魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 想像以上に時間が掛かりました。すいません。
 はやて覚醒からになったのは、書く時間の関係
 です。
 あと、また可笑しなところをみつけたので、ほん
 の少し修正しています。

 では、お願いいたします。



第43話 希望

              :飛鷹

 

 それぞれの戦いが決着し、夜天の魔導書の意思の相手をしている綾森のところへ駆け付ける。

 これまた珍しい綾森の感情的な言葉を聞いた時。

 もしかして…。なんて思っちまったよ。

 綾森が砲撃してたし…。

 だが、はやては原作通り強かった。心がだぞ?

 黒い霧が収まり、光の柱が天を突く。

 ベルカの魔法陣の周りに4つの光が囲み、人型となる。

「ヴィータちゃん!!」

「シグナム!!」

 なのはとフェイトがそれぞれ声を上げる。

「我ら、夜天の主のもとに集いし雲」

 シグナムが言葉を紡ぐ。

「主ある限り、我らの魂尽きることなし」

 シャマルがそれに続く。

「この身に命ある限り、我らは御身のもとにあり」

 そして、ザフィーラが後を引き継ぐ。

「我らの主、夜天の王、八神はやての名のもとに」

 ヴィータが締めくくりの言葉をいった直後、光の柱が消える。

 ベルカの魔法陣に残った丸い膜のような光が、ガラスが割れるような音と共に内側から砕ける。

 はやてが杖を持った姿で現れた。

 でも、杖がなんか派手になってるような?

 シュベルトクロイツってあんなだったか?

「夜天の光に祝福を!セッ~トアップ!!」

 シュベルトクロイツから光が放たれ、はやてが騎士甲冑の姿に変わる。

「リーンフォース!!ユニゾンイン!!」

 白銀の光がはやての胸に吸い込まれる。

 はやての髪と瞳の色が変わる。

「主…」

「はやてちゃん」

「主」

「はやて」

 シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータがはやてに向き直る。

「みんな。ありがとう。お陰で戻って来れたよ」

 はやてが守護騎士達に礼を言う。

 うん?どういう事だ?はやての自力じゃないのか?

 そんな事を考えていると、綾森が遠慮なく近付いていく。

 おい。いいのかよ?邪魔にならないか?

「戻って来られてよかったけど、ゆっくりはしてられない。そろそろ現実の問題に対処しないと

いけないからね」

 綾森の言葉にはやてが頷く。

「うん。防衛プログラム・ナハトヴァール、やね?」

 綾森は頷いた。

「そこで悪いけど、こっちはフェイトとなのは、はやて達に任せていいかな?」

「美海!?」

 フェイトが驚きの声を上げる。

 てっきりこのまま防衛プログラムを、一緒に撃破するもんだと思ってたから、俺もなのはも

ビックリした。

「みんな忘れてるみたいだけど、敵がまだ残ってるからね。私と飛鷹君はそっちの対処に行く。

なのは、悪いけど彼を借りるよ」

 なんでなのはに確認して、俺に確認しない?

「う、うん。分かった!」

 なのはさん?俺の意志は?

「どういう経緯かは不明だけど、3人共パワーアップしてるみたいだから、任せて大丈夫だと

思うよ」

 綾森が俺に言うが、行くのはいいけど意思確認をしろや。

 確かになのはもフェイトも、おまけにはやてまで原作以上に格好良くなっている。

 魔力も強化されているようで、戦闘後なのに全く消耗もしていないようだ。

 確かに、これ以上の人員はここじゃ過剰だろう。

「分かったよ。行くよ。それじゃ、ここ頼むぜ」

 俺はなのはに後事を託す。

 なのはは笑顔で任せて!と返事した。

「アレ…いえ、美海殿。ありがとうございます」

 移動しようとした時に、背後から声が掛かる。

 振り返ると、夜天…いや、もうリーンフォースか?が、はやての肩に立ち礼を言った。

 勿論、元のサイズじゃなく小さくなった状態でだぞ。

「まだ終わってない。まだ、貴女がどのくらい救えるか分からないんだ。それが終わって、

礼が言えるような結果だったら、その言葉を受けよう」

 綾森は振り返りもせず、そう言うとサッサと飛んでいった。

 俺も慌てて追う羽目になった。

 

「なんで俺も一緒なんだ?」

 綾森の後ろ姿に俺は疑問を投げ掛ける。

「まあ、いざとなったら、安全にリニス達を逃がす要員が必要だからだよ」

 おい!戦力としてじゃないのかよ!?

