魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

21 / 54
 誤字を指摘して下さった方に、この場を借りて、お礼
 申し上げます。
 まだ、気付かないだけであるとは、思っていましたが、
 まさか、あれほどとは…。
 やっぱり一度スルーすると目がいかないみたいですね。

 それでは、お願いします。


第19話 管理局の到着

              :リンディ

 

 事件詳細を暗号データで確認する。

 詳細を読み、頭痛を感じる。

 いつでも、管理局は多忙だけど。これはどうなのかしら?

 次元干渉型のロストロギアを放置したなんて、マスコミにでも漏れたら大事よ。

 

 既に、幾度もロストロギアを巡って2つの勢力が、ぶつかり合っている。

 ハッキリ言って、もう少し早く対応して然るべき案件じゃない。

 今まで大事にならなかったのは、運が良かったと言える。

 しかも、件のロストロギアは、1回は管理局が回収したものだった。

 それを襲撃のドサクサで回収出来ずに、97管理外世界にバラ撒いてしまった。

 襲撃があったとはいえ、これは大失態ね。

 しかも、レティの調べでは、その襲撃も疑念が残るものらしい。

 

 はぁ。愚痴ってても仕様がないわね。

 

 私はアースラブリッジへ移動する。

 事件発生は、もう既にクルーに伝えてある。

 

 ブリッジに入ると、早速報告が上がってくる。

「艦長、現在、最大船速で航行中です」

「97管理外世界の監視網にリンク完了。現在、2勢力による戦闘行為は認められません」

 全員、前回の次元断層で起こった悲劇を、よく知っている。

 だから、みんないつも以上に緊張感をもって仕事をしている。

 あの悲惨な出来事を2度と起こすな、が管理局のスローガンみないになったくらい。

「分かったわ。引き続き、監視を怠らないで」

「了解!」

 しっかりした返事が返ってくる。

 

 私は自分の席に着くと、同乗の執務官に視線を送る。

「クロノ執務官。転移座標の確認は?」

「済んでいます。いつでも跳べます」

 現時点では、ピンポイントで跳ぶのは難しいが、次元震発生地点からそんなに遠く

ない筈。

 もう既に執務官は、バリアジャケット姿で準備が出来てるみたいね。

 

 何を隠そう、私の息子だったりするのよね。

 因みに、容姿は夫に似ていい男よ。…まだ背は低いけどね。

 って、そんな事、考えてる場合じゃないわね。

 

「現地到着次第。ロストロギアの捜索と、関係者からの事情聴取を行います!」

「「「「了解!」」」」

 

 

              :美海

 

 前回の事があって、私は休養中に逆戻りした。

 まあ、今回は無理した自覚はあるから、大人しく従う事にする。

 もう大詰め、というところまできている。

 

 こちらのジュエルシードは7つ

 なのは達が6つ

 未回収が8つ

 

 あとはどうケリを付けるかだ。

 それをフェイト達にも話してあるから、()()()()()()()()焦りはない。

 だけど、予想外が1つ。

 それは、プレシア女史の仕事の雑さだ。

 フェイトは態度に出さないようにしていても、自分の記憶に疑念を持ち始めている

のが分かる。

 最初の内は、なのはとの事を考えさせるだけのつもりだった。

 この調子だと、私の予想より早く記憶が偽物だと気付くだろう。

 私も時機を見て、記憶の穴を突くつもりではいた。

 でも、ここまで、雑な作りとはね。

 フェイトの心が心配だ。

 フェイトも、これを狙った私に心配なんてされたくないだろうけど。

 これは、私の責任だからね。精一杯フォローするつもりだ。

 つもりだけどね…。

 

「ねぇ。レクシア!これとかどうかな!」

 フェイトが、ショウケースの中のケーキを指さして、はしゃいでいる。

 事の起こりはと言えば。

 

 

 休養とは言え、フェイトのマンションには顔を出していた。

 バルディッシュも派手に壊れたし、自己修復機能をフル回転で修理中。

 放っておくと、無理する子だからね。

 デバイスなしでジュエルシード捜索なんて、やりかねないんだよ。

 だから、顔を出したんだ。

 そしたら、フェイトとアルフが話していた。

「あの人に…お土産ねぇ…」

 アルフが渋い表情で言う。

「うん!もうすぐ、ジュエルシードを集め終わるから。お祝いにケーキを買おうって

思うんだ」

 さも、いい考えでしょ?とばかりに言うフェイト。

 

