魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 誤字を折角指摘して頂いたのに、理解不足で変な文のまま
 になっていました。しかも、次元震の時の魔法セレクト
 ミスしてましたがな。修正しましたけど(汗)
 
 自分でもどうして気付かなかったのか不思議です。

 今回はフェイト回です。

 では、お願いします。


第20話 暴露

              :クロノ

 

 僕は、エイミィが映し出している映像を見ていた。

 後ろのドアが開く。

 僕とエイミィが振り返ると、母さん…艦長が入ってきた。

「データの検証?」

 艦長も映像を見ながら、近付いて来る。

 飛鷹となのはのデバイスからコピーしたデータだ。

「はい!みんな凄いですよ。飛鷹君となのはちゃん、それにフェイトちゃん…だっけ?

3人共、魔力量だけでAAAランク。魔力量だけならクロノ君、追い越されてるね」

 エイミィが、揶揄うように僕を見る。

 ムキになって言い返してはいけない。いけないが…。

「魔力量だけで実力は決まらないだろう!」

 エイミィを喜ばせるだけだと、分かっていても言い返してしまった。

 案の定、してやったりといった顔だ。

 自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

 全く、人が気にしている事を…。

「それにしても…」

 エイミィの横に立って、艦長が自らコンソールを操作する。

 黒いフードの()()()()が映し出される。

「問題はこの人物ね」

 魔力量だけなら、AAランクだが、厄介なのは腕前が破格だという事だ。

 飛鷹が前に立っていたにも拘らず、一太刀で包囲していた局員の意識を刈り取った。

 少量の魔力での最大効率の運用、隔絶した剣技、戦闘の勘、全てが揃わないと、こんな

事は出来ない。

 

 飛鷹達と協力関係を結んだ後の事だ。

 

 フェイト・テスタロッサと名乗る人物と、その協力者についての情報を訊いた時だった。

「そう言えば、ユーノ。お前、次元震の件が終わった後、何か言ってなかったか?」

 飛鷹がユーノにそんな事を言った。

 どうやら、忘れていた事を今、思い出したようだ。

「ああ!レイジングハートの事とか、色々あって言い忘れてたよ」

 ユーノがしまった、といったような顔で項垂れた。

「一体、何の事だ?」

「ああ、ユーノがヤツについて、何か気付いたみたいでな」

 それを、真っ先に言って貰いたい。

「じゃあ、それを話して貰える?」

 艦長は表情に変化はない。流石だ。

 僕も修行が足りていない。

「はい。僕の予想ですけど、大きく外れてはいないと思いますが…」

 ユーノはそう前置きすると、話し出した。

「彼女は、前世の記憶や経験を継承しているのではと、思います」

「どういう事だ!?」

 飛鷹がやけに大袈裟に反応する。

 彼も何かあるのか?