「あの赤いドレス、アルハザードの魔法使いだからね。今のところ足止めに徹してくれている

みたいだけど、長くは持たないよ。無駄口はここまでで」

 綾森はスピードを上げる。

 使い魔を通して、状況を把握してるのか。

 俺も付いていく為に、スピードを上げた。

 

 

              :ユーノ

 

 急いで回収してきた本を精査する。

 その内容は驚くべきものだった。

 ここに来た時も、アリアさんの説明を聞いた時も思ったけど、よくこんな本まで回収して

書庫に入れたものだと感心する。

「それで!?何が分かったの!?」

 ロッテさんが詰め寄って来る。

「ご説明しますが、どう事態が動いているか分かりません。報告も込みで説明します」

 ロッテさんとアリアさんを押し止めて、通信を入れて貰う。

 待っていたかのように、すぐに繋がり、3人に同時に報告する事になった。

 3人とは、キント執務官長、グレアム提督、リンディ提督だ。

「それでは聞かせて貰えるかね」

 感情の籠らぬキント執務官長が促す。

 

 クライド提督は、本当に根気よく未整理の魔窟とも言うべき、無限書庫で調べ尽くしたようだ。

 夜天の魔導書の起源に、限りなく近づいたのではないかと思う。

 勿論作成段階の記録だのは、流石に存在していなかったようだけど。

 でも、夜天の魔導書が性質を変化させた原因ともいうべき、書物を発見していたのだ。

 まだ、夜天の魔導書が、キチンとした研究に使われていた時代の記録だ。

 その当時のマスターは意外な人物だった。

 ベルカで悪名高い禁忌兵器″腐敗の王”の基礎理論を完成させた人物だったからだ。

 これはそのマスターの記録ではなく、研究を途中から手伝った知人の手記という形で残って

いた。

 ベルカの歴史書では、稀代の悪人みたいな書かれ方だったけど、本来の彼女は違ったらしい。

 ベルカでの戦争は、資源・物資の奪い合いの側面が強い。

 豊かな土地、資源が採掘される土地、豊かな水源、そんなものの奪い合いなんだよね。

 ベルカは資源豊かな世界じゃなかった。技術が未熟だった事もあったと思うけど。

 だから、戦乱が絶えなかった。聖王家が統一するまでは。

 だから、土壌の改善をする為の肥料、採掘に頼らないエネルギーを当時のマスターは研究して

いた。発酵分解を目的とした魔法開発だった。

 勿論、機密指定の為、詳しい術式やら研究課程やらは書いていない。

 それでも事の経緯は分かった。

 失敗から出来たなんでも腐らせる魔法。

 その失敗でマスターは、大切な人達を実験の為のモルモットとして死なせてしまう。

 そこからのマスターは、徐々に狂気の世界に行ってしまう。

 腐敗を促す魔法の軍事利用に積極的に賛成し、手を貸し出したのだ。

 知人はそれに何度も苦言を呈すが、聞き届けられる事はなかったようだ。

 マスターは結局は魔法に留まらず、魔法兵器として完成させてしまう。

 各国からこの魔法兵器の使用は、非難が集中した。当然だけど。

 遂に各国は、連合を組み国を攻め落とすまでに至った。

 腐敗の王は、禁忌兵器として封印された。

 マスターは国が滅びても満足しなかった。

 もう狂っていたのだと思う。もっと広範囲に、もっと悲惨な死を求めた。

 そこに接触したのが、アルハザードの派遣団だった。

 アルハザードの派遣団は、マスターの狂気を刺激し、魔導書の改悪案を承諾させてしまう。

 そして生まれたのが、防衛プログラム・ナハトヴァールだ。

 生贄を求めて彷徨い、マスターとして選ばれた人間を糧に破壊と死を撒き散らした。

 

