魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 説明不足との指摘を頂きましたので、少し予定を変えました。
 少しは、今回の話で解消されたと思います。
 残り部分は、どう加えるか考え中です。
 最悪、後の話で入れるかもしれません。

 説明した気になっていた自分にビックリです。
 敢えて語らなかった部分もありましたが、勉強になりました。
 内側からは、分からないものですね。
 分かっていた事ですが…。

 では、お願いします。


第36話 不快

              :美海

 

 今日も今日とて蒐集の日々。

 私は今、掃き溜めの廃棄都市区画に来ています。

 どっから湧いてくんのか、餌がなくならない。

 それを陸士隊の奴等に言ったら、苦り切った顔をして吐き捨てた。

「本局の無責任な対応の所為だ」

 いや、絶対にそれだけじゃないでしょ。

 

 今、目の前の集会会場を見てると、ミッドそのものにも原因がある臭いし。

 夜の闇の中、神々しさでも演出したいのか、ランプみたいな淡い光がポツポツと

配置してある。手配されてる割に、随分と堂々としてるな。

 今回のターゲットは、新興宗教の教祖と幹部連中。

 教祖は、ここまで腐敗臭が匂ってきそうな若い男だった。

 因みに、自称初代聖王の生まれ変わりらしい。勿論、大嘘だけどね。

 宗教団体・聖王の階とかいうらしい。クソみたいな名前だね。

 罪状は拉致監禁に誘拐だそうで。何処も同じ事してるね。

「神は見ておられます!不浄なこの世界を、楽土へと変える時なのです!!」

 神様ねぇ…。そんなもんいるのかね?

 まあ、バルムンクがいるんだから、いるんだろうけど、ベルカじゃ、会った事ないんだよ。

 転生した時、会った連中は役人みたいだったし。チャラいのもいたっけ。

 

 そして、今日の担当は烈火の将。

 コイツは、鉄槌の騎士みたいにネチネチ言ってこない。

 一番遣り易いけど、必要最低限しか喋らない。

 私も喋りたい訳じゃないから、問題ないけどね。 

 

 演説は過激の一言だ。

 私にしてみれば失笑ものだが、信者にとってはカリスマがある指導者なのかね。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で会場を確認する。

 教祖は本人に間違いなし、舞台の下に魔導士が3人潜んでる。奇跡を演出する連中だろう。

 裏手に15人。魔導士は7人。後は非魔導士。

「それじゃ、私が灯りを消す。明かりが消えたら左右から行く」

「分かった」

 私は血液中からシルバーホーンを取り出し、構える。

 私なら灯り全てを1度にポイント出来る。

 私が引き金を引くと、灯りが全て消える。

 同時に、私と烈火の将は左右に分かれて、壇上を目指す。

 舞台袖にスピードを緩めずに突っ込む。

 裏手にいた4人の魔導士が、こっちに走り込んでくる。非魔導士も4人いる。

 だが、一切スピードを緩めずに突っ込んでくる私を見て、全員が驚きで及び腰になった。

 甘い。

 少し傾斜のある魔力の足場を造り、それを空中で姿勢を変えた私が勢いそのままに、蹴り

付ける。これで急な方向転換が可能になる。

 減速しないまま、勢いを付けて一番端にいた魔導士を蹴る。

 ダンプカーにでも跳ね飛ばされたように、蹴られた魔導士が飛ばされていった。

 残り、魔導士3人。

 着地した瞬間に、魔導士の1人が剣を抜いて斬り掛かってくる。

「キィエェエェーー!!」

 勢いを付けて突っ込んで、剣を振り下ろす。

 所謂、渡世人戦法だね。下手な侍より、思い切りがいい渡世人の方が強かったと、どこか

で聞いた事がある。

 だが、それは実戦慣れしてない奴の話だ。

 

