サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

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 金木と霧嶋が喫茶店あんていくの中に入ると、店内には金木にも見覚えのある1人の老人が居た。

 

 「連れてきました。店長」

 

 霧島が老人に声をかける。

 

 「君がトーカちゃんが言っていた隻眼の喰種君だね」

 

 「ええ、僕になにか話があるとか」

 

 「1ヶ月ほど前の臓器移植事件。あの事件の発端は2人の学生が犠牲となった鉄骨落下事故だ。片方の女学生は即死…もう片方の青年は瀕死の状態で、彼には緊急で臓器の移植が必要だった。そして、医師は独断で女学生の臓器を青年に移植した。世間では遺族に無断で臓器を移植に使用した医師がバッシングを受けたけど、重要なのはそこじゃない。死亡したその女学生は実は喰種(グール)だったんだ」

 

 霧嶋が息を呑む。

 

 「店長、その喰種(グール)って…」

 

 「おそらく、リゼちゃんだろうね」

 

 店長は金木の方へと向き直る。

 

 「単刀直入に聞こう。リゼちゃんの臓器を移植された青年というのは君かい?」

 

 金木は表情を変えずに頷く。

 

 「そして、喰種(グール)の臓器を移植された君の身体は私達喰種(グール)へと近づいている」

 

 「ええ、そうです」

 

 「そうか…」

 

 店長は目をつぶり、黙り込む。

 

 「うちの店に来ないかい?」

 

 数十秒後、目を開いた店長は金木をあんていくへと誘う。

 

 「店長!?」

 

 霧嶋が驚いた声で叫ぶ。

 

 「こいつはあたしを襲って来たんですよ!?」

 

 「だからといって彼をこのまま放っておくわけにもいかないだろう」

 

 「ですけど…」

 

 「せっかくのお話ですけど、お断りさせていただきます」

 

 店長が驚いたような顔で金木を見る。  

 

 「なぜだい?うちなら喰種(グール)の社会について学ぶことが出来る。それに、君に人の肉を提供することだってできるんだよ?」

 

 「人は自分で狩れますし、少しやりたいことがあるんで」

 

 店長と霧嶋は、金木に不気味さを覚える。何故少し前までは普通の人間であった筈の青年が、人肉を食べることどころか人を殺すことになんの抵抗をも抱かないのか。霧嶋は昨日金木と出会った時のことを思い出す。あの時、霧嶋に絡んでいた男を殺した金木のナイフ捌きは、一朝一夕で培えるようなものではなかった。おそらく、金木は人間であったころから沢山の人を殺している。もし本当にそうならば金木は異常者で、危険だ。店長にそう告げようとした霧嶋よりも早く店長が口を開いた。

 

 「君は…いや、君がそういうのなら残念だが諦めるとしよう」

 

 金木は、あんていくのドアを開けると外へと出ていく。その後姿を見送る店長に霧嶋が詰め寄った。

 

 「店長!あいつは危険です。このままだと、何をするか分からない!」

 

 「トーカちゃん…その時は私が責任をもって手を下すよ」

 

 

 翌日、授業の終わった金木と永近は昨日と同じ広場で昼食を取っていた。勿論金木は人肉の弁当持参である。

 

 「そういや俺学園祭の実行委員入ったんだよ」

 

 「ふーん」

 

 「反応薄いな、おい。あ、噂をすれば…委員会の先輩だ」

 

 金木と永近の元へ二人の学生が近づいてくる。

 

 「永近、西尾のとこに去年の学園祭の資料DVD取りにいってくれない?俺ら次授業でさ」

 

 「了解ッス!」

 

 永近は先輩からの頼みを了承すると、金木を誘って西尾という人物のいるという化学棟へと向かう。

 

 「お前さ、最近なんかあった?」

 

 頭の後ろで手を組み、金木に尋ねる永近。金木は足を止める。

 

 「いや、別に何もないけど」

 

 「そっか…」

 

 ヒデはいつか自分の正体に気付く。そんな予感めいたものが金木の中で渦巻いていた。その後2人は1言もしゃべらずに歩き続け、西尾という人物の研究室へとたどり着いた。

 

 「失礼しまーすッ」

 

 「あ、おいノックぐらい…」

 

 金木が止める間もなく永近は部屋のドアを開けると、中にはパーマのかかった茶髪の青年と半裸の女性。女性は悲鳴を上げると、服装の乱れを整え部屋を飛び出していく。想定外の出来事に言葉を失う金木だが、永近は部屋に残った青年へと謝罪の言葉を口にした。

 

 「えっと、西尾さんすんませ…」

 

 「永近、俺は自分のテリトリー荒らされるのが大嫌いなんだけどさ…、ノックぐらいできないのお前?先輩に対する礼儀としてそれってどうなの?」

 

 「す…すみません…返す言葉もないッス…」

 

 「いるんだよな、返事だけはいい奴。声量と滑舌の良さで誤魔化せるとか思ってたりする?」

 

 「い…いえ…そんなことは…」

 

