魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 随分と時間が掛かってしまいました。  
 すいません。

 それでは、お願いします。


第45話 覚醒

             :美海

 

「「さあ、始めようか」」

 ん?1人多いような?

 私の隣で飛鷹君が剣を構えていた。

『君にはここにいる人間の保護をお願いした筈だけど?』

『いや!ちょっと待てよ!ユーリもなんか変だし、撤退時間を稼ぐ為に、俺達が足止めするのが

セオリーだろ!?』

 念話でお互い遣り取りする。

 変に格好付ける形になってしまって、今更口頭で言い合うのも気が引けたからだ。

 あのユーリという子に視線を移してみると、確かに変な翼を背負っている以外にも、自由に動く

事が出来ないような印象がある。

 一応、リニスの眼を通して、見ていたので状況は大体分かる。

 これは人質の一種と考えていいだろう。

「残念ね。魄翼が目覚める前なら、アンタの勝ちだったのにね」

 赤いドレスから装甲過多なドレスになっている女が、得意気に言った。

 ちょっと前に、文句言ってたけど、切札を手に入れていると思い直したようだ。

『お前だって、流石に2対1じゃ、キツイだろ』

 飛鷹君の念話に少し考える。

実際、あの魄翼とかいう兵器で、操られているユーリの本気がどの程度か未知数だ。

 必然的に、私がユーリに。飛鷹君が赤いドレスに立ち向かう事になる。

 果たして、今の彼にアルハザードの魔法使いを任せられるか。

 どうも、戦闘方面に特化していないようだけど、なんでもありな魔法は厄介だ。

『任せてくれ。俺だって遊んでた訳じゃない。それに撤退支援はするぜ!!』

 飛鷹君が行きがかり上、助けた2人をチラッと振り返る。

 そこまで言うなら、やって貰うか。

『途中、ギブアップは出来ないよ?』

『分かってるさ』

 最低でも時間稼ぎは大丈夫でしょう。

 私は静かに頷いた。

「話し合いは済んだ?」

 赤いドレスが嫌味っぽく言う。

「ああ。終わったぜ!!」

 飛鷹君が言うや否や剣を地面に叩き付け、切り裂くと土煙が巻き上がる。

 私の感覚は、土煙と同時に魔力弾が生成されるのを感じた。

 乱暴だな。あとは、魔力弾で攪乱する気らしい。

 それじゃ、誤魔化しきれないよ。と、思ったら強力な障壁が部分的に展開する。

 どうもあれで受け流しや、突撃された時の進路変更などもやる積もりらしい。

 それじゃ、お手並み拝見。などと言っていられない。

 こっちもこっちで囮もやらないとね。

 私は仮装行列(パレード)を発動。

 自分の位置情報を偽る。

 土煙の中でも、赤いドレスがニヤリと嗤うのが分かる。

 次々と飛来する魔力弾を、ユーリと赤いドレス難なく躱していく。

 私は囮となるべく、ユーリと赤いドレスに剣閃を飛ばす。

「そんなもので!!魄翼!!」

 ユーリがこちらに向かって降下してくるが、その攻撃は空を切る。

「「っ!!」」

 両者が驚くのが分かる。残念、私はそっちじゃない。

 私の魔法はどんな巧者だって、騙せるくらいのレベルになってるんだよ。

 ユーリが素早く反転すると、再度突っ込んでくる。

 だが、現れた障壁が火花を散らしてユーリの進路を強引に変える。

『全員、集まれ!!』

 飛鷹君が仲間とおまけに念話で呼び掛ける。

 土煙の中、転送陣を準備したらしい。

 この短時間にこれだけの数の人を転送できるものを形成するとは、確かに遊んでた訳じゃない

みたいだね。

『美海…』

 リニスが念話を寄こす。その一言で何が言いたいか、分かる。

『大丈夫。問題ない。無事に帰るから』

『武運を!』

 私はその言葉に無言で応える。

 私は引き続き剣を振るって、向こうが無視出来ないように剣閃で動きを阻害する。

 仲間とおまけが転移した気配がする。

 囮終了だね。

 土煙が晴れていく。

「無駄な事するのね。転移したって無駄なのに」

 赤いドレスが嘲笑する。

 やけにアッサリしてると思ったら、切札は距離に関係なしになんらかの攻撃が可能なのか。

『だってさ。飛鷹君。今から帰る?』

『冗談じゃないね。俺だってやれる!!』

 

 ま、それが事実か、これからの戦いで確かめさせて貰いましょうか?

