西尾と金木の戦いから数時間。喫茶店あんていくの2階の1部屋に、3人の男女が集まっていた。
「あいつはヤバい…、強さとか関係なく純粋に狂ってる」
震えながら言葉を発したのは、傷の手当てをし終えた西尾である。
「店長!あいつは危険だ!早く殺すべきです!」
そう言葉を荒げるのは霧嶋。この部屋にいる最後の1人、あんていくの店長、芳村は言葉を濁した。
「だが、今この20区に
「分かりました…」
渋々とうなずく霧嶋。
「けど、あの永近とかいう奴は殺すべきです!」
「ダメだ」
「何でですか!?」
再び声を荒げる霧嶋。
「永近君は金木君の友達なんだろう?永近君を殺したことによって、金木君が暴走し始めるかもしれない」
芳村の言葉に霧嶋は押し黙る。
「西尾君もいいね?」
西尾は金木に対しかなり強烈なトラウマを植え付けられた様子で、芳村の言葉を聞き黙って頷いた。
あんていくでそんな話し合いが行われていることなどつゆ知らず、翌朝
「いやー、居眠り運転の車に突っ込まれてもほぼ無傷なんて、俺達運が良いのか悪いのかわからないな!」
隣に座る金木の肩をバシバシと音が出そうな勢いで叩く永近。
「まあね…」
「西尾さんはかなり重症らしいけど、どこに入院してんだろうな」
「さあ」
そういうと、金木は手に持ったペットボトルに入った赤い液体を一口飲む。永近には肉オンリーの弁当のせいで不足するであろうビタミンなどを摂取するためのトマトジュースだと偽るこの液体は、昨夜金木が狩った人間の血液だった。人間にしても喰種にしても血液は酸素に長時間触れると酸化し、変色してしまうため血抜きしてからペットボトルに詰めるのにかなり苦労したが、人間であることを偽装するためなら、金木は努力を惜しまなかった。
「じゃあなー」
大学の授業が終わり、今日もバイトだという永近と別れた金木は電車で13区へと向かう。渋谷や原宿など若者たちが集まる街が数多くある13区だが、気性の荒い
「もう7時か…」
手近なカフェで暗くなるまでの時間をつぶした金木は店を出る。
人気がなく薄暗い道へ入っていく金木だが、突然頭上から降って来たチンピラ然とした男に吹き飛ばされた。
「見つけた…」
金木を吹き飛ばした男の両眼は
「ああ?なんだお前
金木の左眼は興奮から紅く染まっており、それを見た男はそう吐き捨てる。
「チッ!今回は見逃してやるから早く行け…」
男の言葉はその頭を叩き潰した金木の赫子によって遮られた。
「やっとだ!やっと、
金木は周りに人の気配がないのを確認すると、死体へと近づく。
「いただきます」
その夜、13区から3人の
「お前、なんか良いことあった?」
翌日、大学の休み時間に金木の対面に座った永近は開口一番、金木にそう言った。
「いや、別に何もないけど」
「そうか?それにしては嬉しそうな顔してるし、彼女でも出来たんじゃないのか~?」
ウリウリと金木の脇を肘で小突く永近とそれを鬱陶しがる金木、そんな2人に1人のショートカットの女性が近づいていく。
「あの…永近くん…だよね」
ショートカットの女性が永近へと話しかける。
「あっ…確か西尾さんの…彼女…さん?」
女性は肩にかけたバッグからDVDを取り出し、永近へと手渡す。
「これ…ニシキくんから」
「DVD…?あっ、学祭の資料…!」
「それじゃ渡したから…」
「あ、あのっ!」
逃げるように去ろうとする女性を呼び止める永近。
「西尾さんってどこに入院してるんですか!?俺たちも見舞いに行きたいんですけど…」
西尾の彼女だと思わしき女性は、永近の言葉に立ち止まったが、振り向くそぶりも見せず走り去った。
「行っちまった…何か俺気に障ること言ったか…?」
ぼやく永近を尻目に金木は考え込む。確かに金木は西尾に幾らかの傷を与えたが、
「ヒデか…」
「ん?」
金木は、自分の対面の席でこちらを見てくる永近を見やる。金木にとって永近は自分の命を懸けてまで守りたい親友というわけではない。小学生の頃、独り教室の隅で難しい本を読んでいた金木に声を掛けた永近。金木は最初永近のことを自分の読書タイムを邪魔するうるさい奴としか認識していなかった。だが、永近は何度も金木に声をかけ、いつしか金木も永近にだけは心を開くようになっていた。全てを託せる親友というわけではない。現に金木は自分が
「その時は助けてあげるよ」
「だからなんだよカネキ~」
「ただの独り言さ」