「うん。古代ベルカ時代の記憶や経験を、保持して生まれてくる人が偶にいるんだ。

血縁がある場合が多いけどね。彼女もそれだと思う」

 そこで、なのはがおずおずと手を上げる。

「あの…古代ベルカって何?」

 話の腰を折って申し訳なさそうだが、口を挿まずにいられなかったようだ。

「ええっと、飛鷹は知ってる?」

「俺は少しな。こことは違う次元世界で、戦乱の世界だったって事、それを収めたのは、

聖王女オリヴィエだって事ぐらいだな。あとはもう滅んでるんだっけ?」

 管理外世界で、どうやって知ったのかは気になるところだけどな。

「正確には、今も旧ベルカ自治区っていう地域が、ミッドにあるんだけど。概ねその通りかな」

 そして、足りない部分を補足して、ユーノがなのはに分かり易く解説していく。

 その度に、なのはがコクコク頷いていた。

 そして、ようやく本題へと入る。

「彼女の傷だけど、一瞬で治っただろ?片腕が吹き飛ぶような怪我だったのに」

「あっ!そう言えば!!」

 なのはが声を上げる。

 飛鷹はそれがどうした?と言った顔だ。

 それは、もしかして…。

 横を見ると艦長も険しい表情になっている。

「自己修復術式だと思うんだ」

 やはりか。

「そう言えば、あの時も同じような事言ってたが、それとベルカとどう繋がるんだ?」

「自己修復術式は、古代ベルカのある人物のみが使用可能だった魔法だ。継承者は確認されて

ない。魔法の研究機関も再現に何度も挑んだけど、今まで成功例はただの1度もないんだ」

 厄介な人物の、記憶とスキルまで継承してしまっている人物が敵か。

 応援を頼んでも、恐らく難しいだろう。

「つまり、その使えた奴が、ヤツの前世だったって事か?」

「前世って言うと、語弊があるけど、僕はそう思う。根拠はそれだけじゃないけど」

 そこで、また、なのはが申し訳なさそうに手を上げる。

「ごめんなさい。自己修復って、レイジングハートにも機能として付いてるよね?なんで再現出来ないの?」

 魔法を扱ってまだ日が浅いなら、当然の疑問か。

「デバイスは確かに精密機械だけど、それ以上に人体は処理すべき項目が多過ぎるんだ。

とても処理出来ない。どんなに術式を縮めても、人一人が使えるものじゃないだ。今じゃ、優れた回復魔法が、使えたんだろうっていうのが定説になってる」

 ユーノや飛鷹の代わりに僕が答える。

 なのははへぇ~と、分かっているのか微妙な反応だ。

 致命傷を負うと、自動的に傷を全て治す術式。

 怪我を負ったと思った瞬間に、発動するようにするだけじゃなく。一瞬で全て修復し戦闘可能な状態にする。そんなものを実現しようと思えば、術者は魔導士生命を断たれる障害を負う事が分かっている。脳の処理が追い付かず、オーバーロードを起こすからだ。

 自前の脳を十全に使えないベルカ式では、余計に無理だ。

 どう考えても、複数人いないと発動すら出来ない。出来たとしても、それならその人数で回復魔法を使った方が安上がりだ。

 当然、今、そんな研究しているところはなくなった。

 そう言った事を僕はなのはに説明した。

 それだけ脱線して、ようやく本筋だ。

「で、他の根拠というのは?」

 僕はユーノを促す。

「フェイト…ちゃん?が、彼女の事をレクシアって呼んでたんですよ」

「かの人物の愛称か」

「はい。歴史小説とかで、よく書かれているから有名ですけど、それに自己修復術式が加われば、ほぼ間違いではないと思っています。それにあの剣の腕前ですよ?」

加われば、ほぼ間違いではないと思っています。それにあの剣の腕前ですよ?」

 飛鷹が今度は手を上げる。

「有名人なのか?」

「うん。ベルカで英雄を上げろって言われたら、飛鷹が上げた聖王女オリヴィエと1・2位を争うよ」

を争うよ」

 飛鷹がビックリした顔のまま、固まっている。

 それはそうだろう。自分がそんな化物を相手にしてたんて、気分のいいもんじゃない。

 僕も冷や汗しか出ない。

 そして、ユーノは、かの人物の名を告げた。

 

「剣王・アルジェント。それが彼女が継承した人物だと思う」

 

 

 ほぼ、全員が同じ回想をしていただろう。

 ジュエルシードに、謎の黒い影、剣王・アルジェント。

 頭痛の原因が多過ぎる事件だ。

 唯一の救いは、彼女がまだ幼い事だ。実力は十分に発揮出来ないだろう。

「ともあれ、手始めは、こちらの捜査機関との協議ね」

 艦長が方針を示す。

 それも、頭痛の種だ。

「それは、僕が行こうと思います」

「いえ、責任者として私が直接話します」

「艦長!」

 僕は思わず声を上げてしまった。

「大丈夫よ、クロノ。飛鷹君の話では、ちゃんと話せば分かってくれそうな人達みたいだし」

 能天気な言い分に、僕は更なる頭痛を感じる。

 事件が終わるより早く、僕の頭が割れるかもしれない。

 

 

              :フェイト

 

 管理局が捜査に乗り出してから、数日。

 私達は、慎重に捜索している。管理局に捕捉されないように魔法を極力使わない。

 感触としては、もう陸地にはないだろう、というのが私とレクシアの共通見解だ。

 そろそろ海を探さないといけない。

 海中に沈んだとすれば、陸地より厄介だ。

 なにしろ、海は広いし海流で流されて、どこまで行ってしまうか。

 しかも、遮蔽物が何もなく、視認される恐れもある。

 取り敢えず、徒歩でレクシアと一緒に沿岸から、サーチしてみる予定だ。

 

 夜。

 私は歩き回って、疲れてしまい眠ってしまったようだ。

 だって、目の前の母さんが、優しく私に微笑んでいるんだから。

 ミッドの自然公園に2人で遊びに行った時だ。

 花が沢山咲いていて、それで冠の作り方を母さんから教えて貰って、私も不格好な出来だったけど母さんと一緒に作ったんだ。

 