 途轍もなく遅い剣を私は余裕で躱し、血液中から剣を取り出し、そのまま振るう。

 胴を一閃され、アッサリと昏倒。残り2人。

 振り抜いた勢いのまま駆け抜ける。

 魔力弾は、狙いが甘く掠りもしない。

 接敵し、剣を振るっていく。

 1人を下から斬り上げるように逆袈裟斬り、2人目を切り上げた剣をそのまま振り下ろし斬る。

 これで、魔導士の始末を完了。

 頼みの魔導士が、すぐに始末されてしまい非魔導士連中が銃を乱射する。

 障壁で銃弾が全て弾かれる。

 非魔導士連中は最早パニックになっている。

 私は、ファランクスの要領で障壁を連中に飛ばす。

 全員が纏めて吹き飛ばされた。

 

 そして、私はシルバーホーンを床に向け、引き金を引く。

 床下から悲鳴が上がる。

 下から襲い掛かろうと接近してきた奴に、雲散霧消(ミストディスパージョン)で肩を撃ち抜いてやったのだ。

 セコイ事する奴等だね。

 

 舞台に入ると、反対側から烈火の将が姿を現した。

 そして、中央には教祖。

 

「神の意志に逆らう反逆の徒めが!!この私が浄化してくれる!!」

 

 聖王に浄化の能力なんてないんだよ。刑務所で歴史の勉強でもしてろ。

 

 

              :シグナム

 

 今回の獲物は未確認だが、AAAランクという話だ。

 いくら数が多いとはいえ、ここら辺で大物を蒐集しておきたいところだ。

 

 共闘の相手は、何やら我等に恨みの有りそうな小娘。

 主の決定とはいえ、正直、信用の出来ない人物だ。

 この小娘は、主が主であるから助けると言っているのではない。

 夜天の魔導書に乞われて、過去の柵か何かを清算する為に協力しているだけだ。

 いざとなれば、主を見捨てるのではないか、という懸念は消えなかった。

 それは守護騎士全員の見解だった。

 それに、向こうだって非友好的だ。それで好意的に接するのは無理だろう。

 取り敢えずは、裏切りの兆候がない限りは協力していくしかないだろう。

 

 ヤツが灯りを消すと同時に、素早く飛び上がり舞台袖へ降り立つ。

 既に剣は抜いている。

 後から斬り掛かってくる魔導士を、素早く剣を一閃させて切り捨てていく。

 勿論、殺さないよう手加減はしている。

 実際、斬っているのは皮膚だけだ。あとは打ち込みの衝撃で気絶させている。

 ヤツの友人のテスタロッサ…に比べれば、気の抜けた攻撃しかしてこない連中を、片っ端

から切り捨てる。

 全員を片付けると、ヤツが反対側から姿を現す。

 

 教祖?とかいう奴が、神がどうの言っている。

 こいつは無知なのだろう。この世に神などいない。

 我等は、ある意味その証拠と言える。

 ヤツのいう事が本当なら、我等は厄災を振り撒く手助けをしている事になるのだから。

 もし、神がいるというなら、我等は既に存在していないだろう。

 主とて、こんな事に巻き込まれなかった筈だ。

 

 ヤツがゆっくり近付きながら、拳銃型のデバイスを構える。床に向けて。

 続けざまに2度、引き金が引かれる。

 床から悲鳴が上がる。

 私も教祖とやらに近付いていく。

 投降を呼びかけようとして、止める。

 教祖から、魔法が放たれる。

 魔力弾などという単純な魔法ではない。

 空間に干渉する魔法である事は、ヤツのような特殊な目を持っていなくても分かる。

 警戒し、身構えようとして気付く。

 身体の動きがおかしい。

「このレアスキルともいうべき魔法が、私が神に選ばれた者の証なのです」

 傲慢なセリフに、狂気に染まった顔。

 幾度も見た事のある嫌な顔だ。

 思い上がり、勘違いした挙句に増長した人間の顔。

「この魔法は、周りの速度を思い通りに変えられるのですよ!素晴らしいでしょ!?どんな

強者も、この魔法の前には無力です!!」

 こちらが碌に動けない事をいい事に、余裕な態度で演説を続ける。

「管理局は、まだこんな愚かな事を続けているのです!!」

 パニックに陥っていた信者が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 灯りが再び灯される。

「さあ!皆さん!!新たな世界を作ろうじゃありませんか!!」

 信者が歓声を上げる。

 

