魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 七転八倒しながら書きました。
 厳しい戦いだった。

 では、お願いします。


第41話 激闘

             :なのは

 

 魔力弾と炎熱弾が衝突して爆発する。

 展開出来るだけ展開して撃ち込んでいるけど、ちっとも攻撃が通らない。

 それどころか、こちらに炎熱弾が幾つかこっちに抜けてくる。

 私は防御か回避にも思考を割かないといけなくなった。

 このままだと、押し切られる!

 私は魔力弾を切り替える。

 前回の事件で学んだもの。

 魔力弾が小さくなる分、弾道の制御をキチンとしないといけないけど、貫通力が増す。

「シュート!!」

 魔力弾を圧縮し、拳銃みたいに螺旋の回転をしながら加速して飛んでいく。

 こちらに殺到してくる炎熱弾が撃ち抜かれていく。

「なっ!」

 初めてシュテルから驚きの声が漏れた。

 撃ち抜かれた炎熱弾が一拍遅れて爆発する。

 高速の魔力弾が全弾、シュテルに直撃し爆発する。

 私の方は、抜けてきた炎熱弾を防御する。

 油断なく残心。

 煙が晴れてくる。

 無傷ではない筈。

 シュテルは、キチンと防御出来たとは思えないくらいの魔力しか纏っていなかった。

 煙が晴れて、シュテルの姿が完全に見える。

 

 シュテルは無傷だった。

 

 レイジングハートに似た感じの槍からは、少し煙が纏わり付いている。

 まさか!?槍で全部打ち落としたの!?

「このまま押し切れると思ったのですが。どうやら侮っていたようです。失礼しました」

 シュテルはそう言うと槍を一振りして、煙を完全に払う。

「才だけではなく、余程よい師、よい戦いに恵まれたのですね」

 シュテルが片手で槍を構える。

 両手で構えないの?

「ここより、私の戦い方をお見せしましょう」

 炎熱弾を生成しつつ、こちらに吶喊してくる。

 私は咄嗟に魔力弾を展開し、撃ち込む。

 シュテルが炎熱弾を先行させる。

 やっぱり撃ち落とすのかと思ったら、突然シュテルが加速し、炎熱弾を追い越す。

「っ!!」

 シュテルが魔力弾の隙を縫うように、接近してくる。

 魔力弾が小さくなった分、避け易くなってるんだ!

 でも、なんで追い越したの?

 その理由は、すぐに分かった。

 シュテルの背後で爆発が起きる。

 シュテルは爆風を利用して、更に加速し一気に間合いに突っ込んでくる。

 気付けば、シュテルが目の前に来ていた。

 槍を片手にも関わらず、物凄いスピードで突き込む。

 私はレイジングハートで防御姿勢を取る。

『ラウンドシールド』

 レイジングハートが、カートリッジを数発使用しシールドを強化する。

 強化した筈のシールドに槍が激突する。

 しまった!と思った時には吹き飛ばされていた。

「きゃあーー!!」

 幾つか民家を突き破り止まる。

「…っ!!」

 痛みに顔を顰める。

 あれだけの猛スピードで吶喊してくるんだから、衝撃も相当なものだ。

 私は美海ちゃんがよくやっているように、衝撃を逃がすような受け方をしなければ

ならなかった。

 痛みを無視して上体を起こした途端に、目を見開いてしまった。

 無数の炎熱弾が殺到して来ていた。

 回避は間に合わない。

 レイジングハートがカートリッジを消費する。

『プロテクション』

 私を包み込むバリアが完成し、炎熱弾を防ぎ切る。

 攻撃が止み、煙が晴れていくと周囲はクレーターになっていた。

 そこにシュテルの槍が、炎刃を纏い焼き尽くすように振り下ろされる。

 衝撃音と共に地面が高熱で蒸発する。

「そこで防御を選択したのは、間違いでしたね」

 シュテルがそう言った瞬間、バインドが彼女を拘束した。

「何!?」

 でも、残念。

 私は僅かな攻撃の切れ間にフラッシュムーヴで、その場を逃れていたんだ。

 その場に、プロテクションを展開したままにした。

 自分の魔法を囮にしたんだよ。

「レイジングハート!!ロードカートリッジ!!」

 レイジングハートが答える代わりに、薬莢を次々に吐き出していく。

『カノンモード。ディバインバスター』

 カートリッジ丸々一本使い切った全力の魔力砲撃。

 それが、シュテルに直撃した。

 大爆発を起こす。

 使い切れなかった魔力がレイジングハートから吐き出され、私は予備弾倉を取り出し

レイジングハートに装填する。

『リロード』

 周辺の気配を探りつつ、魔力弾を展開。

 シュテルはまだうごいていない。やっぱり、倒せてない。

 すぐさま、魔力弾を全弾発射。

 同時にシュテルも、煙を引き裂くように高速で向かってきた。

 多分、今シュテルが展開している盾で防がれたんだと思うけど、シュテルにダメージ

はない。

 高速魔力弾を炎熱の盾と槍が、次々に打ち落としていく。

 私は即座に離脱。

 私とシュテルは空戦を開始した。

 

