魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

44 / 54
 遅れて申し訳ありません。
 決して折れた訳ではありません。

 では、お願いします。


第42話 復帰

             :はやて

 

 1人で立ち上がって、着替える。

 たったそれだけや。それだやのに、なんでやろか?

 こないに感動するんわ。

 内心で首を傾げとったけど、見当が付かへんわ。

「学校、遅刻するよ!」

 下からお母ちゃんが大声で呼ぶ。

「はーい!恥ずかしいやんか!そないな大声上げんといて!近所迷惑や!」

「全く!よく口が回るとこは、あの人似やな…」

 お母ちゃんが下でブツブツ言うとる。

 鞄を玄関に置いて、食卓へ。

「おはよう!」

「おそようやね!」

 お母ちゃん、意地が悪い事言うわ。

「おはよう。はやて」

「おはよう!お父ちゃん!」

 お父ちゃんは新聞を広げて読んどって、顔がよく見えへん。

「弘明さん!いつまでも新聞読んどらんと、支度せなあかん時間じゃありません?」

「分かってるよ。̪史乃…」

 うちの両親は相も変わらず名前呼びやな。

 仲がよくてええ事や。

 冷蔵庫に牛乳を取りに行って、振り返るとお父ちゃんはどっかに行っとった。

 新聞が畳まれ、姿が消えとる。

「ホンマ、夢中になると、いつもああやからね」

 お母ちゃんが溜息交じりに、朝食を持って現れた。

 

「いってきます!」

 私はお母ちゃんに玄関から声を掛ける。

 お母ちゃんは、奥からいってらっしゃいと返事して、忙しくしとるようやった。

 玄関を出ると犬小屋が見える。

 犬小屋?犬なんて飼ってたやろか?あんなん庭にあったやろか?違和感あるわ。

 犬小屋には名前が刻まれとる。

「ザフィーラ?」

 既視感のある名前やけど…。

「あっ!遅刻してまうわ!!」

 既視感について棚上げして、走る。

 学校の送迎バスが丁度停車したとこやった。

「おはよう!」

 バスに乗り込んで、すずかちゃんとアリサちゃんに挨拶する。

「「おはよう!」」

 友達が笑顔で迎えてくれる。

 2人の間に腰を下ろす。

 新刊の本の話、昨日のテレビ番組の話、友達の話。

 話に花を咲かせとると、学校に着いた。

 

 授業は問題なく付いていけとる。

 うん?なんで授業の心配なんてしとるんやろ?

 ずっと、学校通っとるし、勉強もサボッとらんやないか。

 首を捻っとる間に授業が終わった。

 

 昼休み。

 すずかちゃん達とお弁当を食べる。

「あれ?私等しかおらんの?」

「「?」」

 すずかちゃんとアリサちゃんが顔を見合わせる。

「何?はやては高町とかとも一緒に食べたいの?まあ、私達は別に構わないけど…」

「うん。はやてちゃんがそうしたいなら、今度誘うよ」

 2人は少し戸惑ったようにそう言うた。

 いや、そうやなくて…。なんやろな。圧倒的に人数が足りんような気ぃするんやけど?

 あの犬小屋の違和感と同じ違和感。

 どういう事やろか…。

『主…気…た……か…』

「っ!?」

 なんか聞こえた気ぃして、慌てて周りを見回す。

「ちょっと!はやて!聞いてんの!?」

 アリサちゃんが大声を上げる。

 おお!ビックリしたわ。

「え?何?」

「今度の休みの予定、聞いてるんだけど!?」

 時計を見るとチャイムが鳴る寸前やった。

 あれ、そんな時間経っとった?

「う、うん。大丈夫や」

 詳しい事、すずかちゃんに後で訊いとかんとな。アリサちゃんの期限が悪なるわ。

 答えた後に丁度チャイムが鳴って、休み時間が終わった。

 

 午後の授業も終わって、帰り道に今度の休みの予定を話した。

 2人と別れて、家に帰ってきたんやけど、家の前に誰かおるな。

 背広姿の外国人が3人。うち1人が子供やった。

 家になんか用やろか?

「あの~。うちになんか御用ですか?」

 ヤバい。英語喋れへんわ。日本語通じんかったら、ジェスチャー大会やな。

「八神さんのお宅はこちらで?」

 ドキドキしとったけど、日本語ペラペラやん。よかったわ。

 でも、今度はどうして外国の人が訪ねてきたんやろうか?っちゅう疑問が沸く。

「私達はMr.グレアムの部下でして、シグナムと申します」

 4人の代表らしきピンクのポニテさんが、丁寧に言ってくれたんやけど。

 グレアムって誰やねん?

