魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 久しぶりに長いです。
 最近、どうも言った事を守れていないようなので、
 頑張ってみました。

 いや、ホント頑張りましたよ?

 では、お願いします。



第39話 陽動

             :リンディ

 

 ようやく、特別チームからのクレームを聞き終えて、執務室に戻ってくる。

 彼等の対応がよければ、フェイトさん達も離反しなかったでしょうに。

 美海さんの言う通り、獅子身中の虫に徹したと思う。

 それを私に文句を言われても、どうしようもない。

 息を吐いて、気持ちを切り替える。

 手元に小さな魔法陣が現れる。

 キリエさんの監視は続けられている。

 今も映像が送られてくる。

 人員を付ける余裕も、付けられる人材にも心当たりがない以上、切札の1枚を使うのも

やむなしね。

 それは、精霊魔法。私のレアスキルともいうべきもの。

 流石に得体の知れない魔法を使うお友達も、精霊相手では分が悪いみたいね。

 美海さんには何故か通用しないけど。

 本来なら、ここで逮捕といきたいところだけど、材料が足りない。

 何しろ、彼女は自分で本局上層部の要請内容を、私に暴露している。

 彼女は、別の手段を考えているというような事を言っていたけど、本局上層部のやり方

を否定していない。つまり、本局の意向に仕方なく従ったと言われれば、本局が握り潰す

可能性は否定出来ない。

 もどかしいわね。

 本来なら、ややこしい事になる前に解決してしまいたいんだけど。

 

 執務室がノックされる。

 やってきたのはクロノだった。 

 はやてさんの自宅が襲撃された件の報告だった。

 アリアの魔力パターンをね。悪質な行為だけど、今は手を出す訳にはいかない。

 クロノにも、それを言わなければならない。

「艦長が自ら監視していたんですか…」

 説明を聞き終えたクロノの第一声がこれだった。

 クロノ自身、フローリアン姉妹が第一容疑者と考えていたようだけど、クロノにして

みれば、早く言ってくれればと思っているでしょうね。

「ごめんなさいね。対応に追われていたのよ」

「すみません。顔に出ていましたか?」

「いいえ。こちらが察しただけよ」

 クロノの事だから、これからの改善点として、これから注意していくのでしょうね。

 親としては、息子が段々思考を読ませないようになるのは、少し寂しいけれど。

「ともあれ、まだ拘束するには材料が足りないわ。やるなら一気に片付けないと」

「分かりました。こちらは、彼女達の目的を探ります」

「接触するなら、慎重にね」

 誰にとは言わない。

「了解です」

 クロノはそう言って、退室していった。

 美海さん達に接触すれば、何か感じたものがあるかもしれない。

 美海さん自身も、まだ話していない事があるかもしれない。

 

 事件は動き出している。

 何事もなく解決出来ればいいのだけど。

 今までの経験から、この状況で完璧な形で解決出来る事のは、至難の業だと私自身

分かっていた。

 

 私達はベストを尽くすのみね。

 少しでもいい未来を掴み取る為に。

 

 

             :アミティエ

 

 意識が浮かび上がってくる。

 まだ、意識がハッキリしていないけど、まだ私は生きているみたい。

 見知らぬ天井が視界に映る。

 白い天井。もしかして捕まった!?

 急激に意識がハッキリする。

 慌てて身体を起こそうとしたが、激痛が走り起き上がれなかった。

 痛みの中、周囲に目を配る。

 幸い管理局に逮捕された訳ではないみたいですね。

 どうも、一般人の家と言った感じでしょうか?

 誰かが部屋に接近してくる。部屋の前で止まって扉がノックされる。

 意識を失っているフリをした方がいいか悩んだけど、それでは恩人に対して不誠実

ですね。

 覚悟を決めて、どうぞと声を掛けた。

 乱暴に扉が開かれる。反射的に身構えて、痛みに顔を顰める。

 入ってきたのは、金髪の目付きの悪いメイドだった。

「おお!目が覚めたかよ」

 そう言ってメイドはニヤリと笑った。

 私の知っているメイドと随分違いますが、ここではみんなそうなんでしょうか?

 

 私が目を覚ました事を確認すると、金髪のメイドは何も言わずに出ていきました。

 なんだったのかと思っていると、若い女性を連れて戻ってきました。

 どうやら、この人を呼びに行ったみたいですね。

 服装からすると、メイドの主人の家族といったところでしょうか。

「よかった。目が覚めたみたいで。この子達と違うから手探りだったんだけど」

 女性はホッとしたように言った。

 どうやら、助けてくれたのは、この人のようですね。

 自分の身体を見る余裕が戻り、見てみると自動回復するよりも身体が治っている

のが分かる。初見でここまで出来るとは、父さん以外にも天才はいるものですね。

「すみません。私のような者に、ここまでして頂き感謝しています」

 どうやって彼女達に発見されたかは分からないけど、決して親切にしたがる登場

の仕方ではなかったでしょう。

「私はアミティエ・フローリアンといいます。騙されて、怪我を負い、このザマです」

 管理局員という事は言わなかった。管理局を知っているか分からなかったし、どちら

にせよ、肩書きには元が付くでしょう。

 頭に血が上ったとはいえ、軽率な行動で艦を破壊する原因を作ったのですから。

 それに残ったイリスがどう言っているか、分からない。

「私は月村忍。詳しい事を話してくれれば、力になれる事もあると思うわ」

 名前の響きからすると、現地協力者の子達と同じ国の人でしょうか。

 という事は、そう遠くに落ちなかったという事ですね。

「お世話になって置いて、勝手な事を言いますが、すぐにでも行かなければなりません」

 身体を無理に起こそうとする。

 金髪のメイドが、いつの間にか近付いていて、私を押さえ付けた。

「おいおい。無理すんじゃねぇよ。動けるようになってねぇだろうが」

「イレイン。また、ノエルに怒られるわよ。その言葉遣い」

 月村さんが窘めると、イレインと呼ばれたメイドが眉を顰めた。

「何だよ、忍。チクる気か?」

「お嬢様がそのような事をする必要はありません」

 突然、声がした。

 気が付けば、部屋にもう1人の女性が入ってきていた。

 私のセンサーは大破しているのでしょうか?

