魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 また、やってしまいました…。
 プレシアの回想回をご記憶でしょうか?
 あれよりはマシになった筈ですが…。
 いや、どうだろう…。

 辛いという方は、最初と最後だけでもいいです。

 では、お願いします。



第33話 回想

              :リンディ

 

「今日は話にきたんだ。八神はやてについてね」

 この衝撃的な発言からで、多少動揺したのは事実だが、私もそれで主導権を渡す程未熟では

ない。

「驚きました。まさか、そんな発言を提督からお聞きするとは」

 グレアム提督とは、現在は向かい合って座って話している。

 リーゼ達はグレアム提督の背後で立ったままだった。

「私もまさか君にこんな事を言うとは、思っていなかった」

 グレアム提督の顔には、苦悩がありありと刻まれていた。

「いい封印法があるそうだね?」

「どちらで、その事を?」

 私は質問に答えずに、訊き返す。

「私も老いたとは言え、まだ慕ってくれる者もいるのでね」

 私は内心で溜息を吐いた。

 アースラに詰めている武装局員の中には、グレアム提督にお世話になった者もいるだろう。

 となると、盗み聞きという事になる。

 身内にまで、警戒の必要ありという事実に頭痛を感じだ。

「いい方法と言われますが、管理局では違法行為を許可しなければなりませんが…」

 私は詳細を改めて説明した。御存知でしょうけど。

「ふむ。管理局としては悩ましいだろうね」

 グレアム提督は説明を聞き終えると、唸るように考え込んだ。

 結局、グレアム提督はそれ以上、美海さんの案についてコメントしなかった。

 

 

「最初は、私がやる積もりだった」

 暫くして、グレアム提督は突然、呟くようにそのセリフを口にした。

 年を取られた。実感を持ってそれが感じられた。

「前回の闇の書事件で私は君の夫を…優秀な男を死なせてしまった」

「夫の葬儀の時にも、言いましたが、あれは提督の所為ではありません。あれを防げる者など

いないでしょう」

 私は過去と同じ事を再び告げた。

 実際、私は提督を恨んでなどいないし、責任があるとも思っていない。

「クライドの事を、言い訳にする積もりはないよ。私自身が自分を許せなかった…いや、気が

済まなかったのだ」

 そして、提督は事件後の私達親子が知らない事を語り出した。

 

 提督は、ずっと闇の書の転生先を追っていた。

 気の遠くなるような作業だっただろう。

 そんなに簡単に特定出来るなら、苦労はないからだ。

 大部分は賭けだった筈だ。

 だが、提督は見付け出した。執念の成せる技か、運命の神様の悪戯かは分からないけど。

 主は幼い女の子だった。八神はやてという名の。

 秘密裏にリーゼ達が調査に当たった。

 結果、彼女は幼さ故か、闇の書にリンカーコアを侵食され、死を待つ身だった。

 グレアム提督は、これを天の配剤だと思ったそうだ。

 厄災を撒き散らしてきた闇の書を、永久封印する為の機会を与えられたと。

 だが、あの子を見ているうちに迷いが生じた。

 残された時間をせめて有意義なものに。そう考えて援助を始めた。

 あの子の死んだ父親の友人と騙って。

 だが、それと裏腹にはやてさんは、どんどん人生を諦めていった。

 本来は、提督にとって都合のいい事の筈だった。

 だが、彼の管理局員としての心は、この状況を拒否した。

 本来、こんな子を守るのが、自分達ではないのかと。

 提督が、用意した封印プランは、凍結魔法で主ごと氷の中に永遠に閉じ込めるというもの

だった。

 その専用のデバイスが完成する寸前、提督は方針を変えた。

 彼女を助ける為に。

 

「裏切りと取ってくれて構わんよ。実際、君にしたら私は裏切り者だろうしね」

 自嘲気味にグレアム提督はそう言った。

「だが、願わくば、はやてが救われた事を、確認させて貰えないだろうか?それが済めば、

私は自ら襟を正すつもりだ」

 グレアム提督は、そう言って言葉を締め括った。

 

 これが提督の全てかは、分からない。

 でも…。

 

「私は、提督がそのプランを放棄してくれた事に、ホッとしております。夫や息子、勿論

私も尊敬した人物を軽蔑せずに済みましたから」

 

 これが、話を聞いた私の本音だった。

 

「君の保護している子の後見人は、どうする?最早、私に力はなくなるだろうが」

 最後に提督が訊いてくる。フェイトさんの後見人か…。

 もう、裁判の判決も出てるし、後ろ盾としての後見人の力は必要ないけど…。

 提督が起訴される事はないだろうけど、フェイトさんに対する印象にどう作用するかね。

 

 代わりの後見人が見付かるまでは、保留にして貰った。

 

 フェイトさんに挨拶して貰おうと思ったんだけど、どうしようかしら?

