魔法少女リリカルなのは 二人の黒騎士(凍結中) 作:孤独ボッチ
楽しんで頂けたらと思います。
:美海
放課後。
私はリニスと別れて、ジュエルシードを探索する。
万が一にも、リニスが単独でフェイトちゃんと、接触する事のないよう注意しないといけない。
フェイトちゃんは、相変わらず化成体が監視してるから、大丈夫だと思うけどね。
サーチでは発見出来なかった為、
そして、分かった事は、ジュエルシードの幾つかは、隠蔽の魔法が掛かっているという事だ。
全く、誰が掛けたのかね。
私は、バリアジャケット姿で山中を歩いていた。
右側には海が臨める。生憎と散策しにきた訳じゃないけど。
そして、茂みに光るものを発見した。
近付くと、光が爆発する。
「こんな事だと思ったよ」
私はそう呟く。
光が収まると、巨大な怪鳥が姿を現す。
元は雀か何かかな?取り込まれた鳥よ、災難だったね。
「キシャァァァ!!」
怪鳥は私を見て、威嚇するように鳴く。
怪鳥の喉が膨れ上がり、嘴から炎が吐かれる。
私は障壁を展開する。
炎が私に迫るが、私の前に展開された障壁に当たった瞬間に、炎が怪鳥を舐める。
私の使用した魔法は、
自分の吐いた炎で、焼き鳥になるほど間抜けじゃないよね。
私は魔力で足場を形成し、怪鳥に向けて駆けていく。
怪鳥が炎を振り払う頃には、私は怪鳥の目の前に迫っている。
私の身体が魔力光で薄っすらと包まれる。
怪鳥は私を鋭い爪で引き裂こうとするが、私の腕に阻まれる。
私はそのまま鳥の胸に、魔力が籠った掌底を打ち込む。
その勢いを殺さずに、舞うように拳・掌底・蹴りを無数に叩き込んでいく。
怪鳥もただ攻撃を受け続けた訳じゃない。
ただ、炎を吐こうとした瞬間嘴の下を蹴り上げ、翼で叩こうとするのを弾き、爪の攻撃を避けていた為、攻撃が悉く無効化されていただけだ。
堪らず怪鳥は逃げようとするが、赤い糸状のものが巻き付き、墜落する。
再現技術・空斬糸である。
怪鳥が必死にもがいて空斬糸を外そうとするが、ビクともしない。
私は怪鳥の上に、落下エネルギーを利用し一撃を見舞う。
「封印」
怪鳥の姿が消え、鳩が慌てて飛び立っていった。雀じゃなくて鳩だったか。
ごめんね。
封印したジュエルシードを血の中に収納する。
『美海、こっちはもうありませんでした』
リニスから念話が届く。
誰かに先を越されたか。
『まあ、仕様がないよ。こっちは一個確保。取り敢えず合流しよう』
リニスを労ってから、予め決めてあった合流地点に向かう。
合流したリニスは、いつもの勢いがなかった。
そりゃ、フェイトちゃんが次元犯罪者紛いの事やってりゃ、元先生としては複雑だろう。
しかも、元・主が元凶だもんね。
「リニス。思い悩むのは仕様がないけど、どう話をもってくか決めなきゃ不味いよ」
「そうですね」
リニスは俯いて、言葉少なく応じる。
「リニスが策なしなら、私が取り敢えずの行動方針を出すけど」
私の言葉に、リニスが勢いよく顔を上げる。
「どうするんです!?」
私に詰め寄ってくる。少し顔を動かせば、キス出来るよ。
私は近くなったリニスの顔を、手で押し返す。
リニスはその時になって、近過ぎた事に気付いたのか、顔を赤らめた。
「まず、フェイトちゃんに、最初のうちは説得しない」
「え?どうしてです?」
「言っても無駄だから」
私のにべもないセリフに、鼻白むリニス。
「フェイトちゃんはリニスの話を聞いてると、プレシアに未だ敬意を持ってるし、自分の事は二の次にして愛情を注いでくれた記憶も持ってる。フェイトちゃんの記憶じゃなくてもね。
