魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 まだ、無印が終わる気がしない。
 年内に終わるの無理かもしれません。

 いつ、A`sに入れるやら。

 では、お願いします。


第21話 海へ

              :飛鷹

 

 少し前から、アースラでの待機になっている。

 アースラのセンサーでも、未だジュエルシードは見付かっていない。

 おいおい。こりゃ、最悪、俺達が原作通り、海に魔法打ち込むしかないか?

 原作ではフェイトがやってたけどな。

 最近、姿を見せない事を、なのはが気にしている。

 陸地にジュエルシードがない以上、会いようがないだろう。

 次、会うとすれば、海だ。

 

 そして、最近なんだか、なのはが何か言いたそうにしている。

 なんだ?

 

 今も口を開きかけては、止めている。

 ユーノもそれに気付いていて、俺に視線を送っていくる。

 なんとかしろと?お前じゃダメ?

 ユーノは視線を一瞬、なのはに向けると、再び俺を見る。

 ああ、いけって事ね。

 なんか会話が、視線だけで成立してるよ。なんで野郎とこんな事しなきゃならんのだ。

「何か気になるのか?それなら言ってくれ。溜め込むのはよくないぞ」

 俺はなのはを促してやる。

「あっ、うん。ジュエルシードの事と関係ないんだけど…」

 なのはが言い淀み、俺とユーノの間を視線が彷徨っている。

 俺はユーノと顔を見合わせる。

 

 まさかっ!?ユーノとの、ホモ疑惑とかじゃないだろうな!?

 やはり、野郎と視線で会話なんてすべきじゃないか…。

 もう、ロリコン疑惑だけで、お腹一杯なんだよ。

 俺の背後にオドロ線を感じたのか、ユーノが声を掛けてくる。

「えっと…。飛鷹、どうしたの?」

 止めろ、ユーノ。それが誤解の元なんだ。

 

 俺がそんな馬鹿な事を考えていると、なのはが意を決したように、口を開く。

「私ね。そろそろ、飛鷹君の事が聞きたいなって思うんだけど」

「俺?」

 なのはが頷く。

「どうして、飛鷹君は強くなろうと思ったの?」

 ああ、その話か。

 誤魔化すような言い方になったから、不審に思われたか。

 

 確かに、言い辛い事だった。

 俺の前世の話だし、下手すれば軽蔑されるかもしれない。

 でも、放って置くとずっと気にしそうだしな…。

 正直に言っとくか…。

「正直な、立派な理由じゃないんだよ。軽蔑されるかもしれないし。だから、あんまり言いたくない」

「軽蔑なんてしないよ!!」

 なのはが心外だとばかりに、怒って大声を上げる。

 俺は反応に困る。

「飛鷹君は私に可能性をくれた。前は分からないけど、今の飛鷹君を私は凄いと思ってる」

 なのはが真剣に言葉を紡ぐ。

「僕も感謝してるよ。こうしていられるのは飛鷹のお陰だしね」

 ユーノからも、なのはへの援護射撃が入る。

 あんまり、気が進まないんだけどな…。

 

「今から話す事は、少しおかしく感じるだろうけど。そこは突っ込まないでくれよな」

 俺は2人にそう前置きした。

「全部は話せないって事?」

 なのはが訊いてくる。

「いずれ話すよ。今はこれで勘弁してくれ」

 転生云々は、流石にな。

 2人は取り敢えず納得してくれた。

 

 

「随分前になるけどな。俺のクラスで、イジメがあったんだよ」

 俺は昔話を始めた。

 俺がオタクになった原因だな。

 

 俺のクラスには質の悪い奴がいた。

 よくない評判が多い奴で、その評判は殆どが真実だったと、後になって知った。

 それがなくとも質が悪かったけどな。

 別に見るからにって、外見じゃない。でも中身は最低だった。

 教師の前では、優等生。俺らの前じゃ暴君だった。

 

