ロクでなし魔術講師と創世の魔術師   作:エグゼクティブ

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都会へと旅立ってきました。いやはや、どこもかしこも人混み人混み…。都会は大変ですな。

さて遅くなりました。

このあたりから若干のオリジナル設定やら原作改変が出てくると思います。


襲撃

次の日、ソラとグレンは走っていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!! ソラァァお前だけせこいぞぉぉぉぉッ!!」

 

少々語弊があったようだ。

走っているのはグレンだけで、ソラは空を飛んでいた。文字通り大地から足が離れ、重力という世界の法則をガン無視して飛ぶソラ。対するグレンはまだ50m程度しか走っていないのに息を荒くしている。

 

今までの引きこもり生活が集った結果だろう。

 

『ソラだけになんでもありということか』、グレンの内心はめちゃくちゃである。

 

そもそもことの発端は昨日の夜にまで遡る。

それは夕食の席でのことだった。

 

『あぁ、明日から魔術学会で帝国北部の帝都オルランドに行ってくるから2人とも寝坊なんかするなよ』

 

これをフラグと呼ばずなんと呼ぶのか。見事にグレンは寝坊してしまった。ソラは起こしたもののグレンの必殺技『あと5分』が見事に炸裂しこのざまだ。

というよりも、グレンを必死になって起こさなかったあたり、どうやらソラはサボりを正当化しようと図ったようだ。

 

すなわち、『講師が行かなければ自習でしょ?』…こういうことである。

 

アルザーノ帝国魔術学院の生徒たちの爪の垢でも煎じて飲ませたくなる心意気だ。

 

だがソラがサボりたくなるのも当然といえば当然と言える。

 

なぜなら補修(・・)があるのはグレンのクラスだけなのだ。理由はもちろん、担当だったヒューイが辞めたことによって授業が遅れているからに他ならない。そんな火にグレンが自習という名の油を注いだことも大きな原因の一つだ。

 

結論、グレンは自業自得である。

 

そんな中、ソラは目を細めて空中で急停止する。

 

「グレン、結界」

 

「ああ、気づいてるっての」

 

辺りに充満する微かだが、確かに確認できる魔力の痕跡。

この場所が、魔術学院ならば100歩譲って見過ごしてもいいだろう。たがここは市街地だ。

 

周りに人気がないのはこの結界が人払いの能力を持っているからだろう。

魔術師ではない一般市民では到底防ぐことができない。一定の間はまず立ち入ることはできないだろう。

わざわざ人払いの結界を張るということは狙いは一般市民ではない。狙いは間違いなく自分たちのような魔術師だ。

 

ソラは目を細めたまま周りの気配を窺う。

グレンもまた、久しぶりに感じる実践の気配に冷や汗を垂らす。

 

「ご丁寧に人払いの結界まで張ってくれちゃって…逃さないってか?」

 

「敵、緻密」

 

ソラの言う通り、市街地でここまで派手に人払いの結界を張ったのだ。あまり隠密にことを運ぶつもりはないらしい。

ソラは静かに目を閉じ、精霊の嫌な気配(・・・・)を探る。

そして見つける。

 

「そこ」

 

同時に魔術式を起動させ拳大の氷の礫を放つ。放たれた礫は十字路の先、そこ角へと直撃する。

空間が蜃気楼のようにユラユラと揺らめくのと人が動く気配。当然ソラが黙って見過ごすわけもなく追撃するように虚空から氷の礫を生成し、放つ。

グレンは相変わらず人の姿を見つけることができていないが、ソラのそういうところ(・・・・・・・)は到底自分にできることではないと知っているため何もしない。

 

むしろかえって邪魔になると知っているのだ。

 

「…おいおい、確かにおまけ(・・・)ガキがいるとは聞いていたが化け物(ばけもん)とは聞いねえよ」

 

自分の位置が確実に暴露ていると悟った男。黒装束に身を包んだ男は降参したような素ぶりで両手を挙げるが口元には怪しい笑みがこびりついている。

 

炙り出すために威力は抑えたといってもあの弾幕を避け切ったのだ。この男はそれなりの手練れだと確信する。

 

だからこそ、ソラもグレンもここで気をぬくようなことはしない。

 

