魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 なんとか、誤差の範囲で投稿出来ましたかね?
 ドンドン厳しくなっていきますね。

 飛鷹がはっちゃけてます。

 それではお願いします。


第31話 不審

              :飛鷹

 

 気合と共に、ライダースーツの女に斬り掛かる。

 同時に魔力弾の弾幕を、繰り出す。

 なのはとの特訓は、伊達じゃない。

 俺の動きを阻害しないように、撃つなんて問題なく出来る。

 俺の動きの隙を、魔力弾の攻撃で補う。

「!?」

 楽勝だとでも思っただろ!?

 甘いぜ!

 高速で剣を振るう。

 ヤツの域までは届かないが、俺にはヤツにない魔力量がある。

 魔力弾と剣技の両面攻撃に、ライダースーツは防戦一方になる。

 だが、分かってるぜ。本気じゃないんだろ?

「スフォルテンド!」

『ホントにやるのか?』

 俺はデバイスであるスフォルテンドとも、話し合いを済ませていた。

 こんな事が起こった時、どうするかを。

 

 なのは達にシェルターの防御が掛かる。

「飛鷹君!?」

 なのはが声を上げる。

 これで、なのは達に気兼ねする事なく戦える。

 何しろ今のなのは達は、デバイスを持ってないからな。

 シャマルと一緒に放り込むなんて真似はしない。

 アイツも今は敵だからな。

 はやては防御範囲に入れたが、シャマルは意図的に外した。

 だから、シャマルは弾かれた筈だ。

 確認してる暇はない。

 まだ、油断している間に、コイツを倒す。

 

 ライダースーツの女が、溜まらず俺から距離を取ると、腕を振る。

 ライトの魔法が掻き消える。

 辺りが闇に包まれた。

 

 安易に暗視の魔法を使う訳にはいかない。

 突然、閃光魔法なんてよくある事だからな。

 逆に俺が仕掛けるという手もあるが、相手はフルヘルメット。

 閃光で目が眩むなんて事は、期待しない方がいいだろう。

 

 地獄の高町家・闇稽古の成果を見せてやるぜ。

 

 剣を構えて、気配だけでなく五感を研ぎ澄ます。

 足からロボットが歩く振動が、空気を搔き乱しているヤツがいる。

 これが、ライダースーツの女だろう。

 それにしても、魔力反応も気配も一切ねぇ。

 闇稽古、やっとくもんだな。

 ロボットが俺を取り囲み、俺に向かって拳を一斉に振り下ろす。

 俺は、思惑通り上に跳んだ。

 その時、ロボットの陰から飛び出す存在があった。

 だろうな!

 銃剣のお化けみたいなデバイスが振るわれる。

 マナバレットが縦横無尽に飛ばすと、ロボットが爆発を起こす。

 爆発の光で、相手が浮かび上がる。

「ッ!!」

「海波斬」

 俺は魔力で足場だけ造り、踏み込む。

 俺だって、漫然と見物してた訳じゃねぇ。

 向こうは必殺の一撃を打ち込んだ積もりだろうが、こちらも計っていた。

 鋭い金属音と共に、交錯する。

 俺は振り向きザマに、腕を振るう。

「トランプル!!」

 高圧で対象を圧し潰す魔法だ。

 ライダースーツの女が、地面に叩き付けられる。

 俺を魔法を維持したまま、別の魔法を撃ち込む。

 これも、なのはとの空き缶バドミントンの成果だ。

「マグナブラスト!!」

 立ち上がろうとするが、そう簡単にはいかない。

 爆炎の砲撃が、ライダースーツの女に直撃する。

 

 これで倒したなんて思わねぇよ。

 

『勝ったと確認するまで、気を抜いてはいけない』

 高町家地獄修行で、最初に言われた事だ。

 

 そして、案の定。

 ピンピンしていた。

 多少、ライダースーツに焦げ目が付いてるが、ほぼ無傷。

 だが、最初に斬撃は少しは通ったようだ。

 上腕部が薄っすらと切れている。

 でも、これは流石にダメージなさ過ぎだろ。

 

 もう一頑張りってところか!?

 

 俺が気合を入れ直した時、ライダースーツの女から魔力とは違うエネルギーが噴出

する。

 

 ちっ!ヤル気出しやがったか!!