 

 

               :飛鷹

 

 シェルターを部分展開する練習はしていたが、実戦では初だったので密かに冷や汗もんだった。

 練習じゃ、かなりの成功率だったが、動きを止めた状態じゃないと発動出来ない。

 上手くいってよかったぜ。

 ユーリは綾森が相手をするようだし、俺は赤ドレスだな。

 俺は赤ドレスの前に立つ。

 赤ドレスが鼻で嗤う。

「もしかして、アンタが相手?」

「もしかしなくても、そうだ」

 向こうじゃ、なのはも頑張ってるだろう。俺だって負けてられない。

 剣を構える。

『随分と搦め手が得意な奴みたいだからな。気を付けろよ』

 スフォルテンドが注意を促してくる。

「ああ。十分に分かってるさ」

 いい加減に分かってきてる。俺にはチートがあるが、経験が不足している。

 十全にチートを使いこなしていない。

 だからこそ、チートに手を加える小細工が必要になるんだ。

 何故なら、どの特典の主人公もキチンとそれで戦えているからだ。

 だが、経験は少しづつどうにかなってきている。

 この一戦で確かめる。

 小手調べなんてしない。

 俺は相手との間合いを詰める。

 クライドさんとの戦いで気付いた点がある。

 完成された技術というのは、どこか似たような動きになる。

 勿論、綾森とも似た動きがある。

 だから、俺が間合いを詰めた時、向こうは驚いた。

 少し前までの俺の動きを見ていた筈だからな。

 驚いた際の一瞬の隙。

 容赦なくいかせて貰う。

 剣を一閃する。

 向こうもいつまでも驚いていてはくれない。

 咄嗟に後退する事で直撃を避ける。

 だが、避けきれずに胸の装甲に剣が掠り、耳障りな音がする。

 神経を研ぎ澄ましたまま、追撃しようとして斜め前に飛ぶようにして移動する。

 移動した瞬間に、今までいた位置に地面から赤黒い槍が飛び出し、俺の横を同様の槍が通過

する。

 飛び退くように躱していれば、放射状に放たれた槍に串刺しにされるって訳だ。

 それで無駄な魔力を消耗する。

 綾森に稽古を付けて貰った時、言われた事を思い出す。

『自分の身体をキチンと扱えずに、魔力なんて余計な力を乗せて上手く動ける訳がないでしょ』

 幼い身体を補う為に、強化魔法とかあるんだろうって思っていたから、この時は綾森の言葉に

反発したもんだけど、今なら分かる。

 身体のどこにどう力を入れるか、それを把握せずに強化なんてしても魔力の無駄だし、何より

動きが雑になるんだ。

 最初からそう言ってくれとも思うが、それは被害妄想だろう。

 魔法にしてもそうだ。

 なんの前触れもなく魔法が発動する訳じゃない。

 どんなに魔法の達人であっても、なんらかの兆候があるのだ。

 今までチートの反応に物を言わせて、躱すなりすればいいと思っていた。

 自分では上手くやれていると思っていたのは、ただの思い込みだった。

 避けるの楽だわ。

 あとクライドさんバリの経験による予測があれば、綾森の域に近付ける筈だ。

 俺は槍や魔力弾のような爆発する攻撃を難なく回避して、剣を振るう。

 シールドで逸らし、体捌きで躱し、剣を振るう。

 赤ドレスが舌打ちする。

 赤ドレスはさっきから両手に槍を持って、俺を間合いに入らせまいと奮闘している。

 お得意な投槍も俺に躱されっ放しだ。

 自分を巻き込むような無茶な攻撃は出来ないだろう。

 そして、小細工させる暇を与えない。

 槍で防がれても、気にせず剣を振るう。

 さながら俺達の周りは、槍の刺突と剣閃で刃の嵐みたいになっている。

「チッ!調子に乗るな!!」

 赤ドレスが霧状の赤黒い魔力を放出する。

 回避は出来ない。

「海波斬」

 俺が選択したのは攻撃。慌てずに技を放つ。

 ただの一閃で赤黒い霧が真っ二つに切り裂かれ、散っていく。

 だが、消えた霧の隙間から槍が放たれる。

 今までにない高速の連続射出。

 今度は俺が舌打ちする番になった。

 どこぞの英雄王みたいな攻撃しやがって!

すぐに防戦一方になってしまった。

 苦し紛れに魔力弾を撃ち返しても、投槍で無力化される。

 全く、所詮付け焼き刃かよ!すぐに馬脚を露しやがるな!