 永近をネチネチと責め続ける西尾。手持無沙汰な金木が室内を見渡すと、窓の直ぐ近くの棚に置かれた様々なメーカーのインスタントコーヒーや、缶コーヒー。

 

 「…ん?」

 

 西尾が金木の方に目を向け、金木と西尾の視線が交差する。金木は即座に西尾という青年が、昨夜コンビニからの帰り道に交戦した喰種(グール)であることに気付く。西尾の方も金木のことに気付いたのか、目を見開いた。

 

 「そっちは、永近のツレか?」

 

 「あっ…ハイ!ダチのカネキっす!」

 

 「…薬学部2年、西尾錦。よろしくな」

 

 金木の方に歩み寄り、手を伸ばす西尾。

 

 「文学部1年金木研です。よろしくお願いします。西尾先輩」

 

 金木は邪悪としか形容できないような歪んだ笑みを浮かべ、西尾の手を取った。

 

 「…資料が要るんだろ?永近。ちょっと待って」

 

 「あっ…ハイ!去年の店舗情報が見たいんで」

 

 部屋の中を探し始める西尾。

 

 「…あれ…ねえや。永近そっちの棚探してみて、緑色のケースに入ってる筈」

 

 「そっちの…えっと…カネキ…も引き出しとか漁ってみて」

 

 「分かりました」

 

 10分程、部屋の中を3人で探し回るがDVDは一向に見つからない。

 

 「…ねえな~もう諦めていい?」

 

 「いやー…お願いしますよ…」

 

 「あっ」

 

 突如声を上げる西尾。

 

 「…西尾さん?」

 

 「あのディスク家に持って帰ってたわ。そーいや」

 

 「えーっ!!ちょっとマジっすか~!」

 

 「うるさいうるさい悪かったって。…面倒だからお前さぁ、今から取りに来いよ」

 

 そう言った後、ちらりと金木の方を見てにやりと笑う西尾。金木はこの言葉が自分を釣る餌であることを理解した。 

 

 「えっ!?先輩んちッスか」

 

 「決まってるだろ日にち跨いだら忘れそうだし」

 

 「うーん。そっすね~…」

 

 顎に手を当てて考え込む永近。

 

 「カネキ、ワリィ!今日は西尾さんち寄ってくからさ、お前は先に帰っててくれ」

 

 「僕も行っちゃダメかい?」

 

 「え、そりゃ俺はいいけど…」

 

 永近は口ごもりながら、西尾の方を振り返る。

 

 「…いいんじゃないの?来れば。別に家あげるつもりないし…永近も気を遣う必要ないんじゃないの?」

 

 「い、いやー先輩もカネキも初対面で気マズイかなと…」

 

 「だからそういうのいいって。行く前に電話するから待ってて」

 

 そう言うと西尾は懐からスマホを取り出し、部屋の隅で電話をし始める。

 

 「お前の突拍子もない行動は今に始まったことじゃないけどよ、少しは振り回されるこっちの身にもなれって…」

 

 「善処する」

 

 深々と溜息をつく永近。

 

 「まあ、もう慣れたけどな」

 

 

 「永近は西尾先輩と知り合って長いのか?」

 

 「ん?いや、実行委員入ってからだからまだ1ヶ月も経ってないな」

 

 「そうか…」

 

 そう言ったきり黙り込む金木。結局、西尾の電話が終わるまで金木と永近の間に会話はなかった。

 

 西尾の電話が終わると、3人は連れ立って西尾の家へと向かう。先頭を歩く西尾が、ふとたい焼き屋の前で足を止める。

 

 「―――ちょっとたい焼きでも食おうか」

 

 西尾の言葉に金木は内心驚愕する。喰種(グール)はコーヒーと水以外、人間の食べ物や飲み物を口にすることができない。これは、金木自ら実験済みだ。もしかしたら、他にも喰種(グール)が食べられる食材があるのかもしれないが、小麦粉とあんこを金木は既に実食済みであり、喰種(グール)がたい焼きを食べれるはずがなかった。

 

 金木は西尾から受け取ったたい焼きを包装から出さずに、鞄の中へとしまい込む。

 

 「あれ?カネキ食わねえの?」

 

 という永近の問いに金木は平静を装いながら答える。

 

 「昼の弁当のおかげで胃がもたれててさ、後で食べるよ」

 

 「まあ、あんな肉ばっかの弁当食ってたらそうなるわな」

 

 永近は金木の言葉を素直に信じるが、金木の背中は冷や汗だらけである。

 

 「カネキは委員会入ってないの?」

 

 「人を仕切ったりするのは苦手なんで」

 

 「…ふーん、永近みたいな祭り好きとは正反対ってワケだ」

 

 西尾は眼鏡の奥の目を細める。

 

 「西尾さんは好きですよね?イベント系」

 

 「別に好きじゃないよ」

 

 「えっ」

 

 「…ただ委員会とかやってると、人脈は広がるだろ?大学時代に知り合い増やしてたら、卒業してから色々便利そうだからさ」

 

 「け、計算高いッスね…」

 

