魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 そろそろ事態を動かそうとしています。
 悪戦苦闘中です。

 では、お願いします。


第35話 行動

             :美海

 

 ミッドチルダに来ています。

 廃棄都市区画にいる連中を狩り出している。

 陸士隊に協力を申し出て、今日も蒐集を行う。

 今日の当番は、鉄槌の騎士。

「おい。こんな事してて大丈夫なのかよ!?ぜってぇ何か裏あるだろ!!」

 五月蠅い。裏?あるだろうよ、それは。

「罪にも問われないで蒐集出来るの、ここだけなんだから仕方ないだろ」

 余計な罪を背負い込む必要はない。

 本局の狙いと、地上本部の狙いは別だから、こうなったのは明らかだ。

 だが、地上の犯罪者食い放題は魅力的でしょ。体よく使われてるけど。

「雑魚ばっかじゃねぇか」

「その代わり数は多いでしょうが」

 偶にAAクラスもいるし、悪い狩場じゃない。

 噂じゃ、AAAもいるって話だし。なのは達狩るよりマシだと思うよ。

 手間も心も。

 

 文句は言えないけど、廃棄都市区画なんて犯罪者の溜まり場になるような所を、

放置するのはどうかと思うけどね。

 

 で、指定された場所を監視出来る場所に陣取る。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で建物を確認する。

 入り口に5人。階段を上り切った場所にそれぞれ2人。各階の部屋に5・6人が

いる。そして、建物の中央の部屋に3人。魔力反応から手配されてる奴だろう。

 それを鉄槌の騎士に伝える。

「オメェのそれ。反則だな」

 忌々しそうに吐き捨てる鉄槌の騎士。

 これに頼り切りにならないようにならないように、気を付けているんだよ。

 前にどれだけ苦労したか、分からないだろうが。

「まずは、アンタが屋上から突入。私は少し遅れて正面から行く」

「アタシを囮にしようってか」

 ああ言えばこう言う。

「アンタは戦い方が派手でしょうが。目立つ方がいいと思ったんだけど?気に入らないなら、

私が屋上から行くよ?」

 ムッと黙り込む鉄槌の騎士。

 私もサッサと終わらせたい、この協力関係。ストレス溜まるわ。

 隔離結界を展開する。

 

 一応、陸士隊に待機して貰い。

 鉄槌の騎士に突入させる。

 屋上の扉が破られる。ここまで音が聞こえる。

 銃撃の音が聞こえる。

 さて、そろそろ行きますか。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認すると、手配されている3人が下の階に撤退している最中だ。

 私も正面の扉を開けて中に入り込む。

 入り口の5人は上階に気を取られていて、私の侵入に気付いていない。

 突然の襲撃で棒立ちになっているようだ。所詮はチンピラだわね。

 

 コイツ等はプロじゃない。一度退却してから反撃なんてしない。遠慮なく逃げるんだわ。

 だから、最初に逃げ場を塞いでやんないといけない。

 鉄槌の騎士に恐れをなして、慌てて下に下りてくる奴等を私が始末して、挟撃する。

 更にパニックを起こすという訳だ。

 ま、囮作戦には違いない。効果的なんだからいいでしょ。

 

 遠慮なく後から襲い掛かる。

 剣も抜かずに素手で接近。

 手刀で全員を昏倒させ、段階を上る。階段の上にいる2人に気付かれた。

 が、遅い。

 素早く拳を叩き込み2人は何も出来ずに倒れた。

 鉄槌の騎士が派手に暴れ回っているから、注意力散漫で倒すの楽だわ。

 上階へ上がる頃には、相手が挟撃を受けている事に気付くが、遅い。

 あっと言う間に鉄槌の騎士と合流する。

「な、なんだ!!テメェ等!!俺を誰だと…」

「誰でもいいよ。そんなもん。リンカーコア寄こせ」

「お疲れ」

 鉄槌の騎士と私が、手配された奴の1人の言葉を遮る。

 1人は戦槌の一撃で吹き飛び。1人は私の拳で黙らせた。剣なんか使うまでもない。

 そして、逃げようとする最後の1人。

 私と鉄槌の騎士の、二方向からの攻撃で昏倒した。

「チッ!私がやろうと思ったのによ」

 鉄槌の騎士の憎まれ口に、辟易する。

 あー。さいですか。

「それじゃ、どうぞ」

 私は蒐集を済ませるように、鉄槌の騎士を促した。

 

「や…夜天の書。蒐集」

『蒐集』

 倒れている奴等のリンカーコアを頂く。

 ごちそうさまでした。

 

 後は陸士隊にお任せ。

「それじゃ、頼んだよ」

「協力に感謝する。本局の連中が来る前に撤退する事を勧める」

 管轄違いだろうに、本局来てんの?

