魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 もうちょっとで、盛り上がっていく筈です。
 頑張っていこうと思います。

 ※すいません。お知らせし忘れました。
  32話、ご指摘の件で加筆しております。

 では、お願いします。



第37話 道標

              :フェイト

 

 みんなで決めた事を、リンディさんに言わないといけない。

 私は執務室の方ではなく、リンディさんのプライベートルームの方へ向かう。

 アルフも一緒にと言ったけど、これは私が1人で言わないといけない事。

 

 私は1つ深呼吸すると、ドアをノックした。

 今は、待機の時間だという事は確認してるから。

 中から返事が返ってくる。

 

 口の中が緊張で乾いてくる。

 

 ドアがスライドして、リンディさんが顔を出す。

「あら?フェイトさん!どうしたの?」

 私は唾を飲み込むと、思い切って用事がある事を告げた。

 リンディさんは、私の顔をじっと見て、部屋に入れてくれた。

「お茶、飲む?」

「はい。頂きます」

 咄嗟に頷いてしまったけど、クロノのいうリンディ茶じゃないよね?

 緊張していた筈なのに、そんな事を気にしている自分に苦笑いする。

 

 出てきたのは、湯呑に入った普通の緑茶だった。

 キチンとミルクと角砂糖が添えられてたけど。

 取り敢えず、ミルクと角砂糖は見なかった事にした。

 

「それで、お話って?」

 リンディさんは穏やかな表情で、話を促す。

 私は覚悟を決めて、口を開く。

「実は、養子の事なんですけど…。お断りさせて下さい」

 これからやる事は、絶対にリンディさんやクロノに迷惑が掛かる事だ。

 流石に、このまま甘える訳にはいかない。

「理由を聞かせて貰える?」

 リンディさんは、穏やかな表情のままで心の内は分からない。

 私は、リンディさんの顔を見るのが、辛くて下を向いた。

「あの…、別に、リンディさんが嫌とか、そんな失礼な事は考えてなくて…」

「いいのよ。そんな事を誤解したりしてないから、ゆっくりでいいから、聞かせて?」

 この優しさには、まだ慣れない。

 上手く説明出来ないけど、申し訳ないというか後ろめたいというか、そういう感情に近いと

思う。

「私、美海を助けたいんです。形だけでも敵対したくないんです。だって、美海は自分が不利

な立場になるのも構わずに、私の味方でいてくれたから。それが、リニスの望みを叶える為

でも、嬉しかったんです。今度は私が美海の味方でいたいんです。でも、それにはリンディ

さんやクロノに迷惑が掛かってしまうから…」

 喋り出したら止まらなくて、ここまで一気に下を向いたまま、言ってしまった。

 美海は真剣に私と向き合ってくれた。

 ただ、頼まれたからでは、とても出来ないと思う。

 リンディさんに散々よくして貰ったのに、こんな事をいうのは辛いけど、これは譲れなかった。

 

 でも、私の都合にアリシアを巻き込む訳にはいかない。

 図々しくても、アリシアの事は頼まないといけない。

 ガッカリされるかもしれない。呆れられるかもしれない。

 顔を上げたら、それを確認する事になるかもしれない。

 でも、私はそれを見ないといけない。

 私は決心して顔を上げて、ビックリしてしまった。

 リンディさんは、ガッカリするどころか微笑んでいた。

「いい子ね、フェイトさんは。なかなか出来ない事よ。ただ、これだけは言わせて?迷惑を

掛けてもいいのよ。親子になるんだもの。でも、フェイトさんが納得出来るまで保留として

おきましょう」

 リンディさんはそう言うと、私をそっと抱き締めた。

 温かくて思わず泣きそうになった。

 これが愛情なのかは、私にはまだ分からない。

 でも、リンディさんの想いは伝わる。

「ありがとうございます」

 私は、震える声で辛うじてお礼をいった。

 

 だが、次の瞬間、大きな爆発音と衝撃がアースラを襲った。

「フェイトさん!」

 リンディさんの腕が強く私を引き寄せる。

 振動が治まると、リンディさんが口を開く。

「フェイトさん。今度ゆっくり話しましょう。美海さんの件は分かったわ。事前に話してくれて

ありがとう」

 リンディさんは、そう言って微笑むと大急ぎで部屋を出ていった。

 

 一体、何が起きたんだろう?

