魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中)   作:孤独ボッチ

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 やはり、客観的にチェック出来るまで、待つのが正解だったようです。
 焦り過ぎに、反省しております。

 これからは、これ以上に投稿の間隔が伸びるかもしれません。


第12話 心と覚悟

              :ユーノ

 

 河川敷で二人と別れ、僕は一人でジュエルシードを探す。

 協力者は見付けたいが、全体に向けてメッセージを送るのは、まだ早いと思う。

 彼女たちの目的の人物が、聞いてしまう恐れもあるし。

 幸いというか、彼女のお陰で魔力も回復しているし、傷も治りよく寝たので、頭もスッキリしている。

 

 僕は返してもらったレイジングハートを使い、広域サーチを行う。

 フェレットではなく、人の姿で歩きながらジュエルシードを探す。

 服はバリアジャケットを、この世界で違和感がないものに変える。

 

 しかし、おかしな事に一つも見付からない。

 幾らなんでもおかしくないかな。

 未発動のジュエルシードなら、遠い距離なら感知出来ない可能性があるけど。

 でも、僕は街中を歩き回っている。こんなにも見付からないものなんだろうか?

 それとも、彼女達の目的の人物か彼女達自身が、既に集めた後なのかな?

 

 日が大分傾いてきた。

 薄暗い中、歩いていた時だった。

『注意して下さい!!』

 僕も気付いた。

 何かが接近してくる。

『思念体です!!』

 向こうから近付いてきた!?

 僕は、周囲に被害が飛び火しないように、すぐに結界を張った。

 

 

              :飛鷹

 

 夕暮れ時になり、かなり日も傾いてきた。

 そろそろ、制服姿での捜索は、補導対象になりそうだ。

 リスティ刑事に話は通してあるけど、流石にね。

 ユーノの捜索が暗礁に乗り上げた為、ジュエルシード捜索を試みるも、失敗。

 なのはに広域サーチをやって貰う案もあったけど、意外にもスフォルテンドに反対にあった。

『仮免許を取ったばかりの人間に、F1のレーシングカーを与えて、都内を走り回ってこいって言ってるも同じ』

 とか言ってた。ミシェル・ヴァ〇ヨンじゃあるまいし、無理だろと納得。

 ん?なんか違わないか?

 俺も把握してなかったけど、スフォルテンドは俺用にチューンアップされていて、他人には使い辛いらしい。 こんなところで、俺ってば転生者なんだと実感するよ。

 という訳で、俺がサーチしたんだが、それがコテンコテン(ダメだった)。

 素直にジュエルシード発動を、感じ取った方が建設的かもな。

 

そんなこんなで、もう遅い為なのはを家に送っていく事になった。

「やっぱり、難しいね」

 なのはは落胆しているようだ。ほぼ、無駄足に近いからな。

「ま、地道にやっていくしかねぇだろ」

 俺は敢えて気軽にそう言った。

 それでも、成果がなかった訳じゃない。なのはが自分の魔力を薄く延ばして、サーチの真似事をやれるようになったのだ。まだ、サーチャーの形は取れないが、デバイスなしで自前の魔力操作だけで、やったにしては初心者として上出来だろう。

 

 そんな事を話しながら歩いていると、街灯が明かりを灯し出した。

 

 やべぇ。あの二人に殺されるかもしれん。誰かは語るまでもないだろう…。

 遅くまでデート、なんて取られかねないからな。小学生だぞ?ないだろ、普通。

 俺の冷や汗に、なのはは気付いていない。

 

