魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 文章を書くって難しいですね。今更ですが…。
 
 今回はプレシアの話になっているのですが、
 ちょっと様々な意味できついと言う方は、
 中盤まで読んで、スキップして頂いても
 大丈夫です。おい!!

 では、お願いします。
 頑張って読んで頂けると幸いなんですが…。


第22話 道程

              :リンディ

 

 なのはさん達を送り出し、私達は仕事に戻る。

「結界の解析結果出ました!術式、エンシェントベルカ!」

 クルーの報告に、私は苦いものを感じる。

 不用意に厄介な相手に手を出して、先を越されていては世話がない。

 管理局員として、それしか選択肢がなかったとしても。

 

 現場に行ったのは、クロノとなのはさん達4人。

 武装局員は、怪我で出動させていない。させたとしても、また怪我をするだけだ。

 武装局員は、フェイトさんの裏にいる人物逮捕に使うべきだろう。

 

 クロノの報告では、結界の破壊工作中のようだが、ビクともしないようだ。

 クロノ達の頑張りを余所に、結界内では水の巨人と英雄が対決していた。

 これだけ強固な結界を維持しながら、あれだけの戦闘を継続できるなんて、信じら

れない。

 

 戦いはドンドン私達の常識を逸脱していく。

 一面の海水を一瞬で凍結させ、衝撃波で砕く。剣2本で巨人と互角以上に斬り合う。

 あの小さい身体で、それをやっている。

 

 あの意思を持つ巨人は、どうやらなのはさん達の言う人型の黒い靄のようだ。

 ジュエルシードの力で、あんな姿に変わったのね。

 

 私達が何も出来ずにいる間に、戦いはクライマックスを迎え、巨人は倒された。

 海水を広範囲で操る魔法、文献の通りの性能を示す魔剣、とんでもない光景だった。

 文献の通りだと、あんな剣があと10本存在する。

 あの2本だけで凄い魔力反応だ。

 あれは、間違いなく秘匿級ロストロギアに認定されるわね。

 

 こうして、彼女達はジュエルシード7つを、手にしたかのように思えた。

 だが、その時、雷が巨大な柱となってクロノ達の頭上に降り注いだ。

「状況は!?」

 私はクルーに確認させる。

「次元跳躍攻撃です!執務官達は回避に成功しています!」

 報告に、取り敢えずホッと胸を撫で下ろす。

「結界が破壊され、執務官が突入しました!」

 私は頷いて言う。

「執務官には、慎重に接触するように…」

 だが、私の言葉は最後まで紡がれなかった。

「本艦にも次元跳躍攻撃!!」

 回避は間に合わない。

「シールド出力最大!」

「了解!」

 次の瞬間、凄まじい衝撃が本艦を襲う。

 衝撃が収まると、私は被害状況の確認をさせる。

 だが、それも中断される事となった。

「艦長!本艦内部に転移反応!!」

「何ですって!?」

 次元航行艦に攻め入ってくるなんて、正気なの!?

「転移反応多数!推定Bランク相当の魔導機械兵と思わます!!」

 映し出さた映像を見れば、魔導兵が次々転移してきている。

「戦闘に参加出来ないクルーは、いつでも退避出来るよう準備させて!」

「艦長!?」

「念の為よ。武装局員は、悪いけど出て魔導兵を抑えて貰うわ」

 本当は、もう少しくらい休ませたかったんだけどね。

 武装局員には、頑張って貰わないといけない。

「了解!」

 そして、更なる凶報が入る。

「艦長!ハッキングです!」

 エイミィが滅多に見せない程の必死な形相で、コンソールを叩いている。

「始めて見る型のウイルスが、多数流れ込んでいます!」

 私の顔は青ざめていただろう。

 もし、艦のコントロールを奪われるような事になれば、どれ程の死傷者が出るか。

 最悪は、コンピューターそのものを強制切断するしかない。

 全てマニュアルで操作するしかない。

 