 私もそれを確かめる為に、立ち上がった。

 

 局員の人に訊いたら、ユーリの護衛だって人の1人が、逃亡を破壊工作を行い逃走したと

聞いた。

 

 

              :キリエ

 

 丁度、待機に入っていた事もあって、ゆっくりしていた時に、爆発音と艦が大きく揺れた。

 お姉ちゃんは、まだ怒っているのか、サッサとどこかへ行ってしまった。

 気楽でいいけどね。最近一緒にいても、煩わしい事の方が多いし。

 

 だからこそ、逸早く行動に移れた。

 お姉ちゃんと一緒ならこうはいかない。

 爆発場所を特定して、走り出す。

 アースラには、まだ沈んで貰っては困るから。

 爆発現場へと踏み込むと、そこには意外な人物がいた。イリスだ。

 お姉ちゃんは知らない事だけど、イリスはデバイスの中にいるが、少しなら実体化して外で

活動出来る。

 実体化といっても、姿が視認出来るようになるだけだけど、力を通して物体に干渉出来る。

 あまり、遠くに離れるのは無理だけど。アースラの艦内くらい問題ない。

 だから、前回の戦いに参加出来ていたんだしね。

 そのイリスが床にヘタリ込んでいた。

「イリス!?どうしたの!?」

 私はイリスに駆け寄った。

 すると、イリスは涙を浮かべて口を開いた。

「アミタが…私を殺そうとしたの…」

 私は衝撃で言葉が出なかった。

 どうして…。

「アミタは…本局上層部の手先になっていたみたい」

「なんですって!?」

 確かに、最近は関係はよくなかった。

 でも、まさか…。

 

「と、兎に角、イリス!隠れて!流石に人がくるよ!」

 人が複数接近してくるのを感じて、私はイリスを急かした。

 イリスは、ショックが大きいのか、いつもより反応が鈍い。

 それでも、人が来る前には姿を消した。

 

 武装局員と整備班が駆け込んでくる。

 私を見て、敬礼するが、視線には警戒が浮かんでいる。

 不審に思われていたのは、失敗だったかもと思わされた。

 私がやったと疑われてるか…。

「艦長に重要なお話があります…。それと、これをやったのは、私ではありませんよ」

 武装局員の1人が頷くと、手で出るように促す。

 私と入れ替わりに、整備班を護衛するように武装局員が突入していく。

 私の傍には4人が残って、取り囲むように連れていかれた。

 

「では、聞かせて貰えますか?」

 リンディ提督が、真剣な表情で私を見ている。

 他の局員と違い、疑うような視線は一切感じさせない。

 私はここに連れて来られるまでに、イリスと打ち合わせした事を話す事にする。

 

「率直に言わせて頂きます。犯人は私の姉です」

 リンディ提督は、目を閉じて息を吐く。

「間違いないのですか?」

 リンディ提督が確認してくる。

 身内を一切庇う様子がない事を、不審に思われたみたいね。

 私は頷いた。

 

 私は、今回の護衛を引き受ける経緯を話し出した。

 

