魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 間に合った。
 取り敢えず、それしか言えません。
 第二次目標は、どうにかなりました。

 とんでもない文字数ですので、お願いします。


第24話 想いの行方

              :フェイト

 

 あの黒い魔導士の動きが見えない。

 影さえ捉えられない。

 レクシアが、相手にしないように言った意味が分かった。

 

 アッと言う間に、あの人が壁に叩き付けられ、壁が斬り砕かれて吹き飛ばされる。

 次の瞬間には、雷と炎の砲撃がぶつかり合う。

 紫と赤の光が爆発する。

 

 その時に、フッと頭に声が聞こえた。

『あ…た…、だ…』

 誰かの念話?混線しているみたいに声が聞き辛い。

 隣にいた、なのはもキョロキョロしている。

 もしかして、今のが聞こえたの?他の人達が聞こえている様子はない。

「今の…聞こえた?」

 私は、なのはに訊いてみる。

「うん。女の子の声みたいだったけど…」

 なのはも困惑してるみたいだ。

 顔を見合わせていると、いきなり抱え上げられて、その場を飛び退く。

「戦闘中に何を呆けているんです!?」

 リニスの叱り付ける声が耳を打つ。

 気が付けば、私達が立っていた場所が、抉れていた。

「ごめん」

「ごめんなさい」

 2人でリニスに謝った。リニスは、私達2人共抱えて助けてくれた。

 

 私達が気を取られている間も、戦いは続いていたみたい。

 砲撃は相殺され、再びスピードを生かして黒い魔導士が、接近戦に持ち込み、あの人を圧倒

していたようだ。

 あの一撃は、あの人の苦し紛れのものだったみたいだ。

 

 あの人は、もう防戦一方だった。

 幾ら攻撃を受けても、立ち上がり反撃する。

 鬼気迫る表情で、食らいつく。

 私は目を逸らしてしまいたくなった。でも、そんな事は許されない。

 私は見届けなきゃいけない。そして、決着は私が付けなくてはいけない。

 バルディッシュを握り締める。

 その手をなのはの手が添えられる。

 私は思わずなのはを見た。

 なのはは、戦闘から目を逸らさずに言った。

「大丈夫?」

 私を心配してくれたみたいだ。

 私は注意を戦闘に戻し、黙って頷いた。

 私もいい加減任せ切りにしないで、戦闘に加わらないと。

 そう思った時だった。

 

『あなたは、だれ?』

 

 幼い子供の声。だけど、聞き覚えがある。

 そう、あれは…。

 

 なのはが息を呑む。

 なのはの見ている方に私も目をやると、そこには私達より幼い子供が立っていた。

「アリシア…」

 私は譫言のように呟いた。

「え!?」

 なのはがビックリして手を放す。

 放した瞬間にアリシアは見えなくなってしまった。

 私達は目を擦って、目を凝らすが何も見えない。

 私達は、再び顔を見合わせる。

 あれは、アリシアだった。幻影魔法でも何でもない。本物だと私は確信している。

 

 あの人が、遂に黒い魔導士の剣を受けて、倒れ込む。

 黒い魔導士は剣を構えたまま、残心。

 あの人は仰向けに倒れたまま、咳き込んで血を吐いていた。

 

 行かなきゃ。行ってどうする?止めを刺すの?分からない。でも行かないと。

 

 私の足はあの人へ向く。

 混乱している私の手を、あの子が、なのはが握った。

『ねぇってば!きいてる!?』

 私達の動きが止まった。

 私達は再びアリシアが見えた場所へ、視線を送る。

 そこには、アリシアが変わらず立っていた。

 もしかして…。

 私達はもう一度手を放す。

 見えなくなる。

 もう一度手を繋ぐと、アリシアが見えた。

 

 理由は分からないけど、なのはに触れていると見え易くなるみたいだ。

 

 あの人は、もう立ち上がる事が出来ないみたいで、倒れたままだった。

 それを確認すると、私達はアリシアの方に歩き出した。

 

 アリシアはキョロキョロ周りを見回している。

 見覚えのない場所に戸惑っているみたいだった。

 誰も自分を認識していない中、私達が気付いた。

 

 突然、あの人が素早く上体を起こし、腕を振るった。

 プラズマの大剣が私達を纏めて薙いだ。

「「!!」」

 完全にアリシアに気を取られていた所為で、避けられそうにない。

 シールドで防げそうもない一撃だ。それでも私達のデバイスはシールドを展開する。

 私達は固く目を閉じる。

 

 ガキッと凄い金属音が響く。

 

 刃はいつまでもくる気配はない。ゆっくり目を開けると

 黒い魔導士が私達を庇うように立っていた。

 プラズマの刃は黒い魔導士の剣に止められていた。

「もう筋肉痛、決定だ」

 あの魔法の効果が切れてしまったのか、普通の話し方に戻っている。

 黒い魔導士は、身体が血だらけになっていた。

「飛鷹君!?大丈夫なの!?」

 なのはが声を上げる。

「ああ、ちょっと、毛細血管が切れただけだからな。大丈夫だ」

 それでも、無茶な強化の影響か、身体が痙攣している。

「さっきから、どうしたんですか!?」

 リニスがハルバードを油断なく構えながら、私達を怒鳴る。

「アリシアが…見えるんだ…」

「え!?」

 なのはが私の言葉に頷いて、自分も見えている事を伝える。

「どういう事です!?」

「どうしてか、分からないけど…なのはに触れると見えるみたい…」

 

 プラズマの大剣は黒い魔導士に止められた後、動かない。

 あの人を見ると、目を見開き、固まっていた。

 視線の先は、アリシアがいる方だ。

 あの人にも見えてる?なのはに触れていないのに?