「げっ!」

 イレインさんが呻き声を上げる。

 同じメイド服に身を包んだ女性が、ツカツカとイレインさんに近付くと、片耳を

指で掴むと、引っ張っていった。

 イレインさんは騒ぎながら、もう1人のメイドさんに連行されて行った。

「アハハハ…。騒がしくてごめんなさいね」

 月村さんが苦笑いしながら、乾いた声で謝った。

「焦っても、今はどうしようもないわ。暫く休んで」

 月村さんの労りの言葉に、素直に頷く事が出来なかった。

 キリエを助けないといけないから。父さんも。

 私の葛藤を見て、月村さんが更に声を掛けようとした時。再び扉が開いた。

「お姉ちゃん!怪我した人が目を覚ましたって!?」

 そう言って入ってきた少女は、月村さんによく似ていた。

 そして、後から見た事のある人達がゾロゾロと入ってきた。

 

 最早、これまで…ですか。

 入ってきたのは、管理局の現地協力者の子達と、闇の書の騎士に協力している子

だったから。

 

 

             :美海

 

 敵の消えた場所を、睨み付けていても仕様がない。

 結界が消えた瞬間に、認識阻害と人除けの結界は張り直している。

 私は、はやての傍に下りる。

「リニス。お疲れさん」

 私はまずリニスを労う。

「いえ。本当ならこんな事が起こらない方がよかったんですけど、役に立ってよかった

です」

 リニスはホッとしたような、残念そうな複雑な表情だった。

「はやても頑張ったみたいだね」

 はやては息切れしたままだったが、サムズアップで応える。

 やっぱり、侵食された状態で魔法を使うのは、きついか…。

 私が冷静にはやてを見ていると、後から声が掛かる。

「アタシ等を監視してたのかよ」

 鉄槌の騎士が疑念に満ちた声で言った。

 …なんでこう、腹立つ言い方するのかね。

 私は鉄槌の騎士を振り返り、口を開こうとした時だった。

「そんな言い方はないでしょう!?」

 リニスが逸早く怒声を発していた。

「美海が本気で貴女達を、どうにかしようとすると思っているんですか!?どれだけ

美海が貴女達の為に、動いていると思っているんですか!?どれだけ自分の時間を

使っていると思っているんですか!?この子は、記憶がどうであれ子供なんですよ!?

それに頼り切っている貴女達が、美海を非難する資格があると思っているんですか!?」

 リニスの怒りにフェイト達が驚いている。

 まあ、リニスが本気で怒る事は、殆どないからね。

 付き合いのないはやても、固まるくらいの怒気だし。

「ヴィータ。確かに、今の発言は礼を失している。謝罪すべきだ」

 発言したのは、今まで瞑目して黙っていた盾の守護獣だった。

 ヴィータが少し驚いた顔をしている。

 そう言えば、盾の守護獣とは、話した事なかったな。

「美海殿が護りを付けていてくれたから、今回の戦いを凌ぐ事が出来た。主の危機を

我等に代わって救った御仁に、失礼があってはなるまい。恥の上塗りだ」

 守護騎士が主を護れない。これは恥だ。それで他人を責めるなど論外。

 久しぶりに聞いた話だ。

 そんなもの戦乱になったら、すぐに寝言になったけど。

 寡黙な守護獣の厳しい言葉に、私に思うところのある3人が俯いた。

「美海殿がやろうと思えば、いつでもどうにでも出来た筈だ。そろそろ認めてもよい

のではないか?」

 分かっていてもどうにもならない事はある。

 夜天の魔導書も、心配そうに主の周りを飛んでいる。

 はやてもジッとこっちを伺っている。

 分かってるよ。

 私も大人気ない態度だったしね。

 この件を片付ける為に、私も譲歩はすべきかね。

「私も思うところはある。だから、提案だ」

 私は守護騎士連中を見て言った。

「綾森美海が夜天の守護騎士団に対し、決闘を申し込む。ベルカの天地に自らの誇りと

尊厳をもって、正々堂々と戦う事を誓う」

 私は血液中から剣を取り出し、地面に突き立て、剣を握る手を天に翳す。

 ベルカの騎士が決闘を申し込む正式な作法。

 勿論、向こうも知っている筈だ。

 武器を地面に突き刺し、その手を天に翳すという行為は、自分の攻撃を遅らせる行為、

つまり正々堂々と戦う事を表す。

 天地とは、神の事を指している。つまり、宣誓を違えた時はどのような制裁も受けると、

神に告げる儀式という訳だ。

 守護騎士達もサッと表情を変える。

 烈火の将が瞑目する。

「日取りは?」

 烈火の将は目を開くと、そう訊いた。

「今回の件が終了したのちに」

 私としては、なかなかフェアな条件を出したつもりだ。

 今、戦っても私は大して消耗していない。一方、向こう側はかなり消耗している。

 これではただでさえ一方的な勝負が、勝負にすらならなくなるだろう。

 それに今夜は最後の蒐集がある。

 烈火の将が納得したのか頷いた。

「何を求める?」

「こちらが勝てば今までの事は、全て水に流す。こちらが負ければ、2度とそちらの前に

姿を現さない事を誓おう」

「承知した」

 返事と共に烈火の将が剣を地面に突き刺し、同じく手を天に翳す。

「夜天の守護騎士団、烈火の将がお受けしよう」

「遺恨無き決着をつけよう」

「異論はない」

 これで一先ず、対応終了かな。

 どうなるかと、息を呑んで見守っていたなのは達もホッと息を吐く。

「もう!どうなるかと思ったわ」

 はやてが疲れた声を出した。

 