 闇の書発見の報が入った辺りの事だと思う。

 私達は、捜査主任に呼び出しを受け、更に上の管理官の前に引っ張り出された。

 この時、既にイリスの提案に乗った後だった。

 勿論、その事は教えたりしない。

 管理官は、典型的な役人といった感じの男で、神経質な印象だった。

 私達が指揮下に入った事のない人物だ。

 主任が声を掛けても、生返事しか返さずに書類を処理し続けていた。

 主任もいつもの事なのか、気にした様子はない。

 主任は、私達を置いて1人だけ、サッサと帰っていった。

 用事があるのは、向こうだろうに一切こちらを見る様子はない。

「掛けたまえ」

 暫く、立ったまま待機させられて、ようやく一段落したのか、顔を上げて机の前に2つある

椅子に座るように言われた。

 管理官は、新たに書類を引っ張り出す。

「君達には、ある容疑が掛けられている。監察官も動いている」

「「!?」」

 爬虫類のような目が私達を捉えていた。

「ふむ。心当たり有りか」

 管理官は感情の籠らぬ声で、これは困ったと呟いた。

「心当たりなどありません。監察が動いているなどと言われてビックリしただけです」

 お姉ちゃんは、即座に冷静さを取り戻し、弁解した。

 管理官が私の方を見る。

 君は?とでも言いたげな視線に、私は頷いた。

 ふむ、と管理官は頷くと、また書類を捲る。

 こういうのは、データで送られてくるものだ。紙など資源の無駄だと思った。

 わざと紙媒体で用意して、相手に圧力を掛ける手法を使う人間がいると聞いた事があるけど、

この人がそうなのかな。嫌な感じ。

 神経を逆撫でするような、大きな音を立てて書類を捲っている。

「君達が捜査に当たった案件で、ロストロギアを数件ロストしているね?それもエネルギー結晶

タイプのものばかりだ」

「お言葉ですが、私達は遺失物機動課ではありません。事件捜査を任務としています。きちんと

解決はしています。ロストロギアの件は、失態と取られても文句はありませんが、着服したと

疑われるのは心外です。それに、恥を晒すようですが、エネルギー結晶だけではありませんよ」

 お姉ちゃんが、即座に反論する。

 そう、エルトリアの役に、お父さんの役に立ちそうだと思ったものを、着服していた。

 一番は、エネルギー結晶タイプ。

 私達の世界を修復する為には、恐ろしい程の力がいるから。

「そのようだね」

 管理官は淡々とそう言った。

「だが、あちらが証拠もなしに動いていると思うかね?」

「「……」」

 感情がない目で私達を見詰める。

 ロストロギアは、ロストしても仕方がない状況を装っていた。

 だが、甘かったという事か。

 折角、見付けたエルトリアを救う方法。イリスが見付けてくれた方法を実行せずに拘束される

訳にはいかない。私達は、膝に置いた拳を握り締めていた。 

「だが、それは同情の余地のある話だ」

 一転して、管理官が笑顔を向ける。

 だが、目は笑っていなかった。

「エルトリア。君達の故郷が大変な時に、管理局は何も出来ていないのだからね。君達が独自の

道を模索するのも、当然というものだ」

 身売りした甲斐もないだろう、と管理官は嫌な物言いをした。

 内心では私達を見下しているのが、よく分かった。

 それに私達が、罪を認めたような言い方になっている。

 確認は形だけという事だ。

 既に、容疑は固まっているから呼び出したのだ。

 私達は不快感を押し殺して、話をジッと聞く。

「今日は君達に任務を与える為に、呼び出したのだよ。やってくれるかな?」

 事実上の強制だ。

「実は、今回、一級捜索指定のロストロギアである闇の書が発見されてね。管理局は被害を出し

続けている。いい加減片を付けたい」

 ここで、こちらから何か言えば、認めたも同然だ。

 私達は押し黙ったまま、管理官を見る。

 こんな事ってあるのね。私達は、喜色を出さないように気を付けないといかなかった。

「任務は護衛だ。闇の書の封印手段が見付かった。それを実行する為にVIPを呼ぶ。その人物

の護衛をやって貰いたい」

 それを何故、私達がやるのよ。専門の人間がいるでしょ。

「どこにでも、ケチを付ける輩はいるものだ。君達にはそういった輩の排除もやって貰いたい

のだよ」

 私達は、顔色が変わるのを止められなかった。

 つまりは汚れ仕事の強制じゃない!