 黒い魔導士は、身体に鞭を打ってプラズマの大剣を弾き飛ばした。

 あの人のデバイスが抵抗なく、飛ばされ床を滑っていった。

「ア…シ……ア」

 呆然と出ない声を無理に絞り出す。

 アリシアは視線をあの人に向けるが、ビクッと体を震わせると後ずさった。

『だれ?』

 あの人はショックで反応出来ない。

「なんだか、よく分からねぇけど、アリシア…?がいるのか?」

 黒い魔導士が私達を振り返り、訊く。

「少なくとも、見えるけど…」

 なのはが自信なさげに答える。

 黒い魔導士は天を仰いで、そうなのか、とかなんかブツブツ言っている。

 そして、固まっているあの人に向き直る。

「それで?今でも正しいって思えるか?アンタ、自分の今の顔、見て見なよ。悲しくて狂った

鬼みたいな顔してるぜ?自分の娘に見せられる顔じゃないぜ?」

 薬物の影響と怒りと興奮、様々な理由で顔は歪み痙攣しているし、髪も乱れ、服もボロボロ

だ。アリシアが分からくても仕方がないかもしれない。

 あの人は、黒い魔導士の話など聞いていないようだ。

「アリ…シア。私…お…あさん…よ。分か…で…?」

 あの人は、縋るような目でアリシアを見る。

 伝わっていないと思ったのか、立ち上がる事は諦め、床を這ってアリシアの元へ向かおうと

する。

『いや!こわい!』

 アリシアは、走って私達の後ろに隠れてしまった。

 

 あの人は、声にならない呻き声を上げた。

 

 暫く、呻き声を上げて泣いているようだったが、不意に泣き止んだ。

「そう…。あ…が、アリ……の訳が…ないわ…。幻…魔…に…決まっ…る。

あ…子…私…が分から…い訳がない…。フハ……ハハ…クック…」

 狂ったように嗤い出した。

「アンタは救えねぇよ」

 黒い魔導士はそう言うと、あの人に向かって歩き始める。

 

 アリシアが、私のマントを強く掴んでいるのが分かる。

 怯えている。

 

「殺してやる…殺…て……!」

 ゆっくりと立ち上がろうとする。

 どこにそんな力があるの?

 

 もう、やめて!!

 

「なのは!アリシアをお願い!」

 私は、それだけ言ってあの人に近付いていく。

 接近してきた気配を感じたのか、黒い魔導士も立ち止まって、私を見る。

「「フェイト!!」」

 リニスとアルフが声を上げる。

 黒い魔導士を追い越す。彼は止めなかった。

 

 あの人の前に立つ。

 

「失敗…!よく…こんな…!!」

 憎悪の籠った視線を受けても、私は動じなかった。

 

 次の瞬間。パンっと乾いた音が響く。

 

 私があの人の頬を張ったのだ。

 

 あの人は呆然と私を見ていた。

 私はあの人の胸倉を掴み上げた。

「本物のアリシアを、取り戻したかったんじゃないんですか!?その為に私を捨てた

んじゃないんですか!?自分の思い通りじゃないからって、本物のアリシアも否定する

んですか!!そんなの!!悲し過ぎるじゃないですか!!!」

 感情のまま私は絶叫した。

 

 あの人は力が抜けて、私の手を滑り落ちていった。

 

 私が立ち尽くしていると、視界の横からハンカチが差し出された。

 私はノロノロとそちらを向くと、ハンカチを差し出したのは、なのはだった。

 今、気が付いた。自分が涙を流している事に。

 

「終わったみたいだな」

 黒い魔導士はそう言うと、迷ったように私の横で立ち止まり、肩をポンと叩いていった。

 クロノもあの人の傍まで行って、手錠を掛けた。

「エイミィ。プレシアの身柄を確保した。人を寄越してくれ」

『クロノ君!大変!!次元震が艦長でも抑えられないの!!』

 確かに、ドンドン振動は強くなっている。

「分かった!!ジュエルシードの封印を急ぐ!!」

 クロノは、走って行った。

 

 残されたのは、立っていられずに座り込んでしまった黒い魔導士と、なのはとリニス・

アルフ、手錠を掛けられたあの人、そして、アリシアだけになった。

 

『ところで、おねえちゃんたち、だれ?』

 なのはの陰に隠れたまま、アリシアが訊いてくる。

 私を除くみんなが自己紹介する。

 私は、アリシアにしゃがみ込んで視線を合わせる。

「はじめまして、私は貴女の…」

 どう言おうか、迷った。

「妹。それでいいだろう?」

 黒い魔導士が私をフォローするように言う。

 いいのかな?それで…。

「うん!そうだね!妹!!」

 なのはが私の迷いを感じたのか、元気よくそう断言した。

 リニスとアルフも頷いていた。

 

「貴女の妹です」

 正しいかは分からない。でも、今はこう言おう。

『いもうと?わたし、しらないよ?』

「無理もないと思うよ。貴女が眠っている間に生まれたから…」

『いもうとって、ねてるあいだにうまれるんだぁ』

 リニスと黒い魔導士が微妙な顔をしていたけど、どうしてだろう?

 

「今までフェイトちゃんもあの人も、アリシアちゃんが見えなかったんだよね?」

 なのはが根本的な疑問を口にする。

 私は頷いた。あの人も見えていた様子はない。

 リニスも心当たりがなさそうだった。

『うん?わたしが、おきたのさっきだよ?』

「「「え!?」」」

 どういう事?

『べつのおねえちゃんが、こわいおじさんがいるから、むこうにいって、て』

 レクシア!?他に思い当たる人がいない。

 でも、魔力反応が…。

 

 クロノが走って戻ってくる。

「おい!奥に行けないぞ!!」

 

 

              :美海

 

 バルムンクを構えた私は、空間が変化するのを感じていた。

「分かるか?貴様等の紛い物とは違う本物の魔導が!!」

 異界構成。

 一言で言ってしまえば、固有結界みたいなものと思って貰えばいい。

 だが、空間が丸々異界化する為、破るのは普通の魔導士には無理だろう。

 

 バルムンクの蒼い光が私を包み込み、異界の影響を遮断する。

 

 神聖剣・バルムンク。

 それが、正式な銘である。

 正真正銘、本物の神が造った剣である。

 初代聖王が所持していた剣で、この剣を神から授けられたのが聖王の名の由来だ。

 初代から私が現れるまで、宝物庫の肥やしになっていた。

 聖王王城内で襲撃された際、武器を求めて入り込んで勝手に使ったのが、付き合いの始まり

である。盛大に叱られたけどね。思えば、あれも嫌われる原因として大きいよね。

 バルムンクは何でも切断し、それは概念レベルに達している。

 一番の効果は斬ったものを、滅ぼす事だ。

 毒のように、一度斬られれば一巻の終わりという物騒な聖剣なのだ。

 蒼い光は使用者を護り、強化する。

 完全なるチート武装である。

 

