魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 冒頭、お詫びする事になります。
 私のミスで、掲載が差し止めになっていたようで、すいません。
 私も、心臓が止まるかってほど、ビックリしました。
 すわっ!何やったんだ俺!?って思いましたよ。
 今も、削除されるんじゃ、と怯えております。

 今回も文字数がとんでもない事になりました。
 削れませんでした。どれも書きたかったんです。


第15話 敵の正体

              :なのは

 

「なのは!そっち行ったぞ!」

 飛鷹君の声が飛ぶ。

 私達は夜の地元中学校にいる。

 勿論、悪戯とかじゃなくて、ジュエルシード回収の為だ。

 発動を捉えられたのは、幸運だったんだけど。            

 

 私はレイジングハートを構えて、待ち受ける。

 そして、思念体が現れた。

 でも、あれ人体模型だよね?なんか夜の学校のお約束な気が…。

 半身の臓物が突然伸びて、私に襲い掛かる。これは…酷いと思う、別の意味で。

 

 私は動揺する事なく、バインドで動きを止め、伸びた臓物を背中に待機させていた魔力球を

放ち、打ち落とす。

 バインドで絡め捕られた人体模型は、必死?に抜け出そうとするが、ガチガチに拘束されて

いる為、動けない。

「ジュエルシード、封印!!」

 私は封印砲を放ち、無事封印に成功した。

 

 凄く疲れた。色々な意味で。

「なのは、レイジングハートを待機モードにしろよ」

 飛鷹君の言葉に初めて気付いて、レイジングハートを待機モードに切り替える。

「なのは、大丈夫?」

 ユーノ君が心配して声を掛けてくれた。

 いけないよね、心配かけちゃ。これじゃ、ユーノ君の事言えないよ。

「ごめんなさい。少し疲れた」

 飛鷹君が急に私の前に出て、背中を向けた。

「おぶされよ」

 しゃがみ込んで飛鷹君は、そう言った。

 え!?そこまでして貰うのは、ちょっと…。

「フラフラしてんじゃねぇか。遠慮するなって」

「うん、飛鷹の言う通り、ここのところ忙しくしてたし無理はよくないよ」

 二人がかりで少しの間、説得されておんぶして貰う事になった。

 

「なのは、明日は完全休養な。訓練なしだ。レイジングハートもいいな?」

 負けてしまってから、私は訓練に打ち込んでいた。勿論、飛鷹君も。

 授業中まで、シュミレーションを熟すくらいだった。

『問題ありません』

「え!?」

 でも!それじゃあ…。

 私の頭の中に、あの金色の髪の子の辛そうな表情が浮かぶ。

 ユーノ君の必死の声も。

 未だに私は、基礎を積み終わっていない。

 時間の関係で、実戦形式で叩き込むやり方に変更したから、上達速度は上がってるけど。

 それでも、あの子の実力に遠く及ばない。

「焦ったって、実力なんて一朝一夕で付かねぇよ。焦らずやる事が重要だ。それにとんでも

ないスピードで上達してるだろ?俺なんて、初めの1か月なんて、まだ魔力制御やってたぞ」

 呆れた声で飛鷹君が言った。

「でも…」

「今が我慢のしどころだ」

 私は飛鷹君の背で黙り込んだ。

 焦りは消えないけど、飛鷹君の言っている事も分かる。

「明日は、丁度アリサ達と約束してるだろう?休むのも訓練の内さ」

 そうか、アリサちゃん達と、サッカーの応援に行く約束してたんだった。

 焦りはある。飛鷹君は凄いスピードで上達してるって言ってくれるけど、最近は

そのスピードも落ちてきている。

 もしかして、疲れもあるのかもしれない。

 私は静かに頷いた。

 

 家に帰ると、家族が出迎えてくれた。

 飛鷹君は、お父さんとお兄ちゃんに道場に連れていかれてたの。

 飛鷹君はまるで仏像みたいな顔になっていた。

 悟りを開いた人って、もしかしてあんな感じなのかも。

 なんか、澄み切ってたもん。

「まあ、あの二人もなのはが、本当に疲れて動けないって分かってるから、適当なところで

止めると思うよ」

 お姉ちゃんが笑いながら言った。

「後で私も様子を見に行くから、なのはも今日は早く休みなさい」

 お母さんに言われて、身体が思うよう動かい事を自覚させられる。

 

 やっぱり、そろそろ休息しないとダメかも。

 