 

 

              :はやて

 

 あれから、家に帰ってやる事は1つや。

 お説教と感謝や。

「私の事を心配して想ってくれた事は、正直有難い事や。でも、人様に迷惑を掛けたら

あかん。それは私を大切にしてくれた他の人達に対する裏切りやと、私は思っとる。私かて

死にたい訳やあらへんけど、出来るだけ正しく生きたいと思うんや」

 みんなは黙って聞いてくれた。

 もうすぐ死ぬとしても胸を張っていたい。

 それを分かってほしかったんや。

 勿論、シグナム達の気持ちも聞いたし、分かっとる。

 

 でも、これは譲れない。

 いや、譲れなかったやな。

 

「お心を理解出来ず、誠に申し訳ありません」

 シグナムが頭を下げる。

「しかし、我等も譲れなかったのです。貴女が主だから助けたかったのではありません。

貴女だからこそ、死なせたくなかった。天寿を全うし、笑って悔いなく生きてほしかったの

です」

 我等が後にどうなろうと、と語外の言葉を私は受け取っとった。

 他のみんなもしっかりと同意している。

 分かっとるよ。

 

 今まで言うた事は、本心や。

 迷惑を掛けるのは、あかんと今でも思う。

 だからこそ、私は怒った。

 でも、私の中には、捨てきれんもんがあったみたいや。

 友達と別れるのは寂しいと思う気持ち、もっと生きていたと思う気持ち。

 せめて、私の騎士達には、尊敬出来る自分でありたいという見栄。

 同時に気付いた私の心の中にある矛盾する本音。

 

「うん。ありがとな。私な、みんなに感謝しとるんよ?正直、みんなに会う前は、私は人生

投げとった。このまま死ぬんやろって、諦めとった」

 どんどんと離れていく人達。気付けば、大して知らない大人しか周りにいなかった。

 有難くはあるんやけど、申し訳なさの方が強かった。

 

 そんな時に、夜天の魔導書が覚醒して、この子達が来た。

 

「もしかして、手を汚したくないって思っただけかもしれん、私は」

 すずかちゃんにオールストン・シーに誘われた時の言葉。

 あれは効いたわ。

 根本的な部分で、私は変わってなかったのかもしれん。

 そう思った。

「そんな事ねぇよ!」

 思わずといった感じで、ヴィータが声を上げる。

「ええんよ。そんな部分があるのは、多分事実や」

「主…」

 ザフィーラが労わるような声音で呟く。

 これで、説教と感謝は終了や。

 

 こっからは、私の新しい決意の話。

 

「だからな。眼を背けるのは止めようと思うんや。みんなと一緒に生きる努力をしようと

思う。足掻こうと思う。幻滅される事もあるかもしれん。けど、力を貸してくれへんやろか?」

 私の中では、答えは決まっとった。

 出来る限り、救う。

 その為に犯す罪は、私自身も背負ってく、みんなと一緒に。

 迷惑掛けたんなら、償ってこう。私はもう1人やないんやから。

 みんなの目を見る。

「当然です。我等はその為にいるのですから」

「当たり前の事言ってんなよ」

「頑張りましょう!」

「御心のままに」

 

 みんなが少しの躊躇なく頷いてくれる。それが嬉しい。

 

 私は自然と、出会った最初の頃を思い出していた。

 最初は、こんな感じにはならへんかった。

 なんかお互い無視って言うと言い過ぎやけど、あんまり一緒におらんかった。

 

 

 

 服を初めて買いに行った時。

 ザフィーラは、狼やから服はいらんと言っとったからいいとして、他の面々が問題やった。

「え?行くのシグナムだけなん?」

 私が訊くと、無表情に頷いた。

「護衛なら私1人で十分ですから」

 いやいや。服買いに行くんやで?一緒に行かなしゃーないやろ。

「いや。好みとかあるやろ?」

「他の者も、無論、私も主の選ぶ服に否はありません」

 こら難物やわ。

 

 結局、他の人達は付いてこんかった。

 まあ、服や下着は買えたからええか…。

 

 なんでもこの世界の知識は、闇の書から教えられとるそうやけど。

 なんか、扱いがぎこちないな。

 しかも、みんな揃ってなんのリアクションもない。

 

 食事。

 私がみんなの歓迎も兼ねて料理をした。

 会話なしの感想なし。

 重苦しい沈黙が、食卓を支配しとる。

 理不尽な支配には抵抗せんといかんけど、これで私だけ喋り倒したらイタさが増すな。

 

 こ、これは、キツイな。

 せめて、感想くらいは言ってくれへんか?