 私は何とも言えなかった。

 

 フェイトに私が協力する条件として、彼女はジュエルシードを最後まで集め終えるまで、

時の庭園へ帰れない。私を警戒した結果だった。

 そして、ジュエルシードの解析結果は、データとして提供する。

 そういう条件だ。

 データは疑いをもたれないように、渡し済みだ。

 収集の続行もフェイトに指示している。

 だから、やってんだけどね。

 

 どっちに転んでも、プレシア女史がフェイトの選んだケーキを食べる事はないんだ

よね。言えやしないよ…。

 私が成功すれば、プレシア女史は捕まるか、最悪死ぬ。

 プレシア女史が成功すれば、フェイトとの共犯関係は解消される。

 

 結局断れず、私はフェイトに、お勧めの店を紹介する羽目になった。

 

 私は転生する前は、別にグルメじゃなかった。

 でも、ベルカ時代に薄味の、お世辞にも美味しいと言える料理を食べていなかった所為

か、今生では味覚が鋭くなった。

 ベルカの料理が不味かったのではなく、物資が限られていたからだけど。

 それだって、食べられたのは、私が腐っても王族だったからだし。

 私が王になった時に、改善させたけどね。

 まあ、そのお陰もあって、食べ物がホントに有難く感じる。

 甘いものは最高だ。砂糖はベルカ時代、ホントに貴重だったからね。

 よって、私はケーキを食べ比べたりしている。なんたる贅沢か。

 別に詳しい訳じゃないけどね(爆)。

 

 因みに、翠屋はケーキも美味しいけど、一番はシュークリームだね。

 あそこは私にとって、シュークリームの店だ。

 私は翠屋に行かないけど、母上が好きなんだよ。

 それ以前にフェイトを翠屋に連れていくなんて、論外だけどね。

 

 だから、私の穴場へご案内。

 フハハハハ。ご近所と通以外は来ない場所だよ。

 商店街の外れの、ほぼ民家といった風情の店だ。

 その名も、洋菓子店フリーデン

 ドイツ語だからドイツのお菓子だと思うでしょ?

 なんと、普通のケーキ屋だ!

 碌に宣伝もしていない。ヤル気あるのか!?と言いたくなるが、これでも知る人ぞ知る

名店である。

「いらっしゃい」

 老齢の女性がパティシエ兼販売員である。

 品のいい女性で、背もまだ曲がっていない。

 小川さんという名前の人だ。

「どうも、また来ました」

 私は小川さんに挨拶する。

「お友達と一緒っていうのは、珍しいね」

 小川さんが微笑む。

 私って、そんな1人の印象あるのか。

「どれにする?」

 小川さんに話し掛けられて、フェイトが挙動不審である。

 優しく他人に話し掛けられるなんて、()()は初めてだろうから仕様がない。

「フェイト。どれも当たりだよ。安心して」

 小川さんのケーキは、実際どれも絶品だ。

 小川さんが、私にビックリしたような顔を向けた。え?何?

「有難うね」

 小川さんが笑顔を戻すと、そう言った。生意気な事、言われたと思ったかな?

 すいません。

 フェイトは、ぎこちなく頭をチョコンと下げる。

 

 ショーケースを見ると、色とりどりのケーキが並んでいる。

 オーソドックスなものから、オリジナルまで。

「うわぁ…」

 フェイトが感嘆の声を上げる。

 それから、フェイトのテンションが上がる上がる。

 甘いものの威力は凄まじい。

 普段は、ここまでしないほどの試食をさせて貰った。

「美味しい!!」

 普段のフェイトからは、想像も出来ないほど笑顔だった。

 これは、これでいいか。

 

 そして、アルフとリニスにもケーキを購入した。

 プレシア女史には、全て集め終えた後にワンホール買うという事になった。

 プレシア女史は、ビターなチョコケーキが好みなんだとか。

 どうでもいい情報ですな。

 

 

              :なのは

 

 私の部屋には、今、飛鷹君とユーノ君がいる。

 2人とも、冷や汗を流しながら、私の部屋に入った。

 なんか、階段の下から殺気が漂っている気がする。

 なんか、ごめんなさい。

 

