魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 長い時間が掛かってしまいました。
 心が折れた訳では、ありません。まだ頑張ります。
 少しずつ書いてたんですけどね。時間が掛かってしまいました。

 文字数最高を記録してしまいました。
 皆さんの心が折れないか、少し心配です(汗)
 我ながら、文章が…。


第14話 衝突

              :飛鷹

 

 なのはの魔導士デビューとジュエルシードを、回収した夜を終え、次の日。

 

 昼休みの屋上での事。

 何してるんだって?弁当食ってんだよ。

 メンツは、俺、なのは、アリサ、すずかだ。

 もう普通に昼飯時になると、連行されるんだけどさ。

 考えてくれねぇかな。

 女3人に男1人は辛いぞ。ガールズトークに参加しろってか。

 二次小説の踏み台なら、喜ぶんだろうが、俺は真っ当な精神なんだよ。

 まあ、今日は丁度、話さなきゃならない事があったからいいけどな。

 

 俺達は、アリサ、すずかに昨日までの経緯を説明した。

「つまり、飛鷹の家にそのフェレットモドキがいる訳ね」

 経緯を聞いたアリサの第一声である。

 ユーノ哀れ。クロノだけじゃなく、事情を知ったアリサにまでフェレットモドキ扱いとは。

 原作では、あんなに心配して貰ってたのに。

 しかし、一部視聴者に淫獣扱いされる事に比べれば、100倍マシだろう。

 

 最初、なのははアリサ達に今回の厄介事を話すのは、反対の様子だった。

 心配させたくない、と言っていたが、そうも言っていられない。

 魔導士である事を隠していたなら兎も角、アリサ達は俺達が魔法を使える事を知っている。

 ならば、逆に隠しておく方が危険になる場合だってあるだろう。

 

 すずかは夜の一族とかいう吸血鬼一族らしいが、某・国教騎士団に仕えている吸血鬼みたいな能力はない。

 吸血鬼特有の弱点はないが、とんでもない力もない。

 普通の人間に比べれば凄いんだろうけど、俺達と比べれば一般人と言ってもいいだろう。

 アリサについては完全に一般人だ。金持ちの名家だけど、この場合関係ないしな。

 巻き込まれたらどうしようもない。

 

 原作だって、すずかの屋敷の庭に、ジュエルシードが落ちてた訳だからな。

 見付けたら下手に触らないように言っておく必要があるだろう。

 原作とはかなり違ってきているから、アリサ達が発動させないとも限らない。

 そういう事を説明して、なのはには納得して貰った。

 

「まあ、そういう訳だ。だから、菱形の青い宝石を見付けても触るなよ。

 俺かなのは、最悪リスティ刑事に通報しろ。洒落で笑えない結果になるからな」

 俺はそう話を締め括った。

 二人が頷いたので、俺は残りの弁当を再び食べ始めた。

 

 それと、転生者疑惑のあるユーノを助けた人物から、念話があったそうだ。

 やっぱり件の目的の人物とやらに、一時協力すると言ったそうだ。

 ふざけてやがる。

  

 話が終わったら、なのは達はガールズトークに花を咲かせている。

 が、俺は弁当食い終わったら、居た堪れないんですけど。

 もう、教室に戻ってイイっすかね?

 

 

              :美海

 

 フェイトちゃんと協力者になった翌日。

 

 なのはちゃん・飛鷹君ペアは、無事思念体に勝利したようだ。

 若干の不安はあったが、いくら特殊と言ったって、思念体に負けやしないだろうと思ったのだ。

 無理だったら、この先どうしようもない。

 バルムンクも面構えがマシになったって言ってたし、そういう部分もあった。

 フェイトちゃんをあの場で説得したら、ジュエルシード回収を優先したかもしれない。

 目的のものから、離す必要があった。

 ユーノ君には、目的の人物の協力をする事。出来る限りはジュエルシードを返すようにはするけど、あまり期待しないよう念話で伝えた。

 ユーノ君からは、苦い声音で残念ですとの返答があった。

 言っても無駄と思ったんだろうけど、なのはちゃん・飛鷹君ペアが味方についた事もあって、返答はアッサリしていた。

 