「ここを通して、こう、はい、出来た!」

 母さんは器用に花の茎を編んでいって、すぐに作り終わってしまう。

 私はあんまり器用じゃなくて、編み目がガタガタでまだ出来上がらない。

「お母さん、早い!少し待っててよ!!」

 私はムキになって、母さんみたいに早く編もうとして、更に酷くなっている。

 私はあの頃は、母さんにあんなに我儘を言ってたんだ。

 やっと、出来上がったのも、母さんに比べれば不格好で、私は自分の冠にガッカリした視線を落とす。

「〇〇〇ア」

 母さんが微笑みながら、私の頭に冠を被せてくれた。

 私は思わず笑顔になってしまう。

 だって、綺麗な冠で、まるでお姫様にでもなったような気になったから。

 でも、少し笑顔が曇ってしまう。

「これ、お母さんのだよ?」

「だったら、ア〇〇アが作った冠を私に頂戴」

 私は不格好な冠に視線を落とす。

 綺麗で優しい母さんに、私の不格好な冠を被せるのは嫌だった。

 母さんには、もっと綺麗なものが似合う。

「私は、ア〇〇アが作ってくれたものがいいわ。他のどんな綺麗なアクセサリーよりもね」

「嘘だよ…」

 母さんは、冠を持った私の手を優しく包み込むように握ると、言った。

「本当よ。お母さんが嘘を言ってるように見える?」

 私はジッと母さんを見詰める。

 暫く見詰めた後、私は首を横にユルユルと振った。

「でしょ?私に冠を付けてくれる?私のお姫様」

 私は母さんの頭に冠を被せる。

 

 お姫様という言葉に、私はテレビでやっていたお姫様みたいに、母さんの右頬を撫でる。

 母さんも一緒に視た番組だったから、何のマネをしたのか分かったんだろう。

 騎士にお姫様が祝福を与えるシーン。

 母さんが微笑みを浮かべて、言う。

 

「ありがとう!ア…」

 

 嫌な予感と恐怖で私の目は、一瞬で醒めた。

 心臓が物凄い速さで脈打っている。

 冷や汗で身体が冷えている所為か、身体が動かない。

 呼吸が整うのを、横になったまま待つ。

 

 どうして、私は恐怖を感じたんだろう…。一番幸せな時だった筈なのに。

 

 そんなの分かってる。

 どんどん名前がハッキリ聞こえてくる。

 私の名前ではない名前…なんなんだろう。

 今まで気付かなかったけど、私の記憶はどこか歪だった。

 それを、考えるのが恐ろしい。

 

 私は、ようやく動くようになった身体で起き上がる。

 冷や汗で服が身体にくっついている。気持ち悪い。

 シャワーを浴びよう。

 

 浴室で冷や汗を流す。

 そう言えば、帰ってからお風呂に入らずに寝てしまったんだ。

 ついでに、身体も洗ってしまおう。

 そう思って私は、ボディソープに手を伸ばして、手が止まった。

 

 私は思わず手を引っ込めてしまった。

 自分の利き手をジッと見詰めてしまう。

 私の手は、情けないほど震えていた。

 

 私はどっちの手で、母さんの頬を撫でた?

 普通は利き手で撫でるし、あの番組でもそうだった筈だ。

 なら、私は()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…ああ…」

 声が震える。身体がガクガク震える。

 

『ありがとう!()()()()!!』

 記憶が勝手に再生される。

 

 アリ…シア!?あれは、私じゃ…ない?

 

 私の全ての記憶から、母さんの声から、私の名前が消える。

 アリシア・アリシア・アリシア・アリシア………。

 

「ああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 私は絶叫した。

 屈み込んでしまう。力が入らなくて。

 シャワーの水が私を打ち付ける。

 

 じゃあ、私は…誰?

