魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 もう少し間隔を空けて書いた方が、いいかなっと思っています。
 仕事の関係で…。
 折れた訳じゃありませんよ。

 では、お願いします。



第32話 変化

              :飛鷹

 

 なんだよ!!綾森だったのかよ!!ヤツの正体って!!

 てっきりイレギュラーで出てきたモブか何かだと思ってたぞ!

 しかも、闇の書助けようとしたって!?

 なんだそりゃ!?

 

 おっと。混乱しちまった。

 そんな事より、訊かなきゃいけない事があったな。

「似てると、思ってたけど…。やっぱり、そうだったんだ」

 フェイトが複雑な表情でそう言った。

「ホントは、こっちから言う積もりなかったんだけどね」

 綾森が苦々しい顔で言った。

 こいつ、本当に言う気なかったんだな。演技には見えない。

「どうして?」

 フェイトの質問に、無表情で綾森が答えた。

「戦いたくなかったからだよ。管理局は、私が前になんだったか、どうせ調べたでしょ?」

 それは、当たりという事か。

 管理局は、剣王=綾森ではなく剣王の記憶保持者だと思っているようだが、ベルカから

の転生者というのが、口振りから正しいんだろう。

 少なくとも、剣王=綾森が本人の認識みたいだな。

 

 ベルカの英雄の1人。

 アーヴェント王国の最後の女王。

 最後まで聖王の為でなく、領民の為に戦った人物。

 数々の武功を上げて、聖王の治世に協力していた筈なのに、最後にはベルカ全土の民の

支持が、聖王を上回る名声を得てしまっていた。

 何しろ、戦乱の日々で、その日の食い物にも困窮していた時にも、アーヴェントだけは

領民に最低限の食は提供出来てたってんだから、そりゃ、評価されるだろう。

 その時代じゃ、有り得ないくらいにライフラインも、整った国だったらしいしな。

 一時期は、綾森のヤツが聖王になればいい、なんて囁かれた事が原因で、アイツは聖王

から切り捨てられた。所謂、国家転覆罪みたいな罪で、最後には滅ぼされてしまったそう

だ。どこも同じだな、ホント。

 だから歴史書には、最悪の戦犯扱い。

 まあ、聖王にしてみりゃ、そうしなきゃならんわな。

 だが、自国の領民だけでなく他国の民は、聖王のネガティブキャンペーンを信じずに、

慕い続けた。

 つまりは、権力者の英雄ではなく、一般市民の英雄だったのだ。

 

「私の人生、戦だらけだった。今生ぐらいはやらずに済ませたい」

 勿論、火の粉が降りかかった時は、払うくらいはするけどと、綾森は言った。

 フェイトの時は、リニスの依頼があったからだという。

 因みに、フェイトもその事を承知していた。

 

 管理局に関わったら、戦わずに済むとは思えない。

 だからだと言った。

「私は管理局に技術を提供する気もないしね」

 そう言って、綾森は説明を締め括った。

 

 それで、俺の感想はと言えば、納得だった。

 なんでアイツは、フェイトの傍にいないのか疑問だった。

 アイツにとってフェイトの事は、乞われたからに過ぎない訳か。

 道理で俺達に関わりたくなさそうだった訳だ。

 プレシアの一件の時、敵対してた訳だしな。そりゃ、仲良くなるのは嫌だっただろう。

 実は俺達は、それは薄々感じていたからな。

 

「でも…。美海ちゃんは美海ちゃんなんでしょ?」

 全て聞き終わり、なのはがそう言った。

 当人でもないのに、実感が籠っていたのを不思議に思ったのかもしれない。

 綾森の頭に?が見えるようだった。

「美海ちゃんが、ベルカ?の女王様って訳じゃないんだよね?」

「いや。その人だよ。記憶だけあるとかじゃない」

 綾森はアッサリとそう言った。

「生まれ変わって、綾森美海って名前になったから、違う人って言われればそうかもしれない

けどね」

「でも…」

 なのはは、何か言いたかったみたいだが、結局は何も言えなかった。

 

「そろそろ、こちらの話を始めていいだろうか?」

 シグナムの言葉に全員が、ハッとした。

 そういや、静観するって言ってたけど、具体的な話は詰めないといけないわな。

 

 はやてのみが、怒っていいのか、悲しんでいいのか分からないような顔をしている。

 