 クライド提督の調査をそこで終わらなかった。

 聖王家の資料を隅々まで調べ始めたのだ。

 何故、聖王家かと言えば、聖王家自身がアルハザードと深い繋がりを持っていたからだ。

 それは、言い伝えにある聖王のゆりかごからも明らかだ。

 だから、アルハザードを知る資料としてベルカ聖王家の記録は、歴史的に重要なのだ。

 そして、それらしき記述をクライド提督は発見した。

 誰にも手を出せない場所を造ったと。

 どうもそこに鍵となるシステムを隠したようだ。

 その鍵は、それ単体では意味をなさないモノであり、どのようなモノの鍵なのか興味を

そそられるとベルカ外交官が手記で記していた。

 

 そして、クライド提督は、その鍵が夜天の魔導書の改悪にどの程度関係しているのか、して

いないのかを調査し始める。

 普通なら諦めるレベルの話まで、突き詰めて調べた。

 結果、鍵を必要とするものを幾つか、過去の聖王家の記録から探し当てた。

 ある技術者の走り書きからだ。

 その技術者は聖王のゆりかごの整備が出来るように、仕込まれた者だったようだ。

 愚痴と一緒に、興味を惹かれた事等を走り書きで日誌の端に書いていた。 

 こんな公私混同しても大丈夫だったのか、気になるところだ。

 まあ、個人的な日誌なんだろうけど、それが件の人物の死後、一緒に資料として放り込まれ

たんだと推測する。

 肝心の内容だけど、それは下手をしたら聖王のゆりかごも失敗作として封印されたかも、

という皮肉とも取れる内容のものだった。

 アルハザードには、通称・ゴミ箱と呼ばれる水晶があると笑い話にしている。

 倫理を無視して造ったはいいが、明らかな失敗作の場合にゴミ箱行きになるそうだ。

 だが、それを拾って改良しようとするヤツがいる為に、鍵を付けるようになったと皮肉って

いる内容だ。

 失敗は成功の母ともいうし、拾って改良する事自体はいいのかもしれないが、多分、失敗

して被害を出したんだろうと思う。審査を設ける為に苦肉の策だったんだろう。

 鍵掛けないと、勝手に取り出すなんて、流石倫理を捨て去った世界だ。

 こっちも大して変わらないか…。

 