 気を抜いていた罰か。

 突然、結界が張られたのだ。

「「!!」」

 二人同時に反応。流石にこれは、俺でも分かるからな。

「飛鷹君!」

「ああ!」

 一緒に走り出そうとするなのはを、俺は止めた。

 なのはは一瞬、キョトンとした顔して止まる。

「なのはは、このまま帰れ。送ってやれなくて悪いけど」

「え!?どうして!?」

 なのはは怒り気味だ。

「俺はロボット騒ぎの時に、ミスをした。お前を巻き込んじまった。…高町 なのはが普通の女の子でもよかったんだよな…。だけど、俺は安易に魔法をやっちまった」

 恥ずかしいから、あまり大きな声ではなかったが、ハッキリ伝えた。

 全くもって、黒歴史化してるよ。

 あの時、感触として、実は俺一人でも勝てたかもって思ってた。

 でも心のどこかで、どうせもうすぐ魔導士になるんだし、いいかって思ったんだ。

「飛鷹君…」

 訓練に付き合い、友達になって思う。

 俺はなのはを、キャラクターとしてしか、見れてないんじゃないのか。

 踏み台を、まだ脱してないんじゃないのかって。

 だから、今度は間違えないように、自分自身で出来る事をやると決めたんだ。

 態々原作通りに初心者を、巻き込む必要はないだろう。

 なのはは一人の人間なんだから。

 俺のミスに対する後悔を、なのはは分かってくれたのか黙っている。

「だからさ、頼む。俺一人でやらせてくれ」

 立ち尽くすなのはに背を向け、俺は走り出した。

 バリアジャケットを展開する。

 ここからが、俺のホントの戦いって事だ。

 

 

 結界は閉じ込める目的のもので、入り込むのは難しくなかった。

 そこで見付けた。

 ユーノ・スクライアを。ジュエルシード思念体を。

 

 ユーノはピンピンしていた。なのはの話じゃ原作以上の大怪我だったみたいだが。

 ユーノはバリアジャケット姿で、レイジングハートを構え、思念体と対峙している。

 思念体は原作通り、黒い塊に顔が付いてる奴だ。

 

(ジャイ)!!」

 俺はすぐさまユーノを飛び越えて、思念体を斬り付けた。

「グオォ!?」

 纏う魔力ごと斬られた事に驚いたみたいだな。

 だが、みるみる斬られた部分が、復元していく。そして、体が一瞬膨らんだかと思ったら、黒い砲弾を大量に放出する。

 回避すると、ユーノが避けきれねぇ

「ディフレイド!!」

 俺は左手を前に突き出し、魔法のシールドを展開する。

 これは、物理的な攻撃を防ぐだけでなく、炎の熱や冷気なども遮断する優れモノだ。

 凄い音を立てて、砲弾が盾にブチ当たる。

『油断するな!!』

 スフォルテンドが、いつになく真面目な声で注意を促した。

 盾に弾かれた砲弾、障害物にめり込んだ砲弾が、意思を持つように、俺とユーノを襲う。

『ホーミングだ!!』

「見れば、分かるって!!」

 盾で防げるものもあるが、幾つか盾を迂回し、俺とユーノに砲弾が迫る。

「なろ!!」

 俺はユーノを引き倒し、地面に伏せさせると、盾でユーノを護りつつ、剣で砲弾を斬り落とす。

「海波斬・漣!!」

 これは、アバン流刀殺法・海の技。スピードを重視した斬撃を放ち、炎などの普通は斬れないものを斬る事が出来る技で、俺はこれが連撃出来るようした。それが、漣である。これは原作にないものだ。ただの連撃だけどな。

 衝撃波の剣閃が縦横無尽に走り抜ける。

「グルル!!」

 自分の身体を縮めたり、へこませたりしながら、思念体も攻撃を幾らか躱したが、無傷とはいかない。

 体が幾つか黒い靄になって切り裂かれていく。

「グオォォ!!」

 思念体が、まだ無事な砲弾を操りながら、今度は触手を伸ばし鞭のように振るう。

 俺は、シールドバッシュの要領で、触手を跳ね飛ばす。

「マナバレット・バラージ!!」

 これは純正ミッド式魔法で、なのはのアクセルシューターみたいなもんだ。

 残った砲弾を魔力弾で打ち抜き、思念体を包み込むように打ち込む。

 

 直撃寸前、()()()()()()()()()()

 細かく分かれたおかげで、思念体は三つとも全弾直撃を避けている。

「しつこい!!」

 いっその事、ヴォルテックスで片を付けるか?

