魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 今更ですけど、vividの最終巻読みました。
 あれ!?はやてのセリフ、フラグじゃなかったの!?って思ったの
 私だけですかね。
 
 今回途轍もなく長いです。
 心してお付き合い下さい。

 それでは、お願いします。



第28話 救援

              :クロノ

 

 それは、僕が書類を整理している時に、伝えられた。

 通信を伝えるコールが鳴り、僕はウインドウを開く。

 相手は、レティ提督だった。

「お久しぶりです。レティ提督」

 いつもなら、すぐに返答が返ってくるのだが、この日は違った。

「…ええ。今、いいかしら?」

 言い辛い事が起こったかな?

 残念ながら、僕のこの手の勘は外れない。まあ、これは誰でも分かるだろうけど。

「はい。厄介な事件ですか?」

 レティ提督は、意を決したように表情を硬くした。

「落ち着いて聞いて貰いたいのだけど。どうも、闇の書の騎士が活動しているようなの」

「っ!!」

 僕は辛うじて大声を抑え込んだ。

 闇の書。僕達家族には、因縁のロストロギアだ。

 僕の父さんは、闇の書の護送任務の際に殉職している。母さんの目の前で。

「詳しい話を聞かせて下さい」

 

 レティ提督の話では、管理外世界において連続して、大型の魔法生物のハンティングに、

魔法の不適正使用による魔導士の襲撃事件が多発。

 最初は、新手の密猟者とそこを縄張りにしている犯罪者との衝突と見られていたが、事態は

思わぬ方向へ進んだ。

 被疑者の1人が、闇の書を持った子供にやられたと証言したのだ。

 それから、その被疑者の仲間も検査を実施したところ、リンカーコアが抜かれている事が、

判明した。

 今まで、無視されていた案件も再調査した結果。複数の事案で同じ状況があった事が確認

された。

 これをもって、この事件は、ロストロギアによる広域次元犯罪となり、現在に至るらしい。

 

 更に悪い事に、闇の書の騎士達の行動を解析していくと、97管理外世界にいる可能性が

高いという。

 

 これは、母さん…いや、艦長に真っ先に知らせるべき案件だ。

 今日まさに、サプライズで引っ越しをしている筈だから。

 フェイトにアルフ、なのはに飛鷹にも警告をするべきだろう。

 捜査するなら、また話をあっちの世界の警察に通す必要があるな…。

 

「では、僕から艦長に伝えます」

 おそらく、レティ提督は僕達に気を遣ってくれたんだろうから。

「なんだったら、他のチームと捜査を取り換えて貰ってもいいのだけど…」

 レティ提督は、懸念のありそうな顔で僕を見詰めている。

 何を心配しているかは、分かる。

「御心配には及びません。復讐など考えていませんよ。あれが起こった背景は、分かって

いますから」

 突然の報に驚いたのは事実だが、本心だ。

 そう、背景を知らずにいたら、これで復讐が出来ると思ったかもしれない。

 だが、父さんが死んだのは、闇の書だけが原因ではなかった。

 

 俗な話だが、権力闘争が背景にあった。

 父さんは優秀過ぎたんだろう。

 だから、闇の書の護送に使うケースに細工をされた。

 それに細工されていなければ、父さんは生きていたという単純な話ではないが、聞かされた

当時は愕然としたものだ。

 父のいる組織は、正義の味方だと、当時の僕は信じていたから。

 ずっと管理局員に自分もなりたいと思っていた僕の価値観は、容易に吹き飛んでしまった。

 組織である以上、万人の納得する正義など成せないのは、当たり前だ。

 だが、当時の僕は管理局が実は悪の組織だったんだと、絶望したものだ。

 それでも、何人かの人の言葉で、持ち直したけどね。

 

 それからは、()()()()()()を信じる事にしている。

 

 闇の書にも、何かがあるのかもしれない。

 それを無視する積もりはない。

 

 僕は、気を遣ってくれた礼をレティ提督に言うと、ウインドウを閉じた。

 

 まずは、艦長に連絡だな。

 ついでに、エイミィにも呼び出しだ。

 

 僕は、これからやるべき事を頭の中で整理しながら、艦長に連絡を入れた。

 

 

              :リンディ

 

 なのはさん達には、内緒で97管理外世界にマンションを購入した。

 借りたのではない。購入である。

 我ながら、思い切ったものだと思う。

 なんとなく、住み易いなと思ったのもある。

 でも一番の理由は、フェイトさんだ。

 私は、この子に入れ込んでしまっている。ホントはよくないんだけど…。

 でも、放って置けない。

 

 そこで私は覚悟を決めた。

 

 フェイトさんをアリシアさんと一緒に引き取ろうと。

 当初は、クロノが難色を示すかと思ったが、思いのほか簡単に賛成してくれた。

 まだ、他人行儀な呼ばれ方しかしないけど、これからよね。

 アリシアさんに関しては、目も覚ましていない。

 簡単にいくなどと甘い考えは、持っていない。

 

「こっちです」

 私が考えに耽っている間に、アルフが引っ越し業者に指示を出してくれていた。

 いけないわね。

「ありがとう、アルフ」

 フェイトさんの使い魔は、少し照れた様に頬を染めた。

「い、いえ」

 さぁ。引っ越しに今は集中しましょう。

 

 張り切って片付けましょう。

 

 それから、フェイトさんを加えて3人で、運び込まれた荷物を解いていった。

 

 もう日も沈んだ頃、ようやく粗方片付けが完了した。

 後は、細々とした荷物は各自で解いて整理すればいい。

 

 お茶を飲んで、一休みしていた時の事だった。

「あ、あの。アルフの散歩に行って来ていいですか?」

 私は頭に疑問が浮かぶ。アルフに散歩?

