サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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やっぱり完全オリジナルシーンってのは書きにくいですね。


8

 西尾と金木の戦いから数時間。喫茶店あんていくの2階の1部屋に、3人の男女が集まっていた。

 

 「あいつはヤバい…、強さとか関係なく純粋に狂ってる」

 

 震えながら言葉を発したのは、傷の手当てをし終えた西尾である。

 

 「店長!あいつは危険だ!早く殺すべきです!」

 

 そう言葉を荒げるのは霧嶋。この部屋にいる最後の1人、あんていくの店長、芳村は言葉を濁した。

 

 「だが、今この20区に白鳩(ハト)が現れたという噂もある。下手に事を荒立てることもないだろう」

 

 「分かりました…」

 

 渋々とうなずく霧嶋。

 

 「けど、あの永近とかいう奴は殺すべきです!」

 

 「ダメだ」

 

 「何でですか!?」

 

 再び声を荒げる霧嶋。

 

 「永近君は金木君の友達なんだろう?永近君を殺したことによって、金木君が暴走し始めるかもしれない」

 

 芳村の言葉に霧嶋は押し黙る。

 

 「西尾君もいいね?」

 

 西尾は金木に対しかなり強烈なトラウマを植え付けられた様子で、芳村の言葉を聞き黙って頷いた。

 

 あんていくでそんな話し合いが行われていることなどつゆ知らず、翌朝喰種(グール)の回復力のおかげで傷の全て癒えた金木は大学へと登校する。

 

 「いやー、居眠り運転の車に突っ込まれてもほぼ無傷なんて、俺達運が良いのか悪いのかわからないな!」

 

 隣に座る金木の肩をバシバシと音が出そうな勢いで叩く永近。

 

 「まあね…」

 

 「西尾さんはかなり重症らしいけど、どこに入院してんだろうな」

 

 「さあ」

 

 そういうと、金木は手に持ったペットボトルに入った赤い液体を一口飲む。永近には肉オンリーの弁当のせいで不足するであろうビタミンなどを摂取するためのトマトジュースだと偽るこの液体は、昨夜金木が狩った人間の血液だった。人間にしても喰種にしても血液は酸素に長時間触れると酸化し、変色してしまうため血抜きしてからペットボトルに詰めるのにかなり苦労したが、人間であることを偽装するためなら、金木は努力を惜しまなかった。

 

 「じゃあなー」

 

 大学の授業が終わり、今日もバイトだという永近と別れた金木は電車で13区へと向かう。渋谷や原宿など若者たちが集まる街が数多くある13区だが、気性の荒い喰種(グール)が多く喰種(グール)同士の喰場争いなども多発する危険な地域だった。

 

 「もう7時か…」

 

 手近なカフェで暗くなるまでの時間をつぶした金木は店を出る。

 

 

 人気がなく薄暗い道へ入っていく金木だが、突然頭上から降って来たチンピラ然とした男に吹き飛ばされた。

 

 「見つけた…」

 

 金木を吹き飛ばした男の両眼は喰種(グール)の証である赫眼で、それを見た金木はむくりと起き上がると、にやりという音が出そうな笑みを浮かべた。

 

 「ああ?なんだお前喰種(グール)かよ、勝手に人の喰場入ってくるんじゃねえぞ!」

 

 金木の左眼は興奮から紅く染まっており、それを見た男はそう吐き捨てる。

 

 「チッ!今回は見逃してやるから早く行け…」

 

 男の言葉はその頭を叩き潰した金木の赫子によって遮られた。

 

 「やっとだ!やっと、喰種(グール)の肉が喰える!」

 

 金木は周りに人の気配がないのを確認すると、死体へと近づく。

 

 「いただきます」

 

 その夜、13区から3人の喰種(グール)の姿が消えた。後日発見された3人分の遺体は、文字通り骨の髄までしゃぶられていたという。

 

 「お前、なんか良いことあった?」

 

 翌日、大学の休み時間に金木の対面に座った永近は開口一番、金木にそう言った。

 

 「いや、別に何もないけど」

 

 「そうか?それにしては嬉しそうな顔してるし、彼女でも出来たんじゃないのか~?」

 

 ウリウリと金木の脇を肘で小突く永近とそれを鬱陶しがる金木、そんな2人に1人のショートカットの女性が近づいていく。

 

 「あの…永近くん…だよね」

 

 ショートカットの女性が永近へと話しかける。

 

 「あっ…確か西尾さんの…彼女…さん?」

 

 女性は肩にかけたバッグからDVDを取り出し、永近へと手渡す。

 

 「これ…ニシキくんから」

 

 「DVD…?あっ、学祭の資料…!」

 

 「それじゃ渡したから…」

 

 「あ、あのっ!」

 

 逃げるように去ろうとする女性を呼び止める永近。

 

 「西尾さんってどこに入院してるんですか!?俺たちも見舞いに行きたいんですけど…」

 

 西尾の彼女だと思わしき女性は、永近の言葉に立ち止まったが、振り向くそぶりも見せず走り去った。

 

 「行っちまった…何か俺気に障ること言ったか…?」

 

 ぼやく永近を尻目に金木は考え込む。確かに金木は西尾に幾らかの傷を与えたが、喰種(グール)の回復力であれば、遅くても数日で完治するレベルの傷だ。事実、西尾より遥かに重いであろう金木の傷は一晩で完治している。だが、金木の調べた限り昨日も今日も西尾は大学に登校していない。西尾はいったい何をしているのか、金木の考える可能性は2つ。まず1つ目は、本当に傷が未だ完治していないというもの。だが、この可能性はかなり低い。2つ目は、自分を返り討ちにした金木かそれに近しい人間に対する復讐の準備を進めているというもの。金木の前での西尾の言動からして、このまま引き下るとは考えにくい。しかし、金木には西尾がどんな手を使っても返り討ちにする自身がある。ただ、金木にも懸念は1つある。金木の身近な人間が狙われる可能性だ。金木に両親や親類は居らず、友達もほぼいない。唯一身近な人物と言えば…

 

 「ヒデか…」

 

 「ん?」

 

 金木は、自分の対面の席でこちらを見てくる永近を見やる。金木にとって永近は自分の命を懸けてまで守りたい親友というわけではない。小学生の頃、独り教室の隅で難しい本を読んでいた金木に声を掛けた永近。金木は最初永近のことを自分の読書タイムを邪魔するうるさい奴としか認識していなかった。だが、永近は何度も金木に声をかけ、いつしか金木も永近にだけは心を開くようになっていた。全てを託せる親友というわけではない。現に金木は自分が喰種(グール)になったということを隠している。しかし、もし永近が金木のせいで襲われることになったら。

 

 「その時は助けてあげるよ」

 

 「だからなんだよカネキ~」

 

 「ただの独り言さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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