 おそらくは、このゴミ箱の鍵である可能性が高いと、クライド提督も考えたんだと思う。

 だけど、ここからクライド提督の調査は、腑に落ちないモノに変わる。

 この鍵の事を詳しく調べ出したのだ。

 夜天の魔導書の変転を調べる上では、貴重な内容ではあるけど、事件を捜査する提督として

は、明らかに余計な調査に感じる。

 それとも、鍵が文字通り、夜天の魔導書の問題を解決する鍵と読んだのか…。

 クライド提督は、アルハザードと関連する場所・ミッドを選んだ。

 ミッドが魔法文明に切り替わる前の有様は、アルハザードと類似すると指摘する専門家も

多いし、資料もベルカ程ではないが残っている。

 そして、本物かの鑑定はしなければならないが、ミッドとアルハザードを繋ぐ関係を探り

当てる資料をクライド提督は見付けた。

 ミッド入植時と思われる記録がそれである。

 彼等は、アルハザードから権力闘争で敗れた者達であったらしい。

 その名簿の中に興味深い者を見付けた。

「興味深い?」

 黙って聞いていたグレアム提督が、口を挿む。

「はい。ここ、見て下さい」

 僕は本を開いたまま、問題個所を指差す。

「…済まないんだが、読めん」

 キント執務官長が、暗に勿体ぶらずに読めと言ってくる。

 ミッドの古語までは、なかなか読めないか…。僕も少し興奮してたな。

「済みません。ここ、テスタロッサって読めるんですよ」

「「「っ!!」」」

 全員の驚愕が伝わる。

 それはそうだ。僕も驚いた。プレシアの家の起源がアルハザードにあったなんて。

 でも、驚くのはまだだ。

「更に、名簿を調べていくと…ハラオウンがあるんですよ!」

「なんですって!?」

 ずっと黙り込んでいたリンディさんが、思わず声を上げる。

「はい。どうしてクライド提督が、これを調べたのかは分かりません。でも、ゴミ箱は、

永遠結晶(エグザミア)の事だと思われます。となると、この権力闘争に敗れた人達も重要な要素に

なります。開く鍵は、塔と呼ばれるアルハザードの行政機関に近い場所にいた血族の、

許可がいる。つまり、この敗れた人達でもいいとなりませんか?」

 僕の言葉にキント執務官長が待ったを掛ける。

「待ち給え。幾ら何でも逃げた者は外しているだろう」

 そう。それが当然だ。

「僕は何度も言いましたよ。倫理観なんてない世界だと。自分の興味がない事は熱心にやり

ませんよ。倫理観がないんですよ?」

 それに永遠結晶(エグザミア)は、適当にバラ撒かれているのだ。

 当の血族すらどこに何があるか、把握していないと思われる。

 それに所詮はゴミという認識なのだ。

「馬鹿な。信じられん…」

 初めてキント執務官長が渋面で呻いた。

「分かった事は、あともう1つ。ここです。クローディア」

「その名は知らんな」

「ええ。でしょうね。ベルカ時代を研究している歴史家くらいしか知らないでしょう。

クローディアは、更にベルカに渡るんです。そして王にまでなります。魔導王の名で最後の

王は呼ばれました。そして、この最後の王は、夜天の魔導書の暴走を止めた王なんです!

剣王の手を借りて!」

 全員が唸るように考え込む。

 ここで彼女の因縁が絡んでくる。

「そこら辺の事もクライド提督は調べていますね。剣王から封印結晶を渡されて、暴走を最小限に

止めている事も調べたようです。分かったのは以上です」

 キント執務官長が頷く。

「君の見解を纏めると、クライド提督は夜天の魔導書の問題解決に、永遠結晶(エグザミア)が鍵に

なると見ていた…そう言う事でいいのか?」

「寧ろ、鍵のシステムを使って何か出来ないか、探ったのかもしれません」

 これ以上は分からない。

 クライド提督の日記でも見付からない限り。

 僕は3人に労って貰ったけど、無限書庫の整理及び封印区画はなんとかすべきだ。

 管理局も人を雇ってやればいいのに、と考えていた時だった。

 

 リンディさんに通信が入った。

 

 

              :レティ

 

 のんびりと時間を掛けて尋問している暇はない。

 メイ司令を適当な部屋に、押し込んだ。

「貴様!!何をする!?」

 メイ司令の腕を取って、関節を極めて身動きを止めてから、部屋に押し込んだので、声を

荒げるが、遅い。もう室内に入ってしまっている。

 防音効果はそれなりにあるし、今は非常時だ。

 私は関節を極めたまま、壁に押し付ける。

「自分が何をやっているのか、分かっているのか!?」

「勿論ですよ。時間がないので手っ取り早く済ませたいので、ご協力を」

 耳元で凄んでやると、彼の顔は引き攣った。

 アルカンシェル搭載艦を、複数送り込むような暴挙は許容出来ない。

 しかも、管理外世界だからといって、被害を度外視するなど論外だ。

「こちらの質問に素直に答えてくれますよね?」

「……」

 私は膝裏に蹴りを入れてメイ司令の態勢を崩すと、メイ司令を転がす。

 そして、急所を踏み付けた。

「さて、もう1度お訊きしましょうか?質問に答えてくれますよね?」

 私は少し力を籠めて踏み付ける。

「っ!?」

 メイ司令が冷や汗を流して、渋々頷いた。

 結構。

 