 

              :飛鷹

 

 俺は自分の鍛錬、というかリンチというかを終えて、大の字に倒れていた。

 マジこの2人は化けモンだわ。

 魔力をフルに使用して、なんとか戦えるレベルだ。

「あら、美由紀の言った通りね」

 桃子さんの声が入り口からした。

「ああ、本人の希望もあるし、稽古の相手になっているけど、無茶はやらないよ」

 士郎さんが桃子さんに苦笑いを返す。

 これで、手加減してるんだから、ヤバい。

 

 実は奴にボコボコにされた後、無理を承知で稽古の相手をお願いした。

 別に門下生にしてくれと言った訳じゃない。

 悪いところを指摘して、どうすればいいか意見を貰う為だ。

 まずはスフォルテンドの映像記録を見て貰い、意見を聞いた。

 勝つ為には、どうしたらいいかを。

 

 結論は、短時間で勝てるようになるのは不可能、だった。

 

 あの2人をもってしても、冷や汗を掻くレベルらしい。

「年齢から言ったら有り得ない。どうすれば、こんなになるのか」

 恭也さんもそう漏らしていた。

 俺も、この年にしては異常な強さらしいけど。

 奴をどうにかするか、どういうつもりなのかを、聞き出さない事にはどうにもならない。

 そこで、俺も剣術を実戦形式で改善している。

 まず、勝てないなら、話し合いにまでもっていかねぇとな。

 悪足掻きだが、やらないよりマシだろう。

 自力を磨くのも、無駄にはならない。

 

 なのはには、焦るなと言っといて、自分はこれとは示しがつかないわ。

 なのはの成長スピードに比べれば、俺はカタツムリ並に遅い。

 凡人は努力あるのみだ。

 勿論、俺も明日は訓練はしない予定だ。()()()()

 これで俺が体を壊したら、とんだ反面教師になっちまう。

 

「飛鷹君。夕飯まだでしょ?お家には連絡してあるから、食べていって」

 桃子さんの言葉に俺は素直に頷いた。

 

 頷いた理由は、悪いと思って断ったら、凄いプレッシャーを掛けられたからではない。

 そう、断じて違う。

 

 

              :フェイト

 

 今日もジュエルシードの反応を、見付けて駆け付ければ、空振りだった。

 

 私達は、夜の住宅街に立っていた。

 一応、アルフとリニスには、周辺を見て回って貰っている。

「レクシアがサーチしたら、ここだったんだよね?」

 私は隣にいるレクシアに、そう声を掛けたが、反応がなかった。

 ただ、一点を見詰めていた。

 その顔は妙にヒンヤリとしていた。

 もしかして、疑ったと思われたかな?

「別に、レクシアのサーチを疑った訳じゃないよ」

 慌てて、声を上げるとレクシアは、キョトンとした顔で私を見た。

「ごめん。何?聞いてなかった」

 私は、少しムッとした。

 どうしてか、放って置かれたみたいで嫌だった。

 これじゃ、本当に子供みたいだ。…子供だけど。

 こんなのじゃなかった筈だ、私は。

 あの夜から、どうも私は調子が出ないような気がする。

『私は貴女に、後悔してほしくない』

 この言葉を聞いてからのような気がする。

 

「ジュエルシード。ここなんだよね?」

 少し、尖った声になってしまった。

 彼女はボンヤリと頷いた。

「そうだね。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()だね」 

「あの子達が回収したって事?」

 あの子達は当然、白い魔導士の子達だ。

 だけど、レクシアは首を横に振る。

「違うね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()

 レクシアの表情に鋭いものに変わる。

「こんな事が出来る連中は、限られる。まあ、予想はしてたけど」

 冷ややかな声音に、私までビクッとなった。

「つまり、具体的な犯人は分からないけど、敵の正体は分かったって事」

 レクシアは私に獰猛な笑みを浮かべた。

「これも、無駄じゃなかったって事で」

 レクシアは、また見ていた方向に視線を戻し、私に言った。

「さて、今度はこちらが、追い込んでやらないと」

 獰猛な笑みには、凍える炎が灯っていた。

 

 矛盾した表現だけど、こうとしか言いようがなかった。

 