「ほらほら!もっと必死に頑張らないと私の相手は務まんないわよ!」

 赤ドレスが嘲笑が響く。うるせぇよ。

 弾いた投槍が黒い霧になって広がり出す。

 頭の中で警報が鳴り響く。

 あれを受けたらヤバい。

 咄嗟にシェルターをフルで使用して、身を護る。

『分析したが、あれは食らうと不味そうだぞ』

 スフォルテンドが見れば分かるような感想を言う。

「そんなもん見れば分かるって!分析結果教えてくれよ!」

『エネルギーを吸収発散させるみたいだな』

 簡潔にどうも。

 詰まり、触れればどうなる?

『干乾びたミイラの出来上がり』

 以心伝心ありがとう。泣けるよ全く。綾森にもギブアップ出来ないとか言われたからな。

 ここで降参なんてマネはしない。

「あら?亀のモノマネかしら?じゃあ、首を出してあげる」

 黒い霧が反応し出す。

 まさか!?

 シェルターの周囲に漂う霧が、赤黒く嫌な光を放ち爆発する。

 俺は咄嗟に魔法を使う。

 信じられない事にシェルターが、溶けるように薄くなり、ガラスが割れるような音を立てて

壊れる。

 魔力光が煙を突き破り、飛び出す。

「それじゃ、さよなら」

 赤ドレスがニヤ付いた顔で手を翳す。

 目論見通りとでも思っているんだろう。

 魔力光を赤黒い球体が撃ち抜くと、大爆発を起こす。

 周辺の霧の残留物が衝撃波で吹き飛んでいく。

 赤ドレスは物凄い光を伴う爆発と、魔力の散布で俺を見失っている。

 待ってたぜ。

 ()()()()()()()()()()()()()

「マキシブラスト!!」

 第三の業火。

 俺の魔法特典の主人公にして、今は俺のデバイスAIのレイオット・スタインバーグの切札

というべき魔法。

「っ!?」

 業火が赤ドレスを撃ち抜いて天を焼いた。

 咄嗟に防御したようだが、それすら焼き尽くし吹き飛ばした筈だ。

 油断なく警戒する。

 

 俺はあの時、大量の魔力を上空に態と放った。咄嗟に身体を魔力で保護して上空に逃れた

ように見せ掛けたんだ。そして、閃光で視界を悪くし、大量の魔力をバラ撒く事で鋭い感覚

も正常に働かないようにした。

 本当の俺は地面に自ら埋まり、気配を消して隙が生じるのを待った。

 そして、切札の一枚を切った訳だ。

 

「スフォルテンド。センサーは?」

『残念ながらマスターの策で、こっちのセンサーにも異常が出てるからな。分からん』

 嫌味か。

 俺だって、これ以上にいい策があるならやってるわ!

 まだ、綾森みたいに戦うのは厳しいか…。

 余計な事を考えてる場合じゃないな。

 感覚を研ぎ澄ます。

 眼だけでなく、感覚だけでもなく、魔力の兆候だけでもなく、3つを合わせろ。

「っ!?」

 俺はカッと目を見開くと、その場を飛び退こうとしたが間に合わなかった。

 突然発生した黒い霧にあっと言う間に巻かれてしまう。

 ものすごい勢いで、身体からありとあらゆる力が抜けていく。

 思わず、膝を突いてしまう。

「やってくれたわね。流石にビックリしたわ。まさかあんなセコイ手でくるとはね」

 目の前が暗くなっていく。

 まだ赤ドレスは何か喋っているようだが、聞き取れない。

『マスター!!どう…か…』

 スフォルテンドもエネルギーを奪われているのか、すぐに声にならなくなる。

 

 こんなとこで終わるっていうのか。

 

 このままじゃ、またダメなまま終わっちまうだろう。

 

 転生しても、これが俺の分か…。

 

 目の前に誰かが立つ。赤ドレスがとどめを刺しにきたか?

 だが、そこに立っていたのは学生服を着た昔の俺だった。

 なんだ?

 

 一瞬、校舎の入り口に張られた規制線と赤い血の跡がフラッシュバックする。

 視線を逸らして入り口に向かう自分。

 

 仕様がないだろ?俺に出来る事なんてなかったんだ。とばっちりなんて御免だ。

 もう1人の俺が言う。

 

 だから…だから、転生出来るって聞いて、特典貰ってよく聞くオリ主になるんだって思って

嬉しかったんだろうが!!格好良く誰かを助けられる自分になれるって!!

 

 スフォルテンドだって言ってただろ?俺がカッコいい訳じゃない。俺が強い訳じゃない。

 俺の強さなんて特典のお陰だ。そこに至る経験をすっ飛ばした紛い物だ。違うか?