「Mr.グレアムは、八神弘明氏の友人だとか、その縁で仕事が片付くまでの間、こちら

でお世話になるという話でして」

 今朝、お父ちゃん、何も言うてへんかったけどな。

 取り敢えず、お母ちゃんを呼ばな。

 家の鍵を開けて、お母ちゃんを呼ぶとすぐに返事があった。

「お帰り…って、どないしたの?」

 お母ちゃんが後のシグナムさん達を見て、ビックリしとる。

 それで、私が事情を説明すると、お母ちゃんはああ!といった感じの反応やった。

「グレアムさんの部下の方?」

 なんや、お母ちゃん聞いてたんやないか。

「朝、弘明さんがそんな事言うとったわ」

 それ、私にも教えといてくれへんかな。

 私の表情で察したんか、お母ちゃんはごめんごめんと謝った。

 お母ちゃんは、シグナムさん達を招き入れる。

 お母ちゃんは靴脱いで下さいね?とか言っとる。

「はやて、着替えたらザフィーラの散歩行ってきてくれへん?」

 

 え?散歩?私は庭を見ると大きいハスキー犬が、犬小屋の前に座っとった。

 あれ?今朝は…おらんかったような…。

 

「何、ジッと見てんねん?今日ははやてが散歩当番やろ?サボったらあかんよ。アンタ

が飼いたい言うたんやから」

 私は暫く呆然とザフィーラを見とった。

 

 ああ…、そうや。子犬のあの子見て、飼いたいって強請ったんやったな…。

 疲れとるのかもしれん。

 って、散歩行く前に疲れたらあかんやろ!

 1人で突っ込んで、私は部屋に戻って着替え、ザフィーラの散歩に行った。

 ザフィーラはええ子やった。

 なんかごめんな。

 

 夕食は私も手伝って豪華に仕上げた。

 でも、肝心のお父ちゃんはお仕事で、まだ帰って来とらん。

 そこで色々、シグナムさん達の事を聞いた。

 グレアムさんは警備関係のお仕事を海外でしてはる人で、お父ちゃんとは海外出張で

しりあったそうや。年が離れとるらしいけど、話してすぐに意気投合したんやて。

 シグナムさん達は、グレアムさんの部下で警備員?みたいな仕事をやるらしい。

 意外な事にヴィータ…一番小っちゃい子供まで警備をやる事や。

 シグナムさんかシャマルさん(もう1人の大人の女の人)の子供かと…。

 すません。まだ、お若いですもんね?

 なんか、2人に思いっ切り睨まれたわ。流石、警備員さんやね。ハハハハハ!!

 海外じゃ、子供でも働いとる子は珍しくないんや、言うとった。

 

 楽しい時間もあっと言う間で、すぐに寝る時間になった。

 シグナムさん達とも、すぐに仲良くなれてよかったわ!

 でも、時々なんや言いたそうにしとるのは、どうしてやろか?

 明日、すずかちゃん達にも教えてやらな。

 そう思って、私は布団を被った。

 

 どっかで声がする。

 ボソボソと耳障りやな…。

 段々と何を喋っとんのか気になって、耳を澄ます。

 内容が聞き取れてきよったな。

『戯け!貴様が甘やかすから、こやつがいつになっても起きんのだ!!』

『いや、些か刺激が…』

『刺激?大いに結構ではないか。眼も覚めるであろうよ!それ、()()が様子を見に

くるぞ』

 途端にピタリと喋り声が止んだ。

 怖いぐらいの静寂。

 こんなに静かやったやろか?夜更かしして本を読んどっても、もう少しくらい音がする。

 

 ぎぃぃぃ、パタン。

 

 うん?玄関やろか?こんな時間に?もう誰も出入りもない時間やで。

 グチョ、ピチャ、グチョ、ピチャ。

 歩いとる?それになんや、この気色悪い音?濡れとるんか?

 私はベットの中で硬直しとった。嫌な汗が噴き出してきよる。

 

 ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。

 

 上がってきよる!!

 偶に何かが落ちて、ぴちぴち何かが跳ねる音がする。

 なんなんや!!

 遂に階段を上り切ったみたいや。

 

 グチョ、ピチャ、グチョ、ピチャ。

 

 私の部屋の前で止まりよった!!

 私は布団の中で固まっとった。身体が震えないのが不思議なくらいや。

 ガチャッ。ノブが回される。

 は、入ってくる!?