 だが、その前に確認しなくてはならない。

「相手の狙いは、分かる?」

 エイミィが顔を上げずに答える。

「恐らく、ジュエルシードの在処…ですね。保管庫関連のデータを漁ってます」

 このタイミングだとそれしかないわね。

「通信は、まだ使える?」

「大丈夫です」

「それなら、クロノ執務官にも戻るように伝えて」

「了解」

 エイミィがすぐにクロノに連絡を取る。

 クロノは、緊急事態を告げられると、表情が流石に強張った。

 なのはさん達も、驚愕の表情だ。

「了解しました。すぐに戻ります」

 クロノは意を決したように答えた。

 

 が、その時、意外な人物から待ったが掛かった。

 

「ちょっと、待ってくれます?」

 

 

              :美海

 

 プレシア女史が、最後のハッスルタイムに入ったようだ。

 これを止めるのは、ちょっと無理だろう。

 事前に手を打っていたなら兎も角、管理局の危機など完全無視で考えていたからね。

 ロボットに入り込まれたら、打つ手は2つ。

 戦力から考えて死守か、敗北を認めるかだろう。

 どちらが被害を少なく出来るかなど、考えるまでもない。

 

 だから、すぐに戻るとか言ってる執務官に私は声を掛けた。

「ちょっと、待ってくれます?」

 私から声が掛かったのが意外なのか、ウィンドウに映る人物を含めて驚いている。

 

 私の前に新たなウィンドウが開く。

「私は時空管理局・次元航行部隊のアースラ艦長のリンディ・ハラオウンです」

「どうも。レクシアとでも呼んで下さい」

 私も名乗り返す。まあ、嘘じゃないから。

「分かりました。ではレクシアさん、何を待つのです?」

 緊急事態で忙しいんだけど!といったところか。

「ジュエルシードは、そちらの艦にあるんですか?」

「どうでしょうね。いつまでもロストロギアを艦で保管するのも危険ですしね」

 リンディさんが、ポーカーフェイスで暈して答える。

 でも、残念。誤魔化しきれてないよ。

 私は僅かな反応を見逃していなかった。

 私は王様なんてやってた関係で、嘘がすぐ分かるんだな、これが。

 注意深く見ないとダメだけどね。

「艦内にあると…。そちらも忙しいでしょうから、本題に入りましょう」

 リンディさんがピクリと目元が引き攣った。

「一時的に手を組みませんか?」

 リンディさんが、僅かに目を見開く。

 なのは達も、フェイトやアルフも驚きの声を上げる。

 リニスは、特にリアクションはない。ま、私の事を知ってれば、意外じゃないか。

「どういう事ですか?」

 まあ、疑問に感じるのも無理はない。今まで敵対してたんだから。

「利害が一致しているからですよ。

 貴女達は、私達や首謀者を逮捕して、次元災害の元であるジュエルシードを回収したい。

 私達は、首謀者を止めたいが、ジュエルシードはその為の道具に過ぎない。次元災害

だって、起こったら困る。

 どうです?かなり一致してると思いませんか?」

 戦力的な意味でも、ここで私達が加われば、最大の敵の力を利用出来る。

 向こうは、結果を伴えば文句は言われないだろう。結果を伴えばの話だけど。

 おまけに、ジュエルシードは要らないと暗に言っているのだ。

 

 意味は分かっていても、案の定というか、クロノ執務官が難色を示している。

 口には出さないけど、顔がそう言っている。

 犯罪者と手を組むのは嫌か。

 

 だが、リンディさんは違う。

 彼女は清濁を併せ呑める人だと、私は感じている。

 なにしろ、手を組むのは()()()なのだから。

 リンディさんは、考える仕草をしている。

 足元を見られない為だろう。

 まだ、余裕がありますよアピールだ。

 私もゆったりと待つ。

 

 

「いいでしょう。手を組みましょう!」

 リンディさんが、ニッコリ笑ってそう言った。

 私も微笑み返す。

 

 腹黒っ。

 

 なのは達やフェイト・アルフもドン引きである。

 クロノ執務官は苦虫を噛み潰したような顔である。同情するよ君に。原因は私だけど。

「それで、こちらに応援に来てくれるの?」

 リンディさんが、方針を尋ねてくる。

「いいえ。魔導兵の侵入を許した以上、ジュエルシードは渡しちゃって下さい」

「君は!!」

 クロノ執務官が食って掛かってくる。

「執務官。最後まで聞きましょう」

 リンディさんが冷静に宥めてくれる。

 有難い。

「制圧出来る戦力が戻れば、向こうも今より手段を選ばなくなるでしょう。自爆とか」

「「っ!!」」

 リンディさんとクロノ執務官が、衝撃を受ける。

 