 もう1人の俺の言葉に俺は言葉に詰まった。

 

 そりゃ、楽に強くなれるならいいよな?可愛い女の子にだって感謝されたしさ。

 変わる変わるって、結局は俺には違いないんだからさ。人が変われる訳ないだろ?

 お前は結局は本物にはなれないんだよ。俺なんだからさ。

 なれるんだったら、あの時になれって話だ。だろ?

 もう1人の俺の言葉にぐうの音も出ない。

 

 もうごっこ遊びは楽しんだだろ?恥の上塗りはもう止めようぜ、俺。

 もう1人の俺が穏やかに語り掛ける。

 

 

 恥…?確かに恥だったかもな。大口叩いた挙句、このザマだ。

 だったら!余計に恥晒したまま、終われねぇだろ!!

 前の俺が何やったよ!?オタクになっただけじゃねぇか!!

 これだって立派に現実逃避の恥じゃねぇか!

 結局は恥になるんじゃねぇかよ!?

 だったら恥を抱えてやるよ!!紛い物!?結構じゃねぇか!!

 紛い物だって、貰い物だってやれる事がある筈だ。

 今じゃなくとも、この先にな!

 紛い物だって、進み続けりゃ、それらしくなるかもしれねぇ!!

 いや、なってやるよ!!

 

 俺の言葉に、もう1人の俺が呆れた顔で見ている。

 そして、溜息を1つ。

 

 答えが開き直りって…。つくづく俺だな。

 まあ、兎に角、ギブアップしないんだな?

 もう1人の俺が呆れ果てたように言った。うるせぇよ。

 一転して真剣な表情になるもう1人の俺。

 

 レアスキルの制限を解放する。…まあ、無理だと思うけど頑張れや。

 もう1人の俺が謎の言葉と、投げやりな言葉で消えていった。

 ホント、つくづく俺だな。あれ。

 

 瞬間にレアスキルの固有換象の情報が、頭に流れ込んでくる。

 原作で出てきたのは第一と第三の固有換象のみ。

 特典は原作で出てきたものしか、使用出来ないと思ってたけど、違ったらしい。

 俺の換象には、固有換象という派生技というべき技術が存在している。

 運命改変を頂点としてそこに至る技があるって覚えて貰えばいい。

 まあ、そんな事言ってる場合じゃないわな。

 色々と自分の現状を確認するとギリギリだ。

 

「第二換象。構築変成」

 

 瞬間的に白銀の光が俺から滲み出る。

 黒い霧を食らい尽くした。

 その全てを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 運命に干渉する程ではないにしても、全ての物を俺の必要とするものに変える事が出来る。

 そういうものらしい。反則だな、これも。

 自分に合わせたエネルギーの為、抵抗なく全て吸収する。

 

「ふう。生き返ったぜ」

 死ぬかと思った。

 顔を上げると、赤ドレスが目を見開いて驚いていた。

「こ、この!」

 赤ドレスがすぐに驚きから立ち直ると、再び黒い霧を発生させる。

 しかも、今度はかなり濃いもののようだ。

 前回以上のスピードで発生したが、俺にはもう脅威に映らなくなっていた。

「第一換象。天道律」

 白銀の光が周囲に満ちると、黒い霧が消し去られていく。

「っ!?」

 この天道律の前には、どんな力も無力化する。

 綾森には、まだ慣れていなかった所為で発動が遅く使えないかったが、今は何故かすんなり

と発動出来た。これも制限の解除の影響か?