 アリサ達だって話に付いていけてないんだから、はやてが付いていけないのは、仕様がない。

 まあ、これから説明するみたいだから我慢してくれ。

 

 

              :美海

 

 あーあ。自分からバラず事になるとはね。

 正体を隠そうとする場合、イチイチアリバイを考えないといけない。

 プレシアの時は、なんとかなったが、今回は都合よく私が姿を消すとなれば、疑われる事

間違いなしだよ。ただでさえ、フェイトに似てるとか言われたし。

 今回の一件を解決するとなると、正体を晒した方が面倒がない。

 飛鷹君のフォローは、明かした方が遣り易いし…。よしと考えよう。

 

 ベルカ時代、前半は唾棄すべき事に、楽しんで戦っていた。後半は嫌々やっていた。

 そんなに、戦いたくないって不思議な話?

 今生を蔑ろにしてる訳でもない。寧ろ、大切にしているからこそなんだけどね。

 私はアレクシアであり、美海でもある。それでいいじゃない。

 だから、なのはにフェイト。そんなに悩む必要ないよ。

 私がその点で悩んでないんだから、今は。

 

 烈火の将が話を変えてくれたし、乗りますか。

 

「私のプラン通りに動いてくれるなら、ある程度は助けられると思うよ」

 私の言葉に、守護騎士連中が不快感を露わにしている。

 無責任な発言だとでも言いたいんだろうけどね。

 私のプランで、()()()確実に助けるなんて言えない。

 誠実に言った積もりだけどね。

「ある程度だと?」

 シグナムが代表して口を開く。

「不誠実な態度でもいいんなら、確実とか言うけど?」

「貴様!!」

 アンタに怒られる義理はない。

「それなら、蒐集を継続した方が確実って事ね?」

 今度は湖の騎士が、口を挿む。

 それこそ、どこが確実なんだ、一体。

「ちょっと待って下さい!貴女達が行動している理由は、さっきの言葉で分かりましたけど。

少し落ち着いて下さい!美海…レクシア?も!」

 フェイトが口喧嘩寸前の私達を止める。

 

 因みに、今は美海でもういいよ。

 

「蒐集を継続した場合。主は死ぬ。蒐集が完了した時点で、蓄積した魔力と主の命全てを

使って、夜天は転生する。今までだってそうだった」

 勿論、未曾有の厄災を振り撒いて。

「バカな事言ってんじゃねぇ!!闇の書がそんな事するか!!お前なんぞより、アタシ達の方

が闇の書を知ってる!!」

 鉄槌の騎士が寝言をほざいている。ついでに五月蠅い。

「確か、アンタ等の言い分は、夜天を完成させれば、大いなる力が手に入るって事だったね?

じゃあ、訊くけど、前の主はその力で何をした?どんな事を望んでた?名前は?何処にいた?

さぞかし、名を遺しただろう」

 私の問いに、守護騎士全員が言葉に詰まった。

「我等は、前の主が願いを叶える現場に居合わせていない」

 烈火の将が、言葉を絞り出す。

 自分が確認してもいない事を、勝手に進める。詐欺みたいなものじゃないの?

 他の質問にも答えられなかった。記憶がないんだから当然だけど。

 

「じゃあ、質問を変えるよ?主を侵食して死に追いやろうとする物が、大いなる力を与える。

なんだってやれるようにしてくれる。これに疑問を覚えない?」

 守護騎士は黙り込んでしまった。

 一方では殺そうとし、他人から力を搾取すれば、ご褒美に何でも出来る力をくれる。

 しかも、蒐集を真面目にやったとしても侵食は、突然訪れる。

 そんな物が、助けになるなんて思えないね。

 大体、そんな気前よく力を分けてくれる存在が、転生して回るって?おかしいと思わないの?