 目まぐるしく、前後が入れ替わり、魔力弾と炎熱弾が交わされる。

 私はレイジングハートを近接戦モードの棒に変形させている。

 技量の差で、頻繁に接近戦に持ち込まれるからだ。

 今も追いつかれ、炎熱の槍が振るわれる。

 激しい打ち合いになるが、こちらのシールドはシュテルの槍の一撃を受けるので精一杯

だ。となると、手段は砲撃による攻撃しかないんだけど…。

 隙を見て砲撃を撃っても、分厚い炎熱の盾で防がれる。

 鋭い刺突を逸らし損ねて、瓦礫に叩き付けられるが、すぐさま飛び上がる。

 息が切れる。

「手札が尽きてきましたか。一つ覚えの砲撃では、私は倒せません」

「まだだよ!!」

 まだ切っていない手が、ある。

『レイジングハート…』

 念話でレイジングハートに呼び掛ける。

『美海のおかげでアレは安定しています。存分に』

『ありがとう。レイジングハート』

 念話での確認が終わる。なら、迷わず使う。

「レイジングハート!!エクセリオンモード!!」

『オーライ。エクセリオンモード』

 カートリッジを消費し、ボロボロになったバリアジャケットとデバイスが再構築される。

「成程、防御を強化し、攻撃力を上げたのですね。しかし、舐められたものですね。まだ、

その程度で逆転出来ると考えるとは」

 シュテルが不快そうに眉を顰める。

「レイジングハートが力をくれてる!私は、はやてちゃんもみんなも護ってみせる!!」

「言葉ではなんとでも言えます。実際に見せて貰いましょう」

 私はそれを証明する為に、シュテルに立ち向かう。

 正面からシュテルと激突する。

 デバイス同士が火花を散らし、お互いに距離を取る。

「海鳴閃!!」

 離れる瞬間に技を繰り出すが、シュテルの一撃に打ち消されてしまう。

「そんな技まで使えますか、二流なら炎を切り裂かれるでしょうね」

「っ!!」

 技を一撃で見抜かれた。

 私は吶喊してくるシュテルと距離を取ろうとして、足が引っ張られる感じで停止して

しまった。

 見れば、足に魔力で出来た鎖が巻き付いていた。

 バインド!?

「では、失礼」

 シュテルはそう言うと、物凄い力で鎖を引っ張り私事振り回す。

 遠心力を付けて地面に叩き付けられる。

 こんな使い方もあったんだ!?

 バインドの鎖を海鳴閃で切り裂く。

 フラッシュムーヴを使おうとして、顔面に衝撃が走り地面に再び叩き付けられる。

 余りの衝撃に意識が飛び掛ける。

 これ、左手…?

「高速の移動手段があるのは、承知しています。ブラストクロウ」

『プロテクション』

 次の瞬間に凄い爆炎が巻き起こる。

 

 私は離脱に成功していた。

 ダメージは免れなかったけど…。

 寸前でレイジングハートが、バリアバーストを使ってシュテルの手を緩めてくれなかった

ら、そこで終わっていたかも。

 それでも結んでいた髪は、解けてしまっていた。

 少しの火傷はあるかも。ヒリヒリする。

 フィールド系の防御でレイジングハートが護ってくれたとはいえ、よく無事だったと思う。

「呆れた頑丈さですね。直撃ではないとはいえ、あれに耐えるとは」

 あの手甲、あれもデバイスだったんだ。

 私は予備弾倉を無言で装填する。

「アクセルチャージャー起動。ストライクフレーム…」

 レイジングハートが砲身を槍のような形状にして、魔力の羽を広げる。

 もう、あまり余裕はない。

「エクセリオンバスターA・C・S。ドライブ!!」

 これで決める。

 私はこれまでにないスピードで、シュテルに突撃をする。

 シュテルは一瞬、目を見開いたけど、冷静に回避を選択。

 これは、たった一度しか多分通じない。

 今までにない程のスピードで突撃しているのに、時間が飴みたいに伸びている。

 物凄く遅く感じる。

 焦らないで、見極める。

 シュテルが、カウンターで一撃入れて終わらせる態勢に入る。

 当然そうなるよね。でも!!

 ここ!!

 物凄く耳障りな擦れる音が響く。

 私は逃さず()()()()()()()()()()()()()()

 私は足場でレイジングハートの軌道をズラして、もう一度スピードを出す為に蹴り上げた

んだ。

「その技術は!?」

 そう、美海ちゃんが空戦でやっていた事だ。

 ワンパターンな突撃は、回避され易い。でも、これなら一度くらいイケると思った。

 シュテルが、咄嗟に炎熱の盾を展開して()()()私を止めたけど、構わず突撃する。

「クッ!!」

 シュテルが初めて顔を歪ませる。

 ドンドン押し込んでいくけど、盾は突破出来ない。

「お願い!!通って!!」

 レイジングハートが応えるように、カートリッジを使用する。

 私もありったけの魔力と力を注ぎ込む。

 硬い盾を穂先が僅かに貫通した。

「まさか!?」

「ブレイク…シュート!!」

 私の魔力が奔流となってシュテルを吹き飛ばした。

 

 荒い息を吐く。

 バスターをゼロ距離で直撃。これで、どう!?