 白銀の光を纏ったまま、赤ドレスに向かって歩き出す。

「こんなのに!こんなのに!」

 どんだけ雑魚だと思われてたんだかな。

 俺は赤ドレスにある程度近付くと、跳躍する。赤ドレスに向かって。

 赤ドレスが喚きながら赤黒い槍を何本も放つが、白銀の光に触れると悉く消え去った。

「マキシライトニング」

 天から魔法の強力な雷が降り注ぐ。

「舐めるなぁ!!」

 赤ドレスが避雷針の魔法でも使ったようだが、狙いはお前じゃないんだよ。

 無駄な一手のお陰で、間合いに深く踏み込む事が出来た。

 雷が落ちる。

 俺の剣に。

「自分に!?」

 俺は雷を剣に纏わせ闘気で増幅する。

 咄嗟に逃れようとしたようだが、俺の方が速い。

「ギガブレイク!!」

 凄まじいエネルギーが放たれる。

 一瞬、周囲が白く染まる。

 何もかもが吹き飛ぶ威力。転生して初めて使ったけど、スゲェ威力だな。

 俺は着地したが、正面を向いたまま剣を振るった。

 金属を打ち合わせたような音が響く。

 そこには赤ドレスがいた。実体は失ったようだが、身体は霊体のような状態で意識を保って

いる。

 運命改変に至る道筋を全てを習得した所為か、相手の動きが手に取るように分かる。

「今は、こんなもんだ。だが、スキルに頼らない強さ。やってやろうじゃねぇか」

 心の中で言う積もりが、口から盛大に漏れたようだ。

 赤ドレスの顔が般若のようになる。

「私がお前みたいな奴に!魄翼のバックアップがあるのに!どうして!!」

「俺のズルだ。負けたのはお前の所為でも、綾森が相手してるもんの所為でもないさ」

 そう、これこそ特典の効果だ。俺の実力は介在してない。

「重なり合った形をよく見ろ」

「は!?」

 丁度、十字架のような形になっている。

 俺の闘気が流れ込み、十字に光り出す。

 赤ドレスはここで漸く危機を感じたのか離れようとしたが、離れる事が出来ずに顔を強張ら

せる。

「受け取れ。有りっ丈だ」

 赤ドレスが悲鳴のような声で叫ぶ。

 何を言っているのか、聞き取る事は出来ない。

 

「グランドクルス!!!」

 

 俺は赤ドレスの霊体みたいな身体が、行動不能になったのを感じた。

 よく持ったな結界。

 グランドクルスも初めてだが、とんだチート技だ。負担デカいけどな…。

 

 俺は第二換象の副作用と、魔力と闘気の消費のし過ぎでぶっ倒れた。

 

 

             :美海

 