「ああ!逃げます!!」

 ここまで、目まぐるしい戦闘で、口を挿めなかったユーノが初めて喋る。

 思念体はいっそ清々しいほど、逃げに入った。

 三方向に別れ、逃げ出す。

 劇場版の方の流れじゃねぇか、これ!!って事はアイツ、三つくらいジュエルシード取り込んでるのか!?

 

 その時、逃げ道を塞ぐようにピンク色の光が思念体三体を打ち落とす。

「な!?」

 思念体の前に立ちはだかったのは、なのはだった。

「どうして、来た!!」

 俺はなのはに厳しく問い質す。

「違うよ!!飛鷹君!!」

 なのはは決然と魔法を得た時のように、迷いがない目をしていた。

「これは、私自身が望んだ事…。飛鷹君、あの時に言ったよね?そう在りたかったからだって!!」

 

 

 それは、すずかの屋敷で盟友になった時、士郎さんに訊かれた事だった。

「君は、どうしてそこまで強くなろうと思ったんだい?」

 士郎さんはジッと俺も見詰めてそう言った。

「ほらっ、俺、男じゃないですか。憧れみたいなもんで、大した理由じゃないですよ」

 俺はそう答えたが、士郎さんは納得しなかった。

「君には、なのはの魔法の訓練をして貰うんだ。君の強さは、生半な憧れで手に入るものじゃないだろう。誤魔化さないでほしい」

 厳しいね。

 その時に答えたのが。

「ホントに大した理由じゃないんですけどね。…そう在りたかったからですよ」

 だった。

 

 

 俺はヒーローに憧れた。漫画やアニメの世界にしかいなかったけど。

 絶対的強者が存在する二次小説にハマった。

 そして、アニメでは高町 なのははヒーロー、いや、ヒロインだった。まさに、絵に描いたような存在だ。

 どんな大敗を喫しようと、立ち上がり勝利を掴む。護るべき人をキッチリ護り抜く。

 だから、俺はなのは贔屓だった。

 特典さえあれば、俺もヒーローになれると思っていた。二次小説のオリ主みたいに。

 でも、そんなの間違いだった。俺にはあの子みたいな輝きはない。

 問題は変えられないもの。

 

 心だ。

 

「私は嬉しかったの!不謹慎だけど、私も誰かを護れる力があったんだって!

 もっと小さい頃は、誰かを失う事が怖くて、私は震えるだけだった。

 だから、少しでも強くなりたいって思った。

 でも、武術をどんなに頑張っても、多分私はお父さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんに敵わない。

 飛鷹君が私にもあるって言ってくれたの!護る為の力が、理不尽を打ち抜く力が!

 

 だから!私にも護らせて!」

 

 どんなに才能を貰おうが、この子の心には敵わない。

 全く、幾つだ俺は。俺の勝手な感傷なんざ、こんなに簡単に打ち抜いてくれる。参ったね。

 俺もいい加減学習能力がないらしい。

 一人の人間として見ようって決めたのに、今度は勝手にあの子の行く道を、決めようとしてたらしい。

 

「そうだな。俺の詰まんねぇ意地じゃないよな、大切なのは。

 

 じゃあ、一緒に大切な人達を護れる自分になろうぜ!」

 

 ヒーローになれない俺でも、この子の背中ぐらい、護れる自分でありたいと思う。

 

「うん!!」

 

 

              :なのは

 

「なのはは、このまま帰れ。送ってやれなくて悪いけど」

 私達は手掛かりを見付けた。

 飛鷹君は、危険が迫っているのに、突然そんな事を言った。

「え!?どうして!?」

 何で、そんなこと言うの?