「その代わり、見事、任務を達成したら、監察に一言口添えしよう。嫌疑不十分という結果が

出るだろう。勿論、()()()()()()()()()()も格段に早く実行に移されるだろう」

 もう移住計画なんていらないのよ。それをこいつ等は知らない。

 私達もまた闇の書を探していた事も。

 私達は本当は嫌だという雰囲気を纏って、今回の件を受けた。

 ここで拒否すれば拘束されただろうけど。

 

 それにしても、凄い偶然だ。これで闇の書に大手を振って近付ける。

 しかも、ある場所は、イリスがあらゆる情報を調べ上げて、見付けた場所。

 永遠結晶(エグザミア)があると推定される地球だ。

 

 私達はこうして表向きは、ユーリ・エーベルヴァインの護衛。裏ではエルトリアを救済する為

にここへやってきたのだ。

 

 イリスは、お姉ちゃんの不審な行動に気付き、監視していたという。

 本局上層部と秘密裏に交信していた現場を、イリスに発見され、凄く驚いたという。

 そして、お姉ちゃんは本局の移住計画が、確実な手段だと思い始めた事を説明した。

 同じ犯罪行為でも、違法行為で罪に問われない方に、方針を変えようとイリスに持ち掛けた

らしい。

 でも、イリスは私の気持ちを汲んで拒否した。

 そして、お姉ちゃんはあろう事か、イリスに刃を向けた。

 結果、イリスの咄嗟の抵抗によりアースラが一部破損し、お姉ちゃんは行方を晦ました。

 

 つまり、罪に問われるのが怖くなったって事ね。いい子なお姉ちゃんらしい理由だと思う。

 

 私は裏側の理由を除いて、本当の事を説明した。

 勿論、話はイリスではなく、私が聞いた事にした。

 そして、私に問い詰められたお姉ちゃんが、暴挙に出た。そう説明した。

 監視システムに関しては、お姉ちゃんが細工していたので問題ない。

 

「つまり、貴女は移住計画の推進に反対という事?」

 リンディ提督は最後まで聞いた後、そう私に訊いてきた。

「いえ。私は最後まで、故郷を救う手段を探したいと思っているだけです」

 リンディ提督は、頷くとアッサリと退室していいと言った。

 

 これで、疑いが晴れたと思うような事はない。

 何しろ、ロストロギアの件を認めたようなものだし、これからもやると言ったようなものだ。

 これからは、マークされるだろうけど、もうすぐだ。

 あとは、時間稼ぎをすればいい。

 

 誰にも邪魔なんてさせない。

 

 

              :リンディ

 

 キリエさんが退出した後、私は溜息を吐いた。

 自分の姉をアッサリと売る発言に、ある意味ロストロギアの着服を認めたような発言もする。

 何を考えてるのかしら。

 監察がうごいているような人間に、護衛の依頼がいった経緯は分かったけど。

 彼女達は、自分達のやった犯罪行為をネタに脅されていたという事だ。

 上層部は、闇の書の早期封印に拘っている、という事だろう。

 私達のような人間の排除を、明確に告げた事から明らかだろう。

 しかも、監察まで黙らせるというのだから。

 

 彼女の後には上層部がいる。

 今、拘束したとしても、邪魔が方々から入るのは目に見えている。

 やるなら、一気に片を付けないと、取りこぼしが出るだろう。

 今は、監視を強化するくらいかしらね。

 

 レティも探りを入れてるみたいだけど、未だに有益な情報はないみたいだし。

 ここから、どうしたものかしら。

 

 これからの事を考えていると、通信が入った。

 出るとウィンドウが開き、グレアム提督の姿が映し出される。

「リンディ。忙しいかい?それなら後にするが」

 何かしら?

 この人もよく分からないわね。

「いえ、大丈夫です。どのような事ですか?」

 グレアム提督は、そうかと呟き、本題に入った。

「実は、今、無限書庫に行っているスクライア氏族の子に、執務官長が調査を依頼したいそう

なんだ。協力して貰えないか、訊いてくれないか?」

 確かに、ユーノ君の調査で闇の書の裏付けは済んでいるけど…。

 ユーノ君は、後片付けにまだ残っている。

 スピード重視で調べて貰ったから、本が散らかっているみたい。

 キント執務官長が?直々にどんな調査をするのかしら。

「どのような調査か、訊いても?」

「それは、彼に直接訊いてくれ」

 ふう。この人も、まだ全て話してくれている訳じゃないみたいね。

「話してはみますが…」

 私は言葉を濁して、ユーノ君次第と告げた。

「彼も分かっているよ。初対面だからね。紹介をお願いしたいと頼まれてね」

 私はユーノ君に紹介する事を承知して、通信を切った。

 