 全員が私服姿にもどる。

 はやてが複雑な表情で辺りを見回す。

 そりゃそうか、ここら一帯瓦礫の山になったのに、結界解除したら元通りだもんね。

 

 これからなのは達の事情説明をしようと、はやての家に入ろうとしたが、その前に

人数が追加された。

「はやてちゃ~ん!」

 すずかの声が何故かする。

 誰か連れて来てた?そんな訳ないけどさ。

 息を切らせて、すずかとアリサが走ってきていた。

 なんでも管理局が仕掛けてくるタイミングで、加勢する予定の4人にくっついてきていた

らしい。

 ここまで来た理由は、入り込んだ4人が、結界が解かれたにも関わらず、消えていた事で

何かあったと考えたんだって。鋭いね。

 そして、何かとは、この時期だとはやての事じゃないかと、焦って走って来たそうだ。

 家の中に入って、お茶を頂きながらその話を聞いていた。

「ごめんな。心配掛けてもうて。この通り大丈夫や!それとありがとうな」

 はやては、すずかやなのは達に管理局より、自分の味方になってくれた事に礼を言った。

 正直な話、このまま友達に戻れないかもと心配もしてたみたいだし、よかったんじゃない

のかな。

「でも、なんで突然、はやてを襲撃なんてしたんだろう?」

 フェイトが疑問を口にする。

 前々から、はやての家も突き止めていた感じではある。

 なら何故今なのか?

「ま、永遠結晶(エグザミア)のオリジナルと、関係はしてるだろうとは思うけど」

「え!?どうして!?」

 なのはが声を上げる。

「だって、あの仮面、ライダースーツと同一人物なのは明らかだからね」

 動きだけでなく、私の目で確認したから間違いない。

 構成要素が同じだ。

「「「「ええ!?」」」」

 なのは達とはやてが思わず大声を上げる。

 守護騎士達も表情が硬くなる。

「どうしてそんな事が分かるの?」

「私はちょっと特殊な眼をしているから、見れば分かるんだよ」

 フェイトの疑問を私は解消して上げた。

「特殊な眼?」

「まあ、今風に言えば、レアスキル?かな?」

 詳しい説明はまた今度という事で、納得して貰った。

「問題は永遠結晶(エグザミア)と夜天の魔導書の関係だけどね。そっちは流石に夜天の魔導書を

調べないと分からないよ。ただ、分かる事はあるよ。あの仮面、脳以外は作り物

だって事」

「「「「「ええ!?」」」」」

 うん?なんですずかまで驚いてるの?

 なのは達も気になったのか、すずかの方を見た。

「うん。偶然…なのかな?うちに同じような女の人が、怪我して寝てるんだけど…」

 

 うん。そりゃ、偶然と呼ぶより、関係ありと見るのが妥当だね。

 蒐集まで少し時間がある。

 ちょっとお見舞いといこうか?

 

 

             :なのは

 

 すずかちゃんの家に行ってみる事にする。

 もしかすると、そのまま戦闘になるかもしれくて、美海ちゃん以外は緊張していた。

 流石というか、美海ちゃんは全く普段と変わりない。

 はやてちゃんの家には、引き続きリニスさんが、そして追加でアルフさんが残ってガード

を強化する事になった。

 守護騎士の人達も頑なな空気が、マシになった感じで受け入れてくれた。

 

 すずかちゃんの家に着いて、中に入る。

「あ、お帰りなさいませ!すずかお嬢様!」

 すずかちゃんの専属メイドのファリンさんが出迎えてくれた。

 みんなでお邪魔しますと挨拶する。

「丁度よかったです。怪我をなさった方は、意識を取り戻しましたよ!」

 凄いタイミングで来たみたいなの。

 みんなで顔を見合わせる。

 なんかこういうの、嬉しい。

 少しの間だけど、こういう事出来なかったから。

 

 早速、ファリンさんの案内で、その人がいる部屋まで案内して貰う。

 すずかちゃんが真っ先に扉を開ける。

「お姉ちゃん!怪我した人が目を覚ましたって!?」

 私達もすずかちゃんの後に続く。

 そこにいたのは、ユーリちゃんの護衛を担当していた人だった。

 お話した事なかったけど。アースラにいたから顔は見ていた。間違いない。

「貴女は!?」

 フェイトちゃんが声を上げる。

 護衛さんの名前は確か…。

「アミティエ・フローリアン。元・准尉ですね」

 名前が出てこない私達に、アミティエさんが教えてくれる。

 なんかすいません。

「いいんですよ。付き合いありませんでしたし。いえ…敵としてあった…というべき

でしょうか」

 またも表情から読まれたみたいで、先回りして答えてくれた。

 でも、敵!?どこで敵対したんだろう。

「ああ…。アンタが外にいたっていうライダースーツか」

 美海ちゃんが納得したように言う。

 え!?外!?

 アミティエさんが諦めたように頷いた。

 なんか2人で分かってるみたいな感じだけど?

 美海ちゃんが気が付いて説明してくれた。

 最初にオールストン・シーに行った時の襲撃で、外でも守護騎士の人達が襲われてた

んだって。美海ちゃんも協力するようになってから、聞いた事なんだって。

 じゃあ、この人、はやてちゃんを襲った人達の仲間!?

