魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 戦闘シーンの下手さはどうしようもないようです。
 この先、進歩する事があればいいが…。
 勿論、努力しますけど。

 ギャグモドキになる筈がいつも通りに。
 はい、大嘘言いました。すいません。

 では、お願いします。


第17話 温泉へ

              :美海

 

 お茶会から、グループ移籍状態の私です。

 薄情なもんだよ、今時の女の子は。

 喧嘩が起きないだけ、マシなのかね。

 スムーズな移籍ありがとうございますって?

 まあ、正体バレなきゃ問題ない…と思わなきゃ、やってられない。

 私の事も、名前で呼ぶようになりました。

 私もだけど。

 完全に友達化してるじゃないですか。

 

 表情に出さずに現実逃避していると、なのはが声を掛けてきた。

「よかったら、美海ちゃんも来ない?」

 へ?どこに?

「完全に聞いてなかったわよ、この子」

 アリサの呆れた声が木霊する。

 3人が沈黙に包まれる。

「考え事してた」

 嘘ではない。

「あ、あのね。ウチ年に1回、喫茶店を従業員さんに任せて、旅行に行くんだ。すずかちゃんと

アリサちゃんも一緒に行くんだけど。一緒に行かない?」

 なのはちゃんが復活を遂げたようだ。

 苦労かけてごめんね。グループから外して貰って構わないからね。

「今年はね。海鳴温泉なんだよ!それにこの前、お茶会に来てた飛鷹君とユーノ君も来るよ!」

 余計に遠慮したい。

「いつ?」

「来週の連休だよ!」

 喫茶店も忙しいだろうに。余程信頼してる人なんだな。

「私もその日は旅行」

 嘘ではない。

 付き合いの長い父上の上司と、この時期になると旅行に行くのが、綾森家の年間行事なのだ。

 私達家族にとっては、恩人だ。

 悪いけど、そっちを優先します。

 

 収集には参加するが、旅行も行くよ。不義理は出来ないからね。

 収集が終わったら、旅館かホテルに戻るようにすればいい。

 そう!こんな時の為に、魔法は存在する!

 あんまり収集も疎かには出来ない。

 収集休むとフェイトが不機嫌になるし、協力者が休んでばっかりっていうのは不味い。

 

 3人には随分、残念がられたけど、こればかりはね。

 

 で、その日の夜の事である。

「海鳴温泉!?」

 父上が、旅行の行き先について爆弾を投下した。

 何故、そんな近場にするの!?毎年もっと遠くに行くでしょ!

「どうかしたのですか?」

 リニスが台所から顔を出して言った。

 リニスは今、人間形態で母上を手伝い中である。

 母上は、リニスがお気に入りである。

「いや、旅行先の話」

 私が眉間に皺を寄せているのを見て、父上の方をリニスは窺った。

「近場でガッカリさせてしまったかな…。今年は海鳴温泉にしようって話していたんだ」

 父上は困った顔をして、リニスに助けを求めている。

『何が問題なんです?』

 リニスが念話で訊ねてくる。

『なのは達も、そこへ行くんだよ』

『ああ、それは…また』

 今までの経験からいって、彼女達のいるところにジュエルシード有り。

 あれは、驚異の確率だ。

 リニスも学習したようで、困った顔をした。

 必然、彼女達とジュエルシードを巡って、ドンパチやるという事である。

 両親と恩人がいるまさにその場所で。

 万が一にも巻き込みたくない。

 眉間に皺も寄るというものだろう。

「昨年までの事は、私には分かりませんけど、どうしてその地に決まったんです?」

 リニスが父上に訊く。

「うん、ヒューズ支社長があまり時間を取れなくてね。近場にするしかなかったんだよ。

海鳴温泉は行った事がなかったし、丁度いいだろうと思ってね」

 忙しい人だからな。当然の話だけど。

 

 恩人はヒルダ・ヒューズさんという。

 父上が勤める会社の支社長をしている。

 父上は何気にデキる男なのである。ヒルダさんの右腕なんだそうだ。

 役職はよく分からない。今更聞けません的な理由で。

 ドイツ人女性なのだが、ニューヨーク支社にいた時にアメリカ人と結婚した。

 2人の間に生まれた息子さんが、少々難しい子だったそうだ。

 そのお陰で、私達家族がどうにかなったのだから、感謝しかない。

 ヒルダさんも、家族と旅行に行けばいいのにと思うが、旦那さんもエリートで忙しく予定が

合わない。

 成長した息子さんは、適度に距離があった方がいいのだそうだ。

 端的に言って、母親と旅行はなしだそうだ。

『男の子なんて、ある程度育ったらあんなものよ!私も女の子をもう一人ぐらい、頑張るべき

だったかしら』

 とか言っている。散々苦労した筈なのに、母は偉大である。

 今も、私を養女にしたいとか言っている。

 勿論、冗談半分だ。両親、苦笑いしか出ない。

 私、そんなに面白いか?