しかも、自分の我儘や事故の怪我で昏睡した設定が、プレシアの心が壊れた原因だと思ってる節がある。罪悪感もプラスされてる。
彼女にとって、プレシアは一番大切な存在なんだよ。
多分、今アリシアの事を絡めて真実を話しても、信じないと思うよ。リニスの言葉なら、動揺ぐらいはするかもしれないけど、最悪、裏切られたと感じて、激昂するかもしれない。そうなったら、不味いどころじゃないからね」
リニスは苦々しく頷く。
「出来れば、アリシアの事は触れたくないんですが…」
それが出来ればいいけどね。プレシア自身がバラすだろう。
プレシアがフェイトに、ちゃんと愛情を向けられれば一番いいんだけどね。
残念ながら、リニスの話だと期待出来ないだろう。
「それを踏まえて、ジュエルシード収集がユーノ君にとって、物凄く困る事だと伝えて、止めるよう言う」
リニスの眉間に皺が寄る。
「聞いてくれるでしょうか」
疑問に感じるのも当然だね。
「聞かないでしょうね」
「え!?じゃあ、どうするんです?」
「暫定的な協力者になる」
リニスの表情が曇る。ユーノの事を気にしてるんだろう。
「ジュエルシードを欲しているのは、プレシアで間違いないでしょ。だから、集め終えたらプレシアと交渉させてほしいとお願いするんだよ」
「プレシアが承知するとは、思えませんが…」
「承知するか、しないかは問題じゃないよ。フェイトちゃんは、ジュエルシードを届ける時、必ず手渡しする筈だよ。そこを追尾してプレシアを押さえる」
物質転送でもいいけど、ジャミングや事故が怖い。
もし、途中でバラ撒いてしまったら、その分が無駄になる。
最悪、フェイトちゃんが協力を拒否しても、別に構わない。
私のやる事は変わらないから。でも、完全拒否でなければ、遣り易くなる。
「それって、フェイトを騙すって事ですか!?」
「心配しなくていいよ。私が勝手にやるから」
リニスに責任を負わせる気はない。
「美海は、それでいいんですか?」
リニスは私に怒っているような、悲しんでいるような複雑な表情だった。
だってね。彼女にはリニスがいれば、十分でしょう。
私は彼女に必要ない。
:リニス
分かっていた事だ。
彼女は自分を大切にしていない。
自分一人なら、大抵の事はなんとかしてしまう。
だから、言う。恨むなら自分にしろ、と。
例え彼女を誰も助けなくとも、彼女は他人は助ける。
他人の負の感情を受け止める。言い訳もしない。
それが、私には悲しく映る。
彼女は、まだ英雄の仮面を被っている。
それで、未だに夜、悪夢に魘されているのに。
彼女は助けられなかった人の、死体の数を数えている。
真実のあの子は、普通の女の子なのに。
でも、私に何か言う資格はない。
他ならぬ、私が英雄としての彼女に、頼っているのだから。
:美海
あれから、ジュエルシードを発見する事が出来なかった。
明らかに、何か細工してる奴がいる。
隠蔽の魔法も感じられなくなったよ。
リニスが見付けられなかったジュエルシードも、恐らく誰かの手が入っている。
なにしろ、フェイトちゃん達は監視下にあるし、なのはちゃん・飛鷹君ペアは魔法を派手に使うから、すぐに分かる。
そろそろ、日が落ちる頃だった。
魔力反応が急に現れ、目的地があるように、一直線にどこかに向かっている。
ドロッとした黒い嫌な魔力だ。
明らかにジュエルシードの思念体だが、他と違う。
思念体の動きが、変わる。
結界が展開された。
誰かが襲われている。
直後、
なのはちゃん・飛鷹君ペアだ。なんで、別々に向かってんの?
大体一緒に訓練している事は、知っているけど、なんかあったのかな?