 あれだけのロボットが一斉に複数自爆すれば、艦内は酷い事になる。

 向こうは、ジュエルシードを確保出来さえすればいい。

 確保の為なら、なんだって遣って退けるだろう。

 逆に、プレシア女史には時間が無い。無駄な事などしている余裕がない。

 ロボットを自爆させる方法は、動力炉を暴走させる事だろう。

 となれば、今のプレシア女史は、なるべく避けたい筈だ。

 なにしろ暴走させるにしても、魔力が必要だ。身体に掛かる負担は大きい。

 目的の物を手に入れば、アッサリ引くだろう。

 無駄遣いしなかったロボットは、防衛戦力にでも回せばいい。

 目的のための時間稼ぎにもなる。

 

「今の首謀者はなんでもやりますよ?ジュエルシードは取り返します、私が」

 暗にそちらに引き渡すと告げると、リンディさんは頷いた。

「分かりました。提案を受け入れましょう」

「艦長!」

 クロノ執務官が非難の声を上げるが、私達は無視である。

「ついでに、素直に捕まってくれないかしら?」

「お断りします」

 私達はにこやかに遣り取りした。

 その筈なのに、みんなドン引きしていた。

 

 

 結果として、私の考えは当たった。

 ジュエルシードを手に入れたらロボットは、引き上げていった。

 流し込まれたウィルスは、そのままにしていったけど。

 ま、そこまでお人好しじゃないよね。

 これで、プレシア女史はジュエルシードを13個手に入れた訳だ。

 それだけあれば、時の庭園の動力炉の魔力も合わせれば、余裕で目的達成出来るだろう。

 最も、次元跳躍攻撃2連撃で、動力炉は魔力残量が心許ないだろうけど。

 

 私達は時の庭園に突入しようとしたが…。

「あの、どうしてジュエルシードを、譲ってくれる事になったんですか?」

 転移しようとしたその時に、ユーノ君が訊いてきた。

 彼からすれば、今まで散々邪魔してたのに、いきなり手を組もうと言われれば、戸惑う

だろうし、不愉快かもしれない。

 私はフェイトを見て、どうする?というような仕草をする。

 フェイトは、正しく意味を理解したようで頷いた。

「大切な人の為に必要だったけど、今はもう…」

 フェイトはそう答えた。

 ユーノ君も、言い辛い事が起こった事を察したようだ。

「そうですか…」

 言葉短く、そう言った。

 なのは達も表情が暗くなっている。

 

 私は手を打って、パン!と軽い音を立てる。

 私以外の暗くなった面々が、ビックリしたように私を見た。

「これから敵陣に攻め込むんだからさ。切り替えていこうよ」

 そう言って、私はニヤリと笑った。

 暗くなるのは、後で幾らでも出来る。今は今しか出来ない事をしないとね。

「それでは、決戦の舞台へ、ごあんな~い」

 私は転移を実行した。

 

 一瞬にして、荒れ果てた庭に私達は立っていた。

 そして、ロボットが次々と転送され、私達を包囲する。

 みんなそれぞれのデバイスを構えるが、私は制止してみんなの前に出る。

「道なら、私が開くよ」

 私はシルバーホーンを左手で構える。

「フォノンメーザー」

 熱戦が一直線にロボットを打ち抜いていく。

 爆散し、その爆風で他のロボットも巻き込みながら吹き飛び、道が出来上がる。

 私が使うと何故か、こうなるんだよ。威力アップには努めたけど、ここまでとは。

「さ、行って」

 私は道を作ると振り返ったが、みんな呆然としている。

 呆けないでよ。

「はい!行った行った!!」

 私は、みんなを急かして行かせた。

 燃え盛る道を、私に急かされて慌てて突入する。私は最後に付いていく。

 

 みんなが建物の中に入ると、私は入り口で立ち止まる。

「レクシア!?」

 フェイトが気付いて止まる。

「行って。話をするんでしょ?すぐに追いつくよ。貴女達は動力炉の停止、頼んでいい?」

 前半はフェイトに、後半はなのは達に言う。

「待ってるからね!」

「分かったよ!」

 フェイトとなのはが返事を返してくれる。

「君は僕が逮捕する。忘れないでほしい」

 これはクロノ執務官。

「あれ?口説かれてる?」

 私が冗談で返すと、フェイトとリニスが冷たい視線をクロノ執務官に送る。

「違う!!」

 分かってるよ。俺が捕まえるまで、無事でいろって事でしょ?