 

 なにはともあれ、子供が駄々を捏ねたところで覆る訳じゃない。

 リニスには、フェイト達の引率をして貰う事にした。

 両親とヒルダさんは、別室をとって貰う。ゆっくりして貰うという建前で。

 私達は友達という事で、一緒の部屋にして貰おう。

 そして、時間を作って、注意しながら4人で探そう、ジュエルシード。

 

 

              :飛鷹

 

 なのは達に誘われて、温泉に行く事になったんだが、道程が問題だった。

 俺とユーノがどの車に乗るんだ、って事だ。くだらないって?俺もそう思うよ。

 だが、人生はくだらない事で出来ている。辛い現実だ。

 結果、運転手・士郎さん、助手席・恭也さん、後部座席・俺とユーノだ。

 花も何もありゃしない。ギスギスしたまま胃の痛みに耐え、俺達は温泉に向かった。

 原作でのジュエルシード発動地点だし、行かない選択肢はないからな。

 耐え忍ぶしかない。

 

 車から楽しそうに降りてきたなのは達に、俺達はホッとした。

 最近、目まぐるしい日々だったからな。

 が、それに比べて俺達は、既に疲労困憊だ。

 お前等、分かってんだろうなぁ…。という無言のプレッシャーで。

 ユーノは精神的にも同い年だから兎も角、俺はロリコンじゃねぇよ。

 車から降りた時、自由を感じた。素晴らしい、解放感だ。

 旅行として大いに間違っているだろ、これ。

 

 部屋に荷物を置き、まずは温泉に入らねば!っとなった。

 野郎の温泉入浴描写なんていらんだろ。

 割愛するぞ。

 勿論、ユーノは男湯だ。原作みたいに女性の裸見放題にはならないし、俺がさせん。

 まあ、フェレットじゃないってバレてるから、事実上不可能だけどな。

 

 

              :美海

 

 私は、フェイトを連れ出す事から始めた。

「温泉…?」

 フェイトは純粋に頭にクエッションマークが浮かんでいる。

 ミッドに温泉ってないのかね?

 フェイトは、ずっと時の庭園暮らしだから知らないか。

「端的に言えば、天然のお風呂」

 風呂といった瞬間、フェイトの顔が翳ったように感じた。

「私の恩人と一緒に行く事になってね。丁度、あそこら辺はサーチしてないでしょ?

だから、一緒にどう?」

 ジュエルシードが絡んでいるし、少し悩んでるみたい。

 両親に友達とその家族と一緒に行きたいと、お願いしたところ、何やら凄く喜んで

了承してくれた。

 ヒルダさんの意向は、確認してないけど大丈夫なのか?

 まあ、堅っ苦しい人ではないから平気だと思うけど。

「私、探索に集中してて、大丈夫?」

 温泉に入る事自体は、乗り気ではないようだ。

 あれやこれや言いつつ、みんなでの入浴を避けようとしているようだ。

 こんな時、勧める役割のアルフも黙っている。

 

 それで、私も察する事が出来た。

 

 思えば、ベルカ時代にも、似たような反応の子がいた。

「もしかして、傷が気になる?」

「!!」

 フェイトとアルフの顔が強張る。

 私はソッとフェイトを抱き締めた。力を入れず、優しく。嫌がったらすぐに止められるように。

 フェイトの身体がビクッと反応したけど、拒絶はされなかった。

「貴女の思いは正しい」

 傷の具合が大体分かってしまった。服の上からでも。

 治りかけているけど、鞭で打たれた箇所が未だに腫れている。あとは痣だ。

 しかも、質の悪いやり方だ。服で隠れる箇所しか打たない。

 更に遣り切れないのは、そういう子ほど親を庇う。時折優しくなるからだ。

 プレシアが、優しくしているかは知らないが、彼女にはアリシアの記憶がある。

 

 こういう時は、勝手に情報を分析してしまう癖が、忌々しく感じる。踏み込み過ぎている。

 フェイトの隠したいものを、暴きたてる権利なんて私にはないのに。

 私はこんなにも無神経だ。

 せめてもの自己満足に、優しく抱き締めた手で治癒魔法を使う。再成ではない方だ。

 