「管理局の人がなんでそんな事するの!?」

 私は思わず声を上げてしまった。

「管理局は正義の味方じゃありませんから…。私は故郷を救って貰うのを条件に手を貸して

いただけです。言い訳する気はありませんけど…」

 故郷…。この人も何かの為に戦っているんだね。当然…なのかな。

「私達も管理局の味方という訳じゃありませんけど、事情が事情です。アースラに連絡

させて貰います。大丈夫、他の局員は兎も角、リンディ艦長は信頼出来る人ですから」

 フェイトちゃんが真剣な表情で、アミティエさんに告げる。

 アミティエさんも苦い顔だったけど、頷いてくれた。

 フェイトちゃんがバルディッシュを通じて、リンディさんに連絡する。

 リンディさんに連絡する分には、美海ちゃんも飛鷹君も反対はしなかった。

 

 リンディさんに連絡すると、すぐにクロノ君がやって来た。

「接触しようと思った矢先に、これは少し驚いたよ」

 入ってくるなり、クロノ君はこの第一声だった。

 美海ちゃんは、流石に同席出来ないって言って出ていってしまった。

 でも、話は聞いていると言っていたから、問題ないんだろうけど。

 

 クロノ君は、まずはアミティエさんの妹のキリエさんが、どういう証言をしたかを

アミティエさんに聞かせる。

 アミティエさんが、キリエさん達を裏切って、本局?の偉い人の言いなりになって事件

を起こした事。アースラの破壊は、アミティエさんがキリエさんに暴力を振るおうとした

からだって事を、クロノ君は説明した。

「そうですか…。そんな話になってますか…」

 アミティエさんは悲しそうにそう呟いた。

「それじゃ、君の言い分を聞かせて貰おう」

 クロノ君は、アミティエさんのベットの前の椅子に腰掛ける。

「念の為言って置く。君の証言は記録され、証拠となる場合ある」

「分かっています。これでも、捜査官でしたから…」

 アミティエさんは俯いてそう言った。

 クロノ君は頷くと、アミティエさんを促した。

 

 アミティエさんは決意したみたいに、口を開いた。

 

 

             :アミティエ

 

 私達が捜査官になった経緯はご存知ですよね?

 私達の故郷・エルトリアが、滅びに瀕しているからです。

 私達は管理局に助けを求めました。その見返りに人手不足の管理局で捜査官になりました。

 捜査官になって実績も上げましたが、何時まで経っても管理局は故郷に手を差し伸べては

くれませんでした。

 今は、住人の殆どが、コロニーに避難している状態です。

 でも、そんな状態は長くは続きません。一刻も早くなんらかの手を打つ必要がありました。

 

 父は生物工学の研究者で、母は生物学者でした。

 父はずっと故郷を救う方法を模索していました。勿論、母も。

 私とキリエも手伝っていたのですが、途中で故郷に蔓延する死病に侵されて、倒れて

しまいました。身体が徐々に腐っていきました。このままでは死ぬのを待つだけでした。

 そこで、父は病に侵されていない脳を残し、私達の遺伝子データを元に造られたボディに

脳を移植する事で、命を繋いだのです。

 だから、私達はこんな身体なのです。

 そんな中、父も発病してしまいました。父は母を説得してコロニーに向かわせました。

 管理局に助けを求めたのも、この辺りの話ですね。

 父以外には、ボディを造れなかったので、父は人間のままでいるしかありませんでした。

 それに処置は更に困難を極めますから、私達では無理だったのです。

 父は病に侵されながらも研究を続け、私達は管理局で捜査官として活動し出しました。

 

 ある時、事件捜査をしている時に、偶々遺跡を発見したのです。

 そこにいたのが、イリスでした。

 彼女は、古い滅びた文明時代のナビゲーターだと名乗りました。

 彼女とキリエはすぐに仲良くなりました。

 いつの間にか、だったので詳しくは分からないのですが。

 彼女は、今はない文明の知識を、豊富に持ち合わせていました。

 ダメで元々でした。彼女に今、故郷で起こっている事を相談しました。

 詳しいデータがないと分からないと言うので、コッソリ彼女を連れ帰りました。

 データを確認した彼女は、解決法を即座に教えてくれました。

 それが、莫大なエネルギー結晶体を手に入れ、それを電池として環境を再生させる魔法

を使う、というものでした。

 しかし、世界を1つ救う程の結晶体とすれば、ロストロギア以外にありません。

 それ以降、事件捜査の過程で見付けたロストロギアを、着服するようになりました。

 でも、どれも力が足りないし、力の性質が違うとかで、今まで手に入れたロストロギアを

合わせて使う事も出来ないと言われました。

 それでイリスが文明の記録を検索して見付けたのが、永遠結晶(エグザミア)でした。

 中に封印されているエネルギーとロストロギアを使えば、理論上エルトリアを救える。

 父とイリスの共通見解が出たんです。

 私達は、それを手に入れるべく動き出しました。

 

 あとは、キリエが言った通り、着服がバレて本局上層部に脅されて警護任務に就きました。

 でも、それは好都合でした。

 だって、封印を解くカギは闇の書の中にあると言う事だったので…。

 あとはご存知の通りです。

 

 でも、私達は騙されていた事が、偶々分かったんです。

 イリスが話しているのを偶然聞いてしまったんです。

 イリスは初めから別の目的の為に、私達を利用したに過ぎないんだと。

 彼女の本当の目的は、分かりません。

 でも、私達ギアーズのデータをどこかに売り渡したようでした。

 ギアーズというのが、私達のボディの名なんです。

 そして、最後には私達を始末するというような事も、話していました。

 

 お願いです。罪は素直に認めます。なんでも証言します。

 だから!妹を!キリエを助けに行かせて下さい!!その時間を下さい!!