 

 

              :なのは

 

 海鳴の山中。

 私達は、サーチしながら山中を移動していた。

 全然、見付からないし、発動の気配すらない。

 リンディさん達とリスティさんの話し合いが終わって、正式に私達も協力する事になった。

 でも、管理局の人と協力し出してから、ジュエルシードを発見出来ていない。

 あの戦艦?のセンサー類で、もっと詳細に調べても、ジュエルシードは発見出来なかった。

 それでも、ジッとしていられなくて私達は、動き回っていた。

「もう、陸地にはないかもしれないな」

 飛鷹君がそんな事をポツリと言った。

 私とユーノ君は、静かに頷いた。

 管理局の人、警察の人、私達も見付けられない。

 それなら、海鳴の海しかないよね。

 

 私達の目の前にウィンドウが開く。

『3人共、そろそろ引き上げて。こちらのセンサーにも反応はないし』

 リンディさんが言う。

「これだけ探して見付からないとなると…」

 飛鷹君が真剣な声でそう言った。

『そうですね。今後は海の捜索になるでしょうね』

 やっぱり、管理局の人も同じ考えなんだ。

『海での捜索はこちらでやります。飛鷹君達はアースラで待機を、お願いします』

「「「はい」」」

 

 私は、沈む夕日に照らされた海を見詰めながら、フェイトちゃんの事を考えた。

「フェイトちゃん。貴女も海を探してるの?」

 

 あれ以来、私達はフェイトちゃん達とも会えていなかったから。

 

 

              :フェイト

 

 あれから、私はジュエルシードを探せていなかった。

 レクシアにも捜索は少し休むと告げた。

 レクシアは何も訊かずに、頷いてくれた。

 アルフやリニスも私を心配してくれているのは、分かってる。

 でも、何も私から言えなかった。

 自分の記憶が気になって、捜索どころじゃなかったし、気遣う余裕もなかった。

 

 私は唯一持っている母さんとの思い出の品、2人で映っている写真を眺めていた。

 この写真の子は、本当に私なのかな。

 何もする気が起きない。

 どの思い出にも、私の名前は既に消えていた。

 思い出を思い浮かべると、前は私に勇気と力を与えてくれた。

 でも、今は思い浮かべれば、おかしな点ばかりに目がいく。

 

 これは、私の記憶じゃない。アリシアっていう子の記憶なんだと思う。

 

 じゃあ、私は誰?アリシアって子と、どんな関係なの?姉?妹?

 私はどうしてアリシアの記憶を持っているの?

 アリシアが、母さんにとって大事な子だったのは、確か。

 訊きたい。でも訊きたくない。

 頭の中でこれを繰り返している。

 

 母さんは、ジュエルシードが全て見付かるまで帰還しなくていいし、連絡もいらない。

 連絡する時は、全て終わった時にする事、という素っ気ないメッセージ以来、連絡もない。

ない。

 私は写真を置いて、バルディッシュを手に取る。

 すぐに連絡出来る。バルディッシュにお願いすれば、時の庭園に繋いでくれる。

 バルディッシュを持つ手が震える。

 私は、バルディッシュを握る手を下ろし、額に付ける。

『メッセージが届きました』

 至近距離でいきなりバルディッシュが、メッセージ受信を知らせてくる。

 驚いて、思わずバルディッシュを落としそうになった。

「誰から?」

 恐る恐る訊く。

『レクシアからです』

 母さんじゃなかった事に、ホッとすると同時にガッカリする。

 気を取り直す。

「どんな?」

『表示します』

 ウィンドウが開かれる。メール形式で音声はなかった。

『私は貴女の判断を尊重する』

 悩んでいるのは、知られてしまっていると思う。

 それでも、こういう時に慰めや励ましの言葉がないのが、彼女らしい。

 素っ気ないメッセージ。

 自分で考えて、そういう事だね?レクシア。

「今回は一番、厳しいよ。レクシア」

 少し苦笑いを浮かべる。

 少しとはいえ、笑みを浮かべられた事に我ながらビックリする。

 

 ずっと、こうしている事は出来ない。頭では理解している。

 ただ、恐ろしい。真実が。

 でも、もう逃げ場がない。

 

 決意したつもりでも、身体が震える。

 それでも。

「バルディッシュ。母さんに通信を繋いで」

 言ってしまった。

『イェッサー』

 緊張で喉がカラカラになる。

 