 執務官のクセに、小娘と使い魔の視線にビビるなよ。

「俺も言いたい事があるからな!今度は逃げるなよ!因みに口説いてねぇぞ!!」

「はいはい」

「なんで俺だけ、御座なりなんだよ!?」

 こんな雑魚に死亡フラグ立てるなっていうの。

 さて、フラグを叩き折りますか。

 

 みんなが飛んで行った後、炎の壁からロボットが向かってくる。

 私はシルバーホーンを構え、不敵に笑う。

「相手にならないね」

 次の瞬間、無数の弾丸がロボットを打ち抜いていった。

 

 ロボットの残骸の上で、私は目を凝らす。

 フェイト達はプレシア女史と接触出来そうだね。

 なのは達は、ロボットを順調に排除中っと。

 

 さて、私もジュエルシードの回収に行きますか。

 

 

              :プレシア

 

 まだあの失敗作は、ジュエルシードを回収しようとしているのね。

 救いようのない愚かさだわ。

 魔導兵を使って回収する気だったが、手間が省けそうかしら。

 思念体を片付けたタイミングで、次元跳躍攻撃を行う。

 時の庭園の動力炉から、魔力を使用しないといけないが、仕方がない。

 小娘の結界を破壊し、封印したジュエルシードを転送魔法の応用で回収する。

 あの小娘がいる以上、魔導兵を回収に使えない。

 確実性の点ではやりたくなかったけど、これしか方法がなかった。

 それで、7つ。

 まだ足りない。

 忌々しいが、あの小娘から奪うのは、無謀だろう。

 だとすれば、管理局から奪うしかない。

 連続使用は負担どころではないが、仕方がない。

 私は躊躇などしない。

 次元航行船を攻撃し、魔導兵を大量に送り込む。

 情報戦用の試作品も送り込んだ甲斐があって、回収はスムーズに済む。

 何故、ここまでスムーズだったかなど、どうでもいい。

 意外に奪われてたのね。あの失敗作は、本当に使えないわね。

 これで、6つ追加され13個手に入れる事が出来た。

 魔導兵を回収する。

 

 一息吐くと、全身に言葉に出来ない程の痛みが襲う。

 激しく咳き込み。血を大量に吐く。

 呼吸が出来ない。

 激痛にのたうち回る。

 

 発作が治まると、自分の吐いた血で汚れている。

 私は、まだ死ぬ訳にはいかない。

 発作が治まったとはいえ、痛みは続いている。

 私の死病に、安息の時は存在しない。

 まともに眠る事が出来た日など、何年もない。

 私は震える手で、ローブに入れてあるケースから注射器を取り出し、腕に注射する。

 勿論、治療薬などではない。ただの鎮痛剤だ。

 普通の薬では最早、効果はない。今は原液に近い物を注射している。

 それも最近、効きが悪い。

 

 なんとか立ち上がれるようになり、血で汚れたローブをその場に捨てる。

 フラフラと歩き始める。

 

 待っていて、アリシア。今、起こしてあげるから…。

 

 もうすぐ、もうすぐ願いが叶う。

 今までの事が走馬灯のように蘇る。

 何度も、思い出しては後悔で死にたくなるのを堪えた。

 今は、落ち着いて思い出せる。

 

 

 28歳で私はアリシアを授かった。

 夫とは、それからすぐに上手くいかなくなり、離婚する事になった。

 それでも、別に悲しくなどなかった。

 私には、宝物が残ったから。

 夫が親権を主張しなかったので、苦労せずにあの子と暮らせるようになった。

 因みに、離婚の理由は下らない。自分より優秀な妻など嫌だ、というものだった。

 

 私は魔導工学の研究所に勤めながら、職場で子育てを行った。

 アリシアは活発な子に成長した。

 研究所でアイドル的な存在になるのに、時間は掛からなかった。

 

