魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 どこで切るか、正直悩みどころです。
 久しぶりに、書いててテンション上がってました。
 深夜に体験するアレなのでしょうか?

 では、お願いします。



第38話 加勢

              :リニス

 

 美海と別れ、八神家へと向かう。

 勿論、猫の姿で。人型は目立ってしまいますからね。

 蒐集を行っている最中や、美海が学校へ行っている間は、大体備えとして、私が外で監視して

いた。

 管理局が押し掛けてきたり、美海の言う仮面の人物がやってきたりするかもしらないからだ。

 1人欠けたくらいで負けるかは、分からないですけど。

 今日も何もなければ、いいのですけど。

 今日の夜で、蒐集が終わる見通しらしいですしね。

 この件で夜天の魔導書を救えれば、美海にとって大きいと思う。

 少しは過去の後悔も、軽くなるかもしれない。

 あの子は、未だに夜になると昔の夢を見て、魘される事がある。

 昔は、紗枝が添い寝して落ち着かせていたようですが、今は私が役目を代わっています。

 夢に入り込んで、起こしているだけですが。

 

 そんな訳で、是非成功して貰いたいのです。

 

 八神家の向かいの屋根で、寛ぐように寝っ転がる。

 あくまで、私は猫という体裁だ。

 意識は八神家に集中している。

 

 しかし、無事に終わってほしいと思うと、終わらないものです。

 突然、辺り一帯が結界で閉ざされる。

 隔離型の結界。

 でも、何かおかしな感じの魔力ですが…。大魔導士に仕えていたからこその感覚が訴える。

 何かが違うと。でも、それの正体は分からない。

 幸か不幸か、そんな事を考えている場合ではない。

 

 仮面を付けた男が、八神家上空に現れたからだ。

 

 成程、確かに怪しいですね。

 結界内に残った時点で、ただの猫の演技は要らないですね。

 素早く、物陰に入り人型になる。

 

 八神家からは、騎士甲冑姿の2人が出て来た。

 あとの2人は、護衛に残したといったところですね。

 しかし、家の中から魔力反応がある。

 家の中は、特定の人間以外転移出来ないように、湖の騎士とやらが魔法で細工していた筈だ。

 それを突破した!?

 それに気付いて、烈火の将、鉄槌の騎士が戻ろうとしたが、物凄いスピードで接近してきた

仮面の男に蹴り飛ばされて、何軒も先の民家に突っ込んでいった。

 あのスピードは、尋常じゃありませんね。

 私もボウッとしていた訳ではありません。

 物陰から、素早く八神家の正面玄関を蹴破る。

 ハルバードを取り出し、走る。

 リビングに着くと、そこには外にまだいる筈の仮面の男が立っていた。

 2人いたという訳ですか!

 護衛である守護獣は人型で片膝を突いている。

 湖の騎士は、既に倒れて気絶しているようですね。

 全く、やられるのが早過ぎます!

「ザフィーラ!!」

 主であるはやてが、しがみ付くように、守護獣の傷の具合を確認している。

「主!構わず撤退して下さい!!」

「そんなん、出来る訳ないやろ!?」

 今、そんな事してる場合でもないんですよ!

 はやての方に仮面の男が手を伸ばす、いや、正確には夜天の魔導書の方に。

 私は踏み込みと共に、ハルバードで仮面の男の手を叩き落す。

「っ!」

 仮面の男が警戒して、後方へ跳躍して庭に着地する。

「貴様は、確か…」

「貴様ではありません。リニスといいます。加勢します」

「すまん!」

 守護獣の方は、こんな時に私の素性に拘るタイプの者じゃなかったようですね。

 美海の話を聞くと、未だに協力している美海に突っかかるらしいですから。

 

 私は油断なくハルバードを構える。

 出来れば、外に主戦場を移したいところですね。

 部屋の中では私の得物は使い辛いですから。

 

『美海!八神家が襲撃を受けてます!!』

 念話で美海に緊急連絡を入れる。

『管理局?』

『いえ、違います。どうも美海が言っていた仮面を付けた男のようですね』

 少し間が空く。

 なんとなく、面倒くさそうな感じですよ?向こうで何かありましたか?

『すぐに応援と一緒に行く』

 応援?もしかして、フェイト達でしょうか?