 そいつがある日、クラスカーストで一番の下位の男子に目を付けた。

 今まではクラス全体に迷惑を掛けるのが、楽しかったようだが、新たな楽しみを見付けた。

 いや、見付けてしまったと言うべきだろう。

 俺にも切っ掛けなんて分からない。

 ただ、気付いたらそうなっていた。

 端的に言って、イジメるようになっていた。

 行為は当然エスカレートしていった。

 金を毟り取る。暴力行為。そして、万引き強要、便器の水を飲ませたり、素っ裸で縛り付けた

写真をネットにアップしたりしだした。時には足を縛ってドブ川に放り込んだりしていたようだ。

当然、それもネットにアップしていたようだ。

 

「そんな…酷い!」

 なのはは信じられないとばかりに、怒った。当然だと思う。

 ユーノも不快感を示していた。

 

 そんな酷い事をされていたのに、俺達は何もしなかった。

 何かしたら、次は自分がやられると分かっていたからだ。

 俺達はその男子生徒を生贄にして、学生生活を送った。

 

 そうこうしているうちに、男子生徒は自殺した。

 

 学校の屋上を選んだのは、イジメていた奴だけじゃなく、俺達への当てつけでもあっただろう。

 流石に、暫くはそいつも大人しくしていた。

 俺達も男子生徒のメッセージを正しく受け取っていた。

 虐待事件の場合。黙って虐待を見ていた人物も虐待行為があったとされると、テレビで聞いた

時に、俺達も同じなんだと思い知った。俺達も男子生徒をイジメていたんだ。

 遺書には、恨み言が書かれていたという噂だが、真相は分からない。

 

 それから、俺は漫画やアニメにハマった。

 そこにはヒーローがいた。困っている人を助ける事が出来るヒーローが。強いヒーローが。

 趣味に合うものがなくなると、ラノベ、二次小説やネット小説にハマった。

 そこから、普通の小説も読むようになった。

 

 その時に漫画編集者が主人公の小説を読んだ。

 その主人公がこう言うのだ。

「普段、どんなに情けなくても、優柔不断でも構わない。でも、ヒーローは立ち上がるべき時に

立ち上がらなくてはならない」

 言葉にしてみれば、当たり前だが、俺はそれに気付かなかった。

 あんなにアニメや漫画、ラノベを読んだり、観たりしていたのに。

 

「だから、思ったんだ。今度は立ち上がるべき時に立ち上がれる人間になりたいって…」

 別に、男子生徒の事を気にしていた訳ではない。

 何もしなかった自分が嫌だっただけだ。

 強くなれば、何でも出来るヒーローになれると勘違いしていた。

 立派でもなんでもない。

 

 話し終えて、2人を見ると俺の方をジッと見ていた。

 

「軽蔑なんてしないよ。飛鷹君は、立ち上がれる人になってるもの」

「うん。それで僕も助けて貰ってるわけだからね」

 2人がそれぞれに口を開いた。

 

「ありがとな…」

 俺は柄にもなく、小声でそう言った。

 だが、そんな小細工は無駄だったらしく、2人は少し笑った。

 

 

 しんみりした雰囲気は、突如鳴り響いたアラートで搔き消された。

 

 

              :なのは

 

 突然、艦内にアラートが鳴り響く。

「ジュエルシード!?」

 私は、飛鷹君とユーノ君を見る。

「いや、それなら僕達にも連絡がある筈だよ」

 ユーノ君が否定する。飛鷹君も無言で頷いている。

 私達は、忙しいのに悪いと思ったけど、近くの人を捕まえて事情を訊こうとする。

 けど、その前に館内放送?が流れる。

『街中で魔力反応を感知!魔導士が魔法を使用したと思われる。武装局員は出動準備が整い次第

現場へ急行せよ』

 放送が繰り返される。

「街中で!?」

「ジュエルシードが、絡んでるって感じじゃねぇが…」

 飛鷹君が言い淀む。

 分からない事を、ここで考えても仕様がないので、ブリッジに行く事にする。

 

 ブリッジに着くと、みんな慌ただしくセンサーのチェックや、よく分からない操作をしていた。

 私達は、リンディさんに声を掛ける。

「あの!何があったんですか!?」

 リンディさんは私達の方に振り返る。

「なのはさん。今回はジュエルシードの発見ではなく、フェイトさんの魔力反応を感知したの」

「フェイトちゃんの!?」

 それは、フェイトちゃんが魔法を使った事を意味する。

 何があったの!?