 気力だけでレイジングハートを構える。

 そして、ボロボロではあるけど健在なシュテルが姿を現す。

「もう一頑張りだね」

『イエス』

 シュテルは目を閉じて、微笑む。

「まさか、ここまでとは。名残惜しくなりましたが、これで終わりにしましょう。

ルシフェリオン!!」

 シュテルが槍を振り上げる。

 周辺魔力が動く気配がある。まさか!?シュテルもブレイカーを!?

 皮肉だけど、私もブレイカーくらいしか手札が、残っていない。

「レイジングハート!!」

『オーライ。スターライトブレイカー』

 ブレイカーは周辺の魔力を集め、収束する。

 ブレイカー同士なら、先にチャージを始めた方が威力は上になる。それだけ多くの魔力を

吸収されてしまうんだから。

 本来なら。

「っ!?」

 シュテルが気付いた。私のブレイカーも威力がそんなに劣っていない事に。

 私だけの武器。同調。

 シュテルが吸収する筈だった魔力を、奪い取る。

『スパイラルシフト』

 収束した魔力を球体に編み込むように、螺旋を描き構成していく。

 朱色とピンクの巨大な球体が完成する。

「スターライトォーー」

「ルシフェリオン…」

 

「「ブレイカー!!!」」

 

 巨大な2つの球体が激突し、大爆発を起こす。周囲の被害…大丈夫だといいけど…。

 そんな事が少し頭を過ぎったけど、自然と私は魔力爆発の中心へと突撃していた。

 エクセリオンモードじゃなかったら、同調がなかったら、収束した魔力で自分を護って

いなかったら消し飛んでる。

 爆発を突き抜け、シュテルの元へ。

 流石に予想外だったようで、シュテルが驚きの表情で見ていた。

「飛鷹君直伝…ブラッディースクライド!!」

 レイジングハートを突き出す。

 シュテルが笑った。

 え?

 レイジングハートがシュテルの胸に吸い込まれる。

 シュテルが吹き飛んで瓦礫に突っ込み、停止した。

 

 私はシュテルのところへ降り立つ。

 シュテルは立ち上がれないようで、倒れたままだった。

「お見事です」

 シュテルはそんな事を言った。

「どうして、本気で戦わなかったの?」

 必死で戦っている最中は気付かなかったけど、シュテルは私に余裕で勝てた筈だ。

 エクセリオンモードでも軽くあしらわれたくらいなんだから。

 シュテルはこちらを試すように戦っていた。

 どうして、そんな事をしてくれたの?

「殲滅しろと言われましたが、どう殲滅するかは、私の自由です。貴女が心折れるようなら、

そのまま死んで貰う積もりでしたよ」

 あっ…。

 どれ程の覚悟かを試されていたんだ。

 戦う者の覚悟、傷付ける覚悟、傷付けられる覚悟をシュテルは教えてくれたんだ。

 それが足りずに足が竦んでしまわないように。

「ありがとう…ございました」

 師匠がどんどん増えていくみたいだ。

「やはり、よい師に恵まれているようですね。手をお出しなさい」

 私は訳が分からなかったけど、シュテルに手を差し出した。

「餞別です」

 シュテルの身体が発光する。少しずつ身体が消えていく。

「シュテル!?」

「私は亡霊のようなものです。でも、ご安心を。()()()()()です」

 光が私を包み込む。

 バリアジャケットとレイジングハートが再構成される。

 

「あの方の支えになってあげて下さい」

 

 シュテルはそう言って消えていった。

 どういう理屈かは分からない。でも、分かっている事は私がシュテルの力を引き継いだ事。

『フォートレスモード』

 かなり装甲が強化されているし、シュテルの手甲も受け継がれている。

 魔力も体力も回復している。

 私の身体から炎が上がる。

 

「ありがとう、シュテル。頑張るから…」

 

 あの方って、多分美海ちゃんの事だよね?

 シュテルは、あの足場を造って蹴り上げる技術を知っていた。

 あんな空戦する人、美海ちゃんくらいしかいないもん。

 

 なんで、美海ちゃんを知ってるんだろう?

 

 

 

             :フェイト

 