「なるほど、おまけってことは狙いは俺か」

 

若干安心したようにグレンは言う。ソラは相変わらず無表情だが、てっきり狙われているのは自分だと思っていたため内心で驚く。

 

「お前ってわけでもないがな。今頃学院じゃドンパチ始まってるあたりだろうよ」

 

「ほう…随分とベラベラ喋ってくれるんだな」

 

やけに饒舌に喋る男にグレンは怪訝な様子で問いかける。大胆な作戦ではあると思っていたが、ここまでくると逆に恐ろしくなってくるといもの。

男の口元には相も変わらず、怪しい笑みが張り付いている。

 

だが、男の考えは酷く単純だった。

 

「これから死ぬ奴に喋ったところで問題でもないだろ?」

 

それは2人を確実に殺れると考えてのことに違いなかった。これこそが男の誤算と言えよう。

 

「穢れよ・爛れよ・…」

 

男が詠唱を始める。その呪文は防御が厳しい致命的な威力をもつ呪文。

だがそれは、もしもグレン1人だけだった場合だ。

 

「みんな」

 

男の元に魔力が集まっていくのを感じとったソラはポケットから液体を取り出し、円形に撒き散らすと同等(・・)の魔力を供給する(・・・・)

甲高い音を立ててソラの周りを精霊が飛び回り、騒めく。

 

「…」

 

男の詠唱に合わせて飛び回る黒い精霊。ソラはこの精霊を黒精(こくせい)と呼んでいる。

 

今更ながら、気づいたものもいるだろう。

精霊には種類があることに。

先日、ルミアの周りを飛んでいた眩い光を放つ精霊…白精(しろせい)

 

精霊は主にこの二種類で成り立っている。

 

精霊が隠された断なのは自分が魔術を使用する際にその存在を認知できないからだ。

 

こうしてソラが(・・・)魔術を使わない限りは…。

 

もっと突き詰めて言えば、『世界が影響を与える』のではない。『精霊が影響を与える』と言ってしまっても過言ではないのだ。

 

「…朽ち果てよ」

 

男の呪文が三節で完成する。

同時に黒精が騒めき、男の元に溜まっていた禍々しい魔力が解放される。

黒い色をした禍々しい霧のような何かがやがて小さな水滴となり、一つ一つが小さな槍のごとく飛来する。

 

「頼みましたソラ大先生ぇぇッ!!」

 

「ん」

 

小さな水の槍に対してソラが頼んだ(・・・)のは白い魔力で構成された魔法陣型の防御魔術。

 

名を呪解・円環陣(ディスペル・サークル)

 

ソラとグレン、そしてセリカが考案した魔法だ。

浮かび上がった魔法陣が男の魔術とぶつかると一瞬の攻防の後、霧散する。

 

何事もなかったかのように霧散したのだ。

未だに青い光を放つ魔法陣。

 

そしてその中でまったく無傷で仁王立ちする2人。ソラはともかくグレンまでドヤ顔なのは彼の性格と言えよう。

 

「おいおい、冗談よせよ」

 

男は今しがた、信じられないものを見せつけられ乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 

「こっちこそ冗談はよせよ。酸毒刺雨なんざ…死体どころか身元不明で通夜まで開かれねーよ」

 

『ふざけている』…男がそう思ったのはグレンの態度になのか、あるいは自身の黒魔をいとも容易く防いだソラの魔術に対してなのか。

 

それともこれだけの魔術を無詠唱かつ、()だけで構成したソラの異常さになのか。

 

「ソラ…」

 

『殺すな』グレンがそう言おうとした時にはすでに遅かった。感情のない瞳で瞬時に指先に魔力を集め光線のように放出した。

 

それは寸分違わず、男の心臓に直撃した。

 

その所業に味方だったはずのグレンでさえも冷や汗を流す。殺人機械(さつじんマシーン)…グレンから見て、今のソラはまさにそれだった。

なんの躊躇いもなく、人を殺す機械。感情は一切ない。決められたように人を殺す。

ソラはグレンのトラウマに気づいているものの、容赦をするつもりはなかった。故に、殺した。

 

そもそも襲ってきた敵に対して殺さないというのはどうなのか。ソラは自問自答を繰り返す。だが、結論は変わらない。

 