「あ、あの私達も!!」

 リンディさんは、少し考えてから頷いてくれた。

「分かりました。でも、無理はしないで下さい」

 私達は頷く。

 

「艦長!武装局員出動準備完了!転移を開始します!」

 局員の人達が、ドンドン転移していく。

 私達は、アースラの転移順番を待っているのも、もどかしいからユーノ君と飛鷹君の転移で現

場へ向かった。

 

 転移が完了すると、海鳴でもかなり目立つ高層マンションの前に出る。

 こんな近くに来てたんだ。

 局員の人達が、結界を張ると同時に包囲網を敷いていく。

 局員の人がクロノ君をチラッと見ると、クロノ君が頷く。

『管理局だ!!デバイスを捨てて、投降せよ!!投降しなければ、武力行使を行う!!』

 局員の人が威圧的な念話を放つ。

 それに、私も飛鷹君も嫌な気持ちになって、顔を見合わせる。

 それに対して、反応は一切ない。

 時間にしたら、そんなに経ってないんだろうけど、随分永く感じられる。

 

 私達はマンションの様子を見に行きたくて、クロノ君に頼もうとした時。

 ベランダから、2つの影が飛び出してきた。

 あの人とあの人の使い魔の人だった。

 それに続くように、フェイトちゃんを抱えたフェイトちゃんの使い魔の人が飛び出す。

 フェイトちゃんは、なんかぐったりしている。

 どうしたんだろう?

「止まれ!」

 局員の人達が口々に静止の声を上げるけど、全然止まる気配がない。

「押し通る!」

 あの人がいつの間にか剣を握っている。

「一斉射撃、開始!!」

 クロノ君が局員の人達に指示を出すと、前回持っていた杖とは違う形状の杖を、あの人達に向

ける。

「待って!」

 私の声も空しく魔法が放たれる。

 だけど、全ての魔法が一瞬で叩き落とされる。

 あの人が、弾の形成から発射までを、ほぼ一瞬でやったの!

 凄い…。

 私達は、呆然としてしまった。

 