 ぎぃぃぃぃ。扉が開く音がやけに大きく聞こえる。

 一直線にこっちに歩いてきよる…。ゆっくり、ゆっくり。

 何かが布団の上に落ちる。それも複数。

 覗き込んどる…。

 目を閉じて、耐える。

 

 暫く、()()は私の部屋を徘徊しとった。

 気が済んだのか、()()は出て行った。

 気配が家から消えるまで、ジッと布団の中で待つ。

 ()()が玄関から出ていきよった。

 

 思い出したみたいに、身体が震え出す。

 ガタガタ身体が震えて止まらん。

 

 でも、今、窓から覗けば何が入ってきたか、分かるんやないやろうか?

 

 そんな事を思ってしもうた。

 恐る恐る布団から顔を出し、窓を見ようとして固まった。

 そう、何かが布団に落ちとった。

 その正体が月明かりに照らされて、見えてもうた。

「いやぁぁぁぁーーーーー!!」

 絶叫。今まででこんな怖い思いした事なんてあらへん。

 

 布団には大量の蛆が落ちとった。

 

 私の悲鳴に家が騒がしくなる。

 私はそれどころとちゃうけど。

 誰かが部屋に突入してくる。

「どうしました!?」

 誰かが抱き締める。

「いや!!いややぁ!!」 

 恐怖で暴れまくる。次の瞬間顔を両手でグイと挟まれる。

 強引に視線を合わせてくる。

 それはシグナムさんやった。

「はやて!!どないしたの!?こないな時間に!?」

 お母ちゃんが駆け込んでくる。

「な、なんか来よった!!蛆が…」

「蛆ぃ!?」

 シグナムさんとお母ちゃんが顔を見合わせる。

「ああ…。怖い夢見たんやね」

 ゆ、夢?

 恐る恐る布団の上を見ると、そこにはなんにもおらんかった。

 

 ど、どうなってんのや。

 

 あんまり顔色悪かったもんやから、お母ちゃんが一緒に寝るか?って訊いてきた程や。

 シグナムさんも心配してくれた。

 それから、私は一睡も出来へんかった。

 お母ちゃんからのお誘いは断って、ジッと自分のベッドで身動ぎ1つせぇへんかった。

 あれは、夢やない。

 本当にあった事や。

 時間が経つにつれて、その確信が強くなる。

 

 何かが起きとるんや…。私はそれを知らなあかん。

 

 その日から積極的に歩き回る事にする。

 当てなんてあらへん。

 でも、このままやダメや。

 学校が終わると、すずかちゃんとアリサちゃんの誘いを断って、図書館へ直行する。

 でも、どうしてやろか?2人がジッとこっちを見とったんや。

 その視線が探るようなもんで、恐ろしく感じた。

 まさか、私が怪談以外で心霊関係を調べる日がくるなんてなぁ。

 しかも、大真面目や。

 幾つか本を見繕って、手続きを取って席を確保して、そこに座る。

 さあ!調べるで!!

 なるべく分かり易いもんを選んだつもりやけど、難しいわ。

 文字を追っても、頭から内容がすり抜けていく。

 しっかりせな!!

 気合を入れて、内容を頭に入れようとする。

 その時、本の文字がぐにゃりと歪んだ。

 目をこすって、見直しても変わらん。

『起きようとしているのは結構だが、何故、こっち方面の本を当たるのだ。戯けが!!』

 文字がそんな文面に変わった。

 偉そうな…。じゃあ、どないせい言うんや。って!!

 思わず本を投げ出してしまった。

 静かな図書館内に音が響く。非難の視線が集中する。

 すんません。

 司書さんも睨んどるわ。ペコペコして本を拾う。

 深呼吸をして、思い切って本を開く。

『もうすぐ、邪魔が入る。綻びを探せ。どこかにある筈だ』

 綻び?

『夢の…』

 突然、本が取り上げられた。

 な、なんや!?

 あまりの事に顔を上げると、そこにはすずかちゃんがおった。

「なんだ。はやてちゃん。ここにいたんだ」

 いつものすずかちゃんやなかった。

 取り上げた本を机に放り出しよったからや。

「どうして、ここに?」

「はやてちゃんがいないと詰まらないから、遊ぶの止めたの。だから、本でも読もうと

思って」

 すずかちゃんは、無表情やった。

 こんな態度やのに、誰も何も言わん。

 いつもなら、誰かが注意する。なのに誰も反応せん。

 まるで、決められた動きを繰り返してるみたいや。

 その想像にゾッとする。

「そんな詰まらない本じゃなくて、他の本を読もうよ!新刊も入ってきてるみたいよ?」

 詰まらない本?すずかちゃんはそんな事言わん。

 まず面白いか訊く。内容を訊く。何よりどんな本を読んどるか訊きもせん。

「こっちだよ!はやてちゃん」

 すずかちゃんが私の腕を掴む。無理矢理立たされる。痛い!