 大剣と戦斧が空中で激突する。

 私とレヴィは変換資質が同じらしく、レヴィの大剣は放電している。

 空中を舞いながらレヴィが、大剣を振るう。

 レヴィの体格だと大剣が余計に大きく見える。

 レヴィはそれを小枝のように振り回している。

「ほれ、ほれ、ほれ!」

 余裕を持って私と打ち合っている。

 どれ程、技を尽くして攻め立てても、大剣に阻まれる。

 レヴィの剣は不思議なもので、美海のようにどこかで正式に習ったものではないみたいだ。

 自由奔放な剣とでも言えばいいのか、凄く変則的だ。

 好機と危機を見逃さない臭覚は、凄いと思う。

 奇抜な動きも計算の元でやっているように、自然にこちらの好機を潰して、レヴィの好機

に変えてしまう。

 その所為で、さっきから防戦一方だ。

『プラズマランサー』

 バルディッシュがシリンダーを回し、カートリッジを消費する。

 なんとかレヴィから距離を取り、魔法を放つ。

「光翼ざーん」

 気の抜けたような声と共に大剣が振られる。

 大剣が稲妻の片翼のような形に変化し、それが翼を広げて飛んでくるようだった。

 雷の槍が蹴散らされ、私目掛けて飛んでくる。

「はっ!!」

 私は魔力を切断する要領で戦斧を振るう。

 稲妻の翼を斬るまではいかないけど、爆発させる事は出来た。

「ターン!」

 蹴散らされた雷の槍が、方向を変えてレヴィに向けて放たれる。

「およ?」

 レヴィの気の抜けた声がする。

 レヴィは軽く動いては槍を斬り払っている。

 私はその隙に、ソニックムーヴで一気に間合いに侵入する。

 私はバルディッシュを全力で振り抜く。

『ハーケンフォーム』

 レヴィは紙一重で躱そうとしたが、突然伸びた鎌の刃で目測を誤る。

 誤った筈だった。

 でも、この攻撃は空を切る結果になった。

 高速の移動魔法!?それとも武術的な動きだったの!?

 まるで霞むように刃が届かなかった。

 奇襲同然での攻撃なのに、レヴィがカウンター気味に大剣を振るう。

『ディフェンサー』

 咄嗟にバルディッシュが防御してくれる。

 大剣をシールドが阻んでくれる。

 でも、私はバルディッシュが張ってくれたシールドを、蹴り付ける。

 それと同時にシールドが割られ、大剣が私の身体スレスレに通過していく。

 肌がヒリヒリする。真面に攻撃を受けたら真っ二つになる。

 レヴィが追いかけてこなかったので、距離を取りバルディッシュを構える。

「へぇ。なかなかやるじゃん」

 レヴィが大剣を担いで、悪戯っ子みたいに笑う。

「ありがとう」

 私の方は、それ程余裕はない。

 バインドも捉える事が出来ないから、砲撃は牽制にしかならない。

 牽制に魔力を大量に消費する訳にいかない。

 なら、もっと攻撃を引き付けないといけない。

 レヴィでも躱せないくらいに。

 こちらが傷を負うリスクがあるけど、このままじゃ負ける。

「おお!覚悟決めました!って顔だね?」

 内心ギクリとする。

 迂闊に顔に感情を出したりしないようにしてるけど、バレた。

 態度は子供っぽいけど、経験が本当に豊富なんだ。

 私程度の感情抑制術じゃ、見抜かれる。

 でも、やる事は変わらない。

「ハーケンセイバー!!」

 私は鎌の刃の魔力刃を、レヴィ目掛けて放つ。

「フォトンアロー、ファイア!!」

 雷の矢が多数展開され、放たれる。

 レヴィは意図も簡単に大剣で魔法を斬り払って、高速でこっちに接近してくる。

「諦めっちゃったかな?それじゃ、これで、終わり!!」

 レヴィが私に大剣を振り下ろす。

 次の瞬間、バルディッシュが放電し発光する。

「は?」

 レヴィが間の抜けた声を上げる。

 だって、大剣が狙ったところじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シグナムの時にやった電磁石化だ。狙いはレヴィの大剣の切先。

 私はその隙を見逃さなかった。

 私は左手をレヴィに向かって突き出した。

「プラズマスマッシャー、ファイア!!」

 デバイスを経由させず、直接砲撃を叩き込む。

 レヴィが驚いた顔のまま、砲撃を受け、()()()

「ええ!?」

 今度は私が間の抜けた声を上げる事になった。

 高速移動の魔法どころではない。消えた…。これは…。

 左脇腹に鋭い痛みと衝撃が走り、私は瓦礫に叩き付けられた。

 思考に沈んだ隙に、攻撃されてしまった。

 叩き付けられたけど、そのまま転がる。

 その判断は正しかった。

 次の瞬間には大剣が地面にめり込んだんだから。

 蹴りで、電磁石が解けた隙に、大剣を取り戻していたんだろう。

「いやぁ、今のはビックリした!」

 身体が上手く動かない。蹴りを受けたからじゃない。これは!もしかして…。

 今の状態だと、無茶になるけど。これで確かめる!

 私はなんとか立ち上がった。

 息を吐く。

 バルディッシュを構え、身体強化とソニックムーヴを使い、レヴィに突っ込む。

「また、スピード勝負すんの?っ!!」

 レヴィも流石にビックリしたようだ。

 だって、今までとはスピードが違ったんだから。

 私はレヴィが反応出来ないスピードで、バルディッシュを振り抜いた。

 これはリニスに使用を禁じられた魔法。

 血液の流れを速くする。これにより、人の反応速度を越えられる。

 周囲の時間が遅くなる。スローモーションを見ているようだ。

 身体強化を完全にコントロールしても危険な魔法だ。

 これは流石にこっぴどく怒られた。それ以来封印していたもの。

 

 でも、消えた。まるで幻惑魔法のように。

 

