魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 長い時間が掛かりました。
 最近メイン投稿はヤバいですね。
 悩みっぱなしです。

 では、お願いします。



第46話 理由

             :フェイト

 

 突然、空が暗くなってきてみんなが空を見上げた。

 まるで、遮光のベールで空を包み込んだみたいな暗さだった。

 もう夜になるけど、この暗さは異常だ。

「え?何!?」

 なのはが声を上げる。

 その正体に気付いて全員が呆然とする。

「これは…魔法陣!?」

 それが私の言葉だったか、それとも他の誰かだったかよく分からない。

 魔法陣がドンドン空を覆い尽くしている。

 それが僅かな光もシャットアウトしている。

「発生源は、美海達が行った方角!?」

 こんな巨大な魔法陣なんて…!

 しかも、幾つも連動し更に広がりを見せている。

「なんかヤバそうな感じやね」

『おそらくは、あの方の予想を越える事態が起こったと思われます』

 はやてが呟くように言った言葉を、リインフォース?が補足するように言った。

 あの方って美海の事だよね?

「で?アタシ等はどう動くよ?」

 ヴィータがシグナムやはやてを見て、口を開く。

「ここで成り行きを見守るなんて、選択肢あらへんやろ」

 深刻な表情ではやてが言った。

 けど、はやての額には凄い汗が浮いていた。

「はやてちゃん!?」

 なのはが近寄ろうとしたその時、はやての胸から小さい光の球が飛び出し、リインフォースが

実体化する。

「主?まだユニゾンを解除しては…」

 リインフォースが怪訝な声ではやてに声を掛けるが途中で途切れた。

 はやてが不意に意識を失い落下したからだ。

 なのはが動く前にリインフォースが、はやてを受け止める。

 全員がはやての元へ急ぐ。

「心配ない。気を失っているだけだ。目覚めたばかりで大義を成した故、消耗されたのだろう」

 受け止めたリインフォースが、全員に心配ないと伝えてくれたけど、それ、大丈夫なのかな。

「それじゃあ、はやてちゃん達は退避して貰った方がいいかな?」

 なのはが私を見ながら訊く。

 そうだね。はやてがこの状態じゃ、厳しいと思う。

「うん。私達だけで行こう」

 美海には助けて貰ってる。今度は私が…私達が助ける。

 私達は頷き合う。

 なのはも同じ気持ちである事が分かる。

 ここではやて達と別れようとした時だった。

「おい。アタシ等も行くぞ」

「「え!?」」

 ヴィータが、そんな事を言うなんて、少し驚いてしまった。ちょっと失礼かな?

「アイツとは、まだ決着付けてないからな」

「戦わずに勝利したなど、騎士として恥だからな」

 ヴィータの言葉にシグナムが同意するよう言った。

「だが、ザフィーラとシャマルは夜天…リインフォースと共に残れ。護衛は必要だ」

 シグナムがリインフォースを見ると、彼女は黙って頷いた。

「グズグズしていても仕方あるまい。行くとしよう」

 シグナムがそう言うと、ヴィータと一緒に飛び上がる。

 私となのはも後を追うように、空へと上がった。

 

 今、いくから!

 

 

             :リインフォース

 

 若鳥と騎士が飛び立って行くのを、私は見送る。

 すると、腕の中にいた主が身動ぎする。

「主。もう暫くはお休みを」

 私は小さい声でそう呼び掛けたが、意外にも力強い言葉が返ってきた。

「戯け。この程度で倒れてどうするか。お前の主はひ弱過ぎるぞ」

「「「っ!?」」」

 私達は思わず目を剥く。

 腕の中にいた主ではない。

「御身はディアーチェ殿か!?」

 ディアーチェ殿は大仰に頷く。

「おちおち消えてもおれんわ」

「しかし、どうして貴女だけ…」

「我は倒された訳ではないからな。消えるのは時間の問題だろうが、少し猶予はあるようだ」

 そう言ってディアーチェ殿は、腕から降りる。

「不甲斐ない故、手を貸してやる。ついて参れ」

 

 ディアーチェ殿は傲岸に笑った。

 

 

             :美海

 