 フェイトさんの件、フローリアン姉妹の件、夜天の魔導書。それに、グレアム提督。

 悩みは尽きない。しかも、続けざまに押し寄せてくる。

 

 私は気を取り直すと、ユーノ君に通信する事にした。

 

 

              :ユーノ

 

 リンディ提督から、偉い人が協力要請に来るかもしれないと、連絡を受けた。

 一応、待っているけど、来る様子はない。

 

 夜天の魔導書の裏付けが、ざっとだけど終わっている。

 あとは偉い人から話を聞いて、協力するか決めるだけだ。

 

 もう、事態は僕の知らない間に、随分進んでいて、もう調べる事もなさそうだった。

 だから、今は待ちながら、後片付けの最中だ。

 本を元の場所に戻していく。

 でも、敢えて言いたい。もう少し整理するべきだよ、ここは。

 本当に片っ端から手に入れた本を詰め込んだ、といった感じだ。

 凄く落ち着かないよ。

 だけど、他人の書庫。勝手に弄る訳にはいかない。

 元の場所は覚えている。サッサと戻していく。

 無心でやっている途中、後の方に置いた本を引き寄せようとした時だった。

 本の横に、人が浮いていた。

「うわっ!!」

 思わず大声を上げてしまった。

 声を上げられた人物は、眉一つ動かさずにジッと僕を見ている。

 役人というより、軍人といった感じの細身だが筋肉質な男だった。

 いや。怖いんですけど。

「あ、あの、もしかして、リンディ提督の言っていた人ですかね?」

 僕は心当たりを口にして、反応を窺う。

「おそらくその通りだ。マックス・キント執務官長だ」

 執務官長って事は、クロノ達執務官の一番頂点にいる人って事だろう。

 確かに、偉い人だ。

 挨拶も握手もない。

「君に頼みたい事があってきた。調査の依頼だ。別に無理な事を頼む気はない」

 そうして貰えると助かります。

「調べてほしいのは、闇の書に消滅も取り込まれもせずに、残る箇所はあるのかどうか。

あるとすれば、どこにあるのか。どういう場所なのかを知りたい」

 え?闇の書の事なの?

「あの事情を伺っても?」

 キント執務官長は、少し考えるような素振りを見せる。

「あ、あの、支障があるなら、別に…」

「そうだな。協力して貰うのだからな。全て話せねばなるまい。その代わり、危険な目に

遭うかもしれないが、覚悟しているというなら、問題あるまい」

 いや、覚悟以前に引き受けてないんですけど。

 

「それでは、全て話そう」

 

 僕は知った。この人、人の話を聞かない人だ。

 そして、判断の余地もなく僕は協力を余儀なくされた。

 

「心配する事はない。護衛兼手伝いは派遣するさ」

 それはどうも。まともな人ですよね?

 そんな心配をするけど、嫌な予感程当たるという法則がある。

「彼女達だ。といっても常に2人共付ける訳にはいかないので、片方どちらかが持ち回り

で、護衛を務める」

 そして、これまた、いつの間に現れたのか2人の女性が浮いていた。

 明らかに猫型の使い魔が人化した人達だよね?

 なんか、目がギラギラしてるんですけど。約1名。

 

「リーゼアリアです。よろしくね」

「リーゼロッテ!よろしく!」

 貴女ですよ。最後の貴女!手がワキワキ動いてますよ!?

 寧ろ、この人が大丈夫なんですか!?

