魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 前回、お伝えした通りの裏側回です。
 楽しんで頂けたらと思います。


第13話 想いと交渉

              :美海

 

 放課後。

 私はリニスと別れて、ジュエルシードを探索する。

 万が一にも、リニスが単独でフェイトちゃんと、接触する事のないよう注意しないといけない。

 フェイトちゃんは、相変わらず化成体が監視してるから、大丈夫だと思うけどね。

 サーチでは発見出来なかった為、精霊の眼(エレメンタルサイト)を使用した。

 そして、分かった事は、ジュエルシードの幾つかは、隠蔽の魔法が掛かっているという事だ。

 全く、誰が掛けたのかね。

 

 私は、バリアジャケット姿で山中を歩いていた。

 右側には海が臨める。生憎と散策しにきた訳じゃないけど。

 そして、茂みに光るものを発見した。

 近付くと、光が爆発する。

「こんな事だと思ったよ」

 私はそう呟く。

 光が収まると、巨大な怪鳥が姿を現す。

 元は雀か何かかな?取り込まれた鳥よ、災難だったね。

 

「キシャァァァ!!」

 怪鳥は私を見て、威嚇するように鳴く。

 怪鳥の喉が膨れ上がり、嘴から炎が吐かれる。

 私は障壁を展開する。

 炎が私に迫るが、私の前に展開された障壁に当たった瞬間に、炎が怪鳥を舐める。

 私の使用した魔法は、反射障壁(リフレクター)である。運動ベクトルを反転させる魔法だ。

 自分の吐いた炎で、焼き鳥になるほど間抜けじゃないよね。

 

 私は魔力で足場を形成し、怪鳥に向けて駆けていく。

 怪鳥が炎を振り払う頃には、私は怪鳥の目の前に迫っている。

 

 私の身体が魔力光で薄っすらと包まれる。

 

 怪鳥は私を鋭い爪で引き裂こうとするが、私の腕に阻まれる。

 私はそのまま鳥の胸に、魔力が籠った掌底を打ち込む。

 その勢いを殺さずに、舞うように拳・掌底・蹴りを無数に叩き込んでいく。

 

 怪鳥もただ攻撃を受け続けた訳じゃない。

 ただ、炎を吐こうとした瞬間嘴の下を蹴り上げ、翼で叩こうとするのを弾き、爪の攻撃を避けていた為、攻撃が悉く無効化されていただけだ。

 堪らず怪鳥は逃げようとするが、赤い糸状のものが巻き付き、墜落する。

 

 再現技術・空斬糸である。

 

 怪鳥が必死にもがいて空斬糸を外そうとするが、ビクともしない。

 私は怪鳥の上に、落下エネルギーを利用し一撃を見舞う。

「封印」

 精霊の眼(エレメンタルサイト)でジュエルシードを確認し、直接封印処理を実行したのだ。

 怪鳥の姿が消え、鳩が慌てて飛び立っていった。雀じゃなくて鳩だったか。

 ごめんね。

 封印したジュエルシードを血の中に収納する。

 

『美海、こっちはもうありませんでした』

 リニスから念話が届く。

 誰かに先を越されたか。

『まあ、仕様がないよ。こっちは一個確保。取り敢えず合流しよう』

 リニスを労ってから、予め決めてあった合流地点に向かう。

 

 

 合流したリニスは、いつもの勢いがなかった。

 そりゃ、フェイトちゃんが次元犯罪者紛いの事やってりゃ、元先生としては複雑だろう。

 しかも、元・主が元凶だもんね。

「リニス。思い悩むのは仕様がないけど、どう話をもってくか決めなきゃ不味いよ」

「そうですね」

 リニスは俯いて、言葉少なく応じる。

「リニスが策なしなら、私が取り敢えずの行動方針を出すけど」

 私の言葉に、リニスが勢いよく顔を上げる。

「どうするんです!?」

 私に詰め寄ってくる。少し顔を動かせば、キス出来るよ。

 私は近くなったリニスの顔を、手で押し返す。

 リニスはその時になって、近過ぎた事に気付いたのか、顔を赤らめた。

「まず、フェイトちゃんに、最初のうちは説得しない」

「え?どうしてです?」

「言っても無駄だから」

 私のにべもないセリフに、鼻白むリニス。

「フェイトちゃんはリニスの話を聞いてると、プレシアに未だ敬意を持ってるし、自分の事は二の次にして愛情を注いでくれた記憶も持ってる。フェイトちゃんの記憶じゃなくてもね。