「はぁ…。目的は学院らしい。急ぐぞ」

 

「ん」

 

男の死体を軽く払拭すると、ソラとグレンは先を急ぐ。グレンはソラの様子を気にかけながら。

ソラは自分が男を殺したとき、周りを飛んでいたのは黒精だと気づかないまま。

 

◆ ◆ ◆

 

アルザーノ魔術学院に到着した2人を出迎えたのはすでにこと切れた守衛と大層な結界だった。

 

守衛の状態は悲惨。

 

こうして綺麗な顔が残っているということは先ほどの男との犯行ではないだろう。別行動班によってすでにアルザーノ魔術学院は占拠されているとグレンとソラは確信した。

 

「ソラ、わかるか?」

 

「黒精、たくさん」

 

「いや、位置はいい。この厄介極まりない結界の方だ」

 

ソラは小さく頷くと結界を手で触り、目を見開き解析を始める。グレンも同じように結界の構造を読み解こうと試みる。

もともと学院には結界が存在していた。もちろんセキュリティーの面で張られていたものだが、今はその在り方ではない。

 

むしろ学院関係者であるグレンを弾いてしまっていることから学院内部の誰かが改変したことになる。

 

或いは今回のテロリストの首謀者が天才だったか。

 

天の智慧(ちえ)研究会…それがこの事件の犯人であることは先ほどの男のナイフで確認できた。

短剣に絡みつく蛇の紋…研究会というにはあまりに馬鹿げている集団のエンブレムがそれだ。

 

魔術師というのは天から選ばれた存在であり、それ以外は存在価値がない。価値がないから殺そうがどうしようが魔術を極めるためには許される。

 

自分たちの行動はすべて理にかなった正義だと言って聞かない外道魔術師たちの集団だ。

 

「結界構成、解析完了。学院全部、覆ってる。中心、変わってない」

 

中心というのはこの結界の核。ソラが変わっていないということは新しく作られた結界ではなく、書き換えられたことを示している。

 

御丁寧に結界を壊した後、寸分違わず同じ場所に結界を作ったなら別だが誰にも気付かれずにそんなことは不可能だ。

 

「おいおい、ってことはこの強固で馬鹿でかい結界を短時間で書き換えたのか? 天才にもほどがあんぞ」

 

「だから、裏切り者」

 

グレンの考えをソラが一蹴する。

 

「犯人探しは後だな。セリカに連絡がつかない今、特定のしようがない」

 

セリカは未だに事情も知らずに眠っているか、学会に行くための準備をしているところだろう。だが、すでに王都にいることは間違いない。

グレンは男の懐から奪っておいた一枚の符を取り出す。

 

「恐らくこの符を使えば中に入れるだろう。だが、こいつは使い捨ての片道切符。出ることはできそうにない。でも、まあ、お前がいればなんとでもなるだろ」

 

危険な賭けではある。

だがなかなか入らない限り、補講のために学院にきている生徒たちの身が危ない。

ここまで大掛かりなことをしてのけたのだ。油断はまずできない。

 

セリカに連絡がついて救援を頼んでも、この結界に阻まれる。突破するには時間がかかる。

ならば、今動ける自分が行くしかない。

 

「ルミア??」

 

不意にソラが呟く。視線の先は転送魔法陣がある塔。グレンはソラのつぶやきからすでにルミアが何かしらの被害にあっていることを察し、躊躇いもなく結界の中へと入って行った。

ソラは塔をじっと見つめ、大きく深呼吸をする。

 

精霊が騒めく。

 

一度結界から後退すると一歩ずつ、ゆっくりとした歩調で結界に向かって近づいて行く。ソラの周りには精霊たちが飛び交う。

 

結界に向けて手を伸ばす。

 

同時に飛び交っていた精霊たちが結界へと移っていく。

 

「通して」

 

精霊が再び騒めく。

 

こんな芸当、グレンですら予想できなかっただろう。

たった一言。

それだけで結界の一部が改変された…いや、無理やりこじ開けたと言った方が正しいか。

 

馬鹿げている。

 

結界に穴が空いたのを確認するとソラはいつもの感情のない瞳で学院の中へと入って行った。


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