 が、突然、教祖の脚から血が噴き出した。

 

「ぎゃぁあぁぁぁーー!!」

 堪らずに教祖が倒れる。

 魔法の効果が切れて、身体に自由が戻った。

 教祖は痛みで、のたうち回っている。

「どうした?神様が余所見でもしたか?」

 ヤツが拳銃を構えた姿勢のまま、冷ややかに言った。大して大きな声ではないのに、会場

全体に声が届いたように感じた。

「ど、どうして!?なんで動けるんだ!?俺に出来る最大の遅さにしたんだぞ!!」

「アホか。これだけやってれば、無敵。そんなものないんだよ。勉強になったな?」

 魔法の無効化は、ヤツの十八番だったか。協力関係になってから、幾度もそれは目にして

いた。それなら私にも使ってほしかったものだ。

 教祖は理解出来ずに、混乱したままだった。話を聞いていたかも疑問だ。

 混乱から怒りへと、感情が切り替わっていくのが分かる。

 教祖が血を流しながら立ち上がる。

 目が血走っている。

「許さんぞぉ!!天から選ばれた俺にぃ、こんな事をぉぉぉーーー!!」

 魔力で剣を造り出す。

 AAAという話は、嘘という訳ではないようだ。

 喚き散らして、ヤツに突っ込んでいく。

 次の瞬間には、ヤツが霞むように消え、私の目の前にいた。

 いつの間にか剣を構えた姿勢で。

「閃光刹那。自称聖王。これが本来の聖王の剣だ」

 教祖の手から魔力が霧散し、倒れ込んだ。信者から悲鳴が上がる。

 

 この剣は!?剣の館の剣技!!

 まさに閃光の如く、神速の突き技。

 どこかで見た事がある筈だ。

 剣の館の剣技は、広く学ぶ者がいた。聖王家の剣技指南も務める程だ。

 ベルカでマスターを得た事は、何度かあった筈だが、記憶にあるどの使い手も凌駕している。

 これ程の腕前の人間となると…限られる。

 

 教祖が倒されると、信者が騒ぎ始める。

 呆れた事に、まだ教祖・自称聖王を慕っているらしい。

 何を思ったのか、ヤツがツカツカと舞台の教祖をバインドで拘束した後、信者に向き

直り会場を睥睨する。それだけで声が小さくなり、やがて消えてしまった。

 特に殺気を放った訳でも、闘気を出した訳でもない。

 だが、ヤジを言う事など許さない空気があった。

「この男は聖王ではない!!聖者でもない!!人に斬り掛かる時の顔を見たか!?あの声を

聞いたか!?聖者があんな歪んだ顔をするか!!聖者があんな下劣な声を出すか!!事実を

視ろ!!皆、気付いている筈だ!!この男が、ただの詐欺師だと!!」

 蒼い光が漏れているのが、見える。

 あの光は…!?

 会場の誰一人として、声を上げない。

 言うだけ言って、ヤツがこちらに近付いてくる。

 

「それじゃ、どうぞ」

 ヤツはそう言うと、サッサと会場を出ていった。

 

 私は、信じられない思いで、闇の書に蒐集を命じた。

 

 

              :美海

 

 全く、不愉快な仕事だね。

『バルムンク。遣り過ぎだ』

 私は念話で聖剣に文句を言った。

 最後の蒼い光。聖剣の輝きだ。知らない人間にも感じられた筈だ。聖なる気配を。

 あの光は実際には、私を護り強化し、斬ったものを滅ぼす光だ。

 聖なるものとは程遠いにも関わらず、聖剣の名に恥じぬ神聖な気配を放つのだ。

『ふん。我があのような下郎を選んだ事があるなどと、思われたら堪らぬ』

 仕様がない剣だ。

 初代とは色々あったようだし、思うところがあったんだろうけどね。

『それよりよいのか?』

『何が?』

『あの下郎の魔法を夜天にやってしまって』

 ああ、その事か。対抗手段はあるんだからいいよ。別に。

『大丈夫でしょ』

 それで納得したのか、なんなのか分からないが、バルムンクはそれっきり黙った。

 