 私はお菓子とジュースを取りに下へ降りていく、ついでにちょっとした用事を済ませ、

自分の部屋に戻る。

 お父さんとお兄ちゃんが焦げてるのは、きっと天罰か何かだから。気にしない。

 

 扉を開けて入ると、飛鷹君とユーノ君が難しい顔をしていた。

 2人は、レイジングハートの修理状況を見に来たのだ。

「どう?レイジングハート、大丈夫?」

 ユーノ君がレイジングハートから目を離さずに、答えてくれる。

「今、自己修復機能全開で修理しているから、明日には直ると思う」

 私は、レイジングハートを見る。

 待機状態でも、ハッキリと亀裂が走っている。

「ごめんなさい。レイジングハート…」

 当然、レイジングハートから返事はなかった。

「ユーノ。あの時の振動はやっぱり…」

 飛鷹君が、ユーノ君にいつにも増して真剣な声で話し掛ける。

「うん。なのはとフェイト…だったよね?2人の魔力の衝突だけではないだろうね。

間違いなくジュエルシードの力だよ。2人の魔力が全く関係ない訳じゃないけど」

 あれが!?ジュエルシードの本当の力…。

 フェイトちゃん…。

 必死にジュエルシードを求める姿が思い浮かぶ。

「あれが次元震だとすると、流石に管理局が来るな」

 飛鷹君が深刻な顔で言う。

 次元震?

「うん。ここまでの事態になっちゃったらね。あと、あれ、次元断層になりかけてたよ」

 次元断層??

「何!?」

 2人がドンドン話を進めていく。

「ストップ!!私にも分かるように言ってよ!」

 2人が詳しく、分かり易く説明してくれた。主にユーノ君が。

 説明を聞いて、私は言葉を失った。

 世界が滅びかけてたなんて…。

 

「早く、集めなきゃ、だね」

 私は呟くように言う。

 2人は無言で頷いた。

 

 

              :フェイト

 

 バルディッシュの修復が済んで、収集を再開した。

「バルディッシュ。大丈夫?」

『問題ありません』

 一応、バルディッシュに確認し、私は頷く。

 バルディッシュも大丈夫と言わんばかりに、光を放つ。

 

「フェイト」

「うん。分かってる。ジュエルシードがあるのが、分かる」

 アルフの言葉に力強く私は頷いた。

 前回の事もある。用心しないといけない。

 レクシアに大怪我なんて2度とさせない。

 例え、すぐ治ると言ってもだ。

 リニスが言っていた。傷は一瞬で治る。でも、痛みを感じない訳ではないって。

 私は覚えてる。レクシアが凄い脂汗を流していたのを。

 物凄く辛そうだった。

 どうして、あんな痛みに耐えられるんだろう。

 どんな辛い事があったんだろう。

 私には分からない。それが、悲しい…。

 だから、せめて、私の出来る全ての事をする。

 

『フェイト。分かってるだろうけど…』

 レクシアから念話が送られてくる。

『うん。大丈夫!』

 私はしっかり答える。

 

「アルフ。行くよ!」

「はいよ!」

 私達はマンションの屋上から飛び出して行った。

 

 

              :なのは

 

 私達3人は、ジュエルシードの存在を感じ取った。

「行こう!」

 私の言葉に2人が頷いてくれる。

 レイジングハートの修復は完了している。

 けど、レイジングハートに訊かないといけないよね。

「レイジングハート。力を貸してくれる?」

『勿論です』

「ありがとう。レイジングハート」

 私は感謝を込めて、レイジングハートを手で包み込む。

 

 ジュエルシードの反応があった場所に、私達は急いで向かった。

 

 場所は海鳴臨海公園。

 到着すると、ジュエルシードは発動していた。

 公園の木々の前で、ジュエルシードが浮き上がり、輝きを増していく。

 私達とフェイトちゃん達が、同時に現場に到着する。

 ジュエルシードが、1本の木に飲み込まれて行く。

 木はみるみるうちに巨大化していって、腕と足が付いたお化けに変わってしまった。

「ドラクエに、同じようなモンスターいたよな」

 飛鷹君が思わずといった感じで、独り言を言った。

 実は、私もやった事あったりして。

 確かにあんな感じだね。

 私達は馬鹿な事を、思わず考えてしまったけど、ユーノ君は素早く結界を構築する。

 私と飛鷹君は気を引き締め直す。

 