 

「では、貴様はどうするというのだ」

 はやては口を挿めずにいます。

 混乱もしてそうだね。

「取り敢えず、蒐集はやって貰う。そこから管理者権限を取り戻して貰ってから、ナハトヴァール

と不都合なデータを消去して、問題なく動くようにデータをアレンジする」

 元データは、ベルカ時代にすら消失していた。

 最初に書き換えた奴が、念入りに消した形跡があった。

 だからこそ、アレンジするしかない。

 だが、アレンジした結果が読めない。

 他ならぬ管制融合機としての夜天に、どう影響するか分からない。

 上手くすれば、影響はないし、下手をすれば全くの別物になる可能性すらある。

「闇の書のデータをアレンジだと!?」

 シグナムが驚愕の声を上げる。他の連中も驚いている。

 古代ベルカのロストロギアだ。

 語外に無理だと言っているのが、分かる。

「私になら可能だ」

 私は簡潔に事実を伝えてやる。

 

 最も、はやてが管理者権限を取り戻せるかが未知数だ。

 小学生が、怨霊に勝てるかな?

 私のプランのウイークポイントは、そこもある。

「まあ、いきなり結論を迫っても、答えられないでしょ。はやてとよく話し合って決めると

いいよ」

 私ははやてを見て、守護騎士連中にそう言った。

 はやては、どこかホッとしたようだった。

 考える時間くらい上げるよ。悠長にはしていられないけど。

「このまま、主をお連れして邪魔はしないのか?」

「私はしない」

 私は貴方達はという視線を飛鷹君達に送る。

 3人は私に同意するように頷いた。

 

「最も、そこで立ち聞きしてる執務官殿の意見は分からないけどね」

「「「え!?」」」

 3人共、気付いてなかったのか。

 守護騎士連中も、視線を執務官殿が隠れている場所に向けている。

 

「事情次第だね。詳しく話を聞かせて貰おうか」

 執務官殿は、悪びれもなく出てきて、そう言った。

 

 流石。図太い事。

 

 

     

              :クロノ

 

 結界の発動が確認され、僕は現場へと出動した。

 ベルカとも違う術式により、形成された結界。

 確認が急務だった為に、1人で先に出た。武装局員は出撃準備が出来次第の出動だ。

 本来ならば、無謀な行いだが、今回は正解だったらしい。

 

 興味深い話が聞けたしね。

 

 一応、隠密が不得手とはいえ、気配は消してたんだけどね。

 アッサリと気付かれた。騎士達も気付いていた。

 それで恐れ入るような新人じゃない。

 僕は特に誤魔化す事なく、出ていく。

「事情次第だね。詳しく話を聞かせて貰おうか」

 騎士達が主を庇う位置に立つ。

「僕1人だ。話を聞く耳があるなら、話し合いには応じよう」

「じゃ、応援も向かってるみたいだし、手短に。管理局は今はどういう方針で動いてるの?」

 レクシア…いや美海か。彼女が表情を変える事なく本題を訊く。

 応援が向かっている事にも、気付いていたのか。厄介な相手だな、相変わらず。

 

「管理局は封印する方針で動いてる」

 これ以上、警戒させない為に端的に答える。

 それに、美海の解決法に興味があった。

「どうやって?」

 美海が更に詳しい事を訊いてくる。

 守護騎士達は、主であるはやてという子を連れて、いつでも逃げられるような態勢だ。

永遠結晶(エグザミア)を使う」

 美海が眉を寄せる。

「確かに、あれはアルハザードの連中が、失敗作を投棄する目的で造ったものだけどね。

どうやって夜天だけ放り込む気なの?まさか、はやてごと放り込むの?」

 その言葉に、守護騎士達の表情が険しくなる。

「違う。タイミングが難しいのは事実だけど、方法は考えてある。主と闇の書を強制的にリンクを

遮断して、闇の書が転生しようとする一瞬を突いての封印を考えている」

 美海が呆れたような顔をする。

「ちょっ!ちょっと待って!それシグナム達はどうなるんや!?夜天の魔導書だって犠牲になった

子やないか!!見捨てるんか!?」

 主のはやてがここで口を挿んだ。

「他にプランがなければね」

 1つ世界が滅ぶより余程マシだ。

 それを回避する為なら、恨まれる覚悟くらいはある。

 だが、美海のプランが浮上した。

「成功率はどの程度と?」

 美海が怒るはやてを無視して訊いてくる。

「話を聞くと、大体7~8割らしい」

「残り2~3割失敗する訳だ。世界の命運掛けるには、分が悪いと思うけど?」

「……」

 確かに、それがネックだった。

 今、ユーリが永遠結晶(エグザミア)の複製を造っているが、色々と説明を受けたが彼女なりの

勝算があるように思う。僕はそれを伝えた。

「へぇ。それってユーリ・エーベルヴァイン?大物引っ張ってきたね」

「知ってるのか?」

 美海は頷いた。現代の魔法理論がどうなっているのか調べたそうだ。

「プレシア以来の大魔導士の称号を持つ人物だし」

 美海の言葉にフェイトが驚く。そうか、言ってなかったか…。

 彼女の魔法技能と研究成果から彼女は、空位だった大魔導士の称号を受け継いだのだ。

「まあ、そんな人物が成功させるって言ってるなら…どうなんだろうね?」

 美海は微妙な反応だ。

 