 そして、本日はいつも通り私は学校に来ている。

 勝手に休んだら、聖祥は家に必ず連絡してくる。

 両親に心配を掛けるのは、流石に不味いからね。

 私は、両親と約束している。義務教育くらいは終える、と。

 これはリニスとの約束と同じくらい、破ってはならない約束だ。

 なにしろ、本当の家族になった時にした約束だから。

 身代わりの化成体モドキは、パーマンのコピーロボットみたいにはいかない。

 学校となると自分で行かないと、不味い対応をしかねない、あまり知能を高く出来ないから。

 フェイトちゃんには悪いけど、リニス・アルフで収集を続けて貰っている。

『レクシア、やっぱり見付からないよ』

 そんな事を考えていると、フェイトちゃんから念話が入る。

 まあ、精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化すほどの相手だからね。

 無理か。

『フェイトちゃん、少し休憩しててよ。あと、3時間くらいで合流出来るから』

『分かった』

 最悪、()()()()()()()()()()()()()()()

 精霊の眼(エレメンタルサイト)での捜索は、今は情報をかなりカットした状態なんだよね。

 深く潜って観ると集中する必要があるから、一応探す間は護衛が必要になる。

 別に敵襲に反応出来ない訳じゃないけど、精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化すような相手だと用心しないといけない。

 

 そう言えば、リニスから素顔を晒したのに、なんで偽名?という質問をされた。

 偽名って訳じゃないでしょ。ベルカ時代の愛称だから。

 一文字削っただけじゃ?と思うが、本当の話だ。まあ、呼んでたのはヴィヴィだけだけど。

 苦いものが込み上げてきたけど、無理やり飲み込んだ。

 自分が招いた事で、込み上げたもの飲んでちゃ、世話がないよね。

 

 脱線したけど、今の名前を教えるのは不味いでしょ。

 あのバリアジャケット姿なら、私だってそうそうバレないけど、フェイトちゃんがあのペアの前で美海だの綾森だのって呼んだら、終わりだよ。そんな事になったら、記憶消さないといけなくなる。記憶の消去はあれはあれで面倒臭い。少しでも違和感があると、すぐ思い出したりするからね。

 それに、学校くらい中立地帯にしておきたい。隙見てドンパチなんて御免だよ。

 

 私がこちらで生活している事は、フェイトちゃん達に言ってある。

 約束の為に手伝えない時間がある事も。

 勿論、いい顔しない人もいたけど。

 リニスは、学校をサボらなかった事に関しては、嬉しそうだった。何故に?

 私だけ一定時間姿を消す事に、申し訳ない気持ちはあったんだけど…。

 

 まあ、放課後に挽回しよう。

 

 私は気持ちを切り替えて、授業に集中した。

 

 

              :???

 

 日差しが鬱陶しい。

 私は神社を囲む木々の隙間に、身を寄せていた。

 木の陰にいるものの、気付いた人間がいれば、悲鳴を上げただろう。

 何故なら、黒い澱みに眼球が二つ浮いている状態だからだ。

 もし、人間がいれば、ゾッとしたに違いない。

 が、幸か不幸か人自体がいない。

 

 私は目を覚ましてから、困惑していた。

 知っている風景とまるで違っていたからだ。

 だが、それでも自分がどうなったかは、思い出す事が出来た。

 

【あの美しくも禍々しい蒼い光に滅ぼされたのだ】

 

 そして、私が目覚めた日に感じた気配は、細胞レベルで覚えているものだった。

 ならば、探し出さなければならない。自分をこんな姿に変えた者を。

 ここがどこかなど問題ではない。

 やる事は変わりはしないのだから。

 

 どうやら、私が創作した玩具を探すものの中に、求める人物がいるようだ。

 ならば、やる事は決まっている。

【撒き餌で居場所を炙り出せばいいのだ】

 黒い澱みに笑みの形に空間が開く。私は笑みを浮かべた。 

 

