うまく描けない…だと…。
期間は空いてしまいますが、続けていきますよ〜
それは魔術競技祭まで残すところ一週間と迫った昼に起こった。
「邪魔なんだよお前ら!!」
大きな怒声が中庭に響き渡る。声を荒げたのは随分と大柄な生徒。顔を見るあたり二組の生徒ではない。ソラはその場所からわずかに離れた場所で日向ぼっこに勤しんでいた。
とくに理由はない。
ただ単に目の前に芝生があり、お日様がポカポカしていて気持ちよかったこともあって気がついたら寝転がっていた。欲望に忠実なことこのうえない。時と場所を選んで欲しいものである。
時折ルミアが起こしにきてはいたものの、苦笑いを浮かべてクラスの集団へ行ったり来たりして忙しい。
協調性皆無とはこんな生徒のことを言うのだろう。
遠くでヒートアップしていく口論にも特に興味を示すことなく寝転がるソラ。だが突然、自分の身体が物凄い力で持ち上がる。若干首が苦しいと感じるあたりどうやら自分は襟を掴まれているとソラは推測する。
「おーい、何かあったか?」
この声は間違いようがない。グレン=レーダスその人だ。
怒声を聞いて駆けつけてきたのだろう。講師としての心構えが身につきはじめているようでなによりだ。
「あ、グレン先生…大丈夫なんですか、ソラくん?」
グレンが近づいてきたことに気づいた女子生徒。だが、視線の先は捕らえた獲物のように引きずられているソラ。死人のように見えてしまうのはソラが引きずられているのにも関わらずぐったりとしているからに違いない。
「別になんてことない。いつものことだからな」
「ん」
やがて止まったことを確認したのか、ソラはむくりと起き上がるとフラフラしながらも立つ。そんなソラの頭を手にしていた棒で軽く叩く。
「それで、何があったんだ?」
おぞましいような光景を呆気に見ていた一組の生徒も含めてその場にいるものは自分たちが何をしていたのか思い出す。
「そうです! 聞いてください先生!こいつら…」
「うるさいぞ! この場所は俺たちが使うんだ、どっかいけよ!」
面倒ごとに巻き込まれることを予想していたグレンはこの程度のことでよかったと安堵すると今にも取っ組み合いをしそうな一組、二組の二人の生徒先ほどソラを引きずったように襟を掴んで引き剥がす。
無理矢理引き剥がしたこともあって生徒は噎せてしまったようだが、ちょうどいい罰だと考える。
「一組ってことは…あ〜ハッちゃん先生のクラスか?」
「ハッちゃん!?」
グレンの言葉に生徒たちが揃って驚く。プライドが高く名声もあるハーレイをそこまで親しげに呼ぶ…いや、呼べる人間を彼等は知らなかったからだ。
それこそ、学院長であってもこんな呼び方はしないだろう。
「ハーレイだっ!!!」
故に、本人も許容できるものではなかった。
「あ、ハーピー先生、ちーっす」
まるで音符マークでも着きそうな声音のグレンにさらに青筋を立てるハーレイ。ちなみに本名はハーレイ=アストレイである。間違ってもハーピーでもハーレムでもない。
「貴様、未だに私の名前を覚えていないのか」
「で、先輩のクラスも今から練習っすか?」
「話を逸らすなっ!!」
ぜえぜえと肩で息をしながら舌打ちをすると冷静さを取り戻したのか眼鏡を持ち上げる仕草をする。相変わらず腹立たしいことこの上ないが拉致があかないと感じたハーレイは再度話を続ける。
「当然だとも。女王陛下の前で無様を晒すことは許されんからな」
この男もどうやら女王陛下から勲章を賜ることが目的のようだ。むしろ、グレン以外に金目当ての教師などいないがそこはまあいいだろう。
「それでやる気の欠片もない。貴様のクラスがここに何の用だ?」
「いやいや、普通に魔術競技祭の練習ですよハーレム先生」
「ハーレイだッ!!成績下位者を出場させている貴様のクラスなどやる気の欠片も感じないわ!そんな弱小クラスが私のクラスの邪魔をしようなど迷惑千万だ!」
ハーレイの酷い言いように生徒たちは表情を暗くする。生徒たち自身も今回のグレンの采配があまりに型破りなことか理解している。唯一、無関心なソラは目をこすりながら欠伸をしているが、それが余計にハーレイを苛立たせているようだ。
萎縮した様子の生徒たちをみてグレンはなにを思ったのか突然高笑いをし、言った。
『うちのクラス、これで最強の布陣ですがなにか?』…と。