 

 剣を構え直した、まさにその時。

 俺の目の前に、ライダースーツの女が腕を振りかぶった状態でいた。

「っ!?」

 目視すら出来ないスピードで、腕が振り抜かれる。

 

 俺は、錐揉み状態で吹き飛ばされていた。

 

 

              :美海

 

 私の前にフェイトが立つ。

 気遣いは嬉しいけど、ちょっとやる事あるから、ごめんね。

 湖の騎士が防御魔法から弾かれる。

 私も巻き込まれた振りをして、一緒に魔法の外へと出た。

「シャマル!!」

「美海!?」

 はやてとフェイトの叫び声が聞こえる。

 後でフォローしとかないと、飛鷹君が大変な事になるね。

 勝手にやったんだから、それくらいして上げないと申し訳ない。

 今回、彼のミスじゃないんだから。

 

 湖の騎士が弾かれた勢いのまま、地面に転がる。

 コイツ、戦闘得意じゃないとはいえ、これくらい着地を決めなさいよ。

 私は余裕を持って着地した。

 

 流石にいつまでも地面に転がったままじゃない。

 湖の騎士が素早く立ち上がり、私に目を向ける。

「あ、貴女も出されちゃったの!?美海…ちゃんだったよね?ごめんなさい!

巻き込んじゃったのかしら…」

 そんな事を宣う。

 アンタに心配されると、違和感しかないな。

 私は1つ溜息を吐いた。

「自分で出たんだよ。あの場に留まったら、やれない事があるからね」

「え!?」

 さっきまでの私と印象が違うので、戸惑っているようだ。

 私はサッサと湖の騎士に背を向けて、永遠結晶(エグザミア)のある場所に歩き出していく。

 

 ライダースーツの女と飛鷹君の戦闘が、始まっている。

 男の決意に水を差すのもなんだし、スルーする。

 今度こそ頼むよ、飛鷹君。

 それを横目に永遠結晶(エグザミア)へと歩いていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

 湖の騎士が私を追ってくる。

 要らんっていうの。付いてこないでいいって。

 私は魔法を発動する。

 

 湖の騎士は、()()()()()()()()()、ついでに私も見失った。

 私は水晶に近付いていく。

 直前に立ち止まった。

 

「誰なの、貴女?」

 そこには、赤いドレスの女がいた。

「見て分かるでしょ。敵だよ」

 私には分かる。コイツが敵だと。

 よく知っている人でなしの気配。心の腐った匂い。

 ベルカ時代に、一時期嫌になるくらい嗅いだ。  

 

 私は一瞬にして、騎士甲冑を纏う。

 血液の中から埋葬剣と、シルバーホーンを取り出す。

 シルバーホーンを永遠結晶(エグザミア)に向けて、引き金を引く。

 女がせっせと細工していたものが、音を立てて文字通り台無しになる。

「成程。確かに敵みたいね」

 女の手から黒い靄が噴出し、杖の形を取った。

「私。敵には厳しいわよ?」

 ああ、そう。奇遇だね。私もだよ。

 

 ロボットが一斉に爆発に、辺りが一瞬、閃光が包む。

 

 それを合図にしたように、私の戦闘が始まる。

 黒い杖から、怪しい光る赤い魔力が槍のように飛び出す。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、生命力そのものを奪い取る効果があるようだ。

 下種らしい魔法だ。

 私は最小限の動きで躱していく。

 私の身体の横を通り過ぎていく槍を、埋葬剣で斬り砕いていく。

「!!?」

 ジュエルシードの時の奴より弱いな。コイツ。

 シルバーホーンを向ける。

術式解散(グラムディスパージョン)

 赤い槍が展開前に消える。

 女が驚愕に目を見開く。

 

 私は、その隙を付いて間合いを詰める。

 

 だが、斬り付けようとした姿勢で、止まる。

 

 飛鷹君が殴り飛ばされ、こっちにライダースーツの女が向かってくる。

 おや?奇門遁甲術が効いてないぞ。

 術式が乱されてる。どうなってんのやら。

 剣の軌道を変更する。

 ライダースーツの女に。ライダースーツの女の拳を剣で逸らす。

 大したスピードとパワーだけど。それだけだ。

「友達に手を出すな!!」

 怒りに燃えているところ悪いが、アンタの相手は私じゃない。

 それと重要な事が1つ。

「コイツは、アンタと友達になんてならない」

 もう魔法は滅茶苦茶になっているので、奇門遁甲術を解除する。

「!?」

 フルフェイスヘルメット越しでも、激怒しているのが分かるけど、頭に血が上り過ぎだ。

 