 確か、管理局側に残って貰った、と言っていたような気がしますが。

 フェイトの性格から考えると、大人しく管理局側いる訳ありませんか。

 フェイトもいい子ですからね。

『仮面の男は2人います。少なくとも、ですが』

『了解』

 その遣り取りで念話が切れる。

 

 さて、お相手致しましょうか?

 

 

              :飛鷹

 

 話の最中に綾森の表情が硬くなる。

「どうしたの?」

 フェイトが綾森に声を掛ける。

 少し黙ったままだったが、不意にこちらを向く。

「悪いけど、急ぐから、話はまた後で」

 それだけ言って、サッサと行こうとする綾森を押し止める。

「待って!何かあったの!?」

「そう、だから放してくれる?」

「一緒に行くよ!」

 フェイトの言葉に俺達も同意する。

 このタイミングで急ぐ用事なら、俺達だって手を貸すべきだろう。

「…分かったから、じゃあ、付いてきて」

 また少し黙る。多分これ、念話で話してるな。

 そして、認識阻害と同時に空へ飛び上がる。

 俺達も慌てて飛び上がる。

 

 目的地はすぐに見えて来た。当然だ。俺達の飛行スピードならな。

 

 しかも、結界が張ってある。

 あれだけ大々的な事やったら、管理局にもバレる。

 管理局の手入れか?無茶しやがる。

 なのはとフェイトも同じ事を考えているようで、険しい表情だ。

 結界、どうやって突破する積もりだ?強引にブレイクか?

「突入するから!私の後を付いてきて!」

 綾森の手から拳銃形態のデバイスが現れる。

 あれ、どうなってんだ?

 そんな事を考えていると、綾森が魔法を放つ。

 すると、結界に風穴が開く。

 …反則だろ。あれ。

 そこに飛び込んでいく。文字通り綾森の後に付いていく。

 

 中に侵入すると、俺達の想像は間違っていた。いや、ある意味あってんのか?

 そこにいたのは仮面の男だったからだ。

 原作だとリーゼ姉妹だよな。俺達リーゼ姉妹に会ってないけど、アイツ等なのか?

 

 あの動きは違うだろうな。

 

 俺が相手したライダースーツより、とんでもないスピードとパワーだ。

 流石のリーゼ姉妹もあれは出来ないだろ。

 守護騎士主力2人が、なすすべなく押されてんぞ!?

「呆けるな!私は守護騎士襲ってる方に入る!リニスがもう1人の方を相手してるから、そっち

を援護して!すぐに行くから!」

 綾森はそう言うと、真っすぐ仮面の男へ向かう。

 

 じゃあ、俺達は…。

 

 轟音。守護騎士がいるって事は、八神家だよな!?吹き飛んだぞ!?

 まあ、結界内だから大丈夫、と思おう。

 

 そこからリニスと仮面の男が戦っているのが見える。

「俺達も行くぞ!」

 俺は3人に声を掛けると、慌てて3人共頷く。

 

 それにしても、流石はリニスだな。今のところ互角に戦ってる。

 

 

              :美海

 

 守護騎士が、圧倒的なパワーとスピードと頑健さに押されている。

 全く、これくらいで押されないでほしいところだ。

 

 仮面の男が拳を振り上げる。

 魔力のような力が拳に収束していく。

 私はシルバーホーンの引き金を引く。

 守護騎士2人の横を衝撃波が通り過ぎていく。派手に民家を巻き込みながら。

 私の魔力弾が仮面の男の腕を弾いたので、狙いが逸れたのだ。

 仮面の男が私の方に振り返る。

 私はシルバーホーンを収納して、代わりに剣を取り出す。

 今度やったら、命の保証はしないと言った筈だけどね。

 だから、言葉は無用。

 殺気を放つ。

 気圧されている仮面の男を、鼻で嗤ってやる。

「舐めるな!!」

 姿が掻き消える。だが、私には分かる。

 大きく横に躱すと、衝撃波が空に放たれる。

 次々に繰り出される強力な一撃を、私は難なく躱していく。

 そして、大きな衝撃音。

 仮面の男の拳が、私の手に止められていたのだ。

「っ!?」

 私は驚愕している仮面の男に言った。

()()()()()()()()()

「!!?」

 私は握った拳を放してやる。

 仮面の男が慌てて距離を取る。

 動揺してなければ、気付いたかもしれない。私の眼が僅かに輝いているのが。

 