 大して感謝していないであろう言葉に、私は適当に手を振って応えた。

 

 お言葉通り、サッサと離れる。

 

 鉄槌の騎士は、夜天の魔導書をパラパラやっていた。

 貯金箱を振る子供の図だね。

 物騒な貯金箱だけど。

「あと、どれくらい?」

「半分越えたけど、遅せぇな」

 それでも、コソコソ世界変えながらハンティングするより、早いでしょうが。

 もう言わないけどね。

「戻るよ」

 

 まあ、向こうでも本局が目を光らせてるんだけどね。

 

 

             :はやて

 

 蒐集を再開して1週間。

 ページは増えてるらしいんやけど…。

 その代わり、私の時間もなくなってくるんや。

 

「だから、魔法式の構築段階で間違いがあるよ」

 美海ちゃんの指が私の脇腹に突き刺さる。

 も、もうちょいお手柔らかに、お願い出来ないやろか。

 魔力運用を午前中にやって、午後に美海ちゃんが学校終わったら、魔法の訓練。

 美海ちゃんは、騎士達の誰かと夜にミッドチルダに蒐集へ行く。

 これが、ここのところのローテーションや。

 私より美海ちゃんの方が大変なんやから、弱音吐く訳にいかん。

 けど、キツイわ。

「キッチリ魔法式を展開出来ないと、定義破綻で発動しないよ」

 分かっとるんやけどね?

「それに防衛プログラムの抵抗が、どんなものになるか分からないからね。自衛手段

を確保しておかないと、失敗するよ?」

 何度も聞いとるけどね。私が成功しいないと話にならん。

 美海ちゃんが、アレンジするところまでいかんとな。

 アクセスする時は、精神世界?みたいなとこらしいんやけど、妨害を跳ね除けて、

管理者権限を取り戻さんとあかん。

 妨害は恐怖で縛るか、幸福感に浸らせるか、その時になってみんと分からん。

 精神世界なら、死んでもええっちゅう事にはならんのやて。

 私が死んだと思えば死ぬって、怖い話やわ。

 そうならん為にも、魔法の訓練や。防御と攻撃の各1つ。

 

 それが難しいどころちゃうねん!

 

 普通はデバイスで補助して貰えるらしいんやけど、私は精神世界に行くんやし、

そんなん持っていけへん。必然的に自前で使わなあかん。

 でも、今まで魔法に関わってこなかったんよ。

 頭、パンクしそうやわ。

 私のリンカーコアは、夜天の魔導書の中に格納されとるらしいけど、格納されとる

だけで、魔法は使えるんやて。

 私のリンカーコアも侵食されとるから、魔力運用と魔法式の構築をキチンとやらん

と、発動すらせんらしい。しかも、無駄弾も侵食されとるからなしや。

 だから、こうして訓練中や。

「いっその事、洗脳技術の応用で脳に魔法式を刻み込む?」

「頑張らせて貰います!!」

 そんな怖い事するくらいなら、頑張りますぅ!!

 ギリギリまで、やるよ!いざとなったら、嫌やけど、お願いします。

「それじゃ、もう1回最初から行ってみよう」

「了解しました!」

 

 みんな頑張っとるんや。私も頑張らんとあかんやろ。

 

 私は気合を入れ直して、魔法式の構築を開始した。

 

 

             :フェイト

 