 私は必死にお願いをした。

 

 だけど、その返事をクロノ執務官がする前に、とんでもない情報が飛び込んできました。

 ユーリ・エーベルヴァイン嬢が誘拐されたという報せが。

 

 

             :イリス

 

「ユーリ・エーベルヴァインの身柄を押さえましょう」

 私の言葉にキリエが驚愕する。

「ええ!?どうして、そんな事するの!?」

 キリエが戸惑いに満ちた声を上げる。

 私にとって、これは変わらない予定だった。

 精々、身柄確保は順番が前後するくらいで、予定通りだ。

「ダメだよ!!関係ない人を巻き込めないよ!!」

 あら、初めて反対意見を言ったわね。

「それじゃあ訊くけど、どうやってエルトリアまで戻る積もり?」

「え!?…それは…」

 少しも考えていないでしょ?貴女なら。

「少しの間だけよ。彼女は地上本部のVIPなんでしょ?本局だって粗雑に扱えないわ。

強引な手で怪我でもさせたら一大事。エルトリアを救った後、解放するし、自首だって

すると言えば、勝算は高いと思うの」

 遺憾であると顔全体で表してやる。

 効果有りと認めたのか、キリエが苦悩の表情をする。

「キリエ。私の目を見て。騙しているように見える?」

 私はキリエの目を覗き込む。

 キリエの目が一瞬虚ろになる。

「私は貴女の親友よ。貴女の考えはよく理解しているわ」

「そう…よね。少しの間なのよね…」

「ええ。勿論よ」

 私はニッコリと笑った。

 

 あの場で闇の書が確保出来たなら、永遠結晶(エグザミア)の専門家として同席して貰う為とでも、

言って納得させる気だった。

 その時は、闇の書を完成させ、鍵を取り出してから連れ出す。

 どちらにしても、闇の書の完成に管理局の目を釘付けになり、注意が逸れる。

 今回にしても闇の書の主を押さえるチャンスに、管理局は色めき立っている筈だ。

 戦力がないようだけど、だからこそ対処すべく忙しい。

 そう、順番が前後しただけだ。

 どちらにしても、あの護衛程度なら私でもなんとかなる。

 

 アースラに戻る。

 私はナビゲーターという事になっているから、ハッキングしたと説明しているけど、

実際は魔法で、認識を狂わせている。

 一応念の為、例の仮面姿で潜入する。

 全く見咎められずに、ユーリ・エーベルヴァインが作業している場所へ辿り着く。

 ドアの前には、護衛が2人立っている。

 横を通り抜けようとして、止まる。

 チャラチャラした感じの男が、手で制止したからだ。

「見た事のない魔法だけど、遺失物をあいてにしている僕達を甘く見たね」

 女の方も臨戦態勢に入っている。

「僕達も油断はしないよ」

 男の方が、指を鳴らすと警報が艦内に鳴り響く。

 思わず舌打ちが出た。

「悪く思わないでくれよ?彼女を護るのが僕らの仕事だ」

 姿を隠し続けても、目の前の相手には意味がない。

 なら、仕方ない。

「強引な方法を取る気はなかったんだがな。優秀さが仇になったな」

 私はニヤリと嗤う。

 私から黒いタール状の魔力が溢れ、形になっていく。

 タール状の魔力に紅い光が混じり出す。

 呆然としているキリエに声を掛ける。

「コイツ等は私が相手をする。お前は確保を」

 有無も言わせぬ口調で言うと、キリエがビクッと震える。

 面倒臭いな。でも、あと少しの我慢と思い直す。

「頼む」

 言葉短く言うと、生命力を奪う槍が無数に造り出す。

 遺失物機動課の2人が身構える。

「死ね」

 槍が2人に殺到する。狭い通路に逃げ場などない。

 通路が破壊される。勿論、ドアも。

 キリエが中に滑り込む。

 私の背後から、魔法が放たれる。

 それを意識の手を伸ばすイメージで払う。

「面白い手品を使うな」

 背後にいつの間にか短い杖が、幾つか浮いていた。

 この狭い通路で攻撃を避けたのは、女の持つスキルだろう。

 今もピッタリくっついている。

 侵入したキリエがユーリ・エーベルヴァインを抱えて出てくる。

 あの加速にいくら大魔導士なんて言われようが、付いていけない。

 男の顔が強張る。

「次はこちらの番だな。受け取れ」

 今度は槍ではなく、丸い球体を造り放つ。

「くっ!!」

 女が呻き声を上げて、何かの魔法を発動する。

 チラッと魔法式を見る。

 なかなか面白い魔法だ。空間の隙間に入り込むのか。

 広域空間攻撃じゃなければ、有効だったのにね。

 放たれた球体が、破壊力を持って広がっていき、大爆発を起こした。

 艦体が大きく揺れる。

 それじゃ、次に会う時には終わりの時だからね。

 

 私は、キリエに抱き抱えているユーリ・エーベルヴァインの顔を、無表情に

眺めてアースラから、キリエと共に離脱した。

 

 

             :クロノ

 

 僕の目の前に突然、ウィンドウが開く。

 緊急通信という事だ。

 エイミィの顔が映る。

『クロノ君!大変!ユーリさんが連れ去られたの!!』

「何!?犯人は!?」

『逃げられた、というか、取り逃がしたの。遺失物機動課3課の2人は怪我して、

今は休んでる。犯人は仮面を付けた2人組』

 僕は天を仰いだ。

 向こうの動きが早い。後手に回っている。

 今まで繋がりがあるかも分からない話が、ようやく全体像を見せ始めた矢先に

これか。

「おそらく、永遠結晶(エグザミア)のところに行く筈です!お願いします!!