 私達はお互いに視線を交わす。

 最優先で、これを止めるのが先。

 数の暴力ってこういう事を言うんだね。

 ドラクエモンスターはアッサリ倒された。

 まずは、私がバインドで動きを止めて、フェイトちゃんが魔力刃をブーメランみたい

に飛ばして、切り刻む。

 飛鷹君とあの人が、地面から出てくる根を斬り飛ばす。

 使い魔?さん2人が腕を縫い止める。

 

「ジュエルシード。封印!!」

 止めは私の封印砲になった。

 

 ジュエルシードは封印された状態で、空中に浮いている。

 回収してしまいたいけど、ここからは競い合いになってしまう。

 こんな事するのは、危険なんだけど。

 

 私とフェイトちゃんはジュエルシードより高度の高い位置で相対する。

「フェイトちゃん。前の事があるんだよ!?こんな事、止めようよ!」

「だったら、貴女が止めればいい」

「ねぇ、せめて理由を教えて!!」

 フェイトちゃんは無言で首を横に振った。

 フェイトちゃんのデバイスが鎌の形に変形する。

 私もレイジングハートを構える。

「私は諦めないよ」

 フェイトちゃんの瞳が揺れた気がした。

 私の願いが見せたものかもしれないけど。

 飛鷹君とユーノ君、レイジングハートと相談して作り上げた新しい変形モード。

「行くよ!レイジングハート!!」

『了解しました。マスター。クロースコンバット・モードロッド』

 レイジングハートが変形して、長い棒になる。棒の中央にレイジングハートの赤い宝石

が輝く。私の接近戦用モード。

 私は再び、レイジングハートを構える。

 

 私達は、それぞれの武器を構えて、相手に突っ込んで行く。

 今回から、私も接近戦を織り交ぜていく。

 鎌と棒が打ち合わされる寸前。

 私もフェイトちゃんも攻撃を止められてしまった。

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 

 いつの間にか、私達の間には黒いバリアジャケットの男の子が、私達のデバイスを掴ん

でいた。

 

 魔導士って、黒が普通なの?

 

 

              :飛鷹

 

 俺はヤツと対峙する。

 対抗出来るのは、俺だけだしな。

 ヤツも既に剣をどこからともなく手にしている。

 俺も剣を抜き、魔法を使う。

 

 今度は余裕に満ちた面、崩してやるぜ。そんで全部、吐かせる。

 

 ヤツから動く気配はない。おまけに隙だらけ。

 誘ってやがるのか!?

 上等!!

 俺はヤツとの間合いを一気に詰めると、剣を振りかぶる。

 魔力弾を展開。

 ヤツが剣をこちらに向ける。

 俺は魔力弾と共に剣を振り下ろした。

 

 衝撃音と共に俺の剣が、アッサリとヤツを捉え、気付けば振り切っていた。

 ヤツが倒れる。

 

 え!?

 

 魔力弾が俺の戦闘意志が消えた所為か、霧散する。

 幻術か!?

 俺は周りを見回す。油断なく周りを警戒する。

「いや、倒れてるよ。私」

 声が足元から聞こえた。

「な、なんでワザと食らったり、したんだ」

 ヤツはゆっくりと上体を起こす。

「いい加減、アドバイスも終了しなきゃいけないからね。最大の欠点を教えよう

と思ってね」

「欠点?」

 俺はアホみたいな返事しか、返せなかった。

 ヤツは完全に立ち上がると、身体に付いた草を払った。

「非殺傷設定っていってもさ。平和に暮らしてた人がさ。殺す事はないっていっても、

真剣で人を打つのは、簡単じゃないよ。

 君さ、無意識だろうけど、私が対応出来る時に振るう剣と、もしかしたらって時に

振るう剣じゃ、太刀筋が全然違うんだよ」

 そんな…馬鹿な。

 俺は非殺傷設定だから、遠慮なんてしてねぇぞ。

 してるつもりはなかった。

 だが、ヤツの眼は嘘を言っているようには、見えなかった。

「次、私の邪魔するなら、ヌルい対応は出来ないから。今、言っとく。後悔しない

行動をとった方がいいよ。あの子を護りたいならね」

 今更、剣を向ける気になれなくて、俺は剣を鞘に戻した。

「ああ、だが、どうして、そんな事言ってくれるんだ?」

「さてね」

 ヤツは肩をすくめた。

 またかよ。この機に問い詰めて…。

 