 私はユーリの前に立つ。

 ユーリの背にくっ付いている翼は、威嚇するように魔力を放っている。

「すみません。私にはどうにも出来ないのです」

 ユーリが申し訳なさそうに、私に言った。

「いや。別にいいよ。でも、痛いよ?」

 私の言葉に目を見開くと、微笑んだ。

「構いません。止めて下さい、私を…私達を」

「承知」

 私は短く答える。

 もう、言葉は不要だ。行動あるのみ。

 私は血中から雷霆剣・ドンナーシュラークを取り出す、構える。

 それが合図になったのか、ユーリが翼を広げて突っ込んでくる。

 だが、それだけではない。

 不可視の刃が複数飛んでくるのを、感じていた。

 勿論、魔力で放つなど分かり易いマネはしていない。

 並の魔導師や騎士なら、気付かずに細切れにされていただろう。

 しかし、私もベルカで積んだ実戦経験は破格と言っていい。

 だからこそ分かる。何かがこちらに放たれた事が。

 大気を乱さない攻撃など殆どないからね。

「はあぁぁぁぁぁーーー!!」

 雷霆剣がバリバリと物凄い音を立てる。

 一閃すると剣閃がまるでレールガンみたいに放たれる。

 不可視の刃が金属が砕けるような音を立てて無力化され、ユーリに剣閃が届く。

 ユーリは翼を閉じて防御するが、衝撃を殺し切れずに進路がズレてしまう。

 それでも、スピードを殺さずに私の横を高速で通り抜ける。

少しでも戸惑って減速するようなら、すれ違いざまに斬ろうと思ったんだけど。

 何か丸い物が大気を乱してこちらに飛んでくる。当然の如くなんの力の気配もない。

 今度は私から、高速で空中にいるユーリに向けて走り出す。

 丸い物の大凡の大きさは分かっている。

 弾幕をすり抜けるように躱していく。

 通過後、背後に障壁を一瞬だけ展開する。

 案の定、突如爆発した。だが、爆風などの被害は一切受けずにユーリの間合いに踏み込む。

 ユーリが驚愕するのが分かる。

 そこは表情を変えたらいかんでしょ。まあ、ユーリ自身の望んだ事じゃないからいいけど。

 翼が剣、大型の戦斧のように振るわれる。

 随分と器用な事が出来るんだね。

 受け流すように捌いていく。

 超高速の斬撃、或いは叩き潰すような一撃が続けざまに放たれるが、私はいとも容易く捌いて

いく。流石に身体を気にしないでいい機械だけあって、限界を無視した動きだ。だが、それだけ

じゃ、私は斬れない。

 もう戦闘なんて金輪際お断りしたいくらいに、戦った私だからこその領域だ。

 要するに武術は、無駄な動きを極限までそぎ落とす事だ。

 最も、効率のいい動きを追求した結果だ。技などはそれを逆手に取る場合もあるけど。

 だからこそ、どんなに速い攻撃であろうと、見えていなくとも身体が勝手に反応する。

 鋭い羽が刺突のように放たれる。

 剣では対応出来なかった為に、拳で打ち払う。

 妙な力を振るわれるのを防ぐ為、接近戦に注意を向けさせ続ける。

 一撃食らえば死ぬ。そんな中を私は平然と剣を振るう。

 あの翼は、おそらく魔法防御など容易に突き破るだろう。

 雷霆剣は大丈夫でも、幼い私の身体が斬撃を受けられない。

 躱す、いなす、受け流すしかない。

 全盛期に遠く及ばない不本意な動きに、若干の不満を感じるけど仕様がない。

 死の嵐の中、遂にユーリの方が耐え切れずに滝のような汗を流していた。

 思いっ切り、無理矢理付き合わされている。使用者の都合を考えてないな、この翼。

 だが、無視には限度があるのか、離脱の気配を感じ取る。

 これ以上はユーリが持たないと翼が判断したんだろうけど、バレバレなんだよ。

 当の本人が、明らかに実戦経験済みじゃないのが災いしてる。

 それでも、あの空間型の攻撃があれば、大抵の奴は負けるだろうけど。

 離脱を成功させる為に、相手を吹き飛ばすような勢いで翼を振るう。

 それを掻い潜り、雷霆剣を一閃する。

 雷霆剣は、攻撃速度は私が持っている剣の中では一番速い。

 閃光のような光が走る。

 翼の内側のユーリを狙ったにも関わらず、魔力障壁を幾つか切り裂いた感覚しか得られない。

 斬った部分を修復される前に、左手でシルバーホーンを血中から取り出し、連射する。

 雲散霧消(ミストディスパージョン)を連射したが、紙一重で翼が強引に閉じられ、防がれる。

 閉じた翼を一気に広げ、風圧と不可視の刃が乱れ飛ぶ。

 詳細を見る それを雷霆剣で振り払うと、素早く血液を操った。

赫綰縛(かくわんばく)

 空斬糸を太く網目状に展開する技で、血液応用技だ。

 私は主に行動の制限に使ったりする。

 血液の頑丈な網が翼を絡め捕る。

「っ!?」

 ユーリが驚き、翼の方は早くも外そうと試みているが、そんな簡単に外れるか。

「雷舞狂乱」

 雷霆剣が、剣閃と共に舞うが如く雷が踊り狂う。

 戦場舞踏とも言うべき技だ。雷と共に舞う。

 雷が変幻自在に変化し、相手を斬り裂く。斬れずとも雷は相手を焼く。

 機械であるならば、内部を滅茶苦茶にする。

 流石に、この程度で故障はしないだろうがダメージは通ってるな。

 更に畳み掛けようとしたが、頭の中で警報が鳴り響く。

 エネルギーを翼が大規模に動かし始めている。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使って視る。

 大規模に空間を歪ませ、空間ごと私を破壊する気らしい。

 無茶するな。

 これは同時に自分自身の周辺空間も操作して、防御する攻防一体の技のようだから、自分だけ

は無事って訳だ。

 だが、幸いにも発動前だ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使って、どこを崩せば技が破綻するか調べる。

 干渉する以上は魔法同様術式のようなものが存在している。

 あちらの準備が整うまでに、術式解散(グラムディスパージョン)を調整する。

 調整完了。

 タイミング的にも微妙。

 すぐさま放つが、完全無力化までは望めず、力の余波のようなものが発生する。

「まさか!?」

 ユーリが声を上げる。

 魔法だけじゃなく、他のエネルギー攻撃にも有効な事に驚いたようだ。

 力の余波が衝撃波のように襲ってくる。

 私はそれを斬り裂く事で漸く無力化した。

 あまり時間を掛けるのは、不味いな。

 だんだん向こうも、周りを気にしない攻撃にシフトしている。

 これ以上、威力を上げられると結界が持たない可能性も出てくる。

 そうすれば、大惨事になる。

 手早く片付ける必要がある。

 私は血中からもう1本の剣を取り出す。選んだのは、頸風剣・オルカーン。

 両手に剣を構える。

翼が何か霧状のものを自身に纏わせると、今まで付いていた傷や亀裂が修復される。

 そんな機能もあるのか。

 2本の剣を構えて、滑るように間合いを詰める。

 仮装行列(パレード)を同時に発動する。

 直後、羽から赤い光の網が広がっていく。

 何かが脈打つように音を刻む。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で正体を探る。

 これは地球の気脈から力を吸い上げてるのか!