 1人で留守番が出来るようになると、私が仕事で遅くなると泣かれた。

 そこで、私はペットショップで1匹の山猫を購入した。

 その山猫が、アリシアの孤独を、少しでも和らげてくれるように願って。

 私の願いが叶い、アリシアは山猫に夢中になった。

 2人で名前を散々考えて、リニスと名付けた。

 

 暫くすると、研究所からプロジェクトの異動を命じられた。

 新型の大型魔力駆動炉の開発プロジェクトへの参加だった。

 それが可笑しな話だった。

 前任者の進めた部分の変更は認めない、というものだった。

 十分な引継ぎもなされないまま、私は開発を再開せざるを得なかった。

 

 前任者の無能さは、私の想像を超えていた。

 碌な安全性も確保されておらず、魔力を効率よく駆動炉に力を伝えられる訳でもない。

 しかも、各方面からの要望という名の命令で、構造はグチャグチャだった。

 前任者も何をやっているか、自分でも分かっていなかったのではないだろうか。

 この中途半端な代物を、どうしろというのかと、怒りを覚えた。

 

 このプロジェクトに、私は掛かり切りになった。

 相変わらず下りてくる意味不明の命令に、開発チームは疲弊していた。

 1人留守番をするアリシアの顔は、ドンドン曇っていった。

 それが分かっていながら、私にはどうする事も出来なかった。

 

 ある夜、就寝前に、今まで何も不満を漏らさなかったアリシアが私に言った。

「お母さん。明日もお仕事…?」

 私は申し訳なさで一杯だった。

 アリシアを抱き締める。

「ごめんなさい、アリシア。このお仕事が終わったら、ずっと一緒にいられるから…」

 このプロジェクトが成功すれば、私は残業も休出もない管理部へ異動出来る筈だった。

「ホント!?」

 アリシアの顔が輝く。

「ええ!勿論よ!」

 私は笑顔で頷いた。

 この時の私は、あんな事になると思ってもいなかった。

 

 ようやく実用の目途が立った頃だった。

 私は開発主任から補佐に格下げされ、顔も知らない研究員が入ってきた。

 それだけならいいが、新しい主任も研究員も、嫌がらせのように足を引っ張った。

 そうこうしているうちに、信じられない知らせが私に届いた。

 

 足手纏いを抱えての、開発の最中の事だった。

 主任と共に私は所長に呼び出された。

「稼働試験!?」

 所長は厳かに頷いた。

「ちょっと待って下さい!!まだ時期尚早です!!まだ検証も足りていないんですよ!?」

 完全な新型なのだ。もっと安全性の確認が取れないと稼働なんて、とても出来ない。

「プレシア君。先方は、いつになったら完成するのか、気にしておられる。

もう完成間近だとアピールする必要があるのだ」

 形だけの主任が、そんな事を宣う。

 アンタは、この事を知っていた訳ね。

 口を開いたと思えば、何を馬鹿な事を言っているの。

「それで、事故が起こったらどうなさるのです!?」

「そうならない為にも、万全の態勢で臨むよ」

 全然万全ではないのに、結局は試験は行われる事になった。

 

 稼働試験は私主導で行う取り決めになっていた。

 それなのに、主任とその取り巻き研究員が、強引に私達を外に追い出し試験を開始した。

 勿論、抵抗した。だが、警備員まで出てきて引き摺り出されてしまったのだ。

 あとは成功を祈るしか、私に出来る事はなかった。

 

 そして、悪夢は起こった。

 突然、アラートが研究所内に響き渡る。

 慌てた様子の取り巻き研究員が、私を試験場に連れ込む。

 私が来た時には、緊急停止すら受け付けない状態だった。

 私は必死でコンソールを叩いた。

 どのコマンドも受け付けない。

 どうなってるの!?