 でも、みんな、戸惑ってるのは感じてた。

 みんなで揃って食事なんて、今までせえへんかったんやろうか?

 なんにも感じてないんやない。

 

 焦らずに、ここから始めよう。そう思ったんや。

 

 

              :ヴィータ

 

 はやてが、黙り込んだ。

 何かを思い出すように。

 

 アタシも思い出してた。

 最初は、変な主に当たったもんだよな、って思ったもんだ。

 

 

 

 出会った日から、あの主は命令をしない。

 闇の書の事は説明した筈なのにだ。

 ガキだから、分かってねぇんじゃねぇか?

 そうシグナムに言ったら殴られた。

 

 あんまり覚えてねぇけど。蒐集をしないって変わり者は若干数いたと思う。

 もしかしたら、コイツもそうなのかもな。ハッキリとやらなくていいって言ってたし。

 大体の奴は、気が変わるけどな。

 

 コイツは初日に食事を作った。美味かったけど、誰も何も言わなかった。

 全員、何を言い出すか、どうする積もりか警戒してたんだ。

 いきなり、マナーだのなんだの騒ぎ出した奴もいたしな。

 だけど、コイツも何も言わなかった。

 料理はどうだったとか、味の評価をしろだの、面倒な事は言わなかった。

 ホッとした。料理は美味いか、不味いかだけでいいんだよ。

 

 料理の腕は認めてやってもいい。

 

 何日か経って、相変わらずあの主の気は変わらない。

 働かされてボロボロになるのも嫌だけど、暇なのも案外キツイ。

 家の中で、アタシ等はボゥとしていた。

 勿論、顔なんて合わせない。ウンザリする程、見たツラだしな。

 アタシは1人、庭を見ながら座り込んでいた。

 この世界じゃ、庭でアイゼンを振り回すと不味いらしいし、やる事がない。

 すると、私を見付けた主が話し掛けてきた。

「遊びに行って来てもええよ。暇やろ?」

 こんなナリだけどよ。アタシは大人なんだよ。

 やっぱり、コイツ、分かってないだけじゃねぇか。

「い…いいえ。いつ何があるか分かりませんし」

 いや、そんな事しねぇよって言いそうになった。

 丁寧に喋らねぇと、シグナムがうるせぇからな。

 折角、丁寧に喋ったのにコイツは笑って言った。

「別に無理に丁寧に喋らんでええよ」

 アタシもそうしてぇよ。

「いえ。ケジメですから」

「シグナムがそう言っとるの?」

 アタシは頷いてやった。

「シグナムの事、嫌いか?」

 アタシの顔に不満が出てたのか、コイツはいきなりそんな事を訊いてきた。

 確かに、ウゼェけど。嫌いな訳じゃねえ。

「優秀な将です」

 アタシは答えの代わりにそう答えた。嘘じゃねぇからな。

「それ、本人に言って上げたらどうや?」

 ハァ!?なんでそんな事言ってやらなきゃならねぇんだ。本人知ってるだろ。

 顔に言いたい事が出てたんだろう。

 主が苦笑いする。

「ええ事も、悪い事も、口に出して言った方がええよ。ドンドン喋れなくなるしな」

 それって命令か?