「因みに、フェイトが気にしてる人達は、ジュエルシード回収成功したみたいだね」

 雰囲気が戻ったレクシアに安心したけど、切り替えが早すぎてついていけないから、止めて。

 私はそれを聞いて何とも言えない気分だった。

 あの子達が、収集を止めなかったって事だから。

 あの子達も大切な人達の為に行動している以上、分かっていた事だけど。

「まあ、その調子で考えてよ」

 レクシアが一転して、揶揄うように言った。

 私はまたムッとする。

 いじわる。

 私は、無言でレクシアをパシパシ叩いた。

 

 当然、彼女には堪えた様子はない。

 叩かれても笑みが見える。

 彼女は、笑っている方が断然いいと思う。

 

 

              :美海

 

 こんな事だと思ったよ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化せる奴なんて、そうそういない。

 可能性としては、常に上位に位置していた。

 欺瞞情報ぐらいで、私の眼は欺けない。

 まあ、最初からやらなかった私が言う事じゃないけど。

 つまり、やりようはあるという事だ。

 

 ジュエルシード探しが空振りに終わった翌日。

 私は今、河川敷を歩いて、サッカーグランドに向かっている。

 グランドなんていうほど、上等なものじゃないけど。

 なんせ、少年サッカーチームが、練習試合やるような場所だからね。

 

 実は、前日に適当に潜り込んでいるクラスの女の子グループの1人から、誘われたんだよね。

 少年サッカーチームの応援に行こうって。

 普段サッサと1人帰っている身としては、断り辛い。

 なので、フェイトに昼の収集は休みにしてほしいって、お願いした。

 少しご機嫌斜めだったけど、了承してくれたよ。

 ついでに、彼女も休ませた。捜索し通しで、疲労も溜まっているだろうから。

 またしても、渋々承知してくれた。

 今、動き回っても無駄骨になるって説得したよ。

 拗ねても可愛いってなんか、ズルいんですけど。

 他の子が同じ事やったら、微妙な気持ちになるのにね。

 

 グランドに辿り着くと、既にチームのベンチ付近にギャラリーが集まっていた。

 肝心の選手は、まだ疎らだっていうのに、どうしてギャラリーの方が熱心なの?

 

 グループの子がいたので、近寄っていくと今あまり関わりたくない子達が集合していた。

 関わりたくないのは、常時だがそれは言えやしないよ。

 なのはちゃんグループ3人と飛鷹君、おまけにユーノ君までいた。

 勘弁してよ。

 まあ、正体がバレる事はないだろうけどね。

 しかも、5人とも私に気付いたみたいだ。

 

 今から、体調不良で帰るってナシかな。

 

 

              :飛鷹

 

 今日はサッカー観戦の日だ。

 原作を知っているなら、分かるだろうがジュエルシード発動の日だ。

 キーパーの彼が、どこで拾ったのか知らないが、まずは持っているか確認する必要がある。

 そして、機会を見て譲って貰う。

 あれの発動は、回避すべきだろう。

 被害が洒落で済まない。

 

 俺はユーノを連れて、家を出てなのは達3人と合流した。

 ユーノは人間形態での参加だ。

 アリサ達とユーノが、お互いに自己紹介し合い、サッカーグランドへ向かう。

 

 道々、サーチしながら進む。

『飛鷹君。もしかしてサーチしながら歩いてる?』

 なのはから念話が届く。

『ま、念の為な。なのははやんなよ。備えでやってるだけだし、河川敷だけしか調べてねぇから』

『ああ、それ僕がやるよ。戦闘では役に立たないし…』

 ユーノも念話で会話に参加。

 ユーノはアリサ達と喋りながら、サーチで一帯を捜索し出す。

『んじゃ、任すわ』

 俺はなのはの手前アッサリ引く。

 キーパーの彼だからな、問題は。持ってなきゃ、それでいいんだけどな。

 

 グランドでは、両チームとも選手は、殆ど来ていない。

 当たり前だ。開始まで時間があるんだから。

 本日の対戦カードは、翠屋JFCVS桜台JFC。

 たかが、小学生のサッカーチームなのに、親や各方面の知人以外にもギャラリーが多い。

 俺はクラスメイトの武藤が翠屋JFCにいるので、応援に駆け付けている。

 

 適当に周りにいる顔馴染みと雑談に興じていると、なのは達が振り返っているのが見えた。

 俺も振り返ると、そこにはクラスのマスコット綾森 美海がいた。

 個人的には、あんな不愛想なマスコットいて堪るかと思うけどな。

 確かに、気紛れな猫っぽい。

 