 私は、ベルカに風呂に入る文化を広めた。ネット小説とかにありがちなものだけど。

 子供達の一部がみんなで入る公衆浴場に入りたがらなかった。

 理由が虐待だった。どんな時代にも、一定数いるものなんだと、当時の私は愚かにもそういう事があって初めて悟った。自分の馬鹿さ加減を思い知らされていた時の、苦い記憶だ。

 

「ごめん。嫌だったら、私とリニスで探すよ。無理しないで」

 耳元で囁くように言う。

 すると、フェイトはゆっくり首を振った。

「行くよ。レクシアが私の事、考えて言ってくれたって分かるから、大丈夫。だから泣かないで」

 フェイトの手が私の背に添えられる。

 今度は私が反応してしまった。

 別に本当に泣いた訳ではない。でも、悲しみは伝わってしまったようだ。それを泣いている

ように感じたのだろう。

 余計な気を遣わせるとは、私も全く成長していない。

 

 フェイトを連れ出す事には成功したものの、私の気は重かった。

 リニスに家に帰って、その事について聞くと怒っていた。

 怒り狂っていたと言っていい。

 どうやら、まだリニスがフェイトの教師をやっていた時は、そこまでではなかったようだ。

 最早、他者に対して慈悲の心が消え去って久しいのだろう。だから、目的の為なら何でもやる。

 プレシアは私が止める。

 私は改めてそう決意した。

 

 

 出発当日。私達はバス停に並んでいた。

 旅立ちというほどの距離ではないが、私はヒルダさんに挨拶を済ませ、リニス・フェイト達と

バスで現地に向かう事にした。

 完全に別行動になるが、ヒルダさんも何やら嬉しそうに許してくれた。

 申し訳ないので、出発前日に家に来たヒルダさんの持ち帰りの仕事を、リニスと共に手伝った。

 どうも、私は転生2回にして、現代の仕事も出来るようになったようだ。

 我ながら遅い事この上ない。

 持ち帰りの仕事は出発前に片付いたのだから、良しとしておこう。

 

 因みに、リニスは秘書にならないかと、勧誘されていた。

 まあ、あの大魔導士の使い魔だったからだろうね。スキルが凄かった。

 ヒルダさん大絶賛である。

 人気だねリニス。

 

 バス乗車中は事件などなく、無事に到着した。

 なのは達除けに、私達は容姿は少し変えている。

 会わなかったから、無駄になったが、いい無駄だ。

 私達が泊まるのは、隠れ家的な宿なので入ってしまえば、なのは達に会わない。

 

 

              :なのは

 

 気になる事、考える事は多くあるけど、取り敢えず今、この旅行中はお子様らしくしたいと

思います。

 この日の為に修行もバッチリやって、旅行中はお休み。

 焦りは消えないけど、やり過ぎはよくないから仕方がない。

 

 旅館の浴場は脱衣所も広かった。

 私達はいそいそと服を脱いで、髪が湯船に付かないようにアップに纏める。

 いざ、突入!私とすずかちゃん達が一番乗り。お姉ちゃんとお兄ちゃんの恋人の忍さんが、

後からゆっくり入ってくる。

 自然に囲まれた大きい露天風呂!いいよね!

「お姉ちゃん!背中流してあげるね!」

「ありがとう。すずか」

 すずかちゃんは嬉しそうだ。

 それでは!私も!

「私も背中流してあげるね!」

「ありがと。なのは」

 私はお姉ちゃんの背中を流します。

 それにしても、私達はお子様だから仕様がないけど。

 2人共凄いスタイルだよね。

 お姉ちゃん、可愛いし、髪の毛は綺麗だし、スタイルもいいし、優しいのに、なんで恋人

いないんだろう?

 もしかして、私が知らないだけで、いるのかな?

 なんとなく、気になっちゃったの。

 

 温泉から出たら、旅館の中を探検だ。

 飛鷹君もユーノ君もあまり気が進まないみたいだけど、アリサちゃんが連行した。

 それから、ダブルスで卓球をしたり、美味しい料理を食べて沢山お話をした。

 楽しい時間は、気分を上向きにしてくれる。来てよかった。

 

 最後は定番の枕投げ。

 飛鷹君が集中砲火を浴びていたし、ユーノ君は力尽きていた。

 そして、男の子は当然部屋が別なので、引き上げていった。

 

 

              :フェイト

 