「それでは、そっちのプランはさっき聞いた通りか?」

「そうだね。浸食の原因は防衛プログラム・ナハトヴァールだから、それさえなんとかなれば問題

ないからね」

 僕の質問に簡潔に美海が答えた。

 だが、しかしと彼女は付け加える。

「これには、はやてが頑張らないとどうにもならない。他人が手助け出来ないし」

 管理者権限にアクセス出来る機会は、1度きり。

 闇の書が完成し、管制融合機に主導権が一時的に渡る僅かな時間のみ。

 当然、妨害が予想される。

 はやては独力で、これを突破しないといけないらしい。

 そして、取り戻した管理者権限を使って、防衛プログラムを分離。

 防衛プログラムを破壊した後、美海の出番となる。

 残留したバグを完全に見付け出し削除。

 そこから、闇の書のデータを防衛プログラムなしでも、問題なく動くようにアレンジする。

 というのが、彼女のプランらしい。

 

 しかし、これにもユーリ案と同じように不安材料がある。

 主であるはやてが、管理者権限を取り戻す事が出来るのか。

 アレンジした後、管制融合機にどういう影響が出るか不明。

 そして、管理局としての問題は、蒐集を継続しないといけない事である。

 明らかな犯罪行為を見逃していいものか…。これは持ち帰って艦長から上層部に諮る必要が

ある。

 

 だが、困った事にこれが成功すれば、ユーリ案より救われる者がいるという点だろう。

 

 僕1人で判断する訳にいかない為、持ち帰って協議すると告げる。

 

 後は気が重いが、これも告げる必要がある。

「後は君の事だ。フェイトを裁いた以上、君も裁判を受けて貰わなきゃならない」

 返事は案の定だった。

「お断りだね」

 自分は管理局が管理する世界の住人ではない。

 管理局法に従う義理もないという主張だった。

 

 頭痛がする。

 

 この議論は、平行線になりそうなので打ち切る。

 逮捕に来たら抵抗すると言われた。

 

 肝心の闇の書の問題は、はやてに選択の時間を与える事になった。

 

 僕は応援に向かっている武装局員に、念話を送り一緒にアースラに戻った。

 期限は、3日。

 

 海鳴臨海公園で決まる。

 

 

              :はやて

 

 なんか、私1人…いや、すずかちゃん達も置いてきぼりやったな。

 

 シグナム達が、蒐集をやっとって人様に迷惑掛けとった事。

 私の病気が、夜天の魔導書の呪いの所為やった事。

 そして、それが夜天の魔導書の意志やない事。

 なんや、魔法の犯罪を取り締まる組織があるっちゅう事。

 それと、これからどうするかの選択肢。

 容赦なく告げられて、頭ン中滅茶苦茶や。

 

 私、なんも知らんかったんやなぁ。

 違うな。知ろうとなんてしとらんかったんや。

 自分に将来があるなんて、考えた事なかったしな。

 事情なんて、どうでもええと思ったんや。

 

 でも、突然、目の前に助かる方法…どれも犠牲になるもんはありそうやけど、あるって

分かった。

 美海ちゃん?は、これからどうするか3日で決めてって言うとった。

 あまり、長い時間は取れんらしい。

 

「貴女には4つの選択肢がある。1つ、守護騎士達を信じて蒐集をやらせて世界と心中する。

2つ、管理局案の採用。3つ、私のプランに乗る。4つ、何もせずに世界と心中する」

 心中って…。実際の選択肢は2択やないか。

 その2つのメリット・デメリットも聞いとった。

 それを踏まえて、話し合うように言われた。

「1つ訊いてええか?」

 私は美海ちゃんに言うた。

 美海ちゃんは無言で促す。

「前回って、どうして失敗したん?」

 美海ちゃんは、青汁を一気飲みしたみたいな顔になった。

 そして、失敗の原因を教えてくれた。

 本国からの呼び戻しに、本来は集中して取り組まなんといかん事に、幾つかの仕事を掛け

持ちでやらなあかんかった事。

 なんかまだありそうやったけど、美海ちゃんは言わなかった。

 