 素直に歌ってくれたので、サッサと部屋を後にする。

 部屋の中から喚き声がするが、放置させて貰う。

 管理局員として、この事態を座視する訳にはいかない。

 最悪、懲戒処分も覚悟の上だ。

 

 通信室に入ると、すぐにアースラに繋げる。

「レティ?何かわかったの?」

 硬い表情の親友の顔を見る。

 どうも、他にも聞いている人間がいるようだけど、リンディが気にしないという事は、

聞かれても問題ない相手なのだろう。気にせず、用件を話す事にする。

「ええ。取り敢えず聞いて頂戴」

 私はメイ司令から聞き出した事を話し出す。

 

 始まりはクライド君の調査。

 闇の書の捜査以前の話になるけれど、上層部の不正を調べていたらしい。

 そして、彼は不正の証人を押さえた。

 闇の書事件の際に。

 どうも、この証人は闇の書が食らうリンカーコアを与える役割を持っていたらしい。

 勿論、蒐集する相手を騎士達の前に突き出すだけだ。

 その現場を彼は押さえた。

 ここからは、言い難い事だが、告げなければならない。

 そして、クライド君は、この事をノルド長官に突き付けた。

 証人が録音した音声データを元に、捜査をしていけば証拠も固められる筈だった。

 そこに介入したのが、評議会の方々だったという。

 評議会の子飼いは、クライド君が乗っている戦艦・エスティアを沈める工作をし、更に

彼が集めた証拠・捜査メモの核心部分を始末した。

 だが、皮肉にもそれが、彼等にとっては最悪な情報も齎した。

 彼は闇の書の防衛プログラムに目を付けていたのだ。

 これを掻い潜り、なんとか闇の書に干渉出来ないか調べていたようだ。

 そこで分かったのが、永遠結晶(エグザミア)の鍵を生成するシステムが、闇の書の内部に勝手に作成

された事。

 彼は鍵の生成手段を調べた。

 そして、アルハザードの塔の血族に連なる者の魔力パターンを鍵のシステムに通さない

と、鍵の機能は果たせないようだ。

 この資料は持ち出し出来なかった上に、途中が読めなかったようだ。

 魔力パターンを読ませる。つまりこれは、読み込ませる手段があるのではと彼は推測した。

 闇の書の防衛プログラムを誤魔化す手段があるという事では?と彼は考えた。

 そして、彼は一縷の望みを掛けて血族を探した。

 あわよくば、闇の書を呪縛から解放出来ると考えたんだと思う。

 鍵は闇の書のコアシステムの付近にある。

 そこに行けば、突破口があると彼は考えた。そして、更なる証拠もあるかもしれない。

 闇の書に蒐集された者の残留データが。古い物は流石に期待出来ないが、新しい物なら

もしかたら、システムという以上完全にデリートされていないかもしれない。

 コアシステムに干渉出来なくとも、読み込み保存くらいは可能ではないかと考えた。

 そして、無限書庫を封印区画まで危険を冒して調査した結果。

 自分がそうかもしれないと、分かった。

 問題は微妙に発音が異なる事だったそうだ。

 そう、撃沈した事により重要な証拠が、有り得ない事だが、闇の書に眠っているかも

しれない。上層部はそれを恐れた。だから、闇の書事件だけは熱心だったのだ。

 自分達を告発する最後の証拠だから。

 現にハッタリかは不明だが、クライド君も闇の書の中に証拠が残ると言ったらしい。

 彼なりの確信はあったのかしれない。

 

 私は聞き出した事の全てを話した。

 リンディは無言だった。

「レティ提督。ご苦労様です。これでユーノ君の調査で抜けた穴が埋まりました。ですが、

どうやって、そんな事を聞き出したのです?」

 なんとそこには、キント執務官長がいた。

 しかも、ユーノ・スクライアが協力してたのね。

 私は動揺を出さずに、笑顔を作る。

「勿論、根気よく説得したお陰ですわ」

「…そうか、その説得が痛みを伴う脅迫・拷問でない事を祈ろう」

 キント執務官長は渋面でそれだけ言った。

 