 レクシアに身体に残った傷を治して貰った。

 その時の気持ちは、形容し難い。

 安らぎとか、安心感とか、兎に角暖かい気持ちになった。

 ただ一つ言える事は、こんな気持ちは母さんが優しかった頃以来だ。

 嫌だとは思わなかった。

 レクシアは私の為に悲しんでいた。自分に怒っていた。心で泣いていた。

 少なくとも私はそう感じた。

 だから、つい、泣かないでなんて言ってしまった。変な子だと思われないといいけど…。

 彼女にこれ以上、悲しんでほしくなくて、温泉に行くと言ってしまった。

 …後悔してる訳じゃないけど。

 鞭の痕もぶたれた痕も綺麗に無くなっても、少し躊躇してしまう。

 

 浴場に着いて、往生際が悪いと思うけど。

 アルフは私に気を遣って、温泉に興味なさそうにしてたけど、やっぱり興味があったみたい。

 人の姿でいそいそと服を脱いでいる。

 私はと言えば、グズグズしていた。なんとなく、恥ずかしさもあるし。

「フェイト。こういう場面で無理する事ないよ。部屋にも小さいけど温泉付いているし」

 レクシアが気遣ってくれる。

「ううん、大丈夫だよ」

 私は自分に小さく気合を入れると、思い切って服を脱いだ。

 

 私が大丈夫そうだと安心したのか、レクシアはリニス達を見て、動きを止めた。

「2人共ストップ」

 リニスとアルフは温泉の扉を開こうとして、レクシアに止められた。

「どうしました?」

 リニスは呼び止められたのが、不可解みたいだ。

 私も当然、分からない。

「2人共、なんでバスタオル巻いてるの?まさか、そのまま湯船に入るつもりじゃないよね?」

 2人は当然のように頷いた。

「湯船に髪の毛とか、タオルを入れるのはエチケット違反だよ」

「「「え!?」」」

 奇しくも、私達はハモってしまった。ダメなの?

 私は、持っていたバスタオルを手に固まった。

「でも、テレビではバスタオル巻いたり、水着で入ってたじゃないですか」

 リニスは反論したけど、レクシアは溜息交じりに答える。

「それ、テロップかなんかで、許可を得ていますって表示がある筈だよ」

 止め、とばかりに、レクシアはある貼紙を指差す。

『湯船にタオルを入れないで下さい』

 リニスが、書いてある文字を読んでくれた。

 ああ、それ、ダメだね。

 

 それで、力が抜けたのか、私は温泉に入った。入る事が出来た。

 木造のお風呂場は初めて見た。

 この国では風情があると言うそうだ。確かに、その言葉が似合ってる。

 アルフとリニスは温泉が気に入ったようだ。

 2人共凄く気持ちよさそう。

 私も気持ちいい。固まった何かが溶けていくみたい。

 全てが終わったら、母さんも連れてきたい。

 

 お風呂から出て、お土産物を売っている場所があった。

「母さんに、何か買って行こうかな…」

 私の言葉にアルフが渋い顔になった。

「正直、止めた方がいいんじゃ…」

 アルフが反対した。やっぱり、喜ばないかな…。

「まあ、大魔導士向けじゃないんじゃない?」

 レクシアがやんわりとそう言った。

 母さんが、木彫りのストラップを手に、喜んでいる姿が確かに想像出来ない。

 でも、昔、母さんの似顔絵を描いてプレゼントした時は喜んでくれた。

 

『ありがとう!〇〇〇ア』

 優しい笑顔で受け取ってくれた…。

 

 あれ?…おかしい。名前が一瞬、聞こえたような気がした。それ自体はおかしくない。

 でも、違和感があった。最近、名前を呼ばれる時、私の名前が聞こえない。

 ノイズが入るみたいに。でも、音が違ったような…。

 お風呂に入ったばかりなのに、嫌な汗が噴き出してくる。

 

「フェイト!」

 レクシアの声に我に返る。

 気が付くとアルフとリニスが、心配そうに私を覗き込んでいる。

「大丈夫?」

 レクシアが心配そうに声を掛けてくれる。

「うん…。大丈夫!ただ、確かに似合わないかもって思って」

 みんなを安心させる為、ぎこちなく笑みを浮かべたが、上手くいったか自信はなかった。

 

 気のせいだ。そうに決まっている。

 

 差し出されたレクシアの手を私は握った。レクシアの温もりに縋り付くように。

 

 

              :美海

 

 フェイトは不安そうだった。

 なのは達の事を考えている顔じゃない。

 もしかして、記憶の矛盾に、気付き始めているのかもしれない。

 記憶の操作は意外に難しい。僅かな違和感から、本当の記憶が蘇ったりする。

 

 頑張って、フェイト。

 