「俺はロボット騒ぎの時に、ミスをした。お前を巻き込んじまった。…高町 なのはが普通の女の子でもよかったんだよな…。だけど、俺は安易に魔法をやっちまった」

 あの時の事?でもそれは、私が無理を言ったからで、飛鷹君に悪い事なんてない。

 今まで、飛鷹君がそういう事を、気にしていた素振りはなかったけど…。

 でも、飛鷹君は後悔していたんだ。

 飛鷹君は、普段の態度では分からないけど、自分の心のホントの部分は話さない子だと、友達になって分かった。

「飛鷹君…」

 私には、分からない。踏み込めない部分。

「だからさ、頼む。俺一人でやらせてくれ」

 そう言って、飛鷹君は物凄いスピードで走り去っていった。

 

 私は立ったまま、動けないでいた。

 

 私はもっと小さい頃、お父さんがお仕事で大怪我をした。

 小さかった私は、何も出来なくて、家族はみんな忙しくなった。

 私は一人でいる事が多くなった。

 家族と一緒でも、みんな疲れていて、私は何も言えなかった。我儘なんて言えない。

 みんなお父さんが心配だった。死んじゃうんじゃないかって。

 私は怖かった。怖くて、様子を見に来てくれたおばあちゃんに、しがみ付いて震えていた。

 結果的に、お父さんは助かったけど。私は大切な人を失う恐怖を、初めて感じた。

 それを振り払うように、私は武術を始めた。お兄ちゃん達がやっていたっていうのもあるけど。

 誰かを助けられる、護れるようになりたかった。

 でも、現実は上手くいかない。武術は護身の域を出なかった。本格的に教わっても、お父さん達のようにはなれないと感じていた。無駄だなんて思わない。思わないけど…行く先が見えなくなっていた。

 そんな時だった。

「君には魔法の才能がある」

 私にも、誰かを助けてあげられる力がある。嬉しかった。

 私自身も救われた気がした。

 

 このまま、帰っていいの?このまま帰ったら、私は飛鷹君の友達じゃなくなるじゃないの?

 ただ震えていただけの自分と、何が違うの?

 

 これは、私自身が選んだ事。

 

 目指すべきは、私の身体能力を強化した魔法。魔法の力がある今なら分かる。あの魔法は美しかった。体に負担を掛けないように、気を使った優しい魔法だった。

 

 辿り着くべきは、躊躇なく誰かを助けに行ける実力と心。

 

「ごめん。飛鷹君。帰れないよ」

 

 私は結界に向かって、全力で走った。

 強化魔法は一度目にしてる。それを真似てみる。

 似ても似つかない不格好な魔法。でも、普通に走るより遥かに早く駆け抜けていく。

 結界の境界が見える。

 お願い!通して!

 祈るように、目をギュッと閉じて境界を走り抜ける。

 違和感があって、目を開けるといつもと同じ風景なのに、どこか違う景色が広がっている。

 人がいない。街がまるで水の中に沈んだみたい。

 

 魔法による戦闘は、もう開始していた。

 攻守は目まぐるしく変わっている。

 下手な手出しは、飛鷹君や茶色い髪の子を危険に晒す。

 

『なのはは砲撃型だからな。距離を取って、隙を見て砲撃するのが基本だな』

 

 飛鷹君との訓練での会話が頭に浮かぶ。

 後ろから、支援砲撃すると、今の私だと誤射するかもしれない。

 なるべく、被害が出なさそうな場所…。

 

 私は、飛鷹君を追い越しすようなコースで走った。

 側面から砲撃する。

 そのつもりで走っていると、黒い塊が飛鷹君の攻撃の直撃を回避し、三つに別れて逃げていこうとする。

 逃げちゃう!

 瞬間的に閃く。ロケットだ。

 私は魔力を練り上げ、一気に自分の斜め下に叩き付ける。

 私の身体が一気に吹き飛んでいく。

「ふぇぇぇ~!!」

 これは怖いの!!

 なんとか空中で体勢を整え、魔力で体を護り、着地する。着地すると言うより、落下したって言った方がいいけど。心臓がバクバク言っている。無茶だったかも…。

 でも、価値はあった。

 黒い塊三つ。視界に入っている。

 

『まずはイメージする事かな?』

 

 飛鷹君の声が浮かぶ。

 

 イメージ。あのロボットに撃った光を三つに分ける。

 魔力を練る。一点に集中して、三方向に同時に射撃する。

 外せない!!当たって!!