 アレは哄笑を上げながら、私の周りに魔力の爆弾を生成する。

 面制圧でご挨拶か。

 ニヤリと嗤いながら指を鳴らす。

 私の周囲が吹き飛ぶ。

 私はバルムンクを手に無視して突撃。

 バルムンクを一閃する。

 爆風ごと真っ二つに切り裂き、アレの間合いに侵入しようとして、直前で飛び退く。

 丁度、踏み込む位置が、空間が歪みガラスが割れるような音を上げて、崩れる。

 飛び退くと同時に私は魔法を発動。

「フレースベルグ」

 ベルカの魔法陣が一瞬で展開され、魔法が崩壊した空間を盾に、弧を描いて放たれる。

 アレは余裕の表情で、腕を振り魔法を握り潰す。

 魔力の残滓が潰された場所から上がる。

 

 即座に私は別の位置から、突撃。

 無数の炎熱刃が私を焼き斬ろうと迫る。

 バルムンクで全てを消し去る。

 それを待っていたように、アレが腕を振る。

 私の周りの空間が、隔離される。

 空間が崩壊。

 ()()()()()()()()()()

 アレがニヤリと嗤おうしたが、慌てて飛び退く。

 が、遅い。

 アレの片腕が斬り飛ばされる。

 アレが咄嗟に肩口を削る。

 空中で腕のみが霧状になって消えた。

 

「ッ!!」

 アレが何もない空間を凝視する。

 私の姿がそこから突然現れたように見えただろう。

 

 仮装行列(パレード)

 位置情報を偽り、相手に術者の居場所を誤認させる魔法。

 一瞬、フレースベルグで注意を引いた隙に、発動していたのだ。

 

「貴様!正気か!?こちらには人質がいるんだぞ!!」

 私は鼻で嗤ってやる。

「人質?私は死んだ人間より、生きた人間を優先する主義だ」

 語外に人質など無意味と伝える。

 大体、アルハザードの連中が、人質を無事に返す事はない。

 アレの余裕は、人質になる人間を手に入れたとでも、思ったんだろう。

 

 アレの歯ぎしりが聞こえる。下品だぞ。

 アレが無事な腕で、斬り落とされた切断面に触れる。

 新たに腕を生成した。軽く動かして調子を確かめる。

「残念だな。この世界にいる限り私を殺す事は出来ないぞ」

 余裕を保ててないぞ。

 

 残念なのはそっちだ。

 自分の世界で自由に出来る奴が、相手なら無敵だったろうに。

 だが、私にはバルムンクの護りがある。

 干渉力に注意を払う必要は、あまりない。

 

 そして、仮装行列(パレード)は未だに発動中だ。

 この魔法と私のスピード・身のこなしが加われば、私を捉える事など出来ない。

 幻影と思えば、実体。実体と思えば幻影。

 武術的な動きと魔導の動きで、ほぼ実体と区別がつかない幻影が意思を持って動いている

ようなものだ。

 アレをいいように翻弄する。

 

 アレに細かい傷が量産される。その度に、傷の周辺をパージする。

 私は高速で踏み込み、アレの爪先を踏みつけて動きを止める。

「!!」

 卑怯だって?ベルカじゃ、当たり前にこのくらいやる。砂で目潰しとかも有りだ。

 アレは振り上げられた剣に反応して、魔力刃を造り出すが、刃が振り下ろされる直前に、

自ら足を斬り落とし、離脱する。そう、魔力刃なんて無駄だ。それごと斬るからね。

 私は斬られた足を横に蹴飛ばし、追いかける。

 アレは脚を既に生成している。

 アレが魔法を発動する。

 私の時間がゆっくりになり、アレの時間が早くなる。こっちにスローのデバフ。

 アレが素早くバルムンクの反対側に回り込み、踏み込む魔力刃を振るう。

 バルムンクで、自分に掛かる魔法の効果のみを斬る。

 アレが斬り込むギリギリで斬った為、刃はもう数センチで私に届く位置にある。

 咄嗟の寸止めは出来ていなかった。

 私はほんの僅かな動きで、魔力刃を躱し、バルムンクに注意が向いているアレにカウンターで

肘打ちを顔面に打ち込む。魔力強化した一撃は、顔面を破壊する威力がある。

 アレが後ろに倒れ込むように躱す。

 体勢が崩れたアレに、私は容赦のない前蹴りを打ち込み吹き飛ばす。

 アレが仰向けで咳き込んでるが、私は思わず追撃を止めてしまった。

 

 アレから、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんだ、ありゃ?

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で正体を探る。

 

 アリシアの身体に別の情報体が入り込んでいる。それはいい。アレだから。

 だが、はみ出しているのは、正真正銘のアリシアのものだった。

 おいおい。

 おそらくは、自分が死んだ事に気付いていない所為で、ずっと眠っていたのだろう。

 自分自身の身体で。情報を精査するとそういう事だと思う。

 アレの魔力が消費され、支配が少し緩んだ所為もあるだろう。

 

 一度、見ちゃったからな。取り敢えず…。

 

 私はバルムンクで地面を斬り付ける。

 地面の表面が、霧状に宙に舞い上がり、姿を隠す。

 制御を失敗すると庭園ごと壊してしまうので注意だ。

 空いた手にシルバーホーンを取り出す。

 幻影と実体で、動き回る。アレの魔法の照準にロックオンされないようにする。

 広範囲攻撃魔法で、対抗するが、術式解散(グラムディスパージョン)で発動を阻止する。

 幻影を囮にアレにサイオン徹甲弾を打ち込む。

 

 この世界でのサイオンは、魔力を実態ではないものに作用するようにした魔力を指す。

 それを徹甲弾という形で撃ち出す。

 

 幻影に気を取られていたアレは、躱せずに直撃した。

 情報体が引き裂かれ、貫通する。

 見事に、アリシアの情報体が体外に出ていった。

 アレは自分の面倒で忙しい。

 