 私とフェイトは気を取り直すように、お互いの為にお土産を選んだ。

 どこにでもありそうな、キーホルダーなんかは今は却下だ。

 何か特産でいいものはないかな。

「あっ!これ、綺麗…」

 フェイトが見付けたのは、組紐で造ったミサンガモドキ。

 店員さんに聞くと、海鳴独特の組み方があるのだそうだ。

 なるほど、カラフルだけど派手じゃない。組紐の印象かな。

 昔は、願掛けに様々な日常品に使ったそうだ。

 願いによって、組み方を変わるそうだ。

 私はフェイトに幸運を祈るもの。

 フェイトは私に災難除け。

 お互いの選んだ物を交換する。

 

 まるで、なのはとリボン交換してる場面に似てるね。

 なに?印象ないんじゃなかったのかって?それくらいは思い出したよ。

 

 今のフェイトと別れるのは少し不安があるが、恩人も放置出来ない。

 リニスに後事を任せ、ヒルダさんと両親の元へ。

 旅行なのに慌ただしいね。

 

 ヒルダさんにフェイトの事を訊かれたが、出会いについては嘘でない範囲で誤魔化した。

 すみません。

 

 ヒルダさんが気を遣わなくていいと言うので、お言葉に甘える事にする。

 夕涼みがてら、ジュエルシード捜索をフェイト達と一緒に開始する。

 

 夕暮れの自然の中、4つの影が疾駆する。

 ジュエルシードは当然の如く、通常サーチに引っ掛からない。

 そこで、私が精霊の眼(エレメンタルサイト)で情報解析しながら進む。

 

 一度、4人で旅館に帰り、夕食を食べる。

 夕食後、食後の散歩という建前で、捜索再開。

 既に調べた箇所を潰し、まだ見ていない場所に的を絞る。

「見付けた」

 私の眼がジュエルシードを映し出す。

 でも、これは。発動寸前だ。

「急ぐよ!」

「うん!」

 フェイトが緊張した声で返事をする。

「リニス!結界構築!」

「もう構築完了します!」

 流石、言われる前に結界を構築開始してたのね。

 結界で一帯の地域が封鎖される。

 そして、案の定発動開始。

「フェイト!遠距離からの封印!いける!?」

「大丈夫!」

 フェイトは、バルディッシュを砲撃モードへ変形させる。

 

「ジュエルシード!封印!!」

 

 

              :飛鷹

 

 俺は寝たフリだけで、寝ていなかった。

 原作では、ジュエルシードは夜に発動するからだ。

 俺はトイレに行くフリだけして、外に出た。

 認識阻害は当然使っている。

 バリアジャケットを纏い、いざ、探索へと思ったら、声を掛けられた。

「散歩するには遅い時間だよ」

 なのはの声だった。振り返るまでもない。

 後ろには、ユーノとなのはがいた。

「全く、あれだけ騒いで、よく起きてられるな」

 俺は仕方なしに振り返り、憎まれ口を叩いた。

「それは、飛鷹に言われたくないよ」

 呆れたようにユーノが言った。

「そうだよ。飛鷹君って油断すると、すぐ自分でやろうとするから。警戒してたの」

 なのはから有難い言葉を頂戴する。ただ、信用ねぇだけじゃん。

 

「僕の問題に付き合わせてるんだから、僕も行くよ」

「私も手伝うって決めたから、行くよ」

 2人の決意に根負けし、渋々頷いた。

「わぁったよ。一緒に探しに行こうぜ」

 

 月夜で少し明るいが、昼より探し物にはキツイ環境だ。

 サーチしながら肉眼でも探す。

 発動するときは光るからな。光を見逃さないようにしないとな。

 

 なんて思いながら探していると、予想外に近くに反応をキャッチする。

 原作通り、川沿いにあったか!

 結界が形成される。

 結界を無理矢理こじ開け、2人を入れて俺も滑り込む。

 魔力反応もある。フェイト達か!

「なのは!長距離で封印砲!いけるか!?」

「うん!」

 レイジングハートをカノンモードに変形させる。

 

「ジュエルシード!封印!」

 

 なのはが封印砲を放つ。だが、向こうの方が早い。

 なのはの封印砲が若干遅れて着弾する。

 

「飛鷹!僕を投げてほしい!!」

 は!?投げる?放って置けって事?