 死んでもうた人は、美海ちゃんの大切な人やったんやね。

 そう感じた。

 だから、あの子は一切言い訳せえへんかった。

 

 3日後に、結論を伝える為に海鳴臨海公園へ行く事になった。

 管理局っちゅう警察みたいな人も、それで帰ってった。

 

 私達も家に帰る事が出来た。

 シグナム達は、尾行や追跡を警戒しとったけど。

 

 それは、そうと、帰ったらまずやらなあかん事がある。

 

 お説教と感謝や。

 

 

              :フェイト

 

 クロノが難しい顔でアースラに帰還して、はやても騎士達と一緒に先に帰って行った。

 そして、私達のみが、この場に残った。 

 3日後、結論が出る。

 この前、聞いた闇の書に、あんな事情があったんだ。

 そして、レクシア…美海は、どれくらい前のか分からないけど、闇の書の主と知り合い

だったんだ。そして、助けようとして失敗した。

 美海は言わなかったけど、その原因の1つに騎士達も絡んでいたんじゃないかな?

 シグナムは言っていた。昔の自分達より上等だって。

 

「あの…美海。まだ、分からない事があるんだけど…」

「私達は、もっっと分からないわよ!!どうなってんのよ、一体!!」

 私の言葉を遮るようにアリサの怒号が木霊する。

 あっ。そうだね。アリサ達もいたんだった。

「まあ、事情は後で説明するよ。取り敢えず、今日はこれ以上、ここにいれないでしょ」

 美海は、赤い水晶を一瞥して出口に向かって歩いて行ってしまう。

 私は慌てて美海の後を追いかけた。

「ちょっと待ってほしいの!飛鷹君が生まれたばかりの小鹿みたいになってるから!!」

 なのはの制止する声に、美海も私も立ち止まる。

 美海は呆れ顔だった。            

「君、それ使い方、考えた方がいいと思うよ」

「仕方ねぇだろ!」

 飛鷹が抗議の声を上げたけど、すぐ痛みで黙り込んだ。

 なのはが肩を貸してるけど、手が足りなさそう。

 私も肩を貸してあげる。

 アリサとすずかは、事情が分からずに怪訝な顔をしてる。

「飛鷹君の強化魔法って、身体に負担が掛かるんだよ」

 なのはが、苦笑い気味に説明する。

 ピンとこないのか、2人はキョトンとしている。

 

 飛鷹を支えて、建物を後にした。

 

 支えられて駐車場に到着した時には、車の運転を担当した両親組が既に待っていた。

 飛鷹の有様を見て驚いていた。

 

 その次の瞬間には、なのはのお父さんとお兄さんが素早くなのはを引き剥がしていた。

 ついでだと思うけど、私も剥がされた。

 そして、飛鷹は荷物のように抱えられ車に放り込まれていた。

 

 いくらなんでも、少し気の毒な気がした。

 なのはも苦笑いしていた。

 

 美海は帰る途中も、一切口を開かなずにジッと窓の外を見ていた。

 私は隣に座って、そんな美海を見ていた。

 

 

              :なのは

 

 次の日の昼休み。

 

 私達は、屋上でお弁当を食べていた。

 勿論、アリサちゃんとフェイトちゃんが、美海ちゃんを確保した上でだけど。

 なんかだんだん美海ちゃんの事が、分かり始めてきました。

 自分から動かない時は、嫌なんだなって。

 美海ちゃんは、屋上まで引き摺られていた。

 登校して来た時には、いつもの美海ちゃんに戻っていた。

 オールストン・シーの帰りみたいな雰囲気だったら、いくらアリサちゃんでも引き摺って

行けなかったと思うの。

 あの時は、誰も美海ちゃんに声を掛けられなかったし。

 

「それで、どういう事なの?あれは」

 お弁当を食べ終わって、アリサちゃんが口を開く。

 飛鷹君?当然いるよ。筋肉痛でまだヨロヨロしているけど。

 