「ディバイ~ン、バスター!!」

 三つの光が三方向に同時に伸びていく。私は砲撃の反動で、後ろにひっくり返る。

 すぐに立ち上がると、見事に黒い塊に三つとも、無事に命中した。

「どうして、来た!!」

 飛鷹君の厳しい怒鳴り声が響く。

 でも、私も譲れないの!

 私は思っている事を、全て飛鷹君に叫んだ。飛鷹君の心に届くように。

 飛鷹君は顔を顰めた後、苦笑いで言った。

「じゃあ、一緒に大切な人達を護れる自分になろうぜ!」

 伝わった。今、多分私はホントに飛鷹君の友達になったんだ。

「うん!!」

 

 

 やっぱり、基本は大切だね。

 あのロボットの時は、立てなくなったのに、今はまだ余裕がある。

 飛鷹君が茶色い髪の子を抱えて、私の隣に立つ。

 黒い塊は私の攻撃で、墜ちたけど、同時に姿を隠してしまった。

 私が喋ってる間に…。ごめんなさい。

「大丈夫です。今のところ結界に反応がありません。結界内にいますよ」

「そいつは朗報だな」

 茶色い髪の子は、何かに気付いたように私に話し掛けてくる。

「あの、貴女はデバイスは持ってないんですか?」

「うん。先生が厳しくて、まだ要らないだろうって」

 茶色い髪の子は、考え込むように黙り込む。

 決心したように、私に言った。

「よかったら、これを使ってください」

 差し出されたのは、赤いビー玉みたいなデバイス。

 私は、飛鷹君に尋ねるような視線を送る。

「俺個人は、あまり勧めたくないけどな。なのは自身はどうしたい?」

「私は、今、必要だと思う」

 私自身の魔法は、かなり不格好で魔力がまだ少し拡散しているみたい。上手く収束出来ていない。

 今は実戦。デバイスの助けが必要だと思う。

 飛鷹君は外人の人みたいに、肩を竦めた。

 私は茶色い髪の子に向き直って言った。

「借りるね」

 でも、茶色い髪の子は真剣な表情で言った。

「いえ、差し上げます」

「「え(は)!?」」

 デバイスって、確か物凄く高いって言ってたよね?

 飛鷹君は言いたい事が分かったのか、頷いてくれる。

「その代わり、僕に協力して頂けませんか?勿論、危険な事です。断って頂いても構いません。

 でも、お願いします!僕に力を貸してください」

 茶色い髪の子の表情は必死だった。

「大切な事なんだね?」

 私は訊いた。

「はい…」

 私は飛鷹君を見ると、諦めたように頷いてくれた。

 私が決めた事に付き合ってくれるって事だよね?

「あんな危険な事が、他に起きるって事だよね?」

 茶色い髪の子が苦々しく頷く。

 なら、今回はこの子が結界を張ってくれたけど、次は間に合わないかもしれない。

 でも、人手が増えれば、被害が少なくなるかもしれない。

「分かったよ。後で事情を聞かせて?」

 茶色い髪の子が、驚いたように顔を上げる。

「ありがとうございます」

 涙交じりに、茶色い髪の子がお礼を言う。

 

 茶色い髪の子が、魔法陣を展開する。

「レイジングハート。新規使用者設定。魔力波長登録。バリアジャケットイメージ形成」

 レイジングハートが赤く輝くと、私の身体に光が当てられる。

『登録完了しました。よろしくお願いします、マイマスター』

「あっ、はい!お願いします」

 私は思わず頭を下げた。

「なのは。状況が状況だ。セットアップ急いどけ」

 飛鷹君の言葉に、私は頷いた。なんだか、ドキドキするな。

 私はレイジングハートを翳して叫ぶ。

 