 その時だった。

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 声と同時に上を向くと、そこには黒衣の執務官・クロノがいた。

 

 そして、俺達の周りやリニス・アルフの周りにも、武装局員が転移し、取り囲んでいる。

 原作じゃ、クロノだけだったんだがな。

「飛鷹君!」

「レクシア!リニス!アルフ!」

 上空で対峙していた2人の声が聞こえる。

 

「全員、デバイスを下ろすんだ!」

 取り囲んだ武装局員の杖が、威嚇するように光った。

 

 

              :クロノ

 

 アースラ艦内が一転慌ただしくなる。

「監視対象同士が接触!ロストロギアの思念体と交戦を開始しました!」

 アースラはまだ97管理外世界に到着していない。

 やはり、転移する事になったか。

「詳細座標を!」

 目印があるなら、使わない手はない。

「座標特定!いいよ!クロノ君!!」

 アースラの通信士兼僕の補佐官のエイミィが、データの転送と共に叫ぶ。

「武装局員の転移も頼む!僕は一足先に行く!」

「了解!」

 エイミィが片手で機器の操作をしつつ、サムズアップする。

 ふざけてる場合じゃないぞ、全く。

 まあ、いい感じに力が抜けたけどね。

 

 僕は一瞬で現場まで跳んだ。

 

 転移した瞬間に、デバイスが2方向から迫って来る。

 僕は咄嗟に両方、手で掴んで止めた。

 手が痺れる。この年で大した研鑽だ。

 それにしても、エイミィの奴。こんなところに送るとは!

 僕じゃなきゃ、2人に殴られてたところだぞ!

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 デバイスを止められて、2人共ビックリしている。

 少し遅れて、武装局員が転移して、残りの対象の包囲が完了する。

「飛鷹君!」

「レクシア!リニス!アルフ!」

 2人の声が響く。

「全員、デバイスを下ろすんだ!」

 僕はデバイスを掴んだまま、ゆっくり地面に降りると、デバイスをゆっくり放す。

「僕は時空管理局・執務官クロノ・ハラオウンだ!双方、事情を聞かせて貰おう!」

 僕は身分証を提示する。

「管理局!?」

 使い魔の1人が声を上げる。

 

 その時、武装局員の悲鳴が上がった。

「うわぁぁぁぁーーーー!!」

 声の方を向くと、フードを被った人物が、剣を振り抜いた姿勢で止まっている。

 もう1人の剣士は立ち尽くしている。

 たった1振りで局員を無力化したのか!?

 気付かなかったという事は、大して魔力も籠っていない一撃という事だ。

 なんて技量だ。

 僕も咄嗟にデバイスを向ける。

『スティンガースナイプ』

 光弾が螺旋を描き、フードの人物へ向かう。

 が、慌てる事なくフードの人物は、剣を振り下ろした。

 魔法が切り裂かれ、剣閃が刃となって僕に襲い掛かる。

 僕は辛うじて避けたが、デバイスの先端が斬り飛ばされ、結界まで破られてしまった。

 馬鹿な!?

 結界が崩壊する。

 その前に、スクライア氏族が結界の修復を開始していた。

 

 フードの人物に注意が逸れた隙に、金髪の魔導士がロストロギアを奪おうとする。

 僕はギリギリ反応し、魔力弾を複数打ち出す。

 が、それは、いつの間にかフォローに入っていたフードの人物に、無効化されてしまった。

 金髪の魔導士がロストロギアを回収してしまう。

「チッ!」

 それで、包囲が崩れ、使い魔2匹が一転突破。

「逃がすな!」

 追い縋ろうする局員の前に、スフィアが現れる。

「危ない!!」

 厳しい訓練の賜物だろう。局員は反応し、すぐに退避。

 同時に、大音響と閃光が走る。

 音と光が去った後、金髪の魔導士の勢力は姿を消していた。

「エイミィ!!」

『分かってますよっと!!』

 すぐにウィンドウが開く。既に追跡を開始していたようだ。流石。

『ダメ!反応が一切出ない!!」

「何!?」

 アースラの設備だぞ!?