 その間も、クロノ君が指示を出しながら、あの人達を逃がさないように、陣形を臨機応変に変

えているけど、あの人と使い魔の人は、ほんの僅かな隙を見逃さず、陣形を崩していく。

 そして、その度に局員の人達が倒れていく。それが早くて、私達は介入出来ないでいた。

 アッと言う間に、クロノ君と私達だけになってしまう。

「クッ!分かっていたが、局員じゃ、彼女の相手は厳しいか!?」

 あの人は、前とは感じが違う。

 前までは、こちらに付き合っている感じだったが、今は倒す事を前提とした動きに、変わって

いる。

 たったそれだけで、小柄な身体が凄く大きく感じる。

 受ける圧力がまるで違う。

 私も飛鷹君も、現場で活躍しているらしいクロノ君でさえ、冷や汗が止まらない。

 あの人は、少しも本気を出していない。手加減してこれなんだ。

 瞬く間に、あれだけいた局員の人を全員倒してしまった。

「で?貴方達はどうするの?もう、ヌルい対応は出来ないって言ったよね?」

 あの人が剣を私達に向けて言う。

「クッ!」

 飛鷹君が悔しそうに反応する。

 誰もが口を開けない中、突然、声がした。

「あ、あの!今は捕まる事は出来ません。でも、全てが終わったら自首するつもりです。だから、

今は見逃して貰えませんか?決して、この世界の人達に迷惑は掛けませんから」

 口を開いたのは、フェイトちゃんだった。

 飛鷹君が物凄く驚いていた。

 私も驚いていた。だって、フェイトちゃんから感じていた拒絶が、今はあまり感じられない。

 あの人も、注意はこちらに向けたまま、フェイトちゃんを見た。

 フェイトちゃんがあの人に、静かに頷いて見せた。

 あの人も静かに頷き返す。

「済まないが、それは出来ない」

 クロノ君が首を横に振る。

「そうですか…。では、これだけは言わせて下さい。責任は全て私にあります。だから、彼女達

を罰しないで貰えますか」

「「フェイト!?」」

 使い魔の人達が驚きの声を上げる。

「そりゃ、無理でしょ。管理局の立場じゃ」

 あの人がアッサリとそう言った。

 クロノ君が認めるように頷く。

「それじゃ、物別れに終わったところで、やろうか?」

 闘気という訳でもない、殺気という訳でもない。

 それだけで、空気が変わった。

 私達は慌ててデバイスを構える。

 

「リニス。フェイト達の護衛を」

「分かりました」

 1人で私達の相手をするようだ。

 普通なら油断していると思う。でも、あの人には無茶じゃないんだ。

 使い魔の人が、アッサリ納得したのも、それが理由だろう。

 

「援護頼む!」

 飛鷹君がそう言うと、先陣を切ってあの人に向かって行く。

「アクセルシューター!」

 私も援護する為に、魔法を使う。

「ディスポーズ!」

 飛鷹君も魔法を使う。でも、それは今までのものとは違った。

 魔力の刃が網の目状に、あの人に殺到する。逃げ場がほぼない。

 飛鷹君も加減なしでやるつもりなんだ。

 私も魔力弾を打ち出す。

『スティンガーブレード』

 クロノ君もいつの間にか、魔力の剣を複数形成し打ち出していた。

 

 あの人は網の目状の刃に、剣を一閃する。

 何かが割れるような音と共に、刃がバラバラになった。

 あの人が高速で、飛鷹君との間合いを詰める。

 私とクロノ君の攻撃は、コントロールが利く。

 私は飛鷹君への援護として、飛鷹君に魔力弾を並走させる。

 クロノ君は、直接あの人に攻撃する。

 一瞬で構築・発射されたあの人の魔力弾が、クロノ君の魔力の剣を砕く。

 私は、飛鷹君の背後から魔力弾を四方から飛び出させ、あの人を包み込むように放つ。

 飛鷹君は、あの人に魔法を打つ暇を与えないよう、剣で迎撃。

 多少は、集中が乱れるかと思ったが、まるで妨害にならない。

 私の魔力弾も、アッと言う間に砕かれる。

「海波斬・漣!!」

「五の剣・風牙烈招」

 飛鷹君のスピード重視の連撃が、あの人を襲う。

 けど、あの人も実体のないものを斬る技を、纏わせた風を食わる。

 風をワザと斬らせ、威力を相殺したんだ。

 あの人は、ただの打ち込みになってしまった剣に、自らの剣を打ち込んでいく。

「グッ!!」

 剣技の差、打ち込みの力の差で数合もしないうちに、飛鷹君の技が無効化され、剣を跳ね上げら

れてしまう。

 あの人が飛鷹君に剣を振り上げた瞬間、クロノ君の狙いすました魔法の一撃が放たれる。

 でも、それはあの人が魔法の盾で、受け流してしまった。飛鷹君の方に。

 魔法の剣は盾を滑り、飛鷹君へ向かう。

「なろうっ!!」

 飛鷹君が全身から魔力を放出し、強引に距離を取る。ギリギリのところで剣が掠めていく。

 だけど、飛鷹君は忘れていた。あの人がまだ剣を振るえる事を。

 飛鷹君はすぐに反応し、剣で受けようとした。

 けど、すぐに飛鷹君は身体だけ、ずらして避けた。

 それは、正解だった。だって受けた剣が砕けてしまったから。

 それだけの力で振り下ろしたのに、一切体勢が崩れない。平然と絶え間なく恐ろしい威力の剣

が、飛鷹君に襲い掛かる。

 私達にも、一瞬で構築・発射が可能な魔法の弾丸が幾つも撃ち込まれる。

 私とクロノ君は、飛鷹君と距離が離れてしまった。

 ユーノ君は逃げ回るのが、精一杯みたい。

 この弾丸の嵐じゃ、援護してる余裕がない!