襲われてるのは、ユーノ君だね、これは。
分かっていたけど、やっぱり帰らなかったか…。
リニスと共に向かおうとした時だ。
厄介な人物が向かってるよ。
当然の事だけど。まあ、向かうよね。
私は天を仰いだ。
いつまでも、現実逃避してる訳にもいかないよね。
「リニス!!」
リニスも当然気付いている。
「分かっています!」
二人で高速で向かう。フェイトちゃんのところに。
今、乱入させるのは不味い。
何故なら、飛鷹君がいるからだ。
飛鷹君は、フェイトちゃんより実力が上だ。なのはちゃんだけなら、フェイトちゃんでも穏便に勝利を得る事が出来るだろうが、飛鷹君が絡むと大怪我の危険がある。
飛鷹君が、手加減出来るかって心配もある。
付け加えるなら、思念体も普通ではなさそうだしね。
取り敢えず、彼女を止める必要がある。
いずれ話さなきゃいかなかったんだから、ちょっと早くなっただけだと思おう。
それに、フェイトちゃんの到着が早まった以上、管理局の到着も早いかもしれない。
盲目的にジュエルシードを集めているフェイトちゃんに、ブレーキを掛けないとね。
下手打って、フェイトちゃん捕縛なんて遠慮願いたい。
そして、フェイトちゃんと接触する以上、魔法もある程度解禁でいいでしょ。
私達は、ワザとフェイトちゃんに分かるように接近する。
『悪いけど、そこで止まってくれる?』
私は視認出来るくらいの距離まで近付き、念話を送った。
:フェイト
私とアルフで、ずっと手分けして探したけど、ジュエルシードは朝に確保した一つを最後に見付けられなかった。もっと、捜索範囲を広げないとダメかな…。
認識阻害を掛けたまま活動し続けたので、そろそろ切り上げないといけない。
今になって、少し眠くなってきた。昨日は張り切り過ぎて、睡眠時間を取らなかったから。
見付けられないのは、集中力が落ちているのかもしれない。
残念だけど、今日はここで終わりにしよう。
太陽は大分沈んでいる。
私がアルフに念話を送ろうとした時だった。
突然、街中に結界が張られたのが分かった。
この世界に魔法文化はない筈なのに!!
もしかして、もう管理局が?それとも、別に探してる人がいる?
どっちにしても、行かなきゃ。私はその為に強くなったんだから。
『アルフ!!』
『分かってるよ!アタシが行くまで待ってよ!』
アルフに念話で呼びかけると、すぐに反応が返ってくる。
アルフはリニスがいなくなってから、過保護さが増した。
『大丈夫。私、強いもの』
だから、安心させるように言い切った。
私は、全力で結界の張られた地点に急ぐ。
すると、同じく結界に向かっている人達の反応を捉える。
まだ、競争相手がいる!?
二人のようだが、二人共私より魔力量が少ない。でも、連携された時の力量が分からない以上、油断出来ない。心の中で警戒レベルを上げる。
二人の姿が小さく見えてくる。
『悪いけど、そこで止まってくれる?』
念話が送られてくる。
どうやら、声の感じだと私と歳は変わらなさそう。
私は、素直に止まる。
アルフが向かっている。私は時間を稼げばいい。
でも、なんだろう?背の高い方の人の魔力には覚えがあるような…。
『フェイト!?敵!?』
アルフから慌てた声で念話が入る。
『分からないけど。今どこ?』
『もう着くよ!』
よかった。少しだけホッとした。負けるつもりはなかったけど。
二人は私と距離を取ったまま、動かない。
無言で向き合っていると、アルフが到着する。
「アンタ達!痛い目に遭いたくなかったら、失せな!!」
アルフが大声で威嚇する。
背の小さい子は無反応。だけど、背の高い方の人は違った。
「アルフ!!何ですか!その言葉遣いは!!」
「「え!?」」
その声は、まさか!?
一瞬の気の緩み。
それが命取り。
私達の足元から光が放たれる。
しまった!?
咄嗟の事で、私達は目を固く閉じて、腕でガードする体勢を取っていた。
幸か不幸か、閃光で目が眩むほどじゃなかった。
私達は、状況が分からないものの、後方に跳び距離を取る。
周りを見渡す余裕が、ようやく生まれた。
一面の砂漠。
強制転送!?