 いつまでも消えた気配を見ていても仕方がない。

 現実に目を向ける必要がある。

「取り敢えず、アイツを墜とすしかねえか」

 飛鷹君が私の傍でそんな事を言った。

 結界はアイツが飛び上がった事で、余裕で突き破られた。

 現在、近所どころか世界に迷惑を掛けている状態だ。

 アレを叩き墜とすのは、賛成する。

 でも、アイツ。惑星破壊プログラムとか言ってたけど?多分、真面な方法じゃ墜とせない

でしょ。まあ、墜とすしかないけどさ。

 でも、魔法陣は術者を倒しても、被害を及ぼす可能性がある。

 定義破綻で停止するならいい。でも、行き場がなくなった力が暴発する可能性もある。

「それで?どういう状況なの?これ」

 私は薄らボンヤリしている赤ドレスに向かって、訊いた。

 あれだけ喚けば、意識も取り戻してるってバレてるからね。

「結局は、アイツにいいように使われたって事でしょ!」

 吐き捨てるように赤ドレスが言った。

「そんな事は、もう分かってるよ。あれは防衛プログラムとは隔離されていた筈で、侵食され

ない筈だったんじゃないの?」

 だからこそ、アルハザードの連中は、あそこに突っ込んだんだしさ。

 赤ドレスは忌々し気に私を見た。

「多分、私が注入したウィルスを解析でもしたんじゃないの!」

「ウィルス!?」

 飛鷹君が素っ頓狂な声を上げる。

 ま、そう簡単に変われないか。私も今の私になるのに苦労したし。

「そうよ。一見無意味なデータの塊だけど、時が来たら集まってウィルスになるの。自在に

姿形を変えて潜伏し、消されてもどこかに別のコピーを潜伏させる。私の力作よ」

「攻機かよ!?」

 飛鷹君の言葉に赤ドレスが五月蠅そうに睨む。

 成程、それならウィルスチェックに引っ掛からない訳だね。

「つまり、アレは取り出される時に、あの翼のメインシステムに入り込んでいたって事ね?」

「そういう事になるわね」

 視線を逸らし座り込む。

「で?対策はないの?アンタが造ったんでしょ?」

「ハッ!アイツが絡んでんのよ!?とっくに私の手に負えなくなってるわよ!!」

 逆ギレか。こっちがキレたいところなんだけどね。

 全く、しぶといヤツだよ。一度殺されたくらいじゃ、反省はしない訳だ。

 元々アレに反省の文字は頭にないと思うけど。

 ベルカ時代の事が頭に浮かぶが、今は余計に不愉快になるだけだから、止める。

「惑星破壊プログラムっていうのは?」

「惑星自体の力を吸い尽くして、破壊にエネルギー変換するものよ。放っておけば死の星に

なるわね。変換したエネルギーは他の破壊にも使えるわ」

 つまり、この魔法陣は星を1つ覆い尽くす予定なのか。

 完成前に破壊しないといけないけど、複数の魔法が起動しているから単純に術式解散(グラムディスパージョン)じゃ

無力化出来ないな。

『となると我の出番となるか』

 バルムンクの声が頭に響く。

『幸いヤツは、宇宙空間といっていい程の高度に上がっとるようだ。これなら全力で力を解放

しても問題あるまいよ。主よ』

 うん。だね。

 となると今の私の魔力だと一発勝負になるな…。

 少しでも魔力を温存しないといけないから、同高度まで他の人に運んで貰わないといけない。

 

 アースラにでも…いや、ダメそうだな。忙しいかもだし。

 ここは復活した飛鷹君か…。

 

 

             :リニス

 

 私達は、飛鷹の魔法で虎口を脱した…ようですけど、どうしてここだったんでしょうか?

 私達は海鳴臨海公園に飛ばされていた。

 飛鷹のセレクトだから、真意は彼にしか分からないでしょうが。

 今のうちとばかりに、傷の治療をしていく。

 全員分がどうにか終了した頃には、少し時間が経っていた。

 フローリアン姉妹の方は呆れた事に、傷がかなり治っていた。

 流石に姉の方は、まだ動けませんが。

 美海には及ばないまでも、凄まじいですね。

 そして、程なくして辺りが暗闇に包まれた。

「なんだ!?あれは!!」

 クロノ執務官が声を上げて、上空を指差す。

 全員が釣られて上空を見上げる。

「「なっ!?」」

 私とアルフは同時に驚きの声を上げてしまった。

 それは私達には構造が違っても、見慣れたものだったからだ。

 魔法陣。

 それも超巨大で、幾つもの魔法陣が連動して動いている。

 まるで魔法陣で出来ている歯車です。

 しかも、それがどんどん広がっている。

 これ程であるなら、結界など効果を発揮する訳もない。

 結界で1つの世界を覆い尽くすなど、美海にさえ出来ない。

 どうも、闇の書…いえ、夜天の魔導書ですか、アレの件はフェイト達が片付けたようですし、

残り消去法でいくと、美海達のところで起きたイレギュラーという事になる。

 ならば、私も行かないといけない。

 剣王の守護獣として。

「アルフ、執務官。ここを頼みます」

 私はアルフと執務官に後事を託す。

「いやいや!どこ行く気だよ!?」

「君が行ったところで、役に立つか分からないぞ」

 アルフと執務官が私の言葉に難色を示す。

 2人の言い分も分かる。

 これは、使い魔や守護獣の出る幕ではない。

 執務官にさえ手に余る案件だ。

「アースラに今、連絡を取っているところだ。それを待って…」

「今は対処に忙しいのでしょう?いつ連絡が付くのですか?」

「いや…それは…」

 別に執務官を責める積もりも、ましてアースラの乗員を責める気もない。

 向こうも向こうで、遣らないといけない事があるのでしょう。

 私も遣らなければならない事が出来た。それだけなのです。

「2人の言いたい事も分かります。しかし、私は美海の守護獣なのです。アルフ、仮にあそこに

フェイトが居たら貴女は行かないのですか?」

「そんな訳ないだろう!?」

 アルフは激昂して言い返してくる。

 ならば分かって下さい。

 私の表情から言いたい事を察したアルフが黙り込む。

「今の美海は、フェイトよりも魔力量が低いのです。確かに何も出来ないかもしれない。でも、

魔力電池になるくらいは出来ます!」

 私の意志が固いと諦めたのか、執務官が苦い顔をしている。

 彼の立場なら、制止しない訳にいきませんからね。

「そこまで言うなら、もう止めない。でも…」

「馬鹿じゃないの!!?」

 執務官の言葉は、突然の叫び声に断ち切られる。

 叫んだのはフローリアンの妹の方だった。キリエでしたか?