「レイジングハート!セ~ト・アップ!!」

 

 ピンク色の魔力光が溢れ出す。

 バリアジャケットのデザインを考えたけど、いい考えが浮かばなかった。

 だから、聖祥の制服を参考にした。

 杖も飛鷹君が持っているファンタジー小説の、魔法使いが持っていたものをイメージする。

 

 光が収まり、目を開けると私は白い魔導士になっていた。

「デザイン、それにしたのか」

 飛鷹君が、反応の薄い言葉を言う。

 聖祥の制服が基本だから、馴染むよ。

 

「早速だが、あの黒い塊…」

「ジュエルシードの思念体です」

「その思念体を探さないとな」

 その言葉に反応するように、結界の一部が衝撃音と共に凄い光を放つ。

「って、探す必要はないみたいだな。結界はどれくらいもつ?」

「三つに別れたままなら、暫くは」

 飛鷹君は私達に振り返る。

「それじゃ、役割分担だ。前衛は俺、後衛はなのは、封印も担当してくれ。それで…?」

 茶色い髪の子が、自分の名前を言っていない事に気付く。

「僕の事はユーノって呼んでください」

 ユーノ君か。なんか女の子みたいで可愛い。

「じゃあ、ユーノは遊撃を頼む」

「遊撃、ですか」

 飛鷹君は、ユーノ君が攻撃魔法を使ってほしいと、勘違いしている事に気付き訂正する。

「危ない方を適時支援してくれ」

 ユーノ君は、勘違いした事が恥ずかしそうだ。

「はい、分かりました」

 

 

 まずは、飛鷹君が結界を破ろうとする思念体に、斬り付ける。

「海波斬!」

 思念体の身体が半分ほど、切り裂かれる。

「グゥォォォ!!」

 身体半分を一気に斬り飛ばされて、思念体は悲鳴のような咆哮を上げる。

 思念体は素早く振り返ると、反撃しようとする。

「ストラグルバインド!」

 そこにすかさずユーノ君が魔法で拘束する。

「なのは!今だ、封印!」

 飛鷹君の合図。

 レイジングハートが力を貸してくれる。私にも封印する事が出来る。

「封印するは、忌まわしき器!ジュエルシード、封…」

 最後まで言い終える前に、黒い影が二つ私に向かって飛んでくる。

『残りの思念体です』

 私は咄嗟に飛び退く。

 私がいた場所が、二つの爪痕を残す。

『アクセルフィン』

 私の足から、ピンク色の可愛い羽が現れる。

 私の身体は風に乗るように、空中に舞い上がり、思念体の追撃を回避する。

 うわっ!デバイスって、こんな事までサポートしてくれるんだ。

 便利過ぎる!飛鷹君がデバイスが早いって言ってた意味を理解した。

 こんな至れり尽くせりじゃ、魔法は上達しないよね。

「ハッ!探す手間を省いてくれて、ありがとよ!」

 一体は、まだユーノ君が拘束している。

 飛鷹君は残り二体のうち片方に狙い、剣を振るう。

 斬るのではなく、剣の腹で叩き付けて、もう一方の移動先を予測し、打ち出す。

 見事に命中し、思念体が呻き声を上げる。

「魔力には、こういう使い方もあるんだぜ!」

 飛鷹君のシルバーの魔力が、竜巻のように二体を巻き込む。

「ユーノ!そっちも纏めるぞ」

「え!?あっ、はい!」

 残り一体も、飛鷹君の魔力の竜巻に飲まれる。

 

「「「グオォォォォ!!」」」

 

 思念体が脱出しようとしているみたいだが、それを一切許さない。

「なのは!封印!!」

 私は頷いて、集中する。

「レイジングハート!」

『準備完了しています!カノンモード』

 杖の形状が変わる。まるで、大砲の砲口みたい。

 練り上げられた魔力が、術式により収束していく。

「ジュエルシード、封印!!」

 杖から凶暴なまでの魔力の奔流が、思念体に殺到する。

 撃った瞬間に、やはり砲撃の反動で後ろにひっくり返ってしまう。

 三体に直撃し、光が三つ纏めて一つに圧縮されるように、黒い塊が消えていく。

「「「グァァァ!!」」」

 断末魔の悲鳴のように、辺りに思念体の咆哮が響いた。

 

