子を見ている。

 結果が気になるところだし。

「美海ちゃん!リインフォースは?無事なん?」

 疲れた表情で魔導書を機器から取り出す。

「最善は尽くしたよ。あとは見てみよう」

 主の子は緊張しつつ、魔導書を受け取る。

「リインフォース…」

 魔導書に呼び掛けると、魔導書から光が溢れる。

 光が小さな人型になる。

 いよいよね。

 成功?失敗?

「はやてちゃん!無事に帰って来れたですぅ!」

 

 この時の全員の反応は同じだった。

 

 ええ!?

 

 無言だったけど、確かにみんなの顔はそう言っていた。

 だって、大人の姿だったのに、小さな子供の姿だったんだから。

 サイズの問題じゃなく。

 実際に子供になっていた。

 

「ええっと…。と、取り敢えず無事?でよかったわ…」

 主の声が静寂の室内で響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




 初の活動報告を書かせて頂きました。
 それを見て頂ければ分かりますが、今作品を凍結しようと
 考えています。
 A`Sももうじき終わりますので、それが終了次第凍結と
 なります。
 感想で一番多いのが、飛鷹君不要論。
 最初は例によって無理だと思ったのですが、こうも多い
 なら、彼が居なかったらの話を書いてみようと思います。
 私自身、彼の態度は納得なんですが、普通は彼みたいに
 なりそうだって気がしています。
 動機は別にして。

 キリのいいところまでは書くので、次回も付き合って
 頂ければ幸いです。

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