 警戒して攻撃してこない。

「こないのか?それじゃ、こっちからいくぞ」

 私は剣を構え、相手に斬り込む。

 相手の姿が同様に消えるが、私は冷静に体捌きと剣閃を変化させる。

 急激な変化とは思えない滑らかな動き。これが出来るからこそ、私は前世で剣王なんて呼ばれ

てたんだよ。理由の1つだけどね。

 咄嗟に腕をクロスさせて仮面の男が、私の剣を防御する。

 動揺が激しい。身体能力に物を言わせれば勝てると思ったんだろうけど、甘い。

 武術の世界で反応速度を上回る相手との戦いなど、とっくに想定されている。

 こいつにはそれがない。

 どんなに速くなろうが、私は戦えるんだよ。

 性懲りもなく、スピードで押そうとする仮面の男を私の剣が捉える。

 衝突音がする。

 カウンター気味に攻撃した私の剣が、仮面の男の胴を薙ぎ払ったのだ。

 頑健さは大したものだけど、ね。

「ぐっ!」

 思わずと言った感じで、呻き声を漏らす。

 剣で打つ事で、身体の内部に衝撃を伝えたのだ。これなら頑健でも意味はない。

「次は、キチンと斬ってやる」

 冗談を言ったのではないと、相手も感じたようだ。

 そう、打ってみた感じ、問題なく斬れる。

 ベルカにいた、成体ドラゴンみたいなトンデモ種族と比べれば、安い魔力構造だ。

「おのれ!」

 また消える。だが、一撃で私は相手の動きを止める。

「風牙烈招」

 風の刃と切断に重きを置く剣を融合させた剣技。

 風のように僅かな隙間から、剣閃が入り込む。

 血煙が無数に上がる。

 斬られれば斬られる程に、隙間は広がる。風の通り道が出来る。剣の通り道が出来る。

 堪らず、仮面の男が撤退の為の閃光を放つ。

 毎度、それで逃がすか。

 それで攻撃出来なくなるなんて、目に頼る2流だけだ。

「絶」

 止めの一撃を放つ。

 が、血痕を残し、姿を消していた。

 常人なら死んでいるところだけど、流石に頑丈だな。

 だが、逃げ切るには流石に足りなかったようだ。

 

 少し離れた場所で蹲っていた。

 荒い息を吐いている。

 私はシルバーホーンを再び取り出し、引き金を引いた。

術式解散(グラムディスパージョン)

 慌てて避けようとするが、傷で流石に動きが鈍くなっている。

 避けられずに、仮面の男は魔法を食らう。

「魔力を疑似的にでも使ったのが、失敗だったね」

 

 仮面は付けたままだったが、姿は明らかに女のものだった。

 服装は本来の力で、構成したものなんだろう。元には戻らなかった。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、大まかには解析していたのだ。

 この女は魔導士や騎士の類じゃない。

 

 轟音。空間攻撃が広がっていく。フェイト達が応援に行った八神家中心に、魔法が広がって

いく。

 私は舌打ちしつつ、シルバーホーンを構えて引き金を引く。

 魔法を無力化していく。

 

 その隙に念話で話しているのか、女はまだジッとしていた。

「でも!…ごめん…」

 急に声を上げる。思わず声に出してしまったんだろう。

 用件も想像が付く。

 

 突如、女の周りの空間が歪む。

「容赦しない。雲散霧消(ミストディスパージョン)

 そのまま、シルバーホーンの引き金を引く。

 だが、効果を及ぼす前に女は姿を消した。

 

「チッ!本物の瞬間移動か」

 私は忌々しさに舌打ちした。また、アルハザードの連中か。

 

 イライラしてばかりもいられない。

 今度は、あっちの応援にいかないと。

 

 

              :なのは

 

 飛鷹君の声で我に返る。

 そうだ。行かないと!