 答えはすぐに現れた。

「どうだい?子犬フォーム!燃費も良くて、怖がられないし、アタシも楽!」

 そこには、立派な赤毛の狼は存在せず。小さい子犬がいた。

 それにしても、アルフ。自分が楽なのを強調したわね。

 確かに、人型って魔力を食うからフェイトさんも楽だろうけど。

「うん!アルフ、可愛いよ!」

 フェイトさんが、微かに微笑みを浮かべて感想を言う。

 フェイトさんが、少しでも笑う事が出来るようになったのは、いい事だ。

 事情を理解した私は、遅くならないように、いってらっしゃいと送り出した。

 

 1人になってお茶をチビチビ飲んでいたが、不意に呼び出しのコールが鳴る。

 私は溜息を吐きたくなった。タイミングがいいんだか、悪いんだか。

 ウインドウを開くと、そこには息子の姿があった。

「すみません。艦長、今いいですか?」

 艦長…ね。という事はお仕事の話という訳ね。当然なのだけど。

「ええ。どうしたの?」

 私は話を促す。

「まず、闇の書の活動が確認されました」

「っ!!」

「真っ先にご報告した方がいいと判断しました。どうやら闇の書は97管理外世界に

あるようです」

 私の動揺を余所に、クロノが淡々と重要な情報を言った。

 私は目を閉じて心を落ち着かせると、クロノに報告の続きを促した。

 

 発覚までの詳細が報告されていく。

 

 今回も後手に回ったのね。

 私の脳裏に忌まわしい光景が蘇る。

 

 乗員を救う為、ただ1人艦に残り、消滅した夫の姿を。

 

 だが、同時に思い出す。

 

『リンディ。どんなに危険なロストロギアでも、そこに至る事情はあると思うんだ。

物品だったらいいが、それが意思を持っているものも少なくない。だからこそ、

公平な目で見なければならないんだと、思うんだよ』

 

 闇の書の捜査に当たった時の、夫のセリフだ。

 

 大丈夫。復讐なんて考えてないから…。でも、思うところがあるのは、許して頂戴。

 

「それならば、なのはさん達にも警告しないといけないわね。クロノ執務官。

ただちに、捜査本部を設置します。準備を。」

「了解しました」

 後は、またこちらの捜査機関にも、断りを入れないといけないわね。

 だが、まずはなのはさん達に警告だ。

 サプライズが台無しになってしまったけど。

 あの子の友達になる為に必死になってくれた子達を、危険に晒す訳にはいかない。

 

 だが、それを嘲笑うように、異変は起きた。

 

 この違和感は、結界!?

 

 私は慌てて窓に駆け寄る。それと同時にクロノへコールを入れる。

 クロノの顔が、ウインドウに映し出される。

「どうかしましたか?」

「遅かったみたい。至急臨場して下さい。クロノ執務官」

 クロノが驚愕の表情を浮かべると、それを消し、苦い顔で急行すると言って切った。

 苦い顔も分かる。今から急いだところで、どれ程時間が掛かるか。

 

 私も現場へ向かわなくては。今いるのは私しかいない。

 

 フェイトさんに通信を送ろうとするが、通信が届かない。

 なのはさん達に通信しようとしても、デバイスから応答がない。

 

 なんて事!

 

 私は窓から飛び出していった。

 

 新しい家族と、その友達を護る為に。

 

 

              :フェイト

 

 アルフの散歩に出たのは、周囲に犬を飼っていますと、アピールする目的もあるし、

なんとなく歩きたかったというのもある。

 

 新しく家族になってくれた人達。眠り続けるアリシア。レクシアの行方。

 考える事が一杯ある。

 リンディさんはいい人だけど、すぐに母さんとは呼べない。

 どうしても、母さんの最後を思い出してしまう。

 母さんは最後まで私を認めなかった。

 

 私がリンディさんを、図々しく母さんと呼んでいいのかな…。

 

 なんとなくだけど、リンディさんも私達を引き取るのに、無理をしたんだろうという事は、

分かる。どういう無理かは分からないけど、感じるものはある。周囲の視線とか。

 リンディさんのキャリアを傷付けたんじゃないの?ってクロノに訊いた事があったけど。

 いい大人が決めた事なんだから、気にする必要はないし、その程度で母さんはどうにも

ならないって、ぶっきらぼうに言っていた。

 

「フェイト。難しく考える事ないと思うけど?」

 物思いに耽っていた私を、アルフが引き戻す。

「え?」

 周囲に人の姿はない。それでも、アルフは小声で話す。

「優しくしてくれる人がいる。それでいいじゃないか。過去の事はさ、いくら考えても

変わらないよ」

 アルフらしい言葉に、少し苦笑いしてしまう。

「ありがとう。アルフ」

 

 前に来た時に、地形は把握してある。

 問題なく、マンションの周りを一周し終わるといった時だった。

 

 強烈な違和感と共に、結界が構築される。

「「!!」」

 違和感を感じる方へ、視線を向けると封鎖型の結界が張られているのが分かる。

 この世界で、魔法で襲撃を受けるとすれが、限られる筈。

 なのは、飛鷹!

 私はバルディッシュに、通信を送って貰うが、応答がない。

「アルフ!」

「応さ!」

 私はバリアジャケットを纏うと、アルフと共に空中に飛び上がったまさに、その時。

 私の周囲にも、結界が構築された。

 視界に入る疎らな人が結界と共に、消失する。

『封鎖型の結界であると推測されます。ミッド式の魔法ではありません』 

 じゃあ、どこの魔法?

 アルフと共に、周囲を警戒する。

 

「お互い、災難だった。という事だろうな」

 上から不意に声が聞こえてきて、すぐに距離を取る。

 見上げると、ピンク色の髪の剣を携えた女の人がいた。

「悪いが、応援に行かせる訳にはいかん。そして、相対した以上、お前のリンカーコア

も貰い受ける」

 この人も、なのは達を襲撃したであろう人達の応援に、行く積もりだったんだ。

 でも、私を見付けてしまった。

 確かに、運が悪いかもしれない。でも!

「どうして、こんな事をするんですか?」

 私はバルディッシュを構え、問い質す。

「悪いが、話す気はない」

 剣士が剣をゆっくり構える。

「アルフ。援護に徹して」

 アルフが悔しそうに頷いたのが、分かった。

 

 この人は強い。

 

 多分、アルフでは歯が立たないだろう。レクシアと同じような魔法の気配。

 もしかして、何か関係でもあるかな?