 まずは、フェイトちゃんに許可を取って、ジュエルシード事件の経緯から話す事になった。

 何しろ、危険な魔法道具を集めてるって事と、フェイトちゃん達と奪い合いになってると

しか、説明してないから。そこから説明した方が分かり易いって思って。

 

 取り敢えず、私達が分かっている事を先に説明する。

 その間、アリサちゃんとすずかちゃんは黙って聞いていた。

 闇の書…夜天の魔導書の下りは、顔色が変わったけど。

 

「それで?美海は、そのベルカ?とかいう世界で王様で、その…夜天の魔導書の主を助けよう

とした事があって、それで今回の展開って訳?」

 アリサちゃんが全て聞き終えて、そう纏めた。

 すずかちゃんはポカンとしてる。

 結構、壮大な話だよね。ベルカ時代って。

 

 美海ちゃんはと言えば、なんだか嫌そうな顔をしていた。

 フェイトちゃんは横でハラハラして美海ちゃんを見てる。

 どうも美海ちゃんは、王様扱いされるのが嫌みたい。

 美海ちゃん自身が、過去の自分の事を、こう言っていた。

『愚王だったんだよ。私』

 なんだか、物凄く悲しい事だと私は思った。

 私は、美海ちゃんの友達だ。

 なんとか支えになりたいって思った。

 

 それでようやく本題。

「美海。あの赤い水晶は何?襲ってきた人達は何が目的って何かな?」

 フェイトちゃんが、思い切って踏み込んで訊いた。

 飛鷹君も真剣に身を乗り出す。

「まずは赤い水晶は、永遠結晶(エグザミア)だよ」

 え!?それって今、クロノ君達が造ってるって言ってたよね?

「ちょっと待て!って事はオリジナルか!?」

 飛鷹君が焦ったように大声を上げた。

 一応は、認識阻害を掛けといてよかった。

 そう言えば、複製だって言ってたっけ。

 

 って!重大な事なんじゃないの!?

「確か、何か封印してるって言ってなかった!?」

 私が確認すると、美海ちゃんが頷く。

 じゃあ、あれにも!?

「あの人達の目的は中身って事?」

「どうかな…」

 美海ちゃんは意味ありげに呟いたきり、説明はしてくれなかった。

 闇の…夜天の魔導書とは別の事件って事?

 

 私は、それっきり何も説明してくれなくなった美海ちゃんの、フォローをするように話を

変えた。オールストン・シーの感想に。

 

 それから、帰りにフェイトちゃんの携帯を見に行こうと話した。

 いい機会だしね。実物を見ながら決めるのもいいと思う。

 

 放課後。

 私達は暗い話題を忘れるように、はしゃいで携帯電話を見に行った。

 勿論、美海ちゃんはフェイトちゃんが捕まえて連れて行った。

 何故か、みんなフェイトちゃんより盛り上がっていた。

 偶々、リンディさんから連絡があって、その場で買う事も出来るようになったから。

 フェイトちゃんは申し訳なさそうだったけど。

 

 リンディさんは忙しい中、携帯電話の契約に来てくれた。

 フェイトちゃんが選んだのは、黒い折り畳み式の携帯。

 なんとなく、バルディッシュを彷彿とさせるデザインだった。

 

 そして、最後に重要な事を私とフェイトちゃんに伝えてくれた。

「2人のデバイスが、明日には修理が終わるって言っていたから、取りに来てくれる?」

 なんだか、説明もあるんだって。なんだろう?

 そして、美海ちゃんにも同行をお願いしいた。

「フェイトさんの救援の時に、説明に来てくれなかったでしょ?」

 リンディさんはにこやかにそう言ったけど、目が笑っていなかった。

 なんか…怖い。

「善処した結果、行かないという事になりまして」

 そのプレッシャーをモノともせずに、言い返した。

「方針について話し合いたいので、今回はすっぽかさないで下さいね?」

 流石に、これには美海ちゃんも頷いた。

 美海ちゃんは、苦々しい顔をしていたけど。

 

 私達は明日、アースラに4人で行く事になった。

 はやてちゃんは、大丈夫かなっと心配になった。

 

 期日までは時間がある。今から私が心配しても仕様がないけど。

 

 あの戦槌を持ったヴィータちゃんが、どうするのかも心配だった。

 