 海鳴臨海公園へは、私達は行けなかった。

 私達は管理局員じゃない。ただの現地協力者だからって。

 リンディさんは、知り合いと敵対するような現場には居辛いだろうと、配慮してくれた

からだ。

 私達は、それに甘えた。

 実際は、美海達に間接的に協力するけど、私達が管理局側にいるのは動かせない。

 臨海公園では、管理局の立場とはやての意思確認のみの筈だった。

 でも、本局はアースラとは別の特別チームを編成して、美海達に襲い掛かった。

 その場にいたら、私は美海達に協力していたと思う。

 そんな事をしたら、リンディさん達に迷惑が掛かった。

 だから、行かなくて正解だったんだ。

 ずっと、無理矢理そう思っている。

 

 襲い掛かった局員は、全員氷漬けにされてしまったそうだ。

 幸い殺されていなかった為、今、解凍しているらしい。

 クロノが苦い表情で、教えてくれた。

 解凍すれば、また働けるって。

「手加減はしてくれたんでしょうね。敢えて、派手に敵対する事で、私達でも容赦はしない

というメッセージを上層部に伝えたんでしょう」

 それが、リンディさんの意見だった。

 それを証明するように、美海は翌日からなのは達のグループから抜けた。

 放課後も、気付けば姿を消している。

 こちらの警察は、管理局の捜査は認めたけど、無関係の人間を巻き込む事は許さない方針

みたいだ。だから、学校にいる間は、結界で隔離して突入という手段は取れないみたい。

 一種の中立地帯になっている。

 勿論、強硬に美海を逮捕して、夜天の魔導書を即時封印したい本局は、現地の警察に抗議

したみたいだけど、子供が僅かでも巻き込まれる可能性がある場所での、行動は断固として

認めないと申し渡したんだって。

 今のところ、それは守られている。

 何しろ、学校から美海が姿を消した直後、結界が構築されて、すぐに解除される事が多い。

 短時間で返り討ちにされてるんだよね、これ。

 学校帰りに美海を襲撃しているのは、解凍中の人達じゃない方の局員だけど、腕前は解凍中

の人達より劣るみたい。

 美海はミッドチルダの方で、蒐集を継続している。

 地上本部は、非協力的で情報も提供しないらしい。

 

 そして、昼休み。

 美海は、何処かで1人でお弁当を食べている。

 少し前まで、一緒に食べてたのに。

 クラスメイトも流石におかしいと感じたのか、色々と訊かれる。

 無難にケンカ中という事にしてるけど。

「ねぇ。これでいいのかな?」

 私がポツリと呟く。

 本局の特別チームの人達は、正直なところ好きになれない。

 私達にも、美海の背後から襲い掛かれとか言ったり、学校で拘束出来ないのかとか、

嫌な事を言ってくる。

 その度に、飛鷹が笑顔で気が付いたらいなくなってて、と言い放っている。

 悪びれのない態度が、腹立たしいみたいで、飛鷹が1人で罵倒されている。

 そもそも私達は、嘱託魔導士ですらない現地協力者だ。

 そんな文句を言われる謂れはない。

「アイツ等、リンディさんにも無茶言ってるらしいな」

 飛鷹も顔を顰めている。

「あのユーリちゃんにも、遅いって文句言ってるって」

 なのはも流石に不機嫌そうだった。

 なのはが不機嫌なのは、飛鷹の1件が大きいだろうけど。

「それで作業の邪魔になってんだから、世話ねぇだろ」

 飛鷹が皮肉を言う。

「私もフェイトちゃんと同じ気持ちだよ。今回は、管理局の…本局?の人達が間違ってる

と思う」

 なのはの言葉に、アリサとすずかは力強く頷いている。

「人を助ける仕事してんのに、どういう事よって感じよね。話聞いてると」

「それに、はやてちゃんの事を悪く言うのも、許せないよ」

 アリサとすずかも不快感を隠さない。

「なら、どうする?反旗を翻す覚悟はあるか?」

 飛鷹が真剣な表情で問う。

 反旗を翻す。完全に美海達の側についたら、今度はどうなるか分からない。

 リンディさん達にも迷惑が掛かる。

 

 だからこその覚悟。

 

 

 リンディさんには申し訳ないけど、私は美海を助けたい。

 美海は助けなんていらないと思う。

 でも、私は美海の味方でありたい。

 ジュエルシード収集の時に、美海がしてくれたみたいに。

 

 何を迷う事があるの?