 でも今は、この場を乗り切る事だけを考えなきゃ。

 

 電光石火。

 ピンクの剣士が素早く間合いを詰めてくる。

 剣が上段から振り下ろされる。

 レクシアの動きや威圧を経験していなければ、これで終わっていたかもしれない。

 だが、速くても上段からの一撃。

 私はバルディッシュで一瞬だけ剣を当てると、叩き斬られる前に斜めに斬撃を受け流す。

 素早くバルディッシュを引き戻し、逆に打ち込む。

 剣士も体勢が崩れる寸前に、強引に立て直し、身体全体を使った私の一撃を受け止める。

 火花が飛び散る。

 身体が押し込まれる感覚。勝負にならない。

 

『プラズマランサー』

 

 雷の槍を一瞬で複数生成し放ち、すぐさま、引き下がる。

 

「ハアァァーー!!」

 気合一閃。槍が一振りで砕かれてしまった。

 アルフも援護射撃を撃ち込むも、一撃も掠らない。

 剣風の刃がアルフを襲うが、咄嗟に飛び退いて躱しいた。

 私もアルフの後退を支援する為に、突撃を敢行する。

 剣と戦斧が打ち合わされるが、圧倒的な力に逆らわず、その勢いを利用して私も後退し、

距離を取る。

 余裕なのか、追撃がない。

 

 力は圧倒的に向こうが上。まさに剛剣と呼べる剣だ。

 魔力強化をしていても、力勝負は避けるべきだ。

 

 攻撃を避け、狙い澄ました一撃を打つ隙を伺う。

 レクシアとは違うけど、怖い攻撃が嵐のように攻め立ててくる。

 魔力強化した身体でも、薄く皮膚が切れて薄っすらと血が滲む。

 隙など一切見当たらない。

 

 アルフもポジショニングを変えて、援護してくれるけど、全く堪えている様子はない。

 2人掛かりでも、剣士の攻撃を止められない。

 

 技術も凄い。このままだと押し込まれる。

 焦りを抑え込んで、全身のセンサーをフル稼働して、紙一重で躱し続ける。

 隙は必ず生まれる。落ち着いて。

 剣風の嵐は途切れない。

 

 だが、チャンスは巡ってくる。

 一瞬の間隙。隙を逃さず攻撃。頭の中に警報が鳴る。

 あの剣士の目に動揺はない。誘いだ!

 

 もう攻撃態勢に入ってしまっている。止められない。

 私は咄嗟に、バルディッシュをサイスフォームに変形させる。

『ハーケンセイバー』

『シュランゲフォルム』

 剣の柄の辺りから薬莢のような物が、吐き出される。

 魔力が爆発的に高まる。

 剣が蛇腹剣へと変形する。

 強力な魔力を纏った蛇腹剣が、文字通り蛇みないに迫ってくる。

 だが、一瞬だけ、私の方が速かった。

 

 蛇腹剣と魔力刃が激突する。

 

 爆発が起きる。

 

 爆風で押し流される。威力が向こうの方が上だった所為だ。

 

 私は、アルフの隣で止まると、油断なくバルディッシュを構える。

 煙が晴れると、当然のように無傷で剣士がいた。

 蛇腹剣を元の剣の状態に戻す。

「今までの魔導士とは違うな。その歳で大したものだ」

 少し感心したように剣士が言った。

「ありがとうございます」

 嫌味な口調ではないので、私は思わずそう言っていた。

「ちょっ!フェイト!」

 アルフが敵に何言ってるの!?といった反応を見せる。

 ごめん。つい…。

「侮った事を詫びよう。烈火の将・シグナム。これより本気で相手をさせて頂く」

 剣士の雰囲気が劇的に変化した。

 本気じゃないとは、思っていたけど、ここまでなんて。

 正体の分からない圧力に、集中が乱されかけるが、どうにか立て直す。

 

 負けられない。

 

「魔導士・フェイト・テスタロッサ!」

 圧力を押し返し、私は名乗った。

「その意気やよし」

 睨み付けた私を、剣士が獰猛に笑う。

 もう剣士から侮りの色はない。

 

 剣士、いやシグナムから剣が繰り出される。が、今までとスピードが違う。

 受け流せない!

『ディフェンサー』

 魔力シールドを展開し、受け止める。明らかな悪手。

「レヴァンティン!!叩き斬れ!!」

『了解!』

 また剣のデバイスの内部で魔力が爆発する。

 結界に切れ込みが入り、あっと言う間にバルディッシュまで斬られてしまった。

 辛うじて、私は身を引いていたので、斬られなかったけど不味い。

 また剣の内部で爆発する。これだ。内部で魔力を爆発させて瞬間的に威力を高めて

るんだ。

 今までとは違う攻撃に、避ける事も満足に出来ない。

 嵐の中の虫みたいに、ビルに吹き飛ばされる。

「フェイト!」

 アルフが咄嗟に抱き締めて、激突の衝撃を和らげてくれる。

 ビルの中間ぐらいで止まった。

 身体が衝撃で痺れを感じる。凄いパワー。

 接近の気配。身を起こそうとする私をアルフが立ち上がり、盾のように護る。

「フェイトはやらせないよ!」

 滑るようにシグナムがアルフの前に立つ。

「いい守護獣だ」

 剣を構える。

「覚悟」

 アルフが魔力を全開にして護りを固める。

 冷や汗が流れているのが、分かる。大丈夫だよ。アルフ。

「貴女の方がです」

 私の言葉にシグナムが怪訝な表情をする。

「何?」

 直後にシグナムの背後から、青白い光が漏れる。

「何だ!?」

 剣士の剣が青白い柱に吸い寄せられていく。

 もう勝った。そう思った時が、一番隙が出来る。

 鉄筋の柱を電磁石化し、その指向性を全て剣に向けた。

 振り切れるものなら、振り切ってみろ!