 しかも、自分の我儘や事故の怪我で昏睡した設定が、プレシアの心が壊れた原因だと思ってる節がある。罪悪感もプラスされてる。

 彼女にとって、プレシアは一番大切な存在なんだよ。

 多分、今アリシアの事を絡めて真実を話しても、信じないと思うよ。リニスの言葉なら、動揺ぐらいはするかもしれないけど、最悪、裏切られたと感じて、激昂するかもしれない。そうなったら、不味いどころじゃないからね」

 リニスは苦々しく頷く。

「出来れば、アリシアの事は触れたくないんですが…」

 それが出来ればいいけどね。プレシア自身がバラすだろう。

 プレシアがフェイトに、ちゃんと愛情を向けられれば一番いいんだけどね。

 残念ながら、リニスの話だと期待出来ないだろう。

「それを踏まえて、ジュエルシード収集がユーノ君にとって、物凄く困る事だと伝えて、止めるよう言う」

 リニスの眉間に皺が寄る。

「聞いてくれるでしょうか」

 疑問に感じるのも当然だね。

「聞かないでしょうね」

「え!?じゃあ、どうするんです?」

「暫定的な協力者になる」

 リニスの表情が曇る。ユーノの事を気にしてるんだろう。

「ジュエルシードを欲しているのは、プレシアで間違いないでしょ。だから、集め終えたらプレシアと交渉させてほしいとお願いするんだよ」

「プレシアが承知するとは、思えませんが…」

「承知するか、しないかは問題じゃないよ。フェイトちゃんは、ジュエルシードを届ける時、必ず手渡しする筈だよ。そこを追尾してプレシアを押さえる」

 物質転送でもいいけど、ジャミングや事故が怖い。

 もし、途中でバラ撒いてしまったら、その分が無駄になる。

 最悪、フェイトちゃんが協力を拒否しても、別に構わない。

 私のやる事は変わらないから。でも、完全拒否でなければ、遣り易くなる。

「それって、フェイトを騙すって事ですか!?」

「心配しなくていいよ。私が勝手にやるから」

 リニスに責任を負わせる気はない。

「美海は、それでいいんですか?」

 リニスは私に怒っているような、悲しんでいるような複雑な表情だった。

 だってね。彼女にはリニスがいれば、十分でしょう。

 

 私は彼女に必要ない。

 

 

              :リニス

 

 分かっていた事だ。

 彼女は自分を大切にしていない。

 自分一人なら、大抵の事はなんとかしてしまう。

 だから、言う。恨むなら自分にしろ、と。

 例え彼女を誰も助けなくとも、彼女は他人は助ける。

 他人の負の感情を受け止める。言い訳もしない。

 それが、私には悲しく映る。

 彼女は、まだ英雄の仮面を被っている。

 それで、未だに夜、悪夢に魘されているのに。

 彼女は助けられなかった人の、死体の数を数えている。

 真実のあの子は、普通の女の子なのに。

 

 でも、私に何か言う資格はない。

 他ならぬ、私が英雄としての彼女に、頼っているのだから。

 

 

              :美海

 

 あれから、ジュエルシードを発見する事が出来なかった。

 明らかに、何か細工してる奴がいる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、見付からないなどあり得ない。