 ウィンドウが開いた。

 そんなに時間が経っていないのに、母さんの顔が懐かしく感じてしまう。

『全て集め終わったのね?すぐに持って来て頂戴』

 私には一言もない。

 私は声が出なくて、首を横に振る。

『フェイト。私はなんと指示を出したかしら?どこまで手を掛けさせるの?貴女』

 冷ややかな怒りの籠った声が私を打つ。

 声を出そうとするけど、上手く言葉にならない。

 焦りで汗が噴き出てくる。

『何度も言わせないで。今度こそ集め終えたら連絡しなさい』

 回線を切断しようとする母さんに、私は声を上げた。

「待って!!」

 母さんの眉間に皺が寄る。

『なんなの?いきなり大声を上げるなんて。躾が足りないのかしら?』

 私の身体が恐怖でビクッと反応する。

 震える身体に力を籠める。

 私は全身の力を使って顔を上げる。

「教えてください。アリシアって誰なんですか?」

 母さんの顔が、歪む。

 私は母さんの感情をこれ以上ないほど理解した。

 失望。

『レクシア…。あの小娘ね。全く余計な事をしてくれる事』

 母さんの顔から表情が消える。

「母さん…?」

『もう分かったのでしょ?母などと呼ばないで頂戴。汚らわしい』

 嫌悪で一杯の顔と声が、私を打ちのめす。

『最後に教えてあげるわ。アリシアは私の娘の名よ。唯一のね。でも亡くしてしまった。

私はあの子を取り戻す為に、研究を重ねてきた』

 母さんが血を吐くように、言葉を重ねる。

 

 じゃあ、私は?

 

 私はまだ縋るように母さんを、母さんだった人を見る。

『貴女は私の研究で作り上げたアリシアのクローンよ。出来損ないの失敗作よ!貴女は!折角、優しいアリシアの記憶をあげたのにね。

 所詮、あんな研究じゃ、アリシアは取り戻せなかった。出来損ないでも、魔力資質が高かったから、使おうと思っただけだけど、苦痛だったわ。出来損ないから、母なんて呼ばれるなんて。救いはもう呼ばれる事はないって事かしら?』

 嘲るように、私を見る。

 その視線は最早、憎しみすら感じられる。

 足がガクガクする。立っていられない。

 膝をつく。

「あ…ああ……」

 バルディッシュからデータを吸い上げたのか、母さんがデータを見ながら口を開く。

『まあ、ジュエルシードの在処は特定されているようね。何処へなりとも消えなさい』

 ウィンドウが閉じられる寸前。

「どうして…」

『何ですって?』

「どうして!そんなに憎んでいるなら、どうして、私を殺さなかったんですか!?

こんな事、知りたくなかった!!」

 嫌だったなら、どうして!!

『アリシアと同じ顔だったからよ。虫唾が走るけど、流石に殺す事は躊躇われただけよ。それにあるなら使わないとね。でも、使えない道具はもういらないわ。殺さずにいるのは慈悲だと思いなさい』

 ウィンドウを回線を切断しようとしたようだが、思い出したように言った。

『そうそう、あの小娘も貴女の事を知っていたわよ』

 それだけ言うと回線が切断された。

 レクシア…が…。思えば、おかしくない気がした。

 

 もう、何もかも、どうでもいい…。

 

 私は床に力を無くして倒れ込む。私の手からバルディッシュが転がり落ちた。

 

 

              :美海

 

 アルフが血相を変えて、会いたいと言ってきた。

 その慌てぶりからして、重大事だろう事は間違いなかった。

 私は勿論、リニスにも念話がいく。

「美海。もしかして、記憶が…」

 リニスが心配して、私に声を掛けてくる。

「それしか、原因はないだろうね。状況から言って」

 だが、アルフの様子からするに、フェイトが自分の記憶への疑念が強めた程度ではないだろう。確信を得て、アルフでも手に負えなくなったのではないか、と思う。

 確信を得る方法は1つ。プレシア女史の言葉。

 

 私とリニスは暗澹たる気持ちで、アルフとの合流地点へ向かった。

 

 合流地点には、アルフが既に到着していた。

「レクシア!リニス!」

 アルフは最後に見た時より、憔悴していた。

「何があった?」

 私の言葉にアルフが顔を歪める。

「フェイトが部屋に籠ったまま、出てこないんだよ!幾ら呼び掛けても返事がないし、ドアも開けてくれないんだよ!食事も水も摂らないし!絶対におかしいよ!」

 

 予想が当たっていそうだ。得てして嫌な予想は的中する。

 私とリニスは視線を交わす。

 