「文字通りの意味で!」

 ユーノはフェレットに変身すると、俺の肩に乗る。

 マジか。

「封印と同時に飛び込む!」

 考えてる時間はなさそうだな。

「じゃあ、俺が相手の動きを妨害する!少し荒っぽいぞ!!」

「分かった!」

 俺はユーノを手に乗せると、魔力をユーノに込めて固める。

「カタパルト!」

 魔法の砲弾を打ち出すカタパルトが完成する。

「ちょっ!ちょっと!!僕がキャッチ出来るスピードで頼むよ!!」

「男は気合だ!」

「関係ないよね!?」

 それ以上の問答は男には不要だ。男は黙って行動するものだ。

 俺は渾身の力でジュエルシード目掛けて、ユーノを投擲した。

 カタパルトでユーノが更に加速する。

「ぎゃあぁぁぁぁ~!!」

 ユーノの断末魔と同時に俺も動く。

「ギガスラッシュ!(雷なし)」

 同じくカタパルトで加速するが、こちらの方がユーノより早く目標に到達する。

 

 俺のギガスラッシュで、派手な水飛沫が上がった。

 

 

              :フェイト

 

 封印砲を放つと一拍遅れて、別方向からも封印砲が放たれる。

 あの子達、ここにも来てたんだ。

 別の魔力同士での封印の為、発動直前のジュエルシードの封印が遅れている。

 封印の上から、封印するなら兎も角、2人で別々に封印しようとしてる為、拮抗している。

 でも、放ったのは私の方が早い。実力も私の方が上だ。

「ハアァァァー!!」

 私は声と共に出力を上げる。

 ピンク色の魔力光が弾き飛ばされ、私の魔力での封印が完了する。

 貰った!と思った時だった。

 アルフが封印されたジュエルシードを拾いに行こうとした。

 が、物凄いスピードで魔力の斬撃が通過する。アルフとジュエルシードの間を。

 水飛沫が上がる。

 

 そして、衝撃音が響いた。

 

 

              :なのは

 

 私の封印が吹き飛ばされ、金色の髪の子の魔力で封印された。

 実力差が、まだこんなにある。

 

 と、その前に。

 

「ユーノ君、投げたの!?」

「ああ、本人の希望でな。惜しい男を亡くしてしまった」

 飛鷹君が目頭を押さえて、声を絞り出す。

 いやいや。多分、ユーノ君の望みとは全然違うと思う。

 金色の髪の子の仲間の人だって、硬直してるよ。

「死んでないよ!死ぬかと思ったけどね!!」

 土煙が少しずつ晴れていき、ユーノ君が姿を現す。

 ユーノ君はボロボロだったけど、人間形態でジュエルシードを掲げて見せた。

「お前ならやると思ってたぜ!」

「2度と、こんな事しないよ!」

 その方がいいと思うの。私も似たような事したから、怖さは分かる。

 

「このガキャァァァー!!」

 赤い狼がユーノ君に跳び掛かる。

 ユーノ君が即座にラウンドシールドを展開する。

 赤い狼がシールドに体当たりするけど、シールドは壊れない。

「僕は、戦闘は苦手だけど。防御は得意なんだ!」

「チィッ!」

 赤い狼から舌打ちが聞こえる。

「この使い魔は僕が足止めする!あと、お願い!」

 

 なら、私は、あの子の相手をしないと。

 

 金色の髪の子の方に私は歩いていく。あの子の方も。

 お互い向き合う。

「やっぱり、止めないんだね。それで、どうするの?」

「話し合いで、解決にはならないんだよね?」

 金色の髪の子は、答える代わりに戦斧型のデバイスを構える。

 私もレイジングハートを構える事で、答えた。

 

「プラズマランサー」

「アクセルシューター」

 雷の槍が、魔力の砲弾が、幾つも浮かぶ。

 

「ファイア!」

「シュート!」

 槍と砲弾が全くのズレなく衝突する。

 

 爆発と同時に私達は飛び上がる。

 私だって、特訓したんだ。前回みたいに簡単にいかない!

 

 

              :飛鷹

 

 対戦相手は、残り2人だが、俺の相手は決まっている。

 どういう訳か、リニスは手を出さないようだしな。

 お互いに、剣を持ったまま間合いギリギリまで接近する。

「じゃ、手合わせ願おうかい」

「お相手するよ」

 

 黒い影2つが霞む。

 目まぐるしく、剣が無数に走る。お互いの位置が入れ替わる。

 剣と剣が打ち合わされる。その度に衝撃波が起きる。

 相変わらず、ヤツの剣は速いようには思えない。

 でも、捉え辛い。一瞬、ヤツの剣を見失う。

 ヤツの剣の軌跡が突然変化しやがった。

「!!?」

 辛うじて剣で受ける。突然変化したにも関わらず1撃が重い。

「おや?腕を上げたね」

「上から目線で、ありがとよ!」

 俺は皮肉で返す。

 全く、高町家のしごきを受けてなきゃ、あれで終わってたぜ。

 所謂、鍔迫り合いの状態。踏ん張った地面に罅が入る。

 力で負ける訳にいかないぜ!