 

 そして、飛鷹君は剣戟の嵐を耐えていた。

 飛鷹君がどうにか隙を見付けて、反撃に出る。

 横薙ぎの一撃を躱したその時、飛鷹君が折れた剣をあの人に向けたの。

「オーラブレード!!」

 折れた剣から何かの力の刃が生まれる。刃が伸び、あの人に届く。

 と、思った時には、そこにあの人の身体はなく、飛鷹君は側頭部に肘打ちを受けていた。

 あの人は振り抜いた剣の勢いを利用して、身体を半回転させて回避と攻撃を同時にやったんだ。

 だとすれば、あの横薙ぎは誘い。

「ガッ!!」

 物凄い音がした。飛鷹君は呻き声のような声と共に、墜ちていく。

「飛鷹君!!」

 私は飛鷹君を助けようとしたけど、何かがおかしい。

 確かに、凄い弾幕を掻い潜っているけど。

 いつもなら、このぐらいじゃ、息切れなんてしないのに。

 クロノ君もユーノ君も苦しそうだった。

 動きが鈍い。視界がだんだん狭くなっているような気もする。

 

 そこに、あの人の声がした。

 

窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)

 

 私達は意識を失った。

 

 

              :クロノ

 

 意識を取り戻した時には、当然、取り逃がした後だった。

 殆どの武装局員は、暫く現場に出られない怪我というおまけ付きだ。

 自由落下で墜とされる事がなかったのが、幸いだ。

 アースラの救出も黙ってやらせていたようだ。

 その間に、姿を消されたのでは、どうしようもないが。

 それにしても、デバイスも特殊装備で出動させたけど、やっぱり無理か…。

 これだと、武装局員は彼女の逮捕に使えない。

 ダメ元で本局に応援要請を出すよりほかないか。

 

 僕は飛鷹とユーノのお陰で仕事に戻っている。

 

 2人共、治癒魔法が使えるのは、有難い。

 2人には、局員達の傷を治して回って貰っている。

 

 僕はエイミィと一緒にデータを検証している。

 因みに、一応、彼女達の拠点に使っていたマンションも家宅捜索してもらった。

 勿論、この世界の警察に。

 ジュエルシードは勿論の事、重要な物証は何1つなかった。

 念の為、確認して貰ったのだ。

 向こうにとっても、イレギュラーな事態で、慌ただしく出て行ったのだから、何かが残されてい

る可能性はあったからだ。

「クロノ君。本局から資料が届いたよ」

 検証中に、本局から申請していた資料が暗号データで送られてくる。

「資料を先にチェックしよう」

 僕は検証を中断する。

 

 表示されたデータは、プレシア・テスタロッサについてだった。

 僕達、魔導士にとってテスタロッサの名は特別なものだ。

 テスタロッサ自体、そこまで珍しいファミリーネームではないけど、そこに魔導士という要素が

加わると、調べない訳にはいかない。

 

 なにしろ、犯罪者に堕ちた大魔導士のファミリーネームだから。

 

 当時の捜査記録。

 裁判記録。

 その後の研究内容。

 血縁関係を調べる為の家系図まで。

 全て調べていく。

 

「やっぱり、フェイトっていう名前の娘はいないねぇ」

 家系図を調べていたエイミィが、呟くように言う。

「プレシアの娘の名前はアリシア。でも、これって…」

 僕はアリシアの顔写真を確認する。

 予想通り…か。

「これを見てくれ」

 僕は捜査記録の一部を表示する。

「……」

「研究内容と、計画名から言って当たりだと思う」

 捜査記録には、こう記録されていた。

 

 プロジェクトF・A・T・E。

 

 プロジェクトFと研究中は呼んでいたようだ。

 資料で復元出来た物のみだから、研究の概要くらいしか分からないが、概要で十分だ。

 それだけで、違法だと分かる。

 プレシアは、この違法研究の発覚と同時に、全ての研究データを破棄し、姿を消した…。

 