 私は最後にリンディに声を掛けようとしたその時だった。

 私に緊急通信が入る。

 私は2人に断わり、通信に出る。

『大変です。まだ、出撃を許可していないのに、5隻の次元航行船が、進路を97管理外世界

に取りました!まだ、指示の確認中だと言っても、応答が一切ないんですよ!!』

 

 私は舌打ちしたくなった。こっちも暴走を開始したって訳ね。

 

 

              :リニス

 

 私とアルフが、あのイリスとかいう魔法使いと相対する。

 イリスが機甲の翼に手を触れる。

「仕様がない獣ね。少しだけ、遊んであげる。試運転くらいにはなってね?」

 機甲の翼が輝き出す。

「アルフ!あれの起動は阻止しましょう!」

「同感だね!あれはヤバそうだ」

 2人同時に左右から攻める。

 イリスが鼻で嗤う。切札に自信があるのか、侮っているようですね。

 ですが、それに付き合う気はありませんよ。

「フォトンランサー!!」

「っ!」

 まさか、アルフの方が魔法を使うとは思わなかったようで、一瞬、相手が驚き隙が

出来る。アルフは見るからにインファイターですからね。

「サンダースマッシャー!!」

 私は、その隙を見逃さない。

 雷の槍を躱しているイリスではなく、あのユーリという子とイリスの間に砲撃を撃ち

込む。

 イリスが舌打ちと共に、槍と砲撃の両方を避ける為に、少し距離を取って避ける。

 目的は取り敢えず、人質になっているユーリの救出だった。

「アルフ!!」

「応さ!」

 アルフは今度こそ拳を握り締めて、イリスに突撃していく。

 私はイリスの方を見ずに、しかし警戒は怠る事なくユーリに接近する。

 手を伸ばすと、静電気のようなものに阻まれた。

 バチッ!という音と共に手が弾かれる。

「なっ!」

 思わず私は声を漏らしてしまう。

「馬鹿じゃないの?備えをしてないとでも思った?」

 イリスは難なくアルフのラッシュを躱しながら、嘲笑う。

 悪戯が成功した子供ですね、まるで。

 私はそれに一切答えずに、ハルバードを真横に振り切りる。

「っ!?」

 流石に人質ごと斬る等しないと、高を括っていたイリスが驚愕する。

 しかし、そんな事をする訳ないじゃありませんか。

 これでも私は剣王の守護獣なのです。

 周りにどんなに邪魔なものがあろうと、目的のものや魔力を斬るなど、造作もありません

よ。これが出来るようになるまで、美海には何度も付き合って貰いましたからね。

 私は相手の小細工ごと叩き斬った。

 ユーリを覆う護りが消える。

 これで確保っと思った時、突然、機甲の翼がユーリを護るように動いた。

 私は本能に従って飛び退いた。

 空間を削り取りながら、私のいた場所を翼が通り過ぎる。

 なっ!?起動していたのですか!?

 私は驚愕しつつも、油断なく機甲の翼を警戒する。

 視線をイリスの方に一瞬やると、イリスはしてやったりといった顔ではなかった。

 アルフの魔法と打撃を捌きながら、複雑な表情をしていた。

 これは、イリスの意図したものではない?

 それ以上の行動には出ないところを見ると、完全に起動した訳ではないようだ。

 私は一先ずユーリ確保を諦めると、アルフの加勢に向かう。

 アルフが魔力を籠めた拳を振るう。

 横目でイリスが私の接近は見て、舌打ちする。

 おそらく私の武技が想像以上だったので、形勢逆転の可能性が出て来たと悟ったのだろう。

 本当なら、ユーリの安全を確保したかったんですがね。

 私はアルフと連携して、攻撃をしていく。

 基本はアルフが攻撃して、回避で出来た隙を私が突く形だ。

 勿論、私も陽動の役割も担う。

 押している。このまま押し切る!と思った時だった。

 苦しそうな表情から一転して、イリスがニヤリと嗤った。

 私の背筋に悪寒が走る。

 イリスの周りに突如、赤黒い槍が地面から出現する。

 私は突っ込もうとしていたアルフの首根っこは掴んで、後方に跳ぶ。

 私達がほんの一瞬前にいた場所から、剣山のように赤黒い槍が飛び出した。

「もうちょっとだと思ったでしょ?そろそろ私の方の試運転もしないとね」

 機甲の翼を!?