 シグナムの剣が柱に叩き付けられる。

「チェーンバインド」

 アルフがすかさずバインドを掛ける。

 魔力で出来たチェーンが、唸りを上げてシグナムを拘束する。

 

 砲撃モードに移行。

 

『プラズマスマッシャー』

 シグナムが拘束を外しつつ、三角形の魔法陣で形成されたシールドを展開する。

 雷の砲撃が放つ。

 

「ウオォォォォーーーー!!」

 シグナムが炎を纏った拳で、シールドごと砲撃を殴り付ける。

 轟音。

 

 ビルが2つの魔力光のぶつかり合いで、吹き飛ぶ。

 

 閃光と疲労でフラフラになりながら、どうにか立ち上がると、目の前に

シグナムが迫っていた。

「なっ!?」

 シグナムは剣を取り戻し、上段から斬り下ろす。

 

「紫電一閃!!」

 

 咄嗟にシールドが間に合ったが、意味はなかった。

 紙のように千切られて、真面に一撃が撃ち込まれる。

 他人事のように自分の悲鳴を聞きながら、瓦礫に叩き付けられる。

「ガフッ」

 口から血が混じったものが吐き出される。

 

 シグナムが近付いてくる。

 立ち上がらきゃ、立ち上がらなきゃ。

 でも、身体が動いてくれない。

「見事だ。フェイト・テスタロッサ。これ以上続けるのは危険だ。降伏しろ」

「初めて…出来たんです」

「何?」

 ボロボロになり、短くなってしまったバルディッシュを支えに上体を起こす。

「初めて出来た友達なんです!」

 赤い影が私に覆い被さる。

 アルフだった。

「フェイトは、アタシが護る…」

 アルフ…。

「すまんとは言わない。恨んでくれて構わん」

 シグナムが剣を振り上げる。

 やけに、ゆっくりと見える。

 

 せめて、なのは達だけでも助けられないの?

 なのはの傍には、飛鷹がいる。

 なら、そう簡単に負けない筈。

 

 私とアルフは間に合わないけど、なのは達の救援は間に合うんじゃない?

 

 レクシアの顔が浮かぶ。

 この状況をどうにか出来る人は、彼女しかいない。

 

 都合のいいお願いだと、分かってる。呆れられるかもしれない。でも…。

 

 私は意を決して、念話を全方位に向けて送る。

 

『レクシア!!お願い。なのは達を助けて!!』

 

 なのは達だけでも助けて。

 

「む?この期に及んで救援の依頼か?」

 シグナムが剣を止める。

「ええ。別にどう言って貰っても構いませんよ」

 シグナムが首を横に振った。

「いや。友の為にプライドをかなぐり捨てられるのは、大したものだ。嫌味

でなくな。昔の自分達より上等だ」

 シグナムは自嘲気味にそう言った。

 沈黙が流れる。過去、この人に何があったんだろう。

「だが、そろそろケリを付けさせて貰おう。向こうに救援が来たら面倒だしな」

 シグナムがビクッと何かに反応した。

 視線をチラッと別の方向に向けると、剣を振り上げた。

 

 風を切る音がする。

 

 アルフと私は目をきつく閉じる。

 何かが弾かれる音が響く。

 いつまで経っても衝撃が訪れない。

 

 何かが刺さる音がして、目を開くと私達の前に黒いバリアジャケットを纏った

女の子が、拳銃形態のデバイスを構えて立っていた。

 

「フェイト。分かってると思うけど。これ、ちょっと反則じゃない?来ない訳に

いかないじゃない」

 

 レクシアが困った顔をして立っていた。

 

「何者だ!」

 レクシアは、シグナムの方をチラッと見ると、冷ややかな声で言った。

 

 

「自己紹介は、随分と昔に済ませてるでしょ」

 

 

              :シャマル

 

 距離を取り、別のビルの屋上に陣取っている。

 救援の救援?どれだけいるの!?この世界、魔法文化ない筈よね!?

 シグナムが負けるとは思えないけど、妨害はしないとね。

 もう1人は、現在、こっちにくるのは止めている。

 後回しでいいわね。

 

 私は魔法を発動しようとして、止まった。

 

 目が合った?

 この距離だし、姿は隠しているし、偶然よね?

 

 魔法を使おうとして、私は地面を転がった。

 頭に警報が鳴り響いたからだ。これを無視すると碌な事がなかったから、躊躇

せず、転がった。

 正解だった。

 魔力弾が、私が立っていたところを通過する。

 

 ゾッとする。まさか救援に来てるあの子!?

 

『シグナム!気を付けて!救援がそっちに行くから!!』

 念話でシグナムに注意を促す。

 が、念話が通っている感はあるのに、返事がない。

 

 どうなってるの!?

 

 私の周りに無数の魔力弾が生成され、一斉に襲い掛かってくる。

 私はバックアップで、直接戦闘は苦手なのよ!

 

 かといって、逃げ帰る訳にもいかない。

 必死に逃げ回っていると、突然、魔力弾が全て破壊される。

 

 誰!?

 

「大丈夫か?」

 私は反射的に距離を取る。

 そこには、仮面を付けた怪しい男が立っていた。

 相棒であるクラールヴィントに、反応すらなかった。

「何者?」

 警戒感を滲ませながら、尋ねる。

「それよりも、奴が結界内に侵入したぞ」

 え!?もう!?なんなのあの子!

「撤退させる準備をしろ。私が救援に入る。あとはあっちも救援が入っている。

こっちが済んだら、向こうの撤退も支援してやれ」

 この男もなんなの?いきなり命令される覚えもないんだけど。

 

 仮面の男は、こっちの事など、お構いなしに突然消えた。

 変な魔力ね?

 

 もう!なんなの!?

 

 

              :美海

 

 夕食を食べて、これから宿題でも片付けるかい。っと思ったら結界が張られた。

 間を置かずして、2つ。

 しかも、よく存じております術式でございますね。

 

 非常に遺憾ながら、この術式使ってんのここだと私を除くと、限られる。

 飛鷹君。いい加減、任せていいんだよね?これがフラグになったりしないよね?

 

「美海」

 

 よし!今日の宿題はと。

 

「美海!」

 

 リニスの声に強いものが混じり出した。

「何?リニス」

「助けに行かなくて、いいんですか!?」

 私は渋い表情になる。

「正直、アイツ等と関わるのは、ちょっとね…」

 リニスは眉尻を下げる。

「今回の相手に思うところがあるのは、分かっていますけど。美海はどうしたいんです?