しかも、他の世界に転移を可能にするほどの。
私の背中を冷たい汗が流れる。強力な暑さにも関わらず。
魔力はそれほど感じなかった。つまり、少ない魔力で、この魔法を実行したという事。
こんな事が、出来る魔導士なんて聞いた事がない。
自分の迂闊さに唇を噛み締める。
二人が近付いてくる。
二人の顔が見えるくらいに。
一人は信じられないけど、やっぱりリニスだった。契約が終了して、時の庭園から消えた大切な先生。
最後に見た姿と変わらない。
もう一人の子は黒いバリアジャケットに、フードの下は口元が布で覆われていて、顔がよく分からない。
「久しぶりですね。フェイト…アルフ」
リニスは微笑んでいたけど、私には苦いものが混じっているように見えた。
アルフは警戒を解いていない。
「そうだね。でも、どういう事か説明してほしい」
「そうだよ!隣の奴はなんだい」
私とアルフの目は、黒いバリアジャケットの子に向けられる。
アルフの敵意交じりの視線を受けても、その子は平然としていた。
「私はリニスの新しい主だよ。私の事は…レクシアとでも呼んでよ」
なんでもないような調子で、偽名を名乗る。
やっぱり、リニスと契約してるんだ。二人からは魔力的なつながりを感じる。
魔力が少し違うのは、多分主が違うから。
「事情の説明は私の方でするよ」
レクシアと名乗った子は、リニスを助ける切っ掛けから、今に至るまでの説明をしてくれた。
「じゃあ、貴女はリニスを助けてくれたんですね」
母さんが仕事で使っていた人に、私は心当たりがあった。
あの人達は、偶に時の庭園に来ていた。
そう言えば、リニスの事を嫌な目で見てた。
「ありがとうございます」
私は彼女にお礼を言う。
アルフは黙って下を向いていた。
「そろそろ本題を話そうじゃないか」
アルフが二人を睨み付けて言う。
「そのリニスを助けた奴が、こんな事をした理由をさ!」
レクシアが頷いた。
「当然の質問だろうね。じゃあ、単刀直入に。ジュエルシードを集めるのは、中止してくれない?
勿論、今持っているものも、渡してくれる?」
怒って怒鳴ろうとしたアルフを、レクシアが片手を上げるだけで止めた。
そこには、アルフにも逆らえない圧力を感じて、止まってしまった。
「理由はあるよ。最後まで聞いて。あれは実は知り合いが発掘したものでね。あれはその人にとって大切な人の為に必要なものなんだ。命を懸けてでもね。貴女の方はどうして、集めてるの?」
ホントの事かな?リニスの方を見ると、彼女は無言で頷いた。
「貴女に関係ありますか?」
「大ありだよ。その知り合いは君ほど強くない。でも命を懸けて必死に回収しようとしてる。いくら大切な人の為って言っても、命を懸けるなんて、そうそう出来ない。違う?」
大切な人の為…。
「もし、君に重大な事情があるなら、話してくれないかな」
私も母さんの為に…。
「フェイト!言う事ないよ!!」
アルフの苛立ちの声が、考えに沈んでいた私を引き戻す。
「ずっと一人で、辛い毎日に耐えてたんだよ、フェイトは!リニスだって、その事を知ってるじゃないか!どうして今になって出てきて、勝手な事言うんだよ!!」
リニスは辛そうに俯いた。
「どうせ!リニスから事情は聞いてるんだろ!白々しく事情を話せなんて言うなよ!
お察しの通り、あの鬼婆の頼みだよ!じゃなかったら、フェイトがこんな事する訳ないだろ!!
それとも、新しいご主人様に変わって、のうのうと過ごしてる内に忘れちまったのかい!!」
そう言った瞬間、物凄い冷気がレクシアから放たれる。
身も凍らせる怒気。
アルフは恐怖で凍り付いている。
「確かに、私はプレシア女史の関与を疑ったし、それが理由だろうとも思ってた。リニスからある程度事情を聞いた事も認める。白々しかったかもね。
でも、リニスの貴女達を大切に想う気持ちを、疑うような真似は
この人もリニスを大切に想っているんだ。
レクシアが軽く指を振ると、魔法陣が展開する。
私達は咄嗟に身構えたが、攻撃魔法ではなかった。
彼女が契約魔法の内容を、私達に見える形で表示したんだ。
こんな事出来るんだ。
「これが証拠だよ」
契約は、主がリニスの願いを叶える為に尽力する限り、献身的に尽くすという内容だった。
その願いは、私が幸せに過ごせるようにする事。
ただし、
契約に遊びがある。つまり、典型的な主従関係を強制するものじゃない。
嘘ではないと、提示された術式が語っている。これを見せられれば、魔法を解析出来るから。
リニス…。
アルフは耳を垂らして項垂れた。
「リニス。ごめんよ」
「いいんですよ、アルフ。確かに勝手な事でしょうから」
レクシアは、怒気など発していなかったみたいに、穏やかな気配に変わっていた。
「そういう訳だから、ジュエルシードの件はプレシア女史と話し合いたいんだけど」
レクシアを信用していいのかな?