 赤黒い槍が形を失い、彼女自身に殺到する。

 それがみるみる人型に変わっていく、最後に色を取り戻した。

 そこには、バリアジャケット?姿のイリスが立っていた。

「やっぱり、実体がないとね。魄翼のお陰でこんな事も出来るのよ」

 今までの情報体染みた感じではない。

 本当に実体を得たのだ。まだ本格的に起動していない状態で、こんな事が!?

 そこからは、一方的な展開だった。

 イリスも赤黒い槍を無数に出して投擲し、本人も手に槍を持ち振るう。

 私が前衛に交代する程の腕前だった。アルフが後衛で雷の槍を投擲して支援してくれるが、

どんどん追い詰められていく。

 実体を得ただけで、これ程力が上がるなんて!

「はい!プレゼントよ!」

 赤黒い球体がイリスの掌に生成され、それが投擲される。

 私とアルフは大きく飛び退きつつ、障壁を展開する。

 私達がいた場所を球体が抉ると、黒い衝撃波が襲う。

 衝撃波で私達は大きく吹き飛ばされ、アトラクションに突っ込んで止まる。

「アルフ…大丈夫ですか?」

「こんなの屁でも…ないね」

 2人共、もうボロボロだが、目はまだ死んでいない。

「そう。じゃあ、これでさよならね?」

 気が付くと、イリスが目の前に立ち、あの球体を無数に発生させていた。

 私は押し殺した声で言った。

「そろそろ、いいんじゃありませんか?」

 私の言葉にイリスが訝し気に私を見る。

 だが、答えはすぐに知れた。

 バインドがイリスの身体に巻き付いて、拘束したからだ。

「っ!?こんなもので!」

 球体が姿を消す。

「これは!?」

「ストラグルバインド。対象の魔法を無力化しつつ、相手を拘束する」

 イリスの後からクロノ執務官が歩いてくる。

 瓦礫の下敷きになったので、少しボロボロだった。

「アンタ!起きるの遅過ぎだよ!」

 アルフが思わず非難の声を上げる。

 クロノ執務官は流石に申し訳なさそうに謝った。

 気を取り直してクロノ執務官が口を開く。

「イリス。君を逮捕する」

「ハッ!舐めるんじゃないわよ!」

「魔法で実体化しているなら、すぐにその身体も消える。もう何をしても無駄だ」

 イリスは目を閉じると、赤黒い光が身体を覆う。

 すると、アッサリとバインドが砕け散る。

「「「っ!!?」」」

 私達の驚きを、イリスが嘲笑う。

「この程度で、私が拘束出来るもんですか!」

 再び、球体がさっきより多く生成される。

「もう、今度こそこれで終わり。吹き飛びなさい!!私の糧となって!!」

 回避出来ないし、防御も出来ない事は、さっき証明されてしまっている。

 クロノ執務官が魔力の刃を放つが、球体が全て飲み込んでしまった。

 球体が放たれる。

 視界が黒く染まった。

 

 美海…すいません。

 

 しかし、死は訪れなかった。

 目を開けると、そこにはピンクの髪の少女がいた。

「アンタ…」

 アルフが呟くように言う。

 