 私は何者かの接近を感じた。

 視線を向けると、女と小動物が上がってくるのが見える。

【協力してもらうとしよう】

 自らの身体から、青い菱形の宝石が転がり出ていった。

 

 私は観察の為、自らの姿を消した。

 

 

              :なのは

 

 飛鷹君がジュエルシードの危険性を、アリサちゃん達に伝えるのは反対だった。

 それは、飛鷹君が言った事が原因だったんだけど。

 

 今度は私が、アリサちゃん達を危険な目に遭わせるかもしれないって。

 

 それを避けたかったんだけど、飛鷹君はむしろ説明した方がいいって言うの。

 理由を聞いて納得したけど、私ももう少し考えて行動しなくちゃって思った。

 

 私は今は一人で歩いている。

 学校が終わって、そのままジュエルシード探しをしている。

 アリサちゃん達にも、話してある。暫くは一緒に帰れなさそうって事も。

 やっぱり話しておいた方が、よかったんだね。

 

 みんな一緒の方が安全だけど、発動したら危険が大きいから、まずは探す事に力を入れる事になった。

『まず、未発動なら即封印だ。発動した時は、結界を張って時間を稼ぐんだ』

 ユーノ君にも念話で方針を伝えて、三手に別れてジュエルシード探しをしている。

 大規模に結界を張ったら、すぐに分かるもんね。

 今は私にも、レイジングハートっていう強い味方がいる。

 結界も封印も出来る。

 レイジングハートに感謝だね。

 

 小さな神社の前に来た時の事だ。

 魔力の波動が広がるのが感じられた。

 上から!?

 私が参道の階段を見上げると同時に、女の人の悲鳴が上がった。

 いけない!!

 私はレイジングハートを握りしめる。

「お願い!!」

『スタンバイ・レディ。セットアップ』

 魔力光が溢れ、バリアジャケットが形成される。

 私は白い魔法少女になっていた。

 

「レイジングハート!結界お願い!!」

『承知しました』

 杖型のデバイス・レイジングハートから、構築された結界が広がっていく。

『思念体、見付けたよ!これから時間稼ぎを始めます!』

 私は念話で二人に伝える。

『すぐに行く!!』

『僕も!それまで持ち堪えて!!』

 二人の力強い返事が念話で返ってくる。

 

 階段を上がり切ると、そこには巨大な黒い犬のような生物がいた。

 私は、レイジングハートを構える。

 犬が私を見据えている。

 野生動物の殺気とでも言うのかな?凄い圧力に額から汗が出る。

「レイジングハート。前と違うんだけど!」

『恐らく、こちらの生物を取り込んだのでしょう。実体がある分、こちらの方が手強いかと』

 聞いてはいたんだけど。こんなに危ないものだなんて、予想以上なの!

 

 目を逸らしてはいけない。弱いところを見せたら襲ってくる。

 って思ったら、もう襲ってきたの!!

 あれ!?犬ってそうだって聞いてたんだけど!?

 跳び掛かってきた犬を、私は上空に飛び上がり回避する。

「レイジングハート!」

『リングバインド』

 バインドで丁度着地したところを拘束する。

 あれ?ジタバタしてるけど。バインドが砕ける様子はない。こっちの方が弱いんじゃないの?

「このまま、封印いけるかな?」

 バインドを維持しつつ、レイジングハートに訊いてみる。

『…この程度でしたら、大丈夫でしょう』

 なんか、レイジングハートも考え込んだような声を出した。

 AIだけど、よく出来てるよね。

 じゃあ、やっちゃおう!