 咄嗟に腕を振り解く。

「はやてちゃん。酷いじゃない」

 すずかちゃんがまるで人形みたいに首だけ振り返って、何の感情も交えん声で言うた。

 周りの人達が一斉に私を見る。

 全員同じタイミングやった。

 

 私は一歩、すずかちゃんモドキから距離を取る。

 

「アンタ、誰や!?」

 

 思わず、決定的な一言を言ってしもうた。

 すずかちゃんモドキが、能面みたいな無表情で私を見とる。

 周りの人達も手を止めて、私をジッと見とる。

 周りの座っている人達が、一斉に立ち上がる。なんや人形染みた動きやった。

 棚からも人が出てくる。みんなが無表情やった。

 囲まれる!!

 私は無意識に走った。

 周りから手が伸ばされるけど、どうにか捕まらずに逃げ出す。

「はやてちゃーん。どうして逃げるの?ずっと、ずっと、ここで幸せに楽しく暮らせば

いいじゃない」

 後からすずかちゃんモドキの声が掛けられる。

 図書館を出ると、通行人やら建物の中から人が出てくる。

 やっぱり、人形染みた動きや。

 さっきより動きが早い!?もう包囲されてもうた。

 図書館からも、すずかちゃんモドキと他の人達が溢れ出してくる。

 捕まる!!

 身体を縮こまらせて、目を硬く閉じる。

 その時、獣の声がした。

「ガウガウ!!」

 目を開けると、ザフィーラが人に噛みついとった。

「ザフィーラ!!」

 ザフィーラが人に振り払われるけど、体勢を空中で変えて着地すると走り出した。

 人が思わず道を空ける。

 私はザフィーラに続いて走り出した。

 道路に差し掛かったところで、ザフィーラを止めるように車が止まる。

 この車!?アリサちゃんのところの!!

 車の後部座席の窓が少し開き、目だけがこちらを見ている。

「戻りましょう。はやて。大丈夫。もう怖い思いなんてしないから。少し眠れば忘れる

から。さあ、乗って?」

 車のドアが開いても、誰も乗っ取らん。暗闇にアリサちゃんの目だけが浮いとる。

 恐怖に悲鳴を上げそうになる。

 でも、ザフィーラがドアに体当たりして、ドアを閉めた。

「主!!走って下さい!!夜天が導いてくれる筈です!!」

 車が止まったまま、スピンする。

 ザフィーラが跳ね飛ばされる。

「ギャウゥン!!」

 ザフィーラが建物の壁に叩き付けられる。

「ザフィーラ!!」

「走って下さい!!我等もいつまで意思に反して動けるか、分かりません!!」

 ザフィーラ…。ごめんな!!

 私は、車に立ち向かっていくザフィーラを置いて走り出す。

 追ってくる人等は、疲れないようやね!!人間やないわ、あれ!! 

 少しづつ思い出してきたわ!なんで、忘れとったんか…。

 綻びを探せ、やったね。

 多分、この状況は逆に分かり易くなりそうやん!

 一番、護りが厚いとこに行ってほしくないやろ!

 人?が少なくなると来た道を戻る。

 うわっ!人がぎょうさんおるわ!!当たりそうやけど、どないして突破する?

 まだ、こっちには気ぃ付いてないみたいやけど、こっちも突破法がないと捕まるだけや。

 なんか、使えるもんは…。

 必死に使えそうなもんを探す。と、建物の陰に自転車を見付ける。

 カギも掛かってへん。

 これは出来過ぎやね。でも、有難いわ!

 問題は、私、自転車乗れるやろか?

 

 結論、乗れた。思えば、乗った事ない訳やないんや。

 随分と前やけど、身体は覚えとったみたいや。

 私は裏道、間道を通って追手を分散させて、どうにか進んどる。

 向こうさんも、私が自転車に乗ると思わんかったみたいやね。

 車椅子が通れる道は、全て把握済みや!

 長年の主婦経験がこんなところで生きるとは!