 

              :美海

 

 私はフェイトが動けるようになるまで、学校を休む事にした。

 正確には、この件が片付くまでだ。

 両親には、私から説明した。勿論、犯罪行為をやるなどと余計な事は言わない。

 その間は、リニスとアルフについていて貰った。

 リニスがいれば、余程の事がない限り大丈夫だから。

 表向き、私は風邪という事にして貰った。

 酷いので、お見舞いは遠慮するという事にして貰った。

 両親に心配を掛けるのは、本意ではないが仕方がない。

 

 フェイトがまだ持っている活動資金で、海鳴グランドホテルにチェックインした。

 こういう時は、守護獣は便利だ。保護者役に出来るからね。

 アルフじゃ厳しいので、リニスの出番となった。

 

 数日、休養した事で、フェイトの体力・魔力共に回復した。

 心配なのは、相変わらずフェイトの精神面だが、ここでウダウダやっていても仕様がない。

 ここは、本人の大丈夫を信じるしかないだろう。

 管理局は、流石に暫く動きが取れないだろうから、先を越される心配はない。

 それでも、のんびりしていられない。

 今日、いよいよ海に出る。

 チェックアウトを済ませ、海までバスで移動した。

 勿論、変装はしておいた。知り合いに見付かる可能性もあるからね。

 

 バスから降りて、岸壁に立つ。

「じゃあ、みんなは援護をよろしく」

 私は3人を見る。みんなが頷いてくれた。一部…いや大部分が納得していないようだが。

 アレの相手は、悪いけどさせられないよ。

「じゃあ、広域攻撃魔法を打てばいいの?」

 フェイトは不満そうにだが、確認をしてくる。

「いや、それもいいよ」

 私が、アッサリそう言うと、みんな訝し気に私を見た。

 私は、みんなに視線を向けずに言葉を紡ぐ。

 

「お待ちかねみたいだからさ」

 

 私は結界を構築した。

 

 それを待っていたかのように、遥か先の海が盛り上がる。

 海水の巨人が現れる。幾つもの水の龍を従えて。

 

「前のようには、いかんぞ?」

 巨人がニヤリと嗤った。

 私も笑い返してやる。

「それは、どうかな?」

 私は変わらず視線を固定したまま、みんなに言う。

「じゃあ、あの龍の相手をお願いね」

「承知しました!」

「「分かった」」

 リニス、フェイトとアルフの返事が力強く返ってくる。

 

「それじゃ、参る!!」

 私は2本の剣を血液から選択する。

 水の魔剣・波濤剣シュトレームング。

 葬送の魔剣・埋葬剣オルクス。

 魔剣の強大な魔力に3人が驚きと共に、冷や汗を流す。

 

 私は、魔剣2本を手に()()()()()()()()

 事象改変により作り出した巨大な水の槍を持つ巨人へと、向かって行った。

 

 

              :リンディ

 

 突如、アラートが鳴り響く。

 嫌な予感がする。

「結界の構築を確認!それとほぼ同時にジュエルシードの発動を確認しました!!」

 データを確認していたランディが、顔色を変える。

「同時に7つ!多重発動です!!」

 クルー全員の顔が緊張で引き攣る。

「結界内の映像は?」

 私はなんとか平静を装い、確認する。

「映像、取得可能です!」

「映して頂戴」

「了解!」

 

 そこには、水の巨人と幾つもの龍が荒れ狂う地獄が、映し出されていた。

 

 

              :美海

 

 巨人と化したアレが、槍を振り回す度に海が割れる。

 流石に剣で受けるのは無謀か。

 だが、動きは荒くなっている。

 槍を掻い潜るのも楽だ。魔法の干渉を跳ね除けつつ、剣をクロスするように振るう。

 2本の魔剣が唸りを上げる。

 大量の海水が、巨体から離れ海に返っていく。

 

 龍を相手にしているフェイト達は、順調に龍を潰している。

 最も、本体が残っているから、減っていないが。

 