 転移か移動系の魔法か分からないけど、これじゃ、発見は困難だろう。

 僕は、表情にこそ出さなかったけど、悔しさで一杯だった。

 ここまで、一方的にやられたのは久しぶりだ。

 

 だが、もう片方の勢力は、この場に居残っている。

 

「クロノ。今回は仕様がないわ。取り敢えず、その子達にお話を聞きたいから、アースラまで

来て貰って」

 艦長がウィンドウを開いて指示する。

「了解しました。艦長」

 僕も同じ事を考えていたので、取り敢えず、近くにいる白い魔導士に声を掛ける。

「そういう訳だから、一緒に来てくれるかな?」

 スクライア氏族と黒い剣士がこちらを窺っている。

 2人共、局員が監視している。

 白い魔導士が仲間に僕の要件を伝えて、アースラまで行く事を承知して貰った。

 

 話が付いたタイミングで、局員が近付いて来る。

「怪我人は?」

 僕は局員に被害状況を確認する。

「幸いにも、いません。不幸中の幸いとでも言うべきでしょうが…」

 表情は曇っていたが、それこそ仕様がないだろう。

 僕も同じ気持ちだ。

「撤収だ」

 僕は短くそう告げた。

 

 

              :飛鷹

 

 俺達は、アースラへ監視付きで転移する。

 まるで、犯罪者扱いだな。

 ただ、手錠や腰紐が付いてないだけだぞ、これ。

 

 なのはが辺りを興味津々で観察している。

 原作じゃ、オドオドしてたけど、現実はやっぱり違うんだな。

 俺もこんな扱いじゃなきゃ、テンション上がったんだけどな。

「ねぇ。飛鷹君、ユーノ君。ここって…」

「時空管理局の次元航行船の中だね」

 ユーノがなのはにあれこれ説明している。

 俺はユーノが説明を終えたタイミングで、なのはに声を掛ける。

「ともあれ、相手の懐の中なんだ。用心していこうぜ」

「う、うん」

 なのは…。お前、テンション上がって用心する気なかったな?

 

「ああ、君達。バリアジャケットは解除して大丈夫だよ」

 クロノが、俺達のやり取りは聞こえていただろうに、そんな事を言ってきた。

 なのはが俺の方に、どうする?というような視線を向ける。

「デバイスだけ、待機状態にしておきますよ」

 なのはが頷く。

 クロノは若干眉間に皺が寄ったが、認めてくれた。

 

 そして、到着した。

 原作通りの滅茶苦茶な和室に。

「ようこそ、では、お話を聞かせてね?」

 そこには、リンディ・ハラオウンがいた。

 どうしてか、紅葉が舞い散っている。

 隣にいる息子がいるとは、思えないほど若々しいよな、この人。

 やっぱり人種が俺らとは違うのか?

 

「なるほど。事情はよく分かりました。立派だわ」

「だけど、無謀でもある」

 ユーノから事情を聞いた2人が、それぞれコメントする。

 まあ、ぶっちゃけ、無謀って意見には賛成だけどな。

 だが、ユーノの行動にも、仕様がない側面もあると思う。

「それでは、今後、ジュエルシードの回収は管理局が担当します」

 リンディさんが穏やかに微笑みながら、そんな事を言い放った。

「君達は、今回の件は忘れて、普通に暮らすといい」

 クロノからは労りは感じるが、正直、出来るか!だよな。

「そんな!?」

 なのはも納得出来ずに、声を上げる。

「事は、もう民間人の介入出来るレベルを超えている」

 そう言われて、なのはも何も言えずに俯いてしまう。

 ユーノは悔しそうだ。

 最後までやるつもりだったんだから、そりゃ、そうだよな。

「まあ、今すぐ答えも出ないだろうから、今日はここまでにしましょうか」

「艦長!」

 ふざけた物言いにクロノが突っ込みを入れる。

 