「私達に出来る事なんて、もう何もないじゃない!!行ってどうなるのよ!?」

 彼女は子供のように喚いた。

「貴女は何か勘違いしていますね」

 私は、残念ながら貴女に付き合う気はありません。

「何がよ!?」

「役に立つ、立たないの問題ではないのです」

「じゃあ、何が問題だっていうのよ!!」

「私の気持ちです」

「は!?」

 美海から教わった事です。

 自分がどうしたいかを考えろ。

 私は美海を助けに行きたい。魔力電池としてしか役に立たずとも。

 いや、ここは魔力電池程度の役に立つなら喜んでいく。

「ここで行かなければ、私はあの子の守護獣は名乗れない」

 彼女は、ただ動かない理由を欲しているだけでしょう。

「貴女はどうなんですか?後悔しないんですか?」

「っ!?」

 彼女はビクッと反応したようですが、私はそれだけ言うと、飛び上がった。

 

 彼女の答えには興味はありません。

 止められる覚えもありません。

 後はご自由に。

 

 美海。今行きます!

  

    

 

             :アミティエ

 

 あの魔導騎士の使い魔が飛び立っていく。

 キリエは、それを見ずに下を向いたままだった。

「いいんですか?それで…」

 私は妹に声を掛けた。

「言ったでしょ?出来る事なんてないって!行ったて仕様がないじゃない!!気持ちの問題!?

馬鹿じゃないの!?」

 それに厳密に言えば、あの使い魔には出来る事がある。

 でも、キリエは何も出来ないし、望まれてもいないでしょう。

 それにあの使い魔にとって、キリエの答えなどどうでもよかったでしょう。

 でも…。

「そうですね。どうせ、後は捕まるだけですしね。何をやっても変わらないでしょう。しかし、

我が身内としては悲しいですが、イリスの言った通りですね。貴女は何も出来ない」

 私の冷ややかな言葉に、キリエが怒りを籠めて睨み付けてきた。

「なんですか?異論でもあるのですか?」

「ただの自己満足なんて、意味ないでしょ!?」

 キリエは肝心な事を忘れている。

 イリスもまた友達に裏切られたと感じている事を。

 でも、あの記憶を取り戻したユーリを見ていると、ただイリスを騙していたとか、裏切った

とは思えない。何か事情がありそうだと感じた。

 だからこそ、まだイリスを心の中では嫌えないキリエが行動する事に、意味はあると思う。

「本当に自己満足にしか、ならないんでしょうか」

「え?」

 キリエが、私の言葉に気の抜けた声を出した。

「イリスは裏切られて、他人など信用に値しないと考えています。ここで貴女が行動しなければ、

イリスは考えが正しいと思い続けるのではありませんか?」

 勿論、行動すれば報われるというものでもない。

 でも、出来る事があるうちに諦めるなんて、大切に想った心に失礼だと思いませんか?

「それを違うと示す事は、自己満足であっても意味はある。私はそう思いますよ」

 キリエは俯いて何も答えない。

 時間はあまりありませんよ。

「私が行ってもいいの?お姉ちゃんは」

 私に遠慮しているのですか?今更だと思いますけどね。

 私は苦笑いしてしまった。

 今まで散々な扱いだった思いますけど?

 それが伝わったのか、キリエが真っ赤になって怒ったような顔をした。

「少し…くらい悪いって思ってるのよ!!」

 私は苦笑いの消えない顔で頷いた。

「私にしても、貴女によかれと思っていた事が裏目に出ていた事が分かりましたし、いいですよ。

本音もぶつけ合えましたしね。そろそろ貴女を信じて任せる事にします」

 私は苦笑いを消して、真剣な顔で問う。

「それで、どうしますか?」

 キリエは、しっかりと私を見た。

 どうも、今の遣り取りで余計な力が抜けたようです。

「行くよ、イリスのところに。騙す為でも、私は随分救われたから」

「そうですか。では、また後で」

 別れは告げない。

「うん。また後で」

 私の気持ちが通じたのか、キリエも言葉を返してくれた。

「では、これを持って行って」

 私は自分のヴァリアントザッパーを差し出した。

 キリエはそれを受け取った。

「うん。ありがとう。返すよ。後で」

 キリエはそれだけ言うと、大地を蹴って空へ飛び出して行った。

 

 まだ、仲直りという訳にはいかないかもしれない。

 でも、ゆっくり歩み寄れればいい。

 私は、飛び去る妹を見送った。

 

 

             :美海

 

 私は、飛鷹君に向き直ると口を開いた。

「早速だけどさ、転移魔法で宇宙まで送ってくれる?」

「宇宙!?そんなところまで上がってんのかよ!?大丈夫なのかよ!?」

 ああ、宇宙服とか?