行かせて下さい!!」

 アミティエ・フローリアンが必死に訴えてくる。

「彼女達が、ユーリを誘拐する理由に心当たりはないか?」

 アミティエが力なく首を振る。

 嘘を言っている様子はない。

「僕が代わりに行く」

「おいおい!1人で行くのは無茶だろ!!」

 飛鷹が制止する。

 無茶は百も承知だ。

「本来なら、局員を連れて行きたいが、美海に怪我させられて動ける人間が、殆ど

いない。仕方がないだろう」

 飛鷹達は苦い表情で黙り込んだ。

「お願いします!!逃げたりしません!!人手が必要なら尚更連れて行って下さい!!」

 ここでエイミィが口を開く。

『クロノ君。連れて行ったら?』

 意外な言葉に思わずエイミィを凝視する。

『人手が足りないのは、事実だよ。そこの護りはなのはちゃん達に任せて、アルフを

貸して貰って、アミティエさん連れて行けば、かなりの戦力になるでしょ』

 確かに逃げる可能性は低いと僕も見ている。

「艦長に繋いでくれ」

 僕の言葉に短く了解と返事すると、エイミィは艦長に通信を繋げる。

 艦長に、僕は今まで聞いた事を説明する。エイミィの提案も。

 艦長はそう、と呟くと考え込む。

 少しして、艦長が顔を上げた。

『分かりました。クロノはアミティエさんと共に、永遠結晶(エグザミア)のある場所へ』

 

 別室で待機していた美海にリニスも借りて、僕、アミティエ、アルフ、リニスで、あの

テーマパークへ急行する事になった。

 

 

             :ユーノ

 

 キント執務官長の依頼は、闇の書事件に大きく関係していると思われる事だ。

 リンディ提督には、キント執務官長が話すという事だったので、僕は早速調査に

取り掛かった。

 依頼内容は、夜天の魔導書に隠された秘密がないか。

 それを知っていたと思われるのが、クロノのお父さんのクライド提督だった。

 彼は探索魔法を使って、この無限書庫で調査をしていたという。

 ならば、ここに答えは眠っている。持ち出されたり、破棄されていなければ、という

注釈付きになるけど。

 

 何時間か調査して空振り。一度調べたものを調べても同じものしか出ない。

 もっと深い階層の未整理区画に行くしかないかな。

「う~ん。そうやって考えているところを見ると、クライド君を思い出すよ」

 突然、手伝いをしてくれているロッテさんが口を開いた。

 僕は行き詰っていたので、ロッテさんの話に耳を傾ける。

「クライド君も、ここでそうやって、よく考え込んでたよ」

 聞けば聞く程、学者っぽい人だな。クロノのお父さんって。

 調査用に探索魔法まで態々…。あっ…。

 

 僕は馬鹿な事してたな!!そう!!探索魔法だよ!!

 

「ロッテさん!クライド提督の持ち物って持ってたりしませんか!?」

 慌ててロッテさんに訊く。

 ロッテさんはキョトンとして答える。

「クライド君の?リンディなら持ってるだろうけど…。あっ!お父様が持ってるわ!!」

 思い出してスッキリしたような顔をしている。

「あの!それ、貸して貰えませんか!?」

 ロッテさんが怪訝な顔をする。

「お父様に訊いてみないと、分かんないけど。何に使うの?」

「探索魔法で、一番新しいクライド提督の痕跡を探すんですよ!!」

 どれ程残っているかは賭けだけど、今のままだと時間が掛かり過ぎる。

 それにほぼ全てが未整理のこの場所に、調査にくる物好きがそういるとは思えない。

 やってみる価値はある!

 ロッテさんは、そのお父様?に連絡している。

 念話で話しているらしく、何度か頷いていた。

「そういう事ならいいって!それじゃ、早速受け取ってくるから!!」

 ロッテさんはそう言うと、素早く無限書庫を出ていった。

 

 この真相がどう繋がるのか分からない。でも僕は僕に出来る事をやろう。

 もしかしたら、これはなのはや飛鷹達の助けになるかもしれない。

 

 

             :リンディ

 

「なんたる失態か!!」

 特別チームの責任者が喚き立てる。

 全く!重要な話が飛び込んできて、忙しくなりそうだというのに!

 クロノがアミティエさんから聴取した事実。

 夜天の魔導書の中に、永遠結晶(エグザミア)を開くカギがあるという。

 問題は何が封印されているのか、何に使う積もりなのかという事。

 夜天の魔導書を完成させると取り出せるカギ。

 ナビゲーターと正体を偽る謎の少女。

 拉致された大魔導士。

 遺失物機動課の2人は、怪我で医務室で休んでいる。

 ただでさえ、夜天の魔導書の暴走に対する警戒で頭を痛めているのに、ここにきて

新たに考える事が増えた。

 責任者の喚き声を右から左に聞き流す。

 責任者は散々喚き散らして去って行った。

 