 待ってなくていいよね。危ないし。

 レイジングハートをカノンモードに切り替えて、犬に向ける。

「今、助けるからね!…ジュエ…」

 魔力を集中させ始めた時だった。

 金色の魔力光が犬を弾き飛ばした。

 バインドも更に強化するように、拘束する。

 私は弾かれたみたいに、魔力光がきた方を向く。

「誰!?」

 飛鷹君ともユーノ君、綺麗な魔法の人とも違う魔力。

 

 そこには、金色の髪をした綺麗な子が、戦斧型のデバイスを手に立っていた。

 

 

              :飛鷹

 

 俺は、神社までの道を急いでいた。バリアジャケット姿で魔法を使用して。

 緊急走行みたいなもんだ。認識阻害くらいは使っているけどな。

 

 神社にジュエルシードがある。

 それは原作を知っている俺には、分かっていた事だ。

 当然、調べた。見付からなかったけどな!

 どうなってんだ!?まるでジュエルシード自身が、動き回ってるみたいじゃないか!

 

 俺は、結界内まで辿り着く。

 なのはがもう戦闘開始してるじゃないか!

 しかも、相手は思念体じゃないぞ!?あれ、もしかしてフェイトか!?

 嘘だろ!早過ぎるぞ!なんでいんだよ!

 急いで、二人に割って入ろうとした時だった。

『マスター』

 スフォルテンドが静かな声で引き留めた。

 そこで、俺も気が付いた。

 俺から離れた距離に、黒いバリアジャケットの人物が立っている事に。

『マスター…』

「分かってるよ。油断なんてしねぇ」

 転生者であろう人物相手に、気なんか抜けるか。

 いざとなったら、レアスキルを使うしかないだろう。

『そうじゃない』

「じゃあ、なんだよ」

『なのは嬢を連れて逃げろ』

「は!?」

 俺は信じられないセリフを聞いた。

 

『あれは、強者どころか、化け物級だ』

 

 

              :美海

 

 私は合流地点に急いでいたんだけど。

 予定は変更する羽目になった。

 結界が構築されたからだ。

『レクシア!結界が!!』

『うん、そっちで合流しよう』

 念話でフェイトちゃんと打ち合わせを終え、走る。

 飛鷹君とユーノ君が、結界に向かっているのが分かる。

 なのはちゃんが対峙中か。

『アルフ。魔力反応が小さい方の足止めしといてくれる?』

『サー・イェッサー!』

『……』

 ずっと、この調子なんだよね。大丈夫なのかね、この子?

 面白いから、いいとしておこう。

 

 私の方は飛鷹君を引き受けないとね。

『リニスはいざとなったら、フェイトちゃんのサポートを』

『分かりました』

 さて、参ります、と。

 

 結界内で飛鷹君を待ち受ける。

 向こうも結界内に侵入し、なのはちゃんのところへ向かおうとして、気付いた。

 距離を置いて向かい合う。

 向こうはなんだか、デバイスと揉めているみたいだけど、戦う事にしたらしい。

 飛鷹君が剣を抜き、こちらにゆっくりと歩いてくる。

 私は無手で、ゆっくり接近する。

 

 お互いの間合いが接触した瞬間、お互いに疾駆する。

 飛鷹君が剣を振り上げた時に、私も血液から剣を取り出す。

 彼には、剣が突然出てきたように見えただろう。

 

 剣と剣が火花を散らし、交錯した。

 

 

              :フェイト

 

 ジュエルシードの発動地点に到着すると、そこには白い魔導士が封印の態勢に入っていた。

 思念体は、彼女の魔法で拘束されていたけど、顎の拘束が弛み出していた。

 他の手足ではなく、自分の顎の解放を優先する。

 警戒すべきは、口からの攻撃。

 私はバルディッシュを黒い犬に向ける。

『プラズマランサー』

 雷の槍を複数作り出し、放つ。

 レクシアに放った時のように消されず、全弾命中し、黒い犬が弾き飛ばされる。

 私はバインドで彼女の魔法の上から縛り上げる。勿論顎も。

 

「誰!?」

 白い魔導士から誰何の声が上がる。

 私は返事をせずに、バルディッシュを向ける。

「バルディッシュ」

『シーリング』

 封印砲が放たれ、黒い犬に突き刺さる。

 声すら上げられずに、思念体は消え去り、ジュエルシードが封印される。

 

 私は黙って白い魔導士を追い越し、ジュエルシードを拾おうとした。

「ちょっと待って!」

 私の手がジュエルシードの手前で止まる。

 私は白い魔導士に視線を向ける。

「あ、あの!それ、ユーノ君の大切なものなんです!」

 ユーノ?レクシアの知り合いかな?