 安売りで、車椅子やから取っといて、なんて言えるかい。

 だから、なるべく早く行ける道を模索したんよ。

 お陰で、海鳴の街の道はバッチリや!

 追手の腕や身体を掻い潜り、突破していく。

 なんや!イケるやん、私!

 なんて調子に乗っとったのが、悪かったな…。

 大通りに出た途端に、待ち伏せされとった。

 後から追手が来とるし。

 強行突破、イケるやろうか!?

「うぅぅぅぅりゃぁぁぁーーー!!」

 幼い声で気合が聞こえる。なんや!?

 私の目の前に紅い影が…って赤影ちゃうで?

 それはヴィータやった。

 ヴィータは着地と同時に、何故か手に持ったゲートボールのクラブを一閃する。

 前列にいた人?が吹き飛ぶ。

「はやて!大丈夫か!?」

 それと同時に、背後の追手も蹴散らされた。

 こっちは…。

「主、御無事ですか?」

「はやてちゃん、遅れました!!ぜぇぜぇ…」

 シグナムとシャマルやった。

 シグナムの木刀は分かるけど、シャマルは何故か手に箒を持っとる。

 それとシャマル、死にそうになっとるけど、大丈夫か?

 ここまで走りっぱなしやったんやろうけど。

「ありがとう!みんな。それとごめんな…」

 こうならん為に、頑張った筈なのに情けないわ。

「夜天が、こっちの身体をある程度動かせるように細工してくれたのです」

「でも、長くはもたねぇ!!」

「はやてちゃん、ここは私達に任せて先へ!!って言っても、次に会ったらどうなって

るか分からないから、信用しないでね!」

 そっか、夜天の魔導書も戦ってくれとるんや。なら、応えなあかんやろ!!

 私は自転車のペダルを力を籠めて踏み込む。

 簡単な魔力強化、みんなのお陰で思い出したわ!

 シグナムとヴィータがこじ開けてくれた道に、自転車とは思えんスピードで突っ込んで

いく。

 後の人?は手に角材とか金属バットとか持っとる!?

 舐めんなや!!

「ジークフリート!!」

 ガンガン叩かれるけど、自転車で跳ね飛ばしていく。

 遂に、人垣を抜ける。

「「はやて!!」」

 横から私を呼ぶ声が聞こえる。

 見ると、お父ちゃん、お母ちゃんやった。…偽者の。

 お父ちゃんは、顔が真っ黒やった。顔が分からんかった。そう、写真も顔がボケとって

分からんかったから。だから、お父ちゃんは顔を見せられへんかったんや。

 お父ちゃんは写真が嫌いな人やったらしい。葬式にもあのボケたヤツやったそうやから

筋金入りや。

「短い間やったけど、偽物でも嬉しかったよ。会えて…」

 スピードを緩めず私はそう言うた。

 聞こえる事なんて期待してへんかった。

 でも…。

 

 2人はしっかりと頷いてくれた。

 

 私はもう振り返らんかった。

 涙が零れそうになるけど、耐えた。

 

 我武者羅に漕ぐ。

 すると、前方に空間の揺らぎ?みたいなもんが見えた。

 けど、それは消え掛けとった。

「ここで、無駄になんかせぇへん!!」

 更にスピードアップして飛び込む。

 飛び込んだ瞬間に景色が消える。

 自転車のチェーンが外れて、私はコケてもうた。

 地面?に転がると自転車も跡形もなく消えた。

 痛みに呻く。

 

「遅い!!我をこれだけ待たせるとはな。全く不甲斐ない」

 この偉そうな声、どっかで?

 声の方を向くと、私が立っとった。なんで!?

「戯け。この姿は借りとるだけだ。永い間、自分の姿も何も確認出来なんだからな」

 ええっと、詰まり?

「我は貴様ではない。別人だ。我とてこんな威厳もない姿を好きでしとる訳ではないわ」

 なんや、言いたい放題やな…。この人。

 それが自分と同じ顔っちゅうのが、妙な感じやけど。

「もしかして、心とか読めるん?」

「戯け。読む必要すらないわ。顔にハッキリ言いたい事が出とったわ」

 ああ、なんか恥ずかしいわ。

 

 その時、ドォンという音と一緒に空間が揺れる。

 

「な、なんや!?」

 わたしのそっくりさんが舌打ちする。

「遂に、夜天も抑えきれなくなったか…。もとより、嫌がらせ程度でしかなかったろうがな」

 夜天の魔導書が戦っとるの?

