魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 多くは語るまいと思います。
 ただ、長いです。
 それでは、お願いします。


第49話 光明

             :美海

 

 魔力反応がない。

 魔法の要素なしの機械になった?

 アレが関わった以上、ショボイって事はない。

 サッサと破壊…。

 とか思った瞬間に、翼が猛スピードで飛び去る。

 咄嗟になのはが砲撃するという機転を利かせるが、それをアッサリ躱し小さくなっていく。

 私は咄嗟に追いかけようとして、思い止まる。

『私、追いかける!!』

 それを察したのか、なのはが機甲の翼の後を追いかけていく。

『悪い、飛鷹君も行ってくれる?』

 私はすぐに追えない状態だ。

 ここは、飛鷹君になのはのフォローを頼む。

 戦艦は邪魔なら始末する。

『…分かった!』

 飛鷹君もすぐになのはが飛んでいった方へ急いだ。

 さて、こちらは久しぶりに覚悟しますか。

 私はフェイトとのラインを切って、自分のアバターを消すと、出した剣を血と一緒に回収する。

 副作用として、分裂した分だけ疲労やら魔力消費やらが、圧し掛かってくる。

 肩にいるリニスが衝撃のあまり呻き声を上げる。

 私とパスを繋いでいる為に、リニスにも私の苦しみが伝わってしまったのだ。

 今回、気絶してないからマシだ。

「ごめん。フェイト…。魔力もうちょっと分けて?()()()()()()()()()()()()()()()()

 幸いなのは、フェイトにこのキツさを味合わせずに済んだ事だ。

 こんなの1人じゃ、気軽に使えないからね。

 リニスは本当にゴメン。

「あんなに派手に魔法使ってたのに、消費はそんなでもなかったから、大丈夫だけど…美海は平気

なの?」

 私の魔法は元来私用に魔力消費を極限まで抑えて、最大効果の威力を追及して組んだものだから

ね。それでも余裕でいられるフェイトの魔力量が凄いよ。

「問題ないよ」

 私は短く答える。

 あるとしても、この後だ。

 あれだけ派手に消費して戻すを繰り返すと、データを上書きしているとはいえ、調子がすこぶる

悪くなる。今回の一件が終わったら、暫く動けないな。

 フェイトは私の即答に疑問はあったようだが、魔力を供給してくれた。

 それで再度、自身に自己修復術式を起動する。

 フェイトと一緒になのは達の後を追おうとした時、念話が入った。

 

『なんか、魄翼が事故起こしたよ!?』

 

 なんですと?

 ちょっと、意味が分からん。

 

 

             :なのは

 

 もうすぐ終わりと思うと、次の展開…。

 でも、そんな事を考えている場合じゃないの!

 今度こそ、こんな事終わらせる!

 私の後を飛鷹君が追ってくる。

 飛鷹君ならスピードに付いてこれないなんて事はないから、更に加速する。

 でも一向にあの魄翼?に追い付けない。

 魔力がなくても、あんなに速いんだ。

「なんか、見えて来たって…人工衛星じゃねぇか!?」

 飛鷹君が声を上げる。

 私も魄翼の先を見ると、確かによくテレビでみるような物が浮いてる。

 でも形がちょっと違うような?

 って、ぶつかるよ!?

 追い付けない!

 砲撃する!?でも、避けられたら無駄に衛星を撃ち落としちゃう!

 アクセルじゃ、威力不足だと私の勘が告げていた。

 その迷いがミスに繋がった。

 もう、ぶつかる!!

「あれじゃ、当たって落ちちゃうよ!」

「衛星は一応、地上に落ちる前に燃え尽きるように出来てるって聞いた事あったけど…」

 私の声に飛鷹君が自信なさそうに言った瞬間、衝突した。

 衛星が軌道を外れたのか、地球に近づいているような?

「不味いぞ!あのままじゃ落下する!!」

「っ!?」 

 私は驚きで声も出ない。

「早く止めないと!!」

 

 私は焦りを抑えて、美海ちゃん達に念話で事情を話した。

 

                

             :キリエ

 

 他の子達がアッサリと行けてたから、余裕だと思っていたけど、1人(正確には中にもう1人)

じゃ、宇宙まで上がるのキツイ。

 予想以上に時間を食ってしまった。

『全く、手間が掛かるわね。アンタももっと役に立ちなさいよ』

 カチンときたものの、言葉を飲み込む。

 余計な時間を食ったのは事実だ。でも…。

「それを言うなら、私もアルハザードの魔法使いの魔法を披露して貰えると思ってわよ!」

『お生憎様。私、技術畑の人間なの。肉体労働はアンタの担当よ』

 私は苛立ち、舌打ちする。

『文句より早く行きなさいよ。アンタの企画なんだから』

 打ち解けられたと考えればいいんだろうけど、なんか遠慮が消えた…元々なかったかな?

 

 文句を言い合いつつ、宇宙まで出ると、既に魔法陣は消失していた。

 ユーリがいるのが見える。

 もう、全て終わった?上がり損?

 私は、それを訊く為もあって彼女に近付いていく。

「もしかして、全部片付いちゃったの?」

 ユーリがゆっくりと振り返ると、首を横に振った。

 私達の到着には驚かないみたいだ。

 でも、違うとなると、対象が移動してる?

 なんて考えていると腕が勝手に動き、ユーリの胸倉を掴んだ。

「イリス!?」

『で?なんとかするとか言ってなかった?どうしてこんなとこに居んのよ、アンタは!!』

 私の胸の辺りから顔を出すイリス。

 結構、ホラーな感じが…。

「私のスピードでは…追い付けません」

 どうも私の予想が正しいらしく、魔法陣はなんとかしたものの、魄翼だけはどこかに飛び去った

 らしい。

 もしかして、ユーリも技術畑って事なの?

 話聞いた感じだと、本来は別の事も優秀なイメージだったけど…。

 立場はイリスより上だったんだでしょ?