 バッシュ!という音を立てて、黒い塊は消失した。

 代わりに、その空間には青い菱形の宝石が浮かんでいた。

 

「やったな、なのは」

 飛鷹君が私の手を取って、立たせてくれる。

「うん!!」

 私達は二人で、予め決めてあったみたいにハイタッチした。

 

 戦いが終わり、ジュエルシードを回収しようと、ジュエルシードに目を向けた時だった。

『御命…し……』

 宝石から何か、黒いものが滲んで消えた。

 ゾッとするような声だった。何を言ってたの?

 

 いつの間にか、達成感なんて吹き飛んでいた。

 何か得体のしれない悪寒が、少しの間止まらなかった。

 

 こうして、私達はジュエルシードを、レイジングハートに回収した。

 

 

              :飛鷹

 

 回収したジュエルシードは、たったの一つだった。

 どういう事だ?三つ取り込んだから、三つに別れたんじゃないのか?

 それに、なのはの聞いたっていう声。

 ここでも、嫌な感じだぜ。

 

 俺達は、近所の公園に場所を移している。

 そして、ユーノから事情を聞いた。

 ほぼほぼ原作通りといった感じだな。

 ただ一点、違う点があった。

 原作では輸送中の事故って言ってたが、ユーノはハッキリと襲撃に遭ったと言っていた。

 

 それと、ユーノは転生者と思しき人物に、助けられていたらしい。

 黒いバリアジャケットを纏った人物で、顔は隠していたらしい。それと使い魔を一人。

 どうも、特徴を聞くとリニスっぽい。どういう経緯で、そうなったんだ?

 おまけに、敵対するかも発言をしていたらしい。全く、何考えてるんだ。

 あと、なのはは凄い食いつきだったが、敵対するかもの下りで萎れていた。

 

 因みに、リスティ刑事には親父経由で報告済みだ。

 

「危険な事は、十分承知の上で、改めて協力してくれませんか」

 必死に頭を下げて、頼み込まれて俺もユーノに協力する事にした。

 

 それにしても、俺を追ってくる時の話を聞いたけど、なのはの無謀な行動には肝が冷えるわ!

 何やってんの!?死ぬの!?

 勿論、厳重に注意したけどな。

 なのはは萎れてたけど、猛省して貰わないと困る。

 あのスフォルテンドすら、呆れて何も言えなかったくらいだ。

 いつもは皮肉くらい言うんだけどな。

 

 ユーノは俺の家で預かる事になった。

 何故かって?俺はユーノが処刑されるところなんて、見たくないからだよ。

 なのはは、うちで預かってもいいなんて言ってたけどな!

「ユーノは仮にも男だぞ。なのはの家は不味いだろ」

 そう言って納得して貰った。

 ユーノは、仮にもってなんだって怒ってたけどな。

 親父に許可を求めたら、OKしてくれた。

 

 こうして、俺はジュエルシード回収に、P・T事件に脚を突っ込む事になった。

 

 

              :???

 

 彼の目覚めはよろしくなかったらしいね。

 随分、アッサリと撤退してしまった。

「お知り合いは、どうでした?」

「寝惚けているようだったよ。まあ、彼も流石に目が覚めたと思うけどね」

 まあ、何百年も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仕様がないだろう。

 

 本番はここからだ。

 じっくり観察させてもらうよ。

 

 




 飛鷹の疾と海波斬の違いは、疾は魔力のシールドも切り裂く事が出来るが
 海波斬は無理という違いがあります。

 さて、第一話終了…ではありません。
 賢明な皆さんなら、疑問を感じたのではないかと思います。
 美海やフェイトは何やってたの?と。
 次回はこの回の裏サイド的な話になります。

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