 私は即座に魔法を解除する。

 身体が魔法の反動で怠い。この程度で済んでよかった。

 確認した甲斐もあった。

 目を閉じ、魔力を波のように放つ。

 電磁場を形成し、ソナー替わりに使う。

 私は無言でハーケンセイバーを放つ。

 レヴィが今いるところではなく、何もない空間に向かって。

「おお!?」

 レヴィの声が何もない空間から聞こえる。

 レヴィの虚像が消える。

 手の内がバレたのにレヴィは、相変わらず悪戯っ子みたいに笑った。

「バレたか」

「うん。バレた」

 私も不敵に笑う。

「最初、貴女の変換資質は私と同じだと思ってた。でも、違う。貴女の変換資質は超音波。

しかも、それを自在に操って発生した効果にも干渉する事が出来る、でしょ?」

 しかも、いくら元が魔力とはいえ制御能力が凄まじい。

 普通ならすぐにバレてしまうくらい強力な力だ。

 突然消えるのは、超音波を使って光の屈折率を変えて、像を別の場所に結んでいたから。

 私は元々レヴィのいる場所を誤認していたんだ。

 見えた通りに剣が振り下ろされていたから、余計に騙されてしまった。

 雷に見えていたのは、電磁パルスを操っていたから。

 放電した電気まで操っていたんだ。

 身体が上手く動かなかったのは、少し身体にソニックウェーブの影響を受けた所為だった。

 しかも、変換資質の偽装にもなる。

「う~ん。これ見破ったの、あの人以外だと初めてだな」

 レヴィが大剣を持ったまま、拍手する。

 あの人?

「でも、気付いたからって、どうなるかな?」

 そう、これからどうするか。

 皮肉な事にやる事は変わらない。

「バルディッシュ…」

『イエッサー、ザンバーフォーム』

 全力を尽くす。

 カートリッジを消費して、バリアジャケットが再構成される。

 バルディッシュがレヴィと同じ大剣に変化する。

「僕と剣で勝負するっていうの?」

 私は頷く。

「その意気やよし!」

 スッとレヴィの表情が消える。

「じゃ、やろうか?」

 私は剣を構える。

「「勝負!!」」

 空中で再び大剣同士が激突し、衝撃波が広がった。

 

 レヴィは当然のように自分の居場所を偽る。

 目に頼ってたら、どうしても視覚からの情報に引っ張られる。

「どうにもならないでしょ?何せ、王様とシュテルんが考えてくれた戦法だからね!!」

 だからこそ、目を閉じる。

 美海が稽古を付けてくれた時、言っていた。

『視覚以外の感覚も多く情報が含まれてるから、そこも意識するといいよ』

 私は美海と同じようには、まだ出来ない。

 だから、視覚からの情報を遮断する。

 周囲に電磁場を発生させる。

 レヴィの姿がポッカリと浮かび上がって見える。

 剣を高速で振るう。

 目まぐるしく、立ち位置が変わり、剣が命を刈り取る為に襲い掛かる。

 剣と剣が擦れて火花が散る。

 ここで技量の差が出る。少しずつ私に小さな傷が付いていく。

 正確な位置が分かっても、剣技で負けている。

 思い切って踏み込み剣を振るう。レヴィが珍しく剣で受ける。

 その時、不思議な音がした。何かが響くような…。

 レヴィが無言で、剣を振り下ろす。

 私は上段で受けようとして、背筋に悪寒が走る。慌てて後退する。

 身体だけ剣を避けるような形になった為、レヴィの大剣が私の剣に振り下ろされる。

 レヴィの大剣が触れた瞬間に、私の剣の刃が霧散する。

 これは!?

「魔法もね。私、解析出来れば分解出来るんだよね」

 固有振動数を合わせて、物質崩壊に導く方法の応用…!!

 こんな事まで…。

 

 でも、これは、反撃に使えるかもしれない。

 

 相変わらずレヴィの大剣から、音のようなものが漏れている。

 決意を持って私は剣を構える。

 少しでもタイミングを間違えれば、私は死ぬ。

「絶対に諦めない。それ、大切な事だよ。でもね、諦めなきゃいいってもんでもない」

「うん、そうだね。でも、大丈夫」

「僕さ。こんな特殊な変換資質だったからさ。最初は使い方分かんなかったんだよね」

 お互いに一切、気の緩みはない。隙も見せない。

 でも、そんな空気の中、突然レヴィがそんな事を言った。

「でも、王様に逢って、シュテルんに逢って、それで初めて自分が凄いって信じられる

ようになった。僕に可能性をくれた。それで掴み取った。強くなれたよ。王様の国で一番

強くなった。魔法では王様に敵わないし、総合力じゃシュテルんに敵わなかったけど、

個人の武では一番だった」

 私は気を逸らす事なく、レヴィの話を聞いていた。

 これは、聞かなければならない話だと、直感的に思ったから。

「でも、別の国から来たヤツに負けちゃった。悔しかったけど、僕は諦めなかった。一緒に

なって鍛錬してさ、気付けば友達になってた。結局、追いつく前に死んじゃったけどさ。

君の動きから、あの子の影響を感じるんだ。気のせいって思うのが正しいんだろうけどさ。

僕は自分の勘を信じてる。君の傍にはあの子がいる」

 あの子って、もしかして美海の事?