「返答なら後日にする必要はないですよ」

 俺の言葉に、リンディさんとクロノが俺を見る。

 なのはとユーノはビックリした顔で、俺を見ている。

「と、言うと?」

 リンディさんが訊いてくる。

「俺達は手を引くつもりはありませんよ。そんな事するんだったら、もっと前にしています」

「飛鷹…」

 ユーノが若干嬉しそうだ。男にそんな顔されてもな。

「なのは。お前はどうだ?」

 俺はなのはに問い掛ける。

「私はユーノ君の力になるって約束した。フェイトちゃんがどうしてこんな事してるのかも、

聞けてない。フェイトちゃんの力にもなりたいの!だから、止めたくない!」

 なのはも気持ちを確認し、俺はリンディさん達を見る。

「だ、そうです」

 リンディさんはポーカーフェイス。

 クロノは渋い顔だ。

「君達、僕の話を聞いていたか?」

 俺達はそろって頷くと、クロノは頭痛を堪えるような顔になった。

 実際、頭痛を感じているんだろう。

「手を引かない理由は3つです」

「聞かせて貰える?」

 リンディさんは、促すようにそう言った。

「ええ、まず1つは、単純に信用出来ない事。2つ目は、そちらも戦力不足なんじゃないのか

という事、3つ目は、俺達もこちらの捜査機関に断りを入れてやっている事だからですよ」

 クロノは憮然とした顔で、俺を睨んでいる。

 リンディさんは、ハッとした顔である。

 リンディさんは、俺の話のポイントに気付いたようだ。

「待ってください!捜査機関!?ここは魔法文化がない筈ですよ!」

 流石です。クロノもハッとする。

「魔法文化はなくとも、特殊能力を持った者はいるんですよ。捜査機関があって不思議

じゃないでしょ?」

「そんなデータはなかった!!」

 クロノは疑ってるか。

「嘘だと思うなら、紹介しましょうか?どちらにせよ、話を通しておかないと現地の捜査

機関と揉めますよ。執務官殿は大丈夫でしょうが、一般の局員?の方じゃ、制圧されると

思いますよ」

 リンディさんは考え込んでいる。

 クロノもベテラン執務官だからか、こちらの言葉に嘘がないと分かったようだ。

 ここらで畳み掛けておくか。

「それに、ユーノは兎も角。俺達は時空管理局って組織の実態を知りません。よく知りも

しない組織が、民間人がどうこう言って任せろって言われても、安心出来ませんよ。

 戦力に関しては、どうです?あれ以上の戦力があるんですか?執務官殿クラスの魔導士

が、他に乗船してるんですか?

 自宅が火事になってるのに、通りすがりの人が火は消しとくから、いつも通り暮らして

いていいですよ!って言ってるようなもんでしょう」

 クロノは苦い顔になったものの、相変わらず俺を睨んでいる。

 リンディさんは、取り敢えず結論が出たのか、ポーカーフェイスに戻っている。

「俺達の実力が信用出来ない貴方達、管理局を知らず信用出来ない俺達。お互いに監視を兼ねて協力し合えば、悪くないんじゃないですか?それに、こちらの捜査機関との橋渡しもしますよ」

 さて、これでどうかな?

 断られても、勝手にやるけどな。ここ管理外世界で、連中の権威は通じないからな。

「あの!私からもお願いします!!」

「僕からも!」

 なのはとユーノも、頭を床に擦り付けるような勢いで下げる。

 俺も2人に倣って頭を下げる。

「…ふぅ。分かりました。そこまで言われたら、ダメとは言えないわね」

 リンディさんが溜息を吐いた後、苦笑いでそう言った。

「母さん!!」

 クロノが慌てて声を上げる。

 おいおい。オタク仕事中だろ。

「クロノ執務官。今は艦長と呼びなさない」

 案の定、リンディさんの厳しい突っ込みが入る。

「すみません。艦長」

 クロノは若干顔を赤らめて謝る。

「「ええ!?」」

 なのはとユーノが同時に声を上げる。

「もしかして、親子なんですか?」

 なのはがビックリ顔固定で訊く。

「ええ。そうなのよ。こっちじゃ、珍しいからしら?」

「は、はい…」

 なのははなんとか返事を返す。

 まあ、人手不足だからだろう。

 案の定、リンディさんがそう説明する。

 管理局で、信用出来る身内を使うのは珍しい事ではないそうだ。

 そんな話をした後に、協力条件を提示してきた。

「まず、こちらの指示には基本従ってほしいの。貴方達の安全の為に。2つ目は、貴方達の

デバイスが、記録したデータをコピーさせてほしいの」

 まあ、譲歩としては、こんなもんか。

 フェイトやヤツの事は、より知っておく必要が出来ただろうしな。

「ええ、分かりました」

 交渉成立とばかりに、俺とリンディさんが握手した。

 

 クロノがその時、ちょっとムッとしてたのが気になる。

 まさか、マザコンか?