 フェイトちゃんと一緒に返事をして、アルフさんも一緒に轟音と土煙が上がる現場へと突入

する。

 フェイトちゃんの先生であり、今は美海ちゃんの使い魔のリニスさんが、ハルバードを振るって

いる。魔法を使う隙を与えないように、絶え間なく攻め立てている。

 相手の仮面の男の人も、魔法を使おうとしているみたいだけど、発動のタイミングを外されて、

押されている。しかも、守護騎士で使い魔の男の人が、リニスさんの後から滑り込むように攻撃に

加わっている。

「いくぞ!」

 飛鷹君が気合と共に、剣を抜いて突撃していく。

 私とフェイトちゃんは、お互い視線を交わす。

 3対1でこれ以上加わると、邪魔にしかならない。

 なら、要所で狙撃に徹するのと、はやてちゃんの護衛になる。

 フェイトちゃんとアルフさんが、はやてちゃんの前に護るように立つ。

「レイジングハート!」

『ロードカートリッジ!アクセルシューター!」

 レイジングハートが魔力の弾丸で強化される。

 無数の魔力弾が生成される。

 普通に使うより、威力が高いものが生成されている。

 私はジッと撃つタイミングを計る。

 

 それにしても、凄いな。3人で攻撃しているのに、味方の動きの邪魔は一切してない。

 3人で予め申し合わせたみたいに、一糸乱れぬ攻撃を繰り出している。

 流石に、3対1では分が悪い。それでも耐えているのが凄いけど。

 

 遂に、撃つ隙が生じた。

「シュート」

 狙い澄まして、生成した魔力弾を1発放った。

「っ!!」

 小規模な魔法が発動する。

 でも、撃ち抜ける!

 その確信は、ひっくり返されてしまった。

 魔力弾は、弾道が逸れて別の家に直撃して爆発する。

 

 だけど、その一撃は無駄にならなかった。

 

 決定的な隙を作る事に成功したんだから。

「海波斬!」

「瞬雷刃!」

「テェオヤァァァァァーー!」

 不可視の剣閃と雷の衝撃波、白銀のグローブのようになった一撃が同時に放たれる。

 轟音と共に、家が吹き飛んでいく。

 3人共、残心。私も冷静に狙う。

 土煙が納まり、仮面の男の人の姿が見えてくる。

 立っている。腕をクロスして防御したみない。

 これだけ離れていれば!3人が突撃する前に、魔力弾の弾幕を放とうとしたけど、それは中断

してしまった。狙っていた仮面の人が、映像が乱れるように姿にノイズが走った気がしたからだ。

 思わず、手が止まってしまった。

 

 その隙に仮面の人が魔法を発動したようだったけど、何も起きない。

 仮面の人が手を下ろす。

 降参?

 違う事はすぐに分かった。

 突然、空間そのものが歪み出したから。

「やべぇ!広域空間攻撃だ!!」

 飛鷹君の警戒を促す叫び声が上がる。

 避難…間に合わない!!

 私は素早く地上に降りて着地。

「レイジングハート!お願い!!」

『プロテクション』

 カートリッジの弾丸全て消費。流石に全弾使用は負担が掛かる。

 でも、使い始めた時より、ずっといい!

 飛鷹君、リニスさん、使い魔の男の人もそれぞれ障壁を展開する。

 後では、フェイトちゃんもアルフさんも防御しているのが分かる。

 

 次の瞬間、空間自体が悲鳴を上げるような衝撃波が、障壁に叩き付けられる。

 4人で力を合わせてるのに、凄い力…!!

 流石に後のフェイトちゃん達のところは、少しは衝撃が緩いと思うけど、これを1人の時に受け

たらと思うとゾッとする。

 

 どれ程耐えたか、分からない。

 どうも、耐え切ったみたいなの。

 

 あの人相手じゃ魔法を使われたら、私達じゃ厳しい相手だ。

 魔法を防ぎ切った。だからこその弛緩。

 

 仮面の人が、物凄いスピードではやてちゃんに向かっていた。

 私達は全力防御の所為で、気が緩んでいた。そこを突かれて、一気にはやてちゃんの前まで、

あの人は来ていた。

 フェイトちゃんとアルフさんが咄嗟にはやてちゃんを庇う。

 でも、仮面の人が片手でフェイトちゃんとアルフさんを払い除ける。

 2人が瓦礫に突っ込む。

「フェイトちゃん!!アルフさん!!はやてちゃん!!」

 はやてちゃん…違う!夜天の魔導書!?

 仮面の人は夜天の魔導書に手を伸ばし、しっかりと夜天の魔導書を握る。

 気のせいか、魔導書が震えたような気が…?

 でも、ここで仮面の人も驚く人が、奪われる事を阻止した。

「ジークフリート!!」

 はやてちゃんが、魔法で強化した腕を振り抜いた。

 はやてちゃんの弱い腕力。でも、それに仮面の人は驚いて手を放してしまった。

 どうも、はやてちゃんが使った魔法は、身体を護る効果くらいしかなかったみたい。

「残念やわ。うちの家族を傷付けた報い!!受けて貰うで!!」

 更に魔法の行使!?