 だけど、私は無言でジュエルシードを拾い上げた。

「あの私に…」

 私は彼女に最後まで言わせなかった。

 言葉を遮るように、バルディッシュを突き付けたからだ。

「これは、私にも必要なの。だから、これを集めるのは、もう止めて」

 白い魔導士が驚いたみたいだった。

 けど、すぐに真剣な表情で首を横に振る。

「出来ないよ。ユーノ君は詳しくは言わないけど、それを集めて帰らないと、凄く困るんだよ、ユーノ君の大切な人達が。貴女はどうして必要なの?」

 私に武器を突き付けられても、彼女は怯まずに拒否した。

 みんなが、大切な人の為に動いている。

 いっその事、管理局員が集めていれば、よかったのに。

「お願い、教えて、どうして必要なの?」

「言う必要はない。邪魔をするなら…」

 私は、バルディッシュに魔力を集めて威嚇する。

「言ってくれなきゃ、分からないってば!!」

 彼女は次の瞬間、バルディッシュを払い除けると、軽いステップで私から距離を取る。

 

 私と彼女、ほぼ同時に空へ飛びあがる。

 私は、上空で砲撃体勢になった彼女に接近する。

 空戦のセオリーは、飛行テクニックで隙を作らせてから、攻撃あるいはバインドで動きを止めなてから、砲撃を行う。それが、分かっていない。

 彼女は、魔法を使って間もない素人だ。武術の心得はあるみたいだけど。

 

『アクセルシューター』

 5つの魔力弾が生成され、発射される。

 碌に魔力弾の制御がなされていない。ただ打ち出しただけの攻撃。

 これなら、怪我をさせずに制圧出来る。

 

 5つ魔力弾を難なく避けて、彼女に魔力を込めた手を突き出す。

 彼女は身を躱したが、それは囮だ。

『スタンショット』

 バルディッシュから雷光が、弾ける。

「っ!!」

 スタンショットを真面に受け、彼女は力が抜けて落下する。

 私は、彼女の落下速度落としていき、ゆっくりと石畳の上に降ろした。

 彼女は薄っすらと目を開けはしたが、感電している為動けない。

 何か言おうとしたみたいだけど、声にならなかった。

 

「ごめん」

 

 怪我をさせずに、彼女を制圧出来た事が、救いだった。

 

 

              :美海

 

 空中で武器が火花を散らす。

 既に何合か剣を交わしている。

 勿論、実力を見る為である。

「くっ!!」

 飛鷹君が呻き声を上げる。

 彼の実力なら、手加減されている事に気が付いているだろう。

 彼は苛つかないように、必死に自分を抑えている。

 冷静さを保つ事の重要さを知っている。

 よく怒りで強くなる主人公がいるが、あんなのは大嘘だ。

 力任せに攻撃してるから、強力に見えるだけで、大抵大振りしたところをやられるのがオチだ。

 実際に、経験してみると分かるんだけどね。

 怒りで強くなれるのは、アニメや漫画の世界だけって事で。

 

 こんな事を考えながらやれる。

 飛鷹君の斬撃を流し、打ち込み逸らす。僅かに身体をズラし躱す。

 努力も怠っていなかったのは、よく分かる。

 でも、あまり実戦はやってこなかったみたいだね。

 全部狙いがバレバレなのさ、私レベルになれば。

(ジャイ)!」

 残留魔力を断ち切りながら、飛んでくる剣閃を難なく躱す。

 そういう技なんだろう。

 隙を作る目的でもなく、隙が出来た時に放った訳でもない。

 そんなんじゃ、技使ったって無駄だよ。

『てめぇ!転生者だろう!どういうつもりでフェイトに味方してる!!』

 念話でそんな事を言ってきた。

「転生したと言えば、したんだろうね」

 

