サイコなカネキケン   作:Crescent Moon

6 / 11
1日でお気に入りの数が倍増&日刊ランキング入りしてて本当に驚きました。まだ1話目を投稿して2週間ですが、今後も頑張りたいと思います。


6

 霧嶋との戦闘の翌日、金木は久々に大学の授業に出ていた。ほうほうの体で逃げ出した金木だったが、その後数人の人間を喰らい一晩寝ると傷は全て元に戻っており、喰種(グール)の再生力の高さを実感していた。

 

 「いやー、お前が居ない間の東洋史の授業のアウェイ感パなかったんだぜ?」

 

 「ヒデだったら友達の1人や2人すぐできそうだけど」

 

 隣には永近が座っている。

 

 「なんか東洋史取ってる連中ってみんな話しかけづらくてさ…そんなことより飯食いに食堂行こうぜ!」

 

 「今日…僕弁当あるから」

 

 「マジか!彼女か!?」

 

 「違うよ」

 

 「じゃあ俺売店でなんか買ってくるからどっか席取っといてくれ!」

 

 売店の方へと走っていくヒデを見ながら、金木は広場へと歩き出す。

 

 「お前…弁当って肉オンリーじゃねえか!」

 

 「医者にもう少し肉をつけろって言われたんだよ」

 

 「確かにお前は細いけどさ、それにしたって極端すぎるだろ…」

 

 10分後、金木と永近は広場にあるベンチで昼食をとっていた。金木の作って来た弁当は、勿論人の肉である。永近は見た目に反してかなり勘が鋭い。永近の前で食事をしなければ疑われるかもしれないと考えた金木の苦肉の策が人肉オンリーの弁当だった。しかし、ずっと肉のみの食事を取っていても怪しいことに変わりはない。

 

 「どうにかしないとな…」

 

 「ん?」

 

 「いや、なんでもないよ」

 

 昼食も終わり、今日もバイトだという永近と別れた金木は家にある秘密の地下室に居た。金木が人肉の保存のために建てた地下室は割と広く、金木が手にした保険金や補助金の半分を要したが完全防音であり、素人離れした正確な射撃技術はこの地下室にて培われたものである。

 

 「やっぱり、赫子が重要なんだよな…」

 

 霧嶋との一戦、勝負を分けたのはやはり赫子の存在だった。羽赫から赫子の弾丸を飛ばしてくる霧島に対し、金木は有効な防御手段を持たないどころか、霧嶋への攻撃手段もなかった。

 

 「利世さんの臓器の影響で僕が喰種(グール)化したんだったら赫子は鱗赫か…?」

 

 金木が鱗赫の赫包が存在するという腰辺りに意識を集中すると、人間であった時にはなかったであろうものがそこにあった。

 

 「これか…?」

 

 金木はその何かに更に意識を集中させていく。10秒ほどそうしていると、皮膚を突き破る感覚と共に金木の腰から赤黒い触手の様なものが3本飛び出してきた。触手の先はさながら鉤爪のようである。

 

 「これが僕の赫子…」

 

 利世の赫子に比べれば貧弱で数も少ない赫子、だがそれは紛れもなく赫子。人間には存在しえない器官であり、金木が本当に喰種(グール)になった証だった。

 

 「もっと早く出せるようにならないとな」

 

 現状、金木が赫子を出すためには10秒以上動きを止め集中する必要がある。だが、戦闘中無防備になり動きを止めることは自殺行為と言ってもいい。

 

 「休憩してコーヒーでも飲むか」

 

 金木はキッチンへコーヒーを淹れに向かうが、愛飲しているブロンディというメーカーのインスタントコーヒーを丁度切らしていたことを思い出す。

 

 「買い出し…行くか」

 

 金木の家から少し歩いたところにあるコンビニ、深夜になり客のほとんどいない店内で金木がインスタントコーヒーの瓶に手を伸ばすと、横から男性のものと思わしき手が伸びてくる。金木が手の伸びてきた方向を見るとそこには茶髪にパーマで眼鏡を掛けた青年が居た。

 

 「ブロンディのコーヒーがインスタントで1番うまいですよね。コクがあるっつーか」

 

 そう言いながら青年は金木にコーヒーの瓶を手渡す。金木が礼を言うと、男は別の瓶を取りレジの方へと向かう。

 

 「買いだめしとくか」

 

 金木は買い物かごに3瓶追加すると、レジへと向かった。

 

 コンビニからの帰り道、金木の鼻が血の臭いを感知し、金木は迷わず血の臭いの元へと早足で向かう。

 