 隠蔽の魔法も感じられなくなったよ。

 リニスが見付けられなかったジュエルシードも、恐らく誰かの手が入っている。

 なにしろ、フェイトちゃん達は監視下にあるし、なのはちゃん・飛鷹君ペアは魔法を派手に使うから、すぐに分かる。

  

 そろそろ、日が落ちる頃だった。

 魔力反応が急に現れ、目的地があるように、一直線にどこかに向かっている。

 ドロッとした黒い嫌な魔力だ。

 明らかにジュエルシードの思念体だが、他と違う。

 思念体の動きが、変わる。

 結界が展開された。

 誰かが襲われている。

 直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なのはちゃん・飛鷹君ペアだ。なんで、別々に向かってんの?

 大体一緒に訓練している事は、知っているけど、なんかあったのかな?

 襲われてるのは、ユーノ君だね、これは。

 分かっていたけど、やっぱり帰らなかったか…。

 

 リニスと共に向かおうとした時だ。

 厄介な人物が向かってるよ。

 当然の事だけど。まあ、向かうよね。

 私は天を仰いだ。

 

 いつまでも、現実逃避してる訳にもいかないよね。

「リニス!!」

 リニスも当然気付いている。

「分かっています!」

 二人で高速で向かう。フェイトちゃんのところに。

 

 今、乱入させるのは不味い。

 何故なら、飛鷹君がいるからだ。

 飛鷹君は、フェイトちゃんより実力が上だ。なのはちゃんだけなら、フェイトちゃんでも穏便に勝利を得る事が出来るだろうが、飛鷹君が絡むと大怪我の危険がある。

 飛鷹君が、手加減出来るかって心配もある。

 付け加えるなら、思念体も普通ではなさそうだしね。

 取り敢えず、彼女を止める必要がある。

 いずれ話さなきゃいかなかったんだから、ちょっと早くなっただけだと思おう。

 それに、フェイトちゃんの到着が早まった以上、管理局の到着も早いかもしれない。

 盲目的にジュエルシードを集めているフェイトちゃんに、ブレーキを掛けないとね。

 下手打って、フェイトちゃん捕縛なんて遠慮願いたい。

 そして、フェイトちゃんと接触する以上、魔法もある程度解禁でいいでしょ。

 

 私達は、ワザとフェイトちゃんに分かるように接近する。

 

『悪いけど、そこで止まってくれる?』

 私は視認出来るくらいの距離まで近付き、念話を送った。

 

 

              :フェイト

 

 私とアルフで、ずっと手分けして探したけど、ジュエルシードは朝に確保した一つを最後に見付けられなかった。もっと、捜索範囲を広げないとダメかな…。

 

 認識阻害を掛けたまま活動し続けたので、そろそろ切り上げないといけない。

 今になって、少し眠くなってきた。昨日は張り切り過ぎて、睡眠時間を取らなかったから。

 見付けられないのは、集中力が落ちているのかもしれない。

 残念だけど、今日はここで終わりにしよう。

 

 太陽は大分沈んでいる。

 私がアルフに念話を送ろうとした時だった。

 突然、街中に結界が張られたのが分かった。

 この世界に魔法文化はない筈なのに!!

 もしかして、もう管理局が?それとも、別に探してる人がいる?

 どっちにしても、行かなきゃ。私はその為に強くなったんだから。

 

『アルフ!!』

『分かってるよ!アタシが行くまで待ってよ!』

 アルフに念話で呼びかけると、すぐに反応が返ってくる。

 アルフはリニスがいなくなってから、過保護さが増した。

『大丈夫。私、強いもの』

 だから、安心させるように言い切った。

 

 私は、全力で結界の張られた地点に急ぐ。

 すると、同じく結界に向かっている人達の反応を捉える。

 まだ、競争相手がいる!?