 感情が乗り出している剣に、私は狙いすまして自分の剣を打ち込む。

 力が入り辛い手首が固定された瞬間。

 剣を振り下ろしきった時。

 私の剣が叩き付けるように打ち込み、掬い上げるように跳ね上がる。

 飛鷹君の剣が空中に舞い上がる。

 飛鷹君の身体から、魔力ではない力が湧き上がる。

 恐らく、(フェン)の類だろう。

 今度は拳か、と思いきや。

 彼の手から、(フェン)で形成された剣が出来上がった。

 間合いを詰めた私に斬り付けてくる。

 私は斜めに前方、彼の横に流れるように移動する。剣は私のいた空間を切り裂いた。

 私は剣を振り下ろし開いた脇腹に、肘を打ち込んだ。

「っ!!」

 声にならない呻きを上げる飛鷹君。

 その時、魔力の奔流を彼に叩き付ける。

 術式解体(グラムデモリッション)を発動し、飛行魔法や強化魔法を引き剝がす。

 剣を血液に戻す。

 私はそのまま剣を振り下ろして、勢いのついた腕に、手を添え投げた。

 彼は一回転し、地面に叩き付けられた。

 地面にクレーターが出来ている。

 私はその中心に膝を打ち込む。

 が、魔力そのものが放出され、彼は横に転がり、膝を回避した。

 

 息が上がっているが、膝立ちで剣を構えてる。

 突然、彼の雰囲気が変わる。

 私の頭の中の警報が鳴り響く。

 彼の身体から白金の光が漏れ出そうとしていた。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)でそれが分かる。その正体も。

 第六感はやっぱり重要だね。

 あの光を発動させてはならない。

 私は、避雷針を発動寸前で打ち込んでいた。

「うっ!!」

 彼の背中には、魔力で生成した黒い針が撃ち込まれていたのだ。

 感電した彼は前のめりに倒れこんだ。

 

 避雷針とは魔法科高校の劣等生の電撃魔法だ。相手を無力化するのに使える。

 

 飛鷹君の使おうとしたスキル。多分、レアスキルだろうけど、危ないスキルだね。

 どうもあれだけじゃないみたいだけど。あれは力の片鱗だろう。

 最初から使われた時の対策、考えなくちゃ。

 でも、あんな副作用でよく使おうと思うよね。

 

 まあ、私が言えた義理じゃないか。

 

 

              :ユーノ

 

 僕はなのはのところに急いでいる。

 でも、その前に困難が立ち塞がっている。

 多分、使い魔だと思うけど、赤い狼が後ろから迫ってくる。

 僕は、フェレット形態で逃げながら、目的地に急いでいた。

 僕に戦いが不向きだという事は、間違いない事と認めている。

 だから、設置型バインドの罠で足止めしつつ、小柄な身体を生かし、狙い辛く動く。

 トランスフォームがフェレットっていうのは、コンプレックスだけど、今は役に立っている。

 物凄く、皮肉だ。

 飛鷹となのはは、もう戦闘を開始しているみたいだ。

 魔力の状態から、芳しくないみたいだ。

 僕が行っても、無駄だと分かってる。二人が押されるような相手じゃ、僕は足手纏いだ。

 それでも、僕が自分の意志で始めた事。僕が行かなくちゃいけない。

 例え、どうなろうと。

 

 僕が逃げに徹したのが、よかったのか、結界に入り込んだ。

「ちっ!!」

 赤い狼の舌打ちが聞こえる。

 確実に、戦闘になったら勝ち目がない。

 逃げに徹して、石の階段を駆け上がっていく。

 

 そこで見たのは、倒れているなのはだった。

 

 頭に血が上る。

「どうして、こんな事するんだ!!」

 僕は傍にいた金髪の魔導士に、声を荒げた。

 