 

 美海がいなければ、私は今、チャンと立っていられたか分からない。

 絶望に沈んでいたかもしれない。

 

 今度は私の番だ。

 

「私は美海の味方でいたいよ」

 私はキッパリとそう言った。

 勿論、知り合ったばかりとは言え、はやての事も気になる。

 でも、一番の理由はそれだから。

 みんなは苦笑いする。

 そんなに呆れる事ないでしょ。

「私も!はやてちゃんは、すずかちゃんの友達だもん!はやてちゃんだって助けて上げたい!」

 なのはが最近見せなくなっていた笑顔で、賛成してくれる。

「足の引っ張り合いは、クロノに任せりゃいいか!」

 飛鷹が何気なく酷い事を言って、笑った。

「ようやく、アンタ達らしくなってきたじゃない!」

 アリサが揶揄うように言う。

「はやてちゃんのところには、私も行くよ。今まで行っていいか迷ったけど」

 すずかも晴れやかにそう言った。

 みんな心の中じゃ、納得してなかったんだね。

 

 美海。貴女の言う通りだよ。納得しないと後悔しちゃう。貴女が教えてくれた事。

 

 だから、頼み事は引き受けられないよ。

 

 

             :イリス

 

 今は、あの姉妹は部屋にいない。

 あの2人は、私がデバイスの中にいると思っているようだけど、実は違う。

 一種の転送ポートみないなものだ。

 私は亡霊のようなものだから、本体などというものはない。

 強いて言えば、このあやふやな身体が本体だ。

 あの2人は護衛中。監視もあの2人に向いている。

 それでも確認は怠らないけどね。

 安全を確認し、アレに連絡を取る。

『やあ。待ってたよ』

 不愉快な声が通信機から漏れる。

「あら、捨て駒扱いだと思っていたけど?」

 あの化物の事は、まるで聞いていない。

 この程度の嫌味くらい構わないだろう。

 こんな事で、堪えるようなタマじゃないだろうけど。

『待っていたのは本当だし、勝手に交戦したのも君の筈だか?』

 その通りね!ムカつく男だ。

「データは送ったけど、あんなのアンタにいるの?」

 私が送ったのは、ギアーズのデータ。つまりフローリアン姉妹のデータだ。

 あの2人は、サイボーグと言っていい連中なのだ。

 生身の部分もあるけど、殆どが生体機械で出来ている。

 過酷な環境を生きる為に、あの2人は改造された。

『違うアプローチというのは、貴重な資料だよ。当然いるね』

「じゃあ、これで義理は果たしたって事でいいのね?」

『ああ。あとは君の好きにするといい。お膳立ては済ませてある。アレはキチンと取り出せる

筈だ』

 気味の悪い事ね。

 どんな裏があろうが、アレを取り出す事が出来れば、問題ないけどね。

 アレの封印が解ければ、あの化物だって敵じゃない。

「それじゃ、さようなら」

『ああ。協力に感謝するよ』

 私はサッサと通信を切ろうとするが、待ったが掛かった。

『ああ!忘れていたよ。あの2人はどうするんだい?』

 は?アンタに何の関係があるの。

 その内心を言葉にしてやる。

『もし、始末でもするんなら、死体は僕に送ってくれ。実物も出来たらバラしてみたい』

 変態野郎。

 私は適当に頷いて、通信を今度こそ切った。

 

 フッと監視網に何かが引っ掛かる。

 

 素早く、原因を探る。

 巧妙にハイディングしていたみたいね。

 しかも、魔法を一切使用せずに。

 こんな事が出来るのは、そしてやるのは、あの子しかいない。

 案の定、探知範囲を広げると、アミタの姿が見えた。

 護衛をサボって、盗み聞き?

 いけない子ね。護衛も重要な仕事よ?

 

 私を見付けたのは偶々だろうけど、運が悪かったわね。

 貴女の愚かな妹は、聞く耳持たないわよ?