『言ったでしょ?私とコイツは基本は技術畑の魔法使いなのよ』

 私の心の声が聞こえたように、イリスが面倒そうに説明してくれた。

「まあ、一般的な攻撃手段くらいは持っていますが…すいません」

 これ、私が悪い流れなの?

 

『兎に角、ボケッとしてても仕様がないんだから、なんか出来ないか考えましょう』

 ヤル気になってくれたのは、いいんだけど…。

 なんだろう。この納得のいかない感じは。

 

 

             :リスティ

 

「は!?」

 私は場違いな話に、思わず間抜けな声を出していた。

「外交ルートで日本に通告があった。廃棄軍事戦略衛星が落下しているらしい。計算では、ここに

堕ちる」

 課長が脂汗に塗れた顔でもう一度、繰り返す。

 地方警察、所轄にくる一報じゃないわよ。

 いくらここが特殊な場所だといえども、限度ってものがあるわよ。

 しかも、墜ちるところがここ?

 頭痛がする。

 廃棄軍事戦略衛星。

 アメリカが極秘で打ち上げたもので、上空から敵国にミサイルの雨を降らせる事が出来る。

 だけど、問題はミサイル。

 これが劣化ウラン弾。しかも、それが30発以上。

 こんなの打ち上げるなんて、どうかしれるわね。

「どの程度の人間が知っているんですか?」

「今のところ、首相官邸に対策本部が出来ているらしいがな」

 どうしてそんな情報が私達のところに?

「まさかとは思いますけど、私達でどうにかしろって話じゃないですよね?」

 アメリカは流石にHGSの事を知っているし、研究も独自で行っていると聞いた事がある。

 まさか、こっちの情報をこの機に探ろうなんてしてないでしょうね。

「当然だ。もうじき避難命令を出す。我々も避難誘導のお手伝いだ。どれだけ意味があるか

分からんがね」

 課長も仏頂面だ。

「それにしても、どうして私達に先に教えるんです?」

「どうもアメリカの顧問とやらが進言したらしいがね」

「顧問?なんの?」

「知らんよ。その顧問様が同盟国に正直に知らせる事で、こちらの意図したものではないと

伝えるのが目的ではないか?…だそうだ」

 課長は吐き捨てるように言った。

 なんだか、思いっ切り表向きな話で嘘くさい。

「しかし、原因に関しては心当たりがありそうじゃないか?」

「あの異世界の彼女達ですか?」

 アメリカが魔法の事を嗅ぎ付けた?まさかだけど…。

 私の頭に子供と言っていい捜査主任と、小娘と言っていい外見の捜査責任者の顔が浮かぶ。

 今回は、こちらにキチンとこちらに事前に話をしてくれていた。

「でも、確か彼女達が調べていたのは、どこかの古い魔導書がどうのっといった話でしたよ?」

「魔法なんて、こっちの能力よりなんでも有りだろう。まあ、原因は今はいい。無事に済みさえ

すればな。だが、問い合わせはしておけ」

「分かりました」

 課長は立ち上がり、待機所を出て行った。

 課長はおそらく魔法絡みと睨んでる。

 だから、無事の解決を念押ししろって事ね。

 ま、いくら私達でも、戦略衛星墜とすのは無理なのは確かね。

 何が目的にしろ、碌な話じゃない事は間違いないわね。

 

 私は、リンディさんの直通の携帯番号に電話を掛けた。

 

 

             :リンディ

 

 やっと終わるかと思われた事件が、急展開する。

 現場ではよくある事だ。

 かといって、慣れない。

 私は少しでも動けるように、アースラの修理を並行して急がせる。

 周りへの警戒も怠れないから。

 そんな中で、突然ポケットから携帯の着信音が鳴る。

 フェイトさんの物と一緒に購入したものだけど、こちらの捜査機関との連絡やフェイトさん達

との連絡に便利と分かり、ポケットに入れたままだった。

 因みに機種もフェイトさんのものと同じだ。

 電波はアースラを中継しているからこそ、届いたんでしょうけど、誰かしら?

「もしもし?」

 私がでると、それはこちらの捜査機関の捜査員・リスティさんだった。

『ああ、まだ地球圏には居ましたか。よかった…』

 少なくと地球を離れない限り通じるとは、伝えてあった。

 何やら嫌な予感がするわね。

「それで、何かありましたか?」

『実は…』

 彼女の語った内容はとんでもないものだった。

 戦略兵器を積んだ衛星が、何者かの手によって落下軌道に入り、それは地球を汚染する力を

持っているという。

 しかも、狙ったように海鳴付近に落下する予想だという。

 事情を聴くと、どうにもキナ臭い。

 どうも彼女は、地球の大国が魔法の事を掴んでいるのではと疑っているようである。

 飛び去った翼…。

 嫌な予感がする。

「気になる点がありますので、調べて連絡します」

 私は彼女に調査を約束して、通話を切る。

 

『リンディさん!あの翼、事もあろうか、衛星にぶつかりやがった!!多分、墜ちる!!どこ

に堕ちるか調べて貰えませんか!?』

 

 私はこの嫌な符号に胸がざわつく。

 報告は後にした方がよさそうね。

 

 アースラはこんなだし。微力もいいところだけど、私が直接出た方がいいかしらね。

 そう思いつつ、全員に今回の厄災について念話を送った。

 

 

             :美海

 