「どっち向いてんだ!!コラァ!!!」

 飛鷹君が額から血を流しながら、ライダースーツの女を背後から斬り付ける。

「!?」

 今度はライダースーツの女が驚愕する。

 だが、キッチリ剣を回避している。

 

 飛鷹君が、こっちをチラッと見て言った。

「なんでお前が、ここにいるのかは今は訊かない。こっちを片付けるのが先だ」

 飛鷹君は、ライダースーツの女と相対する。

 やっと一皮剥けたか。

 

 私が相手をしていた奴は、シルバーホーンをずっとポイントしていた為、動いていない。

 じゃあ、私はこっちを始末するか。

 

 私が向き直ると、女は表情が険しくなる。

 

 私の方が敵に厳しかったかな?

 

 

              :キリエ

 

 ちょっと…。どうなってんのよ!

 本気で相手をしているのに、倒れない。

 私も、まだ全力ってわけじゃないけど、これで倒せない程、強い奴がいるなんて信じられ

ない。しかもまだ、子供じゃない!

 

 最初は暗闇の中で、一発いれれば終わりだと思ってた。

 気配も何もない、音だってしないサイレントムーヴでの奇襲。

 それに気付かれ、反撃すらされた。

 しかも、ミッドで見た事もない魔法も使われた。

 ミッドで見た魔法なら中和するなり、打ち消すなり出来たのに!

 

 お陰で、本気でやらざるを得なくなった。

 本気で殴って終わりだと思ったら、イリスがピンチだった。

 感覚を乱されていると、データが示している。

 何か魔法を使われてる。これも見た事ない魔法だ。

 魔法を乱す音波を出す。

 これで変な魔法も、ある程度は乱せる。

 私の友達を侮辱した報いをくれてやるって、意気込んで攻撃した。

 だが、こっちの変なのにも、攻撃をあしらわれた。

 

 そして、今。

 殴り飛ばした子が、剣を構えて相対している。

 どれだけ頑丈なのよ!

 まだ、スピードは捉えられてない。

 これで押し切る。

 残像を残して、私の姿が消える。

 畳み掛ける!

 拳がボディに突き刺さる。

 そこで、気付く。拳を両手で掴まれていた。

「!?」

「そのスピードは捕捉出来ねぇからな。だが、攻撃を食らう瞬間なら捉えられる!」

 どうして、そこまで!

「スフォルテンド!」

『根性見せられたら、応えない訳にはいかないな』

 子供の気配が変わる。

『アクセラレータ!!』

 押さえられた腕が、弾かれる。

 放されれば、こっちのもの!スピードで圧倒してイリスの応援にいく。

 私は近距離から最速で動く。

 どんな強化をしたか知らないけど、このスピードを出せる()()がいる訳がない。

 拳でフェイントを入れて、本命であるデバイスを叩き付ける。 

 金属が打ち合わされる鋭い音が響く。

「え!?」

 デバイスが剣で受け止められていた。

 まさか!?

 それだけじゃない。デバイスが徐々に押し込まれている。

 押し返そうにも、ドンドン押し込まれていく。

 堪らずに、距離を取ろうと後ろに跳ぶ。

 

 だけど、向こうは追撃してくる。私のスピードに付いてくる!?

 デバイスを振るうが、悉く剣に止められ、弾かれる。

 それどころか、反撃を受けてシールドが削れている。

「キィィィィィーーー!!」

 強化の影響か、声すら言葉になっていない。

 あの子供の剣が、突如魔法とは違う力で輝き出す。

 私もデバイス・ヴァリアントザッパーのエネルギーを解放する。

 

 叩き潰してやる!