 遂にこの時がきたか…。

 あのフェイトが収集を休みたいと言ってきた時点で、近いうちにこうなる予感はあった。

 衝撃は少ない。

 ただ、フェイトが受けるであろう衝撃を緩和し切れなかったのが、悔やまれる。

 私としては、少しずつ真実への心構えをしていって貰いたかった。

 人を傷付けてまで、成す事かを考えて貰いたかった。

 でも、アッと言う間に崩れてしまった。

 彼女の最終的なケアは、なのはに任せるつもりでいたんだけど。

 こりゃ、そんな事、言ってられないね。

 私には責任がある。やらなきゃいけないだろう。

 

 私はアルフを宥めて、フェイトのマンションへ向かった。

 当然、リニスとアルフも付いてくる。

 

 私はフェイトの部屋の前で振り返って、リニスとアルフを見る。

「2人共。今から、私が中に入る。今日でこの部屋は引き払うから。すぐに離脱する準備を」

 アルフは、突然の私の言葉にビックリする。

「え!?どういう事だい!?」

 多分、ここにいられないくらいに、荒れるって事だよ。

 私はリニスに視線を送る。リニスが頷く。

「アルフ。取り敢えず、準備があるならやりましょう。今は主に任せましょう」

 リニスがアルフの背を押してリビングを出ていく。

 床には、まだバルディッシュが落ちたままだった。

 私はバルディッシュを拾い上げる。

 アルフ。相当、焦ってたんだね。拾ってテーブルの上に置くぐらいしてやんなよ。

「さて、バルディッシュ。主のところに行こうか」

『イェッサー』

 私は息を思い切り吸い込むと、足を振り上げ、()()()()()()

 

「ちょっ!?みっ!…主!?何やってんですか!!」

 音にビックリして、リニスとアルフが駆け込んでくる。

 リニス。だんだん、ボロが出てきたから、気を付けてよ。

 私は2人を手で制すと、私は部屋の中に踏み込んでいった。

 

 乱暴な手段で、部屋に入ったにも関わらず、フェイトは無反応にベットで、こちらに背を向けて横になっていた。

 私はベットに近付いていく。

「知ってたって…聞いたよ」

 背を向けたまま、フェイトが口を開いた。

「そうだね」

 私は認めた。誤魔化しなど今、必要ない。

「こんなの…酷いよ…」

「うん。酷いね」

 私はベットの端に腰掛ける。

「私は母さんに…昔みたいに優しい人に戻って、ほしかっただけなの…愛して、ほしかった!でも!そんなもの、最初から…なかった!!」

 血を吐くような声。背が震えていた。

 私はフェイトの方へ身体を向けた。

 その途端に、フェイトが素早く向き直り、両手で私の胸倉を掴んだ。

「私は!そんな事、知りたくなかったの!!知らなければ、私は母さんを信じられた!!レクシアを信じられた!!優しくしてくれたのは、ただ、私を哀れんだだけなの!?」

 フェイトの眼は悲しみに満ちていた。

 やり場のない怒りに燃えていた。

 私は、フェイトの腕に触れようとしたが、電気を帯びた腕が私の手を払おうとする。

 だが、私はしっかりとフェイトの腕を掴んでいた。

 瞬間、文字通りの雷が身体を突き抜ける。

「嫌っ!!もう!嘘で…同情で優しくしないで!!」

 私の腕に雷で出来た火傷が走る。どんどん電撃が強力になっていく。

 肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。血が沸騰しそうになる。

 毛細血管は既に破れている。視界が赤く染まる。眼から血涙が流れる。

 発動しそうになる自己修復術式を止める。

 私には、彼女の悲しみを怒りを受け止める義務がある。

 これを、結果的に望んだ者として。

 だが、動けなくなるのは、避けなければならない。

 決着をつける責任もあるのだから。

 

 不意に電撃が止んだ。

 

「カハッ!」

 私は軽く血の混じった咳をする。

 それでも、私はフェイトから目を離さない。

 フェイトの顔は悲しみで歪んでいた。

「どうして…。そこまでするの!?」

 フェイトの眼から涙が流れる。

「確かに…哀れみがなかったかって言われれば、ないとは言えない。でも、リニスからの頼みが、あったとはいえ、私も貴女が幸せになって貰いたいって…思ったのは…本当だよ」 私の言葉に、フェイトが涙を流して、首を横に振る。