 そして、分かった。

 何故、私が試験場を追い出されたのかが。

「駆動炉が一部、私の把握していないエリアが存在しています。どういう事ですか!?」

「知らん!私は知らない!!安全管理は君の担当だったろ!私は知らない!」

 主任達は少しずつ後退りし、逃げ出してしまった。

「待ちなさい!!」

 この意味不明なエリアが、システムを妨害しているのは、確かだった。

 

 気が付けば、私は警備員に引き摺られシェルターに避難していた。

 無理矢理にコンソールから、引き剥がされた所為か、痣と擦り傷が出来ていた。

 

 シェルターを出た私に、更なる悪夢が訪れる。

 駆動炉の魔力が研究所外に広範囲で広がった、というものだった。

 あの駆動炉の魔力は、酸素を取り込みエネルギーに変える。

 それが外に拡散したなら、人間は一瞬で体内の酸素まで奪われ、死に至る。

 駆動炉内であれば、画期的な物になる筈だったそれは、とんでもない凶器になったのだ。

 

 だが、問題は拡散した範囲だった。

 その範囲に自宅が入っていたのだ。

 

 私は調査委員会がどうの言う声を無視し、自宅に走った。

 乗り物など動いていない。

 身体強化までして、走る。

 

 家の扉を開けて、中に入る。

 いつもいるリビングの扉を開けると、そこにはアリシアがいた。

 テーブルの上には、絵が描きかけの状態で放置されていた。

 アリシアは横になっていた。眠っているように。

 その横には寄り添うようにリニスが、横たわっている。

 まるで、現実感がなかった。

 私はその場で、呆然と立ち尽くしていた。

 

 事故調査委員会が、私を見付けるまで、私は立ち尽くしていたようだ。

 気が付けば、一室に監禁されていた。

 研究所は私に全責任を押し付けた事を、後で聞かされた。

 

 私はそのまま拘留され、裁判所に移送された。

 怒りをもって私は裁判を戦った。

 だが、強力な弁護団を前に私は無力だった。

 私には、天文学的な額の賠償金支払いを命じられた。

 

 私は全てを失ってしまった。何もかも。

 私に残ったのは、アリシアとリニスの遺体のみだった。

 家も何もかも処分しても、賠償金に届く訳がない。でもやらないと支払いが出来ない。

 今は、ボロ家を間借りしている状態だ。

 途方に暮れていた時、私の弁護を担当した弁護士が来た。

「娘さんの遺体の埋葬が、まだと伺いまして…。そろそろ弔って差し上げては、どうで

しょうか?」

 弔う?誰を?

 私は激しい怒りに襲われ、弁護士を叩き出した。

 アリシアを埋葬する?ふざけるんじゃないわよ!!

 

 そう、アリシアは眠っているだけよ…。

 何もかも失った?違う。私にはまだ頭脳が残っている。魔導の技術が残っている。

 法律?そんなもの守ってなんになるの。

 手段を選ぶ必要なんてないじゃない。

 

 待ってて、アリシア。お母さんが起こしてあげるからね。

 

 どんな方法を用いても。

 

 私は研究所をクビにはならなかった。

 かなり恩着せがましい事を言われた。神経を疑う連中だ。

 ギリギリまで私の頭脳を使おうという魂胆が見えた話だった。

 ほぼタダ働きになる。賠償金の支払いがあるからだ。

 