 私は素早く、アレに接敵する。

 アレが気付いて、面制圧を掛けてくるが、それをバルムンクで迎撃し、身構えるアレを素通り

する。

 アレが驚くが、無視してサイオンを纏った腕でアリシアを保護する。

 アリシアを後ろに庇い。アレと対峙する。

 アレの顔は、屈辱で歪んでいた。

『んっ…うん?』

 アリシアの意識が戻ったようだ。ただの情報体ではあるけど。

「起き抜けに悪いけど。悪いおじさんがいるから、道は造るから、向こうに行っててくれる?」

 寝惚けた様子のアリシアが、訳が分からないままに頷いた。

「じゃあ、いくよ!」

 私は、バルムンクを横薙ぎする。

 蒼い光が、異世界と化したこの場所を切り裂く。

「走って!!」

 破砕音が響き渡る。

 アリシアが大声にビックリして走り出す。

「舐めるなぁぁぁーーー!!」

 アレが阻止しようとするが、私が立ち塞がる。

 蒼い光が、アレの魔力を吹き散らす。

 アリシアは余波で吹き飛びながら、出ていった。

 

 直後に空間が異世界に戻る。

 

 私はニヤリと笑ってやった。

 アレは屈辱に震えている。

 

「さて、そろそろ決着といこうか?」

「ああ、お前の死という決着をな…」

 憎悪の籠った視線をアレが向ける。

 

 アレが術式の構築を開始する。

 私は術式解散(グラムディスパージョン)で構築を邪魔しようとして、横に跳んだ。

 私のいた場所が、陥没する。

 よく見ると、地面から腕が伸びている。

 なるほど。

 地面から次々と人型のゴーレムが立ち上がる。

 術式解散(グラムディスパージョン)は、対象は1つのみ、多重発動しているものは最初の一つしか打ち消せない。

 魔法の弱点を的確に突いてきたね。

 

 あるものは武器を生成し、あるものは魔法を展開する。

 ただのゴーレムではなく、死霊が宿っている。死霊魔法の併用か。

 私はシルバーホーンを血中に戻し、埋葬剣・オルクスを取り出す。使用頻度高いね。

 二剣を構えると、それを待っていたようにゴーレムが殺到する。

 

 私は獰猛に笑う。こういう感覚は久しぶりだ。沸き立つような興奮。

 

 四方八方からくる攻撃を捌く。

 二剣を互いに補うように、攻撃の継ぎ目を消すように振るう。

 一切の停滞はない。流れるようにゴーレムを切り裂いていく。

 魔法は魔力弾を撃ち込んで、その場で爆発させる。

 私は爆風ごと前面にいるゴーレムを斬る。前面の爆風を消し、屠ったゴーレムを飛び越える。

 他のゴーレムは爆風が消されずに、巻き込まれている。

 

 主の元に行かせまいと襲ってくるゴーレムを、二剣で斬り倒し、薙ぎ払いつつ、疾駆する。

「フレースベルグ!」

 用意する砲門5つ。

 同時に発射する。着弾点から爆発する。

 5つ砲門のみでゴーレムをほぼ殲滅する。元々殲滅魔法だからね。ベルカじゃ。

 魔法の効果を及ぼさない範囲が1つ。

 見付けた。

 いつまでも同じ場所にいる訳もないしね。

 一番護りが厚い箇所に突撃していたが、これで確実にいる場所が分かった。

 一直線にアレに向かって走る。

 

 アレの顔が見えるまでに接近する。

 アレの口が三日月型に吊り上がる。

 魔法が発動する。

 世界が主の命令に反応し出す。

 世界が急速に縮小していく。世界を使って圧し潰そうとは、剛毅な事だね。

 世界自体が迫ってくる。

「ハハハハハ!!死ね!!」

 アレの哄笑が聞こえる。五月蠅い。

 

精霊の眼(エレメンタルサイト)、完全開放」

 私の要求した特典。精霊の眼(エレメンタルサイト)()()()()()()()()

 あの眼は、情報を読み取るのみだが、私は()()()()()()()()()()

 魔法を作成するだけでなく、相手の魔法もある程度、弄れるようにしたのだ。

 ただし、魔力を馬鹿食いする。

 

 データアクセス…。

 

 データよりコード抽出開始。

 

 コード改変開始。

 

 …完了。

 

 世界が崩れ去り、新たな異界が現れる。

 

 圧し潰す世界の他に、自分の有利が揺らがないように保険を用意していたのは、分かっていた。

 私の中からかなりの魔力が消費される。疲労と倦怠感が襲う。

 だが、私の足は止まらない。

 世界の破片と共にアレのいる場所へ突っ込む。

 勝利を確信している間抜け面が、目の前に現れる。

 あまりの事に、アレの表情は不敵なまま固まっていた。

 

 じゃあ、派手にいこうか?

 

「秘奥・神翼飛翔」

 魔力を武術の技で昇華する。神鳥が羽ばたくように。

 心を無に、二剣が翼のように幾重にも剣閃を幻視させ、全ての剣技要諦を織り込み、連撃と

する。

 まさに、集大成の技。剣の館の秘奥。

 

 アレが防ごうとするが、それすら砕き、両翼がアレを包み込む。血が霧状に霞む。

 バルムンク・埋葬剣の力で世界ごと霧散していく。

 世界が蒼い閃光に包まれる。

 

 轟音。

 

 閃光が止み、私は油断なく構えたままだった。

「貴様…化物…か…」

 アリシアの血に塗れた身体から、黒い煙のようなものが立ち昇っている。

 それも、本物の煙のようにすぐ消えていく。

「よく言われるけど、そういうアンタは何なの?人間とか言い出さないだろうね?」

 イギリスにいる吸血鬼みたいなセリフを吐く。

「我々は神にも等しい力を持つものだ!」

 立ち上がる。傷のあちこちから血が噴き出す。

 黒い刃を手に造り上げる。

「このまま、死ねるかぁぁぁーーー!!」

 黒い刃を振り上げて、突撃してくる。

 

 私もバルムンクを振り上げる。

 

 鋭い金属音と共に刃がぶつかる音が響く。

 

 アレと私が交錯する。

 

 アレが血飛沫を上げて倒れ込む。

 アリシアに入り込んでいたアレが霧状に空中に舞う。

 

『片付きましたな』

 バルムンクが終了を告げる。

 魔力の残量がヤバい。

 

 私はアリシアの死体から流れる血を見て、天を仰いで溜息を吐いた。

 

 

              :飛鷹

 

 クロノが何やら喚きながら戻ってきた。ダセェ。なんて言ってる場合でもない。

 

 ようやく、リンディさんの魔法が効果を現したと、先程連絡があった。

 ホッとする事が出来ない話が、その後、テンコ盛りだったけどな。

 