 騎士甲冑に一工夫と、呼吸に必要なものは魔法でなんとかするよ。

 そのくらいはしないとね。

 それ込みで魔力ギリギリだけどね。

「大丈夫だから。それより出来る?」

「ああ、まあイケると思うけどよ」

「じゃあ、頼むよ」

 飛鷹君が頷くと準備に入ろうとするが、その前に団体さんがこっちに向かって来るのを

感知する。

「なのは達か」

 うん。異常を察して応援に来てくれたみたいだね。

 それ以外にも、呼んでない人が向かってきてるね。リニスの後に。

 もしかして、リニス、焚き付けた?

 そして、何しに来た。守護騎士2人。

 更に可笑しな雰囲気のはやてが続いていた。

「美海~!!」

 フェイトが先頭で手を振る。

 いや、見えてるし、分かってるよ。

 先頭集団のフェイト達が到着する。

 少し遅れてはやて達が到着するが、フェイト達が驚いていた。

 どうも残る予定だった人が、追ってきていたらしいね。

 後には気を配らないと、そのうち怪我するよ?

 その後に、リニス。そして、お呼びでない人物。

「美海ちゃん。飛鷹君。何があったの!?」

「主!?リインフォース!どういう事だ!」

 なのはとシグナムがそれぞれ口を開いて、疑問を口にする。

 どうでもいいけどさ。応援に来たんだよね?

 意思統一とかしとけばいいのに。同じ所にいたんだし。

「フハハハハハ!我、推参!」

 はやてが高笑いと共に、気取ったポーズを取る。

 全員が固まった。

 この、微妙にバカっぽい登場は…。

「久しいな。友よ!」

 うん。はやての顔をしてるけど、別人なんだね。

 どうしてとか、色々と訊く事はある筈だけど、取り敢えず…。

「ああ…うん。感動の再会の筈なのに。色々と台無しだよ。ディアーチェ」

「相変わらず、分からん事を言う奴よ」

 ディアーチェが怪訝な顔で私を見た。

 これが大真面目な態度なんだよね。

 私は久しぶりに頭痛を感じた。

 頭は良いんだよ。なのになんでこうバカっぽく見えるのかな?

 事情が呑み込めない守護騎士に、私とリインフォースで2人掛かりで説明する。

 時間がないっていうのに…。

「つまり、疲労で倒れた主に代わり、貴女が手を貸すと?」

「その理解でよい」

 シグナムの問いに、ディアーチェが偉そうに答えた。

 これで、こっちは片付いた。

 問題はこっちだ。

 

 私は、赤ドレスの傍に立つ元・捜査官を見た。

 あれ、ほっといていいよね?

 無視して進めようと思うけど。

 

 その思考が伝わったかのように、ユーリが身動ぎする気配がした。

 リニスを通して事情は伝わってるし、こっちからも話聞いときますか。

 

 

             :ユーリ

 

 言い争う声で意識が浮かび上がってくる。

 私は死んだ。

 とすれば、ここが噂に聞く冥府という場所なのでしょうか?

 随分と聞き覚えのある声がしますが…。

 彼女達も死んだのでしょうか?

 眼を開けてみると、空が輝いていた。

 冥府にも魔法陣があったのですね。

 

 …そんな筈ありませんね。

 

 彼女は私を殺した筈…なのに何故あの魔法陣が!?

「ああ。起きた?」

 私を殺した筈の彼女が、悪びれる様子もなく話し掛けてきた。

「これは、どういう事ですか?」

 私は非難を込めて言う。

「キチンと殺したよ?ただ、蘇生させただけで」

「蘇生!?」

 馬鹿な!?剣王が魔法も達者だったとは知っていましたが、アルハザードですら成し

得ない死者の蘇生を可能にしているというのですか!?

「まあ、正確には違うけど、効果は一緒だからそれでいいよ」

 なんて事ないように彼女はそう答えた。

 そして、彼女はここまでの起こった事を説明してくれた。

「…そうですか。そんな事があったんですか」

 他に感想が持てない事態だった。

 ()が絡んでいるなら、最悪の事態も当然の事でしょうね。

 イリスはキリエさんでしたか?彼女と言い争いをしている。

 でも、イリスは一切聞き入れる気はなさそうです。

 魄翼がああなったのですから、イリスの動揺は計り知れないでしょう。

 ここに至っては、話してもいいでしょうか。

 何故、私が親友を裏切ったのかを。

「うん。そこでね。あっちは取り込み中だから、貴女に話を聞きたいんだ」

「話?」

「少なくとも、貴女も関わったんだよね?アレの開発に」

「…はい。その通りです」

何故知っているのか…なんて事は訊かない。

 私は苦い顔で頷いた。

 そして、私は惑星破壊プログラムの術式を強制的に停止すると、溜め込んだ力を糧に

破壊を齎す事を説明した。停止の方法は現行存在しないとも。

「じゃあ、バルムンクでなんとかするしかないか。ありがとう」

 彼女は絶望的な事を言われた筈なのに、微塵も動揺せずに仲間達の元へ戻っていった。

 暫くすると転送陣が輝き、高速で彼女が天に昇っていく。

 もしかして…と思ってしまう。

 彼女ならば、一度は()を倒した、彼女ならばと。

 地上に残った仲間達も、任せ切りにするつもりはないようで、何やら動いている。

 