助けてあげたいんじゃないんですか?」

「……」

 でもねぇ。やり過ぎんのもね。

 多分、私はここぞとばかりに過去の鬱憤を晴らすと思う。

 そんな事をアイツが望まないとしてもだ。

 だから、関わりたくないんだ。

 助けてやれなかった身としては、せめてアイツの意向くらいは汲んでやりたい。

 だから、飛鷹君に強くなるヒントを出し続けた。

 

 結構長い間、黙り込んでいたようだ。

 だって…。

 

『レクシア!!お願い。なのは達を助けて!!』

 

 こんな念話が聞こえてくるぐらいだもの。

「美海。行きましょう!」

 お願いじゃ、行かない訳にもいかないか…。

 こんな頼まれ方したら、断れないじゃないか。

 

 今のうちに謝っとく。ごめん、多分やり過ぎる。

 

「リニスは最初に張られた結界に、応援に行ってくれる?私はフェイトを助けに行くよ」

「はい!!」

 リニスが力強く頷く。

「多分、バックアップがいるから。奇襲に注意してね」

 リニスは再び頷くと、転移していった。

 まあ、リニスなら湖の騎士相手に後れを取ったりしないでしょ。

 それ以前に、どっちにいるか知らんけど。

 戦力を二分しているなら、どっちかにいるだろう。

 

 私も転移で近場に移動し、結界の前に立つ。

 

 だが、こちらに急いで駆け付けてくる艦長さんを発見。

 仕様がない。

『艦長さん。フェイト達の応援は私がします。待機していて下さい』

『その声は、レクシアさん!?』

『はい。助けを求める声。艦長さんも聞こえたでしょ?』

 少し沈黙。

『ハッキリ言わせて貰います。来て貰っても邪魔です』

『!!』

 厳しい事を言うが、勘弁して下さい。

『本当に助けてくれるんですね?後で説明して貰いますよ』

『善処します』

 私はそう言って、念話を切った。

 流石に貴女の面倒までは見ませんよ。なんかあったら、自力でどうにかして

下さいね。

 

 うん。こっちにいたか。じゃ、なのは達の救援は問題ないでしょ。

 私はチラッとあるビルの屋上を見て、結界に向き直る。

 

 血液の中からシルバーホーンを取り出し、構える。

雲散霧消(ミストディスパージョン)

 結界に穴が開いた隙に入り込む。

 流石にこれで結界自体が壊れるなんて、お粗末な出来じゃないか。

 すぐさま、穴が塞がる。

 

 魔力反応は、あの瓦礫か。

 

 ピンクのポニーテールが、剣を振り上げているのが見える。

 

 私は、シルバーホーンを剣に向けて撃った。

 剣が手から弾き飛ばされる。

 私はフェイトとアルフの前に立つ。

「フェイト。分かってると思うけど。これ、ちょっと反則じゃない?来ない訳に

いかないじゃない」

 

 フェイトが嬉しそうな、それでいて驚いた顔をしている。

 君が呼んだから、来たんだが?

 

「何者だ!」

 シグナムがボケた事を言っている。

「自己紹介は、随分と昔に済ませてるでしょ」

「何!?」

 私はシグナムを無視して、シルバーホーンをフェイトとアルフに向ける。

 初めてだから、2人共ビックリした顔をする。

 が、構わず引き金を引く。

 

 2人から青白い炎が上がり、怪我をする前に状態に戻った。

 

「リニスが向こうの応援に行ってる。心配しないで。だから、貴女達も応援に行って」

 暫く、身体中を2人共、点検していたが大丈夫と分かったようで、礼を言われた。

「レクシアは、どうするの?」

「決まってるでしょ。こいつにヤキ入れて帰る」

「「……」」

 2人共、何とも言えない沈黙。

 いいじゃん。別に。

 

「ほら、結界に穴開けるからさ。飛び込んでよ」

「やらせると思うか?」

 シグナムが剣を魔力で引き寄せ、構える。

 私は無視してシルバーホーンを構える。

 雲散霧消(ミストディスパージョン)を発動。

 空に穴がポッカリと開く。

「行って!」

 フェイト達が慌てて飛び立つ。

「行かせん!」

 シグナムが妨害しようと動くが、それは私がやらせない。

「おやおや。余所見か?」

「!!」

 一瞬で間合いを詰められた事に、驚いている。

 残念。隙は見逃さないよ。

 剣を振るう。

 腐っても騎士。辛うじて剣で防ぐ。

 凄まじい金属の衝突音が響く。

 所謂、鍔迫り合いをするが、押し切れずに戸惑っている。

 まあ、見た目がこんなだからね。でも、見た目通りじゃないんだな。

 逆に、押し切ってやる。慌ててシグナムが距離を取る。

 私はすかさず追撃。

 

「シャマル!どうした?」

 援護もない。念話が通じない。不審に思っても仕方がない。

 いるのは確認している。

 結界がなければ、死の踊りをしている姿も見えただろうに。

 念話が私にしか届かないように細工している。

 斬り結びながら、あっちにも魔法攻撃してるんだなこれが、地味になってる

けどさ。

 

 流れるように剣を振るう。シグナムも剣を振るうが、火花を散らして

逸らされ、弾かれる。その度にシグナムに薄く切り傷が増えていく。

 光が走り剣が舞う。剣舞とでも言えるような攻防が続く。

 そして遂に捌き切れずに、一撃。吸い込まれるように私の剣が胴に、入る。

「ガッ!!」

 シグナムがくの字に折れ曲がる。

 普通なら飛んでいくところだが、脚で踏ん張っている。

 痛みを堪えて無理矢理剣を振る。

 だが、一度崩れた剣を立て直す暇など、与えない。

 剣閃をより激しく舞わせる。

 今度こそ、シグナムが瓦礫に吹き飛ばされる。

 

 煙のように粉塵が視界を覆う。

 その粉塵を切り裂くように、蛇腹剣が鞭のように飛んでくる。

 私は僅かに躱し、剣を振るう。澄んだ音を立ててシグナムの蛇腹剣が両断される。

 纏った魔力の影響で、切断された刃は瓦礫を一掃しながら飛ばされる。

 

 切断された剣を持ちボロボロの姿で、シグナムが立っていた。

 息が上がっている。

 密度の濃い戦いは久しぶりか。

 

「さて、アンタ等は夜天に事が終わるまで、格納されてろ」

 私は殺気を放ちつつ、近付いていく。

 これが終わったら、湖の騎士を片付けないとね。いっそ雲散霧消(ミストディスパージョン)で消すか?