『という事よ…』

 リンディさんから、全員に念話で事情が説明された。

 フェイトは、改めて聞いた状況に深刻な顔で黙り込んでいる。

「まあ、アレの性格なら、私の大切なものの上に、目の前で墜とさないと気が済まないでしょう」

『美海さんは、誰がやったか知っている…という事かしら?』

 リンディさんは目を細め、フェイトが眉を顰める。

「どうして、そんな事が分かるの?」

 アレの声をフェイトは聞いてないか。

 どうも首謀者の事を知っているくさい話には、2人共疑問を覚えるか。

「前世からの因縁ってヤツだね」

「ええ!?美海と同じようにこっちに転生してる人がいるの!?」

 私は頷いてやる。

 リンディさんが目を見開く。

 転生したのか、実は生きていたというパターンかは知らないけどね。

 殺した筈だけど、アレなら実は…が有り得る。

「あの赤ドレスを操ってたのも、アレだよ」

 あの声で確信した。

 おそらく、前回のジュエルシードの件にも関わっているだろう。

「アレって、誰なの?」

「アルハザードの頂点にいた男だよ。名前なんて覚えてないよ。忌々しいからね」

 リンディさんはフェイトに質問を任せて、私が嘘を吐いていないか、ジッと私を観察している。

 ベルカを実験場にしていたヤツを、私は殺した。

 禁忌兵器などは、アルハザードの持ち込んだものが殆どだったくらいだ。

 だが、それを聖王家は非常に迷惑に感じた。よくある話だ。

 そこから、聖王家との関係が決定的に悪くなった。

 私の表情から訊いてはいけないと思ったのか、フェイトからはそれ以上の追及はなかった。

 リンディさんは黙っている。

 情報を整理しているんだろう。

『飛鷹君。悪いけど、君だけで追跡やってくれる?あと、なのはを戻してくれる?転送で』

 私は追及がないのをいい事に、飛鷹君に念話を送る。

『別にいいけどよ。2人で戻ってもいいんじゃないか?だって、海鳴に堕ちるんだよな?』

『あの翼がある事を忘れないでね。変なちょっかいを他で出されても困るからさ』

『そうだな…確かに』

 飛鷹君は納得してくれたようだ。

『ヤバそうなら呼んで』

 飛鷹君は、やけに素直に承知して念話を切った。

 息長く翼を追えるのは、彼くらいなもんだし、それならなのはは休ませといた方がいい。

 なのはも転送されて戻って来る。

 彼も大分魔法の扱いに慣れてきたね。

 

 私は、これからどう対処するかを詰める。

 

 

             :リンディ

 

 この事件の背後に、まだ背後で糸を引いている存在がいる。

 しかも、それは美海さんと因縁がある相手だという。

 歴史上、彼女の敵は沢山いた。

 可能性の高いのは、やはりアルハザードの誰か。

 だとすると、これ以上何かされる前に終息させないと危険だ。

 だが、同時に調べられる事も調べなければならない。

 あの翼・魄翼がただの機械になったとすれば、干渉している人間が居るという事。

 上手くいけば、尻尾ぐらいは掴めるかもしれない。

 アースラの機材を使い、干渉者の割り出しにエイミィが全力を尽くしている。

 一番力を入れなければならない魄翼・戦略衛星の対処は、美海さんから2つの兵器の落下を、

なんとかする手札があると言ってきている。

 とはいえ、一度彼女の思惑は外れている。

 信頼し過ぎるのも問題だけど。

 何やら、ふっ切れたような印象もある。

 フェイトさん達もいるし、もう1度信じてみようかと思わされる。

 それはこれから詳しく詰めていきましょう。 

 それで大丈夫なら、リスティさんに連絡して置きましょう。

 念の為、避難はして貰うけど、万が一を考えるともう一手ほしいところね。

 それは戦艦の艦長間での話し合いになるかしら?

 

 今は対処法を検討していくのが先ね。

 

 

             :ディアーチェ

 

 騎士達が執念の戦いを見せる。

 悉く3人と1匹は、見事な連携をもって地上に被害が及ぶのを防いだ。

 我が友が苛立ち嫌うのも分かるな。

 我も闇の書の主を配下に持った身であるからな。

 その必死さを、アヤツに見せてほしかった。

 アヤツとて、小鴉に負けぬ優しい者だったから。

 我はもっと仕事が回ってくるかと、身構えていたが意外に暇であった。

 少しだけ撃ち漏らしを掃除しただけだ。

「お疲れ様です」

 リインフォースが労いの言葉を掛ける。

 よくできた臣下よ。

 うちの連中にも見習わせたかった。

 連中は働いても、当然といった顔をしておったからな。

「疲れる程、働いておらんさ」

 騎士達が我を振り返り、どうだといった顔で見る。

「ふん。まあまあといったところだな」

 我もお前達には腹を立てておったからな、素直には褒めんぞ。

 あっちもかなり不快になったようだ。

 

 我の中で何かが目を覚ます気配がする。

 漸くか。

 あれだけ魔力が身体を勝手に駆け回っていたのに、よくここまで眠れたものよ。

 普通、例え気絶していても、疲労していようが、他人に魔力を勝手に使われれば、違和感に

飛び起きるものだぞ。

 大物なのか馬鹿なのか分からんな、コヤツ。

 だが、一応最終決戦には間に合いそうだな。

『小鴉よ。寝惚けている場合ではないぞ。いよいよ大詰めだ』

『へぇ?』

 寝惚けた声が内側から返ってくる。

 溜息が出る。

『…え、ええ!?王様!?憑りついたん!?』

『人を悪霊扱いをするでないわ!!』

 我の剣幕に小鴉が怯む。

 我の威圧の前には仕様がなかろうがな。

『あの時に、消えてもうたんかと…』

『我は別に貴様に倒された訳ではない。それが原因であろうよ』

『そうなんか…』

 小鴉が気の抜けた声を出す。

 そこで目の覚めるような事態の数々を、承知している範囲で教えてやる。

『ダメやな…。そないな大事な時にダウンしてまうなんて…』

『後悔は後にしろ。貴様の身体で散々魔力の使い方は実践してやった。後は自分で判断するが

いい』

 時間切れか…。

 本人が目覚めた所為か、急に眠くなってきおった。

 アヤツも小鴉に魔力の使い方は教えたようだが、流石に身体を共有して使ってみせるなど、

アヤツにも出来ん事だからな。

 これで使い方のコツくらいは分かった筈だ。

「あとは貴様のサポート次第という訳だ。存分に腕を振るうがよいぞ」

 我はリインフォースにそう告げて、目を閉じた。

「ディアーチェ殿!!」

 リインフォースが叫ぶ声がする。

 