 

 あの子供の剣の軌道が、スルリと変わり私のデバイスが掠る。

 肩が大きく抉られる。

 そして、子供の剣が私の肩を刺し貫いた。

「!!?」

 光る剣が、刺し傷から抉るように振るわれる。

 私の片腕が光る剣の威力に、斬り落とされた。

 痛覚を切っていてよかった。痛みで逃げられなくなったかもしれない。

 蹲って、やられた振りをする。

 案の定、あっちは子供。攻撃してこない。油断はしてないみたいだけど。

 

 もう、撤退するしかない。

 

『イリス。ごめん!撤退する』

『仕様がないね。でも、()()()()()()()()()()()

 

 ごめん…。クッソ!このガキ!今度戦う時は、後悔させてやる。

 

 私は不意に立ち上がって、目晦ましを掛ける。

 強烈な閃光と音が炸裂する。

 

 証拠は残せない。

 デバイスを斬り落とされた腕に向ける。

 腕を消滅させる。

 

 私はステルス機能を全開にして、サイレントムーヴで撤退した。

 

 

              :イリス

 

 あれだけ動き回っていたのに、アイツはピタリと私を狙い続けていた。

 下手に動いたら、撃たれただろう。

 あっちの子供と違って、アイツは躊躇いなく撃つ。子供らしくない。

 キリエの相手をしていた子供が、戦線に復帰した。

 随分と頑丈ね。

 そして、化物が私に向き直った。

 

 私はどちらかと言うと技術者だ。

 戦闘はあまり得意じゃない。でも、そこら辺の奴に負ける事はない。

 でも、あの化物相手は、無理だ。

 アレがあれば、こんな奴、敵じゃないのに。

 

 滑るようにアレが間合いを詰めてくる。

 私が大半の時間を使って開発した魔法は、発動前に無効化される。

 私は杖を地面に突き刺す。

 地面に私の魔力が血管のように、張り巡らされる。

 アレは構わず斬り付けてくる。

 地面が溶けて自在に形を変える。

 アレを包み込み、圧し潰すように圧力を加える。

 邪魔が出来なくなったところで、槍を形成する。

 一気にあらゆる方向から、槍を突き刺す。

 突き刺した槍を抉ってやる。

 

 これでどう!?

 

 突き刺した槍が色を失い、ボロボロと崩れていく。

 包み込んだ地面も同様だった。

 拘束力などなくなった瞬間に、魔力放出で爆発する。

 爆発と同時に、人影が飛び出してくる。

 

 咄嗟に迎撃を選択してしまった。

 これは悪手だ。

 高速でアレの剣が走る。

 槍があっと言う間にバラバラにされる。

 今更、回避行動を取ろうとしても、間に合わない。

 辛うじて、振り下ろされる剣に杖を割り込ませる。

 ()()()()()()()になる。

「チッ!!」

 アレが舌打ちする。

 

 亡霊のような存在でよかった。

 じゃなきゃ、死んでたところだわ。

 自分の身体を拡散させて、永遠結晶(エグザミア)の上に収束させる。

 

 その時、丁度よくキリエが念話を送ってくる。

『イリス。ごめん!撤退する』

『仕様がないね。でも、最低限の事はやったから』

 そう、最低限の事は遣り終えた。

 

 今度は負けない。

 

 私はキリエの目晦ましを使い、離脱しようと跳躍した時だった。

 剣閃が飛んできて、私の足を薙いだ。

「ぎゃっ!!」

 思わず呻き声というか、悲鳴を上げてしまう。

 それでも、止まらない。止まれば殺される。

 

 クッソ!なんて出鱈目な化物なの!?こっちが確認出来る訳ないのに!

 それを当ててくるなんて!!

 

 調べれば、データ化した身体が破損していた。

 

 キリエは心配してくれたが、この時ばかりは鬱陶しかった。

 

 

              :アミティエ

 

 嫌な予感は、高確率で的中する。

 永遠結晶(エグザミア)のある場所では、戦闘が始まっていた。

 私は無意識に舌打ちしていた。

 バイクのスピードを上げて、ゲートを突破する。

 

 一体何をやっているのです!?

 

 下手をすれば…いや、高確率でここは目を付けられる。

 捕まりでもしようものなら、全てが終わりだ。

 

 未来をドブに捨てる積もりですか!?