 私は訝し気に主を見たが、それ以上は何も言わなかった。

 

 変な奴だな…。

 

 更に数日、遅過ぎるけど、騎士甲冑を賜ろうという事になった。

 暇過ぎて忘れてたぜ。正直。

 

 主にその事を話す。

「騎士甲冑?」

 そっから説明しないといけねぇか。

 シグナムは根気よく説明した。

「う~ん…。私はみんなを戦わせたりせえへんから…服でええか?騎士らしい服!」

 防御力は変わんねぇしな。シグナムは承諾した。

 

 ただ、騎士甲冑に嫌な思い出があるんだよな。

 コイツ、変な服にしたりしないだろうな。偶に変なの着せる奴いんだよ。

 シャマルにそれとなく話すと、シャマルも苦い顔になった。

「まあ、主も子供だし、それ程可笑しい服にしないでしょ」

 自分に言い聞かせるように、そう言った。

 こういう時、ザフィーラが羨ましい。

 

 主はネタを探しに行くとか言って、出掛けた。

 騎士甲冑の事だから、アタシ等も一緒だ。ザフィーラ以外のな。

 ネタという言葉には、シグナムも嫌な予感がしたのか表情が曇っていた。

 

 そんで到着したのは、玩具売り場だった。なんでだよ。

 主はシグナムに車椅子を押されて、キョロキョロしている。

 アタシはそれを呆れてみていた。

 この後、運命の出会いがあるとも知らずに。

 

 主はなんだか人形?を手に取って、考え込んでいる。

 こんなんで決まるのか?

 アタシは暇を持て余して、視線を別の棚を彷徨わせた。

 そして、目が合った。

 雷に撃たれたような衝撃。

 こんな奴がいたのか…。

 

 そこには一匹のウサギがいた。

 

 ただ可愛いだけの奴じゃない。人に媚びないプライドを感じる。

 

 欲しい…。アイツと一緒にいてぇ。

 

 そんな事を考えていると、視線が向けられている事を感じた。

 主とシグナム達だった。

 微笑ましそうに見んじゃねえよ。主。

 それと2人共、呆れんじゃねえよ。コイツは特別なんだ!

 決してガキなんじゃねぇぞ!

 

 散々だった。

 

 主の家の帰り道、アタシは不貞腐れて主達から離れて歩いていた。

 シグナム達はアタシを放置している。

 アタシはフラフラと距離を置いて歩く。

 すると、主が止まった。

 なんだ?

「ヴィータ。この子頼むわ」

 この子?主は箱みたいなもんを、こっちに突き出した。

 んだよ。シグナム達の方が近けぇじゃねぇかよ。

 シグナムに睨まれる前に、サッサと受け取る。

「家に帰ったら開けてな。大切にするんやで?」

 あ?アタシのなのか?これ。

 

 家に帰って、箱を開けてみた。

 入ってたのは、アイツだった。いつの間に…。

 アタシの目を誤魔化すとはな、やるな…。

 本来なら、余計な事すんじゃねぇ!って捨てるとこだけど、コイツに罪はねぇ。

 大切にしてやるか。

 どうも、コイツはのろいうさぎというらしい。

 そうか…お前、呪い背負ってんのか。

 それでこの面構え。流石、アタシが惹かれただけあるぜ。

 不屈なとこがいい。これから頼むぜ。

 

 

 それから穏やかな日々が続いていったんだ。

 決して長い時間じゃねぇけど、かけがえのない日々だと思い出す為の時間。

 その間も、はやては決して態度を変えたりしなかった。

 

 信用ってのは、積み重ねていくもんだ。突然沸いて出るもんじゃねぇ。

 特別な何かが、他にあった訳じゃない。

 でも、当たり前の事をアタシは忘れてたんだと思い出した。思い出せた。

 それで、アタシは徐々にはやてを認めていったんだ。

 

 

              :シャマル

 

 ちょっと前の事を思い出す。

 本来の自分を取り戻すまでの事を。

 

 

 いつからか、仕事は惰性になった。文句言われない程度にやればいい。

 こちらが親身になったところで、暴言を吐かれるだけなんてよくある事だった。

 いつしか適当にやる習慣が、身に付いた。

 シグナムは眉を顰めたけど、やる事をやってるんだから文句も言ってこない。

 ヴィータちゃんみたいに不貞腐れない。

 でも、シグナムみないに割り切れないし、ザフィーラみたいに忠実ではいられない。

 

 今度の主は、子供だった。

 あんまり記憶は残ってないけど、子供は初めてだと思う。

 人でない私達が言うのもなんだけど、大人気ない態度を取っていると思う。

 

 ある日、料理を手伝ってほしいと言われた。

「私達は、召使いじゃないんですけど」

 私1人で助かった。シグナムがいたら鉄拳が飛んでいたところだ。

 私の暴言に対して、主は不思議そうに首を傾げた。

「騎士かて、料理くらいするやろ?野戦食みたいな」

 ベルカでは従者がやるから、騎士は戦いに集中している。

 つまり、料理なんて態々しない。好きでやってる物好きはいたように思うけど。

 そして、そもそも私達は、魔力供給さえあれば食事は必要ない。

 それを、今度は言葉に気を付けて説明する。

「そんなもんなん?」

 納得出来なさそうな主に、私は頷いた。

「でも、食べられるやんな?」

「ええ。まあ…」

 初日に歓迎として食べた。味覚もある。満腹にもなる。ただ、栄養にならない。

 そこから力が補充出来ない。

 それも説明する。

「それは残念やけど、味覚はあるんやろ?なら必要や」

 私は訝し気に主を見た。どうして必要に繋がるの?