 なら、急がなあかん。

 立ち上がって走り出そうとすると、そっくりさんが私の前に立ち妨害してくる。

「どこへ行く?」

「決まっとる!夜天の魔導書のところや!」

「行ってどうする?」

「なんやさっきから!」

 そっくりさんが呆れたみたいに溜息を吐いた。

 ムッとして何か言う前に、そっくりさんの格好が変わる。

 魔法少女…ぽいか?それにしてはゴテゴテしとるけど。

 持っとる杖もゴッツイし。

「我が夜天に代わって貴様に声を掛けておったのは、夜天の事ばかりではない。貴様だ、子鴉」

「こ、子鴉!?」

 なんで鴉やねん!?

 そんな抗議の視線をものともせずに、そっくりさんが持っとる杖を私に突き付ける。

「我、ロード・ディアーチェが問う。貴様に因縁を断ち切る覚悟があるか?」

「ある!!」

 こんな事、終わりにせなあかんやろ!

 私は即答した。

「夜天が、我が友が必死になって時間を稼いでいる時に、眠りこけていた貴様がか?」

「っ!?…それは…」

「仕様がないか?自分はやれる事をやった。ダメだったら、そんな言い訳を吐きそうだな。

そして、自己満足を抱いて死ぬのだろう?」

 そうや。美海ちゃんから散々聞いとった。

 どんな事をしてくるか、分からんって。

 その為にある程度、対策を立てたのに、私は結局いいようにやられてもうた。

 でも…。

 

「確かに、私は無駄な時間を使ってしもうた。でも!まだ、終わってへん!!私を信じて

くれた守護騎士達、美海ちゃん達の為にも最後まで諦めへん!!」

「口ではなんとでも言える。行動で示せ!!」

 ロード…って事は、王様と呼ぼう。

 王様が魔法式を構築する。物凄いスピードで高度な魔法が組み上がった。

 私は自分を魔力で強化して、ジークフリートを掛け直して走り出す。

「っ!?正気か、貴様!!」

 向こうは魔法を使い慣れとる!防御魔法も充実しとるのやろ!?

 なら、真っ向勝負はなしや!!

 懐に飛び込んで、唯一最高の魔法を至近距離で叩き込む!!

 向こうも大魔法を至近距離で撃ち込むのを、躊躇してくれよったからな。

 貰ったわ!!

 私は王様に抱き着くように飛び込む。躱されてもかまへん!!

 だけど、王様は避けへんかった。

 

「トールハンマー!!」

「ジャガーノート!!」

 

 2つの魔法が互いに打ち消してしもうた。

「え!?なんで!?」

 これがダメやと殴り合いになってまうんやけど!?

 付き合ってくれればやけど。

「我がジャガーノートは重力系魔法だ。魔法構築も我の方が速かったのだ。発動寸前に

潰せば問題ないわ」

 王様はドヤ顔で説明してくれよった。

 無重力下じゃ、雷は発生し辛いんやて…。

 正確には魔法の干渉力の問題らしいんやけど、無重力にしたのも関係あるそうや。

 王様曰く、魔法は世界を騙す事なんやて。詰まり、詐欺師か…。

「我でなければ、貴様も死んでいたかもしれんぞ。だが、貴様は相手の実力と自分の実力を

見極め、最も勝利の可能性の高い選択をした。貴様の覚悟、見せて貰った。持っていけ」

 項垂れてる私に王様が、自分の持っとるゴッツイ杖を押し付けてきよった。

 思わず受け取ってもうた。

「え!?何…」

「喧しい。サッサと行かんか。本当に間に合わなくなるぞ」

 杖を握り締める。

 すると杖が輝き、疲れがとれて、魔力が戻るのを感じた。

「ありがとう」

 私はそれだけ言うと走り出した。

 王様が背後で微笑んだようやった。

「後は貴様次第だ。かなり厳しい状況になっているがな」

 皮肉っぽい声でそう言うんが聞こえた。

 アンタの所為もあるやん!!

 後を振り返らずに、心の中で文句を言った。

 

 景色が変わる。

 なんや?この匂い。鼻が曲がりそうや。思わず鼻を摘まんでしまう。

 視線を巡らせると、2人の人間の姿が目に飛び込んで来た。

 黒いローブを着けた人と、銀髪の女の人。

 黒いローブの人がなんかの前に立っとって、黙々と作業?しとる。

 銀髪の女の人は、ローブの人にしがみ付いとる。

「後生です。今度の主は、まだ幼いのです!!」

 銀髪の女の人が、必死にしがみ付いて訴えとった。

 けど、ローブの人はガン無視や。

 私は警戒しながら、近付いていく。

 近付いてローブの人や、銀髪の女の人を覗き込む。

 危うく悲鳴上げるとこやったわ…。

 ローブの下は、骸骨に近い状態やった。

 いっそ骸骨やったら、直視も出来たやろうけど、肉や表情筋が残っとって、蛆が

現在進行形で食い荒らしとった。

 あの時、私を見に来たのはコレやったんか!?