 

 隔離型の結界は、イリスが張ったものだろう。

 なら、私にも入れる筈です。

 私のデバイスも、キリエと同じ物ですから。

 まあ、普段の仕事で使える物ではありませんが。

 私はヴァリアントザッパーを取り出し、幾つかあるスイッチの1つを押す。

 案の定、結界の一部が波のように揺らぐ。

 更にスピードを上げて、突っ込んでいく。

 

 結界内に侵入すると、イリスの使っている機械兵が薙ぎ倒されていた。

 2人の姿がないという事は、足止めですか。

 相手は闇の書の守護騎士主力の2人。

 機械兵は、そろそろ打ち止めのようです。

 

 戦闘中なのか、念話が通じない。

 もしかして、拒否しているのかもしれませんが。

 手が離せない方だったら、この2人の乱入は厄介でしょう。

 私が相手をしますか。

 素性を誤魔化す時に使う姿になる。

 ライダースーツにフルフェイスヘルメットの姿。

 他にもありますが、これが一番簡単です。

 

 私はスピードを緩めずに、2人に突っ込んでいく。

 2人が気付いて、二手に別れて避ける。

 私は入り口にバイクを横付けして、止まる。

 

 2人は無言でこちらを睨み付けている。

 言葉は無用でしょう。

 皮肉ですね。今は妹や仲間より好感が持てます。

 私はゆっくりバイクを降りて、デバイスを構える。

 

 それでも、止めないといけない。

 

 私の世界を、みんなを救う為に仕方がない。

 

 

              :シャマル

 

 結界から弾き出された。

 おそらく、これは故意に出されたわね。

 あの子、私が敵だって分かってたのね!?

 あの子には顔を見られてない筈だけど。

 現実にこうなったんだから、そういう事だろう。

 はやてちゃんが、弾き出されなかったのは、幸いと言えるかは微妙な事ね。

 下手をすると、はやてちゃんが確保されてしまう。

 

 呆然としたのは一瞬の事。

 すぐに立ち上がると、驚いた事にすずかちゃんの友達が1人立っていた。

 なんか、ボゥっとしてて印象の薄い子だったけど、私が出された時に、

巻き込んじゃったのかしら?

「あ、貴女も出されちゃったの!?美海…ちゃんだったよね?ごめんなさい!

巻き込んじゃったのかしら…」

 心配して声を掛けると、美海ちゃん?が、溜息を吐いた。

「自分で出たんだよ。あの場に留まったら、やれない事があるからね」

 さっきまでと印象が違う。気配が違う。

「え!?」

 戸惑いの声を上げる事しか出来なかった。

 

 もう、彼とライダースーツの女の戦闘が、始まっていた。

 美海ちゃんも、それを横目にサッサと歩いていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

 後を追ったけど、突然、視界から彼女が消える。

 何かの魔法!?

 でも、なんか、どこかで見た事があるような感じだけど、よく思い出せない。

 辺りを見回しても、どこにもいない。

 

 一瞬浮かんだ、騎士失格な考え。

 実行するなって事だったのかもしれないわね。

 

 あの子を人質にして、はやてちゃんを取り戻す。

 

 そんな事を考えてしまった。

 

 取り敢えず、この防御結界ならはやてちゃんは安全だろう。

 これをどうにかするのは、やはりあの2人と合流しないといけない。

 

 1人だと碌な事を考えない。

 

 私はソッとその場を離れた。

 はやてちゃんは、取り戻さないといけない。

 

 待っててね。はやてちゃん。

 

 

              :シグナム

 

 ロボットをヴィータと共に、淡々と片付けていく。

 再生するというなら、粉々にすればいい。

 流石に、ここまでやれば再生は難しいようだ。

 私が動きを止め、ヴィータが叩き潰す。

 慣れたものだ。

 

 あっと言う間に、ロボットの始末を終える。追加の戦力もない。

 終わったか。

 ヴィータに声を掛け、中に入ろうとした瞬間、背後から猛スピードでバイクが

突っ込んできた。

 私とヴィータは左右に別れ躱すと、バイクは建物の入り口で横付けして止まる。

 ライダースーツの女が巨大な銃剣のような武器を手に、バイクから静かに降り、

武器を構えた。

 

 相手の闘気から、言葉は無用。

 だが、我らは急いでいる。

 1人で立ち向かう気概には応えてやりたいが、ここは2人で相手をさせて貰う。

 身体から、魔力とは違う力が噴き出すように、立ち昇る。

 