信じたいと思ってる。
けど、母さんは話を聞いてくれるかな…。
「連絡だけでもしてくれない?どちらに転んでも、暫く君に協力するよ。
知り合いには悪いけどね。結果的にはこの方が、知り合いの為にもいいでしょ。早く回収出来るだろうし、上手くいけば返してくれるかもしれない」
そう言って、レクシアはジュエルシードを一つ、私に放り投げた。
私は慌てて、それをキャッチする。既に封印が施されていた。
どこに入れてたのかな?
彼女はフードと口元を覆う布を外す。
「これも、信頼に通じる一歩って事で」
黒いフワッとした癖毛に、子猫みたいな顔に、ブルーの瞳が印象的な可愛い子だった。
:美海
フェイトちゃんは、気が進まないみたいだったけど、連絡はしてくれた。
事情をフェイトちゃんの口から説明して貰う。
ウィンドウに顔色が悪いプレシア女史が、映し出されている。
「ダメよ。信用出来ないわ。その場で始末なさい」
木で鼻を括る対応ありがとうございます。
始末しろとは、言う事が違う。
思った通りだ…。
某・国選弁護しか仕事がこない借金弁護士みたいなセリフを、心の中で呟く。
娘を自分の開発した新型魔力炉の暴走事故で亡くし、蘇らせようとした娘は別人。絶望続きで、他人との共感を失っている。目的を達成する為なら、なんでもやる。
流石にリニスが生きていた事には、驚いてたけどね。
私はここらで割って入る事にした。
「まあ、そう結論を急がずに。
私がリニスから事情を、ある程度聞いている事はご存知だと思いますが」
私はフェイトちゃんの前に立って言う。
プレシア女史だって、今真実を暴露する気はないだろう。
時間が無い以上、手駒を今失う危険は冒せないだろう。
プレシア女史の顔が険しくなる。
「それで私が承知するとでも?手が足りないなら、伝手は幾らでもあるのよ。これでも昔、大魔導士と呼ばれていたのだから。舐めないで貰いたいわね、お嬢ちゃん」
違法魔導士を金で雇うだけでしょ?研究員時代の伝手なんて、みんな関わり合いになりたくないでしょ。弱みを握るくらい強かだったら、あんな事故は起きなかっただろうしね。
「いえ、分かっていますよ。でも私以上の協力者を得る機会はないと思いますよ。ご存知ですかね?かのロストロギアはどうも誰かさんが悪戯しているみたいで、探すのは困難な状態だと」
プレシア女史は心当たりでもあるのか、表情が微妙に歪んだ。
これは、動く身としては嫌な事だが、説得には嬉しい誤算だ。
「貴女も
プレシア女史は忌々しそうだ。
「私の知り合いも、悪用されない事が分かれば、安心するでしょう」
「悪用などではないわ!断じてね!!」
「そうでしょう。知り合いに伝えますよ。早く安心させてやりたいので」
そこでプレシア女史からストップが掛かる。
「待ちなさい。貴女は見たところ、フェイトより魔力量が少ないわね」
何かの機器を操作する仕草がある。
私の事を調べたのだろう。
「協力者として、実力はどうなのかしらね。
面倒な事言い出さないでよ。
「フェイト。このレクシアさんと模擬戦をやりなさい。大口を叩くだけの実力があるのか、確かめたいわ」
フェイトちゃんは話についていけずに、オロオロしている。
なんか可愛いな。
「それで納得して頂けますか?なにしろ、
プレシア女史の眉間に、盛大な皺が寄る。
決断はお早めに、のメッセージは正しく受け取ってくれたようだ。
「いいでしょう。うちの娘に勝てたら、
ただし、ジュエルシードは一時的にでも渡して貰うわよ」
私達の本当の目的なんて、予想してるって事ね。
フェイトちゃんが目的だって。まあ、リニスがいるんだから分かるか。
「分かりました」
私とフェイトちゃんは向き合う。
離れた場所で、リニスとアルフが見守っている。
開始合図はプレシア女史がやる。
ここは、ある程度力を見せないとね。
警戒レベルを上げ過ぎないように注意しなきゃいけないけど。
「始め!」
開始合図と同時にフェイトちゃんが飛び上がる。
流石はスピード型。速い速い。