 次元震がヤバい状態で、応援の局員が投入出来ない事。

 次元震は次元断層に至る1歩手前で、ギリギリ留まったという事である。

 故に、相変わらず船酔いしそうな程に、庭園は揺れている。

 リンディさんは引き続き次元震を抑える為、今いる場所を離れられないと言っていた。

 

 アリシアの幽霊?の話じゃ、ヤツは何かと戦っており、それはおそらくあの黒い靄だ。

 何もせず、待機して成り行きを見守る訳にもいかず、俺達は(主に俺が)疲れた身体に鞭を

打って、進めない地点ではプレシアを引き摺って到着した。

 

 確かに進めない。

 スフォルテンドに調べて貰ったが、結界の一種という事が分かるだけだった。

 それもかなり高度なもののようだ。

 

 なのはとフェイトが協力して砲撃したりしたが、ビクともしない。

 フェイトはかなり必死に頑張っている。ヤツが余程心配らしい。

 

 みんなで色々試していたが、無駄骨に終わった。

 が、変化はやってきた。

 

 結界があると思われる場所が、蒼く膨張したのだ。

「おい!これ、ヤバくないか!?」

「逃げるぞ!!」

 俺のセリフにすかさずクロノが撤退を判断。

 

 クロノが咄嗟に、まだ破壊工作を試みていたフェイトを掴んで撤退。

 俺達も全力で撤退する。

 後ろから爆風を受けて、俺達は前のめりにスライディングするように吹き飛ぶ。

 

 みんなで衝撃と地面を滑って出た埃を吸い込んだ所為で、咳き込む。

「全く、俺達の配慮も…欲しかったぜ…」

 俺の言葉に、みんな概ね賛成してくれた。

 

 これ以上の爆発はないと判断して、戻ると進めるようになっていた。

 さっきの一撃は、やはり結界を破壊していったようだ。

 

 先に進むと別の衝撃が待っていた。

 ポッドは無残に破壊され、アリシアの身体はボロボロで血だまりに倒れていた。

「お前…何したんだよ!?」

 俺の震える声で、ヤツが振り向く。

「あの黒い靄…アルハザードの魔法使いの残りカスが、アリシアの身体を乗っ取って

使ったんだよ」

 アルハザード!?え!?あの黒い靄、あれそうなの!?

 みんな色々な意味で言葉を失っている。

 何かが倒れる音がする。音の方を向くとプレシアだった。ショックで気を失ったようだ。

 無理もないな…。

「お前なら…もっといいやり方があったんじゃねぇのかよ!!」

 俺の怒りにアイツは無表情だった。

「どんな?アレに乗っ取られた人間を取り返す術を私は知らない。手垢の付いたセリフだけど、

その時出来る事をやっていくしかないないでしょ。それは私も同じだよ。私を何だと思ってる

のか知らないけどさ」

 それに、元々死んでいたんだよ?とヤツは付け加えた。

 そこには、寂しさのようなものを感じた。

 

 ヤツは正しい。俺だってなんでも出来る訳じゃない。

 特典を貰った俺でもそうだ。ただ、納得は出来ない。

 

「今は、ジュエルシードをどうにかして、次元震を止めるのが先決だ」

 クロノが冷静な意見を述べる。

 確かに、そうだな…。

「回収してくれるという話だったが、どうする?プランはあるのか?」

 クロノがヤツに問う。

 ヤツの魔力は目に見えて、枯渇寸前といった感じだ。冷静でいられる意味が分からん。

「今の私の魔力量じゃ、厳しいのは分かってたよ。だから、持ってたんだよ。これを」

 ヤツが手を開いて見せると、そこからジュエルシードが8つが浮かび上がる。

「ジュエルシードを使って止めるのか!?」

「毒を以て毒を制す。だね」

 ヤツがニヤリと笑う。

「個数の差は、白い子とフェイト・リニス、それに貴方に埋めて貰う」

 ヤツがグルリと俺達を見渡し、最後にクロノに言う。

「プランを聞こう」

 時間が切迫している為、クロノは簡潔にそう言った。

 

 プランは簡潔。

 ジュエルシード8つに、なのは・フェイト・リニス・クロノで、逆のベクトルの力を暴走させ、

ぶつけて打ち消し、最後に機能の封印を掛ける。という事らしい。

 難しい調整はヤツが担当するという。バランス崩すと終わる話だしな。

 リンディさんは次元震を引き続き抑える事になった。

 残りのアルフ・ユーノは、俺・プレシアの面倒を見る為、待機。

 

「俺は?」

 どうすんの?

「ボロボロの怪我人に参加して貰っても、足手纏いだからいい」

 直球で言うなよ!

 

「んじゃ、いくよ!!」

 参加者4人が頷く。

 8つのジュエルシードが輝き出す。

 ヤツが配った術式を4人が使用する。

 

 一瞬、揺れが酷くなる。大丈夫なのか!?

 だが、徐々に振動が小さくなっていく。

 

 そして、俺は見た。

 

 ヤツの魔力操作・制御を。

 あれだけの莫大な2種類の魔力を、苦も無くコントロールしている。

 あそこまでいくと、芸術と言っていい。

 チッ!差はまだデカいな…。

 

 21個のジュエルシードの輝きが、鈍くなっていく。

 そして、完全に蝋燭の火を消すように、光を失った。

 

「最後に封印。よろしく」

 なのは・フェイトにヤツはそう言った。

 2人は頷き、デバイスをジュエルシードに向ける。

「「ジュエルシード、封印!!」」

『『シーリング』』

 2人の封印砲が炸裂し、見事ジュエルシードは全て封印された。

 

 ヤツが封印されたジュエルシードを回収し、何故かフェイトの前に立った。

 不思議そうな顔をするフェイトに、ヤツはジュエルシードを差し出した。

「貴女が返して上げて」

 ヤツがユーノを見て、そう言った。

 フェイトは暫くジュエルシードを見詰めていたが、ヤツの顔を見て頷いた。

 フェイトはユーノの前に立ち、ジュエルシードを差し出した。

「ごめん。貴方達のジュエルシード…返します」

「こちらこそ、集めるのに協力してくれて…ありがとうございます」

 ヤツとフェイトの気持ちを汲んで、ユーノは礼を言って受け取った。

 これで、ジュエルシードは全て収集を完了した。

 

 

 

 それでも、まだ問題は残っている。アリシアの事だ。

 アリシアの血は拭い去られている。それくらいはしてやろうと女性陣がやった。

 アリシアの幽霊?は、なのはの傍にまだいるようだ。

 時折、ブツブツ独り言を言っている。

 

 ヤツはフェイトに向き合う。

「恨んでくれていいよ」

 こいつ。本当にフェイト優先だな。

 フェイトは首を横に振る。

「レクシアが出来ないって言うなら、出来なかったんだと思う。責められないよ…」

 フェイトは、複雑そうな表情だ。

 直接、会った事がない姉については、複雑な心境だろう。

 

 ヤツが、フェイトに詳細な事情を話している最中に、フッと思った。

 

 ここは、俺の出番だろうか?