 

 鍵を取り出す目途も立ったし、姉は始末してもいいかもね。

 

 

             :アミティエ

 

 それは偶然だった。

 護衛と言っても、次元航行船の中。

 襲撃など滅多に起きるものじゃない。

 精々、不審者など遺失物機動課の2人と、私達くらいなものだろう。

 だから、お手洗いくらい交代で行ける。

 近くにお手洗いは勿論ある。

 でも、前回の件で妹の態度は余計に硬化している。

 あまりの気詰まりに、少し遠くのお手洗いに態と行った。

 キリエも文句など言わないだろう。

 

 なんとなく歩いていると、自分達に割り振られている部屋の前だった。

 妹の事、イリスの事を考えて歩いた所為か、遠くに行き過ぎてしまった。

 いくらなんでも、これ以上はゆっくりする訳にいかない。

 仕事の姿勢について、説教を垂れたばかりだ。

 頭を切り替えよう。

 踵を返した時だった。

 部屋から誰かの声が聞こえる。

 防音は勿論あるが、ギアーズである私には問題なく音が拾える。

 それでも、普段から聞こえるようにしていたりしないが、考え事をしていて無意識に集中

していたようだ。ハッキリ言って偶然だ。

 

 そして、中から聞こえるのはイリスの声。

 父さんや母さんに連絡する専用の通信機を使っているようだ。

 しかし、どうやって?彼女はデバイスの近くでないと出てこれない筈だ。

 私は咄嗟にステルス機能を最大にして、耳を澄ませる。

 

 内容は信じられないものだった。

 誰かに私達のデータを売った事。

 そして、最終的に私達を始末する気でいる事。

 何より、イリスはエルトリアの事など、何も考えていない事が伝わってくる。

 

 エルトリアは、今、滅亡に瀕している。

 大地は荒廃し、正体不明の死病が蔓延している。

 私達は、それを助ける為に管理局に助力を頼んだ。

 私達は、見返りに管理局の捜査官として働き出した。結果も出した。名も売れた。

 だが、管理局は移住計画を立案して以降、放置している。

 死病に対しては、何も対策を取っていない。

 このままでは、私達の世界が滅んでしまう。生まれ育った故郷が。

 だからこそ、私達は、父さんはイリスの提案に乗った。

 それなのに…。

 

 じゃあ、永遠結晶(エグザミア)は!?

 あれに封印された莫大な力で、世界を元に戻す計画はなんなの!?

 父さんはそれを知ってるの!?

 いや、知ってる訳がない!!知ってたら協力なんてしない!!

 

 キリエは、おそらく話しても信じないだろう。

 あの子は、イリスを信頼している。

 また、反発されるのがオチだ。

 

 父さんに知らせなきゃ!イリスに別の企みがある事を!!

 私達は利用されただけだったんだ!!

 

 この時、私は気付かなかった。

 動揺するあまり、一瞬の隙を見せてしまった。

 そして、それをイリスに気付かれた事に。

 

 私は護衛の事など既に忘れ、ただ父さんに連絡すべく先を急いだ。

 連絡手段を、考えなくてはいけないから。

 

 

             :???

 

 送られてきたデータを見ながら私は、ほくそ笑む。

 誰も彼もいい仕事をしてくれる。

 満足いく仕事振りだ。

 

 しかし、天才というものは、いるところにはいるものだな。

 興味深い。

 これは、本気で死体を送って貰うのもいいかもしれない。

 まあ、本当にアレで彼女を殺せたらの話だ。

 試すには丁度手頃だろう。

 彼女も流石に、手の内を多少は晒してくれるだろう。

 アプローチの違う技術のデータと、彼女のデータも取れる。

 いい仕事だった。

 

 ここからは、じっくりと観察させて貰うよ。

 

 

             :グレアム

 

 ゲイズ少将の登場は、皮肉な事にはやてを助ける一助になった。

 かの剣王が、管理局の武装局員に捕らえられる事はないと思っていたが、蒐集が停滞しない

のは有難い。向こうに思惑があったとしてもだ。

 