 通りで赤いドレスが自信満々の訳だ。

 こんな事を繰り返せば燃料切れもないし、下手をすれば世界が力を失い滅びる。

 本気で吸い上げれば、世界を滅ぼせる。

 そうすれば、相手も生きてはいられないだろうから、最終的にあの翼の勝利って訳だ。

 流石、アルハザードの奴等が造った代物。イカレてる。

 その間も、翼と剣での斬り合いは続いていた。

 二剣にした事で、超攻撃的な斬撃を繰り出す。

 防御を頸風剣で弾き飛ばし、雷霆剣で斬り裂く。

 放電で気脈からのエネルギー補充を妨害しようとするが、上手く干渉出来ない。

 翼の読みか、それともユーリの頭脳を利用しているのか、こちらも決定打を打とうと

しても、ギリギリで防がれていた。

 こちらも、相手の攻撃は上手く位置情報を誤魔化す事により、致命的な攻撃は受けていない。

 物凄い勢いの斬撃に翼が削られていく。

 羽と不可視の攻撃による中遠距離攻撃も、頸風剣の風で逸らす。

 遂に片翼を斬り飛ばしたが、次の瞬間私は飛び退いていた。

 礼の霧状のものが噴き出し、切断面を接合してしまったのだ。

 それだけじゃない。

「くっ!」

 私の口から呻き声が漏れる。

 少し吸ったか!

 口から一筋血が流れる。

 微量だったお陰で、口の中で少し悪さをされた程度で済んだが、大量に吸い込んでいれば、

微細な粒子が刃となって身体の内側がズタズタになっていた。

 何かあるとは思ってたけど、回復と武器の両方を兼ねるなんてね。

「すみません。魄翼を幾ら攻撃しても止まりません。私を殺さないと…ダメなんです」

 ユーリが絞り出すようにそう言った。

 おそらく、彼女は私に期待なんてしてなかったんだと思う。

 だが、実際私と戦って、彼女は出来ると確信した。

 試されたとしても私は別に不快には思わないけど、人によっては勝手と思うだろう。

 しかも、殺してくれだしね。言い辛いだろう。

 私はユーリを安心させるように微笑んだ。

「任せて」

「ごめんなさい。嫌な事を…」

 

 機甲の翼は苛つくように翼を広げる。

 私は静かに二剣を構える。

 向こうは赤ドレスがだんだん気になってきているのか、勝負を決めたがっている。

 どうも飛鷹君が、切札を切って勝負を決めにきているようだ。

 サッサと応援に行きたいところなんだろう。

 証拠に、エネルギーの動きが見た事のないものに変わっている。

 ここまで大技は発動前に潰し、細々とした攻撃も期待した効果を上げられなかった以上、

次に来るのは奥の手だろう。

 

 応えて上げるよ。

 

 私は二剣を握り締める。

 

 翼が限界まで開かれる。

 何かのエネルギーが渦を巻く。

 それがどんどん強くなっていく。

 幼い身体でどこまでやれるかな。

 

 翼が雄叫びを上げるように咆哮する。力を発散したのだ。

「参る」

 私は空に駆け出す。

 高速で空中を蹴る。

 凶悪な破壊の渦が2つ翼から放たれる。

 

「神翼飛翔」

 

 両手で同時に奥義を繰り出す。

 右には雷、左には風の属性が追加され、技を放つ。

 空間を破壊し、そこから発生する力を食らいながら2つの渦が迫る。

 

 技と渦が激突する。

 

 渦が中半まで切り裂かれる。

 だが、完全には斬り裂けず、両手の剣は渦の力が制御を失った影響で生じた爆発で手から

すっぽ抜ける。剣聖操技で飛んでいった剣を止める。

 その隙に翼はこちらに突っ込んでくる。

 避けるのも防御するのも間に合わないタイミング。

 ユーリの表情が絶望に染まるのが分かる。

 だが、私は飛んでいった剣を戻す事も、新たに剣を出す事もせずに手をユーリに突き出す。

 私の手から赤い刃が伸び、ユーリの胸に突き刺さる。

 突っ込んできていたお陰で、大した力も要らなかった。

 ユーリが自分の胸を確認するように見る。

「カハッ!!」 

 ユーリが血を吐いた。

赤い剣(ブラッディソード)