 

 なんでもは、出来ないが、肉体は生き返っていたようだし、それなら今出来る事はある。

 その為に、レアスキルにあれを選んだんだからな。

 特典を取得後、スフォルテンドの説明で、デメリットがほぼ解消されなかったと聞いて、

落胆したが、この状況なら、いけるんじゃないか?

 だから、俺は口を開いた。

「俺なら、アリシアを助けられると…思う」

 みんながビックリして俺を見る。

 いつの間にか、意識を取り戻していたプレシアも、何か言おうとしているが、声が出ない。

 アンタ、もう大人しくしてろよ。

 

 ヤツが冷静な声で、口を開く。

「フェイト。そういう事らしいけど、どうする?どうしたい?」

 は?助けられるって言ってるんだが?

「え?…どうしたいって…」

 フェイトも困惑している。

「考えるまでもないだろう?」

 俺の言葉に、ヤツは呆れたように溜息を吐いた。

「今まで死んでいた人間が、生き返る。確かにいい事に見えるね。でもさ。プレシア女史は

不治の病と薬の影響で余命もない。必然的に、フェイトがアリシアの家族になるんだよ?

 今まで存在すら知らなかった者同士で。アリシアが納得する?フェイトの気持ちは?

そういう事、確認が必要でしょ。君だって助けたら、助けっぱなし?助けた後は?放置するの?

協力するとしたら、何をするの?」

 一気に訊かれて混乱した。

 

 そういう事は…確かに必要だった。なんも考えてなかった事を、認めない訳にいかなかった。

 

 プレシアは現金なもので、フェイトに縋るような視線を向けている。

 俺が意気消沈していると、フェイトが意を決して言った。 

「助けてあげて下さい」

 フェイトが俺に向かってそう言った。

「いいのか?」

 俺は、こういう時に助けられるように特典を貰った。

 でも、それを考えなしと切って捨てられ、自信がなかった。

「直接、話さずにいたら…後悔しそうだから…」

 フェイトがなのはと手を繋ぐと、一点何もない場所を見た。

 アリシアを見たのだろう。

 俺はヤツを見た。

 ヤツは特に反応はしなかった。自分で決めろって事か…。

 

 キツイね…。

 

 なら、俺の出来る事は、なんでもしよう。協力も惜しまない。

 俺もそれでビビったら前世と一緒になっちまう。

 

 俺も腹を決めた。

 アリシアの前に立つ。

 

運命改変(カミムスビ)

 俺は祈るように掌を合わせる。

 

 俺がレアスキルに指定した最後の特典。

 はるかかなたの年代記の主人公が持っていた失われた換象の1つ。

 運命の歯車を修復する事で、死者を蘇生させる事が出来る。

 ただし、12時間以内で使わないと手遅れ。

 原作では更に短い。デメリットとして破棄しようとしたが、これが限界だった。

 更に修復は、歯車が支えを失い、落下するまでの短い間に全て修復する必要がある。

 

 俺の眼が金色に変わる。

 違う世界が俺の眼前に姿を現す。

 破損が激しい歯車の群体。

 

 ところどころに黒い汚れがへばり付いている。

 これが、ヤツの言う残りカスだろう。

 これを取り除く必要がある。

 激烈な痛みが襲う。口から謎の呻き声が漏れる。

 それでも、俺は手を止めない。歯車を修復し、汚れを落としていく。

 

 手を止めると、俺の眼に幾何学模様が浮かぶ。

 祝詞のような文句を唱える。増幅言語だ。

 

 俺の眼から幾何学模様が消える。

 修復が完了した。

 

 俺はそれを掌サイズに纏めると、アリシアの遺体の前に跪いた。

招魂回生(タマフリ)

 俺はそれをアリシアに戻す。

 

 少しの時間なのか、実際に大分時間が経っているのか、分からない。

 緊張して蘇生を待つ。頼む、頼む!

 

 失敗したのか!?

 

 焦り出した頃、ようやくアリシアの血色が良くなり、生命活動が確認された。

 俺は溜まっていた息を、吐き出した。

 なのはとフェイトも、アリシアが消えた事を確認したようだ。

 とすれが、身体に戻ったんだろう。

 

 焦ったぜ。でも…出来たんだ。俺にも誰かを救う事が…。

 喜びを今は素直に噛み締めよう。 

 

 

              :美海

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、時間干渉型の能力かな?

 私の再成より上かな。なにしろ私がやると、漏れなくアレが付いてくる。

 アレだけ分離なんて芸当は出来ない。

 

 飛鷹君はホッとしたように脱力している。

 プレシア女史は涙を流している。なんだかね…。

 他の面々は、本当に生き返った事に呆然としている。まあ、当然だろう。

 

 クロノ執務官が、バリアジャケットのコートを脱いでリニスに渡し、意図を理解したリニスは、

アリシアにコートを着せる。

 飛鷹君。思いっきりアリシアの裸、見たね。本人そんな気ないだろうけど。

 そして、クロノ執務官がこちらに向き直る。

「さて、協力はここまでだろ?君も逮捕する。投降してくれ」

 私にデバイスを向ける。

 まあ、魔力は相変わらずガス欠間近な状態だしね。そう言うか。

「断るよ」

 私は、バルムンクを出す。

 凄まじい魔力に、クロノ執務官が緊張が走る。

 

 それでも、引かないようだ。上等。

 

 (フェン)だけでバルムンクの制御は、無茶振りだ。

 他の面々には、逃げて貰おうと思った時だった。

 

 忌まわしい気配が突然、湧きだした。

 まさか…。私が振り返るとゴキブリより会いたくない奴が、浮かんでいた。

「なっ!?決着を付けたんじゃなかったのか!!」

 クロノ執務官が声を荒げる。そんな事言ってもね。

「付けたよ」

 バルムンクに滅ぼせないものはない。確かに消えた筈だ。

 

『運命は余程、お前を殺したいらしいな』

 アレが嫌らしい顔で嗤っている。

 ウンザリする…。もうお腹一杯で、胸焼けがする。

 

「ああ…。これ、俺の所為、だったりして…」

 みんなが一斉に飛鷹君を見る。

 

 飛鷹君の説明を聞くと、彼の能力は運命の歯車を修復するもの。神の設計図に人の身で禁忌に

踏み込む行為。それの使用は、罰が伴うらしい。

 その罰は、倒した敵の復活或いは敵の出現という事らしい。おい!