 今はミッドにあるバーにいる。

 かなり分かり辛い立地に存在するバーだ。

 そして、マスターは元・局員で口は堅い。

 カクテルを酔わない程度に飲む。

「隣、よろしいですか?」

 声を掛けられる。

 待ち人来るだ。

「ああ。構わんよ」

 女性を待っていたなどという艶っぽい事はない。

 隣に座ったのは、壮年のガッチリした体格の男だ。

 マックス・キント執務官長だ。

 キントがマスターに私と同じカクテルを頼む。

()()()はいないのかね?」

「ええ。遠慮して貰いました」

 つまり、尾行者はいて、撒いたという訳だ。

 彼も現場から出世した男だ。このくらいはやってのけるだろう。

「それでどうかね。最近は」

「ええ。提督のお陰で順調です」

 まだ若かった頃の彼の面倒を見ていた縁で、今でも親しくしている。

 だが、今の質問は、近況を尋ねたのではない。

「しかしながら、ある案件で少々問題がありまして、詳細は言えないのですが、相談に乗って

頂いても?」

 ここからが本題だ。

「勿論だとも。今も最前線で仕事をしている君に、老いぼれがどこまで助言出来るか分からん

が」

 キントが几帳面な態度で礼を言う。

 彼は仕事だから固くなっているのではなく、これが素なのだ。

「対象が、ある時代のロストロギアの調査をしていたようなんですが、それと対象の敵対勢力が

強引な手法を用いている理由が、判明しません。そのロストギアは敵対勢力には、なんの利害も

ない筈なんですが」

 対象者とは、クライドの事である。

 そして、敵対勢力とは本局上層部を指す。

 当然、ロストロギアは闇の書だ。

 私ははやてを救うと決心した後、偶然にもクライドの置き土産を発見した。

 そこから、彼に調査を依頼したのだ。

 今日は途中経過を聞きに来ていた。

 こんな面倒な話し方をしているのは、マスターにいざという時に迷惑を掛けない為だ。

「そのロストロギアだが、どんな事を調べていたのかね?いや、差し障りがあれば訊かないが」

 クライドは、他の局員と違い闇の書について、その背景を調べていたのは、上司として知って

いた。

 だが、それでどうして上層部が慌てて封印などしようとするのか。

 今まで、こんな事はなかった。

 上層部の動きは迅速だった。

 以前から、闇の書の対策を考えていた節がある。

 まるで、闇の書事件を待っていたように。

 前回の闇の書事件より前は興味すら示していない。

 つまり、クライドが関わった闇の書事件に何かがあるという事だろう。

「詳しくは説明出来ませんが、ロストギアが()()()()で無力化された時の事を、調べていたよう

です」

 剣王の時代の事を?

 確かに闇の書は、あの時代にも現れている。

 いざとなった場合の、被害の抑制法でも調べていたのだろうか。

 大魔導士が封印手段を説明する際に、その時代の出来事を引き合いに出したと聞いた。

 前回の闇の書事件と今回の封印手段の発見は、繋がっているのか、それとも偶然か。

 知らなければならない。

「ふむ。ではその時代の事を、もう一度詳しく調べる必要があるかもしれんな。済まないね。

こんな事ぐらいしか言えなくて」

「いいえ。参考になりました」

 キントが慇懃に頭を下げた。

 幾度も調べ直した事だろうに、礼を言って貰って申し訳ない。

「そう言えば、今、無限書庫にスクライア氏族の若者がいるそうだ」

「ほう。今、そこにいるという事は、クロノ執務官絡みですかね?」

 キントは僅かに興味を示す。

「ああ。だが、上層部の決定である以上、もう調べる事もないだろう。協力を求めてみては

どうかな?」

 視点を変えてみるというのは、重要な事だ。

 リンディに管理局の裏を探る手助けという名目で、頼んでみるか。

 裏を探るという意味では、嘘ではないのだしな。

「検討してみます」

 キントはそう言うと立ち上がり、カウンターに金を置いていった。

 相変わらず律儀だな。

 

 皮肉な事だ。

 はやてを助けたいと思わなければ、クライドの残した置き土産に気付かなかった。

 封印にばかり目がいっていた事だろう。

 かの剣王が味方に付いていれば、はやては大丈夫だろう。

 あとは、私自身が責任を取るだけの事だ。

 責任は全て私が持っていく積もりだ。

 それが、管理局に老齢までしがみ付いていた者の責務だ。

 

 これが私の最後の仕事になる。

 

 私は残りの酒を飲み干すと、カウンターに金を置いてバーを後にした。

 

 

 

 




 次回は、戦闘があると思います。
 アミタが気付きました。
 クライドさんの置き土産は、また今度説明します。
 そろそろ、ユーノも動かさんといかんですな。

 では、次回も頑張ります。

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