 そして、なのはさん。貴女は何で眉を顰めるのですか?

 話し合いの余地は?ない?

 

 

              :美海

 

 私達は目晦ましの後、私の奇門遁甲術でその場を離脱した。

 結構、管理局はアッサリ引いたな。

 暫くは、捜索が続くと思ったんだけど。

 それで、フェイトのマンションに戻ってきていた。

 

「不味いよ!!管理局が出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ!!雑魚クラスなら

兎も角。アイツ、執務官だ!レベルが違うよ!いくら、レクシアが強いっていっても、

数で押されたら、いくらなんでも無理だよ!」

 アルフは管理局が出てきた事で、パニックになっている。

 今更だよね、ホント。

「でも、私は母さんの為に、やれる事をやりたいの」

「でもさ!…なんとか言ってやっておくれよ!」

 アルフは私やリニスにも、説得参加するように言ってきた。

「フェイト。事実として、いつまでここが見付からないか、分かりませんよ?」

 リニスも静かな口調で、撤退を暗に匂わせている。

「もうすぐ、全て集まるんでしょ?」

 今度はフェイトが私に向かって確認する。

「まあ、想定外がなければね」

 私はアッサリと、それを認めた。

「じゃあ、大丈夫」

 フェイトは俯き加減にそう言った。

 そこにフェイトの不安を感じたのは、私だけじゃないと思う。

 確かに、数で押されるのは、実力が戻っていない状態では辛い。

 けど、私が調べた情報ならあれ以上はない。

 大丈夫。私が護るから。

 口にはしないけど。

 

 

 私とリニスはフェイトのマンションを出て、家に帰る途中。

「1つ訊いていいですか?」

 リニスが徐に口を開いて、そんな事を訊いてきた。

「何?」

「何故、ワザと彼の攻撃を受けたんですか?」

 ああ、その事か。

 衝撃は殆ど受け流したよ?多少のリンクがあるから分かるでしょ?

「ベルカ時代にね。一番苦労したのは、人に本気で剣を振りを下ろす事だった」

 平和ボケした日本人が、いくら非殺傷設定だからといって、刃の潰れていない剣を他人に、

振り下ろすのは難しい。無意識的に加減してしまう。

 私の場合は、そんな設定なかったけど、それを指摘された時は、私も驚いたものだ。

 ベルカ時代には非殺傷設定なんてなかったし、殺し合い上等な世界だった。

 そんな世界ですら、平和ボケパワーはハンパなかった。

 でも、今は非殺傷設定がある。殺さないように、加減する必要はない。

 この先も戦っていくなら、彼はそれを活かして、戦えるようにならなければならない。

 

 私がその悪癖を克服出来ずに、犠牲を出してしまった事も…ある。

 

 中遠距離の砲撃魔導士なら、直接人に刃を振り下ろす事は基本ない。

 フェイトみたいに特殊じゃなければ。

 人を魔力で打つ事は、比較的にすぐ慣れる。

 直接手を下す感覚が薄いからだ。

 だが、彼が剣を使うなら言っておく必要があった。

 何せ、次から彼に構っている暇がない。

 アドバイスはあれが最後になる。

 

 そんな事をリニスに私は説明した。

 

「どうしてですか!?貴女がそんな事する必要…ないじゃありませんか!」

 リニスは悲しそうで、それでいて怒っていた。

 心配してくれるのは…本当に有難い。

 私は、悪戯っぽく笑って言った。

 

「あるよ。彼が規格外らしく無双してくれれば、私が楽出来るでしょ?」

 

 

 

 




 なのはの接近戦モードの名前に関しては、いい案が浮かびません
 でした。英語だと棒はスティックらしいので…。
 それはどうもな、と思い。本編のアレになりました。
 もっといい名前あんだろ!?という方。教えてください。

 なお、ケーキ屋の店名に関しては、実在する店名とは一切関係ありません。
 あったとしても、偶々なのでご了承下さい。

 次回、海上決戦にまだなりません。少し足踏みします。必要な回なので、
ご了承を。
 すいませんが、お付き合い頂ければ、幸いです。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。