 「自分で計算もできないような奴に、ロクな人生送れるワケないだろ」

 

 そう言いながら西尾はたい焼きの包装をはがし、喰種(グール)には食べられないはずのそれを口にする。

 

 「うん、絶妙な甘さだ」

 

 金木は西尾の口元を観察していたが、食べたふりではなく本当に口にしていたことに驚愕する。

 

 「我慢しているだけか?それとも僕の知らない裏技的な方法があるのか…?」

 

 金木が1人で呟きながら考え込んでいる様子を、永近はなにかを探るような表情で見ていた。

 

 3人は住宅街の中の道を進んでいき、どうやら西尾の家の近くに来たようだった。

 

 「突き当り曲がったらスグだから」

 

 「結構裏の方なんすね」

 

 金木は西尾の言葉に違和感を覚える。金木は人間だった頃から人を効率よく狩るために、20区内の道をある程度把握している。そして、金木の記憶によるとこの先の突き当りを曲がった先は行き止まりのはずだった。

 

 「…なるほど、ここで仕掛けようって訳か」

 

 金木はそう呟き、前を歩く永近や西尾にばれないように赫子を準備する。

 

 「あれ?行き止まり…なんスけど」

 

 「うん」

 

 行き止まりを前にして、立ち止まった永近が西尾の蹴りによって吹き飛ばされる。

 

 「人目につくとめんどうだろ」

 

 数メートル吹き飛んだ永近は、放置されていた廃材に激突し気を失う。

 

 「まさか同じキャンパス内に喰種(グール)がいて…しかも、それがあの時のお前なんてね…」

 

 西尾の赫子による攻撃を赫子で防ぐ金木。

 

 「僕も驚いたよ、こんな近いところに喰種(グール)が居たなんてね」

 

 「…身体動かしたら、気分悪くなっちまった。さっき食ったアレ(たい焼き)のせいだな…人間ってのはよくあんなもん進んで食うよな…()()()()でも食ってる気分だよ…」

 

 西尾は自らの手を喉の奥に入れ、さっき食べたたい焼きを吐き出す。

 

 「成程、やっぱり人間の食べ物は喰種(グール)にとっては毒になるのか」

 

 そう言って納得したような表情を浮かべる金木。

 

 「お前さあ永近(あいつ)喰うつもりだったんだろ?自分を信じきった(バカ)を裏切るあの瞬間…浮かび上がる苦悶の表情…間抜けな人間どもの絶望の姿ほど食欲そそるもんはねえもんなァ…?お前もそうなんだろ!?なあッ!?」

 

 話しながらも攻撃の手を緩めない西尾だが、金木はその攻撃をギリギリではありながら全ていなしていく。

 

 

 

 「勘違いしないでほしいな、僕があなたの誘いに乗ったのはヒデを守る為でも何でもない。あなたを食べるためだ」

 

 金木は凄惨な笑みを浮かべながら西尾にそう宣言する。

 

 「昨日はあなたに邪魔されたからね…早く喰種(グール)が喰いたくて仕方ないんだ」

 

 「糞が!なんなんだよお前…」

 

 西尾は金木に対する恐怖を隠し切れないでいた。まるで、ライオンの前に差し出されたウサギのように全身の震えが止まらない。

 

 「死ねやあ!」

 

 西尾は自身を襲う恐怖から逃れようとするように、金木へと全力の攻撃を放つ。その攻撃は金木の腹部へと直撃し、勝利を確信した西尾は笑みを浮かべるが、その笑みはすぐに凍り付く。

 

 「つかまえた」

 

 金木が腹部を貫通した西尾の赫子を掴んで笑っていたのだ。身体から直接出ている赫子を掴まれてしまった西尾は身動きを取ることができず、金木はゆっくりと西尾へと近づいていく。

 

 「放せえええええ!」

 

 西尾は必死で抵抗するが、金木は物凄い力で赫子を掴んでおり、西尾は動くことができない。

 

 「いただきます」

 

 そう言って西尾にかぶりつこうとした金木だが、その動きが急に止まった。

 

 「止めな、クソ野郎」

 

 上から飛び降りてきた霧嶋が、金木に赫子で攻撃したのだ。

 

 「また君かあ!君は何度僕の邪魔をするんだよ!」

 

 金木は腹に突き刺さっている西尾の赫子を引き抜くと、霧嶋へと飛びかかる。

 

 「はっ!喰種(グール)になって1ヶ月のお前が、あたしに勝とうなんざ100年早いんだよ!」

 

 霧嶋へと飛び掛かった金木だが、霧嶋の赫子の弾丸が体中へと突き刺さり、動きが鈍ったところを霧嶋の蹴りで吹き飛ばされる。

 

 霧嶋は金木に追撃を仕掛けようとするが、自らの不利を悟った金木は逃走。霧嶋はその後を追おうとするが、金木への恐怖からかへたり込んだ西尾と、気絶したままの永近を見てその足を止めた。

 

 「まずはこいつらをどうにかするのが先か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっぱり口調がなんかおかしい気がする…

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