 キリエさんはイリスと向き合う覚悟を決めた。

 ならば、私は真実を告げる勇気を持たなければならない。

 

 私はイリスに向き合う為に、第一歩を踏み出した。

 

「だから!私はイリスの力になりたいの!騙されていたとして、私は救われてたから!」

「アンタ、馬鹿じゃないの!?気持ち悪いわね!もう、どこかに行きなさいよ!!」

 なんだか、会話がループしてる気がしますが、今はそれどころじゃありません。

 私自身、覚悟しても話すのは気が重いのですから。

「イリス」

 私は意を決して話し掛けました。

 キリエさんが目を見開く。

 イリスの眼が凍り付いたように冷たくなる。

「ハッ!いい気味だと思ってるんでしょ?」

 イリスが背を向けて言う。

 拒絶を表す背中に私は言葉を紡ぐ。

「話をしにきました。これが最後になると思うから」

「ああ。今度こそ私は終わりだろうしね!最後になるわね!唯一の救いは、もうアンタの

顔を見ないで済む事かしら?」

 仕方のない事だ。

 イリスをこうしたのは私自身なのだから。

「いいえ。私が死ぬであろうからよ」

「え!?」

 キリエさんが驚きの声を上げる。

「魄翼を…彼のゲームを止めます」

 イリスが私の言葉を聞いてヒステリックに嗤う。

「ああ!アンタにとって魄翼はどうでもいいものですものね!」

 私は意を決して決定的な言葉を吐く。

「そうですね。アレは厄災の残滓です。()()()()()

「は!?何言ってるの!?アレは私達…いえ!私が造ったのよ!!」

 イリスが馬鹿な事をいうなと言わんばかりに、噛み付いてくる。

 しかし、事実だ。

「確かに組み立てたのは私達。でも、()()()()()()()()()()

「馬鹿な事言わないで!!そんな訳ない!!」

「事実よ。思い出してみて、貴女はどうやって星のエネルギーの吸収・変換の術式を思い

付いたの?翼の生体部品と機械部品の融合なんて貴女の専門だった?」

 確かに生命エネルギーの吸収は、彼女の魔法特性だった。

 でも、規模は個人の力を越える事が出来なかった。

 魔法特性が特殊過ぎて、汎用技術として確立出来なかったのだ。

 そして、彼女の専門は技術。ソフトウェアの方が専門で特殊加工はそこまで得意では

なかった筈だ。

「で、でも!そんな…」

 今、彼女は動揺している。思い出せる訳がない。存在しないのだから。

 私は、あの時に何があったのかを話し出した。

 

 