 暫く、待つと烈火の将がこちらにやってきた。

「蒐集は終わった」

 言葉少なく、烈火の将が言った。

「それじゃ、戻るか…」

 烈火の将は、突然、言葉を切った私に不審そうな顔をする。

 私は何も説明せずに、剣を一閃した。

「ッ!!」

 怪しい仮面男が、姿を消して潜んでいたのだ。

 剣は仮面男の首ギリギリで止められている。

「背後から忍び寄って、何をする積もりだった?」

 仮面男は慎重に私から距離を取る。

 だが、私は剣を突き付けたままだ。

 烈火の将も剣は既に抜いていた。

「待て。これを見ろ」

 仮面男が掌を開くと、幾つかリンカーコアが光っていた。

 私は目を細めて、仮面男を睨む。

「勘違いするな。そこら辺にいたゴミから徴収しただけだ」

 ゴミねぇ。

 私は烈火の将に目配せすると、意外に素直に頷いた。

 烈火の将が警戒しつつ、リンカーコアを受け取ると、夜天の魔導書に蒐集する。

「今度やったら、命の保証はないよ?」

 うっかり叩き斬ってしまうかもしれないからね。

「心しておこう」

 仮面男が気取った口調でそう言った。

 残念。平静を装っても動揺しているのは、バレバレなのさ。

 

 仮面男は、こちらを警戒しつつバックステップで距離を取ると、姿を消した。

 

「あの男の目的を、訊き出さなくていいのか?」

 姿が消えた後、烈火の将が訊いてきた。

「素直に話すとでも?」

 烈火の将が溜息を吐く。

「話さないだろうな」

 そういう事だよ。

 捕まえるって選択肢もあるけど、あの突然消える方法を使われると、第六感だけじゃ

見付けるのは、骨なんだよ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使えば、簡単かもしれないけど、こんな場所で隙だらけになるのは、勘弁して貰いたいしねぇ。

 

 私達は、今日の蒐集を終えてミッドを後にした。

 

 

              :はやて

 

 少しづつやけど、コツみたいなもんが見えてきた。

 希望の光が見えてきたで!

 ただ、突然に侵食が早まる可能性もあるから、油断は出来ないんやて。

 浸食されると、もっと魔法を使うのが困難になる。

 使える回数だって当然減る。

 出来れば、これ以上の浸食が始まる前に、夜天の魔導書を完成させたいって言うとった。

 

 今日は褒められたんやで?

 あの鬼教官・美海ちゃんがやで?

 魔法式を曲がりなりにも構築出来た時は、気分がよかったわ。

 

 蒐集も順調らしい。複雑な気分や。

 それにしても、美海ちゃんとシグナム達の仲の悪さは、どうにかならんのやろか?

 これも時間が掛かるんやろうな。

 

 シグナムが神妙な顔で、ミッドから戻ってきた。

 収集が終わると、美海ちゃんは流石に家に帰るので、おらんかった。

「どのくらいいったんだ?」

 ヴィータが、シグナムに蒐集の進み具合を訊いた。

「今日、大物を食ったからな。500は越えた」

 シグナムが淡々と答えた。

「うっし!もうちょっとだな!サッサと完成させちまおうぜ!」

 ヴィータの顔に、久しぶりの笑顔が浮かぶ。

 ずっと、蒐集をやっとる間は、張り詰めとったからな。

 シャマルも、どこかホッとしたみたいやった。

 普段、感情を表に出さんザフィーラも、狼形態のまま頷く仕草を見せとったのに、シグナムの

表情に変化があらへんかった。

 なんかあったんやろか?