 溜息を吐いて、頭から五月蠅い責任者を追い出す。

 まずは、キント執務官長にユーノ君に頼んだ仕事が、中断させられるか確認する

必要がある。

 夜天の魔導書と永遠結晶(エグザミア)のカギの関係について調べないと。

 もしかしたら、その過程で何が封印されているか、どう使うか分かるかもしれない。

 それが分かれば、最悪の場合は対策を練れる。

 早速連絡するが、本人が捉まらない。

 忙しい人だから、仕様がないけど。

 切り替えて、今度はグレアム提督に連絡を取る。

 ウィンドウが開き、グレアム提督本人が通信に出た。

「グレアム提督。お忙しいところすみません。お聞きしたい事があります」

「ふむ。何かな?」

「キント執務官長の仕事の件なんですが、中断する事が可能か知りませんか?」

 グレアム提督の表情が険しくなる。

「何があった?」

「実は…」

 私は今まで分かった事実をグレアム提督に説明する。

 グレアム提督も目を見開いていた。

「ユーノ君なら、それに関連した事を調べているよ。その事は伝えよう」

「どういう事です?」

 今度は私の表情が険しくなる。

 私は今回の事件の責任者だ。それを私に教えない理由を訊かないといけない。

「済まない。事情を説明するよ、リンディ」

 それで知った。夫のメモの事。夜天の魔導書の調査の事。上層部の怪しい動き。

「何故…それを教えて下さらなかったのですか!?」

 私の色々な感情でごちゃごちゃになっていた。

 悲しんでいいのか、怒っていいのか、分からない。

 久しぶりに夫の声を聞いたよう喜びも、少しだけある。

「確証を得てから話す積もりだったが、済まない…」

 グレアム提督は、それだけ言って黙った。

 上層部の件がある以上、私が万が一暴走するような事を恐れたのは、理解出来る。

 それでも、納得は今は出来そうにない。

「すみません。もう切ります。何かわかれば、すぐに連絡を下さい」

「分かった…」

 私は何か言ってしまう前に、通信を切った。

 

「あなた…」

 私は、机の上に置いてある写真を手に取り、胸に抱いた。

 

 

             :イリス

 

 ユーリ・エーベルヴァインを永遠結晶(エグザミア)の前まで連れて行く。

 魔法を封じる手錠を付けて、縛り上げてあるが、解いて外す。

 キリエはホッとしたような顔をする。

 でも、ごめんなさい。貴女の思うような理由じゃないわ。

 私は永遠結晶(エグザミア)に手を翳す。

 赤い水晶の表面が、一瞬揺らめくがすぐに元に戻る。

 やっぱり何か細工されてたみたいね。

 でも、戦闘は兎も角、こっちは専門分野なのよ。

 すぐさま、魔法を解析していく。

 カウンター魔法を構築。発動。

 今度は、正常に機能し、表面が揺らめく。

 私はそこにユーリ・エーベルヴァインを放り込んだ。

「え!?何するの!?」

 キリエは、慌てたように私に詰め寄る。

「落ち着いて、管理局ももしかしたら、ここに目を付けるかもしれないわ」

 アミタが万が一生きていた場合、絶対にここにくる。

 あの化け物に、もしかしたら気付かれたかもしれないし。

「そしたら、一室に監禁なんて方法じゃ、取り返されるかもしれないでしょ?これから

カギを取りに行くんだし」

「でも…!…ねぇ、イリス。どうして人を中に入れる事が出来たの?」

 キリエが可笑しな事に気付いたように言った。

「私は取り出せないって言ったけど、入れられないとは一言も言ってないよ」

 ここにきて、初めてキリエが疑わしそうな顔をした。

「これは封印の手段だもの。難しいのは取り出す時だけなの。容量があれば入れるのは、

難しくないわ」

 勿論、誰でも入れられる訳じゃないけどね。

 ここには私の欲しいものしか入っていないのは、確認済みだ。

「そう…なの?」

 私はニッコリと笑った。

「さて、それじゃ、鍵を受け取りに行きましょうか」

 私の言葉に、キリエが迷いを振り払うように首を振ると、真剣な表情で頷いた。

 

 もうすぐ、もうすぐ願いが叶う。

 

 ねぇ?ユーリ。

 

 

             :飛鷹

 

 日が暮れてきた。

 今のところクロノからは連絡がない。

 無事にオールストン・シーに到着して、警戒しているってとこまでは連絡が来てた

けどな。

 いよいよラスト…だが、そんな簡単に片付かないだろうなっという予感があるから、

みんなの表情は明るくない。

 はやては襲撃を受け、ユーリは拉致された。

 俺達も蒐集の間、はやての護衛を引き受けていた。

 

 俺達は蒐集に行く綾森とシグナムを見送る。

 上空に飛び上がったところで、2人が動きを止める。

 上空には、最早正体も隠さずに赤いドレスの女とあの護衛の片割れがいたからだ。

 さっき逃げってった癖に、なんで今きた?

 アイツ等が綾森に勝てるとは思えない。

 俺達と守護騎士達もはやてをガードする。

 赤いドレスの女が不敵に笑って、シグナムに向けて手を翳す。

 いや、夜天の魔導書に向けて。

 夜天の魔導書が一瞬震えると、魔導書を縛る鎖が生き物のように蠢き出す。

「なっ!?まさか!」

 綾森が驚きの声を上げる。知る限り初めてアイツの慌てる声を聞いた。

「そう!そのまさかよ!」

 女の言葉が引き金になったように、夜天の魔導書から紫の触手のようなものが、

出て来た。同時にドス黒いオーラのようなものも出ている。

 

『守護騎士…戦闘続行不可能と…判…断。防衛プログラム・ナハトヴァール起動します。

これより、闇の書の完成を優先します』

 そもそも敵対してねぇよ!!

「な、何言うてるんや?」

 はやてが呆然と呟くようにそう言った。

『守護騎士システムを破棄。リンカーコア、強制回収を開始』

「チッ!」

 シグナムが舌打ちして、夜天の魔導書を離そうとするが、真っ先にドス黒い触手が

シグナムを絡め捕る。

 シグナムも綾森も剣を振るって応戦したが、綾森の剣は飲み込まれたように消えた。

 シグナムのレヴァンティンも同様だった。

 綾森が険しい顔で素早く距離を取る。

 残りの守護騎士も、シグナムを助ける為に動く。

 同時に俺達の周りにも、紫の触手が俺達の動きを止める。

 黒い触手と違うけど、動けねぇ!!クッソ!ボケッとして、このザマか!!