 意識が遠のいていく。

 恐らく、次は何があろうと目覚めないだろうという確信が、何故かあった。

 心残りは友に言葉を残せない事だが、別れは前に済ませてある。

 今回は省略させて貰おう。

 

『王様!?』

 

 小鴉の間の抜けた声が最後に聞こえて、我は笑った。

 

 

             :はやて

 

 王様の意思が、遠くにいくのを感じて声を上げたんやけど、次の瞬間には私の目の前には、

リインフォースがおった。

「リインフォース…」

「お目覚めになられましたか、主」

 リインフォースが労わるように声を掛けてくれた。

 どうも、私は目を覚ましたらしい、突然やけど。

 王様が言うとった魔力の使い方に関しては、確かに分かる。

 美海ちゃんが言うてたんは、これの事だったんや!って感じで…。

 王様は、多分もう会えんやろうなっていう確信があった。

 今度こそ、お別れや。

 王様は、美海ちゃんを最後まで気に掛けとった。

 なら、私は王様の代わりに、美海ちゃんを助けなあかん。

 2人にはお世話になったしな。

「うん。すっかり目が覚めたよ」

 私はリインフォースに返事を返す。

「私も行かな」

 私の突然の言葉にも、リインフォースは動じずに頷いてくれた。

 シグナム達も近寄って来る。

「王様は、行ってもうたよ」

 私はまずは私が王様ではもうない事を教える。

 みんなは少しホッとしたみたいな顔しとった。

 まあ、王様は王様だけに偉そうやしな。

 内心で苦笑いする。

「みんな。一緒に行ってくれるか?私、まだ魔法少女始めたばっかりやし」

 みんなに確認を取る。

 みんなは笑顔で頷いてくれた。

「勿論です。我が身は御身と共に」

「たっりめぇだろ!キッチリ護るからさ!」

「頑張っちゃいますよ!」

「無論です」

「存分におやり下さい」

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォースが私の意思を認めてくれる。

 みんな、ありがとう。

 王様は、美海ちゃんの事を気に掛けとった。

 私は美海ちゃんと王様にお世話になった。

 なら、王様の想いに応えて、美海ちゃんを助ける。

 王様のお陰で魔力制御も大体分かるようになってる。

 これまた王様のお陰で、宇宙で活動出来る魔法も記憶済みや!

 全員分使こうても、魔力に余裕はある。

 王様に唯一褒められた点やしね!

 って、これ遺伝の結果か何かやんな?って考えると誇れんな。

 おっと、気を取り直して…!

「じゃ、行こか!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 今なら、なんだって出来る気がする。

 でも、慢心はよくないな。

 そこでリインフォースを見て、お願いしようとしたけど、リインフォースは黙って頷いて

くれる。

 じゃ、分かっとるか、答え合わせやね。

「ユニゾン・イン!!」

 私はリインフォースと再び融合した。

 流石や。

 それとは別に、前より負担が段違いやな!

 私はどんどん高度を上げていった。

 みんな!今行くよ!

 

 お呼びと違うかもしれんけど…。

 

 

 

             :クロノ

 

 状況が次々と念話で送られてくる。

 ここでの対応は、もうこれでいいんだから、宇宙の方の応援に回るのがいいだろう。

 攻撃余波の無効化にパイルスマッシャーを捨てて、高高度での無効化を選択したのは、土壇

場で正解だった訳だ。

 ここからなら、応援に駆け付ける事は可能だ。

「執務官。このまま向かいますか?」

「ああ。勿論」

 アミティエも同じ事を考えたようで、僕に確認してくる。

 向かおうとした僕達を止める声があった。

「ちょっと待った!」

 アルフだった。

「どうした?」

 急がないといけない状況だぞ?

「いや、宇宙って、そのまま行って大丈夫なのかい?」

「「……」」

 

 アースラに転移してから、美海が構築したという魔法を、デバイスにインストールする

という恥ずかしい対応になったのは、言うまでもない。

 

 

 

             :飛鷹

 

 俺はなのはを送り戻し、1人監視任務に入る。 

 なかなか地味な仕事だが、やらない訳にはいかないし、重要な事だ。

 こういう事もコツコツやらないとな。

 少しづつ高度が下がってるな。

 ここで奇妙な事に気付く。

「スフォルテンド。なんか違和感ないか?」

 俺は相棒に訊いてみる。

 スフォルテンドなら、俺の気付かないところに気付いているからもしれない。

『隕石だな』

 俺は衛星を再度よく観察すると、確かに隕石が少し離れているものの衛星と並走している。

 おい、まさか、これ。

『今、解析が済んだ。隕石に含まれる金属を使って、あの羽が隕石を引き寄せてる』

 ヤベェ。

 劣化ウラン弾だけでも厄介なのに、あんなのまで一緒かよ!

 監視は正解だったな。

 

 俺は念話で今の状況を伝えた。

 

 

             :リンディ

 

 美海さんの対策案を聞こうとした時、飛鷹君の念話が入る。

 飛鷹君の話では、あの翼は隕石を引き寄せ、諸共落下する気のようだ。

 隕石はまだ増えているという。

 それが全て降ってきたら、とんでもない事になる。

 ただ飛んで堕ちるだけだなんて考えは甘かったわね。

 これは下手をすれば、策の練り直しがあるかもしれない。

「それで美海さん。飛鷹君が言った隕石がプラスされるけど、軍事戦略衛星の方は大丈夫なの?」

 既に念話で情報は共有済みなので、単刀直入に訊く。

『ええ。対処出来る魔法もバルムンクもいますしね。それに手を貸してくれる友がいます』

 心なしか美海さんの声は、スッキリしたものを感じた。

 彼女の過去は歴史書で少しは知っている。

 知っている積もりが正しいわね。

 彼女は今も自国民や部下に対して罪悪感を持っていた。

 彼女が基本的に人に頼らないのは、その所為だろうと思う。

 でも、今度こそ本当に大丈夫そうね。

 詳細を確認していた時、地球から新たにこっちに向かう魔力反応を捉える。

 誰が?と思ったが、地上に残った人員が全員向かっている事が分かった。

 クロノ達だけは、転移で戻ってきたけど。

 

「偶然か、必然か、人手がいるというタイミングで全員が到着とはね」

 本当に今度は大丈夫そうだ。

 

 

             :美海

 

 リンディさんと念話で話している最中に、地球からこっちにくる魔力反応を捉える。

 ディアーチェ?騎士連中もセットで付いてきているようだ。

 まあ、人手はいるから呼ぶ積もりではあったけど、察して向かってくれたのかな?