 翼の多重防御を貫くには、バリオンランスがいいが、レアスキルのこっちの方が速く発動

出来るし、貫く細工もし易かった。何せ体内で魔力を弄れるから、気付かれ難い。

 私は傷口が広がるように、剣を捩じるように抜いた。

「あり…がとう」

 ユーリがそう言って落ちていった。

 同時に何やら光の十字架が、爆発するのを横目で見る。

 飛鷹君の方もどうにか勝ったようだ。

 

 ユーリと翼が地面に落下し、地面に激突して翼が大破する。

 私はそこに下りた。

 お礼はまだ早いよ。

 私は剣を引き戻すと、頸風剣を血中に戻し、シルバーホーンを取り出した。

 ユーリに纏わり付いている翼を引っぺがすと、ユーリにシルバーホーンを向けて引き金を

引いた。

 瞬間、青い炎を上げてユーリが翼の装着前の状態に戻った。

 そう、私には再成がある。

 だからこそ、躊躇もなくユーリを刺せたのだ。

 私の胸には、まだ痛みの名残が残っている。

 心臓は刺されるのはキツイな…。

 脂汗を流しつつ、顔を顰めていると、ユーリが目を開ける。

「私…は」

 私はユーリに手を差し出す。

「生きている…のですか?」

 私はニッと笑って頷いた。

 呆然としているユーリの手を掴み、上体を起こしてやる。

 暫く、正気に戻る事はなさそうなので、飛鷹君の方へ歩いて行く。

 彼はまたしても倒れていた。

「君はまたか…」

 シルバーホーンを飛鷹君に向けて引き金を引く。

 ユーリ同様に目を覚ます。

「我ながら、みっともないが勝ったぜ」

「うん。今度からもっとリスクを考えて使おうか」

「ああ。分かってるよ」

 彼にして大人しいな。まあ、思うところがあったんでしょう。

 私は黙って彼の肩を叩くと、問題の人物のところに歩いて行った。

 

 そいつは実体を失い、力を消費しかなり不安定になっていた。

 赤いドレスの奴だ。

 一応、身動きは取れないようだけど、意識は取り戻していた。

「なんで…!!まだ…」

 現実を受け入れられないみたいだね。

「魄翼を使ったのに!!どうして!!」

 確かに大したものだったけど、勝てない相手じゃないでしょう。

 私は呆れて口を開こうとして、弾かれるように振り返った。

 何もない空間を凝視する。

 

『そう睨まないでくれないかな?実体はここにないよ。久しぶりじゃないか。我が宿敵』

 

 飛鷹君は既に立ち上がり、周りを警戒している。

「アンタ!!どういう積もりよ!!」

 赤いドレスが喚く。

『どういう?君があまりにも不甲斐ないんで手を貸そうと思ってね』

「なんですって!?」

 

 その言葉の直後、翼の残骸から紫の蛇が這い出てくる。

「な!?まさか…あれは!?」

 飛鷹君が驚きを露わにする。

「私の魄翼に何したの!?」

 赤いドレスが食って掛かるように言う。

『心外だな。僕はこのままじゃ、君が納得しないだろうと気遣ったんだけどね』

 

 紫の蛇がみるみるうちに翼を繋ぎ合わせ、修復していく。

 翼から大きい蛇が姿を現す。

 まるでカタツムリだね。

「なんでここにいるんだよ!?ナハトヴァールが!!」

 飛鷹君が声を上げる。

「違う。アレは亡霊抜きの純粋なるシステム。防衛プログラム自体、奴等が造ったもの

だから、外部から弄るバックドアくらい仕込んでいても不思議じゃない」

 私の言葉に、飛鷹君が信じられないとばかりに首を振る。

 そして、()()が関わったなら私を騙せても不思議じゃない。

 

『さあ!楽しんでくれ!!』

 

 

『惑星破壊プログラムを起動します』

 翼を生やした蛇の無機質なアナウンスが響いた。

  

 大量の虚無を放ちつつ、魔法陣が広がっていく。

 

 嘲るような嗤いを残し、()()はこの場を去って行った。

 

 

 

 

 

 




 飛鷹の特典覚醒とラストは掛けてあるタイトルです。
 美海も飛鷹と同じ道を通っていますが、自分とは違う
 のだから、どうにかならないかと彼女は考えています。
 
 戦闘描写は最も苦手分野の為、どうしても時間を余計
 に食ってしまいます。すいません。

 美海が赤い剣を使用したのは、本編の通り発動時間の
 問題です。

 雷霆剣に関してはもう少し経ってから書けると思い
 ます。
 
 飛鷹の固有換象に関しては捏造です。
 原作が出る気配もないので、造ってみました。

 次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。
 いつ次、投稿出来るか相変わらず不透明です。
 すいません。

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