「シグナム。なんかあったんか?」

「ええ、まあ、取り敢えず後で、お話致します」

 シグナムは、答えると奥へ入って行った。

 

 夕食は、出来るだけみんな揃って食べる。

 私に黙って蒐集しとった時は、出来へんかったけど、今は蒐集が終わった後に、みんなで

食べとる。

「別に、揉めた訳ではありません。御安心下さい」

 私が心配しとるのに気付いたのか、シグナムが開口一番にそう言うた。

 うん。一安心や。

 でも、他のみんなは、じゃあなんだ?っと言わんばかりにシグナムを見とる。

「誰か。この中で剣王に関わった事があるか、覚えている者はいるか?」

 シグナムが、真剣な表情でみんなに訊いた。

 剣王?って誰?

 ヴィータとシャマルは、首を横に振る。

 ザフィーラが狼形態やのに、ハッキリと苦い表情をしとった。

「ザフィーラ。覚えているのか?」

「つまり、あの少女が剣王の記憶を持った人間、という事でいいのか?」

 シグナムの問いに、ザフィーラは答える前に、確認した。

「「っ!!」」

 ザフィーラの言葉に、ヴィータとシャマルが驚く。

「つまり、我等は関わった事がある、という事か?」

 シグナムの言葉にザフィーラは頷いた。

「そこまで記憶が鮮明、という訳ではないが、主であった人物の1人が剣王の友だったと記憶

している」

 自分達はあまり関わらなかったから、技能だけでは剣王さんと結び付けられんかったって、

ザフィーラが零した。

 大人が子供になっとった訳やからね。

「「「……」」」 

 みんながザフィーラの言葉に顔を顰めた。

 

「あのな。言い難いんやけど。話に付いていけてないやけど?」

 私の言葉に、全員があっ…って感じになった。

 忘れんといて貰えるかな?流石にキツイで…。

 

 代表してシグナムが説明してくれた。

 剣王は、ベルカの王様の1人で、その名の通り剣に長けた人やったんやて。

 剣の館っていうとこの、剣技を学んどったそうやけど、独自の発展をさせた天才。

 剣に対する伝承が多い所為で、他の固有の技術はあまり有名やなかった事も、気付かなかった

原因の1つみたいや。

 何本もの聖剣・魔剣を所持しとって、単身で国の軍隊と戦えた…って、どこのアニメキャラ

やねん!!

 それで、数え切れない程の武功を上げた人やったらしい。

 武功だけやなくて、内政も頑張っとって武だけの人やなかったとか。

 物凄く国民を大切にしとった人らしい。

 でも、歴史書では聖王さん…ベルカを統一した王様に疎まれた所為で、ボロクソに書かれとる

らしい。

 

 で、その剣王さんの記憶を、美海ちゃんが引き継いどる?っちゅう事らしい。

 なんか美海ちゃんが、同年代に見えんのってそれが原因なんか…。

 前世の記憶があるみたいなもんやろか?

 

 それで、美海ちゃんがシグナム達を嫌う理由。

「彼女の言が正しければ、死んだのだろうな。夜天の魔導書の呪いによって」

 ザフィーラの言葉が、部屋に冷たく響いた。

 やっぱり、美海ちゃんは大切な人を亡くしとったんやね。

 その時のシグナム達は、私が初めて会った時より、事務的やったみたいや。

 いっそ、システムという言葉がピッタリなくらいやったそうや。

「私の記憶でも、横暴な主ではなかった…と思う。何故、今の主にだけ、と思うのも理解は

出来る」

 そうザフィーラは締め括った。

 

 ヴィータがフンと鼻を鳴らした。

「それだって、アタシ等の事情無視してんじゃねぇか!事が終わるまでは、警戒しときゃいいん

じゃねぇか」

 ヴィータはそう言うと、サッサと部屋を出ていってしもうた。

 残った大人組は、複雑そうやね。

 警戒の部分には、賛同してたみたいやけど。

 

 でも、多分、美海ちゃんはやり遂げると思う。

 人柄がいうんやない。美海ちゃんは、出来ん事は言わん気がするからや。

 何より、大切な人の想いを美海ちゃんは、大切にしとる。

 だから、私は美海ちゃんを信用しとるんや。

 