 ヴィータが突っ込んでいく。

 グラーフアイゼンを打ち付ける。

「ぶっっっち貫けぇぇぇーーー!!」

 気合と共に、振り抜く。

 グラーフアイゼンの軌道を読み、女が銃剣を振るい受け流す。

 だが、ヴィータもそんな事で攻撃が、終わる事はない。

 受け流されるとクルリと回り、遠心力をプラスして再度攻撃しようとする。

 一瞬とはいえ、敵に背中を見せている状況を相手が見逃さずに、銃剣を素早く

引き戻し、繰り出すが、その時には私が横から斬り付けていた。

 気合の声もない静かに剣を振り抜く。

 ヴィータに繰り出した攻撃で、こちらに銃剣を引き戻す事は出来ない。

 女はヴィータの方に転がるように、避けて飛び退く。

 飛び退きながら、銃口をこちらに向けて発砲。

 エネルギー弾の弾幕が張られる。

 ヴィータは回転の勢いのまま、エネルギー弾を弾き飛ばし、私は剣で斬り払う。

 それで私達の足が止まる事はない。相手に弾き飛ばし、斬り払いつつ接近する。

 その動きに女も弾丸を撃ちつつ、こちらに向かってくる。

 まずは、防御の厚いヴィータが前に出る。

 相手が拳でグラーフアイゼンを横合いから殴りつけて、前蹴りを放つ。

 ヴィータが後ろに跳ぶ事で回避。

 私がヴィータに追撃が出来ないように、割って入る。

 女が私の剣を防ぎ、凄い力で弾くと銃剣を振るう。

 途轍もない近距離で、何合も高速で打ち合う。

 ヴィータが今度は私の陰から飛び出し、攻撃を加える。

 銃剣で私の剣を、拳でヴィータのグラーフアイゼンを同時に捌いていく。

 

 よくやる。

 

 だが、私は騎士だ。剣しか扱えない訳ではないぞ。

 銃剣を受け流すと片手で女の腕を取り、組み付いた。

「っ!!」

 我らが無手で戦えないとでも思ったか。

 如何にパワーが凄まじいものだろうと、それをさせない技を使えばいい。

 女が腕を外そうと動くが、その動きを利用して投げる。

 関節技を極める。自慢のパワーで外そうとする。

 が、頭がガラ空きになっているぞ。

 組み付いたら、ヴィータが手を出さないと思っただろうが、そうではない。

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げて、女の頭に振り下ろす。

「!?」

 女の身体からエネルギーが放出される。

 私がひっくり返るように振り払われ、ヴィータの攻撃が逸れる。

 銃剣から、エネルギーが溢れ出し、それが横薙ぎされる。

 私達は咄嗟に防御態勢を取る。

 お互いの相棒のシールドが間に合ったが、吹き飛ばされる。

 衝撃に逆らわず転がり、素早く立ち上がる。

 が、女はこちらを倒す為の技を繰り出す時間は、十分だったらしい。

 銃剣の刃がエネルギーを纏い、天を衝くような長さになっている。

 離れた場所にいる私達にも、威力の程が伝わってくる。

 

 致し方ない。

 

「レヴァンティン。悪いが付き合って貰うぞ」

『お気になさらず』

 私はニヤリと笑う。

 威力をどれだけ抑えられるか、分からんがな。

 ヴィータ。暫くの間、頼む。

 

 私は相手に向かって間合いを詰めようとした時。

 

 女の身体に緑の魔力光を放つ糸が絡み付く。

「!?」

 

「「シャマル!?」」

 入り口には、想像通りの人物が立っていた。

「大丈夫!?2人共」

 何故、ここにシャマルがいる!?

 主はどうした。

 

 問い質そうとしたが、その時、結界が解かれる。

 拘束された筈の女が、糸を強引に引き千切ると、跳躍してバイクに飛び乗る。

 シャマルがすぐ近くに着地されて、再び拘束しようとするが、猛スピードで

走り去っていく。

 後を追おうとしたヴィータを制止する。

「今は、それより優先しなければならない事がある」

 ヴィータは舌打ち1つして、グラーフアイゼンを下ろした。

 

「シャマル。何故、お前がここにいる?主はどうした」

 気になっている事を問い質す。

「それが…」

 シャマルの言葉に、私達は天を仰いだ。

 主に禁じられた蒐集を行っていた事が、バレるのは仕方がないが、主が管理局

に押さえられれば、どうなるか分からない。

 

 このまま、強敵と連戦しないといけないらしい。

 

 

              :美海

 

 ちっ!仕留め損ねたか。

 まあ、こっちも仕込みをしたから、最低限の戦果か。

 飛鷹君が、魔法の効果が切れて地面に尻餅をついている。

 

 評価を下方修正しないとダメかな。

 

 さて、姿を消すか。

 フォローは、ちゃんとするから安心していいよ。飛鷹君。

 なんて考えていると、防御結界が解除される。

 タイミング悪っ!