 二人のようだが、二人共私より魔力量が少ない。でも、連携された時の力量が分からない以上、油断出来ない。心の中で警戒レベルを上げる。

 二人の姿が小さく見えてくる。

 

『悪いけど、そこで止まってくれる?』

 念話が送られてくる。

 どうやら、声の感じだと私と歳は変わらなさそう。

 私は、素直に止まる。

 アルフが向かっている。私は時間を稼げばいい。

 でも、なんだろう?背の高い方の人の魔力には覚えがあるような…。

 

『フェイト!?敵!?』

 アルフから慌てた声で念話が入る。

『分からないけど。今どこ?』

『もう着くよ!』

 よかった。少しだけホッとした。負けるつもりはなかったけど。

 二人は私と距離を取ったまま、動かない。

 

 無言で向き合っていると、アルフが到着する。

「アンタ達!痛い目に遭いたくなかったら、失せな!!」

 アルフが大声で威嚇する。

 背の小さい子は無反応。だけど、背の高い方の人は違った。

「アルフ!!何ですか!その言葉遣いは!!」

「「え!?」」

 その声は、まさか!?

 

 一瞬の気の緩み。

 それが命取り。

 私達の足元から光が放たれる。

 しまった!?

 咄嗟の事で、私達は目を固く閉じて、腕でガードする体勢を取っていた。

 幸か不幸か、閃光で目が眩むほどじゃなかった。

 私達は、状況が分からないものの、後方に跳び距離を取る。

 周りを見渡す余裕が、ようやく生まれた。

 

 一面の砂漠。

 

 強制転送!?

 

 しかも、他の世界に転移を可能にするほどの。

 私の背中を冷たい汗が流れる。強力な暑さにも関わらず。

 魔力はそれほど感じなかった。つまり、少ない魔力で、この魔法を実行したという事。

 こんな事が、出来る魔導士なんて聞いた事がない。

 自分の迂闊さに唇を噛み締める。

 

 二人が近付いてくる。

 二人の顔が見えるくらいに。

 一人は信じられないけど、やっぱりリニスだった。契約が終了して、時の庭園から消えた大切な先生。

 最後に見た姿と変わらない。

 もう一人の子は黒いバリアジャケットに、フードの下は口元が布で覆われていて、顔がよく分からない。

「久しぶりですね。フェイト…アルフ」

 リニスは微笑んでいたけど、私には苦いものが混じっているように見えた。

 アルフは警戒を解いていない。

「そうだね。でも、どういう事か説明してほしい」

「そうだよ!隣の奴はなんだい」

 私とアルフの目は、黒いバリアジャケットの子に向けられる。

 アルフの敵意交じりの視線を受けても、その子は平然としていた。

「私はリニスの新しい主だよ。私の事は…レクシアとでも呼んでよ」

 なんでもないような調子で、偽名を名乗る。

 やっぱり、リニスと契約してるんだ。二人からは魔力的なつながりを感じる。

 魔力が少し違うのは、多分主が違うから。

 

「事情の説明は私の方でするよ」

 レクシアと名乗った子は、リニスを助ける切っ掛けから、今に至るまでの説明をしてくれた。

 

「じゃあ、貴女はリニスを助けてくれたんですね」

 母さんが仕事で使っていた人に、私は心当たりがあった。

 あの人達は、偶に時の庭園に来ていた。

 そう言えば、リニスの事を嫌な目で見てた。

「ありがとうございます」

 私は彼女にお礼を言う。

 アルフは黙って下を向いていた。

「そろそろ本題を話そうじゃないか」

 アルフが二人を睨み付けて言う。

「そのリニスを助けた奴が、こんな事をした理由をさ!」

 レクシアが頷いた。

「当然の質問だろうね。じゃあ、単刀直入に。ジュエルシードを集めるのは、中止してくれない?