 流石にそのまま働く事は出来ない為、地方に左遷された。

 私は地方で結果を出し続けた。

 私は今、所長とウィンドウ越しで話していた。

「プレシア君!データを渡さないとは、どういう事だ!?」

「どういう…とは?」

 私は意味が分からない、といった態度をとった。

「研究データだ!!何故、渡さない!!」

 私は微笑んで見せた。

「所長。これだけ成果を出したとなれば、所長賞を頂けるでしょ?」

「何!?」

 所長の感謝状など、どうでもいい。問題は賞金の方だ。

「犯罪者のお前に!?所長賞!?ハッ!冗談ではない!!使ってやってる事を感謝しろ!!」

「犯罪者?それは貴方も同じでしょう」

 責任を全て私に押し付けただけで、善良な市民気取りとはね。

 私の冷笑に、所長が怯んだ。

「そうそう。犯罪者と言えば、最近、ミッドは治安が悪いそうですね?」

「いきなり何を…」

「娘さんは、ゲイル魔法学院に通っていらっしゃるとか。あの辺りの道は1本、道を逸れる

とガラの悪い連中がいますからね。注意しなくてはいけませんね」

 私は所長の発言を遮って、調べ上げた事を教えてやった。

「っ!?」

「奥様もブランドものを買うのに、中央まで行かれるようですね?強盗などに襲われないと

いいのですが…」

 私はこの時、既に裏社会の連中とも付き合っていた。

 下らない研究ではない。私の本当の研究資金が足りない。

 私は裏社会で違法な魔薬の生成から、必要なら犯罪に役立つ魔法などを連中に渡して、

金を得ていた。

 その伝手で調べた事だ。

「ま、まさか!?脅す気か!!」

「それこそ、まさかですよ。聞いた事を教えて差し上げただけですわ」

 私は笑ってやった。

 弁護団だって動けやしない。

 連中の後ろ暗い秘密も、私が握っているのだから。

 あの人災の前に、私にこの力があったらよかったのに。

 所長は蒼白になって、私に所長賞を与えた。いや、与え続けた。

 それから、私に干渉はしてこなくなった。いい事だ。

 お陰で、予想より早く賠償金の支払いが済んでいた。

 

 肝心の研究は、順調とはいかなかった。

 この頃から、体調が変だったが、病院などに行っている余裕はなかった。

 そして、遂に私は職場で血を吐いて倒れた。

 診断は、魔導士特有の死病だった。末期で治療は不可能と言われた。

 今すぐに、入院すべきという医者を無視して、退院した。

 研究を急がなくてはならない。

 

 そんな時に、裏社会で世話になっている組織から、連絡がきた。

「プレシアさん。アンタ、変わった研究してるんだって?」

 私はウィンドウ越しに、組織の男を睨んでやった。

「詮索はしねぇよ。俺も長生きしてぇからな」

 組織の男は、降参とばかりに手を上げて見せた。

「アンタの研究に興味があるって、奴がいるんだが、あってみねぇか?」

 私の研究は、極秘裏に進めていた。裏社会の連中にも。

「こいつがクセのある奴だが、アンタに匹敵するくらい天才だよ」

 この男がここまで褒めるのは珍しい。

 研究に行き詰まりを感じていた為に、興味を持った。 

 そこで会ったのが、()()()だった。当時は少年だったが。

 遺伝子研究に異常な情熱を燃やす男だった。

 天才という評価は、正当だった。

 なにしろ、研究が1年で完成したんだから。

 

 完成して、いよいよという時に、管理局が私を調べているという情報が入った。

 私は所長やあの人災を起こした連中を、スケープゴートにして捜査の目を逸らした。

 その間に、移動型の庭園を購入した。魔力蓄積型の動力炉がいい。

 管理局が連中を食らっている間に、私は証拠とデータを処分して、姿を消した。

 

 私はまずリニスで開発した技術を試した。

 山猫は見事生前の姿を取り戻した。

 

 私は満を持してアリシアを目覚めさせる。

 記憶の転写も完璧の筈だ。

 目を覚ましたあの子が私を見る。

「お母さん…?」

 私は感極まって、あの子を抱き締めた。

 私は遂に取り返した。あの子を。

 

 でも、違和感はすぐに形となった。

 利き手が違ったのだ。

 私は悪い予感を感じながら、あの子を調べた。

 結果、あれにはアリシアが受け継がなかった魔法資質を、受け継いでいたのだ。

「失敗…した…の?」

 考えてみれば、リニスももっと気紛れな性格だった。

 

 あれは違う。アリシアじゃなかった。

 

「うわあぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 私は絶叫を上げて、あらゆるものを手当たり次第に壊した。

 

 あの時の絶望は筆舌に尽くせない。

 私は動けなかった。

「お母さん?」

 あれが扉の影から顔を出している。

 顔は同じなのに違う。悍ましい存在。鳥肌が立った。

 すぐに処分を…。

 

 

 いや、あれを利用しよう。

 私には時間がない。

 あるものは使えばいい。

「部屋に戻りなさい」

 私はそれだけ言うと、視線をあれに向けなかった。

 あれは部屋に戻って行った。

 

 私があれに教えるのは御免だ。

 教育係が必要だ。

 私の視界に山猫が映る。

 あれだ。

 