「もしかして、だから?最初は殺そうとしてたのに、途中で止めたの」

 レヴィは頷いた。

 レヴィの殺気は間違いなく殺す気だった。でも、途中から風向きが変わった。

 命が懸かってたのは間違いないけど、私を試すような戦いに変わった。

「まあ、命令だしね。それに私は逆らえない。でも、やり方を変えるくらいは出来るからね。

それで死んじゃったら、それでもいいかって感じかな」

 私は苦笑いしてしまった。素直過ぎる。

「だから、見せてよ。あの子と並べる可能性を…」

 私はただ頷いた。

 レヴィはニッと笑った。

 レヴィの大剣から、あの響くような音が放たれる。

 私は魔法陣を展開する。

 

『ジェットザンバー』

「共鳴破砕剣」

 

 お互いに持てるスピードと技術で、一瞬にして間合いを詰める。

 剣が激突する、その瞬間にバルディッシュの剣の刃が消えた。

 剣が消され、相手の剣がそのまま迫ってくる。それがヒントになった。

「っ!?」

 まだ、打ち付けていないのに魔法が消えて、レヴィが驚く。

 私は更に一歩踏み込む。

「っ!」

 レヴィが光翼斬?って言ってた技の踏み込み。私は咄嗟にそれを取り込んで使った。

 レヴィの大剣が、バルディッシュの刃があった部分を通過する。

「撃ち抜け!雷神!!」

 レヴィの大剣が通過し、引き戻せないタイミングで、再びジェットザンバーを再構築する。

 私はレヴィの大剣を潜るように躱し、私の剣がレヴィを初めて真面に捉えた。

 少し態勢は崩れてしまったが、私は持てる全ての力を注ぎ込んだ一撃をレヴィに打ち

込んだ。

 ここまでは一瞬の出来事だったけど、物凄く時間が長く感じた。

 

 レヴィが物凄い吹き飛び方をして、幾つも建物を破壊しながらようやく止まった。

 

 そこで、ようやく時間が元に戻ったように感じた。

 私は暫く、剣を構えたまま、その場に留まっていた。

 レヴィが立ち上がる気配がない。

 私はそこでようやく剣を下ろした。

 

 私はレヴィの傍まで近付く。

 態勢が崩れたとはいえ、全力での一撃はレヴィを倒していた。

 レヴィは意識こそ保っていたけど、上体を起こすのがやっとの状態だった。

「う~ん。きゅーだい点!」

 ボロボロなのに、レヴィは晴れやかにそんな事を言った。

 なんかちょっとムッとする。

「うちの王様ってさ。変わっててさ、料理が趣味なんだ。それで料理人が辞めちゃうくらい

美味しんだよ」

 なんか突然、話が飛ぶ。

 付いていけないんだけど…。

「あの子の料理ってさ。物凄い普通なんだよ。王様が教えて、その通りに作った筈なのに

普通なんだよ。凄くない?」

 確かに凄いかも。

「でも、さ。好きだったんだよね。あの人の料理。一生懸命に作ってくれたって感じでさ」

 何が言いたいんだろう?

 レヴィは私の顔を見て、笑った。

「ああ!最後に、あの人の料理食べたかったなぁ~って話」

「っ!」

 最後って、やっぱり…。

 レヴィが手を差し出してくる。握手?

 私も手を差し出し、レヴィの手を握った。

 レヴィの身体が発光して、身体が消えていく。

「レヴィ!!」

「全く、僕の夢を君に託すんだから、キチンと使ってよ?」

 レヴィの力が流れ込んでくるようだった。

 

「あの子の事、頼むよ」

 

 レヴィはそう言うと、消えていった。

 

 気付けば、私のバリアジャケットとバルディッシュが再構成されていた。

 装甲が強化されているのに、身体が軽い。

 バルディッシュも見た事のない三又の槍に変化していた。

 魔力も傷も治っている。

 

『トライデントフォーム』

 

 バルディッシュから、レヴィの大剣から聞こえた音が聞こえる。

 そうか、全部託してくれたんだ…。

 追いつきたかったんだ、レヴィは。

 友達として、美海の隣に胸を張って立てる日を夢見ていたんだ。

 でも、出来なくなった。だから、私にその夢を託した。

 

「ありがとう。美海の事は任せて。私は強くなるよ。隣に並べるくらいに」

 

 

 

             :飛鷹

 

 俺とクライドさんと戦闘を開始したが、一筋縄ではいかなかった。

 予想はしていたけど、な。

 何しろ、俺より遅いのに攻撃を弾いたり、逸らしたりするんだから。

 力も俺の方が上だろう。

 技量は向こうが上だが、それ程圧倒的という感じはしない。

 でも、攻撃が当たらない。でも、向こうの攻撃は当たる。

 そこまで深刻なダメージはないが、ジリジリダメージが蓄積されている感じだ。

『経験による先読み…だな』

 スフォルテンドが分かり切った感想を述べる。

 ンな事は知ってんだよ!問題はどうするか、だ!