 シグナム達と美海ちゃんが和解出来るように、橋渡し出来たらええな。

 このままお互いを嫌い合っとるんは、悲しいやろ。

 きっと、美海ちゃんの大切な人も喜ばんと思う。

 

 そんな事を私は考えていた。

 

 

              :アミティエ

 

 秘密裏に父さんと連絡を取る必要がある。

 それには、普段通りにしておかないといけない。

 幸い…というと変だが、キリエとの仲は芳しくないので、口を利かなくても特に問題はない。

 イリスも、あれ以来出歩いていないようだ。

 

 エルトリアの一時避難所に繋げられる通信手段を探す。

 その間の仕事にも、力が入らない。

 危険地帯での護衛でなくて良かった。

 そうでなければ、取り返しのつかない事になっていただろう。

 

 どうにか、アースラに独立した緊急通信設備がある事が分かった。

 メインシステムを経由しないのもいい。

 

 私は遺失物機動3課の2人に引継ぎを行うと、まだ腹を立てているフリをして、サッサと

キリエの傍から離れる。キリエも何も言わなかった。

 寂しいと今更ながら、感じる。

 キリエは、私の言葉を信じないだろう。

 だから、1人でやらないといけない。

 

 あまり得意分野じゃないけど、ロックされたドアのバスワードを探る。

 アースラの監視装置に見付かっていないかも、並行して警戒する。

 人が滅多に訪れない場所とはいえ、急がないといけない。

 私達は不審に思われているのだから。

 パスワードを解析して、ようやく解錠した。

 素早く、部屋の中に身体を滑り込ませる。

『ヴァリアントザッパー。監視カメラは大丈夫ですか?』

 ヴァリアントザッパーに確認する。

『問題はありません。ただし、泳がされている可能性を示唆致します』

『……』

 ここまで、逸脱行動をしているにも関わらず、アクションがない。

 その可能性は高そうですね。

 でも、私が拘束されるような事態になろうとも、父さんに知らせないと。

『引き続き、監視をお願いします』

『了解』

 ヴァリアントザッパーが、淡々とした返事を返す。

 

 通信コードと通信先を入力していく。

 通信を繋いでいる最中である事を、示す表示が出る。

 早く、早く。

 祈るように待つ。

 

 そして、通信が繋がる。映像は送れないタイプの為、声だけだ。

『ん?何方かな?』

 丁度、父さんが通信に出てくれた。

「父さん!アミティエです」

『!?アミタ!どうしたんだい!?』

 私は前置きなしに本題に入る。

「実は!…」

『どうしたんだい・どうしたんだい・どうしたんだい・ど・どう・どうした

んだい・どどどどどど』

「父さん!?」

 まるで壊れたレコーダーみたいになっている。

 向こうの通信機の不調!?

 エルトリアで何かあったのですか!?

『どうし………い~けないんだ~。仕事サボってこんな事しちゃ』

 背筋に悪寒が走る。

 

 イリス。何故!?

 

 聞こえてくるのは、確かにイリスの声。。

「イリス。どういう事ですか?」

 気を抜くと、声が震えそうになる。 

『どういう?こっちのセリフだよ~。何やってるの?』

 察知されていた!?

 相手はナビゲーターではない。正体不明の存在だ。認識を改めなくてならない。

「もう…知っているのではないんですか?」

 

「うん。まあね」

 背後から声が突然聞こえた。

 身体が逸早く反応する。

 大きくその場から飛び退く。

 そこには、イリスが立っていた。

 通信に割り込んだ!?それだけ!?

「お父さんに、通信しようとしたみたいだけど、無駄だよ?」

「貴女が妨害しているからですか?」

 呆れた表情で首を振る。

「違う違う。さて、ここで問題です。貴女がお父さんと直接会ったのは、何時?」

 スッと身体が冷えるのを感じた。

 直接会ったのは、随分前だ。父さんが体調を崩す前…。

 

 

 何故…今まで気付かなかったの!?

 こんな大切な事を忘れるなんて…。

 父さんは、エルトリアに蔓延した死病に侵されてしまったんだ…。

 それでも、無理して研究をしていた。

 遂に、無理が祟って寝たきりになってしまった。

 

 計画に賛成するなんて出来る筈ない!!