「料理は何も栄養を取るだけとちゃうで。心にも必要なものなんやで?」

 心に?

 主は私の心情を察したように頷いた。

「美味しいものは、心を満たしてくれるんや。心の治療にも食事療法があるんやで?

治癒術師として興味ないか?」

 そんな考えが!?

 私は適当にやっているけど、手を抜いている訳じゃない。

 治癒術師としてのプライドまで捨てていない積もりだ。

「分かりました。お手伝いさせて貰います」

 挑むようにそう言った。

 

 確かに、この子の料理、美味しいのよね。何か効果があっても可笑しくない。

 

 それで分かった事は、意外に料理が楽しいという事だ。

 いい気分転換になる。何かが出来上がっていく過程が楽しい。

 そして、完成。

 

 やはり、みんなで食事を取る。

 みんな表情は隠しているけど、長い付き合いの私には分かる。

 心のどこかで喜んでいる。

 

 本当に心にも作用するのかもしれない。

 

 余談だけど、私1人で料理したものには、みんな食事を噴き出すところだった。

 それが、私のプライド酷く刺激した。

 絶対に美味しいと言わせてあげるわ!

 それで、より一層料理に打ち込む事になった。

 主は苦笑いしていたけど。

 

 それから熱心に料理を教えて貰うようになった。

 どこから聞き付けたのか分からないけど、近所の奥さんまでアドバイスをくれる

ようになった。

 

 

 因みに現在の私は、不味い料理から微妙な味付けの料理にレベルアップしている。

 あれから私の役目に近所付き合いが、追加されるようになった。

 

 ここの世界の奥さん方はいい人が多い。

 私も徐々にだけど、気分が前向きになっていった。

 

 多分、はやてちゃんを認めたのは守護騎士の中じゃ、早い方じゃないかしら。

 

 だって、日常の重要さを教えて貰ったんだもの。

 

 

              :ザフィーラ

 

 今までの事を思い出すように、全員が沈黙した。

 私自身、少し前の事を思い出していた。

 

 

 今度の主は、少々変わり者のようだった。

 一切、蒐集を御命じにならない。

 過去、そういう人物もいただろうが、少数派であった事は間違いないだろう。

 おまけに、シグナム達に服や生活必需品を買い与えている。

 正直、騎士甲冑だけで事足りるのに、だ。

 これは、珍しいのだろう。

 我々は、生物ではないからな。

 

 私は盾の守護獣である。

 つまり、主と仲間を守る盾だ。

 敵は勿論、時には歴代の主の無体から守る事もあった。

 盾の役割を与えられただけあって、私の身体は頑丈に出来ている。

 

 それだけにペットの如く可愛がられるのは、慣れない。

「ごめんな。ちょっと我慢してな」

 撫でられたリ、足を弄られたり、偶にやられる。

 別に嫌ではないが、落ち着かない。

 他の仲間と扱いが違う気がするが。

 私は気になって1度、質問した。

「私、今まで動物好きやけど、飼う事出来なかったんよ。こんな脚やし。勿論、

ザフィーラがペットだなんて思ってないで?そう!これは癒しなんよ!」

 何やら力説された。

 私は機嫌がよさそうな主を見て、もう1つ気になっている事を訊くチャンスだと、

思った。

「主は他の守護騎士達が、仲良くする事を御望みなのですか?」

 主が色々と動いているのは知っていたが、疑問だった。

 それ程、気になるのであれば、一言命じればいい。

 そのくらいの小芝居は出来るだろう。

「それじゃ、意味ないやん。私は楽かもしれんけど」

 主が微笑んだ。

「私は凄い力とか興味ない。みんなは私が死んでも長い旅をせなあかんのやろ?

だったら、私が生きとる間くらい休んでもええやん。それが命令になったら、今まで

と同じや。本末転倒ってやつやな」

 ならば、放っておいてもいいのではないか?