 

              :リンディ

 

 クロノから齎された報告には、正直に頭を悩ませた。

 今、管理局上層部がおかしな動きをしている。

 仮に、レクシアさん…いえ、美海さんの案を相談したところで却下される可能性がある。

 ユーリさんに無理して来て貰っている関係もある。

 

 ユーリさんと言えば、フローリアン姉妹が戻ってきた。

 当然、彼女達から事情を訊いた。

 珍しい世界に興味があったから出た。というのがキリエさんの話。

 その妹を連れ戻しに行ったというのが、アミティエさんの話。

 2人の様子に裏があるのは、最早、分かり切っているが、注意に止めた。

 今は突くべき時ではない。下手に突いて蛇でも出たら事だ。

 

 それでも、まずはユーリさんと話す必要がある。

 私は、彼女が作業場に使っている部屋へと足を向けた。

 入ると、丁度、彼女は休憩中だった。

 惜しむらくは、護衛がフローリアン姉妹だった事だろう。

「ごめんなさい。2人共、ちょっと席を外して貰えるかしら」

 不審に思われている事ぐらい、分かっているだろうからと開き直る。

 2人は黙って敬礼して部屋を出た。文句も質問もなかった。

「何かありましたか?」

 ユーリさんが怪訝な顔で訊いてくる。

 私は真剣な表情で、向かいに座っていいか尋ねる。

 彼女は、快くどうぞと言ってくれたので、座る。

「実は意見が聞きたいのよ」

「意見ですか」

 私は頷くと、美海さんの方法を説明する。

 彼女は黙って聞いていた。

「どう思う?」

 話し終えると、彼女に意見を求めた。

「管理局としては、蒐集行為を認められないという事ですか?」

「勿論、それも問題ね」

「まだ、幼い主に賭けるのは、避けたいと?」

 正直、どこまでやれるか完全に未知数だ。

 今まで心から仕えてこなかった騎士達を、従えている事実を思えば大丈夫そうでもある

し、逆に力がない主であるからこそという部分もあるだろう。

「正直、それを出来る程の方なら会ってみたいです!」

 どうやら、彼女は自分のやり方が全てというタイプの天才ではないらしい。

 取り敢えず、これで彼女が拒否しているという理由で却下はなさそうね。

「私でも、闇の書をアレンジなんて出来ませんよ!管理局さえよければ、そちらをお手伝い

したいくらいです」

 好感触ね。多分に興味本位だけど。

「実現については、どう?」

「一番困難なのは、アレンジです。勿論、管理者権限を取り戻すのは別にしてですが。それ

が出来るなら、問題ないですね」

 私は彼女に礼を言って、立ち上がった。

 

 ユーリさんは最後まで、美海さんと話したいと言っていた。

 どんな人かとか、研究テーマはとか。

 話して上げたけど、何か不味い事したかしら?

 

 ユーリさんは恍惚とした顔で、あれこれ考えているようだった。

 

 2人の天才が話せば、もっといい方法が浮かぶかしら?

 現実逃避気味に私は、そんな事を考えていた。

 

 問題はあの子が、来てくれるかだけね。

 まあ、フェイトさんが連れて来てくれるでしょ。

 なんだかんだで、美海さんはフェイトさんに甘い。

 

 まずは、上層部に話す前に、レティに裏口の様子を訊かないと。

 

 

      

              :美海

 

 私達はアースラに来ている。

 なんで私まで。

 明日でいいじゃん。

 内心愚痴が渦を巻いていたが、フェイトに腕を掴まれては仕様がない。

 最近、こんなのばっかりだ。

 

 まずはデバイスの受け渡しに立ち会う。

 私と飛鷹君いらないでしょ。

 しかし、4人で技官さんの前に立つ。

「いやぁ。なんとか間に…あったよぉ」

 目の下に隈が出来ていて、本人ボロボロだった。徹夜が続いたんだな。

 ブラックなとこだよ管理局。終わったら断固として、関係を断つぞ。

「「ありがとうございます!」」

 2人が声を揃えて礼を言った。

 タイミングを計った訳じゃないのが凄い。

 

 あれ?なんか変わってる?

 

「レイジングハート」

「バルディッシュ」

 2人がデバイスを手に取る。

「なんか形が変わってる!」

 なのはが歓声を上げる。

 レイジングハートは台座の部分が変わっていた。色も濃くなってるかな?