 視認出来るまで近付いてきて、分かった。

 ディアーチェじゃない。

 だって、ユニゾンしてるから。

 多分、ディアーチェの意識のままでは、ユニゾンは出来ないだろうし。

 それが証明される。

「みんな~!私にも手伝わせてくれへんか!」

 はやてが大汗を掻いて、手を振ってこっちに来る。

 うん。はやてだ。

 ディアーチェは、はやてが目を覚ましたから身体を明け渡したのかな?

 はやては、心配したフェイトとなのはに色々と大丈夫か確認されている。

 リインフォースがいるから、大丈夫でしょう。

 騎士連中は、こちらを一瞥し、それだけ。

 私も特に言う事はない。

「目が覚めてよかった。でも、ディアーチェが代わってた筈だけど、彼女は?」

 体調の確認をされているはやてに、私は気になる事を確認した。

「ああ…それなんやけど…」

 はやてが途端に言い淀む。

 それだけで理解した。

 彼女は消えたのだろう。

「そう、消えたんだね?」

 はやては弱々しく頷いた。

 気にしてるみたいだから、言って置こう。

「気にしなくていいよ。私はもう彼女とお別れは済ませてるから」

 死ぬ前の話だけど、彼女も同じように思っているだろう。

 だから、構わない。

 私の言いたい事を察したのか、はやてはゴメンとは言わなかった。

 それでいい。

「それでな!美海ちゃん!今度は私がみんなを手伝いたいんよ!」

 はやてが意を決したように言う。

 心意気は買いたいんだけどね。

 私はフェイトとなのはを見る。

 2人は心情的には反対といった顔をしている。

「大丈夫や!確かに体調は万全って言えへんけど、王様から魔力操作のコツを伝手してもろうて、

手伝うのに何も問題あらへん!」

 私達の無理させるのはどうか、という気持ちが分かったのか、はやては必死にアピールする。

「今、ここで引いたら後悔すると思うんよ。王様にはお世話になったしな。勿論、みんなにも。

でも、王様はもっと美海ちゃんの手助けを、してあげたかったんやないかと思う。王様もこの戦い

の結末は気にしてると思うし!…お願いや、手伝わせて」

 フェイトとなのはは、お互いに顔を見合わせて、仕方ないなって顔で苦笑い。

 私の方は最後の確認だ。

「リインフォース。貴女の判断は?融合機として、主はこの戦いを無理なく終えられる?」

 はやての肩から、小さいリインフォースがホログラムの様な形で出てくる。

「はい。多少無理は生じると思われますが、主ならば遣り遂げると確信しています」

「リイン…」

 リインフォースの言葉に、はやてが嬉しそうな顔をする。

 そこまで言うなら、やって貰うか…。変に暴走されても困るし。

「後悔が残るって言われたら、私はダメって言えないな」

「はやてちゃんは、守護騎士さん達の指揮官だし、私達の指揮官でいいと思う!」

 フェイトとなのはがそれぞれ言う。

 それ、賛成って事だよね?

 まあ、いいか。この子ならやってしまいそうだし。

「分かった。みんなが賛成なら、何も言わない。でも、言った以上は遣り切って貰うよ」

 私は鋭い視線ではやてを射抜く。

 はやては一瞬怯み、守護騎士達が不満ムードを漂わせるが、はやてはすぐ持ち直して力強く

頷いた。

 まあ、私が言うなって話だ。

「なら、手順を確認していこうか」

 私がそう言うと、はやてが嬉しそうな顔をする。

 厄介事なのに物好きだね。

 内心で苦笑いする。

 

 私はこれからの事を話そうとした時、横槍が入る。

「あの!()()も協力させて貰えませんか?()()()()()()()()()()()()!」

 何か気になる言葉と、嫌味を言われた気がするが、気のせいじゃないね。

 声の方を見ると、ユーリと赤ドレスの片割れがいた。

『一緒くたにしないでくれる?気分が悪いから』

 片割れの胸から赤ドレスが顔を出す。

「キモッ」

『五月蠅いわよ!アンタ達でしょ!!私の造った実体破壊したの!!』

 私の思わずの感想に、赤ドレスが喚き出す。

 元気になったな。チッ!

「ああ!この子はイリスですので、宜しくお願いしますね」

 ユーリが割り込んで、私に赤ドレスの名前を教える。

 アルハザードの魔法使いの名前なんて、覚える気なかったのに。

 そして、勝手に協力する事になってるし、ユーリは承諾してたけど、こっちは大丈夫なの?

『アンタは憎いけど、アイツの方が今は優先よ』

 私の疑念にイリスが答えた。

 その表情には確かにアレへの憎悪があった。

 まあ、当面は大丈夫として置きますか。

「では、今の状況を改めて教えて頂けますか?」

 この子なんか少しの間にかなり変わったな。

 研究面以外じゃ、大人しそうだったのに。

『それはこっちで教えるわ』

 ウインドウが開き、リンディさんが手短に状況を説明する。

 それを3人?は黙って聞いていた。

「よかった、というと語弊がありますが、私達の予想通りという事ですね」

「というと?」

「彼なら、自分が仕組んだ遊びは必ず干渉してくる。という事です」

 成程。と私はあのクソ野郎の所業を思い出していた。

「ならば、私とイリスで魄翼と彼の接続を断ちましょう」

「どういうタイミングで?」

「ギリギリまで意図に気付かれたくありません」

 こっちが攻撃を開始する直前にやるという事か。

 あの翼は、衛星の後に陣取っている。

 攻撃が仮に始まっても最初のうちは、隕石と衛星が盾になる。

「分かった」

 でも、問題は…。

「それと確認しますが、その汚染兵器は貴女が始末を付けるんですよね?」

 私は頷いて肯定する。

「なら、最初は邪魔な隕石の排除。それまで汚染兵器?が誤射・誤爆しないように護らないと

いけないですね」

 そう問題は、衛星に隕石の欠片やらが当ったりしないように護る役を、誰に振るかだね。

 こっちで人を割くか?