 その本体は、動きが荒いがスピードはある。

 高速の突きが、私を突き刺そうと繰り出される。

 私は、柔らかく剣で槍の軌道を変えてやる。接近戦で私に勝とうなんて思うな。

 軌道を変えられた槍は海面を突き、ミサイルでも撃ち込まれたように爆発し、水柱を上げる。

 原初の魔法は、常に私を干渉しようと狙っている。

 でも、向こうはエネルギーの塊の所為か、気を遣っていない。

「ニブルヘイム」

 液体窒素すら発生させる冷却魔法が、巨人の動きを封じていく。

 フェイト達が、相手にしている龍にまで効果が及ぶ。

 私は動きが止まった巨人に、衝撃波を放つ。

 フェイト達も龍に雷の雨を降らせる。

 凍り付いた巨人と龍が砕けるも、凍っていない水を吸い上げ、すぐに復元する。

 しかし、私は見逃していない。

 ジュエルシードの煌めきを。

 数は、キッチリ7つ。

「ハッハハハハ!!」

 巨人が嘲笑する。無駄だとでも言いたいのだろう。

「おもちゃも存外に使えるものだな」

 今度は無数の巨大な水の槍が造り出される。

「こんなのはどうだ?」

 そう言うと、手を振り下ろす。

 無数の槍が私に殺到する。

 私は2剣を振るう。

 波濤剣は水の魔剣。水の攻撃など容易く切り裂き、ただの海水に変えてしまう。

 埋葬剣はアレにとっての猛毒だ。触れないように、サッサと斬られた部分は支配を手放す。

 槍の雨を縫って、本命の槍の突きが繰り出されるが、そんなものに当たってやる気はない。

 昔、ベルカで受けた槍の使い手と比べれば、何もかもがヌルい。

 ドンドン片手で槍をしのぎ、残りの手で巨人を斬り飛ばす。

「無駄だ!!」

 海水を撒き散らしながら、槍を打ち込む。

 そっちの方が無駄だ。

 そんな攻撃には、私は当たらない。学習能力が低下してるね。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 私は巨人に手を翳す。

 すると、ジュエルシードが反応し出した。

「な、何だ!?」

「ジュエルシード。封印」

「!?」

 7つの光が一斉に消えた。

「バカな!?」

 何が馬鹿か。

 私が嫌だったのは、アレが実体を得る事だった。

 人の身体で実体を得て、真面な事象改変の力を取り戻されるのは、厄介でしかない。

 対処が面倒になるし、最悪、憑依されたものを殺す必要が出る。

 だからこそ、私は嫌がらせを執拗にやった。

 向こうは力を回復する必要があったから、確実に手付かずのジュエルシードがある海に行くと、

私は踏んだ。

 だから、そちらに誘導したのだ。海なら多少派手な事をやっても大丈夫だしね。

 魚や他の哺乳類に憑依しても、実体に思考力がないと干渉力が低下する。

 ならば、意思を持った魔力の塊のまま、力を発揮しようとするだろう。

 その方がマシだからね。

 海水を使う事も予想出来る。破壊されても修復材料は幾らでもあるからだ。

 

 私がP・T事件の印象がないといっても、覚えている部分はある。

 海に複数のジュエルシードが落ちているという事も、その1つだ。

 一応、確認はしたよ。実際には落ちてないなんて事もあるだろうし。

 アレも力の回復の為に、近場から取り込んでいた関係で、海まで手を伸ばしていなかった。

 初期はアレが関わっているとは思わなかったから、かなり運に助けられた。

 

 海のジュエルシードを、そのままにしておくのはフェイトにとって不味かった。

 あれでフェイトは魔力を消耗する。現実では大怪我をする危険もある。

 だから、フェイト達と協力関係になった後、隙を見て海のジュエルシード全てに細工した。

 最初は、プレシア女史用の撒き餌として想定していたが、アレが出てきた時に予定を変更した。

 だから、封印自体はすぐに出来るように細工してあったのだ。

 

「私がただ水遊びをしてただけだと、思った?」

「何!?」

深淵(アビス)