 私はあの山猫モドキを使い魔にした。

 山猫が人型に変わる。

「これより貴女の使い魔となります。宜しくお願いします」

 山猫が頭を下げる。

「あの…。私、記憶がまるでないのですが、生まれたての赤ん坊だったんでしょうか?」

 山猫が不思議そうに頭を捻っている。

「そんな事は、どうでもいいわ。貴女の名はリニスよ」

「かしこまりました。これより私はリニスです」

「貴女には、教育係をして貰うわ。今から紹介する子を一人前の魔導士にしなさい」

 私はあれを呼んだ。

「この子よ。名前は()()()()

 私はアリシアの名前を名乗らせておくのは嫌だった為、計画名から適当に名前を新たに

付けた。記憶も適当に名前を置き換えた。

「宜しくお願いします。フェイト」

 偽物同士、お似合いだこと。

 

 あれは、順調に魔導の技術をものにしていった。

 私は、アリシアを目覚めさせる別の方法を、模索し続けていた。

 リニスは、あの山猫と同じ素体とは信じられない程、口喧しい。

 あれを構えだの、愛情がどうのだの、ストレスが溜まる。

 

 そして、リニスは遂に私の秘密を探り当てた。

 私に対して不信感があったのだろう。

 忌々しいからリンクを殆どしていなかったのが、仇となった。

 リニスは、隠してあったアリシアの生体ポッドの前で、立ち尽くしていた。

 どうやら、書類やデータも漁ったようだ。

「主の秘密を覗くなんて、躾がなっていなかったようね」

 リニスが慌てて振り返る。

 私の魔法で、リニスが反応出来ずに壁に叩き付けられる。

「これが…フェイトに辛く当たる理由…ですか?」

「正当な対応よ」

 リニスが憤然と顔を上げる。

「正当!?あの子になんの落度があるんですか!!」

 リニスが距離を詰めて私の胸倉を掴む。

「あの子は口には出しませんが、愛情を求めているんです!!」

 私はリニスの腹に手を翳す。

 至近距離から魔法を受けて、再び壁に叩き付けられた。

「あの偽物に!?あんなものにやる愛情なんて1匙すらないわ!!」

 私は冷たくリニスに言い放つ。

「貴女には分からないでしょうね」

 リニスがフラフラと立ち上がる。

「分かりませんよ。貴女が全部忘れさせたんじゃないですか!!」

 私は鞭を振るった。

 リニスは顔を打たれ、倒れた。

「貴女の契約は、あれが仕上がり次第終了よ」

 私は冷たくそう言うと、立ち去った。

 

 

 様々な事が浮かんだが、今度は間違いない。

 今度こそ、貴女を目覚めさせるからね。アリシア。

 

 

 

 今、旅立つわ。

 2人の再生の地・アルハザードへ。

 

 

 

 

 




 年内に終わらないな。
 あと最低で2話というところですか。もっとあるかも。

 今回はプレシアの事情を妄想込みで書きました。
 
 以下は興味のある方は読んでみて下さい。


 美海の使用した魔剣。

〇埋葬剣オルクス
 冥王イクスヴェリアの佩剣として有名な魔剣。
 死者を冥界に連れ帰り、生者を冥界に連れ去る魔剣。
 だが、古くは彷徨う霊魂を天上に導く聖剣として
神殿に祀られていた。
 イクスヴェリアがマリアージュの使用が避けられない
事を悟り、せめて死者の魂を慰められるように、神殿に
頼み込んで佩剣にした経緯がある。
 だが、マリアージュの使用で、イクスヴェリアは、他
国に国民まで殺して兵器にしているというデマを流され、
国民の信用を失い、遂に討たれてしまう。
 イクスヴェリアが最後まで持っていた所為で、風評被
害にあった剣。
 因みに、美海は未だに埋葬剣が聖剣だと知らない。

〇波濤剣シュトレームング
 湾岸都市を治める領主が、代々受け継ぐ水の魔剣。
 水系統の魔法の無効化。水を斬る事が出来る。
 本領は、水を自在に操る事が可能。
 貿易の要であった為、調子に乗った領主の態度が、
聖王連合の癇に障り、美海に攻められ都市は陥落した。
 降伏の条件として、聖王連合は波濤剣を要求した
が、領主が聖王連合にやるより、武勇のある美海に
やった方がマシという消極的理由で、美海の物に
なった珍しい魔剣。
 

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