 なら、この銀髪の女の人は…。

「アンタ。夜天、やね?」

 美海ちゃんから説明は受けとった。

 夜天の魔導書には、管制融合機と呼ばれる意思を持ったもんがおるって。

 夜天は、私を見ると申し訳なさそうに項垂れた。

「どうにか無理に夢に干渉したのですが、暴走を早めてしまったようです…」

「それに関しては、私の不甲斐なさもある。貴女が謝る事ない。寧ろ、ありがとうな。

お陰でここまで来れたわ」

 話している間も、フードの人の作業は進んどるようやった。

 ここで疑問やけど、このお化けなんやねん。

「彼女がナハトヴァールの正体…と言えるでしょう」

 私の表情から訊きたい事を察したのか、夜天が答えてくれる。

 彼女って、女の人やったんか…。最早、性別なんて分からへんわ。

「そして、決定的に夜天の魔導書を、歪めた張本人でもあります」

「こ、この人が!?」

 夜天が酷く悲し気に頷いた。

「研究熱心な方でした。こうなる前は…」

 夜天は軽くこの人の事を教えてくれた。

 人の為の魔導を目指して、研究していた人やったらしい。

 旦那さんとお子さんに恵まれて、研究も援助してくれる国も現れた。

 夜天も助手として補佐しとったそうや。

 順風満帆やった。ここまでは。

 戦争が始まり、お子さんと旦那さんが、仲間が捨て石として使われ、死んだ。

 この人の研究は不要物を発酵分解して、肥料や燃料を作り出す魔法やった。

 これが実用化出来れば、ベルカは少なくとも物を奪い合う戦争は減らせる筈やった。

 でも、国はこれを軍事転用した。

 旦那さんやお子さん、仲間の魔導士に使わせた。

 まだ、実用段階でもない使用は、不備を明らかにした。

 使用者を含め敵対者が、全員腐敗して死ぬという結果をもって。

 それを聞いて、この人は静かに狂っていった。

 仕舞には、国に復讐し、厄災を振り撒く存在となった。

 自らプログラムの一部となって、未来永劫自分や他人を罰する為に。

 

 私は辛そうな夜天の腕に触れる。

「主?」

「そう、今は私が貴女のマスターや。もう復讐も済んでしもうたんやろ?だったら、悲し

過ぎるやないか。もう、休ませて上げなあかん」

 私はローブの人に歩み寄る。

 私はローブの人の腕を掴む。グジュッと嫌な感触が手に伝わる。

「もう、終わったんや。もう止めよう」

 ローブの人は首を傾げる。その動きは虫みたいやった。

 もう完全に狂っとるんや…。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

「っ!?」

 突然、黒い霧のようなものが吹き出す。

 思わず、手を放してしもうた。

「主!!」

 くっ!こんなんでやられてたまるかい!!

 この霧、魔法を食っとる。急がんと!!

『管理者権限の発動が受理されました。力の解放を選択』

 私はそんな事、許してへんわ!!

 その時。

 

『はやて!!このまま、終わる気か!!』

 

 美海ちゃん!?

 美海ちゃんの声が聞こえてくる。

 せやな!終わる訳ないやん!!絶対ハッピーエンド…とはいかんかもしれんけど、グット

エンドにはしてみせるわ!!

「王様の杖!!なんかないんか!?使える魔法!!」

 私、基本的な強化と魔法2つしか習ってへんのや!!

 あと、魔力コントロールくらいしか出来へんで!!

『エルシニアクロイツです。主の使用可能な魔法は、一部を除いて貴女にも使用可能です』

 おお!喋れたんか!?

「なら、風の魔法!強力なやつ!!」

『了解しました。フレースベルグ発動します』

 とんでもないスピードで魔法式が構築される。

 これが、デバイス…。便利過ぎや!?

 これの正体なんて知らん!霧なら吹き散らせばええやろう!!

 王様が教えてくれた事や。なんでもええ、騙せ!!