 はやてちゃんが魔法式を構築していく。

 たった数日で、これだけの魔法を!?

 次の瞬間に、仮面の人がバインドで拘束される。

 魔法の発生源を見ると、フェイトちゃんが立っていた。

 アルフさんは、蹲ったままニヤリと笑った。

 アルフさんがフェイトちゃんのダメージを身体を張って、軽減したんだ。

「フェイトちゃん!!」

 2人共、無事でよかった!

 仮面の人がバインドをブレイクしようとするが、その前にはやてちゃんの魔法が完成した。

「トールハンマー!!」

 物凄い光が降り注いだ後に、轟音が響く。

 雷撃魔法!!魔法の正体を知ったのは、終わった後だった。

 

 はやてちゃんは、荒い息を吐いている。

「やれば出来るやん。私」

 

「まだだ!」

 飛鷹君が剣を振るって、魔法を切り裂く。真っ二つになった魔法が背後で爆散する。

 仮面の人の姿にはノイズが頻りと走っているが、傷は見当たらない。

 もう少し、頑張らなくちゃだね。

 ここでようやく、金髪の女の人が意識を取り戻す。

「シャマル!…大…丈夫か?」

 まだはやてちゃんは息切れしている。

「はやてちゃんこそ、大丈夫ですか!?」

 朦朧としていた女の人は、はやてちゃんの様子を一目見て、完全に覚醒したみたい。

 

 仮面の人は、それを見てイライラしたような感じだった。

「今日は引く。次は覚悟する事だ」

 仮面の人は、そう吐き捨てると、クルリと背を向ける。

 だけど、そこには美海ちゃん、ヴィータちゃん、剣士の人がいた。

「次なんて、アンタにない」

 美海ちゃんの両手から剣が現れる。

 剣自体から凄い魔力が放たれている。

 右手の剣から炎が天を突く、左の剣から風が竜巻のように天を突く。

 

 炎を風が強め、()()()()()()()()()()()()()が放たれる。

 暴力的な炎が風に導かれるように、空間を切り裂きながら焼き尽くす。

 仮面の人は逃れようとしたが、すぐに飲み込まれてしまった。

 

 風が空を舞い、焼き尽くしていく。

 それが、逃がさないと言わんばかりに炎が消えない。

 

 暫くして、ようやく鎮火。

 あとで聞いた事だけど、途中で炎を消す事も出来るんだって。

 

 消えた後、仮面の人の姿はなかった。

 もしかして、焼き尽くしちゃった!?

 でも、違ったみたい…。

「チッ!逃げるのは上手い連中だな」

 美海ちゃんは舌打ちして、顔を顰めた。

 

 あれでも、逃げられるんだ。

 私達は、空を呆れたように見上げた。

 

 

              :イリス

 

 全く、頭がおかしいとしか思えないわよ。

 あんな使い魔を配置するだけじゃ飽き足らずに、闇の書の主にも魔法を教えてたなんて!!

 

 でも、大丈夫。

 私は思わず笑みを漏らす。

 

「イリス…。ごめん。今回も足引っ張っちゃって」

 キリエが項垂れている。

 傷の自動回復を行っているけど、暫く動けないだろう。

 私も魔法で治してやらないと、次に間に合わないかもしれない。

 まあ、リミッター完全解除までやって、あの結果は確かにガッカリさせられるけどね。

 でも、最低限の足止めをやってくれたお陰で、アイツに気付かれずに最後の仕込みが出来た。

 だから、許してあげるわ。今回はね。

「気にしないで!イリスがアイツを足止めしてくれたお陰で、()()()()

 私は、ニッコリ笑ってキリエを励ます。

「勝てた?」

 キリエが怪訝な顔をする。

「ええ、そうよ。あの場で手に入れる事が出来れば、面倒はなかったけど。最悪、闇の書に

触れられれば、ウィルスは流せるからね」

「ウィルス?どういう事?」

 あらあら、珍しく突っ込んでくるわね。

 闇の書は外部からアクセスする事は、一切出来ないって事を覚えていたのね?