 勿論、今持っているものも、渡してくれる?」

 怒って怒鳴ろうとしたアルフを、レクシアが片手を上げるだけで止めた。

 そこには、アルフにも逆らえない圧力を感じて、止まってしまった。

「理由はあるよ。最後まで聞いて。あれは実は知り合いが発掘したものでね。あれはその人にとって大切な人の為に必要なものなんだ。命を懸けてでもね。貴女の方はどうして、集めてるの?」

 ホントの事かな?リニスの方を見ると、彼女は無言で頷いた。

「貴女に関係ありますか?」

「大ありだよ。その知り合いは君ほど強くない。でも命を懸けて必死に回収しようとしてる。いくら大切な人の為って言っても、命を懸けるなんて、そうそう出来ない。違う?」

 大切な人の為…。

「もし、君に重大な事情があるなら、話してくれないかな」

 私も母さんの為に…。

「フェイト!言う事ないよ!!」

 アルフの苛立ちの声が、考えに沈んでいた私を引き戻す。

「ずっと一人で、辛い毎日に耐えてたんだよ、フェイトは!リニスだって、その事を知ってるじゃないか!どうして今になって出てきて、勝手な事言うんだよ!!」

 リニスは辛そうに俯いた。

「どうせ!リニスから事情は聞いてるんだろ!白々しく事情を話せなんて言うなよ!

 お察しの通り、あの鬼婆の頼みだよ!じゃなかったら、フェイトがこんな事する訳ないだろ!!

 それとも、新しいご主人様に変わって、のうのうと過ごしてる内に忘れちまったのかい!!」

 そう言った瞬間、物凄い冷気がレクシアから放たれる。

 

 身も凍らせる怒気。

 

 アルフは恐怖で凍り付いている。

「確かに、私はプレシア女史の関与を疑ったし、それが理由だろうとも思ってた。リニスからある程度事情を聞いた事も認める。白々しかったかもね。

 

 でも、リニスの貴女達を大切に想う気持ちを、疑うような真似は()()()()()

 

 この人もリニスを大切に想っているんだ。

 レクシアが軽く指を振ると、魔法陣が展開する。

 私達は咄嗟に身構えたが、攻撃魔法ではなかった。

 彼女が契約魔法の内容を、私達に見える形で表示したんだ。

 こんな事出来るんだ。

「これが証拠だよ」

 契約は、主がリニスの願いを叶える為に尽力する限り、献身的に尽くすという内容だった。

 その願いは、私が幸せに過ごせるようにする事。

 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 契約に遊びがある。つまり、典型的な主従関係を強制するものじゃない。

 嘘ではないと、提示された術式が語っている。これを見せられれば、魔法を解析出来るから。

 リニス…。

 アルフは耳を垂らして項垂れた。

「リニス。ごめんよ」

「いいんですよ、アルフ。確かに勝手な事でしょうから」

 レクシアは、怒気など発していなかったみたいに、穏やかな気配に変わっていた。

「そういう訳だから、ジュエルシードの件はプレシア女史と話し合いたいんだけど」

 レクシアを信用していいのかな?

 信じたいと思ってる。

 けど、母さんは話を聞いてくれるかな…。

「連絡だけでもしてくれない?どちらに転んでも、暫く君に協力するよ。

 知り合いには悪いけどね。結果的にはこの方が、知り合いの為にもいいでしょ。早く回収出来るだろうし、上手くいけば返してくれるかもしれない」

 そう言って、レクシアはジュエルシードを一つ、私に放り投げた。

 私は慌てて、それをキャッチする。既に封印が施されていた。

 どこに入れてたのかな?

 

 彼女はフードと口元を覆う布を外す。

「これも、信頼に通じる一歩って事で」

 黒いフワッとした癖毛に、子猫みたいな顔に、ブルーの瞳が印象的な可愛い子だった。

 

 

              :美海

 

 フェイトちゃんは、気が進まないみたいだったけど、連絡はしてくれた。

 事情をフェイトちゃんの口から説明して貰う。

 ウィンドウに顔色が悪いプレシア女史が、映し出されている。

「ダメよ。信用出来ないわ。その場で始末なさい」

 木で鼻を括る対応ありがとうございます。

 始末しろとは、言う事が違う。

 思った通りだ…。

 某・国選弁護しか仕事がこない借金弁護士みたいなセリフを、心の中で呟く。

 娘を自分の開発した新型魔力炉の暴走事故で亡くし、蘇らせようとした娘は別人。絶望続きで、他人との共感を失っている。目的を達成する為なら、なんでもやる。

 流石にリニスが生きていた事には、驚いてたけどね。

 