 こうなるかもしれないのを、承知で協力をお願いした。

 でも、僕はまだ本当の意味で、分かってなかったんだ。

 そんな自分にも腹が立った。

「私にも、必要なものだから、諦めて」

 金髪の魔導士はデバイスを僕に突き付ける。

「ゴメンよ。逃げられちゃって」

 使い魔は項垂れている。

「いいよ、いずれ言わなきゃいけない事だったから」

 僕は俯いたまま、絞り出すように言った。

「無理だよ、諦めるなんて。それを無事に管理局に届けないと、一族の将来を危険に晒すんだ」

 僕は顔を上げて、金髪の魔導士を見上げる。

「貴女の目的が、違法なものじゃないなら、管理局からの安全宣言を待ってください!そうすれば、貸出許可が下ります!なんなら、僕も一番に借りられるように、口添えします!」

 ロストロギアは、安全な使用法が分からないから、危険と判断される。

 それが分かれば、貸出許可が下りたりもする。

「ごめんなさい」

 金髪の魔導士は申し訳なさそうに見えた。

 デバイスに魔法が形成される。

 僕は目を固く閉じた。

 

 鋭い金属音が響く。

 地面で電光が弾ける。

 目を開けると、倒れた筈のなのはが立っていた。

 金髪の魔導士のデバイスの狙いが、逸れていた。

 金髪の魔導士は驚いていた。

 なのはの手に杖がない。

 え!?レイジングハートを投げたの?

 なのはは、手から魔力で造ったワイヤーのようなもので、レイジングハートを絡め取って引き寄せる。

 

 なのはは感電して動かない身体を、魔力で無理やり動かしているようだった。

 なんて無茶な事を!

「なのは!」

 身体は痙攣している。

「こんな事、間違ってる…よ。なんで自分を大切にしないの!?」

 それは、金髪の魔導士だけの話じゃない。僕にも言っていた。

「私は必要な事をしているだけ、貴女には関係ない」

「だったら!なんでそんなに辛そうなの!?」

 優しい子なんだろうっていうのは、分かる。

 さっきの魔法だって、動きを止める為の魔法だ。

 金髪の魔導士は答えられなかった。

 

「分からないんだったら、止めな。恵まれた環境で生きてきた奴には、分かる訳ないけどね。

 当たり前の願いさえ、叶わない子の気持ちなんて分かりゃしないだろ」

 使い魔の冷ややかな声が響く。

「そんな…」

 冷たい言葉に、なのはが凍り付く。

 

 その時、怒号が響く。

「ふざけんじゃねぇ!!」

 全員が声の方を向く。

 飛鷹がフラフラしながら、歩いてくる。

「勝手に、分からねぇなんて、決めつけてんじゃねよ!言ってくれなきゃ、俺達だって分からねぇよ!話すのが辛くても、言ってくれ!それが、どんなに理不尽だって、俺達がぶん殴ってでも、どうにかしてやる!だから、話してくれ!言葉って、伝える為にあるんだろ!」

 なのはと僕も、凍り付いたものが溶けた気がして、少し笑みを漏らす。

 飛鷹が一歩踏み出そうとしたが、金髪の魔導士は僕達から背を向けてしまった。

「今度、会った時は容赦しません。だから、これ以上、邪魔しないで」

 金髪の魔導士は、いつの間にか造り出していた魔力球を、握り潰す。

 途端に、バッチっと弾ける音と共に、閃光が満たされる。

 

 気付いた時には、金髪の魔導士も使い魔も消えていた。

 

 

              :なのは

 

 もう、辺りは夕暮れになっていた。

 ジュエルシードに取り込まれていた犬は、無事元に戻って気絶していた飼い主さんと、家に帰って行った。

 でも、ジュエルシードは回収出来なくて、問題も残りました。

 

 飛鷹君は、あの誘拐騒ぎの時の魔導士らしい人と戦ったらしい。

 負けちゃったって言って、落ち込んでいた。

 その人はどうして、協力してるんだろう。

 目的の人って多分、金色の髪のあの子だと思うけど。 

 