 

 シグナムが目を閉じる。覚悟が決まったようだ。

 

 まず1人。そう思った時だった。

 私は飛び退く。

 飛び退くと同時に、赤い熱線が地面を切断する。

 切断面が膨れ上がり、爆発する。

 なんか変な魔力だな。

 

 攻撃した仮面の男がシグナムの傍に着地する。

「逃げろ。ここでやられる訳にはいくまい」

 シグナムは、やけにタイミングよく現れた怪しさ大爆発の人物に、当然の視線を

向けた。不信感。

「湖の騎士は、双方の撤退支援に入ったぞ」

 シグナムは、仮面の男と距離を取り結界を解除する。

 同時に、シグナムの姿が掻き消えた。

 転送で撤退させたのだろう。

 瓦礫が消え、元の街並みが戻ってくる。

 だが、私と仮面の男は、注目されない。

 私は魔法を、仮面の男はなんらかのステルス機能か何かを、発動したんだろう。

 

 必然的に私と仮面の男が、相対する事になる。

 

 私は剣を油断なく構えている。

 仮面の男が手で制止する。

「戦う気はない。これが正しいと、そのうち分かるだろう」

「知った事じゃないね」

 私の返しに仮面の男が怯んだ。

 

 私が踏み込もうとしたまさにその時、仮面の男が大急ぎで見知らぬ魔法で消えた。

 

 変な魔法だな。違和感を覚える。

 

 それはそうと見事な逃げっぷりだな。

 

 

 私も帰りますか。いつまでもここにいても仕様がないし。

 

 

              :なのは

 

「大人しくしてりゃ、怪我もさせねぇ。だから、お前のリンカーコアを寄こせ」

 ええ!?それを今言うの!?

 さっきの攻撃にしても、当たれば大怪我決定だったよ!?

「あ、あの…理由を教えてくれないかな」

 顔が少し引き攣ってるけど、それは許してね。

「言う必要ないだろ」

「あるから!!」

 赤いバリアジャケットの子は、五月蠅そうに手を振った。

「じゃあ、拒否って事でいいんだな?」

 話が通じない!?

 

「アンタ…苦労してんだな…」

 飛鷹君が心の底から同情した声で、相対している筋骨隆々の人に話し掛けていた。

「……」

 筋骨隆々の人は、表情こそ変えないけど、無言だった。

 

「ゴチャゴチャうるせえよ」

 赤いバリアジャケットの子が、戦槌を振り上げて突っ込んでくる。

 私はレイジングハートを構える。

「アイゼン!!」

『ラケーテンフォルム』

 何か弾の薬莢のような物が、デバイスから吐き出される。

 魔力が跳ね上がる。

 戦槌が変形して、ロケットのような物が取り付けられる。

 ロケットが火を噴いて、赤い子が加速する。

「ラケーテン…ハンマーーー!!」

 加速したと思ったら、高速回転して襲い掛かってくる。

 これは、ラウンドシールドで逸らしたり出来ない。

 受けるのは、論外。

『フラッシュムーヴ』

 激突寸前に、私の最速の魔法で回避する。

『アクセルシューター』

 無数の小さい弾丸を形成し、高速で撃ち出す。

 赤い子は、回転しながら器用に弾丸潰していく。

 牽制にもならないで、突っ込んでくる。

 砲撃じゃないと、防御が貫けない。

 だけど、スピードは速いし、威力は破格。

 私はギリギリの回避しか出来ていない。

 戦槌が暴風のように、私を掠めていく。

 魔力強化した状態でも、一撃でも食らえば撃墜される。

「レイジングハート。力を貸してね」

『オーライ!クロースコンバット・モードロッド』

 レイジングハートが私の意志を汲んで、棒に変形する。

「ハッ!魔導士が騎士に接近戦挑もうってのか!」

 同調。あの子の魔力から攻撃のタイミングを計る。

 フェイトちゃんの時は、上手く出来なかった。

 でも、あれから私だって精進してきた!

 

 圧倒的な暴力が身体に向かって伸びている。

 

 幾度も繰り返し、型は身に付いている。自然と身体が動いてくれる。

 後は、タイミングのみ。

 棒を短めに持つ。

 

 ここ!

 暴風が身体を捉えるまさにその時、私は棒を振るった。

「地雷閃!!」

 飛鷹君直伝の力技。御神とは根底から違う技だけど、私には意外に合った。

 いくら力技といっても赤い子の力には、敵わない。

 でも、タイミングさえ合わせる事が出来れば、最大の力技さえ放てれば、逸らす

くらいは出来る。そして、それで十分だ。

 

 棒が戦槌のロケットを捉える。火を噴いている場所が少し潰れる。

 戦槌が私の身体を逸れていく。

 赤い子がバランスを崩す。

 あんな高速回転に高速移動をするには、軸がブレないようにコントロールしない

といけない。しかし、バランスを崩せば、制御など出来ない。

「うわっ!」

 戦槌に振り回されて、飛んでいく。

 すぐに体勢を整えるだろう。でも、その僅かな時間が欲しかった。

『カノンモード』

 砲撃モードに移行。

「このヤロー!!」

 赤い子が体勢を整えるまさにその瞬間。バインドが赤い子の四肢を拘束する。

 赤い子は、強引にバインドを破ろうとする。

『ディバインバスター』

 魔力運用の腕が更に上がったから、威力もフェイトちゃんと戦った頃とは違う。

 ピンク色の魔力光を放ち、艦隊砲のような砲撃が赤い子に直撃する。

 

 大爆発を起こす。

 

 私は油断なく、レイジングハートを構える。

 煙が晴れていく。

 そこには、赤い膜のような魔力シールドに、護られている赤い子の姿があった。

 流石に、少しはダメージが通ったのか、帽子が失われ、バリアジャケットも少し

ボロボロだった。

 

 赤い子がシールドを解除する。

 

「悪かったな…」

 呟くように赤い子は、私にそう言った。

「分かってくれた!?」

「ああ。舐めちまって悪かったよ。こっからは、本気でやる」

 あれ?分かって貰えてないね。

 凄い殺気と闘気が圧力となって、私を圧し潰そうとする。

 

 これは、お父さん並だ。ううん。それ以上だ。

 

 でも、ここでやられる訳にはいかないの。

 

 お父さんやお兄ちゃんの圧力を経験してなきゃ、戦意喪失してたかもしれない。

 でも、私も高町家の人間。最後まで抗う!