 なのは達も同じみたいだった。

「テオヤァァァアァァーーーー!!」

 ザフィーラが剛腕で殴り掛かるが、そのまま絡め捕られてしまった。

 ザフィーラもシグナムも必死に振り解こうとするが、全くビクともしない。

 シャマルが魔法で風の刃を作り出し、触手を切断しようとする。

 だが、それが鬱陶しく感じたのか、シャマルの周りにも黒いオーラが渦巻く。

 シャマルも絡め捕られた。

 ヴィータは、辛うじて回避を続けていたが、他の守護騎士が捉まったところで、

突然動きを止める。

 ヴィータは呆然と夜天の魔導書を見上げる。

「そうだ…。こいつの所為で…クッソ、なんで今まで忘れてたんだ?」

 綾森の言葉は実感のない話だったんだろうな。

 それを今、思い出した。そんな感じだった。

『回収』

 夜天の魔導書、いや、闇の書は自らページを開くとアニメと違って丸呑みだった。

 モンスターが口に人間を放り込んだような光景だった。

 そこに、悲鳴すらなかった。

 俺達も声一つなかった。

「はやて!!すまねぇ。後を頼む。主としてはやてが、覚醒出来ればアタシ等は何度

でも蘇る。死なねぇ!!」

 ヴィータが飛び上がる。

「ふざけんじゃねぇーーー!!!」

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り抜く。

 凄まじい衝突音が響くが、闇の書はビクともしない。

「チッ!やっぱ、効かねぇか…」

『回収』

「やめてぇぇぇーーー!!」

 はやての悲痛な声が響く。

「はやて。帰ったら美味いメ…」

 ヴィータが闇の書に飲み込まれていった。

「ああ…あ………」

 はやてが目を見開いたまま、震えていた。

「落ち着け!!精神を鎮めろ!!いいようにやられるぞ!!」

 綾森の叱咤が飛ぶ。

 綾森は巧みに黒い触手の群れを躱し、魔法で黒い触手を消し去っていくが、すぐに

再生していしまう。

 流石に全てを飲み込むようなアレは、綾森でも手を焼くようだ。

 だが、綾森の声は届かなかった。

 

「あああぁぁぁぁぁぁあああーーーーーーー!!!」

 

 はやての絶叫と共に、紫の光の柱が天を突く。

 

「チッ!!」

 綾森が舌打ちして、はやての元に急ぐ。

 が、そこには護衛の片割れが割り込む。

「馬鹿が!!いつまで騙されてる!!」

 綾森の怒声を放つ。

「アンタなんかには分からない!!私達の苦しみなんて!!」

「自分1人が傷付いてるなんて思うな!!」

 

 赤いドレスの女は、その隙にはやてに接近していた。

「カギへの道は見付けた。貰うよ!!」

 赤いドレスの女が、紫の光に消えつつあるはやてに手を突き入れる。

 素早く、引く抜くと手には何かの球体と、その周りに3つの鬼火が躍る。

「やった!!ようやく手に入れたよ!!アハハハハハ!!」

 赤いドレスの女が哄笑を上げる。

「さあ、撤退しましょう!!ここに、もう用はないわ」

 赤いドレスの女が片割れに声を掛ける。

 

「逃がすか!!」

 綾森の手から血が流れる。

「バルムンク!!」

 血液の中から蒼い剣が姿を現す。

 

「カギの守護者よ。かの者を滅ぼせ!!」

 赤いドレスの女の言葉で、3つの鬼火が女の周りを離れる。

 綾森はもう一度舌打ちすると、剣を振るった。

 触手のみを狙い切断する。

 俺達はようやく動けるようになった。

 強い閃光が走る。

 

 鬼火が人に姿を変えていた。

 そこに立っていたのは、なのはとフェイト。

 

 それに、クロノによく似た男だった。

「アンタ…まさか、クライド・ハラオウンか?」

 俺の声が虚ろに響いた。

 

 

 

 

 




 リンディさんの魔法は、前々から考えていたものです。
 リンディさんって、多分普通の人間じゃないですよね?
 妖精の羽みたいなの生えてたし。いつまでも若いし。

 ベルカの騎士、結局脳筋です。腕力で解決します。

 美海が最初からバルムンクを使わなかったのは、理由が
 あります。が、それは次回に回します。
 クライドさんの件も今後説明していきます。

 〇頸風剣・オルカーン

 文字通り、風を自在に操る神剣です。風の魔法の精度が
 跳ね上がります。本気で使えば天変地異も起こせる。
 無尽蔵の魔力があればの話ですが。 
 元々は放浪の民の持つ神剣でした。
 何物にも囚われず、自由に行動し、税も兵役も無視する
 連中だったので、かなり他国から嫌がられていました。
 それに付け加え、優秀な人材が多く。富を持ち去る者と
 見做されて、迫害もされていました。
 そんな中、美海の国だけは彼等と上手く付き合っていま
 した。
 戦乱が始まり、族長が戦争の所為で死んだ為、美海が
 臨時の族長に就任した事から、彼女の血液中に入れられた
 神剣です。
 戦争が激化し、族長返上も神剣の返却も結局出来ず仕舞い
 で、美海の手に残されました。所有権のある血族がいれば
 返却するつもりでいます。

 〇火焔剣・ヴルカーン

 これも文字通り炎や熱を自在に操る魔剣です。
 本気で使えば、どこぞの神剣のように世界を焼く事が
 可能です。その前に使用者が干乾びるでしょうが。
 活発に活動を続ける火山を抑える為に、太古に造られた
 魔剣です。
 聖王連合に敵対的な勢力が、国力低下を狙い引き抜き、
 災害を起こそうとしましたが、美海がニブルヘイムで
 凍結させて、アッサリ終息。
 のちに取り戻した際に、元の場所に戻そうとしたが、
 バルムンク経由で拒否された為、彼女の剣になりました。

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