『オシャレでしょ?』

 レイジングハートがジョークを飛ばす。中身も変わったか?

「バルディッシュも!」

『イェッサー』

 バルディッシュは形がかなり変わっているが、返事は普通だった。

 説明を求めるように技官殿を見る2人。

 

「2機の希望でね。カートリッジシステムを搭載したの」

「「!!」」

 2人は驚いたようだ。

「悔しかったんでしょうね。主の力を十全に発揮させて上げられなかったのが」

「そんなの!私の力不足だったのに!」

「私も…」

 沈んだ表情になってしまった2人に、技官殿が首を振る。

「2人はね。その歳から考えられない程、力が強いんだよ。だからこそ、サポートが追い

付かなかったんだよ」

 成程、カートリッジシステムを入れる事で、容量の増設も大幅に行ったのか。

 カートリッジがあれば、威力増幅も問題ないしね。 

 それぞれモードが3つあるが、フレームの強化がまだ済んでいないので、使用は控える

ようにと言われていた。それ、修理終わってないって言わない?

 

 デバイスを神妙に受け取って、部屋を出る時に新しい名前も考えて上げてと言われていた。

 

 そう言えば、ユーノ君だが夜天の魔導書の裏付けを頼まれて、無限書庫に行ったそな。

 影が薄いね。哀れな。

 まあ、気の済むまで裏付けすればいいよ。

 

「あ!!」

 突然、大声が聞こえる。

 声の方を見ると、そこにはフェイトとまた違った金髪の美少女がいた。

 なんか変な2人組を引き連れて。

 

 こちらに走ってくる。

 が、途中で見事に転んだ。何もない所で転ぶとか、現実に始めて見たよ。

 挫けずに、立ち上がると再度走り、私にタックルを食らわせようとしてきた。

 当然、避けたけど。

 

 ヘッドスライディングして、ズザァーーという音を立ってて滑り止まる。

「どうして避けるんですか!?」

「いや。その前に、どうして突っ込んできたの?」

 話はそこからでしょ。

 なんか金髪さんは、不思議そうに私を見ている。

「聞いてませんか?」

「特に何も」

 

「ええぇ~!!」

 金髪さんは悲鳴を上げた。

 

 これが、ユーリ・エーベルヴァインとの邂逅であった。

 格好付けても、どうしようもないけどね。

 

 そして、フェイトが何故か不機嫌そうにユーリを見ていた。

 どうしたの?

 

 

              :リンディ

 

 やっぱり不味い事したかしら?

 呼ぼうとして、映像で様子を確認したら、トラブルになっていた。

 あの子、暴走する悪癖があったのね。

 

 思わず、溜息が出る。仕様がないわね。

 

 私は気を取り直して、呼び出そうとしたまさにその時、コールが入る。

 スイッチを押すと、ウィンドウが開く。

 エイミィだった。

「どうしたの?」

 エイミィが困惑した顔をしていた。

『グレアム提督がいらっしゃいました』

 提督が?フェイトさんに挨拶に来たって訳じゃないわね。

 レティと話せなかったのが、痛いわね。

「分かったわ」

 私は頷くと、立ち上がった。グレアム提督と話すいい機会と思うしかないわね。

 私は応接室に向かった。

 

 応接室に入るとグレアム提督とリーゼ達が、立ち上がって迎えてくれる。

「突然、済まないね。リンディ」

「いいえ。歓迎致しますよ」

 笑顔でそう告げると、グレアム提督が苦笑いする。

「警戒させてしまったかな」

 笑顔を崩したりはしない。

 

「今日は話にきたんだ。八神はやてについてね」

「っ!?」

 まさか、自ら不味い事を話すなんて…。

 流石に、笑顔が崩れ掛ける。

 私は必死に笑顔を維持したけど、グレアム提督の表情に一切変化はなかった。

 リーゼ達も。

 

 提督の隠し事はこれなの?

 

 

 

 




 辛うじて、グレアム提督を出せたよ。
 次回、はやて回にするか悩み中です。
 劇場版のレイジングハート、本体は赤い球ですよね?
 それ考えれば、形変わってないんじゃ…って思ったの
 私だけですかね。

 頑張ります。

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