 だが、問題はすぐに解決する。

『その役目なら、私がやりましょう』

 リンディさんが名乗りを上げた。

「いいんですか?艦の方は」

『どちらにしても、アースラは今、碌に動けないもの。出来る事はやるわ。隕石も動ける戦艦に

援護射撃して貰うわ』

「でも、艦の砲から防御出来ますか?」

 気になっている事を訊く。

 リンディさんも、私と大して魔力量が変わらない筈だ。

『私が、次元震を抑え込もうとしたのを覚えてる?』

 私は頷く。

『私の魔法特性は、空間にある程度の干渉が可能なの。だから、数発程度は防ぐ事が出来るわ』

 そうだったんだ。

 あの時は、色々とあったから忘れたな。

 でも、数発か…。戦艦が上手く撃ってくれる事、裏切らない事が前提だね。

『こっちを、誤射という名の証拠隠滅を企んだりしないでしょうね』

 私はどう対応する気か、確認する。

『それはこっちで監視する。本当なら手伝いたかったんだが…』

 忘れ去られた執務官が、横から出てきて代わりに答えてくれた。

 戻ってたんだ。

 他のメンツも一緒に戻っているらしく、後ろに移り込んでいる。

 ヤル気に満ちているらしい。この人も奇特な事だね。

「それなら、こういう手順で行こう」

 

 まず第1段階として、こちらの攻撃射程に衛星が入る直前、ユーリ、イリスと片割れが突撃し、

アレがこれ以上面倒な事をやれないように、ラインを探り出し切断する。

 この間に私は魔法式の構築開始。

 

 第2段階として、なのは・フェイト・はやてと守護騎士団・飛鷹君で、地球の地表に届きそうな

大きさの隕石を細かく砕いて貰う。

 私は彼女達の後ろで構築完了までガードして貰う。

 この時に戦艦の援護射撃。

 そして、リンディさんの魔法で衛星ミサイルの保護。

 執務官達は戦艦の裏切り監視。

 私も魔法式構築と並行して剣聖操技で隕石砕きとフェイト達と手の回らない範囲のガード。

 

 第3段階で先頭に立って堕ちてくる戦略衛星を、私の魔法で無力化する。

 そして最終段階。

 残りの力を振り絞り、全員であの翼をタコ殴りにして破壊する。

 あとはお片付けの時間となる。

 

 これを飛鷹君にも念話で送る。

 なお、彼には念の為海鳴付近まで監視を続行して貰った。

 

 

             :飛鷹

 

 綾森から連絡が念話で届く。

 これで今度こそケリが付く筈だ。

 最後には俺も参加出来そうだな。

 永かったな。

 

 俺は最終的に膨れ上がった隕石の数を念話で伝えて、みんなのところに転移した。

 

 

             :美海

 

 飛鷹君が確認した隕石の数は、とんでもない数だった。

 彼が戻ってきた段階で、疲労困憊の様子だったので、例によって再成を使用した。

 勿論、他のメンツも回復済みである。

 全員が配置に付く。

 もう先頭の隕石が視認出来る程になってきた。

 隕石は衛星を護衛するように動いている。

 まずは第1段階。

 突っ込むタイミングは任せている。

 攻撃射程に入るまさにギリギリで、3人?が飛び出して行く。

 上手い具合に、翼が引き寄せた隕石の陰に隠れて、素早く移動する。

 だが、向こうも馬鹿ではない。

 センサーのようなものはあったのだろう。

 隕石が、ビリヤードのように弾き合い3人?に襲い掛かる。

 片割れは兎も角、ユーリも器用に隕石を踏み台して近付いている。

 そして、3人?は見事翼の近辺に潜んだ。

 ラインの位置を推察した後の一発勝負になる為、取り付くのは慎重になっている。

 もう射程内に突入という段階で、翼に2人が組み付く。

 当然、翼は振り落とそうと躍起になって、隕石の牽引が疎かになっている。

 まずは第1段階終了。

 

 そして、第2段階。

 私は思いっ切り10本の剣を宙に展開する。

 そして、シルバーホーンを構える。

 情報通りなら、劣化ウラン弾。

 放射能事分解しないと被害が出る。

「それじゃ、フェイト、なのは、飛鷹君、はやて一党、頼むよ!」

「テメェ!一党とか言ってんじゃねぇ!」

 赤いハンマーが何か言っているが、無視していいだろう。

 ごく一部以外は、私の言葉に元気よく返事を返してくれた。

 衛星も確認した。

 護衛するように無数の隕石が飛来する。

「予定通り、隕石から潰していくで!みんな!」

 はやてが気合の籠った声を出す。

「兎に角、デカいの1つでも大惨事だ。通さねえ!!」

 飛鷹君が気合十分に叫ぶ。

 いやいや、はやてに譲ってやりなよ、そのセリフ。

「くれぐれも衛星に当てたりしないでね!」

 私は再度釘をさす。

 一応、リンディさんが護ってはいるけど、余計な負担は掛ける必要はない。

 私も護りには協力するけどね。

「頼んだよ。バルムンク」

『任せよ』

 ここまで大々的に剣聖操技を使うのも久しぶりだ。

 蒼い光が剣を包み込む。

「それじゃ、合図は私がするよ!!」

 はやてがなのは達に声を掛ける。

 みんなが闘志に満ちた眼で頷く。

 隕石が射撃圏内に入って来る。

「一斉射撃開始!!」

 はやてが大声で合図すると、みんなが一斉に砲撃を撃ち出す。

「小さいのは無視していい!!デカいの狙え!!」

 小さいのまで撃ってしまっている現状に、飛鷹君も声を出す。

 こういう時、デバイスは便利だ。

 大体これ位の大きさは燃え尽きると、分析して教えてくれる。

 戦艦からも攻撃が加えられ、隕石が小さく砕かれて無力化されていく。

 リンディさんが、隕石の破片が衛星にぶつかったりしないように衛星を護っている。

 今のところ彼女に多大な負担は掛かっていない。

 