 私はアルハザードでも名門の出だった。

 そんなものはあそこでは飾りだったけれど。

 幼い頃から才覚を示し続けた私は、当然のように中枢へと進んだ。

 アルハザードには、倫理などというものは存在していない。

 いきなり人体実験など当たり前。

 研究室のゴミ捨て場には、買われてきた人間が山のように残骸と成り果てて捨てられ

ていた。

 私はそんな国で世界で育った割に、順応しなかった。

 そんな光景に眉を顰めていた。

 だからといって、何もしなかったのだけど。

 私は、それでも順調に出世を重ねた。

 助手から研究補佐に、そして遂に自分の研究室を持った。

 その時に入ってきた助手の1人が、イリスだった。

 イリスは珍しい出自だった。

 実験動物として売られる下層民の出だったのだ。

 それが、ここまで上がってくるのは珍しい事だった。

 アルハザードは上層と下層に別れる塔の構造をしていた。

 下層は、魔法的才能が乏しいと判断されたものが送られる場所だ。

 下層からは身売りという形で、お金を得る手段がある所為で、人買いが溢れていた。

 最初、イリスは慇懃無礼な態度で問題のある人物だった。

 当然の事だろう。

 私は彼女を虐げる側の人間だったのだから。

 それが変化し出したのは、ゴミ捨て場を見た私の反応を彼女が見た時からだった。

「ゴミに興味でも?」

 イリスは嘲るように私に言った。

「気分のいいものではありません。少なくとも、ここではああいった事はしません」

 イリスが私の答えを鼻で嗤う。

「自分がやらなければいいと?違う研究室で日常になっていようが、構わないと?」

「非難は甘んじて受けます。私には力がありません」

「あったら、やってくれますか?」

 イリスが一転して真剣に問うてくる。

 私はただ頷いた。

 だって、嫌だったから。本心だ。

 そこからイリスは積極的に私に接触してきた。

 勿論、下心があるとは分かっていた。

 でも、不思議なもので私達は徐々に親しくなっていった。

 それは、私の思考の跳躍にイリスが付いてくるだけでなく、その過程を埋めてくれる

からだった。

 つまり、研究において、彼女と私は互いに補い合う事が出来たのだ。

 そうなると互いに認め合うのも早かった。

 実力と実務を認めた後は、互いの性格に目が向けられたが、そこも意外にも問題

なかった。

 イリスは思い込んだらドンドン進んでいくタイプで、私は慎重に物事を判断し、前に

行こうとするイリスにブレーキを掛ける。

 仕事と正反対の状態で、ここでも補い合う関係だった。

 この頃から、下層民による抵抗運動が行われる事が増えていった。

「ねえ、イリス。みんなを落ち着かせる事は出来ないの?このままじゃ、何かする前に

みんな実験動物にされてしまうわ」

 私はイリスにそう訴えた。

 イリスも苦い表情だった。

「もう、押さえ付けるのも限界なの。私の言葉なんて聞いてくれない」

 忸怩たる声で、イリスは絞り出すようにそう言った。

「でもね!漸く光が見えてきたのよ!見て!」

 一転してイリスが明るい表情になり、データを私に見せてきた。

「これは…」

「そう!やっと奴等をどうにか出来そうな魔法理論が、出来上がったのよ!」

 それは兵器として優秀なものだった。

 装着者の魔力が必要なのは最初だけ、後は兵器が自動でエネルギーを吸収し空間破壊の

力に変換する。巨大な力を吸収する時は、魔法陣の形で外部にエネルギーを溜めて置く。

 ただ、使用出来る力の桁が尋常ではない。

 これなら、理論的に星一つ、世界一つを軽く消し去る事が出来る。

「これなら、中枢に巣食う化け物を殺せる!!」

 私は冷静に検証する。

 瑕疵があれば、死ぬから。

 私の中の知性はイリスに同意していた。

「うん。確かに、これで交渉までもっていく事が…」

「何言ってるの!?アイツ等が今までやってきた事を考えれば、死んで当然でしょ!?」

 私の言葉に、イリスが怒りを露わに遮る。

 私は頷くしかなかった。

 私は彼女と違い、加害者の側の人間だったから、否定する事が出来なかった。

 

 それから理論を元に兵器の作成に入った。秘かに。

 それは攻防一体の翼の形とした。

 思えば、ここでおかしいと思うべきだったのだ。

 あまりにも問題なく造れてしまえている事に。

「これが完成したら、決起する。この世界からアイツ等を一掃して、世界を変えるんだ!」

 イリスはそう喜んでいた。

 

 もうすぐ完成。

 そんな時の事だった。

 私はアルハザードの責任者・筆頭魔法使いに呼ばれた。

 アルハザードに王の概念はない。

 勿論、知っているが、欲した事がないというべきでしょう。

 そんな面倒を背負い込む人間も皆無だった。

 だから、一番実力のある魔法使いが筆頭として、緩やかな支配をしていた。

 私は声を掛けて扉を開ける。

 そこには少年がいた。

 年齢だけ見れば、彼が筆頭魔法使いであるなど冗談と思うでしょう。

 しかし、彼が並居る魔法使いの頂点にいるのは事実だった。

「ああ。ご苦労様だったね。で?どうかな?魄翼…って名付けたんだったね?アレの進捗

状況は」

「っ!!」

 私は辛うじて息を呑むだけに反応を止めた。

 それでも驚愕は伝わってしまっただろう。

 驚くのも仕様がない。

 あの兵器は秘かに造っていて、魄翼と名付けたのも昨日だからだ。

「ああ。驚く事はないよ。アレはネズミ捕りのチーズさ。最近、実験動物が騒がしいだろう?

だから、ここらで一網打尽にしておこうと思ったのさ。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 彼は、なんでもないように恐るべき事を言った。

 吹き込んだ、つまりイリスは偽の記憶をいつの間に刷り込まれたのだ。

 彼がこの手の話でハッタリを言う事はない。

 私の全身から冷や汗が流れる。

「安心し給えよ。君は優秀な駒だ。ここで捨てたりしないよ。下層民も心配する事はない。

繁殖用の魔法も出来ているんだ!」

 私は凍り付いた。

 彼は下層民を人間だと思っていない。それは私達ですら例外ではない。

 そこから、どこをどう自分の研究室に戻ったか記憶にない。

 気付けば、自分のデスクにいた。

 真面な思考が戻ってくると、焦燥が私を支配した。

 イリスは魄翼の完成と共に、決起する気でいる。

 反骨心が残っている人達全員を引き連れて。

 勝てない。あれじゃダメだ。どうする!?

 もう、みんな耐える事は出来ない。

 何もしなければ、一部を除いて死に絶えるだろう。

 何かしなければ…。

 

 どのくらいデスクで思考の海を漂っていたか分からない。

気が付くと、かなり時間が経過していたように思う。

 その時、イリスに連れられて行った下層の家で、小さな子供から光る魔石の欠片を貰って

いたのを思い出した。

 デスクの端で鈍い光を放っていた。

  

 そうだ。

 全てを救う事など出来ない。私にその力は最初からない…。

 ならば…。

 

 私はコッソリ魄翼へ向かい細工した。

 ごめん。イリス。

 出力が出鱈目なだけの扱い辛い失敗作にしたのだ。

 そして、彼には失敗作になった事を告げた。

 つまり、密告したのだ。私は。

 こうして、イリスは反乱の為の兵器を造った咎で反逆罪で捕まった。

 イリスの悲痛な叫びに、私は見えなくなってから耳を塞いだ。

 イリスの声はずっと耳にこびり付いて離れなかった。

 