 私はここらで割って入る事にした。

「まあ、そう結論を急がずに。

 私がリニスから事情を、ある程度聞いている事はご存知だと思いますが」

 私はフェイトちゃんの前に立って言う。

 プレシア女史だって、今真実を暴露する気はないだろう。

 時間が無い以上、手駒を今失う危険は冒せないだろう。

 プレシア女史の顔が険しくなる。

「それで私が承知するとでも?手が足りないなら、伝手は幾らでもあるのよ。これでも昔、大魔導士と呼ばれていたのだから。舐めないで貰いたいわね、お嬢ちゃん」

 違法魔導士を金で雇うだけでしょ?研究員時代の伝手なんて、みんな関わり合いになりたくないでしょ。弱みを握るくらい強かだったら、あんな事故は起きなかっただろうしね。

「いえ、分かっていますよ。でも私以上の協力者を得る機会はないと思いますよ。ご存知ですかね?かのロストロギアはどうも誰かさんが悪戯しているみたいで、探すのは困難な状態だと」

 プレシア女史は心当たりでもあるのか、表情が微妙に歪んだ。

 これは、動く身としては嫌な事だが、説得には嬉しい誤算だ。

「貴女も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 プレシア女史は忌々しそうだ。

「私の知り合いも、悪用されない事が分かれば、安心するでしょう」

「悪用などではないわ!断じてね!!」

「そうでしょう。知り合いに伝えますよ。早く安心させてやりたいので」

 そこでプレシア女史からストップが掛かる。

「待ちなさい。貴女は見たところ、フェイトより魔力量が少ないわね」

 何かの機器を操作する仕草がある。

 私の事を調べたのだろう。

「協力者として、実力はどうなのかしらね。()()()()

 面倒な事言い出さないでよ。

「フェイト。このレクシアさんと模擬戦をやりなさい。大口を叩くだけの実力があるのか、確かめたいわ」

 フェイトちゃんは話についていけずに、オロオロしている。

 なんか可愛いな。

「それで納得して頂けますか?なにしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 プレシア女史の眉間に、盛大な皺が寄る。

 決断はお早めに、のメッセージは正しく受け取ってくれたようだ。

「いいでしょう。うちの娘に勝てたら、()()()()()()()聞き入れましょう。

 ただし、ジュエルシードは一時的にでも渡して貰うわよ」

 私達の本当の目的なんて、予想してるって事ね。

 フェイトちゃんが目的だって。まあ、リニスがいるんだから分かるか。

「分かりました」

 

 私とフェイトちゃんは向き合う。

 離れた場所で、リニスとアルフが見守っている。

 開始合図はプレシア女史がやる。

 ここは、ある程度力を見せないとね。

 警戒レベルを上げ過ぎないように注意しなきゃいけないけど。

「始め!」

 開始合図と同時にフェイトちゃんが飛び上がる。

 流石はスピード型。速い速い。

 制空権を取ると、デバイス・バルディッシュを私に向ける。

「プラズマ・ランサー、ファイア!!」

 私といえば、拳銃型のデバイス・シルバーホーンを持ったままで、構えていない。

 ネーミングまんまだって?いいんです。

 

 雷の短槍が無数に現れ、私に殺到する。

 私に全弾直撃コース。私は動かない。

 

 着弾する直前に、微かな音と共に雷の短槍が消え去った。

 干渉装甲で、魔法を消し去っているのだ。

「っ!!」

 フェイトちゃんの驚愕が伝わってきたが、私は無反応。

 フェイトちゃんはデバイスのモードを砲撃に変える。

「プラズマスマッシャー!!」

 デバイスではなく、左手を翳す。

 私はシルバーホーンをフェイトちゃんに向け、引き金を引く。

 砲撃魔法陣が砕け、魔法が無効化される。

 