 私は戦略級魔法を使用した。

 この魔法は本来、海戦において戦艦等の海上兵器を、海水に巨大な穴を造り出し、落として海水

を戻し沈める魔法である。

 今回は、アレの海水補充を断つ為に使ったのだ。

 海が大きく円形に巨大な穴を形成する。

 今度は波濤剣を一閃する。

 余分な海水が消え、前回のような大きさに戻った。

「っ!?」

 波濤剣の本領は水を自在に操る事にある。

 本体の意志の介在した魔力が、どこにあるか分かれば、余分な海水を除くなど容易い。

 今までの戦いは、アレの魔力を追い込み、居場所を限定させる事にあった。

 アレは、今は魔力に思念が宿っただけの存在。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジュエルシードで魔力を補給するのも、限界は存在する。

 外部魔力に自分の思念を馴染ませるのも、すぐには出来ない。

 

 私はアレの動揺を無視し、剣を構える。

 私の手加減なしの殺気に、アレが初めて恐れを感じたようだ。

 海水の顔でも分かる。見慣れてるからね。

 次の瞬間には、アレを貫いていた。

「!?」

「九の剣・閃光刹那」

 私の最速の突き技。

 2本の魔剣が、アレの存在を消していく。

 

「止めろぉぉぉーーーー!!」

 

「散れ…!」

 私は突き刺した剣を、そのまま振るう。

 

「風花乱舞」

 

 2本の魔剣が連動し、振るわれ、威力が跳ね上がる。

 剣を止めると、ダイヤモンドダストが舞っていた。

 これでアレは存在を保てない。

 だが、アレは腐ってもアルハザードの魔法使いだ。油断は出来ない。

 

 私は残心の構えで、精霊の眼(エレメンタルサイト)で空間を監視する。

 アレの残滓は感じ取れない。

 私は、2本の魔剣を血液中に収納する。

 

 ただ、私の前にはジュエルシード7つが残った。

 

「レクシア…」

 フェイトが近付いて声を掛けてくる。

 私はフェイトの顔を見る。

 そこには、ハッキリとした意思を持つ人間の顔があった。

 私は、フェイトに頷いた。

「それじゃ、行こうか。プレシア女史のところへ!」

 フェイトも黙って頷く。

 

 

 そして、雷が落ちた。

 次元跳躍攻撃。

 やっぱり介入してきたね。最後に。

 大魔導士のクセに遣り口がセコイね。

「リニス!」

「分かっています!!」

 私とリニスで、誘雷の魔法をフルパワーで使う。

 結界が破壊される。

 全く、病人のクセに無茶するよ。身体の負荷も尋常じゃないだろうに。

 私はフェイトを、リニスがアルフを護る。

 

 雷が止むと、ジュエルシードはそこから消えていた。

「ジュエルシードが!!」

 フェイトが慌てる。

「大丈夫。今ので場所を特定したよ!」

 私はリニスに座標を伝える。

 

「フェイトちゃん!!」

 なのは達が降りてくる。

「そこまでだ!全員、拘束させて貰う!」

 クロノ執務官がなんか言ってるが、どうでもいい。

 私の構築した結界を破壊出来ずに、外で頑張って入ろうとしていたんだろう。

 そうこうしているうちに、結界が攻撃で壊れたと。

 なんか締まらないね。

 

 私が口を開く前に、事態が急変する。

 執務官の前にウィンドウが開く。

「クロノ君!緊急事態!!」

 茶髪の女の人が映し出される。

「どうしたんだ!?」

 

「アースラが次元跳躍攻撃を受けた後、襲撃を受けてるの!!すぐに戻って!!」

「何!?」

 アースラ内の映像が映し出される。

 無数のロボットが局員を蹂躙する姿が。

 

 プレシアさんや。ハッスルし過ぎでしょ。

 

 

 

 




 飛鷹君もそろそろ活躍させねば。
 その前に最近、特になのはちゃんが活躍してないぞ。
 彼女も活躍させねば。
 やる事が山のようにありますね。

 頑張りますので、気長にお付き合い頂ければ、幸いです。

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