 フェイトちゃんも、もうすぐこっちに来るんだ。

 ここで、楽しい思い出を作って貰うんだ!

 

 私は赤い子に闘気を放つ。

 赤い子は、僅かに目を見開く。

「鉄槌の騎士・ヴィータだ!」

「高町なのは!」

 もう言葉が入り込む余地はない。僅かな気の緩みで撃墜される。

 

 ヴィータちゃんのデバイスから薬莢が、幾つか排出される。

 魔力がまた跳ね上がった。

 あの弾丸みたいなやつで、魔力を上げて威力を上げてるんだ。

 戦槌の形がより叩き潰すのに、適した形になった。

『ギガントフォルム』

 そのまま、戦槌を構えたと思ったら、これまでの直線的な動きとは、違った。

 曲線を描くような攻撃も、器用に織り交ぜてくる。

 しかも速い。

 同調が、上手くいかない。ほぼ攻撃のタイミングを察知した頃には、攻撃が

振り下ろされている。

 直接、打ち合えるような威力じゃない。躱すのだって難しい。

 フラッシュムーヴを多用して避けてるけど、このままだと押し込まれる。

 魔力弾も、防御を貫く事が出来ない。

 

「ぶっっっ潰せーーー!!」

 何度目かフラッシュムーヴでも回避の後、回避地点にヴィータちゃんが戦槌を

振りかぶった状態でいた。

 

 読まれた!

 

 咄嗟にラウンドシールドとレイジングハートを割り込ませる。

 赤い衝撃が魔法とレイジングハートを破壊する。

「キャァァァーー!!」

 戦槌に真面に殴られて、吹き飛ばされる。

 自分が今、どうなっているかも分からない。

 

 いくつかビルを突き破って、ようやく止まる。

 

 私の口からは、呻き声しか出ない。

「レイジング…ハート」

 レイジングハートから返事はない。

 

 ヴィータちゃんがやってきた。

「悪りぃな。お前のリンカーコアを貰う」

 ヴィータちゃんの手から、本が現れる。

 なんとか、立ち上がろうとするが、身体が言う事を訊かない。

「闇の書。蒐…」

 何かしようとしたヴィータちゃんが、飛び退く。

 なに?

 建物を突き破ってくる音がする。

 なんとか視線を向けると、ヴィータちゃんが立っていた場所にハルバードが

刺さっていた。

「誰だ!!」

 

 私の前に女の人が降り立つ。

 この人は、レクシアさんと一緒にいたリニスさん?

「救援に来た者です」

 

 

              :飛鷹

 

 ヴィータが、問答無用で戦いを再開した。

 こちらも、いつまでも睨み合いをしている訳にも、いかないだろう。

 なのはが心配だしな。原作より強くなってるし、簡単に負けやしないだろうが。

 

 俺も剣を握り直す。

 それを合図にしたようにザフィーラが突っ込んでくる。

「オォォォォーーーーーー!!」

 スゲェ雄たけびを上げて殴りかかってくる。

 

 一丁、アンタ相手に腕試しといくか。

 

 両手の拳には、白銀の魔力光が帯びている。

 狼とは思えない流れるような動きで、拳を繰り出してくる。

 ヤツの相手をしていなければ、対応出来たかあやしい。

 あとは、高町一家の地獄訓練のお陰だ。

 俺も負けじと剣を振るう。

 金属を打ち付ける激しい音が、響き渡る。

 拳と剣がぶつかり合う。

 

 だが、俺の方が優勢に進めている。

 俺の剣は偶にザフィーラを捉えている。

 非殺傷設定だからな。

 チャンと振り切っているが、矢鱈、頑丈な身体で当たっても、ビクともしない。

 流石、盾の守護獣だな。

 

(ジャイ)!」

 

 ザフィーラがシールドを展開するが、俺はシールドごと叩き斬る。

 袈裟切りで、斬り付けるが奥歯を噛み締めて耐えたばかりか、反撃してくる。

 

 俺の後ろの方で、ピンク色の閃光が走る。

 

 背後で大爆発が起きる。

 

 ザフィーラは俺に集中している。

 おいおい。ヴィータの事は心配してないのか?いや、信頼してるのか。

 あの程度じゃ、やられないと。

 

 背後から凄まじい殺気と、闘気が溢れ出す。

 なのはは、抗っている。

 

 だったら、俺もアイツを信じてやらねぇとな!

 

 俺もザフィーラに闘気を放つ。

 ザフィーラも、ヴィータと同等の殺気と闘気を放ち、こちらに圧力を掛ける。

 

「テオヤァァァァァーーーー!!」

「ブラッディースクライド!!」

 

 白銀の魔力の一撃と同時に、白銀の刃が雨のように降ってくる。

 高速回転する突きが、刃の雨を振り払いながら激突する。

 

「グッ!!」

「うおっ!!」

 爆発と同時に、両者吹き飛ばされる。

 

 俺とザフィーラは、同時に構え直す。

 通じる。歴戦の守護獣相手に俺の技が。

 だが、通じるだけじゃ、ダメだ。

 勝たねぇとな。

 

 その時、爆発的に魔力の高まりを感じた。

 ヴィータの魔力だ。

 これ程、上げるって、まさかギガントか!?

 迂闊にも、気が逸れてしまった。

「鋼の軛!!」

 クッソ!俺も魔法を一歩遅れて発動させる。

「ディスポーズ!!」

 網の目状の刃が白銀の刃を弾き、破壊しながら虚空に消える。

「ウオォォーーーーー!!」

 気が付けば、懐に入られていた。

 こっちが本命だったか!

 俺は咄嗟にシールドを展開。

 ザフィーラは、お構いなしに拳を打ち付ける。

 

 凄まじい衝撃音となのはの悲鳴と共に、破砕音が連続して響く。

『なのは!大丈夫か!?』

 思わず念話で声を掛けるが、返事がない。

 

 クッソ!信じるとか言っといて、このザマかよ!!

 ザフィーラは、俺をここに釘付けにするのが、目的だろう。

 

 俺はマナバレットを展開する。

 ザフィーラも、それを確認している筈だが、変わらず拳を打ち付けている。

 シールドにも罅が入り出している。

 

 上等だ!やってやるぜ!!