「ふぅん。そうか…。まあ、いいだろう。データは取れた。ベルカにやる船の参考くらいに

はなるだろう」

 事後の報告を聞いて、彼はアッサリそれだけ言った。

「彼女の処分ですが…魂のみの封印処置が妥当かと」

 魂だけでも生かしたいという私のエゴだ。

 魂のみでは、自然消滅の危機があるが、助かる可能性は残せる。

「実験に使うのではなく?」

「はい。見せしめには丁度いいかと。下層民も大人しくなるでしょう」

 彼は詰まらなそうに頷いた。

「では、それで。出てっていい」

 私は無言で頭を下げる。

「君もなりふり構わないね」

 出ていく時、彼はそう言った。

 私は無言で扉を閉めた。

 

 私が殺されるくらいでは、上層は動かない。

 間抜けが死んだくらいの感想しかない。

 これで下層が無謀な戦いを行う事はない。

 裏切った私に憎悪を向けて、復讐するだけだ。

 彼等とイリスを助けられる可能性は、私にはこれしか思い付かなかった。

 そして、復讐は成された。

 誤算だったのは、下層民がした復讐が私の記憶を消して身体ごと封印した事だ。

 アルハザードでは、資質が低い扱いだが、これくらいは可能だった事を私自身失念して

いた。

 

 

「そんな事が…」

 キリエさんが呆然と呟くように言った。

 イリスは無言だった。

「私は決着を付けなくてはなりません。あの翼を魔法陣を破壊しなければ。私は剣王の後

を追います」

 やっと決心も付きました。

 ケジメは付けなくてはなりません。

 根本的に何も救えなかった私が、今遣らなければならない事を遣る。

 

 私は2人に背を向けて歩き出した。

 

「待って!私も行くよ。でも、アンタの為に行くんじゃないから」

 キリエさんが背後から声を投げてきた。

 私は振り返らなかった。

 ただ、歩き出す。

 キリエさんはムッとしたように追いかけて来た。

 

 イリスは、変わらずその場から動く事はなかった。

 

 

 

             :リンディ

 

 巨大な魔法陣は依然として広がっている。

 だが、私達は魔法陣の対処と並行して、5隻の次元航行船の対処も行う事にした。

 正直、どちらを取っても難事である事は間違いないが、管理局員として無視する訳には

いかない。

「エイミィ。5隻の出現ポイントは?」

「予想ですが…」

 エイミィが額に汗を浮かべて、座標を口にする。

 おそらくは警告もなしにアルカンシエルを放つだろう。

 だから、即狙い撃ち出来るポジション。万が一の反撃を受け難いポジション。

 それをエイミィの頭脳と、コンピューターのデータで導き出した。

 アルカンシェルの射程ギリギリの場所ね。

 尤も射程がギリギリでも、直撃すれば被害は変わらない。

 しかも、それが5隻が一斉に撃ち込むとなれば、被害は考えたくないレベルになるだろう。

「艦長!魔法陣の方ですが、見た事もないものです。どこのデータベースにもヒットしません」

 本来ならエイミィがやっている事だが、エイミィが別の仕事に掛かり切りで別のクルーが担当

していた。

 こっちも予想外に手強い。

 これだけ巨大な魔法陣だ。ヒットしない可能性は高いと思っていたけど、やっぱりか…。

 こうした多重起動の魔法陣は、強引に破壊しようとすると、ろくな事にならない。

 行き場を失った力が爆発する可能性があるのだ。

 あれだけの力が爆発を引き起こしたら、アルカンシェルの被害を越えるかもしれない。

 願わくば、もうすぐ来るであろう5隻の次元航行船の艦長が、魔法陣に目を付けない良識を祈る

しかない。

 その前にどうにかするのが理想だけど。

「古代魔法の専門家とは連絡は付いているの?」

「はい。今、そっちの方も当たって貰っていますが、連絡はまだありません」

 まだ何も情報はないか…。

「艦長!転移反応!5つ!!」

 何事も理想通りにいく事はないわね。

 5つの艦影が浮かぶ。

 音信不通の戦艦、デューク、マークス、エアル、ビィスコント、バロムの5隻が転移してくる。

 なんにして対応しないといけない。

「通信を切っているなら、呼び掛けましょう。音響魔法装置をオン」

「了解!」

 音響魔法装置とは、通信に応じない犯罪者等に呼び掛ける魔法装置で、スピーカーより声が

届くのだ。

「問答無用に攻撃してくる可能性があります。対応準備を」

 ブリッジクルーが全員、緊張に強張った顔で了解と返事する。

 私は小型のデバイスマイクを取り出す。

『こちらは時空管理局・次元航行部隊所属・アースラです。機関を停止し、通信を開いて下さい』

 アースラから私の声が大きく響く。

 私が繰り返し呼び掛けようとした時、5隻が動いた。

「艦長!5隻が砲撃陣形を取ろうとしています!!」

『機関を停止しなさい!!』

 応じる気配は一切ない。仕方がないか…。

「陣形の形成を阻止します。副砲発射!!ただし、当てないようにして!!」

 陣形を邪魔する位置に副砲を撃ち込もうとしたまさにその時、マークスが爆散した。

 全員が驚愕で目を見開き、硬直してしまった。

 逸早く、私が我に返った。

「状況確認!!」

 私を除く全員、他の4隻も我に返ったようで動き始める。

「超高速の飛行物体が通過!マークスに接触し、そのまま通過した模様!!」

 戦艦の防御を貫いて速度が落ちない飛行物体!?