 幾ら凄腕4人と戦艦の援護があるとはいえ、撃ち漏らしも出る。

 魔力弾では砕き切れないから、必然的に砲撃になるからだ。

 フルで撃つ必要はないが、多少チャージ時間が食う。

 はやては、初めてにしては上手く撃つタイミングを考えて指揮を取っているが、全て賄うのは

不可能に近い。

 戦艦も流石プロというところを見せて、同じところを狙わないよう気を付けていた。

 私は撃ち漏らしても気にしないように、前もって言ってあった。

 それは、私と騎士連中が担当するからだ。

 10本の剣が蒼い光を纏い砲弾のように飛んで行く。

 守護騎士も前衛2人が、突っ込んでいく。

 守護獣は湖の騎士のガードに付くようだ。

 余裕だね。

 私の剣が、光の尾を引いて隕石を破壊していく。

 縦横無尽に飛び回らせる。

 勿論、魔法式構築も並行して行っている。

 前衛2人は、剣で叩き斬り、戦槌で砕いて撃ち漏らしを片付ける。 

 

 原子分解式構築完了…。

 衛星の後ろに陣取っていた隕石が、一気に動き出す。

 隕石が戦艦の方にまで飛んでいる。

 アレが干渉したな。

 ライン切断はまだか…。

 

 私は放出した剣の1本である大地剣・ヴェルトを、隕石の1つに突き刺すと、()()()()()()()

 大地剣は、突き刺した大地を魔力が及ぶ範囲でコントロールする事が出来る。

 出来るだけ大きいのを選んだ甲斐があり、戦艦の方に飛んだ隕石の軌道を逸らし、宇宙の彼方に

飛ばす。

 同時に雷霆剣で隕石制御の妨害を試みる。

 

 ハドロン分解式構築完了…。

 

 もうじきだ。

 

 

              :ユーリ

 

 隕石を躱して、私達は魄翼に取り付く。

 いきなり取り付かず、すぐ近くの隕石で魄翼を改めて観察する。 

 早くラインを探し出して、切断しないと。

「貴女ならラインをどこに取りますか?」

 私はイリスに意見を求める。

 彼女が今の魄翼を間近に見ている。

 私の場合、接続されて見れていない場所がある。

『まず常識的な場所は除外でしょ。通信関係はすぐバレるからなし』

「ではどこに?」

『隕石の引き寄せに使っている磁場を発生させている装置』

 流石ですね。

 ありそうな話じゃありませんか。

「私の記憶じゃ、武装というか相手の行動の妨害に使うって触れ込みだったけど」

「まあ、金属を使用していない兵器は、アルハザードでも稀でしたからね」

 イリスは黙って頷いた。

 となると、魄翼の翼を潜っていかないと辿り着けない位置に行かないといけない。

 難易度としても、ありそうだ。

「他は増設も見当たりません。コンパクトに組むにはそれが妥当ですね」

「なら、もう砲撃が始まるから、行った方がいいよ」

 キリエさんが焦った声で言った。

「そうですね。イリスは異論がありますか?」

『問題ないわ。行って頂戴』

 キリエさんが少し眉を顰めて頷いた。

 まあ、そんな風に言われたら、納得出来ないのも分かりますけど…。

 

 もう時間がありません。

 私達はタイミングをギリギリまで見計らい、跳んだ。

 

 

              :美海

 

 大地剣で操った隕石を、そのままぶつけて他の隕石を破壊する。

 引き続き他の剣も操り、隕石を破壊して回らせている。

「あっ!」

 フェイトが思わずといった感じで声を上げる。

 フェイトが砲撃に集中していた為、他の隕石の陰に隠れていた隕石の侵攻を見逃した。

 他のメンバーも気付いたが、他を対応中という最悪のタイミング。

 しかも、どこに隠れていたのかってくらいに大きい。

 剣で破壊するのは容易いが、破片が地表に達する可能性がある。

 雷霆剣で妨害しているが、それが仇となったかな?

 予想外の動きをする隕石も出ている。

 戻すべきかな?と思いながら、操っていた剣を5本呼び戻し、フェイト達の前に柄頭を

中心に円を描くように配置する。

 5本の剣がそれぞれ輝き、巨大な盾と変わる。

 隕石がそれにぶつかり砕ける。

 フェイト達にも砕けた破片を送るような事もない。

「ありがとう!」

 フェイトが、こちらを見ずに感謝の言葉を告げる。

 優先順位がキチンと分かっている。

「もうすぐ終わるから!みんな宜しく!」

 私は応える代わりに言った。

 魔法式の構築はもうじき終わる。

 だが…。

『そっちはまだ掛かりそう?』

 念話でユーリに確認する。

 万が一、分解時に変なちょっかいを掛けられると、最悪間に合わないなんと事になり

兼ねない。

 ここは、ライン切断が済んでから魔法を放ちたいところだ。失敗は許されない。

 地上に残している最高の両親を想う。

 フェイト達の帰る場所である海鳴を想う。

『もうすぐです!あの雷の属性剣を、もっと魄翼の周りに飛ばして貰えませんか!?』

 うん?微妙な効果だと思っていたけど、役に立ってるところがあったか。

『分かった。もう構築は終わるから、そっちも頼むよ』

 時間が切迫して来ている。

 詳しくは訊かない。

 必要ならやるまでだ。

『はい!お願いします!』

 念話が切られる。

 

 ベータ崩壊式構築完了

 

 

              :ユーリ

 

 魄翼に取り付くと同時に、当然だが向こうはこっちを振り落とそうとしてきた。

 身体強化くらいは私にも出来る。

 簡単には振り落とされないけど、作業が難しい。

 キリエさんは、それでも器用にジワジワと目的の場所に近付いていた。

 私も見習わなければ…。

 もう、諦めたりしない。

 私は指に魔力を籠めて、凄い勢いで振り回される身体を片手で支え、少しづつ私も

近付いていく。

 もう隕石の迎撃は開始されている。急がないと…。

 砲撃が魄翼の横を通り過ぎていく。

 冷や汗が噴き出る。

 魄翼は兎も角、あんなのに当たったら私ではどうにもならない。

 今度こそは!遣り遂げる!