制空権を取ると、デバイス・バルディッシュを私に向ける。
「プラズマ・ランサー、ファイア!!」
私といえば、拳銃型のデバイス・シルバーホーンを持ったままで、構えていない。
ネーミングまんまだって?いいんです。
雷の短槍が無数に現れ、私に殺到する。
私に全弾直撃コース。私は動かない。
着弾する直前に、微かな音と共に雷の短槍が消え去った。
干渉装甲で、魔法を消し去っているのだ。
「っ!!」
フェイトちゃんの驚愕が伝わってきたが、私は無反応。
フェイトちゃんはデバイスのモードを砲撃に変える。
「プラズマスマッシャー!!」
デバイスではなく、左手を翳す。
私はシルバーホーンをフェイトちゃんに向け、引き金を引く。
砲撃魔法陣が砕け、魔法が無効化される。
この世界では直接魔力の塊を対象魔法陣にぶつけて、術式を吹き飛ばす魔法になっている。
砲撃が無効化されても、フェイトちゃんは戦意を失わない。
『ソニック・ムーヴ!』
フェイトちゃんの身体が金色に霞む。
物凄いスピードで移動したのだ。
私はフェイトちゃんの加速した斬撃を、僅かな動きで躱していく。
そのうち、フェイトちゃんから体術も飛び出す。
まあ、先生はリニスだからね。当然か。
それでも、私を捉える事は敵わない。
私はフェイトちゃんの手首を捻るように、バルディッシュを奪い背後を取る。
「っ!!」
フェイトちゃんは武器に拘らずに、距離を取る。
うん。いい判断だね。
私は、バルディッシュを遠くに投げ捨てる。
フェイトちゃんはバルディッシュに手を伸ばす。
彼女の手から微かに電気が走ったようだった。すると、バルディッシュが浮き上がりフェイトちゃんの手に戻った。いやいや、電磁石みたいに引き寄せたのかな?器用な事出来るね。
フェイトちゃんの顔を見ると、楽しそうだった。
ああ、この子バトルジャンキーだったけ?
強い相手との模擬戦であればあるほど、燃えるってやつですね。分かります。嘘だけど…。
みーくんみたいな事を思いながら、フェイトちゃんの挑戦を受ける。
が、いつまでもやめないので、終わらせないとね。
「そろそろいくよ?」
言い終えた頃には、フェイトちゃんの間合いに入り込んでいた。
咄嗟に引こうとするフェイトちゃんに、私は貫き手を放つ。
フェイトちゃんの顔の横を疾風が駆ける。
私は、フェイトちゃんに手を突き出した姿勢のまま止まる。
風圧でツインテールのリボンが吹き飛び、髪が一房ハラリと背中に落ちる。
私がその気なら、彼女の顔に穴が開いていた。
この辺でいいでしょ。
彼女は降参を宣言した。
:フェイト
私とレクシアじゃ、実力が全然違う。大人と赤ん坊くらい離れていた。
聞けば、リニスでさえ指導を受けているみたい。
いいな。私も教えて貰えないかな。
アルフは完全服従の姿勢になっていた。彼女の前だと直立不動になる。
「貴女、何者なの?アルバザードの魔法使いなの?」
模擬戦終了後に母さんが言ったセリフ。
アルハザード!?
母さんは、どこか期待するみたいな声だった。
リニスは心配そうにレクシアを見ている。
だけど、レクシア本人は不愉快そうな顔をしていた。
「あんな連中と、一緒にしないでくれます?」
知り合いみたいな反応だけど。滅びた人達だよね?
母さんは、仕事には結果を重んじる人だから。結局レクシア達を協力者にする事になった。
レクシアは知り合いに相談して、母さんから事情を聞く必要があるからと説得するそうだ。
リニスは複雑そうな顔をしていたけど。
こうして私達は、一緒にジュエルシードを探す事になった。
私はこの時、気付いていなかった。
この出会いが、運命の出会いみたいなものだって…。
第1話終了しました。やっと?という突っ込みは勘弁して下さい。
ここらでジュエルシード回収状況をば。
なのは・飛鷹・ユーノ連合 3つ回収
フェイト・アルフ・美海・リニス連合 4つ回収
となっております。
次回は、毎度の事ですが、投稿遅めになると思います。
すいませんが、お願いします。