『なら、1つしかないな』

 だな。

『「読まれても、どう仕様もない攻撃をする」』

 魔力弾を展開し、魔力弾と共にクライドさんに向かって行く。

 クライドさんも魔力弾を放つ。

 魔力弾が相殺され、爆発を引き起こす。

 相殺を免れた魔力弾をクライドさんに撃ち込むが、鞭状の魔力刃が躍り、叩き

落とされてしまう。

 それでも俺は止まらない。

 強力なシールドに物を言わせて、突っ込んでいく。

 爆発を突っ切っていくと、クライドさんが待ち構えていた。

 杖による鋭い打突が繰り出される。

 それを躱して、剣をカウンターで斬り付けようとするが、杖の石突が横から

迫ってくる。

 咄嗟に剣で受け止める。

 すると、クライドさんの背後から魔力弾が飛び出した。

 スフォルテンドが、魔力弾の軌道上に小さなシールドを展開する。

 本来なら、ナイスフォローと言っただろうが、今回は違った。

 シールドに当たる前に爆発したのだ。

「っ!?」

 小さいシールドで魔力をケチったツケで、威力はないが爆風がモロに視界を塞ぐ。

 それで出来た隙を、クライドさんは見逃さなかった。

 剣を一瞬で跳ね上げられ、脇腹に蹴りが入る。

 魔力で強化された蹴りは、十二分の威力だった。

「グッ!!」

 俺は呻き声を漏らした。

『サウンドジェット』

 クライドさんの杖から、振動系の魔力砲撃が放たれる。

『ディフレイド』

 スフォルテンドのフォローでなんとか直撃を回避したが、その代わりクライドさんを

見失った。

 俺は剣を一時的に収納し、目を閉じる。

 実戦で使うのは初めてだ。成功率は、高町家の鬼特訓で少しは上昇しているが、まだ使い

こなすには至っていない技。

 だが、下手に探し回ってもおそらくは後手に回って、一撃貰う事になる。

 ここまでいいとこなしだ。

 ここらで名誉挽回しないとな。

 脱力する。魔力も浮くのに必要な分のみ、闘気をゼロにする。

 無刀陣。

 直後、頭上から空気を裂く程の一撃が振り下ろされる。

 俺はその攻撃をギリギリまで引き付ける。

 そして、頭を横に倒すように振り、頭部への一撃を回避する。

 肩に鋭い一撃が打ち込まれると同時に、俺は再び剣を取り出し振り向きざまに技を放つ。

「アバン…ストラッシュ!!」

 勇者アバンが魔王ハドラーとの戦いで会得した技。

 カウンター技だ。

 だが、クライドさんもアッサリ食らったりしない。

 後退で剣が当たらない位置まで、下がろうとしていた。

 だと思ったぜ!

 だから、俺は放つタイプのアバンストラッシュを撃ったんだ。

「っ!?」

 ベルカじゃあるまいし、こんな攻撃は珍しいだろう?

 この技は、剣から砲撃を放つような威力になるからな。こっちの世界じゃ、な。

 俺は魔力量に物を言われて、効果範囲を広げて放つ。

 回避技術?そんなもの持ち込ませない。

 それを覚ったのか、クライドさんが初めて防御態勢に入る。

 待ってたぜ!

 クライドさんの足が止まるのを、俺は待っていた。

 動き回られると、今の俺では厳しい。だが、止まっていればゴリ押しが可能だ。

 だが、ただのゴリ押しになんてしない。

 俺だって、戦いから学ぶ事が出来る。

 クライドさんの無駄のない体捌きは、今、俺の頭の中に刻まれている。

 綾森のようには上手くいなかない。

 なのはみたいにヒーローの手本みないなセンスもない。

 でも、フェイトみたいに強くなろうっていう貪欲さは、ある!!

 俺は練習よりも素早く無理なく、技の仕上げに入る。

「ハアァァァーーー!!」

 叩き付けるタイプのアバンストラッシュ。

 これはダイの大冒険の主人公・ダイが編み出した最強の派生技だ。

 

 アバンストラッシュ×(クロス)。

 

 クライドさんに放出系のアバンストラッシュが届くと同時に、叩き付けるタイプの

アバンストラッシュを叩き込む。

 クライドさんが如何に経験豊富な魔導士でも、これは防げない。

 クライドさんが吹き飛ばされて、叩き付けられる。

 俺は、油断なく剣を構えたまま残心。

 

 クライドさんが動く気配はない。

 芝居ではなさそうだな。

『あれを真面に食らったら、あの男の魔力じゃ防げないだろうからな。ちょっとした

罰ゲームだな』

 ×(クロス)だけに?面白くないぞ。いつからダジャレなんて言うようになった?

 

 俺はクライドさんの傍に駆け寄る。

 クライドさんは意識があった。

 俺はしゃがみ込んで、クライドさんと目線を合わせる。

「クライドさん」

「気にする事はないよ。これは実戦だ。君は自分の得意とする分野で、戦い、勝った。

それでいいさ。それに最後の動き。しっかりと見た訳じゃないが、見事だった」

 俺は実のところ勝ったけど、スッキリはしていなかった。

 当然の事だ。

 綾森ならもっと上手く勝った筈だ。

 やっぱり、平和ボケした世界からの転生者か、戦乱の時代から転生?したヤツの違い

は大きいな。近付こうとすればする程に、遠いと感じる。

 クライドさんは、俺の鬱屈した気持ちに気付いたんだと思う。

「ありがとうございます」

 俺はただ頭を下げた。

「まあ、君はまだ若いからね。ゆっくり自分と向き合っていくといい」

 クライドさんに苦笑いされてしまった。

 全然納得していないとバレバレだったんだろう。

「それに感謝しているのは、私だよ。チャンと終わらせてくれた」

 そうだ。クライドさんはこれで完全に死ぬ。

 俺のレアスキルでもどうにもならない。

 それ以前に、まだ再度使用出来ない状態だ。

 無茶した影響は、まだ響いている。

「これをクロノに…リンディでもいいが、渡してくれないか」

 クライドさんがバリアジャケットを解除し、デバイスを待機状態にする。

「これが最後の証拠だ」

 証拠?