「キリエ。アンタ、まだいたの?しかも、邪魔するとはね」

 そこに立っていたのは、騙されていた少女・キリエだった。

「しかも、私がカスタムして上げたリミッター解除で邪魔するとはやるじゃない」

 どうやら、黒い衝撃波の嵐が発生する前に、キリエが全員を救い出してくれたようだ。

「どうしたの?何か言ったら?」

「イリス…。私は貴女を止めなきゃいけない…と思う。貴女がどういう思惑でも私は、それで

救われたの。だから、これ以上は…」

「今更、何言ってるの。アンタも共犯者でしょうが!」

 イリスが鼻で嗤う。

「そう…だね。罪は償わなきゃいけない」

 キリエはイリスに目を合わさずに言う。

 それでは、相手に自分の心を伝える事は出来ない。

「罪!?罪ですって!?随分とご立派な事ね!!じゃあ、償いは手伝って上げるわ!!」

 イリスが機甲の翼に目を遣る。

 顔は何故か渋面だった。

「魄翼!!もう1人の主を護りなさい!!」

 え!?もう1人の主!?

 機甲の翼がユーリに舞い降りて、取り込む。

「ユーリ!!」

 クロノ執務官が声を上げる。

 眩いばかりの光が周囲を照らす。

 光が収まると、そこには機構の翼を背に装着したユーリがいた。

 

「天使…」

 

 誰かの呟きが聞こえる。

 だが、これはそんなに生易しいものじゃない。天使を模した怪物だ。

 イリスがユーリに近付いていく。

「イリス…」

「あら、思い出したの?よかったわ」

 イリスがニッコリと笑う。

 だが、次の瞬間、拳で彼女の顔を力一杯殴り付けたいた。

「気安く呼ばないでほしいわね」

「……」

 ユーリは何か言おうと動こうとしたようだが、身体は動かなかった。

「っ!?」

「動けないでしょ?ウィルスを流しておいたのよ。私の命令には逆らえない」

「お願い、私はどうなってもいいから、こんな事は止めて!!」

 イリスは気分を害して、再び彼女を殴りつけた。

「アンタが私に、お願いする権利があるとでも思ってるの?封印処分されて肉体を失って、

何度も消え掛けたわ。それでも、私は耐えた。何故だと思う」

 ユーリの顔が歪む。

「まあ、そんな顔しないでよ。ここは私が唯一アンタに感謝するところなんだから。その

度に耐えられたのはね。いつかアンタを同じ目に合わせる。それを思い出す度に耐えられた

わ。今度は私が貴女を使い潰して上げる。貴女がそうしたようにね」

 イリスはユーリに手を翳す。

「魄翼!手始めにここにいる奴等を皆殺しにしなさい!!」

 イリスがそう言った瞬間に、魔力弾が彼女に当たる。

 バリアジャケット?の着弾箇所が焦げている。

 凄い形相で魔力弾が飛んできた方を見る。

「死に損ないが!!」

 重傷の身体で這うような態勢で、拳銃型のデバイスを構えていたのはアミタだった。

「消し去りなさい!!」

「止めて!!」

 イリスの命令にユーリが悲鳴のような声を上げるが、身体は言う事を聞かない。

 腕が振るわれる。

「お姉ちゃん!!」

 キリエが姉を助けようと飛び込むが、間に合いそうにない。

 空間を削り取りながら死の光がアミタを襲う。

 彼女に回避する手段はない。

 

 だが、着弾はしなかった。

 物凄い音と共に、攻撃が逸れた。

 アミタの前には、一人の少女が剣を振り抜いた姿勢で立っていた。

「美海!!」

 美海は私の方を見て、微笑む。

「お疲れ様。あとは任せて」

「チッ!足止めも出来ないのか、アイツ等は!!」

 イリスが忌々しそうに言う。

 

「今度こそ、失敗しない」

「俺も忘れないでくれよ」

 飛鷹も来ていたようで、美海の横に立つ。

 

「「さあ、始めようか!!」」

 

 

 

 




 次回、防衛プログラムタコ殴りの予定になっております。
 イリスは魄翼復活で、力が上がっております。
 本格起動した以上、更に強くなりました。
 腐敗の王ですが、マイナーラノベが名前の元ネタです。
 次回は今月中に出来ればいいんですが、不透明です。
 少しずつ書いていますので、気長にお待ち頂ければ幸い
 です。

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