「フレースベルグ!!」

「ガガ…!?」

 ローブの人が爆発と共に吹き飛ばされる。

 私はあの人が作業しとったコンソールみたいなもんに、しがみ付く。

「主!!」

「止まって!!止まれぇぇぇーー!!」

 魔法陣が現れる。

 全てストップや!!強く念じる。

『八神はやて。管理者権限を確認しました。停止命令を受理します』

 ホッと息を吐いたのも束の間、向こうから蠢く気配がしよる。

 あれでやられてくれへんか!?

 

「主!今がチャンスです。外にいる方に全力の魔力攻撃を加えて貰いましょう」

「それ、大丈夫なんか!?」

「強引ではありますが、ナハトヴァールを切り離します。管理者権限を取り戻した今しか

ありません」

 そうか、今はそれしかないか!

 私は外に向けて声を上げる。

 

『美海ちゃん!聞こえるか!?』

 

 

             :美海

 

 ナハトヴァールから、虚無が噴き出している。

 私は樹冠剣を発動させる。

「生命の樹よ!死を振り払え!!」

 優しい翠の気が、虚無をどうにか押し止める。

 邪気なら一発で浄化するんだけね。虚無じゃ足止めにしかならないか。

 本当にはやてがダメなら、バルムンクの使用も仕方ない。

 そう思った時、虚無の放出が収まる。

『美海ちゃん!聞こえるか!?』

 はやての声が、ナハトヴァールから聞こえる。

 無事に管理者権限を取り返せたか!

 ハラハラしたよ。全く。

「遅いよ。ダメかと思ったよ」

『ごめんな!ってそんな事言うてる場合とちゃうんよ!この子をブッ飛ばして欲しいんよ!

全力で!!』

 戦略級魔法じゃなければ、全力でも問題ないかな。

「分かった」

 ナハトヴァール本体ともいうべきパイルバンカーから、蛇が飛び出している。

 私はシルバーホーンを取り出し、構える。

 魔法式を構築する。

「響け!終焉の笛!」

 使うの久しぶりだな、これ。

「ラグナロク!!」

 シルバーホーンから滅びの光が砲撃となり、動きを封じられたナハトヴァールに直撃する。

 シルバーホーンが悲鳴を上げる。

 もってよ!

 完全に蛇を吹き飛ばし、管制融合機の姿も消えた。

 

 爆発が起きる。

 まだ、残心は解かない。

 

「美海!」

「美海ちゃん!」

「綾森!」

 フェイトとなのは、それに飛鷹君がそれぞれの戦闘を終えて、駆け付ける。

 

 私は爆心地から目を離さない。

 そして、光の柱が天を突いた。

 

 ごめん、シルバーホーン。この後、キチンと調整し直すから。

 

 光の柱からはやてが姿を現すと、私はそんな事を考えた。

 

 

             :はやて

 

 凄い威力の砲撃が、空間を揺らす。

 ホントに大丈夫なんか!?これ!?

 揺れが収まる。

「主。防衛プログラムの分離を確認しました」

 ホッとする。

 どうにか上手くいったんか…。

「しかし、切り離された防衛プログラムは、程なく暴走を開始します」

「うん。それもなんとかしよう」

 その前にや。

「この際やから、名前を変えよう」

「名前…ですか?」

「そうや。夜天っていうのもええ名前やと思うけど。夜って闇を連想させるやん。だから、

改名しよ。祝福の風・リインフォース…どうやろか?」

 夜天が驚いた顔をする。

 まあ、突然やったと思うけど、今やらな忘れそうやから。

「承知しました。これより私はリインフォースとなります」

 うん。あとは修復せなな。

「管理者権限発動!守護騎士システム修復開始」

 夜天の魔導書から破損したシステムをなぞる。

 バックアップから即時修復する。

 4つのリンカーコアが輝く。

「それじゃ、行こうか!私の騎士達」

 

 こうして、私は現実に帰還した。

 

 

 

 

 

 




 仕事で集中して書ける時間が足りませんでした。
 これから、こんな感じの時間が増えます。
 月に2回の投稿を目指す事になるかと…。


 〇樹冠剣・レーベン

 森林の民の神木を護る為の神剣。
 生命と森林を表す剣。
 森が戦乱で焼き払われる際に、神木は護れなかった
 ものの、剣だけは引き抜いてきた。
 護るべき神木を失い。神剣を救出してくれた美海に
 平和を齎して欲しいと願い、託された。
 生命の結界を張る事が出来る。
 結界内では体力・魔力を少しずつ回復させる事が、
 可能。樹木を操る事も出来る。
 邪気を払う神聖な気を放つ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。