 ヤツは、意外な事に魔力量は俺より低い。力なら男で鍛えている俺の方が上だ。

 このまま、押し切ってやる!

 力を更に籠めた。まさにその時。

 

 俺の身体が流れた。

 

 体捌きと剣に掛かる力を流すように、剣を傾けたのだ。

 力の入った俺の剣は火花を散らしながら、途中で止める事も出来ずに剣と一緒に体勢が

崩れてしまった。

 

 案の定、引き戻させたヤツの剣が迫る。

「ディフレイド!」

 魔法のシールドを展開すると同時に衝撃音が響く。

 クソ!剣術だけじゃ、やっぱりダメか!

「マナバレット!」

 魔力弾を幾つか作り出し、打ち出す。

 ヤツが魔力弾に向かって駆ける。

 待ってたぜ!

 ヤツは剣に自信を持ってる。剣で対処すると思ったぜ!

「マナキャノン!」

 俺の純粋魔力砲。所謂バスターだ。ネーミングセンスないって?ほっとけ。

 ヤツが斬り落とす前に、キャノンがバレットにぶつかり誘爆する。

 これなら、逃げ場はねぇだろ!魔力量は俺の方が上だ。威力でゴリ押しした。

 みっともないけどな。

 これでやれるなんて思ってやしない。

 防御で脚が止まったヤツに追撃を掛ける。

 

「どっち見てんの?」

 

 なに!?上からヤツが降ってきた。

 不意を突かれた形になり、しかも間合いにモロに入られた。

 結局、抵抗空しく、たった数合で剣を飛ばさてしまった。

 喉元に剣を突き付けられる。

「逃げ場奪うなら、もっと弾幕張らないと。ケチったね。そうすれば、君が優位に攻められた

かもしれないのに」

 あのタイミングで避けられる訳ねぇだろ、普通。

 今度があったらそうするよ、クソ!

「お前、この前、転生者かって訊いたら、転生したと言えばしたって言ったよな?

どういう意味だ」

 俺は冷や汗を無視して、ヤツに問い質す。

「さてね」

「答える気はないって事か?」

 ヤツは答えず、剣を下ろす。

 

「時間切れ」

 ヤツはそう言うと、指で上を指す。

 

「キャアァァ!」

 なのはが悲鳴と共に落ちていく。

「クッソ!」

 俺は飛び上がり、なのはの元へ急ぐ。叩き付けられたら、魔力強化が低くなっているなのはじゃ

大怪我する。

 なんとか、空中でなのはをキャッチする事に成功する。

 

 なのはをキャッチしたまま、振り返るとヤツは消えていた。

 俺は思わず舌打ちする。

 気が付くとフェイトもアルフ・リニスも消えていた。

 結界も解除されている。

 

 碌に話、訊けなかったじゃねぇか。

 

 

              :フェイト

 

 同時に空に飛び上がる。

 あの子の上昇してくるであろう地点にバインドを設置する。

 あの子は私と一緒に空中で静止して、デバイスを構え直す。

「サンダーレイジ!」

 砲撃に反応して飛び退こうとしたけど、設置型バインドがあの子を捉える。

 けど、慌てずあの子はバインドをブレイクして、シールドを砲撃を逸らすように展開。

 砲撃の衝撃を利用して、後方に離脱する。

 私のカウンターを警戒している。

 飛行魔法も、前とは比べものにならないくらい安定している。

 もう…そこまで、やれるの?

 

『フェイトが負けなければね』

 

 レクシアの声が頭の中に響く。

 あの子が、どんなに成長が早くても私は負けない!

 

