ロクでなし魔術講師と創世の魔術師   作:エグゼクティブ

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エグゼクティブと申します。
ロクでなしは初めての作品になりますが、よろしくお願いします。


プロローグ
エアリアル崩壊


少年にとって今日もなんともないただの日常のはずだった。

 

天候は良く、ピクニック日和の雲ひとつない綺麗な青空がどこまでも広がっていた。

これみよがしに少年は父と母に頼み込み、街の外れにピクニックに出かけた。

花々は美しく咲き、明るく暖かな太陽が優しくふりそそぐ。

 

家族団欒の何気ないひと時だった。

 

ちょうどお弁当を広げたときだったか…突然として景色が真っ赤に染まったのは。

 

少年は無残な姿になった母と父を見ながら、なぜこうなったのか考える。今からどうすればいいのか懸命に考える。

もうどうしようもない…そんな考えが脳裏をよぎる。

力を込めて握っていたはずの少年の母の手がするりと落ちる。

縋るように父を見ても、すでに瞳を閉じて息をしていない。

 

「父、母…あ、…あ」

 

こと切れた少年の母と父の死体から目を離し、少年は呆然と空を見上げる。

その目に宿るものはもう何もない。

 

空虚。

 

青空だったはずの空が周りの景色を鏡で映しているかのように真っ赤に染まる。登っていた光り輝く太陽もここまでくると怪しく光っているようにしか見えない。

 

「……」

 

空から目を離し、今度は叫び声がする方へ目を向ける。

少年が住んでいた街…名をエアリアル。

 

美しい花と水で彩られた隠れた名所として知られているその街。

 

そんな街はこの距離から見てもわかるほど、街はめちゃくちゃだった。

街のシンボルである時計塔は無残にも折れ、街中から炎と煙が噴き出している。

 

何がいけなかったんだ。

 

別に悪いことはしていない。

 

じゃあなんでこんなことになってる。

 

理不尽だ。

 

そうだ…世界は理不尽だ。

 

世界は理不尽でできている。

 

「…あ、あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

そこからは先のことを少年はよく覚えていない。

しかしながら朧げに金髪の女の人とたくさんの赤い血を見たことだけは覚えていた。

 

◆ ◆ ◆

 

同時刻。

街の中は阿鼻叫喚に陥っていた。

 

黒いローブに身を包んだ謎の者たちによって次々に人々は蹂躙されている。中には気絶だけで済んでいるようなものいるようだが、それは皆子どもだけだ。

黒ローブの男が次の獲物を見繕うと短剣を構えるのと同時に黒ローブの男は地面へ叩きつけられた。

 

「やれやれ、()にしたがって動いてみれば、ここまで大掛かりとは…貴様ら、何が目的だ?」

 

「…魔女か」

 

黒ローブの男が見上げたそこには金髪の女性の姿。

 

「質問に答えろ。何が目的だ」

 

焦らす黒ローブの男に金髪の女性は冷たい視線を向ける。そこには情など微塵にもなく、いつでも殺れるという強い殺意がこもっているように思える。

どうしたものかと黒ローブの男は一瞬躊躇したが、遠くから聞こえてきた声に口元を歪める。

 

そして金髪の女性に向かってゆっくりと口を開く。

 

 

覚醒した……と。

 

 

 

黒ローブの男に訝しむような表情を向けた金髪の女性。

追求する必要があると判断した直後、尋常ではない何かを感じとり全力で後ろに下がる。

 

まばゆい光だ。

それも極大の。

 

大地を揺らす轟音とともに突然として空から降りそそいだまばゆい光。

その光は今まさに自分がいた場所へと落ちていった。

光が収まったその場所にはもはや地形などあったものではない。

黒ローブの男はもちろんのこと、巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

「創世の魔術師」

 

自分がそこにいたときのことを考えて冷や汗を流す女性に追い討ちをかけるように、いつの間にか現れた黒ローブの男たちが女性に向かって魔術を放つ。

当然、そのことに気づかないほど感が鈍くない女性は軽く身を捻って魔術を回避する。

 

「まだいたのか」

 

女性の問いかけに男たちは空を見上げて口元歪める。

 

「覚醒した」

 

「言ってる意味がわからない」

 

「我らの仕事は終わった。また後ほど合間見えるとしよう」

 

「待ッ!?」

 

再び空から極大の光が降り注ぐ。

男たちの数人は巻き込まれたようだが、2人は光に巻き込まれることなく女性の前から姿を消した。

ここからでは追いつけないと判断した女性は先ほどの声がした方向へ視線を向ける。

 

「子ども??」

 

宙に浮いた人が近づいてくる。

大きさからして大人ではなく、子ども。

近づいてくるにつれて身なりが観察できるようになる。

 

青色の髪に青い目は女性がここに来る直前の青い空色そのものだが、今のこの景色のせいか禍々しいように見える。

服装はボロボロだが、怪我のようなものは見当たらない。

 

「…許さ、ない…」

 

小さく紡がれた言葉とともに、4つの炎の弾丸が女性を襲う。

 

「無詠唱とは世界の法則すらもぶち壊しか」

 

先ほどの魔術を回避したときと同じように幾度か身を捻って回避すると小さい詠唱とともに少年に向かって雷の魔法を放つ。

だが、女性の魔術は少年の手前で光る膜に遮られ届くことはなかった。

 

さらに少年が吠える。

 

女性はその声から少年の様々な感情を朧げにだが感じた。

 

怒り、嘆き、恨み。

 

小さな蝶のような光る何かが少年へと集まっていく。

それは精霊と呼ばれる隠された世界の理り。

少年の感情に、声に呼応するかのように蝶のようななにかは少年の周りを飛び回る。

 

そして生まれたのは幾多もの光の剣。

 

女性はこの光景を見ただけで理解する。

 

黒ローブの男たちが言った意味。

少年の無詠唱の原理。

 

そしてこの少年そのものを。

 

「まさかとは思ったが、どうやらそのまさかが本当に的中したらしい」

 

女性は冷や汗を流しながら内心で溜め息をおし殺すと隠し持っていた懐中時計の形をした妙な道具を掲げる。

 

 

「まったく、どうしてこう嫌な勘ってのは当たるんだか…」

 

 

そして、世界が止まる。

 

 

これが後に歴史に紡がれるエアリアル崩壊事件である。

そしてここから件の少年、ソラ=アルスターの第二の人生が始まった。

 

 


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