 

 全員の視線が私に向く。奇門遁甲使っときゃよかった。

 このまま使うかと思った時に、高速で接近してきたフェイトに捕まった。

「レクシア!!」

 抱き着かれる。

 流石に振り払えないよね。

「捕まえたよ!!」

 いやいやいや。それは流石に拒否しますよ。

 それと、フェイト。管理局の回し者にいつからなったの。

 

「バカ!!」

 離れたところから、なのはの怒声が聞こえた。

 なのはの方は、私には目もくれずに飛鷹君のところに行ったらしい。

 まあ、今度は1人でやろうとし過ぎだったね。

「どうして1人で戦ったの!?」

「いや…。なのはとフェイトはデバイス持ってないだろ!」

 しどろもどに言い訳する飛鷹君。

「支援くらい出来たよ!!」

 

「ちょっと、ええやろうか?」

 はやてがなのはを遮る。

 湖の騎士が弾き出されたから、怒ってるみたいだね。

「あれは、飛鷹君?がやったって事で、ええんか?」

「まあ、そうだな」

 飛鷹君は静かな口調で認めた。

「そうか。シャマルが出されたみたいに見えたんやけど。どういう事?」

「その前に、訊いとく。お前の家族が今、何やってるか知ってるか?」

 はやてだけでなく、私を除く全員が怪訝な顔をする。

 飛鷹君。まさか、カミングアウトする気?

「何、言うとるの?人様にご迷惑になるような事、しとらんよ」

 はやてが、不愉快げにそう言った。

「悪いが、してる。俺達は、お前の家族に襲われた」

「そんなん嘘や!!」

 なのはとフェイトは戸惑っている。

「襲撃の時に、彼女の顔を見た」

 お?そんな設定で誤魔化す気か。流石に転生云々は言えんわな。

「嘘や!!不愉快や!!すずかちゃん。悪いけど帰らせて貰うわ」

 はやては車椅子を操って出ていこうとする。

 誰1人として呼び止めない。

 すずかも、どう呼び止めていいか分からないようだ。

 

 その時、はやての頭上が光り、一冊の魔導書が現れる。

「闇の書!?」

 はやてが驚きの声を上げる。

 だが、私も驚く事が起きた。

 

 夜天の魔導書が私の方に飛んできたのだ。

 咄嗟に受け取る。

 なんで!?

「レクシア!?どういう事!?」

 それは私が訊きたいけどね。

 ダメ元で訊いてみますか。

「何か言いたい事でもあるの?」

 夜天の魔導書がボンヤリと光る。

 イエス・ノーくらいはイケそうだね。

「それは、言いたい事があるって事?」

 再び光る。意思疎通はイケそうだね。

 用件は察しが付きますよ。流石に。

「あの子を助けろって言うの?」

 はやてに視線を送ると、その通りとばかりに一際輝いた。

 ですよね。

 

 私はフゥと溜息を吐いた。

 分かってるよ。はやてが悪い訳じゃない。

 守護騎士だって、仕方がない部分がある事も。

 

「闇の書。どういう事や?」

 はやてが呆然と声を上げる。

 私は仕方なく口を開く。

「主を名乗るなら、闇の書なんて呼ぶな。これは正式名称は夜天の魔導書って

いうんだよ」

「え!?」

 いきなり、そんな事を言われて混乱しているようだった。

 まあ、知らなかったんだから仕様がないけどさ。

 

 私を決意を促すように、再び輝く夜天の魔導書。

 

 

「分かったよ…。こっちの負けだ。なんとかしよう」

 夜天の魔導書が感謝するように、輝いてはやての手に戻った。

 はやてが、ジッと夜天の魔導書を見詰めている。

 

「アンタ等も、そういう事だから大人しくしてろ。嫌だって言うんなら夜天の

魔導書に叩き返してやる」

 はやてが顔を上げると、騎士達が立っていた。

 騎士甲冑姿なんだから、飛鷹君の言っていた事が嘘とは言い切れないだろう。

「みんな…」

 