 キリエさんより大分遅い進み方。

 じれったく思っても、焦ってはいけない。

 その瞬間に、私は宇宙に放り出される。

 2度と戻ってはこれない。

 激しい動きが突如弱まる。

 訝しく思って周囲に目を向けると、1本の剣が隕石の制御を邪魔しているようだった。

 これは!

 あんな剣を持っているのは、彼女しかいない。

『そっちはまだ掛かりそう?』

 その彼女から念話が入る。

『もうすぐです!あの雷の属性剣を、もっと魄翼の周りに飛ばして貰えませんか!?』

 私はすぐに必要な事を伝える。

 これで早く到着可能になる!

『分かった。もう構築は終わるから、そっちも頼むよ』

『はい!お願いします!』

 あの剣が魄翼を妨害するように周囲を飛び回る。

 剣が放電するように光っている。

 おそらくはそういう属性を持つ剣なんだろう。

 私は動きが緩慢になった魄翼を、這って進んでいく。

 

 キリエさんは先に到着し、イリスの指導の下、外装を外していた。

「お待たせしました」

『遅いわよ!』

 声を掛けるとイリスがキリエさんの口を借りて、チクリと言った。

「ごめんなさい」

 私は特に弁解もせずに、作業に参加する。

 イリスだろうと思うけど、不機嫌なオーラを感じた。

 無言で作業する。

 いつまで剣で妨害出来るか分からない。急がないと。

 

 暫く経って、明らかに別目的の基盤が姿を現した。

「ビンゴ!」

 キリエさんが声を上げる。

 でも、いくら予想したとはいえ、随分と簡単じゃないかしら?

 キリエさんが、慎重に配線を退けていくと、基盤の全体像が見えた。

 基盤の見え辛いところに魔力結晶が付いていた。

 これは!?

『これからが楽しいところなんだ。邪魔は無粋だね』

 彼の声が響く。

 まさか!?

「イリス!!」

 私はキリエさんを突き飛ばす。

『お仕置きだ』

 魔力結晶が、活性化し魔法が放たれる。

 見付けられると読んで、対策していたんですね。

 身体から脱皮するような感覚が襲う。

 不味い!耐えなくちゃ!

 これは…魂魄分離の魔法!!こんなものまで!!

 相手から魂魄を身体から引き剥がし、魂魄を無意味化する魔法。

 アルハザードでは、魂は情報体であるとされている。

 身体から引き剥がされた魂魄は、エラーを起こしデータが壊れる。

 おそらくは、イリスを排除する可能性を考えて準備していたんだろう。

 精神体のイリスは、この衝撃に耐える事が出来ない。

『頑張るね』

 干渉力が強まる。

 このままじゃ、持たない!!

 私は動かし辛くなった腕を伸ばす。

 イリス!今度は遣り遂げるから!

 基盤を掴む。

『っ!?』

 彼が驚くのを初めて見た気がする。

 私はフッと笑うと、基盤を乱暴に引っこ抜いた。

 これで機械的なラインが断たれた。

 魔力結晶と魄翼が分離すれば、いくら彼でも魔法的にも干渉は難しくなる。

 私の背中が見えた。

 ああ…魂が抜かれたんだな…。

 

「ユーリ!!」

 最後に友達が、私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 

              :美海

 

 衛星の陰にいる翼から、黒い靄のようなオーラが離れていくのが見えた。

 連絡がないが、ラインの切断に成功したんだろう。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観察していてよかった。

「アバンストラッシュ!!」

「ヒートスライサー!!」

 飛鷹君となのはが、合わせ技のように同時に放つ。

 巨大な隕石が爆散する。

 この後の事を考えてるんだろうね?

「プラズマスマッシャー!!」

「ギャラルホルン!!」

 フェイトとはやては、堅実に砲撃威力を絞って効率よく撃ち込んでいる。

 はやてに至っては、威力を絞るだけでなく、上手く衛星を避けて撃ち込むという器用

な事をやってのける。

 ディアーチェの置き土産だろう。

 それにしても、凄いもんだね。

「ラケーテン…ハンマー!!」

「飛竜一閃!!」

 鉄槌がグルグル回りながら隕石を砕き、烈火が蛇腹剣で細かくしていく。

 こっちの連携は流石と言える。

 勿論、私の剣聖操技も活躍中だ。

 

 そして、遂に衛星の周りから隕石が消える。

 

『リンディさん!!』

 念話で合図すると同時に、衛星を護っていた魔法が消える。

 

 シルバーホーンを衛星に向ける。

 衛星が魔法解除と同時にあちこちが軋み出す。

 

「ベータトライデント…発動!!」

 

 魔法が衛星を捉える。

 瞬間、衛星がミサイルごと分解される。

 

 光が溢れ出し、オーロラが出来上がる。

 

 まだ、仕事が終わっていない。

 翼を見ると、誰も残っていない。

 

「今だ!!撃ち込め!!」

 私の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 




 ここで魄翼絡みは片付ける筈だったんですが、無理と判断しました。
 次回に持ち越しです。
 前回の轍を踏まない為に、潔く切りました。
 最後の戦闘に関しては、素早く推移していると思って下さい。
 
 次回は年内いけるか、微妙なところです。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。

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