 私が後を追う形で、空戦を開始。

 ピッタリとあの子を追尾しつつ、プラズマランサーを展開。

「ファイア!」

 あの子が私の方を一瞬、見た。すぐに回避。

 あの子を通り過ぎていった槍を操り、再びあの子を追わせる。

 魔力弾であの子も迎撃し、漏れたものは防御する。

 お返しとばかりに、魔力弾をこちらを見ずに放つ。

「シュート!」

 複数の魔力弾が私に殺到するが、当たる訳がない。

 余裕で躱し、高度を大きく変える。

 あの子の上をとる。

 一瞬、あの子は私の位置を見失った。

『サイズフォーム』

 バルディッシュが私の意志を汲み取り、変形する。

 急降下、鎌の刃が魔力で形成される。

 あの子は、こちらに気が付くと、手を微かに動かした。

 すると、躱した筈の魔力弾が私に1つ向かってくる。

 私はそれを歯牙にも掛けず、最小限の動きで躱す。

「アークセイバー」

 私は魔力刃を放つ。

 魔力弾の制御の所為で反応が遅れ、シールドで防御。

 砲撃を逸らすような展開をする余裕は、なかったみたいだ。

 魔力刃はシールドを削り取るように回転し、破壊しようとする。

 意識は完全に逸れた。

『ソニックムーヴ』

 私の姿が消えた事に、あの子は驚いたみたいだ。

 気付けば、私がシールドの前にいた事に、再度驚いている。

 私はそのまま、シールドを越えて、魔力刃を再度展開したデバイスを彼女の首に突きつけた。

 直線にしか動けないデメリットがあるけど、使いどころさえ間違えなければいい。

 

「終わりだよ」

『フォトンランサー』

 高速で打ち出された槍が彼女に直撃する。

 魔力で、咄嗟に小型のシールドを展開したみたいだけど、威力を多少弱めたに過ぎない。

「キャアァァ!」

 選択ミスだよ。

 あの子は落ちていった。

 落ちる速度を落とそうかと思ったけど、レクシアの方は勝負が付いていた。

 レクシアなら、黒い剣士が助けに入るのを邪魔しないよね。

 

 あの子にもう反撃は無理だ。

 アルフの方を見ると、亀のように防御に徹している男の子から、ジュエルシードを

奪えないみたいだ。

『アルフ、もういいよ。レクシアの作戦があるから、一時預けよう』

 念話をアルフに飛ばす。

『…分かったよ』

 悔しいのか、返事があるまで少し掛かった。

 

『じゃあ、もう撤退しよう』

 私はみんなにそう念話で伝えた。

 

 落ちたあの子は、黒い剣士が受け止めていた。

 

 

              :飛鷹

 

 なのはを抱き抱えて、旅館に帰る。

 ジュエルシードは手に入れたが、勝負は負けだ。

「う…ううん…」

 なのはが呻き声と共に、目を覚ました。

「飛鷹君…?私、負けちゃった」

 なのはは沈んだ様子だ。

 仕様がないさ。経験も何も違うんだ。簡単にはいかない。お互いにな。

「今は休んどけ、治癒魔法は俺が掛けといたから」

 責任をもってユーノにも治癒魔法を掛けた。

 俺が治癒魔法まで使えるのに、ユーノは驚いてたけどな。

「うん。飛鷹君、ユーノ君、ごめん」

 辛そうに、なのはは目を閉じた。

「謝る事なんて1個もない」

「そうだよ。寧ろ、僕の方こそ巻き込んでゴメン」

 この言葉だけじゃ、足りないか。

 俺は、魔力で片手を自由にすると、なのはにデコピンした。

「痛たっ」

 なのはが驚いたような、文句を言いたげなような顔をした。

「ヘコんでる暇なんてねぇぞ。それとももう止めとくか?」

「やだよ!」

 なのはは強い口調でそう言った。

 

「なら、帰ったら、更に研鑽しないとな」

「うん!」

 なのはは少しだけ持ち直したようだ。

 

 なのはを抱き抱えたまま、旅館に入った為、高町家の男衆に見付かり、別室での尋問を受ける

羽目になった。

 勘弁してくれよ。マジで…。

 

              :美海

 

 ジュエルシードの収集には失敗したが、最後にこちらが持っていればいいからね。

 私の本当の計画は、どっちでもちゃんとジュエルシードが集まっていればいい。

 表向きの計画を聞いているフェイトは、ガッカリした様子はない。

 アルフはスッキリしてないみたいだけど。

 慌ただしい旅行も、これで終わりだ。

「どうだった?旅行は」

 フェイトに訊いてみる。

「うん、初めて入ったけど、気持ちよかった。また来たいよ」

 気に入ってくれて何より。

 初めてをこれからも経験していけばいい。

 貴女だけの思い出を作っていけばいい。

「また、一緒に来れる?」

 フェイトが無邪気に私にそう訊いた。

 

 私は言葉なく、微笑んだ。

 

 

 

 




 温泉回の不思議。
 そう何故、アルフは主に仕事を任せて、自分は温泉に浸かっていたのか。
 フェイトが許可したとか、偵察など目的はあったのでしょうが、使い魔
 としてどうなんだ?と思っていたのですが、解釈が浮かび、話を変更す
 る事に。

 因みに、なのはは、まだ上手くバインドを使えません。習得中です。
 動きの速いフェイトを拘束するには、実力不足です。

 文字数もまたこんな事に。

 次回から話が加速する…なんて風呂敷を広げない方がいいですかね。

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