 実は、転生者かと疑った時期があった。

 だって、あのヘッドフォンどう見ても、某・問題児の1人が付けてたヤツだよな。

 調べたら、猫耳バージョンまで売られていた。

 恐るべし、ちゃんぽん。

 疑いを持って調べたが、魔力・リンカーコアも確認出来なかったので、マークから外したんだ。

 勿論、二次小説お馴染みの、魔力なしの転生者の可能性も考慮した。

 機会があって、闘気をぶつけてみたが無反応だった。

 それ以来、アイツに関しては会うと、ちょっとバツが悪い。

 

 綾森は、そのままよく一緒にいる女子のところに行ってしまった。

 なのは達は、友達になりたいらしいが、今のところ成功していない。

 まだ、縁がないだけじゃないか?

 機会はあるさ。そのうち、きっと。

 

 

              :美海

 

 時間が経ち、選手達のアップも終了したようだ。

 因みに、私達は翠屋JFC側での応援だ。

「そろそろアップもいいでしょうし、始めますか?」

 なのはのお父さんが、隣の無精髭の男に声を掛けた。

 向こう側のコーチだったんだ、この人。

「そうですな」

 チョイ悪親父風なのに、意外に爽やかだった。

 向こうのコーチが、向かいのベンチに向かって歩いて行った。

 

 試合が始まった。

 ギャラリーが集まった理由が分かったよ。

 それは、隣にいる適当に潜り込んでいるグループの子・川名さんの言葉で分かった。

「翠屋JFCのキーパーの工藤君。有名プロチームの若手養成やってるコーチに

声掛けられたんだって!!」

 だからか、ギャラリーが多いのは。

 未来のプロ選手を見たかったのか。まあ、可能性の話だけど。

 

 私自身はサッカーをやったのなんか、ベルカ転生前の学生時代の授業が最後だ。

 それでも、分かる。

 あれは、他の子と違うわ。小学生レベルじゃない。

 コーチングも上手い、シュートコースを限定しキャッチしている。

 一切得点を許さない。

 勿論、裏をかかれる形になっても、冷静に対処する。

 でも、私が意外に思ったのは別だった。

「へぇ。武藤君、上手いじゃん」

 ボソッと小声で言ったのに、反応する人物がいた。

「どこがよ?」

 アリサちゃんだった。

「ボールにあんまり触ってないし、シュートも決めてないわよ?」

 貴女もミーハー組ですか?

 私も素人だけどね。見れば多少分かるよ。

 武藤君は、確かに一見して活躍はしていないように見える。

 でも、マークする子をなるべく多く引き付け、他の子が攻撃し易いように行動してる。

 隙あらば、積極的に攻める為のお膳立てもする。

 相手チームは武藤君を警戒しているから、彼がこのチームのエースだろう。

 だから、彼の動きに釣られる。

 味方を引き立てる事の出来るエースだ。

 貴方もしかして、転生してます?

 そんな事をボソボソ説明する。無論、転生は抜きで。

「「「へぇ~!」」」

 アリサちゃんだけじゃなく、なのはちゃん達まで感心している。  

「よく見てるね」

 なのはちゃんのお父さんまで会話に参加する。

「彼は攻撃の要だよ。司令塔だね。勿論、単独で攻め込んでも点を取れる。

それだけじゃ、ダメだってちゃんと分かっているんだよ」

 結局試合は、翠屋JFCの圧勝に終わった。

 

 試合が終わったのはいいが、例の3人組が絡んでくるんですけど。

 川名さんも、ちょっと困惑気味である。

 普段、仲が悪い訳じゃないけど、大の仲良しって訳でもないからね。

 こんな事に巻き込んでしまって、本当に済まない。

 

 

              :飛鷹

 

 俺はスフォルテンドに、キーパーの彼の荷物の中をサーチして貰う。

 名前は工藤君というらしい。

 女子の話を聞いていたが、これだけのギャラリーはそれが原因か。

 おっと、サーチ結果が出たようだ。

『ないな』

 簡潔だった。

 原作ではバックのポケットに入っていたが、この世界では彼は持っていない。

 取り敢えずはホッとした。完全に気は抜けないけどな。

 

 関係ない話だけど、武藤って凄い奴なのか?サッカーはよく知らんけど、凄いらしい。

 俺は心を込めて、サムズアップしてやったら、微妙な顔をされた。

 失礼な奴だ。勝利を称えたってのに。

 

 武藤の非礼に心を痛めていると、視線を感じた。

 振り返っても、視線の主を探り当てる事が出来なかった。

 

 なんか、気になるな。スゲェ嫌な視線だった。

 

 

              :???