「正直、我等にはそれが正しいか分からない。だが闇の書が意思を示した。

取り敢えず、静観すると誓おう」

 シグナムが代表して口を開く。

「シグナム!この人等の言った事、ホントなん?」

 はやてが問い質すように、口を開く。

 表情から真実は分かっただろう。

「なんでや!せんでええって、言ったやないか!?」

 シグナムとヴィータは、沈んだ様子で黙り込んでいる。

「はやてちゃん。貴女の足は、闇の書の呪いが原因なんです。死に向かっている

のも。だから、貴女に正しく主として覚醒すれば、呪いは消えると思ったんです」

 シャマルが意を決して言った。

「シャマル!」

 シグナムが、それは自分の役目だと言わんばかりに睨み付ける。

「え!?闇…夜天の魔導書が!?」

 信じられないと目が語っている。

「その通り、夜天の所為じゃない。歴代の主が復讐目的で改変したんだ。呪い

と破壊を齎すように」

「そんな!?」

 はやてが驚愕する。

「だから、夜天は私に助けを求めた。1度助けようとした私に」

「「「!!?」」」

 なのは・フェイト・飛鷹君が驚く。

 はやて達も驚いていた。

 

 

「そうだ!美海は!?」

 驚愕の沈黙の中、フェイトが私の事を思い出した。

 本当に格好付かないな。

 私は、口元を覆っているマスクを下げる。

「は~い」

 みんなが私を見る。

 

 

「「「えええぇぇーーーーー!!!」」」

 

 みんなの悲鳴が木霊した。

 

 

              :アミティエ

 

「どういう積もりなんですか!?」

 私は2人を問い詰める。

 

 キリエは無視してイリスの心配をしている。

 イリスは修復があると言って、デバイスに戻った。

「リンディ艦長は、私達に不信感を持っていますよ!」

「ローテーションで警護するんだから、空いた時間に何してようが勝手でしょ」

 何を言ってるんですか!

 警護に問題ないとはいえ、()()()()()。休みではない。

 不信感を持たれても、文句は言えない。

「何をしてきたんですか!?」

「ちょっと、今後に必要な事よ」

 私は苛立った。

 おそらく、この子はイリスが何をしたか具体的に知らない。

「あの子達は、アースラと関係が深いですよ。艦長にも今回の事は、報告される

でしょう。動き辛くなりますよ」

 キリエが五月蠅そうに、1人で歩いて行く。

「どうせ。鍵を取り出せるようになるまで、表の仕事しか、やる事ないでしょ」

 キリエがこちらに背を向けたまま、言い捨てて行った。

 

 

 イリスは本当に味方なんですか?

 

 デバイスに戻る時も、気にした様子はなかった。

 その様子は、どうにも不気味だった。

 

 

         

              :ニルバレス

 

 ユーリ嬢の警護中だが、思わず失笑してしまった。

「どうした?」

 ケイトが無表情に訊いてくる。

 知ってるだろう?

「いや、()()()()()()()()んだけどね。噂は話半分に聞いておいた方が、いい

みたいだね」

 彼女は深く頷いた。

「覗きか」

 それはないんじゃないかな?

 

 僕は肩を竦めた。

 

 

              :リンディ

 

「それで、どうだった?」

 私はエイミィと向き合っていた。

 エイミィには、フローリアン姉妹の事を調べて貰っていたのだ。

「どうも、怪しい感じですね。捜査に実績を残しているのは、事実でしたけど、

最近怪しい動きが増えていて、監察が動いているとか」

 私の表情が硬くなるのが、分かる。

「どこからの情報?」

「はい。リーゼ達と連絡が取れたので、調べて貰いました」

 私は頷くと、エイミィには本来の仕事に戻って貰った。

 

 さて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかしら。

 監察の仕事は極秘だ。

 そうでなくては、意味がない。

 

 機動3課の人間に、怪しいフローリアン姉妹。

 そして、何故か監察の情報を探っているリーゼ達…いえ、グレアム提督。

 

 闇の書だけでも厄介なのに、きな臭い事。

 何故、監察にマークされるような人間が、護衛に就いたのか。

 上層部で何かが、起こっているのかもしれない。

 

 レティに、裏口をノックして貰わないといけないかしら。

 

 私はデスクの上の夫の写真を、ジッと見詰めた。 

  

 

 

 

 

 




 イリスは戦闘は不得意で技術者です。
 陰謀も得意じゃないってどうなの?
 でも、最低限は仕込んで撤退しています。

 さて、美海の仕込みとイリスの仕込み。
 どっちが上手くいくかですね。

 決めてますけど。

 それでは、なるべく早く投稿出来るように頑張ります。

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