 「血の臭いはここからか…」

 

 かなり長い距離を歩き、金木は漸く血の臭いの元へとたどり着いた。金木が奥を覗き込むと、そこには人間の死体をむさぼり喰う1人の喰種(グール)が居た。

 

 「今日は運がいいな」

 

 金木はそう呟くと静かに赫子を出し、死体を食べるのに夢中な喰種(グール)の背後からゆっくりと近づいていき、その頭を赫子で貫く。喰種(グール)は断末魔を挙げることさえも許されず、その命を散らした。

 

 「赫子って本当便利だな…」

 

 金木は喰種(グール)の死体に近づくと、その肉を喰らっていく。喰種(グール)になる以前は、衛生上の問題などから人肉を食べるときは必ず火を通していたが、喰種(グール)になってからは火を通したりした肉より生で血の滴る新鮮な肉の方が美味しいことに気付き、基本的に生で食べるようにしていた。

 

 「美味しい!美味しいよ!やっぱり喰種(グール)の肉は最高だ!」

 

 人肉の何倍も美味しい喰種(グール)の肉を食べ、恍惚感に浸る金木がどーんという男の声と共に突然吹き飛んだ。

 

 「たくっ…俺の喰場で食事してんじゃねーっての…アレ?あんたさっきコンビニで会ったよね?…あーあ、なんだ喰種(グール)かよ、優しくして損したな。人間だったら喰ってやったのに」

 

 突然金木を蹴り飛ばしたのは、先程コンビニで金木にインスタントコーヒーの瓶を手渡してくれた青年だった。

 

 「あはははは!今日僕は本当に運がいい!2匹目の喰種(グール)に出会えるなんて!」

 

 青年が話している間に赫子を出し、立ち上がった金木は血走った眼で青年へと襲い掛かる。

 

 「この赫子、あの女の!?」

 

 青年が動揺している隙に、金木は赫子で青年に攻撃を仕掛ける。

 

 「糞が!」

 

 青年は尾骶骨のあたりから赫子を出し、金木の攻撃を防ぐ。

 

 「尾赫か…」

 

 尾赫の特徴はその安定性、どの距離での戦闘でも安定して戦えるのが強みだ。金木の持つ鱗赫は1撃の威力は高いものの、耐久力が低く尾赫には不利とされる。しかし、それはあくまで尾赫の得意とする中距離での戦闘での場合である。そして、人間の頃金木が得意としていたのはナイフを用いた近距離戦闘である。ほとんどがナイフの1撃で死ぬために戦闘と言っていいのかは微妙だが。

 

 金木は青年に向かって走る。青年の赫子による攻撃が金木に襲い掛かるが、金木は致命傷になりそうな攻撃以外は防ぐことも避けることもしない。ただ、青年に向かって走り続ける。

 

 「糞!なんなんだよお前!」

 

 そして、金木の赫子による攻撃が青年に届こうというとき、金木の赫子は上からのなにかによって弾かれた。金木がなにかの飛んできた方向を見るとそこには少女…霧嶋がいた。

 

 「ここはあんていく(うちら)の管理下だ。勝手な真似はやめてもらおうか」

 

 霧嶋は座っていたビルのふちから飛び降りる。

 

 「何しに来やがったんだよ…トーカ」

 

 「何しにって…錦、アンタ私が助けなかったら死んでたじゃん」

 

 「チッ…」

 

 霧嶋は金木の方に向き直る。

 

 「錦のことはどうでもいい。私が用があるのはアンタだ」

 

 「僕?」

 

 「私に着いてきて」

 

 「なんでだい?」

 

 「店長がアンタと話がしたいって言ってる」

 

 「店長ね…」

 

 霧嶋の言う店長は恐らくあんていくの店長だろうと金木は考えた。霧嶋の話を聞くに、あんていくの店員はほとんどが喰種(グール)なのだろう。

 

 「こんな近くに喰種(グール)が居たのに一切気が付かないなんてね…」

 

 金木はそうひとりごちる。

 

 「で?おとなしく着いて来るの?来ないっていうなら力づくで引っ張ってくけど」

 

 金木は自分と霧嶋の実力差を考える。戦ってみて分かったことだが、錦と呼ばれている青年と霧嶋だと、霧嶋の方が数倍強いだろう。金木は錦相手に勝利したと言っても、それはギリギリの勝利である。更に、金木は錦との戦いでかなりの傷を負っている。万全の状態でも勝てる可能性はかなり低いが、今の状況だとほぼゼロだと言える。

 

 「分かった。君に着いていくよ」

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。