「鍵を取り出し易くする為の細工よ。ああ、キリエの疑問は分かるわ。闇の書のアクセスの

事よね?」

 キリエはぎこちなく頷く。

「それじゃあ、なんでアクセス出来ないんだと思う?」

 少し考える素振りを見せるキリエ。

 まあ、頓珍漢な答えを言うのは、目に見えているけど。

「それは…、闇の書のシステムがロックされているからじゃないの?」

 やっぱりね。まあ、無理もないけど。

「違うわ。闇の書の防衛プログラムであるナハトヴァールが、侵入してきたデータですら、

飲み込んでしまうからよ。だから、管理者権限を得る為には、中枢に入り込む必要がある。

それが唯一可能なのは主のみ。でも、なんでそんなところを残しているのかしら?」

 キリエは困惑したように私を見ている。

「答えはね?中枢にある無事な部分こそ、()()()()()()()()()だからよ」

 ナハトヴァールは防衛プログラム。自分で旅は出来ない。中枢を奪ったらそれまで。

 防衛プログラムの主は、自分からは何も出来ない。

 亡霊なんだから、当たり前。

 恨みを抱き、自らプログラムの主となった最初の1人。

 だから、新しい主が必要なのよ。その魔力と命で災いを振り撒く為にね。

 だからこそ、プログラムの主は、中枢を侵食しない。

 餌がなければ、そんなところまで来ないでしょ?

 勿論、大いなる力が手に入るとかっていう話も、餌。

 そういった誘惑に人は弱いもの。

 だから、守護騎士の口から言わせている。

 真実味を持たせる為に。

 大体、こういうものに目が眩む連中は、嘘に敏感なものだから、本当だと思い込んでいるヤツの

口から言わせるの。

 中枢で唯一、干渉されているのは、そういう事なのよ。

 悲惨なラストなんて覚えて警告されても困るしね。

 

 逆に言えば、そこ程安全な場所はないのよ。

 ある程度は、ナハトヴァールが護ってくるんだから。

 だからこそ、()()()()()()()

 

 実はね。主以外にも中枢に行く権利を持つ者がいるのよ。

 ナハトヴァールの設計を行ったアルハザードの塔の血筋を持つ者。

 塔というのは、アルハザードで最も力が強い連中のいる場所。権力者のいる場所ね。

 証明するものはなんでもいい。血液でも、遺伝子情報でもね。

 

 今回、私は遺伝子情報を使って、中枢にウィルスを流し込んだ。

 中枢まで行ってしまえば、ナハトヴァールも手が出せない。

 固まったデータなら兎も角、あちらこちらに貼り付いて断片化していては、ピンポイントに削除

するのは難しい。下手に削除すれば、中枢を形成するデータまで一緒に消してしまうからね。

 そして、時がきたらウィルスは、断片を集めて一斉に目覚め、動き出す。

 

 妨害がなければ、普通に主が取り込まれた後にでも、悠々と干渉すれば解決したんだけどね。

 小細工をチョコチョコしなきゃいけなかったわ。あの化け物の所為でね。

 

 私はその説明を当たり障りのない部分のみ、キリエに説明してあげた。

 

「だから、次は私達の望みが叶う。貴女の望みが叶うのよ!」

 

 見てらっしゃい。私を追い散らして得意になってる小娘に、死と後悔ってものを教えて上げる。

 気の遠くなる程、私は待った。

 もう、十分に待った。私はもう待てない。

 

 

『ねぇ!嘘って言ってよ!!約束したじゃない!!どうして裏切るのよ!!』

 突然だった。いつものように親友のところに行こうとして、私は拘束された。

 他ならぬ、親友の手配で。

『お前がそこまでバカとはな。所詮、他人ではないか。他人なんぞ、信じた自分でも恨め』

 私の腕を掴んでいる1人が言う。

 この世界を変えようって約束した。でも嘘だった。

 最後に見たあの子の後ろ姿を思い出す。無関心に去って行く背中を。

 背を向ける前の顔を思い出す。そこら辺の石ころでも見るような見た事のない表情を。

 

 奪われた。何もかも今までの成果も、時間も何もかも。

 

 

 過去の記憶が過る。

「っ!!!」

 顔が盛大に歪む。止めようがなかった。

「イリス!?どうしたの!?」

 