「それって、最初にリスクの説明をすべきじゃないの?」

「ぐっ!!」

 私の言葉に飛鷹君が言葉に詰まる。

 そんなコード入ってなかったけどな。神様の領分だからかな?

 

 まあ、兎も角、アレの相手は私がしないといけない。だけど…。

「私が相手するけどさ。君は責任取って居残りね」

 私は飛鷹君にそう言い渡した。憑り付かれてでも動きを止めろ。

「しゃーねーだろうな」

 覚悟を決めたようだ。

「それじゃ、貴女達は逃げてね。魔力量がヤバいから、制御なんて期待しないでね」

 バルムンクが私の言葉を援護するように、蒼い光を放つ。

「すぐに、追い付くからよ」

 私達はそれぞれに言った。

 みんな動かない。急いでほしいんだけど。

 

「行こう」

 流石、執務官。冷静な判断をありがとう。

「でも!」

 フェイトが声を上げる。なのはも声こそ出さなかったが、同じ気持ちのようだ。

 リニスは、俯いていたが、徐に顔を上げた。

 

「私は…残ります。私は貴女の守護獣なので」

 

 リニスには、頼み事が済んだら、フェイトのところに行くよう言ってたんだけどね。

 覚悟は決めているようだ。

 

「もう、フェイトと会えなくなるかもよ?」

 リニスはフッと笑った。

「フェイトより手が掛かる人を放置していくなんて、出来ませんよ」

 暫し、見詰め合うが、目を逸らしたのは私の方だった。

 

「それじゃ、付いてこい」

 私はそれだけ言った。もう、気兼ねなくコキ使うよ。遠慮しないよ。

 今までしてたのかって?勿論!

 

「はい!!」

 リニスは力強く頷く。

 そして、フェイトに向き合う。

「それでは、ここでお別れになるかもしれませんが、無理はいけませんよ、フェイト」

 フェイトはオロオロしている。

「もう、会えないの?」

 フェイトが私の方も見る。少なくとも、私はそのつもりではある。

 私は戦闘はもう十分だ。管理局にも関わる気はない。

 

 私は血中からある物を取り出して、フェイトに放った。

 フェイトが慌ててキャッチする。

 フェイトの手には1つの懐中時計があった。

 私のベルカ時代の友人に友情の証として渡された物だ。

「私を見付けた時に、返して。今はそれしか言えない」

 フェイトは私をジッと見詰める。

 私もフェイトを見詰めている。

 フェイトは力強く頷いてくれた。

「フェイト・テスタロッサ!また会おう!なんてね」

 フェイトは苦笑いだったけど笑ってくれた。

 

 そして、3人を除いて全員が退避していった。

 

 振り返るとアレは、まだそこにいた。

「律儀に待ってくれるとは、驚きだね」

『お別れくらいは、させてやろうと思ってな』

 絶対、嘘だな。何か企んでる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、アレと庭園に繋がりがある。

 なるほどね。

 リニスが何も言わなかったにも関わらず、魔力を分けてくれる。

 有難い。

 私はシルバーホーンを取り出し、()()()()()()()。 

「おいおい!何すんだよ!?」

 焦る飛鷹君に私は引き金を引く。

 次の瞬間、青い炎が飛鷹君から上がり、傷が全て治る。

 再成の魔法だ。

 飛鷹君は身体のあちこちを確認している。

「君はフェイト達を護ってくれる?」

「いや、だって、コイツの相手は!?」

 私はバルムンクを振り上げる。

「この庭園自体がアレなんだよ」

「何!?」

 コイツは、相変わらず自分より弱い奴を狙う。

 それが伝わったようで、飛鷹君が全力で飛んでいく。

 

 私は、バルムンクの制御を考えずに振り下ろした。

 

 庭園の半分が落ちた。

 

 

              :フェイト

 

 庭園から脱出しようとしているが、阻まれている。

 黒い靄を纏った壁や配線などが襲ってくる。

 明らかに、レクシアが言っていた存在が邪魔している。

 レクシアの話だと、あれは身体を乗っ取る。

 最大限の注意をしないと、レクシアの邪魔になってしまう。

「ディバイーン・バスター!!」

 なのはが砲撃で道を開いても、すぐに新しい障害が出てくる。

 私達は魔法で強引に道を開いていく。

 

 不意に轟音と共に庭園が大きく傾く。

「不味そうだね。早く脱出したいけど、これじゃ…」

 今は、クロノがアリシアを抱え、アルフがあの人を抱えている。

 前衛が私となのはしかいない。

 私も砲撃を放ち、道を開けていく。

 

 私となのは、交互に砲撃を撃つ。

 魔力量がそろそろ砲撃を撃つには、厳しくなってくる。

 多分、それを向こうも待っている。

 

 庭園の施設と魔導兵の残骸が、こちらに押し寄せてくるのが見える。

 このままじゃ、約束が守れない。

 私は唇を噛む。

 

 私はなのはと視線を交わし、覚悟を決める。

 接近戦をやるしかない。

 2人で突っ込もうとした時、黒い影が私達を飛び越える。

 

 灼熱の砲撃が、前方にいる障害を焼き払う。

 驚いて振り返ると、そこには黒い魔導士がいた。残った筈じゃ!?