 

 身の危険を感じつつ、再び無限書庫で発掘作業だ。

 なのはや飛鷹に知らせて置かないと。

 帰れないかもしれません。ユーノ。っと。

 

 取り敢えず、歴代主とその周辺人物に的を絞ってやるかな。

 

「にやぁぁぁぁーーーーー!!」

「ぎゃぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 僕はダメかもしれない。

 貴重な時間の筈なのに、暫く屍と化したのだった。

 

 

              :グレアム

 

 スクライア氏族の子には、協力を取り付けたとキント執務官長から連絡があった。

 彼の後で悲鳴が聞こえたような気がするが、大丈夫なんだろうか。

 2人には、あまりふざけないように言って置いた方がいいかもしれない。

「強引な事はしていないだろうね?」

「勿論です。()()()()()()()非常に協力的になってくれまして」

「……」

 偶に彼が使う手だが、気の毒に。押しに弱そうな子だったんだろう。

「私から後で、差し入れでもしておくよ」

「お願い致します」

 平然とそう言うと、彼は通信を切った。

 仕様がないな。

 最大限に()()気を遣うとしよう。注意したとして、改善されるか分からんしな。

 

 私のデスクには、1枚のメモと封印用に造り上げたデバイス・氷結の杖デュランダルが

置かれていた。

 このメモが、クライドの残した置き土産だった。

 

 はやてを救う事を決意して後、私は新たに方法を模索し始めた。

 封印から救済へ。全く別の方法。今まで誰も辿り着けなかったものを、見付ける。

 茨の道でも進まなければならなかった。

 1度、誤った道を進んだ私に、選択肢などない。

 無論、無限書庫にも答えを求めた。

 だが、無限書庫は未整理の状態であり、大規模に人を派遣しなければ、到底発見出来る

か分からなかった。

 現に私が派遣出来るギリギリの人数では、調査が進まない程だった。

 そこで、クライドが行った闇の書調査を当たる事になった。

 言い訳になるが、今まで封印にばかり気を取られていたので、思い出さなかった。

 それに、本局上層部が事故調査と称して、荒らしていった後だった事も原因の1つと言える。

 案の定と言おうか、資料は滅茶苦茶で紛失しているものすらあった。

 だが、資料を調べる過程で、私はおかしな事に気付いた。

 滅茶苦茶にしてあるが、それには規則性が感じられる。

 しかも、紛失した資料は、どれも闇の書そのものに関する考察の部分。

 彼は調査を人任せにせずに、自分でも行う男だった。

 次元航行船の艦長に抜擢されたというのに、仕事を大量に増やす結果になっていた。

 そういった関係で、クライドは調査用の魔法も習得していた。

 調査用の魔法は、かなりマニアックな代物で、考古学者でさえ殆ど習得している者がいない。

 何しろ、魔力を消費しなくても、人を使えばいいと考える人間は多い。

 学者顔負けの熱心さで、クライドは術式を手に入れ習得していた。

 

 もう1度、自分で全て資料を調べる。

 そして、結論として、これは意図して荒らされたものだ。何かを調べていた事を隠蔽する為に。

 闇の書に本局上層部がどんな用があったのか…。

 

 兎に角、私はクライドの残したものを徹底的に調査した。

 関係ないと思えるような事でも。

 それでも、手掛かりとなるものは発見出来なかった。

 

 見落としなく何者かが、処分したのか。

 それとも私の目が節穴なのか。

 そして、最後の資料。

 これは、私が失態を犯した護送任務の引き継ぎの時のものだ。

 捨てられず、私がずっと持っていた物だった。

 本当なら闇の書は、私の艦が護送を担当する筈だった。

 万が一の為に、若者に任せるのは私の主義に反するからだった。

 しかし、クライドは珍しく強引に、その役目は自分がやると言って聞かなかった。

 この時に、私が折れなければ…。

 後悔と共に、資料に目を通していく。

 うん?違和感に眉を顰める。

 別におかしな部分は見当たらない。どこだ。何がおかしい。

 こういう時は、視野を広くして眺める事だ。

 あるものは、引き継ぎ書、指示書の写しが数枚。いずれもクリップで留められている。

 万年筆にバインダーに仕事の覚書が挟まっている。

 