 

 ホウ…。なかなか鋭いな。

 本命ではないが、私の玩具を奪い合っている輩の一人だ。

 では、今回は彼らに協力してもらうとしよう。

 

 私は取り込んでいる玩具を、一つ取り出そうとした。

 が、途中で止まった。

 突然、結界で閉じ込められたのだ。

「やっと見付けたよ。君が悪戯してる悪い子か」

「!!?」

 咄嗟に飛び退くが、相手は追ってこなかった。

 その場に立ったままだ。

 間違いなく、先程まで後ろに誰もいなかった。

 これだけ、接近されるまで気付かないとは。

 

 小柄な人間がいた。

 覚えのある凄まじい殺気を放ちながら。

 

 

              :美海

 

 飛鷹君が視線に気付いたようだが、視線の主までは気付かなかったようだ。

 上手く偽情報を上書きしてるからね。

 でも、種が割れれば何の事はない。

 私は、極小の精神干渉魔法を瞬間的に使い、用事があると3人組と川名さんと別れ、人混みに

紛れて姿を消した。

 

 騎士甲冑を纏い、自分自身の情報を偽る。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)があり、魔法科高校の劣等生の魔法を極めている私には可能だ。

 気配を断ち、音さえも立てず移動する。

 偽情報で偽っている箇所を探す。

 バレバレなのさ。

 私は結界を構築する。本気で。

「やっと見付けたよ。君が悪戯してる悪い子か」

 私が唯一、問答無用で殺していいと思う相手。

「!!?」

 相手は飛び退いた。

 黒い人型の靄がそこには立っていた。

 私の眼には、ジュエルシードが幾つか見える。

 なるほどね。ジュエルシードを取り込みながら、力を取り戻してるのか。

 2度と再生しないように、葬ってやる。

 

 アルハザードの魔法使い。

 

 

              :なのは

 

 突然、結界が張られた。

「「「!!?」」」

 飛鷹君もユーノ君も気が付いている。

 こんなにすぐ近く!?

 金色の髪の子か、私を助けてくれた魔法の人か。

「アリサちゃん、すずかちゃん!ごめん!」

 2人は緊急事態だと、察してくれたみたいだ。

 飛鷹君もユーノ君も駆け寄って来る。

「いいわよ!気を付けてね!」

「気を付けてね!怪我しないでね!」

 二人の応援を受けて、私達は走り出す。

 

 まだ、実力は足りないけど、今度は伝えてみせる。

 私の思いを。

 

 

              :フェイト

 

 レクシアに休むよう言われたけど、ジッとしているとあの子達の事を考えてしまう。

 だから、待機所として使っているマンションの屋上で、素振りをしていた。

 レクシアの思惑通りというのも、癪だし。

 拗ねているって自覚は…あるけど。違う。そうこれは違う。

 じゃあ、なんだって言われると困るけど。

 雑念だらけの素振りに、これ以上やっても成果は上がらないと、見切りをつける。

 

 その時、結界が張られた。

 私は弾かれるみたいに、そちらを振り返る。

 これは、レクシアの魔力!?

 しかも、これは侵入も脱出も出来ないようにする完全な隔離結界だ。

 これの示すところは、手出し無用。という事だ。

 

「フェイト!!」

 屋上にリニスがやって来る。

「リニス!レクシアが!」

「分かっています。私が援護に向かいます!フェイトはここにいて下さい」

「私達も!」

「いえ、主があれだけの結界を張る相手です。何があるか分かりません。信じてください。

必ず連れ帰りますから。一緒にあの分からず屋を、叱り飛ばしてやりましょう」 

 リニスが悪戯でも企むみたいに言った。

 リニスは返事も聞かずに、認識阻害を掛けて飛び出していった。

 

 リニス。なんか、変わった?