 私の言いたい事を察したのか、主は首を振った。

「みんなは、これから先も一緒やろ?なら、少しでも思ってる事を言える方がええと

思うんよ。無理に仲良くなってほしいんやない。話せるようになって貰いたいんや。

それだけで、違うんやないかと思う」

 私は瞠目した。

 この主は、我等の先まで案じておられる。

 どれだけ足掻こうと、取り残されるしかない我等を。

「このままやと、ドンドン声が出なくなってくしな」

 主は寂しそうにそう言った。

 おそらく、御自身の経験からの言葉だろう。

 主は病院と図書館、買い物以外の外出をしない。

 御友人が訪ねて来た事もない。

 話せなくなったのは御自身なのだろう。

 

 それからも主は他の守護騎士に、五月蠅くならない程度に話をされ、気分転換を進め

られたりしていた。

 それが、どんなによそよそしい態度であっても、主は穏やかな態度で変わらず接し

続けた。

 

 私はこの主に尽くそうと決めた。

 それだけの価値がこの主にある。

 今までの主に忠節がなかった訳ではないが、やはり義務感のようなものは混じって

いた。

 

 だが、この主の為ならば、この身が滅んでも構わない。

 そこまで思った。

 

 

 主・はやては、それから他の守護騎士からも信頼を勝ち取っられた。

 このような事を成した主は今までにいなかった。

 

 主が決めた事であれば、私は喜んで従おう。

 

 

              :シグナム

 

 私には義務感しかなかった。

 それを主が変えた。いや、元に戻ったというのが正しいのかもしれない。

 今の仲間を見れば、その表現の方が正しいと感じる。

 みんなが主の為に、全力を尽くす。

 これがあるべき姿だったが、いつしか失くしてしまった。

 それを私は放置した。私も本来の姿を見失ったからだ。

 

 少し前の事を苦々しく思い出される。

 

 

 

 今回の主は蒐集を命じない。

 命令がないなら、護衛の任務をすれば済む事だ。

 他の連中…ザフィーラを除いてやらないからな。

 いつからこうなのか、既に覚えていない。

 随分と昔からなのは確かだ。

 ならば、将として模範を示す義務がある。

 言葉がダメなら行動で示せばいい。

 最初のうちは、主の傍を離れなかったが、主はそれをよしとしなかった。

「シグナム。別に危険な事なんてないし、ベッタリくっついてなくてええよ」

 これは、遠回しに目障りという事だろう。

 そこまで言われれば、こちらとしても尊重するしかあるまい。

 

 だが、ここで問題が起きた。

 手持ち無沙汰なのだ。

 レヴァンティンを振る訳にもいかない。

 態々、結界を張って、注目を浴びてまで振る必要性はない。

 故に、室内で体捌きの練習をするのが常だった。

 いざという時に、鈍っていたではお話にならない。

 悩んでいると、主が声を掛けて来た。

「シグナムは剣術が好きなんやね」

 むっ。好き…なのだろうか?考えた事がなかった。

「嫌いやったら、そんな風に寂しそうにしとらんやろ?」

 私の表情から察したのか、主がそう言った。

 寂しいか?自分でもそんな顔をしていたか、分からない。

「だったら、剣道やったらどうやろうか」

「剣道…ですか?」

 知識としては知っている。

 何やら、ルールに従って剣を振るう遊びだったと思う。

 好き嫌いは兎も角、気が進まなかった。

 剣は敵を討つ為のものだ。訓練としても微妙だ。

 組打ち禁止、面・胴・籠手・喉への突き以外を斬っても、打っても負けにならない。

 意味不明だ。

 私は思った事を主に告げると、主は苦笑いしつつ言った。

「シグナムがやりたいんは、剣術と。剣術道場は、ここらにないみたいやし。剣道でも

動きの確認くらいになると思うし、どうやろうか」

 ふむ。正確には剣も形状が異なるのだが、そうまで言われてやらないのも角が立つ。

 