 暫く眺めて、万年筆を手に取る。

 クライドはよくメモを取った。データに入力するより、自分で書いた方が考えが纏まると言って。

 しかし、この万年筆は彼の執務室にあった筈だ。

 この万年筆は、彼が次元航行船の艦長に就任にした記念に、私が送った物だった。

『君は、よくメモを取るだろ?使ってくれ』

 持ち運びに便利なように出来ている物を送った。

『失くすといけないですね。執務室に置く事にします』

 そう言って彼は笑った。

 その言葉の通り、これはずっと彼の執務室にあった筈だった。

 

 私の贈った時と違いがあった。

 紙くらいなら、仕込める隙間があったのだ。

 こんな時代錯誤な物は、見逃されたか。

 疑いを持って調べないと気付けないのだから、仕方がないか。

 いや。この場合幸いだったな。

 

 随分と小さいメモだった。

 慎重に開いてみる。

 

『私が護送中に死んだなら、闇の書に私はいます。話はその時に』

 

 隠されたデータの隠し場所。

 或いは暗号か?

 

 この時の、私には意味までは理解出来なかった。

 だが、その後の調査で闇の書には、変化していないシステムが存在するという事が判明した。

 これが、正解かは分からない。

 もしかして、そこに何かクライドは残す手立てを発見したのか。

 私は知らなければならない。メモの意味を。

 

 私の経験が告げている。この先にはやてを助けるものがあると。

 

 ならば、進むしかあるまい。

 

 

              :美海

 

 今日が最後の蒐集になる筈だ。

 私は授業終了と同時にソッと教室を抜け出す。

『リニス。今日も念の為、よろしくね』

 念話でリニスにはやての護衛を頼む。

 守護騎士が3人残っているが、念には念を入れて、いつも頼んでいる。

『承知しました』

 リニスから返答が返ってくる。

 私は一歩学校から外に踏み出すと、毎度恒例行事が待っていた。

 

 全くどれだけ連れて来てんの?武装局員。

 すぐに復帰出来ないように、骨を圧し折ってやってるんだけど、学校から出ると決まって結界が

張られ、時代劇の浪人みたいにワラワラ出てくる。

 

 面倒くさいな、ホントに。

 

「局員に対する度重なる暴行!許される事ではない!!投降しろ!!」

 本日の指揮官も間抜けらしい。

 さて、今日はラストだし、骨は砕くか。いや、最初からそうすればよかったかな?

 騎士甲冑すら要らない。身体から一瞬で余分な力を抜く。慣れたものだ。

「くっ!掛かれ!!」

 私が呼び掛けに応じず、臨戦態勢にアッサリ入ったのを見て、指揮官が声を上げる。

 この指揮官、分かってないな。

 命令が下されたにも関わらず、局員は私に向かってこない。

 当然だ。

 今まで同僚が同じように襲い掛かって、酷い目に遭っているのは、全員知っている筈だ。

 対策も立てずに、同じやり方されれば部下は嫌になるだろう。

 何より、結果は同僚の状態を見れば一目瞭然。恐怖も覚えるだろう。

「部下は嫌みたいだけど?」

 私は指揮官に言ってやった。

 こんな指揮官の下にいる方々に、同乗する。手加減しないけど。

「どうした!?行け!!」

「貴方が先陣を切れば?」

 私は指揮官の喚き声に、意見してやった。

 が、掛かってくる様子はない。

 

 なら、こっちから行くか。時間の無駄だし。

 

 動こうとして、止めた。

 何故なら、私の後から魔力弾やら雷やらが、局員に撃ち込まれたからだ。

 私に意識を集中していた局員は、不意打ちを受ける事となり、なすすべなく打倒された。

 あの弾幕は、キツイだろうね。安らかに眠れ。

「貴様等!!なんの積もりだ!?」

 指揮官は無事か。だが、ご愁傷様。

「罵倒してくれて、ありがとうよ。これは礼だ!!」

 思いっ切り、頭に剣が振り下ろされる。

 指揮官は、飛鷹君に気付かなかったらしい。お粗末な。

 魔力弾でやられた方が、楽だっただろうに。

 