 

 

              :美海

 

 私は、血液中から一本の魔剣を取り出す。

 埋葬剣・オルクス。

 生者を斬れば、死の呪いを。死者を斬れば、冥界へ連れ帰る剣。

 前の所有者は、有名な冥王・イクスヴェリア。

 破壊された神殿跡地で私が見付けたものだ。

 正体に気付いて、危ないから戻そうとしたんだけどね。

 気が付けば、契約状態だったんだよ。

 バルムンクが通訳するところ、戻るのは拒否するって。いいんだけどね。

 

 黒い靄は手に該当する部分を黒い刃に変化させる。

 私は、埋葬剣を構える。

 

 次の瞬間には、刃と刃が火花を散らし、高速で何度も踊る。

 金属が擦れる耳障りな音が響く。

 高速でお互い移動しつつ、剣を交える。

 剣風のみで地面が抉れる。

 当然の如く、魔法を発動中。

 領域干渉、情報強化の2種。

 相手の魔法を僅かでも無効化する為の探り合いが、斬り合いの最中に行われている。

 こいつらに、いきなり攻勢魔法を放っても無駄だ。

 まずは、干渉力を弱め、断ってからでないと攻撃が当たると同時に回復してしまう。

 私の剣は靄を何度も捉えているけど、すぐに再生する。

 こちらは偶に掠る。掠ったところが、切れると同時に焼け爛れる。

 この程度の痛みは、平然と耐える事が出来る。

 自己修復術式も作動しない。

「ふん、そのザマでは往年の輝きは放てないか」

 嘲るように靄が言う。

「アンタに言われてもね」

 逆に鼻で嗤ってやる。黒い靄が言う事じゃない。

「それはそうと、アンタ誰だっけ?私の事、知っているみたいだけど、私が斬った人かな?」

「貴様ァ!!」

 この程度の挑発で激昂するとはね。

 私の魔法が僅かな綻びをこじ開ける。

「ニブルヘイム」

 液体窒素すら発生させる強力な凍結魔法。

 黒い靄の中のジュエルシードが凍結し、機能を停止していく。

 氷の粒になって、靄が急速に消え失せていく。

「おのれ!!だがしかし…」

 残り一つのジュエルシードがニブルヘイムに抵抗し、吐き出される。

 同時に消えかけた靄の手に魔力の奔流が、弾丸にまで圧縮され放たれる。

 結界に小さな穴を穿つ。

 そこに輝きを増したジュエルシードが飛び出していった。

「チッ!!」

 今度はこちらの気が逸れる。

「力を糧に咲け、邪悪の華」

 邪な祝詞が響く。

 結界の外でジュエルシードが発動したのを感じる。

「さぁ!どうする!?」

 さっきの油断で、ジュエルシードが幾つか稼働状態に戻っている。

「ケージングサークル」

 私は舞台俳優よろしくポーズを決めている靄を、隔離してやった。

 情報強化でも抑え込んでいる。

 

 私は結界を一時解除した。

 

 

              :飛鷹

 

 結界内部に入る事が出来ない。

 結界破壊を、ユーノとなのはの3人掛かりでやってもビクともしない。

 

 外で躍起になっていると、小さな穴が開きジュエルシードが飛び出してきた。

 やべぇ!発動してやがる。どうなってんだ!?

「力を糧に咲け、邪悪の華」

 不気味な声が響く。

 ジュエルシードが周辺の植物を吸収し、膨張していく。

 

 その時、結界が解除される。そして、素早く結界が再構築された。

 俺達もそれを黙って見ていた訳じゃない。

 俺達も構築が完了する前に、結界内に飛び込んでいく。

 

 そこには、魔法の檻で閉じ込められたものと、俺をボコってくれた魔導士がいた。

 魔導士の方は焼け爛れた傷が、複数付いている。

 肉の焦げる嫌な臭いが、微かにする。

 やったのは、閉じ込められてる奴か!?

 おいおい、第三勢力かよ!?

 

「大丈夫ですか!?」

 すぐになのはが、黒い魔導士に駆け寄るが、奴は来るなとばかりに手を振った。

 植物が寄り集まり、天辺にでかい華が咲いた。毒々しい赤い華が。

 

 黒い魔導士は剣を構え、すぐさま攻撃に移る。

 赤い華は、触手のように茎を伸ばしこちらに高速で飛ばしてきた。

 更に華からは、紫のガスを噴き出す。

『なのは!ユーノ!吸い込むなよ!!』

 念話で2人に注意を促す。

『『了解!』』

 返事がハモる。

 なのははアクセルシューターを、飛んでくる茎を避けるように放つ。

 訓練で簡単な操作を可能としていた。

 幾つか茎で落とされたが、本体に命中しても大した傷になっていない。

 俺も茎を斬り払いながら進む。

 ユーノはバインドで動きを止めている。

 