「反転して、こちらに接近中!!」

「回避!!」

 流石なもので、もう回避運動に入っている。

 でも、すぐに衝撃が艦を揺さぶる。

 アラートの文字が目の前に幾つも表示されている。

「飛行物体通過!!右舷損傷!!航行能力20%低下!!」

 アースラを掠めてエアルが轟沈する。

 私はマイクに向かって叫ぶ。

『この状況でも、まだ命令を遂行しようというのですか!?通信を開きなさい!!」

「再び、飛行物体反転!!」

「進路を予想して、砲を撃て!!」

 私は叫ぶように命じる。

 次元航行船をここまで容易に撃沈する相手だ。

 クルーも叫ぶように返事をした。全員が冷や汗で濡れていた。

 流石に転移してきた戦艦も、黙って墜とされている訳ではない。

 回避運動を取りつつ、砲を撃ち続けているが、向こうには掠りもしない。

 そして、辛うじて躱したものの、バロムにアースラ同様、飛行物体が掠る。

 轟沈こそ免れたが、アースラより傷は深いようだ。

「艦長!デュークから通信!!」

「繋いで!!」

 すぐにウィンドウが表示される。

『腹の探り合いはなしだ。協力をお願いしたい…』

 忸怩たる思いが顔に滲み出ていたが、気にせずに私は頷いた。

 ただでさえ、2隻轟沈、1隻が中破の状態では、私達に協力を要請するしかない。

「ただし、アルカンシェルを97管理外世界に向けるのは止めて頂きます」

 私は交渉の余地がないような声音で言った。

 無駄な時間を使う気はない。

 クルー達も必死に対応してくれている。

 ここで言質を取る。

 暫く沈黙が続く。恐ろしく長く感じられたが、ジッと耐えた。

『…事ここに至ってはやむを得まい。承知した。この戦闘終了をもって帰投する。ただし、部下は

私に従っただけだと、覚えておいてほしい』

 少しだけホッとする。

 良識は存在していた事に。

 でも、彼は何故こんな事に加担してしまったのか…。

 いや、ここで考える事ではない。

「承知しました。それではアースラとバロムで注意を引き付けます。その隙に攻撃を」

 本来の動きが出来ないアースラとバロムが、陣形に加わっても足を引っ張るだけだ。

 しかも、相手は戦艦の防御も容易く突破する相手だ。

 攻撃されたら回避しか取るべき手がない。

 それなら囮となり、無事な2隻で攻撃するのが最も勝算がある。

 バロムがアースラに苦労して並ぶ。

 それでは始めますか。

「攻撃開始!!」

 主砲と副砲が2隻から同時に放たれる。

 飛行物体は難なく回避し、こちらに迫って来る。

「バロムとアースラの戦術コンピューターを並列化!!」

「了解!!」 

 迫り来る飛行物体に、デュークとビィスコントが狙い撃ちする。

 それでも飛行物体は、紙一重で躱していく。

 こちらに迫って来る。

「シールド!!局所展開!!位置…」

 私は展開位置を指示する。

突撃を逸らすように展開する。

 直後、途轍もない音が響き渡る。シールドが破砕される音と共に、2隻が横に流される。

「凌いだ!!」

 クルーの誰かが叫ぶ。

「まだ、一撃凌いだだけよ!!終わってない!!」

 その直後に新たなアラートが鳴り響く。

「艦長!シールド展開式に異常発生!!」

 2隻分で集中展開でも、一撃しか凌げないの!?

 追撃して攻撃する2隻もダメージは与えられない。

「飛行物体反転!!」

 私は閉じそうになる目を見開く。

 艦長として最後まで見なければならない。

 アースラとバロムに飛行物体が迫る。

 時間が飴のように伸びて、飛行物体がゆっくりと迫って来るように見える。

 

 直撃する。

 

 と思ったその時に、蒼い光の柱が飛行物体を巻き上げる。

 反射的に放った相手を確認する。

 

 アースラの下方には黒い騎士が、蒼い剣を片手に浮いていた。

 

 

 

 




 本当なら、どうにか戦闘終了までいこうと思ったんですが
 いけませんでした。
 次回になります。
 
 戦艦の名前に関しては、5隻分。もっとリリなのらしい
 名称があれば、教えて下さい。修正します。

 飛鷹君も徐々に落ち着いてくる筈です。
 
 月に1回の投稿になりましたが、折れた訳ではありません。
 悩みつつ修正を加え書いています。

 次回も気長にお待ち下さい。

 
 〇雷霆剣ドンナーシュラーク
 
  美海が雷帝から賭け試合を仕掛けられた時に、分捕った神剣。
  雷帝は聖王連合に入っていなかったが、取り敢えず敵対関係
  ではなかった為、そこそこ交流があった。
  当時、武名が高くなってきた美海に、雷帝が興味を示して、
  試合を申し込んだ。
  最初は試合ではなく死合だった為、臆病と取られないように
  注意した。実は美海は試合より交渉の方が面倒だった。
  お互いに大切なものを賭けるという事で、試合にして貰った。
  因みに、美海は初めてを賭けさせられている。
  雷帝は国の護剣である雷霆剣を賭けさせられた。
  美海が死力を尽くして倒したのは言うまでもない。





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