 後を振り向くと、全員が勢揃いしていた。

「何やってるのかな?」

 折角の気遣いが無駄になったんですけど。感謝がほしくてやった訳じゃないけどさ。

 フェイトが、なのは達に促されて私の前に立つ。

「私は美海の味方でいたいの。形だけでも敵なんて嫌。それに、美海の言う事聞かなきゃいけない

理由もないでしょ?」

 …まあ、そりゃあね。

 恥ずかしい事、言うようになったね、この子。

「でも、いいの?管理局と完全に敵対する事になるよ?」

 気遣いで訊いたのに、全員が笑った。

「あんな連中に、協力なんて出来ねぇよ!罵倒のバリエーションばっか豊富でよ」

「友達を悪く言う人に、協力なんて出来ないよ!」

「フェイトがやるなら、私はなんだって敵に回すよ!」

 飛鷹君、なのは、アルフが口々に言った。

 アルフ。いたんだ。

「ちょっと待ちな!今、気付いただろう!私に!」

 アルフが怒り出した。

 表情に出してないのに、よく分かったね。

 

「美海は言ってくれたよね?納得する事が大事だって」

 確かに言ったけどね。

「もしかして、チャンスをふいにしたかもしれないんだよ?」

「また、掴めばいいよ」

 前向きのセリフに驚く。こうもハッキリ聞くと感慨深い。

「私は美海と対等の友達になりたいんだ。護られてるだけなんて嫌」

 確かに、そこは失礼だったかもしれない。

「だから、言うよ。美海は過去を見過ぎてる。何も護れなかったっていう後悔で生きてる」

「……」

 

 

「護るべき友人も、国民も、部下も、みんな死なせてしまったからね」

 

 思い付いた先から、内政もののラノベでやっていた事を試した。

 ただただ自分が楽に生きる為に。

 詳しく書かれてなくて、実現が厳しいものも、魔法というチートが代替してくれた。

 勿論、手酷い失敗も何度もした。それでも諦めずにやった。

 結果、どの国よりよくなった。

 そう、ここ以外では、生きられないと思わせてしまう程に。

 最後の戦いの時、私はみんなに降伏を勧めた。生きていれば、まだやり直しが利くと思った

からだ。でも、誰も降伏しなかった。付き合わせる積もりなどなかった。

 私の自己満足が、みんなを殺して、自分も殺してしまった。

 私のは自業自得だ。でも、他は違う。もっとやりようはあった筈だった。

 

「分かる…とは言えない。私も、さっき掴むとか言ったけど、正直自信はない。でも、変わりたい

と思う。一緒に変わっていきたいと思う。1人じゃ、自信ないけど、2人ならなんとかなるんじゃ

ないかなって、思うんだ」

 

 逆に諭される時が、こんなに早くくるとか、どれだけ成長してないんだ、私は。

 

「そこまで覚悟されたら、断れないね…。私、今も見てる積もりだったんだけどね」

 参ったと頭を掻く。

「急には変われないよ。じっくりやろうよ。2人で」

「みんなで!!だよ!!」

 なのはが大声で訂正する。

 フェイトは恥ずかしそうに、なのはの言葉に頷いた。

 

「それじゃ、巻き込むからね?後悔しないでよ?」

 

 それじゃ、取り敢えずはやてに協力者として紹介しないとね。

 なんて、考えていた。

 

『美海!八神家が襲撃を受けてます!!』

「っ!!」

 

 凶報が、またしても私に届いた。

 

 

 

 




 クライドさんが万年筆を使っているのは、管理局の人間としては
 珍しいです。ああいう技術水準ですからね。
 紙でなんて殆ど仕事しないでしょう。
 
 そういう意味では、グレアムさん地球人です。

 夜天の魔導書に不変の部分があるのは、間違いないでしょう。
 ですので、今回こんな感じになっております。

 次回、八神家の襲撃経緯から入ります。

 次回も頑張って投稿したいと思います。
 予防線として、時間が掛かるかもしれません。
 気長にお待ち頂ければ…。

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