 しかし、一番とんでもないのは、やはり黒い魔導士だった。

 まるでミキサーの刃みたいに、あっと言う間に茎を片付け、本体を半ばまで斬り付ける。

 毒霧も何も、アイツに触れられず消えていく。

「ニブルヘイム」

 一瞬にして白銀の世界に変わる。

 俺のマグナフリーズと同等かそれ以上だ。

 氷の華が出来上がった。

「後よろしく」

 黒い魔導士がそう言うと、空から人が降ってきた。

「ハアァァー!!」

 裂帛の気合と共に拳が振り下ろされ、氷の華が砕け散る。

 同時に魔力光が放たれ、ジュエルシードは封印された。

 

 着地した人物は俺の予想通り、リニスだった。

 

 

              :リニス

 

 到着と同時に美海から合図が入り、私は凍り付いた思念体を砕き、封印を行う。

 接近に気付いていてからではなく、こうなる前に応援を求めてほしい。

 

 私の手にはジュエルシードが残る。

 

 私は主の傍に寄ると、睨み付ける。

「何故、応援を求めないんですか!帰ったらお説教です!!」

「呼んだら、死ぬからだよ」

 私の怒りなどものともせず、美海はあっさりとそう言った。

 淡々とした返事に、美海に対しても、当てにされなかった私自身にも腹が立った。

 それほどの相手だとは。

 もっと鍛えておくべきだった。後悔しても、もう遅い。

 

「あの!!」

 白い魔導士が私達に声を掛けてきた。

「何?」

「誘拐された時、助けてくれた人ですか?」

 姿は見せていなかったのに、よく分かりましたね。

 あの時は、美海が魔法を使った後の覚醒だったのに。

「助けたかは、微妙な結果になったけどね」

 美海が苦笑いした。

「それでも、助かったから。ありがとうございます」

 礼儀正しい子ですね。感心です。

 

「俺からも礼は言うが、一つ訊きたい」

 黒い魔導士が、警戒の滲んだ表情で話し掛けてくる。

「何かな?」

 美海は何の気負いなく、応じる。

「ユーノから聞ける事は聞いたが、どうして、っ…あの子に協力してる?」

 何か不自然に詰まりましたね。

「聞いたなら、それ以上はないよ」

「あの子は次元犯罪者になるんだぞ!!」

 怒りの籠った声で黒い魔導士が吠える。

「じゃあ、どうすればいいのかな。あの子を監禁でもして、元凶がいるなら殺せば

いいのかな?」

 美海はアッサリとそう言った。

 同時に必要なら殺しも、厭わない事も滲み出ていた。

 プレシアは諦めない。諦めるくらいなら、とうにそうしている。

「「「っ!!」」」

 3人とも衝撃を受けたようだった。

 当然だ。この年の子がこんな事を言っては。

 勿論、戦争中の世界等では、その限りではないですけど、今は関係ない。

 

「私一人が恨まれて済むなら、そうするよ。でも、それじゃ、あの子は前に進めない。

 間違いには違いないけどね。それより私は後悔のない選択をしてほしいよ」

 どんな善人も罪を犯してしまうもの。それは仕様がない面もあるんだよ。

 私が黒い魔導士と同じような事を訊いた時、美海はそう言った。

 でも、それは、未だに美海を縛る荒んだ価値観だ。

 

 言葉を失う3人に、美海は背を向けて魔法の檻を確認する。

「チッ!」

 美海は、一つ舌打ちすると魔法を解除した。

 そこには、拘束された筈の存在はいなかった。

「瞬間移動か。私も平和ボケしたらしい」

 忌々し気に美海は吐き捨てた。

 瞬間移動?

「連中の緊急離脱魔法だよ。高位の奴が使うやつだね。空間に干渉して別空間を移動する魔法

だよ。連中でさえ無茶な術式だから、使用は戦闘中1度が限度ってもの。暫くは大人しいと

思うよ」

 私の疑問が伝わったのか説明してくれた。

 別世界への転移ではなく、空間そのものに移動ですか。

 結界構築とはレベルが違う。結界は例えるなら、岩を別の場所に移動する事とするなら、

魔法使いがやったのは、岩に含まれる一定の成分のみを移動させるようなもの。

 流石はアルハザードの魔法使いといったところですね。

「君達もあれに遭遇したら、全力で逃げた方がいいよ。死ぬから」

 3人は言葉もないようだった。

 美海は、私の持っているジュエルシードを受け取る。

 