 私はフェイトを掴んでいた手で、引き寄せる。

 フェイトは抵抗して、大暴れしていたが、無理やり抱き締める。

 火傷が服に貼り付いていて、暴れられると地味に痛い。

「じゃあ、なんでこんな事になったの!?」

 フェイトは私を滅茶苦茶に叩いた。

 フェイトは頭のいい子だ。本当に答えが知りたい訳ではない。

 そして、遅かれ早かれこうなった事も、理解している。

 ただ、納得出来ないだけだ。

「こうなると思ったから、私は言ったんだよ。考えてって」 

「そんなの勝手だよ!」

「うん、そうだね。でも、貴女は怒る事が…出来てる」

「え?」

 フェイトの勢いが緩み、手が止まる。

「本当に無気力になった訳じゃない。貴女はまだ、行動出来る」

 フェイトが、戸惑うような表情になる。

「だから、敢えて訊くよ?これから、どうしたい?」

「まだ、……考えろって言うの?」

 私は静かに首を横に振る。

「違う。考える時間は終わり。私は貴女の結論が聞きたい」

 フェイトが黙り込む。

「フェイト。何も考えず、ただ適当に生きるのは楽だよ。でもね、それじゃ、生き方が雑になる。折角の人生なら、丁寧に生きなきゃ。これが、私が得た教訓」

 2度も転生して、ようやく最近になって分かった教訓。私も大概にダメダメだ。

 フェイトの涙が止まっていた。

 ただ、私を見詰めていた。

「だから、教えて、貴女の願いを。貴女はどうしたい?

 貴女が、本当にもう何もしたくないって言うなら、管理局の手の届かないところに逃がしてあげる。でも、まだやる事があるなら、協力する」

 私はフェイトの反応を黙って待つ。

 

 

「私は偽物なんだよ…。どうすればいいかなんて、分からないよ」

 私はフェイトから体を離す。でも、手は肩に置いたまま言った。

「違う。それはプレシアの意見だ。私にとっても、アルフやリニスにとっても、なのは達にだって、貴女は本物なんだよ。私は付き合いは短い。出掛けたのも、たった3回。だけど、貴女はどう感じた?貴女は楽しかったと思ってくれたでしょ?」

 言葉にして、ハッキリそう言った訳じゃない。

 でも、伝わる。

 また来たいって、今度は自分がって、言ってくれていた。

「そう思える貴女が、心優しい貴女が、偽物な訳がない!」

 フェイトが目を見開く。

「勇気を出して!このままじゃ、貴女はどこにもいけない!」

 

 フェイトは暫く、ジッと考え込んでいた。

 私はそんなフェイトを見守っていた。

 

 

 

 

 

 フェイトは俯き加減で、ポツリと呟く。

「分からない…」

「フェイト…」

 

「でも、会わなきゃ。もう一度、あの人に」

 

 

              :フェイト

 

 レクシアがジッと私の答えを待っている。

 本当は分かってる。

 レクシアは私の事を、本気で心配してくれている事が。

 勿論、アルフやリニスだって。

 だから、これは八つ当たりみたいなものだって。

 

 すぐに切り替えなんて、私には到底出来ない。

 私は、ずっと母さんの…あの人の為に生きてきたから。

 今のままじゃ、答えなんて出そうにない。

 だから…。

 

「分からない…」

「フェイト…」

 レクシアが悲しそうな顔をする。

「でも、会わなきゃ。もう一度、あの人に」

 私は、まだ、何もしていなかったのかな。

 一度も、私自身の意志で行動した事がない。

 今、あの人に捨てられて、初めて自らの意志で行動する事になって、分かった。

 あの人にとって、私は偽物だったのかもしれない。

 でも、私にとっては本当の母さんだった。例え、それが私の記憶じゃなくても。

 だから、話さないと。

 本当の自分を、本物の自分を始める為に。

 

 レクシアは黙って頷いてくれた。

 身体の毛細血管が切れた所為で、服が所々血で赤く染まっていた。

 肉の焦げる嫌な臭いもする。

 言い訳せずに、私を受け止めてくれた。

 傷付けたくないって、思っていたのに、私自身が傷付けてしまった。

「ごめんなさい…」

 申し訳なさと、後ろめたさで一杯だった。

 私がレクシアの傷を見ていると気付いたのか、気にするなとばかりに首を振る。

「いいんだよ。これは私の意志だからね」

 優しく私に微笑んでくれる。

 こんなに傷付けたのに。

 不意に温かい熱に包まれる。

「それに…」

 また、抱き締められていた。

「味方でいてあげたかったんでしょ?最後まで。温泉に行く前にも言ったけど、貴女の想いは正しい。管理局が罪だと言おうが、私が認める。私がプレシアと話す時間を作るよ」

 胸の中が温かいもので、満たされていく。

 この返しきれないものを、どうすればいいのか、いずれ分かる時がくるのかな。

 出来れば、早く分かるといいな。

 