 虫唾が走る。

 今すぐ消し去りたい。この甘ちゃんを。でも…今は耐えなくてはならない。

「大丈夫。ちょっと、調子が悪かっただけよ」

 暴力的な行動を必死に抑え込む。それには途轍もない労力が必要だった。

 人を心配する耳障りな声に応えるのは、きつい事だった。

 

 私はやっと手に入れる。もう奪われたりしない。騙されたりしない。

 何もかも奪い、破壊したら、この気持ちは楽になる。きっと。

 

「最後の蒐集。その時に闇の書の制御を奪って、守護騎士を生贄に鍵を手に入れましょう」

 騎士は大した戦力ではないけど、うろつかれると面倒。

 今までのセオリー通りに退場して貰いましょう。

 

 

              :キリエ

 

 今夜が最後。それでエルトリアが救われる。お父さんも救われる。

 望み通り。

 でも、私は初めてイリスの言葉に不安を覚えた。

 最後の言葉には、狂気があった。深い絶望があった。

 どうして?もうすぐ私達の望みが叶うのに。

 

 私は、闇の書の主を襲うと告げられた時の事を思い出していた。

 

 

「え!?襲撃するの!?」

 イリスは真顔で頷いた。

「ええ。そろそろ頃合いだと思うの。残りのページ数なら守護騎士を取り込ませれば完成するわ。

もう、管理局の顔色なんて気にしなくていいの。これで私達の目的は叶うのよ!」

 私は闇の書の主に恨みはない。

 アースラにいると現在の主のスタンス…守護騎士の扱いが漏れ聞こえてくる。

 家族のように大切にしている、と。

 いや、あの子にとってあの騎士達は家族なんだ。

 私にとってイリスが大切な友達であるように。ナビゲーターかどのかなんて関係ない。

 イリスを失う事なんて、私は考えられない。

 きっと、闇の書の主も同じだ。

 

「完成してからでも、出来るんでしょ?だったら、無理に守護騎士達をどうにかする必要ない

んじゃないかな…」

 私の躊躇いに、イリスは首を振った。

「キリエ。よく思い出して。エルトリアの状況は、そんなに余裕がある?」

 イリスが私の目を覗き込んでくる。

 吸い込まれるような深い目。

 伝わってくる。私の事を考えて言ってくれている事を。

 

「キリエ。守護騎士達はプログラムよ。今は吸収されたとしても、主が正しく目覚めれば復活する

わ。私達は目覚めを手伝って上げるようなものよ。少し状況を利用するだけ」

 私が主だったら、それでも嫌だけど…。

 確かに、エルトリアは、それ程余裕はない。

「私は、イリスをナビゲーターだなんて思ってないよ」 

「ありがとう。私の友達」

 イリスがそう言って、私を抱擁する。

 

 この時、私はイリスの焦燥を感じていた。

 だから、結果的に賛成した。

 

 短時間で闇の書を奪って、闇の書を完成させ、鍵を取り出す。

 ただ、それだけの筈だった。

 

 何かが私の考えと違い出している。

 こんな時、お姉ちゃんなら…。

 思考にブレーキが掛かる。なんで、お姉ちゃんの事なんて考えたんだろう。裏切り者じゃない。

 

 私はこの事を深く考えなかった。

 

 

              :クロノ

 