グレンの絶対的な自身に思わず息を呑むハーレイとその生徒たち。
信頼されていることに瞳を輝かせるグレンの生徒。
「お、起きてソラくん」
立ったまま寝るソラと揺さぶるルミア。
それから話がみるみるエスカレートしていき、勝った方に3ヶ月分の給料を支払うという賭けが成立したのだが、それはここにいる生徒と教師以外知り得なかった。
◆ ◆ ◆
魔術競技祭の練習が本格的に始まっていく中でも場所の取り合いは緊張感を高めていった。実力行使をしてくるのはごく僅かではあるもののいるようで遭遇するたびに不可解な現象によって撃退されていった。
やれ魔術が途中で消える。
やれ突然魔術使用者が立っていられなくなるなどといったものだ。
すべてソラが日向ぼっこしながらやったことだが、それを知っているのはグレンとルミアのみだ。
毎度毎度日向ぼっこに勤しんでいたソラであるものの、いざ練習が始まるとそういわけには行かないようでルミアとシスティーナに引っ張られ練習をしている。
ことの始まりはギイブルを含めたクラスメイトたちの『え、こいつ本当に強いの?』から始まった。
確かに実力を知っているのはグレンとルミアのみだが、ルミアも一旦しかみたことはない。つまり、知っているのはグレンのみ。
誰しもが疑問に思っただろう。
結果的に決闘戦に出ることが叶わなかったウィンディとソラが模擬戦をすることになった。
ルールは決闘戦と同じ。
緊張して2人を見つめるクラスメイトを他所にソラはいつものごとく眠たそうに目をこする。それが気にいらないウィンディは額に青筋をピキリと立てている。
この少年、明らかになめくさっている…と言いたいところではあるが、他意はないのでなんとも言えない。
むしろタチが悪いか。
「大いなる風よッ!!」
グレンの合図とともにウィンディが先制攻撃をすべく呪文を紡ぐ。選んだ魔術はゲイル・ブロウ。速度を重視した一説のみの詠唱。
ソラに向けて放たれる強烈な突風。
だが、その突風は突如としてソラの目の前に現れた光る膜によって防がれてしまう。
「なっ!?」
別段詠唱をしたわけではないソラに驚愕するウィンディ。唖然とするクラスメイトたち。グレンの視線ははるか虚空を見つめていた。
「ビュン」
小さく呟かれた言葉に果たしてどれほどの意味があったか。ソラが小さく呟いたのとほぼ同時にウィンディのものとは比べものにならない突風が空を切る。
予測もしていなかった状況に動揺するウィンディを容赦なく突風が襲う。最後の最後で対抗呪文を唱えようとしたようだが時すでに遅し。ウィンディの両足は地面から離れ、そのまま後ろへと飛ばされていった。
『要はだな、魔術ってのは超高度な自己暗示なんだよ。自分の深層意識を改変するためのな』
ウィンディを含めたクラスの生徒たちが思い出すのはグレンのいつかの授業。
あり得ないと声を荒げながらもどこかで納得してしまった…興奮を覚えてしまったあの授業だ。
「これが、深層意識の改変というやつですのね…」
「納得したか?」
立ち上がるウィンディにドヤ顔で手を伸ばすグレン。その役目はソラなんじゃないかと疑う者は今この場にはいない。本来ならば誰かが…主にシスティーナあたりがツッコミを入れるのだろうが、眼前で起きた光景に誰しもが言葉を失っていた。
「ま、まあ私の代わりに決闘戦に出るのですから、これくらいやってもらわないと困りますわ!」
負け惜しみを口にするウィンディのその表情はどこか誇らしげだ。これで自分の競技に専念できるというものだろう。同時に、ソラの評価ももちろん上がった。
セリカから魔術を教わったという話が嘘ではないかとが証明されたというところか。
グレンは何事もなかったことに安堵の息を漏らす。
本来ならば言葉すら発せずに魔術を行使することが可能なソラ。だが、グレンやセリカが事前に声をだせときつく言ったことが功を成したようだ。
そしてこのVサインとドヤ顔である。
「というわけでおさぼり寝坊助マンの実力については理解できたと思う。まああれだ、セリカの弟子というのは伊達ではないというわけだ」
グレンの言葉に生徒たちは頷いた。
「…V」
「いつまでやってるのソラくん…」
ガキである。
魔術大会を勝ち抜くのはどのクラスなのか、それは誰にもわからない。