 術式解体(グラムデモリッション)

 この世界では直接魔力の塊を対象魔法陣にぶつけて、術式を吹き飛ばす魔法になっている。

 

 砲撃が無効化されても、フェイトちゃんは戦意を失わない。

『ソニック・ムーヴ!』

 フェイトちゃんの身体が金色に霞む。

 物凄いスピードで移動したのだ。

 私はフェイトちゃんの加速した斬撃を、僅かな動きで躱していく。

 そのうち、フェイトちゃんから体術も飛び出す。

 まあ、先生はリニスだからね。当然か。

 それでも、私を捉える事は敵わない。

 私はフェイトちゃんの手首を捻るように、バルディッシュを奪い背後を取る。

「っ!!」

 フェイトちゃんは武器に拘らずに、距離を取る。

 うん。いい判断だね。

 私は、バルディッシュを遠くに投げ捨てる。

 フェイトちゃんはバルディッシュに手を伸ばす。

 彼女の手から微かに電気が走ったようだった。すると、バルディッシュが浮き上がりフェイトちゃんの手に戻った。いやいや、電磁石みたいに引き寄せたのかな?器用な事出来るね。

 フェイトちゃんの顔を見ると、楽しそうだった。

 ああ、この子バトルジャンキーだったけ?

 強い相手との模擬戦であればあるほど、燃えるってやつですね。分かります。嘘だけど…。

 みーくんみたいな事を思いながら、フェイトちゃんの挑戦を受ける。

 

 が、いつまでもやめないので、終わらせないとね。

「そろそろいくよ?」

 言い終えた頃には、フェイトちゃんの間合いに入り込んでいた。

 咄嗟に引こうとするフェイトちゃんに、私は貫き手を放つ。

 フェイトちゃんの顔の横を疾風が駆ける。

 私は、フェイトちゃんに手を突き出した姿勢のまま止まる。

 風圧でツインテールのリボンが吹き飛び、髪が一房ハラリと背中に落ちる。

 私がその気なら、彼女の顔に穴が開いていた。

 この辺でいいでしょ。

 

 彼女は降参を宣言した。

 

             

              :フェイト

 

 私とレクシアじゃ、実力が全然違う。大人と赤ん坊くらい離れていた。

 聞けば、リニスでさえ指導を受けているみたい。

 いいな。私も教えて貰えないかな。

 アルフは完全服従の姿勢になっていた。彼女の前だと直立不動になる。

 

「貴女、何者なの?アルバザードの魔法使いなの?」

 模擬戦終了後に母さんが言ったセリフ。

 アルハザード!?

 母さんは、どこか期待するみたいな声だった。

 リニスは心配そうにレクシアを見ている。

 だけど、レクシア本人は不愉快そうな顔をしていた。

「あんな連中と、一緒にしないでくれます?」

 知り合いみたいな反応だけど。滅びた人達だよね?

 

 母さんは、仕事には結果を重んじる人だから。結局レクシア達を協力者にする事になった。

 レクシアは知り合いに相談して、母さんから事情を聞く必要があるからと説得するそうだ。

 リニスは複雑そうな顔をしていたけど。

 こうして私達は、一緒にジュエルシードを探す事になった。 

 

 

 私はこの時、気付いていなかった。

 この出会いが、運命の出会いみたいなものだって…。

 

 




 第1話終了しました。やっと?という突っ込みは勘弁して下さい。
 ここらでジュエルシード回収状況をば。

 なのは・飛鷹・ユーノ連合      3つ回収

 フェイト・アルフ・美海・リニス連合 4つ回収

 となっております。
 次回は、毎度の事ですが、投稿遅めになると思います。
 すいませんが、お願いします。

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