 いつもの捕り物で観測される魔力反応とは、違う反応が観測された。

 僕はエイミィのところへ急ぐ。

「エイミィ。捕捉は出来てるか?」

 彼女の城に入るなり、僕はそう訊いた。

「不味いね。場所は現在の夜天の魔導書の主・はやてちゃんの家。勿論、特別チームにも伝わった

と見ていいだろうね。それにこの仮面の男」

 エイミィが映像を出す。

 随分とあからさまに怪しい男だな。

 それにしても、敢えて詳細な場所を探すフリだけにしていたのに、場所を知られているとはね。

 美海が尾行されたとは思えない。なら、どこから漏れた。

 一番有り得そうなのは、事前に調べられていた事。

「それと、ね。問題なのは、魔法を使う方の仮面の男なんだけど…。魔力パターンが読み取れた

んだけど。アリアのだったの」

 エイミィがデータを表示する。

 管理局所属の魔導士は、例外なく魔力パターンを登録している。

 魔力パターンは、遺伝子情報と並んで証拠として採用されるものだ。

 アリアとは、当然、僕の師匠筋に当たるリーゼアリアの事。

「特別チームは、襲撃前に美海ちゃん…じゃなくて、なのはちゃん達に撃破されちゃったから動け

なくて、今、艦長にクレームの真っ最中。魔力パターンの事がバレてるかは分かんないな」

 流石に身内をハッキングする訳には、いかない。

 管理局のシステムを使えば、バレる危険も大きい。

「それは、僕の方にも話がきたよ。代わりに僕らで行けって言われたけど、武装局員は全員怪我

で動けないって言って置いたけどね」

 本当の事だ。

 僕にも出ろと言ってきたが、アミティエ准尉の事で出られないと断った。

 喚き散らされたけどね。

 なのは達がいて、美海までいるんだから、防衛失敗なんて事にはならないだろう。

 だから、こちらは背景の洗い出しに集中しようとした。

「でも、どうしてアリアが…。確かに怪しい動きはしてたみたいだけど」

「いや、違う。これはアリアじゃないよ」

 僕の断言に、エイミィが僕を伺う。

「でも、魔力パターンが…」

「よく映像を見れば分かるだろ?こんな規模の魔法、いくらアリアでも無理だ。それに艦長に

聞いたけど、今、リーゼ達はユーノの手伝いをしてる」

 どちらか一方だけで、交代で手伝ってるらしいけど。

 圧倒的なスピードとパワーで押していた人物からは、ロッテの魔力パターンは検出されて

いない。アリアがロッテ以外のヤツと組むなんてないだろう。

 こんな事をする以上。余程、信頼出来る相手とじゃないと組めない。

 条件をクリア出来るのは、ロッテだけだ。僕を除けば。

 グレアム提督は、現場を離れて長いからないだろうしね。

「それに、アリアが魔力パターンを取られるようなヘマをすると思うか?」

「ああ…、そうだね」

 エイミィも落ち着いたのか、すぐに納得した。

 大方、攪乱目当てで本気でミスリードを狙ってないだろう。

 証拠が出た以上、調べない訳にもいかないからね。

 

「と、なると、怪しい2人組が2組」

 僕が呟く。

 魔力パターンの情報にアクセス出来て、利用出来る立場となると管理局員に絞られる。

 全く関係ない人間が関わってくる可能性は、あまりないだろう。

 ならば、遺失物機動課の2人、フローリアン姉妹となる。

 フローリアン姉妹なら、あの騒ぎはフェイクとなるけどね。

 一番の容疑者は、あの姉妹かな。

 

 映像では、案の定というか当然というか、撃退に成功していた。

 

 今夜にも、闇の書は完成する頃合いだ。一体、このタイミングで仕掛けて来たのは、

どういう事なのか。

 

 何かが起きるかもしれない。僕はそんな気がしていた。

 

 

              :???

 

 とある場所。

 闇の中、声だけが響いていた。

 互いの姿は見えない。

「ふむ。何やら邪なものが紛れ込んできておるな」

 落ち着いた女性の声だが、姿は見えない。

「おお!王様!分かるんだ!凄~いーーー!!」

「止めんか!喧しい!」

 無邪気な大声を、落ち着いた女性が叱り付ける。

「となると、良くも悪くも因果は終わる…という事でしょうか?我が君」

 冷静な声が響く。

「そうなろうな」

 落ち着いた声が肯定する。

 

「取り敢えず、呼び出されれば従わざるを得ん。故に、我は表には出んぞ。この地にて現在の主

を待つ事にする。そこで貴様の出番だ。居候」

 この場で今まで口を開かなかった人物が、ここで応えた。

「分かっていますよ。願わくば、私の想定通りだといいのですが」

 

 長い時間この中にいた3人と違い、この人物は3人に比べれば来たのは、つい最近と言って

よいものだった。

 

 

 




 リニスが使用した技は、雷帝式のオリジナル技です。
 美海が手解きしました。

 美海が今回使用した魔剣。
 頸風剣・オルカーン
 火焔剣・ヴルカーンの2本です。
 炎の技は、紅蓮舞踏となります。
 2本の魔剣を手に入れた経緯については、また今度
 説明させて頂きます。

 これから事態は大きく動いていきます。

 あと、アミタ、今回出せませんでした。次回には必ず
 出しますので、すいません。

 今回、意外にも早く書き上がったので投稿出来ました。
 次回は、ちょっと分かりませんので、保険として、こう
 言わせて下さい。

 次回も気長に待って頂ければ幸いです。

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