 ユーノ君も考え込んでいたみたいだけど、顔を上げて私達を見る。

「ごめん。こんな事になって。でも、ここからは…」

「自分一人でやるとか言い出すなよ」

 ユーノ君の言葉を遮り、飛鷹君が言った。

「厳しい事言うけどな。それが出来るなら苦労はねぇだろ。今更遠慮してんじゃねぇ。俺だってこのままじゃ、引けねぇよ」

 飛鷹君はお前はどうする?っと言うように、私に視線を投げる。

「私は、ちゃんとあの子と話がしたい。勿論、ジュエルシードは取り返すよ」

 その上で、あの子を助ける手伝いがしたい。

 

「でも、あの時の飛鷹君。少し格好よかったよ」

 飛鷹君は、恥ずかしそうに真っ赤になった。

 

「私も頑張らなきゃ、だよね。だから、お願いします。私を鍛えてください」

 私は真剣に頭を下げた。

 

 

              :フェイト

 

 もう、一時的な待機所として使っているマンションに戻った時には、もう夜だった。

 尾行や追跡がないか、念入りに調べた。

 

 私はソファーに座って、今日の事を考えていた。

 必死に私に呼びかけた人達。

 分かってる。傷付く人がいるなんて事は、でも私は母さんの為に、出来る事をしてあげたい。

 譲れない事なんだ。

 

 そう思っても、握り締めた拳が震えた。

 

 いつの間にか、目をギュッと閉じていたらしく、微かな甘い香りで目を開いた。

 私の前のテーブルにマグカップが置かれる。

 マグカップには茶色い液体が、入っていた。取っ手は私の方に向いている。

「ありがとう。リニス」

 お礼を言って顔を上げると、リニスじゃなかった。

 レクシアが、バリアジャケットすら解除した状態で立っていた。

「え!?」

 もしかして、レクシアが淹れてくれたの?

「ココアだよ。昔から、何故かこれだけは上手く淹れられるんだよ」

 微笑むと、部屋を出ていこうとする。

「待って」

 呼び止めると、レクシアは立ち止まり振り返る。

「何?」

「今日の事だけど。なんで、あの男の子を通したの?」

 レクシアなら接近に気付かない訳がない。

「彼に戦う意志があったら、止めたよ」

 それは、黙って通したと認める言葉だった。

「どうして?」

 私の欲しい返事じゃないから、同じ事を訊いた。

 どうして私を迷わせるような事をするの?

 見たくないものを見せようとするの?

「私はね。フェイトちゃんにもっと色々な人に会って、もっと色々考えて、悩んでほしい。

 だからだよ」

「どうして?」

 私は馬鹿みたいに、繰り返すしかなかった。

「今まで、貴女は考える事を避けてたんじゃない?傷付いたお母さんの為って理由で。

 フェイトちゃん。他人の答えに身を任せると、後悔する結果になるかもしれないんだよ。

 共感出来る事と、納得出来る事は違うよ。

 自分なりの答えで納得しないと、大切なものを見失ってしまうよ」

「そ、そんな事ないよ。大切なものは、ちゃんと分かってる」

 母さんやアルフ、リニスだ。

 でも、真剣な言葉にたじろいでしまう。

「あの三人の言葉に何も感じなかった?心を決めてしまった人は、迷わないよ」

 私は戸惑う。

 

「私は貴女に、後悔してほしくない」

 部屋にレクシアの悲しみや後悔が、そのまま響いた気がした。

 

 レクシアは、改めて部屋を出ようとしたけど、思わず引き留めてしまった。

「待って、その、お願いがあるんだけど」

「何?」

「あの、フェイトって呼んでくれないかな。フェイトちゃんって線引きされてるみたいで、

 なんか嫌なんだ」

 何言ってるんだろう私は。

 もっと言う事があったんじゃないの?って、心の中で呻く。

 そうすると、レクシアはキョトンとした顔をした後、笑い声をあげた。

 

 少しだけ、ホッとした気がした。

 

 

 




 第2話終了。

 飛鷹のレアスキルの情報を少しだけ、出しました。
 これで気付いた方は、凄い!分からないですよね?

 時間が掛かっても、次も必ず投稿しますので、お願いします。

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