「あ、あの!協力は出来ないんですか!?」

 背から白い魔導士の声が掛かった。

 心の強い子ですね。この状況で美海に声を掛けてくるとは。

 他の2人は、まだ動揺しているようなのに。

 

「それは、君達次第だよ」

 美海は微笑んだようだった。

 少しも恐れずに、話す姿に喜んだんでしょうね。

「私はユーノ君を助けたい!けど、あの子も助けたいんです!」

「その気持ちを大切にして」

 

 立ち去ろうとする美海を、私は抱き抱えた。所謂、お姫様抱っこというやつですね。

 美海は少しビックリしたようだ。

 少し、気分がいい。

「怪我人は無理しないで下さい」

「これくらい一瞬で治るって知ってるよね?」

 不機嫌に言う主を無視して、私は抱き抱えたまま、空に飛び上がった。

 そして、3人に向かって言った。

 

「空から失礼ですが、これにてお暇します」

 私は目晦ましと同時に、転移した。

 

 

              :美海

 

 フェイトの待機所のマンションに帰り付いたが、1人と2匹から非難の嵐を受けた。

 1人で無茶やって、怪我した事までリニスにバラされて荒れた荒れた。

 1個回収出来たんだから、と宥めるのに苦労した。

 

 そして、私は自分の家に戻った。

 夜空を見上げて思う。

 飛鷹君の言う事は100%正しい。

 フェイトを助けたいなら、犯罪など犯させるべきではない。

 小学生でも分かる事だ。

 問題はどの世界であっても、それは建前だという事だ。

 情状酌量なんてものがあるのが、いい証拠だろう。

 所詮、法など不特定多数が、許せるか許せないかの問題だと思っている。

 それが、善悪の堺だと思う。

 私にしてみれば、フェイトが母親の願いを叶えようとする事自体、悪いとは思わないのだ。

 次元犯罪者というが、フェイトだって管理局法の恩恵など受けていない筈だ。

 私に出来る事は、彼女が納得の上で行動させる事ぐらいだ。

 その為に、考えてほしいと言っている。あの子はちょっと盲目的だから。

 あのままでは、後悔する事になるだろう。

 納得の上でなければ、決意も覚悟もない。

 人は理性より感情優先だから。

 少しでも納得してやれる事をやって、後悔が減ればいいと思う。

 

 まあ、最終的にあの子を利用するような事を、計画している私が言えた義理じゃないけど。

 上手くいったって、私はあの子と決別する事になるだろう。

 

 でも、きっと大丈夫だ。あの子には、なのはちゃんやアルフ・リニスが付いている。

 飛鷹君だって、あんなに怒っていたんだから、支えるつもりがあるんだろうし。

 

 でも、そこには私はいてはいけない。

 今はそれが少し寂しい気もする。

 

 

              :飛鷹

 

 道場での稽古は、早々に切り上げとなった。

 理由は俺が集中出来ないからだ。

 

「あの、よく知りもしない相手を、助ける為に誰かを殺そうと出来ますかね?」

 俺は、士郎さんに訊いてみた。

「君も薄々気が付いているだろうけど、私は昔、裏社会と関わりがあった。そういう連中から、

護る側だったけどね。大切だと思える人に逢ったら時間は関係ないよ。そして、その人が危険

に晒されるなら、私は殺せるよ」

 士郎さんはそう答えてくれた。

「すぐに出る答えでもない。今からでも、考えるのも悪くないと思うよ」

 そう言って道場を出ていった。

 俺が、どうしてこんな事言い出したか、分かってんだろうな。

 

 アイツは俺とは違う。

 俺みたいにヌルい世界から、転生したのではないだろう。

 アイツは言った。

 転生したと言えばした、と。

 どういう意味かは、分からない。

 なのはが腹を決めているのに、俺がこんなんでいい訳がない。

 

 俺もいい加減、本当の意味で腹を決めないとな。

 アイツからどういう意味か訊く。その上で、全部助けてやるよ。

 引けない理由が、増えちまったよ。

 

 

 




 第3話終了。
 オリ主が絡む以上、こうなってしまいました。
 う~ん、我ながら長い。どれほどの時間掛かるかな。
 無印。
 それにしても、今回の題名って今更感が半端ないですね、我ながら。
 
 次回も頑張って投稿するので、よろしくお願いします。

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