 

 衝撃波が届く。

 ヴィータの攻撃が、なのはを捉えた事を意味していた。

 手早く終わらせてやるぜ!!

 

 だが、決め切れなかった。

 

 突如、ザフィーラがバインドで拘束されたのだ。

 

「!!」

「は!?」

 

 思わず俺は振り返る。

 そこには、ヤツと共に消えたリニスがいた。

 

 

              :ヴィータ

 

 もうちょっとで蒐集出来たのによ。

 でも、目の前の奴は、ちょっとメンドイ奴だな。

 守護獣だろう。

 ザフィーラとは感じが違うけど、高町なのはより接近戦に慣れてそうだ。

 

 守護獣がハルバードを引き抜き、構える。

 チッ!高町なのはの所為で、カートリッジの残りが心許ないってのによ!

 

 イケっか!?ここまでやって、手ぶらで帰れるかよ。なぁ!

 

 腹を決めてグラーフアイゼンを構える。

『あちらの救援が接近中』

 突然、グラーフアイゼンから嫌な情報が齎される。

 流石に、これ以上の救援を相手取るのは、キツイ。

 

 クソ!

 

『ザフィーラ。撤退するよ』

 嫌々この言葉を、念話でザフィーラに伝える。

『心得た』

 ザフィーラ。なんでアンタは少し笑ってんだよ。

 失敗してんだよ!笑ってんじゃねぇよ!

 

『ヴィータちゃん!ザフィーラ!聞こえる!?』

 シャマルか。

『丁度いいや。撤退するから援護頼む』

『ええ。そうして。管理局の増援も来てるから。目晦ましをやるから、上手く

逃げてね』

『心得た』

 チッ!管理局もかよ。1人1人は雑魚だけど集まると、ウザいしな。

 仕様がねぇ。

 

 アタシは相棒を下ろす。

「今回は見逃してやるよ!」

 背後に空いている穴から、外に飛び出す。

「あっ!待ちなさい!!」

 守護獣が追ってくるが、構わねぇ。

 

 もう、シャマルが目晦ましを準備済みだしな。

 

 見るとザフィーラが相手している奴は、こっちに注意を向けてる。

 その隙を付いて、ザフィーラがバインドを引き千切る。

「何!?」

 ザフィーラも素早く後退し、距離を取る。

 

 その直後、アタシとザフィーラの間に、緑の魔力光を放つ球体が出来上がる。

 

 直後、スゲェ音と光が放たれる。

 封鎖領域を解除。

 

 次は貰うかんな!!

 

 

              :リニス

 

 凄まじい音と光が発生し、その隙に相手は逃げていた。

 まあ、危険ではありますが、目の前の危機を回避出来ただけ、よしとしますか。

 フェイトとアルフがこちらに高速で向かってくる。

 管理局もようやく動いたようですね。

 

 なら、任せていいでしょう。

 

 飛鷹はなのはに駆け寄っている。

 なのはは、意識は保っているみたいですね。

 

 さて、治して上げられなくて申し訳ないんですが、私も管理局は遠慮したいので。

 失礼しますよ?

 

 注意が逸れている間に、その場をそっと離れる。

 

 それと同時にフェイト達が到着する。

 フェイトも一応は元気そうでよかったです。

 

『美海。こちらはなのはが怪我をしましたが、無事と言っていいでしょう』

 念話で美海に報告を入れる。

『相手は?』

『すいません。逃げられました』

 少し間が空く。

『変な仮面が現れた?』

 仮面?そちらに出たんでしょうか?

『いえ』

『そう。お疲れ様』

 

 それで念話が終了。

 

 詳しい事を、帰ってから訊いた方がいいですかね?

 

 

              :アミタ

 

 私と妹のキリエは、ある人物の護衛任務の為、転送ポートに向かっていた。

 キリエは不機嫌さを隠そうとせず、私の斜め後ろを歩いている。

 

 昔は仲が良かったんですが…。

 いつの頃から、こんな関係になってしまった。

 

 転送ポートの前には、3人の人間がいた。

 

 1人は護衛対象。

 あとの2人は、陸士隊の制服を着用している。

 何故、ここに地上の人間が?

 

「お偉い本局様は、重役出勤か。時間も守れないとはな」

 陸士隊の女性の方が、到着早々に嫌味を言ってくる。

 キリエがウンザリしているのが、視界に入っていなくとも分かる。

「失礼しました。任務の事後処理が長引いてしまいました」

 今度は陸士隊の男性の方が、爽やかな笑みを浮かべて近付いてくる。

「いや、こちらこそ失礼したね。僕はニルバレス・ホールデン一尉。所属は

遺失物機動3課だよ。で、こっちが…」

「同所属、ケイト・ドヴェルグ陸曹」

 遺失物機動課が何故ここに?

 そんな事より、まずは敬礼する。

「失礼しました。一尉殿。私は本局所属の特別捜査官アミティエ・フローリアン

准尉であります」

「キリエ・フローリアン准尉であります」

 キリエもヤル気を感じさせない敬礼をする。

「うん。これから同じ任務に就くんだ。仲良くいこう!」

 ホールデン一尉は、にこやかにとんでもない事を言った。

「聞いてなかったかい?僕らもユーリ嬢の護衛をするんだよ。専門外だから、

いるだけと思ってよ」

 ドヴェルグ陸曹は、なんの反応も示さない。

 

 ユーリ・エーベルヴァイン。

 私達の()()()()()()で、護衛対象になる人物を見た。

 ここまでで、かなり粘着質な対応続きでウンザリしているのが、分かる。

 ご愁傷様です。

 

 そう()()()()()()()()()()()

 

 

 さて、この2人は私達の任務に、どんな影響を与えるのでしょうね。

 

 

 

 

 




 なのはは、闘気技の適正自体そこまで高くありません。
 が、今のところ地雷閃と海鳴閃は習得しています。
 モード問題は、これも暫定です。

 飛鷹は腕試しをやった所為で、今回、失敗しました。
 経験不足は、そう簡単に補えないようです。

 ヴィータのギガントはゼスト戦と同様な使い方です。

 ザフィーラが少し笑ったのは、撤退の判断をキチンと下せた
からです。前までなら、戦闘を止めなかったでしょう。

 今回、これだけ長くなったのは、アミタ達を出す為です。
 立場全然違いますがな。

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