「頑張ったね…」

 

 レクシアの手が私の頭を、優しく撫でる。

 また、不意に涙が流れ出してしまう。

 

 そうだ。私はずっと母さんに……こうして貰いたかったんだ。

 

 気付けば、私はレクシアの胸の中で泣きじゃくっていた。

 でも、今はこの感情に従っていたかった。

 

 

 

 泣き止むと、急に恥ずかしくなった。

「ごめん…」

 私は辛うじてそれだけ口にして、レクシアから離れた。

 自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。

 感情が制御出来ないって、こんなにも恥ずかしいのか…。初めて知った。

 

 レクシアが私の手に何かを握らせる。

 見てみると、バルディッシュだった。

 そう言えば、落としたまま拾ってない!!

「バルディッシュも心配してたんだから」

 私はバルディッシュに視線を落とす。

「バルディッシュ。ごめんなさい…。また、力を貸してくれる?」

 私は恐る恐る訊く。

『勿論です』

 力強い返事にホッとする。

 

 不意に結界が構築される。リニスの魔力だった。

 

「何!?」

「まっ、管理局が来たんでしょ」

 レクシアがなんでもないように言う。

 それって、私の所為…だよね。

 私は慌てて立ち上がろうとしたが、ふらついて立てなかった。

「飲まず食わずでいて、いきなり魔力放出して暴れたら、そうなるよ」

 レクシアが呆れたように言う。でも、微かに笑いを含んでいた。

 恥ずかしい…。

 レクシアが、お姫様抱っこで私を抱き上げる。

「え!?ちょ、ちょっと!?」

「遠慮しない」

 私を抱いたまま、ドアをくぐる。

「リニス!状況は!?」

 レクシアが声を張り上げる。

「局員にマンションの周りを、囲まれてます」

 リニスにも動揺はない。

「ど、どうするんだよ!?」

 アルフは動揺して、パニックになっている。

「決まってるでしょ?突破するんだよ」

 レクシアが当たり前のように言う。傷はもう完治しているようだ。

 レクシアが私をアルフに渡す。

 ちょっと残念と感じる。

 

 あれ!?何考えてるんだろう?

 顔がまた赤く染まるのが、分かる。

 レクシアはそれに気付かない。

 

「リニス!どれくらい維持出来る?」

 結界の破壊工作を実行されているんだろう。

「お望みとあらば、いつまででも」

 自信タップリだった。なんか、リニス嬉しそう。

「説明する時間を稼げればそれでいい。突破したら、フェイトに何か消化にいいものを食べて貰って、休ませる。魔力と体力が回復次第。最後までいくよ」

 リニスが頷く。

 最後まで?

「最後のジュエルシード回収から、そのまま時の庭園に行く」

「それ、大丈夫なのかい!?」

 時の庭園は常に動いている。今、どこにいるか私にも分からない。

 転移は使えない。

「最後のジュエルシードを集めれば、向こうから手を出してくるよ」

 そうか、もうあの人は自分で動かないといけない。

 

 私は、少し間が出来たけど、しっかりと頷いた。

 

「じゃ、行こうか?リニス!」

「解除しますよ!」

 結界を解除した瞬間、新たな結界が張られる。

 

『管理局だ!!デバイスを捨てて、投降せよ!!投降しなければ、武力行使を行う!!』

 

 管理局員から、威圧的な警告が念話で送られてくる。

 レクシアとリニスが先頭で、マンションのベランダから飛び出す。

 私を抱いたアルフが後に続く。

「止まれ!!」

 管理局員から静止の声が上がる。

 レクシアが剣を出す。

 

「押し通る!!」

 レクシアは一言、声を張り上げると管理局員へと向かっていった。

 

 




 本当は飛鷹君の話を入れるつもりだったのに、入れられ
 なかったです。次回に持ち越しになります。

 原作ではフェイトって強靭な精神力ですよね。
 なのは達の活躍も力にはなったでしょうが、ほぼ自力。
 スゲェ。
 
 今回の話も、もっとドラマチックにいきたかったんですけど、
 力不足で、これが精一杯でした。

 次回は海に行けるかと。
 次回からどれほど時間が掛かるか、不安であります。

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