 

「父さんは、どうしたんですか!?」

 私はイリスにヴァリアントザッパーを突き付ける。

「今も寝てるんじゃない?もしかして…死んじゃってるかもしれないけど」

 イリスがニッコリと笑って言った。

 

 頭に血が上るのが分かる。

「ヴァリアント!!」

 一瞬にして装甲が私を包む。

 ヴァリアントザッパーを構えて、イリスに斬り掛かる。

「そう。それが出来る貴女は、キリエより優秀よ?」

 イリスが歌うように言う。

「でも、残念!さよなら。アミタ」

 イリスの手から赤黒い塊が放たれる。

 

 何!?この力は!?

 

 凄まじい衝撃と共に、私の意識が薄れていった。

 

 父さん…キリエ…ごめんな…さい。待ってて。必ず助けるから……。

 

 

              :イレイン

 

 ちっ!あのサド女。今日も容赦なく投げやがって。

 背中が痛てぇ。

 とっくに深夜と呼べる時間に、忍の屋敷をうろついているのには訳がある。

 夜にまで研修なんぞさせられてたんだよ。

『覚えが悪いのですから、仕様がないでしょう。言葉遣いの修正は急務ですよ』

 顔色一つ変えずに、そんな事を言いやがった。

 アタシ等は、戦ってなんぼだろうが。全くよ。

 

 それなのに、メイドなんてやってる奴にポンポン投げられてりゃ、世話ねぇか。

 

 らしくない溜息を吐いちまうよ。

 兵装が没収されてなきゃ…いや、止めとくか。接近戦じゃ勝てねぇって言ってるような

もんだからな。

 

 イライラと自室に向かっていると、外に何か降ってくるような気配を感じる。

 窓に近付いていくと。

 衝突音。

 そして、土煙が上がってやがる!

 扉が開く音が複数する。

 私はイライラしてた事もあって、素早く窓を開けて外に飛び出す。

 ストレス発散だぜ。

 顔がニヤリと笑ってしまう。侵入者なら問答無用だろう?

 なんせ、ここは女しかいねぇしよ。

 

 一番早く到着した。

 土煙越しに気配を探る。

 物じゃねぇ事は確かだ。アタシ等の感覚を誤魔化す事は出来ねぇよ。

 落ちて来たのは人だ。

 

 だが、動く気配はねぇ。なんだ、もう降参かよ?っと思ってたが、違うと気付いた。

 こいつは既にボロボロだった。

 大怪我だな、こりゃ。かなりの高度から落ちたんだろうから当然だろうけどな。

 アタシはそいつに近付いていった。

 死んでねぇみたいだしな。普通の人間じゃねぇだろう。警戒は怠らない。

 

 近付いてみてビックリだ。

 

 こいつ。アタシ等と同類なのか!?

 生体部品っぽいもんが、色々と飛び出してやがった。

 

 ノエルやファリンの奴も駆け付けてくる。

「何事ですか?」

「飛行機の部品でも落ちたんですか!?」

 ノエルの冷静な声とは逆に、ファリンの奴はアホな事を訊いてくる。

 アタシは無言で顎をしゃくってやった。

 ノエルの拳骨が頭に落ちた。

 

 だが、それを目にすると流石の鉄仮面にも罅が入った。

「これは…」

「ああ。ここは我らが、ご主人様の出番らしいぜ?」

 

 地面には軽くクレーターが出来て、中心には女が倒れていた。

 銃剣みたいな武器と一緒にな。

 

 さて、こいつは退屈しのぎになる事かな?

 

 




 これが終わったら、修正を考えます。
 フェイトのあれこれとか、ユーノのあれこれとか、グレアムさんのあれこれ
 とかは、次回にぶち込めるだけいきたいと思います。

 使い魔さん達が影薄いですから、そろそろ出したいんですけどね。
 
 次回投稿は、かなり遅れる可能性が高いので、ご了承頂ければと思います。
 

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