 私は仕方なく剣道場に通う事になった。

 案の定、実戦とは違うように感じた。

 まあ、そこに期待はしていなかったが。

 だが、確かに室内で体捌きや足捌きのみよりいいかもしれない。

 それを見ていた師範代とかいう立場の人物が、話し掛けてきた。

「シグナムさんは、お国で洋剣を振っていたんですか?」

 気付いたのか。まあ、気付くだろうな。

「ええ。まあ…」

 私は曖昧に頷いた。

 私はいい機会なので剣道をやる意味を聞いてみた。

 不快な思いをされるのは覚悟していたが、意外にも笑って答えてくれた。

「確かにシグナムさんは、()()()()のようだし違和感を感じられるかもしれません」

 そこまで気付かれていたか。もう少し気を引き締める必要があるかもしれん。

「剣道はスポーツです。同時に礼節と心身を鍛える場の1つとなっています。ですが、

剣道で強くなれない訳ではありません」

 そう言って師範代は試合を見せてくれた。

 結果を言えば、舐めていた部分があったと素直に認める事になった。

 私は、遊びなどと評した事を心の中で詫びた。

 

 それから、剣道をやってみる事にした。

 自分の動きは極力壊さず、剣道に応用する。

 長年剣を振るってきた身としては、それくらいはやれる。

 道場の人間からは、唖然とした表情で見られた。

 師範代は苦笑いと共に、私も指導に参加するよう言ってきた。

 

 命を取らない剣。それは、純粋に剣技のみに磨きをかける行為なのかもしれない。

 そう思えるようになった。そんな剣も悪くないと。

 

 存外、私は剣が好きだったようだ。

 

 ある日、道場から帰ると、主とザフィーラが話す声が聞こえた。

 私は結果的に、それを立ち聞きしてしまった。

 主は私が投げ捨てた事を、ずっとやってくれていたのだ。

 私は自分を恥じた。

 これで何が模範を示すだ。何が将か。

 

 主の言う通り、すぐには本来の姿に戻る事は難しいだろう。

 しかし、私は誰よりも早く戻らなければならない。

 再び、責任を背負い直す為に。

 

 

 あれからは、リハビリに励んだ。リハビリという言葉が相応しいと思う。

 結局は、主にご迷惑をお掛けする結果になったのだから、無様といしかないが。

 

 今度こそは、主の期待に応えなければならない。

 シグナムとして、将として。

 

 

              :はやて

 

 長い沈黙の後、私は結論を口にする。

 みんなも察しとるやろうけど。

「私は美海ちゃんの案に乗ろうと思う」

 美海ちゃんは、確かにシグナム達を嫌っとるみたいやけど、夜天の魔導書に悪感情

がある訳やない。

 美海ちゃんは、多分、大切な人を失った。

 夜天の魔導書と深く係わる人。多分、私と同じマスターやったんやないかと思う。

 美海ちゃんは、その人を裏切らん。

 だから、助ける事を承知したんやと思う。

 

 信用出来る。

 

 守護騎士達も、個人的感情を抑えて頷いてくれた。

 

「みんなで生きよう!」

「「「「はっ!!」」」」

 

 

              :リンディ

 

 いつまでも、管理局に報告しない訳にはいかない。

 頭の痛い問題を一時的に棚上げし、まずはレティから上層部へ報告して貰う。

 勿論、詳しい説明は私がする事になる。

 前もって話を通しておいた方がいいだろう。

 未知の知識から、ユーリさんを味方に付けられる。

 私は頭の中で、どう話をもっていくかをシュミレーションしていく。

 

 どれ程、考え込んでいたか、気付けばかなりの時間が経っていた。

 通信がきた事を示すスイッチが点滅していた。

 私は慌ててスイッチを押すと、ウィンドウが開く。

 映し出された人物は、レティだった。

「あら?何かあった?」

 返答があるには早過ぎる。何かしら?

「返答があったわよ」

 は!?前もっての話だった筈でしょ!?

「お察しの通り、私は貴女の報告の前の地均しの積もりだったわ。でも、何故か

結果が出た」

 嫌な予感しかしないわね。

「異例のスピードよね」

 レティが皮肉たっぷりにそう言った。

 

「ここまでくれば、予想してると思うけど。本局上層部の判断はユーリさんの

案を継続。美海さんは逮捕するよう通達される予定よ」

 

 

 

 

 




 心を閉ざした人物に必要なのは、時間を掛けて接する事なのだとか。
 はやては、日常の大切さを気付かせる事に集中しています。
 ここらが、美海が失敗した原因の1つと言えるでしょう。
 まあ、そういうのは酷かもしれませんが。

 一応、プレシア回と違って、守護騎士リレー形式にしました。
 う~ん。難しい。

 これからバラバラだった話が交わってきます。
 問題は私の技量でしょうか。

 頑張ります。

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