「飛鷹君!?どうしたの!?」

 なのはが思わず声を上げる。

 彼は傷が綺麗に治っていた。きっとレクシアだと思う。

「敵は、庭園に憑り付きやがった。俺は護衛に回れってよ!!」

 レクシア…。

 正直、彼の協力は有難い。

 

 回復した彼の魔力に頼り、私達は打ち漏らしを片付ける。

 だが、出口間際に、黒い靄の人型が無数に湧き出してくる。

「退けやぁぁーーー!!」

 彼が魔力弾と共に突撃。私達も後に続く。

 

 どれ程、倒したか覚えていない。

 私も2人共、息が既に上がっている。

 そこを突かれた。

 黒い靄の刃が背後から迫ってきていたのだ。疲労の所為で反応が遅れる。

 ゴメン。レクシア。

 

 肉を貫く音がする。

 でも、私に痛みはなかった。

 閉じてしまった目を開けると信じられないものが見えた。

 あの人が、いた。刃に貫かれて。

「どうして…?」

 私は思わず呟いた。

「ただの、打算よ。残りの命、有効に使った…よ」

 あの人がニヤリと嗤う。

「魔力は覚えたわよ。娘の身体を汚した罪は、重いわよ?」

 あの人は、凄い勢いで、魔力を吸収していく。

『貴様!何をするつもりだ!?』

 どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。

「私と一緒に行きましょう?地獄までね!!」

 あの人が駆け出す。

 あの人がドンドン黒く染まっていく。

 私達は後を追うように走り出す。

 

「無事ですか!?」

 外に出ると、リンディさんがいた。彼女も外の敵を抑えていたようだ。

 立場がある人なのに、脱出しなかったんだ。

「あの黒い人影は!?」

「プレシア…と黒幕です!!」

 黒い魔導士が断言するように言う。

 

 庭園の下には次元震の影響がまだ残っていた。

 虚数空間が小さいながら、覗いている。

 あの人が、こちらを振り返る。

「自分は、本物の…フェイト・テスタロッサ…だって言ったわね?」

 私は何かしないと、と思いながらも動けないでいた。

 なんとか頷く。

「なら、幸せになって御覧なさい。出来るものならね…」

 黒く染まって表情は見えなかったが、私の記憶の中にある笑みに似ている気がした。

 

 そして、あの人は虚数空間へと、身を投げた。

 

『ウガァァーー!!』

 悍ましい悲鳴が木霊する。

 

 私はあの人が立っていた場所まで、走る。

 滑り込むように、下を覗き込む。

 

 あの人は、笑っているように見える。それとも嗤っているのだろうか。

「母さん!!」

 私は叫んでいた。手を伸ばしたのは、母さんが消えた後だった。

 

 突然、腕を掴まれ立たされる。

「行こう。無駄になんか出来ねぇだろう」

 黒い魔導士は、険しい表情でそれだけ言った。

 横にはなのはがいた。私の手を取る。

「行こう?フェイトちゃん」

 なのはの目には悲しみがあった。

 敵だった人なのに。優しくて、強い人だ。この子は。

 アルフも心配そうに私を見ている。

 私は時間がないと分かっていても、レクシアから預かった懐中時計を取り出した。

 レクシアの叱咤が聞こえるような気がした。

「うん。行こう」

 私は母さんが消えた虚数空間を横目に、次元航行船に向かった。

 

「結局、勝てなかったかよ…」

 黒い魔導士が、悔しそうに呻いた。

「いや、勝ったさ、君は。あの大魔導士にね」

 クロノはそれだけ言って先に行った。

 

 

「さようなら。母さん…」

 私はそれだけ告げた。

 

 

              :美海

 

 私は庭園の半分を景気よく斬り落とし、次々と黒い影を斬り倒していく。

 リニスも私の背を護って戦う。ハルバードも器用に使うようになった。

 アレがペラペラ喋らない。やはり向こうが本命か。

 庭園を鰹節みたいに削りながら、進んでいく。

 

 斬り進んでいくと、黒い靄が揺らめく。支配が弱まってる?

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、確認するとプレシアがアレを吸い取っている。

 プレシア女史は、ここで死ぬ気か。

 

 なら、私もそれなりの方法で送らないとね。

 

「リニス。大技いくから。後はよろしく」

『しっかりと頼むぞ。駄猫…いや守護獣リニスよ』

 リニスが目を見開いて驚いている。

 まあ、仕事してくれればいいけどさ。

 

 血中から11本の剣が現れる。

 どれも、凶悪な程に凄まじい魔力を放っている。

 

 それが、空中で構えられる。

 

 息を吸い込み、吐き出す。心を無に。

 

「神翼飛翔」

 

 轟音が響き、庭園が吹き飛ぶ。

 

 アースラは上手く離脱したようだ。

 魔力で造った足場に私達は立って、離脱する白い戦艦を見送った。

 

 

「それじゃ、帰るかね?」

「はい!」

 

 私達は地球に一足先に帰還する。

 

 

              :???

 

 ふむ。敗れたか。

 当然と言えるだろうね。

 

 モニターに映る姿を見ながら、笑う。

 元気そうで何より。

 そして、面白い力を持っているね。彼は。

 これだから、生きる事は楽しい。

 

 玩具は、もっと凝ったものを用意しなくてはね。

 

 笑い声だけが部屋に木霊する。

 

 

 




 遂に飛鷹君のレアスキルが出たので、特典のまとめです。

 美海

〇魔法科高校の劣等生の魔法・技・技術全て。
 エレメンタルサイトの強化。再成のデメリット破棄。
 魔法の才MAX
 (再成のデメリットは、世界の修正で痛みの倍化なしのみ)
〇剣を複数を浮かせて、達人と大差なく使えるようになりたい。
 (剣聖操技とベルカで呼ばれる)
 武術の才MAX
〇ゲットバッカーズの赤屍蔵人の血液能力。レアスキル指定。

〇ベルカで英雄となった功績で、英霊化の特典が付けられる。
 本人は望んでいない。

 他にも再現出来そうな技術を再現している。
 他の魔法・剣技はベルカ時代に現地で努力で習得したもの。
 血液中には、ベルカ時代に使っていた武器などがそのまま入っている。


 飛鷹

〇ダイの大冒険の剣技・闘気技全て
〇ストレイトジャケットの魔法全て
 (世界の修正でミッド式の亜種となっている為、呪詛の発生等なし)
〇はるかかなたの年代記の主人公が持つ失われた換象の1つ白金の換象。
 デメリット破棄
 (世界の修正で使用リミットが12時間以内になった以外、変化なし)


 となっています。
 
 去年の私にお前、二次小説の連載始めるぞっと言ったら、それはない
というでしょう。今でもよく思い切ったと思います。我ながら。
 無印はあと1話あります。
 あれをやってませんし。

 では、よいお年を。

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