 俺の疑問に答える前に、クライドさんの身体が発光する。

 徐々に消えていっている。

「クライドさん!?」

「僕は死人だ。デバイスに、こびり付いた残滓に過ぎない。だから消える。それだけだ」

「っ!」

 俺は、クライドさんが差し出したデバイスを受け取った。

 

「最後にリンディとクロノに伝えてくれないか。愛していると」

 

 俺は頷く事しか出来なかった。

 そして、クライドさんは消えていった。

 

 俺は、何か出来たのかな?

 手に残ったクライドさんのデバイスを見詰めながら、そんな事を考えていた。

 

 

             :美海

 

 私とナハトヴァール(管制融合機の姿)の戦いが始まっていた。

 だが、あちらとしては、想定外だろう。

 魔力を纏わせての攻撃は、殆どが回避されるか、受け流されるかで、頼みのあの詐欺

野郎から蒐集した魔法は、意味をなさないんだから。

 正直、虚無を使われなければ、あんまり強敵じゃない。

 問題は、はやてがキチンと目覚めて、やる事やってくれるかどうかだ。

 ナハトヴァールの本体ともいうべき、デバイス(パイルバンカー)が繰り出される。 

 私は魔力放出の影響まで計算し、ギリギリで回避しカウンターで左手で掌底を放つ。

 が、向こうも黙って食らったりしない。

 向こうも僅かに顔を逸らして回避するが、私は放った掌底の手を返してナハトヴァール

の頭を掴むと横っ腹に膝蹴りを入れた。

『理解不能、理解不能』

 ナハトヴァールが何故攻撃を受けるのか、分からずにさっきから言っている事だ。

「理解なんか求めてないから、安心しろ」

 夜天のヤツ、チャンと声を掛け続けてるんだろうな?

 ナハトヴァールが性懲りもなく、()()()()()()()()()攻撃してくる。

 純然たるプログラムのせいか、ナハトヴァールは最適手しか打ってこない。

 本来ある駆け引きやらなんやらが、不足している。

『スレイプニール』

 背部から6枚の羽が出現する。

 スピードアップする気か。

 ナハトヴァールが、高速接近と同時にブラッティーダガーを放つ。

 私はシルバーホーンを使わずに展開した魔力弾で、全てのダガーを打ち落とす。

 樹冠剣を振るい、魔力を纏わせた拳とパイルバンカーを捌いていく。

 ノータイムで放たれる砲撃を躱し、痛烈な一撃を見舞う。

 吹き飛ばされたが、6枚の羽が地面の激突を回避する。

「倒すだけなら、楽なんだけどね」

 思わずぼやいてしまった。

 暴走前に片付けるなら楽なものだ。

 完全暴走に突入したら、虚無が溢れ出してくる。

 そうすると、こっちも手段が限られてくる。

 出来るだけ、はやてには早く管理者権限を奪い取って貰いたい。

 が、暴走しないけど、管理者権限を取り戻す気配すらない。

「たっく!適当に相手し続けるのも骨なんだから!!」

 魔力弾の弾幕で攻めてくるナハトヴァールに、ウンザリしながらある程度の魔力弾を

撃ち落とし、防御しながらナハトヴァールの攻撃を掻い潜る。

 樹冠剣が高速で縦横無尽に走る。

 幾つか防御されたものの、攻撃の全てを防ぎ切った訳じゃない。

 またも吹き飛ばされるが、今度は堕ちて貰おう。

術式解散(グラムディスパージョン)

 ナハトヴァールの背面の6枚の羽が消え去る。

『!?』

 さっきと同じように羽で激突を回避しようとしたが、羽を無効化されてしまえば、激突

は回避出来ない。

 土煙が上がる。

 油断なく気配を探る。

 だが、有り得ない事が…いや、考えたくない事が起きた。

 

 土煙が黒い虚無に吹き散らされたのだ。

 

『管理者権限の発動が受理されました。力の解放を選択』

 

 ナハトヴァールの身体から虚無が溢れ出す。

 これは明らかにはやてが使用したものじゃない!!

 

「はやて!!このまま、終わる気か!!」

 

 私の声が虚しく響いた。

 

  

 

 




 これから仕事が忙しくなる関係で、投稿間隔が長く
 なると思います。
 今回は1日遅れくらいで済みましたが、これからは
 そうはいかないと思います。

 次回に樹冠剣の説明などをしようと思います。
 次ははやての戦い?がメインになると思われます。

 それでは、気長にお待ち頂ければ幸いです。

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